茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第十三話「それは変形、(生物の)変態を意味する」その1


「はぁ……何でこんなことに……」

 僕の「今日こそはみっちり練習するぞ」という決意はムスカ先輩によって打ち砕かれた。

 吹奏楽部の練習場所である一年E組に入った途端、先に来ていたムスカ先輩に「忠弘お前アサヒ探して来い」と命令されたのだ。

 サボり魔の女アサヒは部活に来る時は大体遅刻する。来てもしばらく携帯いじったり携帯いじったり挙句の果てには携帯いじったりしてなかなか練習を始めない。

 ――チューバ一つじゃ合奏に厚みが出ない。同じチューバ吹きとしてお前がアサヒを探して連れてくるんだ。

 そう言われた。「後輩の態度を正すのは先輩の仕事じゃないですか?」と返すと、「私はエルしぃと愛の歓談をする予定があるからパス」と即刻拒否られた。堂々とサボり宣言しちゃったよ最近この人を先輩として尊敬できなくなってきたよ。

 音楽の低音を支えるチューバ吹きは、確かに一人では厳しいものがある。だがしかし……。

「もう……『バルス!』とか言って先輩に刃向かっておけばよかったかな……」

 僕は困っていた。アサヒのいる一年D組の生徒に聞いたところ、「自分の机を抱えてどっか行ってから行方不明」だそうだ。机を抱えて行く所といえばあそこだよな、と思い当たる場所があったら誰か教えてくれ。

 僕はいっそ校内放送で呼び出しちゃえばいいんじゃね公開処刑的な意味でと思ったがそうすることもせず、とりあえず校舎をうろついて教室を覗いては去り覗いては去り、と実らぬ努力を重ねていた。

 三階から四階への階段を上ってすぐの所にある国語研究室を覗いて、ノックして名乗るのが生徒の教師に対する礼儀だろと軽く怒られた後に研究室の扉を閉めてため息をついた時だった。

 銀が華奢な腕に鞄を肩にかけて持ち階段を上がってきた。僕の方をちらりと見て、無言で通り過ぎようとする。

「銀」僕は呼び止めた。「よ。銀にしては遅いじゃん。ホームルーム長引いたの?」

「……ええ……」銀は無表情で間を置いて答える。

「お疲れ。で、聞きたいんだけど、アサヒがどこにいるか知ってる? 今探してるんだけど」

「……別棟屋上のペントハウス裏……」いや何で知ってんの!?

「あ、ありがとう。僕後で練習に行くから。じゃ」銀に感謝の合図を送りながら僕は階段を下りる。

 一階から三階は渡り廊下で生徒たちのクラスがある棟と化学室などがある移動教室の時に使う棟が繋がっている。僕は三階に下り、渡り廊下でクラスの棟に戻ってそこから屋上を目指した。

 机を持って屋上に行く……これは一体どういうこった……。

 その時、忠弘の脳に電撃走る!

 机を持っていく→それに乗る→落下防止の金網を乗り越える→I can fly!!

「や……やめるんだアサヒ!!」焦燥感に襲われ、僕は屋上への階段を駆け上る。

 屋上へ続く扉を開けると、そこにはだだっ広い屋上がひっそりと広い空間を持て余し青空を見つめて開かれていた。

 アサヒの姿はない。ペントハウスの裏だったか。僕はそこを目指し歩く。