茶飯事的な日常は奴らを乗せて回ってく

作者/ハネウマ ◆N.J./4eRbo

第十二話「それは一般的にナス科 植物タバコの葉に含まれる精神作用のある依存性薬物であるニコチンを摂取する手段、または行為を指す」


 俺は学校の屋上で奴と対峙していた。

「……おい。生徒会役員である俺に喧嘩を売ってるのか」「まさか。……まぁ、俺は不良だからちょっとした『遊び』がミスド、お前に不快な思いをさせるかもしれないがな」

 目の前の高杉健太郎、通称ケンタウロスは金網にもたれかかり煙草をくわえてにやついている。顎鬚が生えていて、迫力のある顔だ。その目で睨まれたら俺でも動じざるを得ない。

 高杉は所謂“不良”だ。といっても、どこのグループに属しているわけでもなく、一匹狼を気取っている。

 不良としての行動は、生徒に人気がない教師の授業を欠席したり酷い時にはメチャクチャにしたりする。メチャクチャにする時には何故か教師に新鮮なイワシを投げつけたりする。この前はマグロだった。

 高杉の標的にされる教師は生徒にウザがられていることが多いため、生徒が教師に味方することは少ない。生徒も「やっちまえ!」と思っているのだろうが、俺は違う。生徒会役員として、この学校の生徒の見本として、高杉に対抗してきた。

 俺がイワシをガードして代わりにサンマを投げつける等、俺と高杉の戦いは続いた。そして今、ついに高杉は喫煙という高校生としてあるまじき行為に出てしまったのだ。

 俺は高杉を睨みつける。体格がいい高杉を俺はやや見上げる形になる。「今すぐその口にくわえたものを提出しろ。今すぐにだ」

「火ぃ点いてないのだからいいではないか」高杉はにやつきながら答える。

 俺は静かな屋上に響き渡る声で叫ぶ。「そういう問題じゃない! 煙草を未成年が持っているだけでそれは犯罪だ! お前は折角努力して入ったこの高校を退学してもいいというのか!」

 高杉は答えない。そのにやついた表情に罪悪感は欠片も感じられなかった。

 俺は悲しみに襲われる。「俺はお前が嫌いだった。だがどこかで信じていたのだ、お前が喫煙などしない男であると」

 風が俺と高杉の間を渦を巻いてそよろと響く。

 俺は裏切られた。「俺は教師に言うぞ。俺は生徒会役員だ。生徒の模範だ。お前のその行動はこの学校の生徒として、やってはいけないことだ。最大の処罰を覚悟してやっているのだろうな?」

 高杉は煙草をくわえたまま話す。にやにや笑いは変わらない。「覚悟? 何故俺がそのような覚悟をせねばならんのだ」

「まだわからないのか!」俺は声を張り上げる。「お前は現在進行形で犯罪を起こしている! 見損なったぞ高杉!」

 俺は記憶が頭の底からよみがえってくるのを感じていた。高杉と英語のテストの首位争いをしたこと。高杉とイワシの鮮度を如何に保ち続けるか議論したこと。高杉とイワシ喫茶に入って全品を注文して味について討論したこと。高杉とイワシの萌え要素について六時間激論したこと。高杉と以下略

 嫌だ。俺は高杉と別れたくない。今になってわかった。毛嫌いしているように見えて、本当は高杉は俺の友達だった。

 だがそれでも、俺は正義を貫き通す!

「その煙草を提出しろ! 今すぐにだ!」

「嫌だと言ったら?」高杉はマッチ棒を取り出す。理科室から取ってきたのだろうか。

「ふざけるな!」俺はマッチ棒を叩き落とそうとしたが、俺の腕は空を切るばかり。高杉に運動能力で敵うはずもない。

 高杉はついに、煙草に火を点けた。

「おい馬鹿、やめっ……」

 シュウーッ……

 煙草の先端が光り始める。高杉はそれを床に捨てた。

「驚いた? これな、煙草型花火」





 (  ゚д゚)





 花火が弾ける音を聞きながら、俺は虚しさを噛み締める。

 パチ……パチチ……パチ……

「風流だろ?」

「……良き哉……」

 パチ……パチチ……

 ……パチ…………