茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく
作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo
第二十話「それは人間が他人に対して抱く情緒的で親密な関係を希求する感情である」2/2
「あのウンコを」「忠弘な」「あの忠弘を今どれくらい好きなんだ?」二人は姫の“正常な”意見を期待して問いかける。
姫は両手を思いっきり広げて、「これくらい!」と満面の笑顔で言った。太陽がその笑顔を照らしきらきらと輝かせる。
ユウユウとニシオカはまた姫に背を向け胸を押さえながら小声で話す。
「可愛いぞ!」「可愛いぞ!」「きゃわいい!」「きゃわいい!」「しかし俺はもうだめだ。ショックで死んでしまう。もう俺の恋を成就させるためには忠弘を殺すしかない、そう思わないかニシオカ」「まぁ待てユウユウ。姫にとっての『これくらい!』のレベルは俺にとっての『ま、ゴキブリよりはマシかな』ぐらいかもしれん。まだ間に合う。姫の中でお前の評価を上げればチャンスはある。忠弘をリア充にさせない作戦、開始ッ!」
振り返ると、姫はもぐもぐと弁当を食べていた。そんな姿も小動物的な雰囲気を醸し出していて愛らしい。
「ゆーくん、にっしー、早く食べなよー。昼休み終わっちゃうよー?」無邪気な笑顔にユウユウは姫への愛を確かめた。
二人は必死の表情で話し始める。
「姫、忠弘の性格がいいと言ったな。俺たちが思うに、忠弘は根暗で」「臆病で」「変態で」「ウンコで」「ゴキブリで」「そこら辺に落ちてるホコリで」「いやむしろホコリであることすらも認識されないカスだと思うんだが」
どう考えても言い過ぎである。忠弘だからいっか。
「でもー、忠弘くんって真面目じゃん」姫はふわふわした笑顔を絶やさず二人に言う。
二人は切羽詰った声色で忠弘を貶めようとする。
「あれは表の姿だよ。裏では机の中でムカデ飼ってるし」「アンパンマンの抱き枕がないと寝れないし」「趣味は女性下着コーナーを般若心経唱えながら徘徊することだし」「エレベーターの中で一人になるとおもむろにタップダンスを始めるし」「とにかく裏では色々とヤバいんだよあいつは」
どう考えても嘘である。忠弘だからいっか。
「へー、忠弘くんって面白いところもあるんだなー」姫はオムレツをその小さな口に運ぶ。もぐもぐ。「おいしー」
二人の俺っ娘の熱弁も空しく、姫は考えを変える事はなかった。二人の周りを悲哀を含んだ風が通り過ぎてゆく。
ユウユウはうなだれる。その肩をニシオカが叩く。まだ頑張れる、と伝えるかのように。
「俺は諦めないぞ……絶対に忠弘なんかに負けはしない……己を磨いて正々堂々と姫の愛を勝ち取ってやる……」とユウユウが先程の全然正々堂々としてない手段で愛を勝ち取ろうとしていた事を棚に上げて歯軋りしながら言った。
その時。
「あ! 忠弘くーん!」姫のあどけない笑顔と同時に発せられた声は幼女のような愛らしさを含んでいた。
二人は振り返って、ポケットに手を入れながら木々の陰を歩く忠弘を発見する。
忠弘が反応を示す。「よー、西城さん。お、ユウユウとニシオカも一緒……うわ何!? 怖いよ! 何その目怖いよ眼力で人殺せちゃいそうだよ二人とも!」
目からビームを出せそうなほど負のオーラを纏ったユウユウとニシオカの間を姫は通り抜け、忠弘の元に辿り着いた。そして満面の笑顔で言う。
「飴ちゃんちょーだいっ!」手を差し出す。
「何だ、飴目当てか。何味?」「トマトとナスビから生まれし奇跡と混沌の世界あじ!」
「はいよ」忠弘はポケットから飴を取り出し姫に渡す。
なんか物凄い名前の飴をもらった姫を木漏れ日がゆらゆらと照らしている。
ユウユウとニシオカは震えながら問いかける。「まさか……」「飴がもらえるから好き、て事……?」
「そーだよー!」姫は笑顔で手を挙げる。
二人は顔を見合わせ、ほっとした後、確かな悪意を持った笑みを浮かべて頷いた。
「忠弘ォォォォォオ!!」「餌で釣るような真似しやがって! 尻にリコーダー突き刺して楽器と一体化させてやろうかああああ!!」邪悪に笑い飛び掛る二人。
忠弘は木の下に倒れこむ。「うわあああああああああ何!? 何で僕襲われてんの!? いやん、ズボン脱がさないであぁあぁあ!! ぴょえぇえぇえぇえ!! パンツだけはお許しをおぅおぅおぅおん!!」
蒼天に忠弘の悲鳴が響く。
露出プレイ日和な、暖かい昼であった。
小説大会受賞作品
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