リストカット中毒

作者/ 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

伝えたい,短い話

赤い飛行機雲、小さな絶望


上手く切れないからね,ガラスの破片って! 汚いし(これ重要)





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 手の甲に真っすぐ飛行機雲みたいな赤い傷。紛れもなく私が付けた傷。
 相手に毒をぶつけるのはあまりにも皮肉。流石に毒女もそれを察して,控える。

 だけども,控えたら毒を吐けないから,誰にも迷惑をかけない自分に傷をつける。
 誰もそれに気付かない。そう,それでいい。誰もが「怪我」「猫の引っかき傷」と思ってくれる。それでいい。
 手首にも太股にもあるその傷。キスしたいほどに愛してる。

 まるで一人の自分。自分の子。自分の親友。大好きな人。それらと同等の愛をそそいでいる。その赤い傷に。

 撫でると安心する。狂ってるかもしれない。
 だけど良い。壊れてても良い。それが私だから。


「傷を増やさないで心が壊れるよりは,傷を増やして壊れない方が良いでしょ。大丈夫,あたしには物書きという趣味があるからさ」


 自分を心配してくれる子に贈った言葉。彼女はやっぱり不安そうにしたけど,信じてくれたように頷いてくれた。
 嬉しかった。


*


 私の心はガラスじゃなくてゴムなんじゃないかなって思う。
 ゴムは傷つきやすくて,でも修正できる。伸ばしてまた形を作れば元に戻るし,伸びやすい。柔軟。そして,すぐ傷つく。最初は固まってるくせに,段々伸びて切れるんだ。

 我ながら馬鹿みたい。
 同じ事考えてる人,何人いるだろうな,なんてくだらない事を思考しながら私は彼女の隣を無言で歩く。


 一緒に下校してくれてありがとう。ストレス発散に付き合ってくれてありがとうね。


+


今日の私。
全部というか放課後だけれど。
陸上の練習終わった後に二人で帰る。
話題が無い時は,無言でゆっくり歩く。
考える時間をお互いに求めてるから。




意味のない虐めで復讐した結果


 砕けた。


 パリン,なんて可愛い音じゃない。
 ガッシャン,というべきか。食器十枚が一気に三メートルから落ちたような音。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」


 呪文の様に唱える。野次馬の目も恐怖の対象でしかないから。
 心が完全に砕けた。踏み砕かれて,破片すら残らないほどに。


 破片は,細かすぎて拾い集める事すらも不可能な。


「あああああぁぁぁあああぁあああアあァあああアアアアぁぁぁァァ……」

 目を背けたくなる。見てられない。耳をふさぐ。なおも空気の振動は鼓膜に届く。
 悲痛な叫び声。誰の心にも届くはずなのに。



「あ…あはは……ハハッ! あァはははははははははは!!」


 狂った笑い声が響く。悲痛な叫び声は,届かない。


「これで……これでやっとォ……! 私の復讐劇は終わったの…!! ふふ…あーはハハははははは!!」


 手に持ったカッターを無造作に投げ出す。刃が出ていたままの状態で,野次馬の方向へ。途端叫び声があがる。当然。
 狂気の笑い声と,悲痛の叫び声。つんざく音,空気の震えに押し潰されてしまいそう。


 悪夢は,目覚めない。



+



復讐。
虐め何かで復讐しようとしたって,新たな怨みを生みだすだけだというのに,馬鹿な生き物だ。