ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!!
- 日時: 2012/01/15 17:20
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
- 参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/
投票有難うございました!銀賞感謝!!謝辞>>347
記念ということで人気投票やっています。>>350
Veronica(ウェロニカ)
*1世紀ごろエルサレムで活動したキリスト教の伝説上の聖女。ゴルゴタに向かうイエスの血と汗にまみれた顔を拭いたという伝説的聖女。
クリック有難うございます(*´∀`*)ノ
(※小説データベースから来た方はまずこちらへ→>>48)
初めまして!
の人が殆どだと思います^^;
過去(といってももう四年くらい経つかも)に"燈(アカリ)"という別名で小説を書いていたものです(笑)
気を取りなおしまして、
初めまして!朔(モト)と申します。
某ゲームキャラじゃなくて、野村望東尼って人の名前が由来です。多分。もしかしたら、春風(←高杉晋作の名)に改名するorほかの場所に出没するかもしれません
期末テスト症候群…心理学的にいえば"逃避"に陥って、小説を書こうと思いやり始めました。ツッコミは心の中のみでお願いします^^
書くの久しぶりで、しかも元から文章力皆無人間なので、いっやー、ちゃんと書けるかなあとか不安ありつつ((オイ
頑張ってちまちま(←)書きたいと思います!
◆Attention
※注意※
・荒らし、悪口等厳禁。宣伝OKです^^いつ見に行くかは分かりませんが汗
・コメントへの返信、小説の更新不定期です。
・誤字・脱字、文章等いろいろおかし(←この場合の"おかし"は"趣深い"ではなく"変"という意味でつかわれています)。ツッコミ大歓迎ヽ(*´∀`*)ノ
・ジャンルはファタジー 一直線(笑)だと思いますけどねえ…(^^ゞ
・グロイのかなあ。怖い話苦手なんでそうでもないと思うけど一応流血表現あり(汗
◆Component
題名:Veronica(ウェロニカ)
作者:朔(もと)
ジャンル:ファンタジー・バトル、 "ツッコミ箇所満載"紀伝体ドラマ。
成分:ツッコミ箇所満載、多少流血表現あり、登場人物がKY、誤字・脱字・文章が基本オカシイ、Not神文
使用方法:ツッコミを入れながら読んでください。「お気に入りに登録しました」や「応援してます」などのコメントが入ると狂喜します。勿論、ツッコミ大歓迎。
2012年度冬の大会にてシリダク銀賞を受賞。本当に感謝感謝の大嵐。
製造日時:2010.11.30
◆Contents
*本編*
登場人物 >>4 (一覧編>>220※ネタバレ有)
まとめぺえじ>>219
歌 >>85(楓様に作っていただいた歌詞です)
Main↓
◇序:recitativo >>3
◇Oz.1: Blast-竜と少年の協奏曲- >>285
◇Oz.2: Norn-運命の女神と混乱の関係- >>286
◇Oz.3: GrandSlam-錫杖、両刃、骨牌の独り勝ち- >>287
◇Oz.4: Obsession-戦意喪失-
・Part1>>57 ・Part2>>58 ・Part3>>62 ・Part4>>64 ・Part5>>68
◇Oz.5: Potholing- 一樹の陰一河の流れも他生の縁-
・Part1>>73 ・Part2>>75 ・Part3>>77 ・Part4>>79 ・Patr5>>84
◇Oz.6: Hallelujah-神様っているのかなあ-
・Part1>>90 ・Part2>>93
◇Oz.7: Engulf-風に櫛(くしけず)り雨に沐(かみあら)う-
・Part1>>94 ・Part2>>104 ・Patr3>>105
◇Oz.8: Sign-夜想曲(ノクターン)に誘われて-
・Part1>>111 ・Part2>>114 ・Part3>>119 ・Part4>>120
◇Oz.9:Nighter-眠れない夜に-
・Part1>>128 ・Part2>>131
◇Oz.10:Howling-母と子(Frigg)、忘れ路-
・Part1>>133 ・Part2>>134 ・Part3>>136
◇Oz.11:Howling-母(Tiamat)と子、追憶-
・Paet1>>141 ・Part2>>145 ・Part3>>146 ・Part4>>148 ・Part5>>154 ・Part6>>161 ・Part7>>162
◇Oz.12:Tagesanbruch-黎明-
・Part1>>164 ・Part2>>165 ・Part3>>170 ・Part4>>174 ・Part5>>189
◇Oz.13・Part1>>198 ・Part2>>210 ・Part3>>218 ・Part4>>223 ・Part5>>226
◇Oz.14・Part1>>228 ・Part2>>234 ・Part3>>237
◇Oz.15・Part1>>247 ・Part2>>248 ・Part3>>249 ・Part5>>250 ・Part6>>251 ・Part7>>252
◇Oz.16・Part1>>257 ・Part2>>270 ・Part3>>275 ・Part4>>282 ・Part5>>288
◇Oz.17 >>305
◇Oz.18 >>340
◇Oz.19 >>340
◇Oz.20 >>352
◆外伝>>235
作品を十字以内に簡潔に紹介しなさい。↓
『た た か う は な し』!どうだ!!
