茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく
作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第十六話「それは常軌を逸した変態的行為の一つである・あやしいダンサー編」
「キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
!?
なんだ……こいつは!
頭に草を束ねた帽子とどっかの怪しい神様を信仰してそうな民族が使う感じの仮面を被って両手にネギを持ち、俺の目の前で謎の踊りを披露するこの男の名は……なんだったっけ。
ようし、脳内環境を整えるためにあやしいダンサーと命名しよう。RPGで出てきそうだな。
あやしいダンサーがあらわれた!▼
たたかう
まほう
アイテム
にげる
→あほかおまえだれやっちゅうねん
「キィエエエエ!! キィエキィエエエエエエエエエエ!!!」
俺はしばらく謎の踊りを鑑賞していた。肌の色が黒い。本当にどこかの先住民族とかじゃないだろうな。
赤い仮面から覗く目は大きくギョロついて、踊りながら頭だけは固定してこっちをガン見してくる。キモい。
しばらく回転したりスピンしたりくるくるしたりして、最後にあやしいダンサーは両手のネギを空中に投げた。
「ゴボア!」上を向いたダンサーの口の中に二本のネギが突き刺さる。
相撲の仕切りのように腰を落とし、だがしかし両手は天に掲げ、上を向いてネギが刺さったままその体勢を保つ。
奇怪な光景である。そのポーズを保ったまま十三分が過ぎた。
……一体何なんだこいつは!?
関わりあいたくない。こんな謎のネギ踊りをする奴と一緒に弁当なんか食えるか! 俺は席を立ち、教卓のあたりの床に座って昼飯を食っている忠弘たちに近づこうとした。
「ゥゥゥォンフンブォットゥラァ!!」
ぅ……ぅぅぅぉんふんぶぉっとぅらぁ!?
謎の叫び声と共にダンサーの口から射出されたネギは空中で旋回し重力に敗北した後、片足で立っているダンサーの両手に舞い戻った。そして手元でネギを回転させながら更に謎の舞を始める。
俺は立ったまま呆然とその舞を眺めていた。スルーするべきか? いや、ダンサーはこの教室に人が少なくなる昼休み、その時間にわざわざ俺だけにこの舞を見せてくれているのだ。
その理由はわからないが、俺はその意を無下にするわけにはいかない。俺は静かに椅子に座った。
不思議な舞は続いていた。そしてダンサーは叫び始める。
「レパニャョリュシュエモ!!」
……うん! やっぱスルーしよう!
だが、見ているうちに俺は不可思議な感覚にじわじわと支配されていた。奇抜な叫び声。スローモーションかと思えば急にカサカサとゴキブリの如く素早い動きに変わる謎の踊り。
ダンサーが作り出す独特の空間に、俺の目はいつしか釘付けになっていた。
再び叫びだす。「ホンベットルォパンシャス!!!」
言葉はわからない……だが……。
「トガビアーギャンウルャョペ!!!!!!」
伝えたい事が伝わってくる気がする……!
「ヒョレムポンゲッゲ!!!! ヒャョュヤゥ!!!!!!!!!」ふむふむ、『わたくし実はこう見えて、下着はふんどし派なんですよ』か……。
「キュルモヤヨユヤン??? キュレペャレムンキ!!!!!!!!!」ほうほう、『忠弘くんはそこはかとなくマツコデラックスに似てますよね? 特に脇の下の辺りが』ね……。
俺は深い感動に心を震わせていた。謎の舞をしていて謎の帽子を被っていて謎の仮面をつけていて謎の言葉を喋っていても、人と人は繋がりあえる。そう、俺とダンサーはココロで繋がっているんだ……!
「シャルァウュモーツァルトルンヂェヴィア?」一緒に踊らないかと、ダンサーが俺にネギの片方を差し出す。
俺は感動の涙を流しながら、そのネギを受け取った。そして言った。
「シュッポポポポゥン……!」

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