茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第七話「それは他の人に何かを伝えるためにする身振り手振りのことである」


 今日も僕は外さんとケンタウロスの二人と教卓付近の床であぐらをかき昼飯をかっこんでいた。

「ほういえあは」「飲み込んでから言え」「をあえんあらあいふもあぬぉっへう」「飲み込んでから言えっつってんだろ!」

「まぁまぁ。外さんは物を口に入れた状態でどこまで言いたい事を伝えられるか限界に挑んでいるのだよ忠弘」とケンタウロス。

 にしても無理があるだろ。そう告げようとすると、外さんが今度はジェスチャーを始めた。

 ふむふむ? 見た感じで判断すると、……いやよくわからない。が、とりあえずイメージをしてみる。

「をあえんあらあい」僕が?「ふもあ」うにょうにょして? ふらふらして?「ぬぉっへう」ライド・オン?

 ……。

「意味わかんねーよ!!!」

「フッ、ここは優れた洞察力を持っているようで持っていないと見せかけて持っている俺に任せるんだな……」ケンタウロスがいつになく渋い顔になって気味悪く口を歪ませる。

「最初の『をあえんあらあい』。この時外さんは忠弘、お前の頭部を指差していた。これが意味することはズバリ。お前の脳内のことを言っているのだ」「ほう」

「次の『ふもあ』。この時の外さんの行動を思い出してみろ。手をうにょうにょと動かしながら、手首を上げて振り子のように手を振った。これが意味することはわかるか?」「わからん」

「お前の脳内はうにょうにょした虫けらと同レベルだと言いたいのだよ」

「そうか。へぇー」「おい何をする!! うわあああ俺のタコさんウインナーがああああ!!!」

 奪ったウインナーを咀嚼し、飲み込む。「デリシャス」

「何故食ってしまったのだ!」「僕を虫けら扱いした罰だ」

 ケンタウロスは更に箸をのばそうとする僕の手を止め、「まぁ待て、続きがあるのだ。最後のワード、『ぬぉっへう』」

 そこは僕でもなんとなく分かった。イントネーション的に。

「あれだろ?」「そう、あれだ。あれは昭和四十五年……」「え!?」

 元々低い声を更に低くしてケンタウロスは語り始める。

「あれは外さんの祖父が『不幸の手紙』、今で言うチェーンメールのような手紙を全国に広まらせた時だった……」「サラッと友達の爺ちゃんを犯人に仕立て上げるな」

「卑劣な外さんズ・グランドファザーは『不幸の手紙』が作り出す連鎖に快感を覚えていた……」「外さん、怒ってもいいんだよ?」

「ちなみに不幸の手紙の内容はこうだ……。『ぁたしは死神だょ。ぁなたのところでこれ止めちゃぅと、不幸になっちゃぅょ(はあと)』」「そのおっさんはギャップ萌えでも目指してたんですか?」

「その通りだ……」「外さんこいつぶん殴れ」

「彼がいつものように『不幸の手紙』の文面を考えながらすれ違った通行人のポケットにさりげなく生きたイワシを入れていた時のことだった……」「ピチピチピチ!!! ピチピチピチ!!!」

「通行人のポケットにイワシを入れることに成功し、ほくそ笑んでいたその時、気づいた。なんと自分のポケットには生きたサンマが入れられていたのだ……!」「ピチピチピチ!!! ピチピチピチ!!!」

「振り返ると、もがくイワシをくわえた男がニヤつきながらこっちを見ていた。彼はライバル『サンマ男』の出現に、闘志を燃やした……」「サンマ男とかどこの妖怪だよ」

「それから彼、イワシ男とサンマ男の熾烈なバトルが展開された……!」「あのー不幸の手紙はどこいったんですか?」

「イワシ男が通行人のポケット全てに新鮮なイワシを入れる物量作戦に出ると、サンマ男は遠距離から新鮮なサンマを投げて通行人のポケットに入れるという離れ業でイワシ男を苦しめた……」「どこがどう苦しかったのか教えてくれ」

「数ヶ月の長きに渡る闘いの後、二人は和解した。これからはイワシもサンマも同じように使おうと約束したのだ……」「いやまずその迷惑行為をやめろよ」

「その時、通りがかった子供が呟いた。『ぬぉっへう』……これのことを外さんは言っていたのだ」「今までのストーリー必要だった!? ねぇ必要だった!?」

「つまり『ぬぉっへう』には、特に意味はない……」「ああそうかよ! お前の話聞いてて僕は時間を無駄にしたのだとわかったよ!!」

 ため息をついて卵焼きを口に運ぼうとして、まだ問題が解決していないことに気づいた。

「なぁ、結局外さんは何を言いたかったんだ?」

 外さんは口の中の物を飲み込んで、箸で僕の頭を指し、言った。

「お前の頭に蜘蛛が乗ってる」

「早く言えよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」