茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく
作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第十八話「それは携帯できるようにした食糧のうち、食事に相当するものである」2/2
音楽室の隅っこ、吹奏楽部の楽器ケースなどが並べられている場所の横。そこには誰が持ってきたのかは知らないが様々な漫画が置いてある。何故勉強するための部屋に漫画があるのか、吹奏楽部に入部してからずっと謎だ。
そこで、二人の後輩が弁当を食していた。
「よっ、銀にエタブリ」物静かな彼女らに私は声をかける。
「……こんにちは……」「白昼発生する相互関係の確認――H.E.L.L.O.(こんにちは)」「うん、二人とも相変わらずで何よりだ」
「面白い子ね」黒笑顔がそのブラックスマイルを浮かべながら私についてきた。「漫画が好きだからここで食べてるの? あ、この漫画うちも持ってる。最新刊、貸してあげてもいいよ?」
こいつ……銀とエタブリに借りを作ってなんやかんやでなんやかんやしながらなんやかんやして自分の下僕にする気か!?
「……いりません……」「慇懃なる拒絶(ご遠慮します)」よし、どうやら私の表情を見て判断したようだ。
「あらそう。チッ」今満面の笑顔で舌打ちしたよね!? お前怖いよ!
「ハァハァ……銀たんとエターナルフォースブリザードたんと黒ちゃんのスリーショットマジ世界の三大美女……」窓の外からあくるとかいう痴女の呟きが聞こえてくるが無視することにしよう。私の名前が挙げられてなかったのが少しさみしいがスルーしよう。
「悪いけどおかずちょっとでいいから分けてくんない? 弁当ひっくり返しちゃってさ」「……分かりました……」「明々白々快々諾々(了解です)」
銀には鯖の味噌煮を、エタブリにはプチトマトを分けてもらい、私は次の場所へ赴く。
“音楽研究室”。そこにはソファがあり、狭いが割と快適に過ごせる場所だ。主に教師のための部屋だが、私たち上級生も使っている。
何故か黒笑顔もついてくる。ついでにあくるとかいう性欲の塊も窓の外から監視し続けてくる。来んな! お前ら来んな!
音楽研究室では優雅な曲調の「G線上のアリア」が流れ、ゆったりとした雰囲気を醸し出し穏やかな空間の恩恵を愛おしむべく聴き入る人がいた。
「あら、ムスカ、それに江川さんも。激いらっしゃい」吹奏楽部の顧問である仙道律子先生がソファに足を組んで座った体勢で私たちを迎える。
仙道先生のあだ名はセンリツ。音楽の教師としてぴったりなあだ名だ、と本人は気に入っている。
「あ、ムスカ先輩こんにち……ルーファウス!!!!?」
私に蹴られて謎の悲鳴を上げた男子の名は佐藤忠弘。あだ名は特にない。私と同じパートの後輩だ。
「何でいきなりミドルキックに襲われたのか不可解なんですけど!?」「お前購買で最後の一つのパン買ったろ? その代償だ」「更に謎が深まった!」
まぁそんなことはどうでもいい。「私弁当ひっくり返しちゃって……。それ分けてくんない?」
「あ、そゆことだったんですか……。早く言ってくださいよ。三分の一くらいでいいですよね?」忠弘はパンをちぎる。
「いや、三分の六くれ」「いや無理ですよそれ! 既に食べちゃってるし食べてなくても不可能だし!」
「チッ……なんで私の視界に男が入るのよここにくれば女性しかいないと思ったのにこの糞野郎が……股間の棒削ぎ落とすぞゴミクズが……」窓の外からあくるとかいうアブノーマルな生物が忠弘を凄い形相で睨みながら呟いているが無視することにしよう。
「はっはっは、弁当なくなっちゃったのかー。それは激災難だったわねぇ」センリツ先生が笑いながら言う。先生は何かと“激”という言葉をつける癖がある。
「あら、こんなところに袋の開いたカロリーメイトが」黒笑顔が棚の上に無造作に置かれたそれを見つけた。
「おぉ!」「それ食べてもいいわよ。激美味しいから」
私は開いた袋からカロリーメイトを弁当箱に出した。「ありがとうございます!」
「ハァハァ……センリツ先生の優しさマジ天使(エィンジュエル)の施し……」窓の外であくるとかいう七つの大罪のひとつの権化が何か呟いているが無視することにしよう。てかお前四十八歳の先生でもイケルのかストライクゾーン広いな。
よっし、これで充分だろ! 私は意気揚々と隣の音楽室に戻り、一年共に伝えた。
「みんなありがとう、これで餓死する事もなくなっ」
ゴトン。
体感時間が停止した。
皆の厚意が詰まった最高の弁当。
それはあたかも私を嘲笑うかのように手から逃げ出し滑り落ちた。
床にぶちまけられたそれを見て打ちひしがれた私はくずおれ、搾り出すように声を発した。
「黒笑顔……ッ」
「なぁに?」黒笑顔の声は邪な感情を含んでいて。
「弁当、分けてくれ……ッ」
――――――――――ブラックスマイルが、見た者を戦慄かせる程、彼女の顔に浮き出ていた。
GO TO HELL....

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