茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第十七話「それは湾田勉の武勇伝である・その2」


 昼休み。教卓のあたりで、いつもの如く僕――忠弘は外さんとケンタウロスの二人と一緒に昼飯をかっこんでいた。

「そういえばさ」外さんが切り出す。「ワンダーの奴、マサイに洗脳されかかったらしいぜ」

「マサイとは、あの変態四天王の一人の事か?」ケンタウロスが反応を示す。

 外さんが箸でケンタウロスを指す。「そうそれ」

 マサイとは、ジョン・ヒルマン(自分では「ルャペニョ・ゥレンゾ」と名乗っている)という男のあだ名だ。謎の言葉を喋り謎の舞をする変態男。黒人なので、なんとなくマサイというあだ名がつけられた。確かC組の生徒だったはずだ。

 外さんが続ける。

「マサイが謎の踊りをしてるのを見て、ワンダーも一緒にネギ持って踊ったらしいぜ」「ハハハ、バカだ」

「しかも『キュルモヤヨユヤン』とかの謎の言葉を理解して一緒に喋ってたらしい」「ハハハ、バカ……え? 凄くね!?」

「そうそう、ワンダーといえばさ」今度は僕。「あいつロリコンなんだぜ? キモいよな」

「お前が言うな」

「お前が言うな」

「お前が言うな」

 ……。

 あれ? 一人多くね?

「よぉユウユウ、久しぶりに喋ったな」外さんが僕の背後を見て言う。

 僕は振り向き驚く。「いたのかよ!」

「当たり前だ」机に座っているユウユウは腕を組んで言う。「俺はずっとここにいた」

 ユウユウ、本名虚無悠臥は二つの点で有名だ。まず一つ、類い稀なその名前。ウツナシという苗字に、ユウガという名前。担任の河野先生にも「きょ……きょむさん?」と間違えられていた。

 そしてもう一つ。ユウユウは、男装少女である。

「いい加減スカートをはいたらどうだ?」というケンタウロスの指摘に、「うるせえ。こっちの方が性に合ってるんだよ」と答えるユウユウは、その男っぽい口調と男っぽい名前と男っぽい見た目から男と間違えられる事が多々あり、ヤケクソになって男装し始めた。今では男装がデフォだ。イケメンなので女子にも人気がある。

「基本、ユウユウは傍観者だからな。忠弘が気付かなくても無理はねぇよ」と外さんは僕に言う。

「この前だって忠弘の後ろに立って傍観していたからな」「こええよ! え? いついたの?」

 ユウユウは少し眉根にしわを寄せ答える。

「んー、最近では第十四話の『僕の股間の紺色ビッグマグナムが唸りを上げるぜえええ!!!』て叫んだ時には後ろに立ってその言葉を録音しといた」「五千円あげるから消してください」

「一番古い記憶だと、第一話にお前らがレーズン納豆を食わされた時にはベランダに忍び込んで様子を録画してたな」「犯罪だから罰金五千円払ってください」

「まぁそんな感じで、ユウユウはいないようで実はいたんだぜ」外さんは喋りながらも弁当を食べ終える。「ゴチ」

 ケンタウロスが口に卵焼きを運びながら言う。「さて、ワンダーにまつわる面白い話大会に戻るとするか」

「いやだからいつそんな主旨になったんだよ!」

「また湾田の話か?」ミスドが空になった弁当箱を持ってやってきた。

「そうだよミスド」「安藤だ」「お前は参加すんなよ。どうせまた最高に怖い話するんだろうからな」

「む。そんなことはない」ミスドが若干ムキになる。

「そうだな……俺と湾田が中学生だった頃の話をしよう」

 ミスドに視線が集中し、彼は咳払いをして話し始めた。

「あれは……何の授業だったかは忘れたが、授業中のことだ」「うん」

「湾田は眠そうにボーっとしていて、どう見ても真面目に勉強していなかった」「お前が真面目すぎるんじゃないか?」

「真面目で何が悪い。……で、見兼ねた先生が湾田を指したんだ。『湾田、この問題解いてみろ』って」「ワンダーざまぁ」

「そしたらパニクった湾田は何て言って立ち上がったと思う?」

 ミスドはにやりと笑って言った。

「『シュワッチ!』」

 僕はお茶を噴き出し、外さんは教卓に頭をぶつけ、ケンタウロスは卵焼きを喉に詰まらせ、ユウユウは机から滑り落ち、全員が爆笑した。

「シュwwwシュワッチwwww」

「ウルトラマンワンダー! さぁ飛び立とうあの空へ!」

「三分間しか集中できないんだな」

「『ヘァ!』って飛び立って天井に突き刺さったんですねわかります」

 笑いが治まってくると、外さんとケンタウロスとユウユウは立ち上がった。

「ちょっと俺ワンダーにメールするわw」「ならば俺は他の男子に言いふらしに行こう」「女子への伝達はこのユウユウに任せろ!」

 三人はこの場から離れ、教卓の周りには僕とミスドだけが残された。

 僕はミスドの呟きを耳にした。

「実はシュワッチ言ったの俺だったんだが……誤解されるのは湾田だから別にいいや」

 この生徒会役員……黒い!