茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく
作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第六話「それは集団で行われる災害を想定した訓練のことである」その1
「いいかお前たち。今からおよそ五分後に避難訓練が始まる」
僕は佐藤忠弘。担任の河野涼子のきりっとした声を聞きながらいつもの中学校での避難訓練ではよくふざけている奴を見てため息をついたものだと回顧していた。所詮避難訓練、と侮っていて本当に災害が起きたらどーすんだ。僕は真面目な河野担任の言葉に概ね賛成だった。
が、次の言葉が問題だった。
「言っておくが、これは訓練だ。実際に災害が起きるわけじゃない。だから頼む、普通の高校生らしく頼むぞ」
ああ……。
僕は前回の避難訓練の記憶に苦笑いさせられた。またやる気か? 外さん。
「はいッ!」僕の目の前の生徒の手が挙げられる。それは紛れもなく、外さんの手。河野担任の表情が途端に面倒くさそうになり、彼女は目を逸らした。
構わず立ち上がって発言する外さん。「僕たちは真面目に避難訓練をするべきです! 普通の高校生らしくほどほどにふざける、そんな事じゃいけません! だから僕たちはしっかりと、あらゆる事態を考え、行動し、訓練を成功させてみせますッ!」
え、拍手? 何で皆拍手してんの? つられて僕もしちゃったよ! いや確かに外さんはいいこと言ったけどさ!
スピーカーが告げた。「えー今日はお日柄もよく……じゃなくて、避難訓練ですね。あっすいませんこれ言っちゃダメかハハ、まぁとにかく大地震が起きたってことらしいんで、教師に従って落ち着いて行動する感じでね、お願いしますね」
スピーカーの先生の言葉の調子とは裏腹に、教室は騒々しかった。
「うわあああああああああああああああああ地震だああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!?!?」※フィクションです
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!! 蛍光灯が落ちてきたアアアアアアアアアアアア!!!!!!」※フィクションです
「ふぁ、ふぁっ、へくしっ!」※ハックションです
教室内は大雑把にいうと二分されていた。無駄に騒ぐ者たち(主に男子)、クスクス笑いをやめない者たち(主に女子)。だが僕はそのどちらにも属していなかった。ただ呆れた目で傍観するのみ。
「ぎいええええええええええええええ!!!! 俺の机の中から教科書がああああああああああああ!!!!!!!」教科書程度に騒ぐな大体どうもなってねぇよ。
「死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ」その迫真の演技の情熱をもっと他のものに向ける積極性があったらきみたちはなんでもできると思うよ。
「皆落ち着くのだ! 信じる者は救われる!」出典は聖書ですか? 何教徒ですかあなたたちは?
「お前らー、ちゃんと机の下に隠れてるのはいいが、ふざけるのもたいがいにしろー」河野先生そんな投げやりな態度じゃなくてもうちょっと誠意を持った対応をしてください。
スピーカーが再び告げた。「えー、あのですね、え? あ、まだ? ああ、今。はいはい。えーっと、なんか揺れも治まってきたっていう設定なんで、校庭に避難するってことでいいのかな? はい、避難してくだ」
なんか途中で音声途切れたぞ。どこまでダメダメなんだあの先生。

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