茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく
作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第二話「それは言葉遊びの定番と呼ばれている」その1
「なぁなぁなぁ! 俺すごいダジャレ思いついた!!」
一時限目の終わりのチャイムに反応した教師の授業終了の号令の直後、僕の前の席の、寝そべっていた外さんが振り向いてこっちにむかって叫んだ。アホ毛がなびく。相変わらず休み時間だけは元気な野郎だ。
「聞いて驚くなよ」「うん」
「布団がふっとんだ!」
……。
お前さぁ。
「忠弘、何だその目は」「知ってるか? そのダジャレはあまりに有名で知ってる人はいないほどの、それこそ一般常識として知っているもんなんだぞ」
「ヒャハハ、面白いこと言うなぁ」「お前の頭の方がオモシロイことになってるよ」
「何の話だ?」ケンタウロスが短く伸ばした顎鬚をさすりながらやってきた。僕と外さんの席は壁際なので、ケンタウロスは俺の背後で壁に背中を委ねる。僕は両方の顔が首を傾けるだけで見える体勢になるように椅子を引き足を横に投げ出して体を捻る。
「いやこいつがふざけてさ」「俺すげぇダジャレ思いついたんだよ!」「何だ?」
外さんは満面の笑みで。「布団がふっとんだ!」
…………。
「な? ふざけて――」僕は呆れた眼差しで外さんを一瞥した後、ケンタウロスが遊びのくだらなさによるジト目を外さんに向けていると信じて彼を見上げた。
「ふ……布団が……」あれ?
「も、もう一度言ってくれ」「布団がふっとんだ!」「ぬおおお! なんと革命的な響き!」ケンタウロスは額に手を当て仰け反り、驚愕を表すそのポージングを保っていた。そのまま仰向けに倒れこんでしまえ。
「ちょ、ケンタウロス」「な? いいだろ? 革命的だろ?」「うむ。実に感慨深い。俺は今、後世に残るであろう偉大なダジャレが誕生した歴史的瞬間に立ち会ったのだな……」
はいはい、そういうネタね。わかりましたよ。僕もノってやりますよ。
「しかしよくこんなダジャレ思いつくよなぁ、お前天才じゃねーの? ん? 将来は高名な学者か?」
外さんの顔が一瞬で片目を細め片目を見開く、馬鹿にしてんのかコラ、という表情に変わった。
「何言ってんだ俺が天才だというのは認めるがこんなダジャレ誰でも知ってるだろ」
「それなのにこのダジャレを知らないふうに振舞うのはあれか常識がないのだな」
こ……こいつら……!
「ま、忠弘は馬鹿だから仕方ないか」二人は冷淡に言い放つ。
この野郎共! 僕をはめやがった! アレか? レーズン納豆の時の恨みなのか!?
「おい、人が折角ノってやったのになんだその態度は!」その僕の言葉を合図に冷めた表情の二人は噴き出してゲラゲラ笑い始めた。お前らレーズン納豆食わしたろか。
「お前らぁ!」「まぁ落ち着けよ、お前のノリのよさを試しただけなんだ」「じゃあ最後の蔑みはなんだよ! 今度姉ちゃんの新作試食会にお招きしてやろうか!」
「だが」ケンタウロスが腕を組み目を閉じる。「『布団がふっとんだ』……。なかなかどうして侮れんダジャレよ。最早ダジャレの代表格と言っても過言ではない」
「じゃあ俺たちで新世代のダジャレを生み出そうぜ!」また外さんが妙なことを。

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