※参考
広辞苑、ジーニアス英和辞典、ブリタニカ、マイペディア、ウィキペディア等から抜粋。そして、相棒・電子辞書有難う、!!
◆お客様
*葵那 *Neon様 *夏目様 *ラーズグリーズ様 * 玖炉 *雪ん子様 *月夜の救世主様 *ささめ *緑紫様 *楓様 *舞阪 肇様 *ひふみん様 *千臥様 *ち せ(´・・).様 *風様 *X4様 *Vermilion様 *紅蓮の流星様 *Ghost様 *夢姫様
◆連絡
敵陣営 葵那>>96 Neon様>>99 月夜の救世主様>>107 玖炉>>112・>>181 舞阪 肇様>>150 ひふみん様>>151 千臥様>>168
大切に使わせて頂きます^^
◆戯言
小説大会銀賞受賞…だ、と!?
放置プレイ上等小説に投票有難うございました!
本当に感謝感謝感謝感謝の嵐です!
おこがましいですが、これからも宜しく頂けると幸いです<(_ _)>
あと諸連絡(?)ですが、Ghost様に外伝小説を書いていただくことになりました!本当に有難うございます。
人とのつながりって本当大切なんだなあ…
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- Re: 【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!! ( No.354 )
- 日時: 2012/01/28 22:37
- 名前: ゆいむ ◆xFvCQGVyfI (ID: hBEV.0Z4)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_test/view.html?541555
はろはろ、リュミの親です((
お久しぶり、そして銀賞受賞おめでとう! もう心の底からおめでとう!
Veronicaの世界観に魅入られてずいぶんたつんだなあ、と思いながらアンケートをやらせていただきやすー!←
□■□人気投票用紙□■□
━お名前は?【ゆいむ、です。元ひふみだったりくろだったり名前はころころ変わりますが、とりあえず今はこれで安定!】
━取り敢えず誰に一票?
【ウェス君かレイスで迷ったあげくウェス君!】
━理由とかあります?
【アレです。とにかくカッコイイ兄さん、フリッグも心を許す(?)相手と言う事で。ウェス君はカッコイイし今後の行方も気になるしでどきどきだァ!←】
━こーゆーキャラ気になるんだけど。とかあったら
【十二神将のトールさんチラッチラッ(・ω|壁】
━今後の行方とか如何思います?
【とりあえずレイスとうちの娘が気になっt嘘ですぜんぶ引っ括めて楽しみです。リヴァイアサン姐さまの登場シーンにバキューンされました】
━ぶっちゃけ作品に一言(一言じゃ無くても可)
【なんつーか…神話要素を壮大にぶちこんだまさに俺☆得な作品ありがとう! よし一言!←】
━改善点とかあったら…
【うお、私なんぞが言えない…! と言うか見当たりません^^;】
━短編やるとしたらどんなのが良いですかね?
【むう……絶対にからまないであろうキャラで思い切りギャグに走る、スピンオフ短編とかいかがでしょ?】
━気にいってるタイトルとかあったら…
【Lament-哀しきさゝめごと。一目見てすてき! ってなりました】
━気にいってる話とかあったら…
【ギャグ短編、結構すき(笑) あとはメリッサとフリッグの出会いシーンとか】
━気にいってる言葉とかあったら…(おこがましいなw)
【最新のやつで「だから、自分で作るんだよ! 自分自身ってヤツを!!」かなぁ…】
━気にいってる武器とk((
【雷槌ミョルニル! あとは運命聖杖ノルネン】
━実は神器も募集するんですよ←
【「冥審判ラダマンテュス」「冥審判ミノス」「冥審判アイアコス」
三振りで1セットの刀。ばらばらに引き離されても、必ず持ち主の元に三振りそろって還って来る。
持ち主になるには、前の持ち主から”三振りまとめて”奪わなくてはならない。1本盗んでも元の持ち主に戻って行きます。2本も然り。
名前は、ギリシャ神話にて冥界で罪人を裁く三人から頂きました!】
━作者に対して何かあります?
【いつもいつも、素敵なVeronicaワールドを見させて頂いてます! これからもうちの娘たち含め全員をよろしくね(*´ω`*)】
━宣伝とかどうすか?
【ないっす!(キリッ】
━有難うございました(´∀`)
□■□ココ↑↑マデ□■□
あ、参照は私が描いてみたリュミだったりして!
あのあれです、おむねが大きいのはご愛きょ…すみませんでした。
- Re: 【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!! ( No.355 )
- 日時: 2012/02/04 22:29
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
- 参照: お久しぶりで申し訳ないです!
