リストカット中毒
作者/ 黒紅葉 ◆uB8b1./DVc

伝えたい,短い話
こぼれる
てのひらから,こぼれていくんです。
ほろほろ,さらさら。
今までの私がとてもとても愛したものたちが,白い砂となって,輝きながら風に攫われていくんです。
その中で残った親友。私は彼女をとても愛しているけれど,彼女はどうだかわかりません。
その中で真っ先に散った恋心。淡い桃色の光でした。やさしいやさしい恋でした。
その中でゆっくりと,重みをもってる人への愛。彼等は変わってしまって,私の想いも形を変えて行くのです。
その中でひらひらと,舞う様に散って行く「考え」。受け入れる余裕もなくなってしまって,私自身,散って行くような。
てのひらから,こぼれていくんです。
今までの私が,「私」を生かした,理由たちが。今までの私が,「私」を生きさせてくれた,楽しみたちが。
小説もろくに書けなくなりました。
絵も難儀な絵ばかりです。
勉強は順位が下がりました。
人づきあいに悩む毎日です。
学校がきらいになりました。
友人を愛せなくなりました。
それでもしぶとく生きてます。
でも,ちっとも楽しくないのは何故でしょうか。
それは簡単。
やっぱり,愛したものが散って行ってしまったからです。
ぐちゃぐちゃな文章は,私の整理のつかない胸の内を表しているのでしょうか。
指が,おどる。
泡
人魚は泡に生まれ,泡に消えるらしい。
じゃあ,人は? もし人が泡に消えるとしたら,きっとその泡は毒々しいほどに鮮やかに紅い。
切り裂いた皮膚を,指でそっと隠す。生まれたてのそれはまだ鮮やかで,覗いた肉はグロテスクだった。私の中にはこのグロテスクなものが詰まっている,と考えると,何故だか無性に可笑しくて声を上げて笑ってしまった。
きっとこのグロテスクが人なんだろう。だから人は泡に生まれ泡に消えるなんてありえない。
けれどもし,人もそんな風に生まれ消えられるのだとしたら。
グロテスクなものは消えて,空に海に溶けることが出来るんだろう。雲になって,雨を降らすことが出来れば,私は万々歳。
人魚の様に生まれ消えられるのだとしたら,それは何にも代えられないハッピーエンド。
家族も居て,友達も居て,幸せな人生を送った人にとってはバッドエンドかもしれないけれど,私みたいに,家族も友達も私を必要としてくれるひとも私のために言葉を用意してくれるひともいない人間にとっては,何よりものハッピーエンド。
私が生きていた証すら,泡になって空気に溶けて雲になって雨を降らしてしまえば良いのさ。

小説大会受賞作品
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