リストカット中毒
作者/ 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

伝えたい,短い話
本質だけは変わらないで
相手を否定する言葉は嫌いだった。
相手を憎む言い方はもっと嫌いだった。
相手を蔑む言い方はさらに嫌いだった。
きらい、と言う言葉を吐くことが、いちばん我慢ならなかった。
今は、口癖のように繰り返す毎日だ。
◆嫌いを隠して綺麗を並べる
母にばっと開けられた寝室のカーテンから容赦なくあたしを射す朝の光を呪う。
「うはー、大嫌いだあー」
毎朝やってくる虚しさも、彼女たちに会わなければいけないという億劫な思いも、鏡の前で笑顔を作ればからだの中に引っ込む。
ほら、今日もすてきよあたし、ちゃんと笑えてるよ。
せめて彼女たちの前では「やさしくて面白い女の子」でいたかった。
据わった目も無理に生かせるみたいな、そんな心地がしてならないけれど、彼女たちのほころぶような笑顔が見られるなら、それで良い。
それだけは、嘘じゃないんだ。
「あたしも好きよ」と嘘を吐き続け、からかうように冗談を紡ぎ、その場を取り繕うためだけの言葉を言った。
あたしは、ただのうそつきだ。
だけれども、「彼女たちの笑顔が見られるならそれで良い」というのは。「彼女たちの笑顔が好き」というのは、紛れもない真実なんだ。
彼女たち一人一人のすべてを愛せ、なんて無理な話だ。
実際、大嫌いだったりもする。
その代わり、いい意味で特別で、大切で。
そしてやっぱり大嫌いなんだ。
(そしてあたしは今日も一日「好き」と嘘を吐く)
- -
言葉にしないで、態度で。
嫌いも好きも特別な感情だから。
「そういうところが嫌いなんだ」
「紅葉ちゃん、こんなこと言ったら怒るかもしれないけど…前あの子に、「紅葉ちゃんの事嫌い?」って訊いたら速攻「嫌い」って返ってきた……」
知ってるわそんなん。
◆嫌われるほど好きになる
彼女が私を嫌いなことは良くわかっている。
私がだいすきな彼女が、だいすきだった異分子が、仲良く仲良く仲良く仲良く仲良く私の悪口を言って笑ってるのもよーっく知っている。
一年前、ずっと三人で居たんだけどね。それを思い出すたび、口角が上がる。顔が歪む。
なんて面白いの!
私の友達――親友と言っても過言じゃないと思う――に、「友達だと思ってた人が自分の悪口言ってるって知ったらどう思うよ?」と訊いてみた。
少し考えて、「すごいショック受ける」と返ってきた。
ほう、なるほど。普通の女の子はショックを受けるのか。
だったら私も前までは普通の女の子だった、ということになる。
誰かに誰かの悪口を言えば、あっという間にその人に伝わる。
だから私はわざと言ってみたりして。
すると馬鹿な彼女たちは、本当のことかもわからないのに鵜呑みにして「本当腹立つ! 嫌い!!」なんて言う。
私はどう思ってるのか、を言うと。
ああいう馬鹿な素直さは別に嫌いじゃない。

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