マジで久しぶりになってます(おい)
実はもうかなり溜めこんでるんですけどね←
更新無くてごめんなさい。
そして端的なコメ返になっちゃってますが、充分栄養頂きました!(何
>>353
アンケート有難ううううう!!!メリッサですね(ニヤニヤ
実は作者からも気にいられてる娘です← 神器も一番ノルネンが気にいってるw
本とかちょw 無理ww
学園モノ良いなあ(笑)。担任とか決めてさあ…三年F組フレイ先生—!!で短編書きたい(笑)
本当アンケート有難う^^これからもよろしくです(ぇ
>>354
アンケート有難うッ!!
しかも神器までですとおおおおおおお!ちょ、俺死にそう(
トールさんは外伝話にぽつぽつ出したいなあと思いつつ出番が無いのよorz 彼が活躍するのはもうちょっと後…かなあ(苦笑
ウェス君もそろそろ出れれば!って感じだよw
ミョルニルで来てくれる辺りが嬉しい!全然出てないのに(笑
そして神話仲間とか嬉しすぎるのよ←
神器は———出させていただきます!w メリッサとフォルセティがメインになった辺りで出したいなあーなーんて。
参照のリュミが可愛すぎるんですけど!!!疲れぶっ飛びましたw有難う!
ついでに保存させてもらっちゃったよ((
本当にありがとうございましたー!これからもよろしくです(ぇ
- Re: 【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!! ( No.356 )
- 日時: 2012/02/04 22:32
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
- 参照: お久しぶりで申し訳ないです!
空から射し込む断罪光。舞う羽、整然と立つ人影————……。
白銀の髪を靡かせ、莱姆緑の眼光を放ち、笑う女。
禁呪すら詠唱無しで放つ、超人的な魔力の持ち主は高貴な笑みで名乗る。
「自己紹介が遅れたな。私は、四大竜王の一角、リヴァイアサンだ」
四大竜王————超自然的存在の生物、竜の中でも特に特殊な竜らに贈られる称号だ。と言っても人間——古代のジェイド種ら——がつけた適当な呼び名だったりする。今のところ、人間から竜へと変貌したティアマット、全てを浄化する"神眼"を持ったアナンタ、謎の破壊竜アジ・ダハカ、そして眼前にいる、水竜リヴァイアサンの四体とされている。
しかし、その竜王と呼ばれる大半が行方を眩ましていた。アナンタも数十年前から今まで棲んでいた筈の、南の砂漠国サンディ=ソイルを囲う砂漠から姿を消していたし、北の大海に棲んでいたとされる彼女——リヴァイアサンも二十年近く前から姿が確認されていない。アジ・ダハカに至っては、千年単位の昔に封印されたという。ユールヒェンの知識が頭の中を駆け巡る。ティアマットだって、千年前にマーリンに従事してから行方知らずだ。
「やはり、忘れているようだ」
リヴァイアサンは口に手を当て、笑う。そう言えば、先ほど彼女はフリッグを「フリッグ=サ・ガ=マーリン」と呼ばなかったか?まさか、とユールヒェンは驚きを露にしながらフリッグを見た。彼は眉をひそめていた。
「記憶に殆ど無い」フリッグは深い息を吐いた。「マーリンなんてね」
「ティアマットはどうした」
「どっか」
「そうか」
水竜の筈の女は苦笑。ユールヒェンを見据える。
「彼は、古代ウィンディア時代の大魔導師マーリンだ。信じられるか?」
ユールヒェンは無言だった。
<Oz.21:Anagni-イノセンス・コール->
「さっきは助けてくれて有り難う。——竜王さんに、フリッグ」
まるで付け足しのようにフリッグと呟いていた。少年は複雑な表情だ。
「どういたしまして」
フリッグは投げ槍に返した。リヴァイアサンは首を左右に振る。
「たまたま居たから助けただけだ」彼女は無愛想に続けた。「単に借りを作りたかったのもあるがな」
「はあ」とフリッグ。ユールヒェンは声だけでなく頷きすら出さない。
「何だかんだ言って、ティアマットの気配で気付いてな。丁度よかった」
竜王はにこやかに不吉な笑顔を向けている。
それよりもユールヒェンの方が優先な気がしたので、背を向けて立ち去ろうとした。背中を向いたと同時に手を掴まれる。莱姆緑の目が笑っていない。
「サヨナラ」
……棒読み。
「ああ、いやあ、去ることはないだろう?」
とリヴァイアサン。
「そうそう。
仮にも恩人でしょう有り難うございましたではさよぉーなら」
とユールヒェンもくるりと一回転。やはりリヴァイアサンが掴む。
「何?」
鋭い琥珀の眼光。
「いいや、マーリン」
竜が言う。
「この少女の身の危機は全て払わないのか?」
* * *
————!!
ハッと気付く。意識は覚醒していたが肉体は硬直している。……可笑しい。
————リヴァイアサンの気配、か?
