茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第二十三話「それは一般的に災難や事故などによる怪我を負った人や病人のもとを訪れ慰める行為である・忠弘の周辺の人々の場合」2/2


「あ! ムスカせんぱーい!」エルしぃが病室の入り口に手を振る。

「おっす忠弘」「美人看護婦(ビューティフォーナイチンゲール)いるか……?」吹奏楽部のバスパートの連中がやってきた。

「ムスカ先輩、エタブリ、銀、来てくれてありがとう」これで来てくれたのは十一人だ。僕はなんて幸せ者なんだろう。これだけいると一人だけベッドなのがちょっと恥ずかしいな。

「アサヒは『なんかフリスビーを投げたらどこまでも飛んで行っちゃって今それを追いかけてカリフォルニア州まで来ちゃったのでお見舞い行きません』だそうだ」ムスカ先輩が青い携帯電話を開いて言う。

 僕は思わず笑いをこぼして呟く。「アサヒのヤロー絶対言い訳する気ないな」どうせまた屋上とかでロボット作ってるんだろう。

「……体、大丈夫なの……?」「容態憂慮(大丈夫?)」銀とエタブリがいつもの無表情で僕に問う。

 僕は全然大丈夫であることを仕草で表す。「ああ、大丈夫。明日の昼頃には退院できるってさ」

「え!? お前一週間は退院できないんじゃなかったのかよ!」外さんが素っ頓狂な声を上げる。

「ああ、それは外さんに貢ぎ物……見舞い品を持ってきてもらうための嘘情報だ」「ひでぇ! ちょっと本気で俺が持ってるラノベ『とある大豆の天然成分(イソフラボン)』を貸してやろうかと思ったのに!」「なんか知らんが美容に効果がありそうだな」

「何はともあれ、明日退院できるならそれはよいことだ」ケンタウロスが顎鬚を撫でて言う。

「あんまり心配する必要も無かったかもね」「全くだ。俺には一応生徒会の仕事もあったんだぞ」微笑んでワンダーが言った言葉にミスドが同意する。

「ま、俺は元々心配してなかったけどな」「ひゅー、ユウユウはクールだねぇ」背中を壁に委ねながら腕を組んで言ったユウユウをニシオカが茶化す。

「あさって、学校来れるんだね!」「ふむー、これもシンバルのお陰ですなー!」エルしぃが嬉しそうに手を合わせ、西城さんがシンバルを褒める。

「そりゃいいな。丁度明後日は部活の合奏の予定だ。あ、三日間チューバを吹いてないからって下手な演奏はやめたまえよ?」ムスカ先輩が軽く僕に忠告。

 僕は嬉しかった。僕のことを心配してくれる人たちがいる。僕のことを友と認め、話し相手になってくれる人たちがいる。そんな、当たり前のことの素晴らしさがそこにあった。

「さぁて、そろそろ帰ってトマト戦隊ナスレンジャー見るかー」「あ、外さん。……みんな」

 十一人が僕を見た。

 僕は微笑む。「ありがとう」

 外さんがにやついた。ケンタウロスが髭を撫でた。ワンダーが歯を見せた。ミスドが頭を掻いた。ニシオカが舌を出した。ユウユウが目を閉じた。西城さんが手を挙げ笑った。エルしぃがにっこりして小首を傾げた。ムスカ先輩が頷いた。エタブリが何か呟いた。銀が口角を僅かに上げた。

 みんなの「どういたしまして」が聞こえた気がして、僕は更に顔をほころばせる。

 そうだ、僕は今、みんなの中の十二人目として繋がりあっているんだ。その繋がりの糸を大切にして生きていこう。いつか、切れない糸になるまで。

「じゃあな」「じゃーねー」みんなが口々に僕に別れを告げ、病室は再び静かになった。

 そして僕は手元に目線を落とし、忘れ物に気が付いた。

「…………シンバル…………」