リストカット中毒

作者/ 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

伝えたい,短い話

わたし


 中学校は楽しいよ。とてもとても。
 少女はそう言った。ふわり,たんぽぽの綿毛が舞う時のように。
 太陽に向かって真っすぐに歩く,されど自分を蔑んで「先入観」という鎧を身に纏う少女は,正直で,やさしく暖かい,鎧の冷たさを感じさせない少女だった。
 騎士の様にありたいの。けたけたと笑う。

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 よく笑う子だな。わたしは彼女を見ててそう思った。
 同じクラスになった彼女は,面白い。見てて飽きないのだ。
 突然おかしなことを言いだしては,世の真理を考え出したり,と思えばマシンガントークが始まり,そして「普通」に馴染む。
 そのいずれも,彼女は笑っていた。

「あー,あたし真面目な不良だから」

 けらけらと。ふわりと。
 包容力のあるのかな。話したこともあまりないけれど,そう思った。

「あんたらが望むなら,あたしはあんたらをまとめる。だけど,それが嫌なら爆発しちゃえ。今のうちだけだからね。――でもそういうときは,あたしも混ぜてよ。上等だ,って,崩壊させてやるから」

 呑まれる,とも思った。




彼女


 彼女はへらりと笑っていった。

「良かった,真剣にリストカットと向き合ってくれる人が,小説が増えて。
虐め小説みたいに,「わたしも」「おれも」と書き始める人が増えるのはすごくすごくすごーく嫌だけど,でも,そんな軽い問題じゃないっていうことはわかるでしょう? ネットの海を渡るくらいなんだから。

……そろそろ,私の舞台の幕は引かれる頃かしら」


 少しだけ,寂しげな笑顔だった。