ロキとの会話で久しぶりに思い出した竜が雪国で目覚めているらしい。近くにフリッグの存在も確認できた。————正直ほっとした。彼女になら、まだフリッグを任せられる。
『そうだ、この世界からわれらが足を踏み外すことはない。
ともかくわれらはそこにいるのだから』
彼女が言っていた。どこかで聞いた言葉で、気に入ったものだと。
命を失わない限り、この世界からの脱出手段は無い。どうやっても、結局は世界以外に逃げることは出来ないのだ。
だから、嫌でもその世界で生きる術を探す。生き甲斐や存在意義を探るのだ。
* * *
少し歩いた先に埋もれたあの集落があった。その周辺で取り合えず休みをとることにした。……ユールヒェンの衣服をどうにかしたい。
「でっかい都市とか無いの?」
「無い」
少女は速答した。ち、とフリッグの舌打ち。最悪である。
「極寒の地とは言え、買い物も出来ないじゃん」
「最寄りの村で買い集めるの」
また冷たい速答だった。
「で、キミは一体何者なのさ」
「"極寒の白い死神"————傭兵」
少女がくるりと背中を見せた。アグラムにザグレヴ————彼等は確実に彼女を狙っていたが、リヴァイアサンによって蹂躙された。さて、また彼等が襲ってくる可能性はあるのか分からない。「咄嗟のところで逃げた」とリヴァイアサンが言うのだから、きっと生きている。
「しかしまあ」ユールヒェンがリヴァイアサンを見据えた。「竜のリヴァイアサン?いきなり何。確かに竜ってくらい強いけどさあ」
彼女の皮肉に竜の表情が強張る。
「私の用事に関係あるのはマーリンだ」
ちらりと莱姆緑の目がフリッグを見る。彼は眉をひそめた。
「マーリンってのは、やめてくんない」
「では、何と呼べば良い」女は不敵な笑み。「マーリンの方が呼びやすいが」
「フリッグだって、昔から変わらないだろ」
「発音の問題だ。フリッグてのはへなちょこに思える」
「でもフリッグ」翡翠が睨む。「精神はマーリンじゃない」
「その言い方が既にマーリンだ」
リヴァイアサンは笑った。冷徹な表情が和らいで見える。
蚊帳の外のユールヒェンは険しい顔付きで見ていた。古来の歴史に出てくる名前ばかりの会話は、不思議と生々しい。まるで、今、古代ウィンディア時代がここで流れているように。ティアマットにリヴァイアサン、そしてマーリン————フリッグが言った、
『僕だって、自分が何者か知らない。
古代に実在した大魔導師本人だって言われたって、記憶が無いから分からないし、
記憶が戻った時に僕が僕でいられるのか不安で怖いよ』
『自分が何者かなんて知らないし、知りたくもない!』
『だから、自分で作るんだよ!
自分自身ってヤツを!!』
この言葉で彼が記憶を失った正体不明の何かであるのは分かった。付け足すなら、彼はマーリン————大魔導師フリッグ=サ・ガ=マーリンであるのだろう。何故、今居るのかは不明だが、リヴァイアサンの言動からも確実だ。
「作る…………ね」
ユールヒェンの口元に自嘲が浮かんだ。微かに琥珀が涙の膜を張っている。
「私も私らしくを探せ……ってワケ、か」
「何か言った?」
唐突にフリッグが振り向いたので、慌てた少女は顔を逸らした。リヴァイアサンがにやにやしている。
「相変わらず女誑しだな、貴様は」
「——知らない」
ふいとそっぽを向く。なんだか、昔の知り合いに似た雰囲気のやつがいた気がした。
————無性にそいつが殴りたい。何故だ?
