リストカット中毒
作者/ 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

伝えたい,短い話
悲しいくらいに苦しい詩
私は頭をかきむしる。何度も何度もかきむしる。
離した指に血がついていた。
だけども私はかきむしる。
私は腕をかきむしる。何度も何度もかきむしる。
目に痛いくらいに真っ赤に腫れあがる腕。
だけども私はかきむしる。
手を伸ばした先に何があると訊かれた。
私は静かに答えた。
空気を微かに震わす程度の絞り出した声で。
恐怖しかなかったかと訊かれれば私はイエスと答えるだろう。
それでも私は恐怖に耐え答えた。
「何もない,何もないよ,私が求めたものはどこにもない,貴方が求めたものはここにある」
静かに振動させた空気。ゆっくり頬を撫でた風。
静かに静かに,その可愛らしい人差指を熟れたぴんくいろの唇にあてて。
願いを込めた言葉を重ねて積み重ねて。
海に流した。
私はあまりにも小さい存在だったから,水溜りに浮かせて海に流したつもりになってた。
怖いから。
( 怖いもの知らずの貴女はいずこへ? )
( 分からない分からない,捜索願も出せない )
紡いだ言葉は風が持って行った。
私の頬を撫でながら。
空に抱かれ私は眠った。
かきむしった腕は水ぶくれだらけ。
何もない空の果てを夢見た。
求めたものは何かと訊かれた。
わからないと私は,心で答えた。
空気を震わすことはもうない。
( じぶんがわからないきょうふ )
( あまりにもおそろしくて )
( そらにかえりたいとつよくねがった )
+
さよならと別れを告げた。
明るい暗さ
静かに静かにゆっくりとゆっくりと。
速い風を起こすなんて無理。
道路の白線の上を歩く。
子供みたいに,ゲーム感覚で歩く。
まるで雲の上を歩いているみたい。
ふらふらとしてはバランスを整えて。
ゆっくりゆっくり私は歩く。
+
落ちたら死んじゃうゲームみたいな。
あれ結構楽しかった。
小学生時代誰もがやる遊び。
それをテーマに。
不安定な足場。
細い綱。
まるで空中綱渡り。

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