* * *
「————ぶへーっっく、しょいッッッ」
鼻水が雪原に飛び散った。ロキは袖を赤くなった鼻に擦りながら、鼻を啜る。寄り添うシギュンが不安な顔をしていた。
「風邪でしょうか?」
「いいや、どっかの誰かが噂でもしてんのよ」
再び鼻を啜る。寒空に、鼻水が凍りそうだ。ティアマットらを封じ込めてから、まだ時間は経っていない。——嗚呼、ノルネンに氷狐と回収してくれば良かったと後悔する。
懐かしい気配がする。竜王リヴァイアサンがネージュのどこかで姿を現したらしい。近くにはフリッグもいるみたいだ。ティアマットを封じたあとなので、皮肉に思える。
リヴァイアサンは約二十年前に、人間と交わった異端の竜である。それまで規律を重んじ、人間と接しなかったモノが、突然人間との調和に走ったのは笑えた。愛する対象を大切にする心は恐ろしい。"恋は罪悪"という言葉をどこかで聞いたが、強ち間違いではない。
巫女に恋し、愛した大魔導師は幾年過ぎようとも、時間すら犠牲にしてまで彼女を救うつもりでいた。そして竜でさえも、人間のために命をかけようとする。——ティアマットの忠実さも一種の愛だろう。
そして、その罪悪たる恋という感情は【愚者】にも訪れていた。
彼は自身の右手を見つめる。——頭に浮かんでいたのは、ファウストは愚か、十二神将全員にも告げていない神器の創造のことだ。<劫焔者レーヴァテイン>を知るのは、シギュンと十二神将トールくらいしか居ない。内密に作ったわりには、使いたくない武器だった。
横のシギュンを見る。彼女は薄幸の面立ちで、虚空を見つめていた。——偶然拾い、側女として置いていた彼女は二刀流である。そんな彼女の為に創ったのがレーヴァテインであった。しかし、今現在それをシギュンに使って欲しいとは思っていない。
『十二神将たちには世界中で宝珠をつくって貰わなきゃならない。だから殺しなさい』
冷酷なアングルボザの言葉が頭に響いた。彼女は犠牲に気を配るほど優しくない。いや、見さえしないのだ。ただ、どれだけ目的に近付いたかしか興味を示さない。そんな女が下す命令に従っていたら————ロキの頭の中に不吉な未来が浮かんだ。
『【愚者】に【雷神】、イイ話があるんだ。取って置きの、ね?』
持ち寄られた話が頭に浮かぶ。それを繰り返しに再生した。
ふう、と溜め息を吐いて、ロキは手元にレーヴァテインを呼び出す。それを雪原に放り投げた。シギュンが目を見開く。
「〜〜〜〜ロキ様ッ!!?」
「良いんだ」【愚者】は翡翠の目を細めた。「こりゃあ、使えねえし使いたかねえ」
パチンと指を鳴らす。彼の指に収まっていた神器が光った。木々の根が地面から露出し、レーヴァテインを包む。もう一度指を鳴らすと、轟音を立てながらレーヴァテインが地面に沈んでいった。姿が見えなくなってからは静寂が残る。
『分かっていますか。恋は罪悪ですよ』
思い出の中で、大魔導師が自嘲していた。彼の翡翠が汚れて見える。
道具にしか見えていなかった対象がいとおしい。シギュンは、今や特別な存在に昇華していた。
「……レーヴァテイン、はどうするのですか」
女は不安げな表情でロキを見上げた。ロキは笑う。
「運がよけりゃあ、誰か拾うさ」
そのまま雪原を歩む。もう、ネージュに用事は無かった。マドネスを手伝う気も無いのだから。ウェスウィウスという男も、メリッサという餓鬼も、フォルセティというチビも、ティアマットという竜も封じた。フリッグに手は出せない、もうステラツィオの入手は完璧なのだ。
掌で転がしていた青玉——宝珠を見た。これでまた一つ、宝珠が手に入ったのだ。スノウィンのラピス種・ラズリ種の殲滅で既に二つの宝珠が完成した。殲滅呪文に一歩近付いたのだ。
「これから【破滅者】の封印を解かなきゃだしなぁ」
ロキが口笛を吹きながら呟いた。シギュンは無言で頷く。—— 一陣の風が吹き、積雪を舞い上げる。それらが消え、景色が露になったところには二人の姿も、形跡も残っていなかった。
ただ、捨てられたレーヴァテインだけが存在を語っているようだった。
それが誰かの手に渡るのは、まだ先のことである。
>>
- Re: 【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!! ( No.357 )
- 日時: 2012/04/03 15:51
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
- 参照: めっちゃ久しぶりの更新、溜めてた分吐きだします((
* * *
「じゃあ、キミが大魔導師だっていうの?」
琥珀の少女が問う。フリッグは頷いた。
「転生?」
「違うと思う」
「生まれ変わり?」
「転生と同じだろ」
「じゃあ、コールドスリープ?」
「分からない」
「ふうん……」
ユールヒェンは目を逸らした。フリッグは何も言わない。竜王にでも説明して貰おうかと思ったが、彼女はそういうことをしてくれそうに無かった。——もしかしたら、知らないかもしれない。
「正体不明に変わりはない……ってこと、か」
少女は苦笑いする。「でも、えらい違い」と自嘲。
「なにをなすべきか」
少女が声を奏でる。琥珀の瞳が閉じられた。そのままで、リヴァイアサンの方を向いた。
「ドラゴンさんだって、何か事情があってあらわれたんでしょう?」少女が笑む。「じゃなけりゃ、人間なんて助けないはずだもの」
「ティアマットとマーリン……彼等ならば信用に値すると思った」
リヴァイアサンは空を見上げた。鋭い莱姆緑の瞳が潤んで見える。澄んでいる筈の緑は淀んでいた。
「ネージュに来たと感じたときから、協力して欲しいと願っていたことがあるのだ……」
リヴァイアサンがじっとフリッグを捉えた。彼女の強い眼光は、彼を逃がしはしない。逃げることを躊躇わせさえした。その目から、彼女の意志が紛れもなく強く純粋なものは明らかであった。
女竜の唇が僅かに痙攣。表情も強張っていた。それでも竜王リヴァイアサンは真っ直ぐにフリッグを見つめている。唇が早口に動いた。
「我が悲願————娘との再会に力を貸して貰いたい」
フリッグは目を見開いていた。
* * *
純白の雪原を、足跡のように赤い斑点が点々と打たれている。足を引きずる二組の男が居た————ザグレヴとアグラムである。
「餓鬼に女、一体何なんだ、アイツはッ」
ぜいぜいと荒い息を吐きながら、ザグレヴが近くの梢に拳をぶつける。枯れきった梢が乾いた音を鳴らして折れる。
「落ち着けザグレヴ」アグラムが言う。「きっとこの先の集落にいるだろうから、そこで殺りゃあ良い」
途端、彼の頭が凹んだ。鼻血を垂らしたザグレヴの拳がアグラムという男の顔面に放たれたのだ。アグラムの体が雪の中に埋もれる。
「黙れや!!」
怒号、鳴り響く。しんしんと雪の音しかなかった自然界の静寂が破壊された瞬間だ。鼻を抑えたアグラムは男を睨んでいた——が、仕方無いことなので顔の筋肉を緩める。
「死神を殺せば、政府から金が入るんだ。確実に殺らなきゃなんねえ」
ザグレヴの顔に皺が刻まれる。男は拳をまた梢にぶつけた。折れた梢は乾いた音を立てるだけである。
「ユールヒェン・エトワール————!」
男は咆哮した。雪原にそれらが轟く。アグラムは呆れた顔を浮かべるだけだった。——翡翠の目をした餓鬼はどうでもいい。今の脅威は正直、禁呪を唱えた白髪の女である。魔導に僅かながら通じていたアグラムは、彼女が放ったものが、"聖なる審判"だと一瞬で見極めていた。そして退却際に女から聞こえた"リヴァイアサン"という単語————確実に四大竜王リヴァイアサンである。そんなものが居ては、いくらなんでも勝てるわけない。どうするかとだけぐるぐると考えた。
目の前のザグレヴを見据える。
————結論。彼がきっと早とちりをして、負ける。
* * *
「悲願、ねえ」
ユールヒェンは髪を手で鋤いた。しかし竜王リヴァイアサンの目は明らかな本気である。
「そいつがネージュにいれば考えても良いけど」
と呟くはフリッグである。何故か上から目線な物言いである。
女竜は目を閉じて哀惜の顔になっていた。噛み締められた唇から血が滲んでいる。
「ネージュには、居ないだろう。恐らく、今はアクエリアかアイゼンに居るだろう」
竜王は水の都と歴史有る国家の名を紡いだ。フリッグが訊ねる。
「名前は、性別は、種族は?」
「名はシトロンヴェール。性別は女、種族は大体人間だ」
「大体って」ユールヒェンが苦笑い。「何よ、それ」
「人間と竜の混血児だからだ」
「まあ、予想通りだけれども」
少年、苦笑。最初はただ単に、竜でも探すのかと思ったが、大体人間だと聞いて混血児だと確信したのだ。
「一人娘だ」リヴァイアサンが消えそうな声で言う。「大切な、大切な彼の忘れ形見だ……」
竜の脳裏に懐かしい光景が浮かぶ。————黄土色の髪の優しい顔立ちをした好青年と、同じ髪色でツインテールの小さな女の子。娘はリヴァイアサンと同じ莱姆緑の目を丸くして、青年を見上げている。
————ラタトゥイユ……、シトロンヴェール……。
竜は心の内で夫と娘の名を呼ぶ。
「十年前に夫は殺され、娘も連れていかれた!」
激情が濁流の如く、流れた。リヴァイアサンの悲痛な怒号が轟く。びりびりと大気を揺らしたそれに、フリッグもユールヒェンも一瞬停止する。
「そこの娘の危機を祓う。変わりに、私の悲願を叶えてくれないか」
「わあ……わかったけどさあ」
たじろぐフリッグ。リヴァイアサンの眼光が脅し文句のように貫いてくる。少年は無言で頷いた。それしか出来なかったのだ。
リヴァイアサンの意志は本気である。まるで、自分を想って行動に移っていた時のポチみたいである。この様子から、竜はきっと義理堅いのだということが受け取れる。ポチはフリッグを想っている。リヴァイアサンもまた、娘を想っているのだ。その感情は、きっと容易に踏みにじるべきものでは無い。
「なあ、リヴァイアサン……」
「伏せろマーリン!」
フリッグがリヴァイアサンに話を振ろうとした瞬間だった。リヴァイアサンが先に叫ぶ。フリッグが伏せる前に、銃弾が雨のように降り注いできた。乾いた雨音の量は数えきれない数多のものだ。フリッグは反射的に目を閉じる。腕も目の前に持ってきていた。しかし、自分の無事よりリヴァイアサンとユールヒェンのことの方が大事だと頭で認識したので、直ぐ様目を開け、二人の姿を探した。不思議なことに、フリッグは被弾していなかった。だが、それがユールヒェンやリヴァイアサンにも通用するとは限らない。二人の姿を目で探す。雪原に埋もれた黒衣と、灰の髪が見えた。二人は離れた位置に埋まっている。
「ユー!!リヴァイアサン!!」
叫びながら二人に駆け寄った。が、直前で足元に銃弾が撃ち込まれる。耳で認識した発車源の方向を見た。見覚えのある二人の男————ザグレヴとアグラムが、崖っぷちから此方を見下ろしている。
「お前らか……!」
怒りに体が震えた。憤怒の言葉が漏れだし、憤慨に溢れた眼光が二人の姿を睨み付ける。
「はやく死ねよ!」
ザグレヴが狂ったように言う。しかしアグラムは対極的に、諦観。ザグレヴ一人の暴走だとは、明らかであった。
「わかった、死ねばいいんでしょ!」ユールヒェンの悲痛な応え。「だから、関係無いヒトたちには手を出さないで!」
皮肉を飛ばし、ぶっきらぼうだった少女は見る影も無いほどに感情任せに叫んでいた。
「お前なァ!」
命を容易く差し出す発言にリヴァイアサンが怒鳴った。が、ユールヒェンは何も返さない。
ユールヒェンを殺させる訳にはいかない。フリッグが二人に言う。
「彼女を狙う理由くらいは訊きたい!」
「いい!!」ユールヒェンが怒鳴る。「キミには関係ない!私が、多額の賞金首だってだけだもの」
「だからってユールヒェンを放っておけるなんて出来ない!」
フリッグの必死に気圧されユールヒェンは口を開けたまま黙ってしまった。だが、二人の様子を他所にザグレヴは狂ったように笑みを含んでいる。彼は嘲るようにして銅鑼声をあげた。
「ソイツは"極寒の白い死神"。実の両親も大量殺人犯っつー生まれながらにしての罪人って奴だ」
ザグレヴの台詞直後、ユールヒェンの眼が見開き、一瞬呼吸が詰まった。
今までの人生をすべて否定されたような絶望が染み込む。彼女は凍結した。
「ユー!」
フリッグが名を叫ぶ。リヴァイアサンは苦い顔をしていた。
「死ね」とザグレヴ。諦観のアグラムはぼんやりするだけである。
ザグレヴが銃弾を放ったと同時にフリッグが音を集めてユールヒェンの周囲に壁を張る。弾かれた弾丸が虚しく雪に埋もれていった。フリッグがぜえぜえと呼吸を荒くしながらザグレヴを睨む。
「お前なァ!!」
そのまま"音"をかき集めて投げた。衝撃波がザグレヴを弾く。彼は片膝をついた。
吹雪が吹き付ける。
冷たさは尋常じゃなかった。
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- Re: 【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!! ( No.358 )
- 日時: 2012/04/03 16:11
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
- 参照: めっちゃ久しぶりの更新、溜めてた分吐きだします((
* * *
「『東風、即ち天竜を指す。
西風、即ち地竜を指し、
北風、即ち海竜を指し、
南風、即ち悪竜を指す。
東風が轟けば、天竜は怒り、
西風が奏でれば、地竜は謳歌し、
北風が傾れれば、海竜啼き、
南風が唸れば、悪竜が目覚める』
古来、ウィンディアに住むジェイド種は風向きで、どの竜がどの状態かを見極めたと聞きます」
くりりとした莱姆緑(ライム・グリーン)の目をした少女は飲んでいた珈琲をスプーンで回しながら、眼前の赤髪の青年に言う。少女の黄土の単髪が靡いた。
「で、今の風は?」
深紅の目を細め、青年は仏頂面で訊ねる。彼の左目下には絆創膏が貼ってあった。
「北、つまり海竜を指しますね」少女は笑う。「帝国首都ニーチェだとビル風が邪魔になりますね……。でも、きっと海竜が動いたのは変わり無いでしょう」
人気の無いテラスに二人の会話だけが音を奏でていた。そこに茶髪のお下げの少女が現れ、深紅の目を交互に二人へ向けてから、空になった皿を上げる。
「しかし、良い宿があって良かった」深紅の青年が言う。「危うくまた野宿になるところだったからな」
しかし、それは誰も拾わず、一人言となって空気中に消えた。皿を重ねる手を見ていた莱姆緑の目の少女が、
「私も手伝います」
と手を出す。
「いえいえ、お客様の手を煩わせるのは」
「良いんです、コレットさん」黄土髪の娘がコレットと呼んだ少女に笑顔を向ける。「少しは手伝いたいのです」
その顔は実に美しく、曇りも穢れもない笑顔でコレットは何も返せなくなった。断りづらさはこの上無い。途端、赤毛の青年も皿を重ね始めた。
「糞餓鬼がお節介してんじゃねえ」
「糞餓鬼ではなく、ライムだと何度言いましたか」ライムと修正したた黄土髪の少女は眉間に皺を寄せた。「ルーグさんこそ、手出し無用です」
ライムがルーグと呼んだ青年は、彼女の言葉を無視し、重ねた皿を持ち、立ち上がる。コレットに皿を見せた。頭で室内を指す。————何処へ持っていけば良いのかと訊いていた。
「あ、ああ……。案内します」
コレットはたじろいだ。そして彼を案内しつつ、自分も家へ入った。
————フリッグらが去ってから直ぐである。
破壊された家兼民宿であるが、直ぐ様の再建は不可能だった。なので、新たに一軒、家を借り、またそこを民宿として営業再開したのである。再開して間もない時期、つい先日。井草色のバンダナに同じ色の首巻きをした、黒衣の赤毛の青年と、黄土髪に少し褪せた黄色いコートを羽織った小柄な少女が宿探しに訪れた。
————ルーグ・キアランと名乗ったのは赤毛のカーネリア種と思わしき男。
————クライム・ハザードと名乗ったのは種族不明の少女。
『あくまで"仮の名"を名乗っただけですから、気軽にライムと呼んでください。私はそちらの響きの方が好きなので』
とクライム・ハザードことライムは、コレットに言った。何処か不思議なことに、二人からはフリッグと似た空気を感じる。
「『大魔導師の恋心を裏切るように巫女様は贄になり、彼の手元には運命の錫杖が光る♪』」
外から柔らかい歌声が聞こえる。ライムが唄っているらしい。
「『眠れる北方の獅子は目覚め、王太子の兆候が煌めく♪ 』」
鼻唄の成り損ないのような、奇妙な声を奏でながら、彼女も皿を持って
きた。——このライムという娘は、時たまこのように唄を奏でる。何の唄かは全く言わないのだが。
「北風が啼いている。ルーグさん、これは波乱の予兆ですよ」
入ってきたライムが目を細める。ルーグは静かに頷いた。
「どうやらネージュに向かわなきゃならねえっつー目的は変わりそうにないな」
「ええ。このまま私たちは"アレ"を回収しに行かなくてはいけませんからね。
——それに、『眠れる北方の獅子は目覚め、王太子の兆候が煌めく』とノルン三姉妹の予言は今のところ当たっているみたい」
彼女は口許に笑みを溢す。ルーグは無表情で彼女を見た。それから小さく口を動かす。
「意地でも巫女ってヤローの予言は通ろうとするのか」
「ええ、そうでしょうね」
ライムが目を細くした。憂いの睫が震える。
コレットには二人の視線の間に不思議な軌跡が見えた。コレットは二人の会話内容など微塵も理解は出来なかったが、何かと大事の話題だとは少し肌で感ぜられた。
————この出逢いもまた、必然に含まれるのかなあ……。
コレットは思う。フリッグと逢ったのも、きっと偶然なんかじゃない。少なからず自分に影響を与えてくれた。じゃあ、きっとこの二人も————。
コレットが耽る間に、ルーグは無愛想な顔を不敵な表情に変えていた。彼は笑いを漏らしながらライムに言う。
「でも所詮は"予言"だ。
想定外なんて幾らでもありうるような欠陥なんぞアテにしてられねェ」
その強い言葉に、ライムは微笑む。その後すぐに、コレットの方に眼を向けた彼女はコレットの真紅の眼をがっちりと話さない目線で訊ねた。
「ある人の元に、ダイヤモンドの行商人がやってきたそうです。商人はその人に"永遠の輝きを持っているダイヤモンド"を売りつけようとしたんですって。さて、その人はどうしたと思います?」
唐突な質問はこの上ない素っ頓狂なものだった。なのでコレットは訳も分からなかった。無言のまま、少し首を傾げる素振をする。ライムは笑った。
「その人はこう答えたんです。『せいぜい百年しか生きられん人間に、 永遠の輝きを売りつけてどうする。 俺らが欲しいのは今だけです 』って。
私たち、終わりのある人間は、終わりがあるからこそ輝くんですよ」
「どうして、急にそんなことを……?」
コレットの問いにライムはまた微笑した。
「勘違いしている人が、北に見えたから」
彼女はそう言って北の方角を顎で示す。皿を片づけてきたルーグがズボンのポケットから煙草を一本だし、加えていた。紫煙を吐きだしながら彼はライムのさした方角に視線を傾ける。
「そう言えば、人間っつー生き物は不平等だが、二つだけ平等なものがあるっつー話を聞いたな」
煙草をふかしながら独り言のように呟く。コレットは眉を顰めてルーグに訊ねた。
「……何です?」
「————死、だ」
彼は一言、ハッキリと言いながら煙草を捨てた。床に転がった煙草を足で踏みつけ、消す。堪能したとは言えないほどの速さで嗜好品を捨てていた。人様の家の床に煙草を捨てるなんて事をするなんて、とコレットはいらついた。それを窺ったのか、最初からそれをしたかったのか分からないが、青年は吸い殻を拾い上げていた。後ろでライムが「癖で捨てちゃったんですねー」とほくそ笑んでいる。吸い殻を指の股に挟んだまま、彼はもう一度言った。
「————死、は理(ことわり)なんだよ」
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