ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!!
日時: 2012/01/15 17:20
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/

投票有難うございました!銀賞感謝!!謝辞>>347
記念ということで人気投票やっています。>>350



Veronica(ウェロニカ)
*1世紀ごろエルサレムで活動したキリスト教の伝説上の聖女。ゴルゴタに向かうイエスの血と汗にまみれた顔を拭いたという伝説的聖女。

クリック有難うございます(*´∀`*)ノ
(※小説データベースから来た方はまずこちらへ→>>48
初めまして!
の人が殆どだと思います^^;
過去(といってももう四年くらい経つかも)に"燈(アカリ)"という別名で小説を書いていたものです(笑)

気を取りなおしまして、
初めまして!朔(モト)と申します。
某ゲームキャラじゃなくて、野村望東尼って人の名前が由来です。多分。もしかしたら、春風(←高杉晋作の名)に改名するorほかの場所に出没するかもしれません
期末テスト症候群…心理学的にいえば"逃避"に陥って、小説を書こうと思いやり始めました。ツッコミは心の中のみでお願いします^^
書くの久しぶりで、しかも元から文章力皆無人間なので、いっやー、ちゃんと書けるかなあとか不安ありつつ((オイ
頑張ってちまちま(←)書きたいと思います!

◆Attention
※注意※
・荒らし、悪口等厳禁。宣伝OKです^^いつ見に行くかは分かりませんが汗
・コメントへの返信、小説の更新不定期です。
・誤字・脱字、文章等いろいろおかし(←この場合の"おかし"は"趣深い"ではなく"変"という意味でつかわれています)。ツッコミ大歓迎ヽ(*´∀`*)ノ
・ジャンルはファタジー 一直線(笑)だと思いますけどねえ…(^^ゞ
・グロイのかなあ。怖い話苦手なんでそうでもないと思うけど一応流血表現あり(汗
◆Component
題名:Veronica(ウェロニカ)
作者:朔(もと)
ジャンル:ファンタジー・バトル、 "ツッコミ箇所満載"紀伝体ドラマ。
成分:ツッコミ箇所満載、多少流血表現あり、登場人物がKY、誤字・脱字・文章が基本オカシイ、Not神文
使用方法:ツッコミを入れながら読んでください。「お気に入りに登録しました」や「応援してます」などのコメントが入ると狂喜します。勿論、ツッコミ大歓迎。
2012年度冬の大会にてシリダク銀賞を受賞。本当に感謝感謝の大嵐。
製造日時:2010.11.30

◆Contents
*本編*
登場人物 >>4 (一覧編>>220※ネタバレ有)
まとめぺえじ>>219
歌 >>85(楓様に作っていただいた歌詞です)
Main↓
◇序:recitativo >>3
◇Oz.1: Blast-竜と少年の協奏曲コンチェルト- >>285
◇Oz.2: Norn-運命の女神と混乱の関係- >>286
◇Oz.3: GrandSlam-錫杖、両刃、骨牌の独り勝ち- >>287
◇Oz.4: Obsession-戦意喪失-
・Part1>>57 ・Part2>>58 ・Part3>>62 ・Part4>>64 ・Part5>>68
◇Oz.5: Potholing- 一樹の陰一河の流れも他生の縁-
・Part1>>73 ・Part2>>75 ・Part3>>77 ・Part4>>79 ・Patr5>>84
◇Oz.6: Hallelujah-神様っているのかなあ-
・Part1>>90 ・Part2>>93
◇Oz.7: Engulf-風に櫛(くしけず)り雨に沐(かみあら)う-
・Part1>>94 ・Part2>>104 ・Patr3>>105
◇Oz.8: Sign-夜想曲(ノクターン)に誘われて-
・Part1>>111 ・Part2>>114 ・Part3>>119 ・Part4>>120
◇Oz.9:Nighter-眠れない夜に-
・Part1>>128 ・Part2>>131
◇Oz.10:Howling-母と子(Frigg)、忘れ路-
・Part1>>133 ・Part2>>134 ・Part3>>136
◇Oz.11:Howling-母(Tiamat)と子、追憶-
・Paet1>>141 ・Part2>>145 ・Part3>>146 ・Part4>>148 ・Part5>>154 ・Part6>>161 ・Part7>>162
◇Oz.12:Tagesanbruch-黎明-
・Part1>>164 ・Part2>>165 ・Part3>>170 ・Part4>>174 ・Part5>>189
◇Oz.13・Part1>>198 ・Part2>>210 ・Part3>>218 ・Part4>>223 ・Part5>>226 
◇Oz.14・Part1>>228 ・Part2>>234 ・Part3>>237
◇Oz.15・Part1>>247 ・Part2>>248 ・Part3>>249 ・Part5>>250 ・Part6>>251 ・Part7>>252
◇Oz.16・Part1>>257 ・Part2>>270 ・Part3>>275 ・Part4>>282 ・Part5>>288
◇Oz.17 >>305
◇Oz.18 >>340
◇Oz.19 >>340
◇Oz.20 >>352
◆外伝>>235
作品を十字以内に簡潔に紹介しなさい。↓
『た た か う は な し』!どうだ!!
※参考
広辞苑、ジーニアス英和辞典、ブリタニカ、マイペディア、ウィキペディア等から抜粋。そして、相棒・電子辞書有難う、!!

◆お客様
*葵那 *Neon様 *夏目様 *ラーズグリーズ様 * 玖炉 *雪ん子様 *月夜の救世主様 *ささめ *緑紫様 *楓様 *舞阪 肇様 *ひふみん様 *千臥様 *ち せ(´・・).様 *風様 *X4様 *Vermilion様 *紅蓮の流星様 *Ghost様 *夢姫様

◆連絡
敵陣営 葵那>>96 Neon様>>99 月夜の救世主様>>107 玖炉>>112>>181 舞阪 肇様>>150 ひふみん様>>151 千臥様>>168
大切に使わせて頂きます^^

◆戯言
小説大会銀賞受賞…だ、と!?
放置プレイ上等小説に投票有難うございました!
本当に感謝感謝感謝感謝の嵐です!
おこがましいですが、これからも宜しく頂けると幸いです<(_ _)>
あと諸連絡(?)ですが、Ghost様に外伝小説を書いていただくことになりました!本当に有難うございます。
人とのつながりって本当大切なんだなあ…

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Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.309 )
日時: 2011/08/04 17:59
名前: 千臥 ◆g3Ntw.kZAQ (ID: 3NNM32wR)

お久しぶりです(∀)

約1ヵ月ぶりのカキコです(汗
Veronicaが更新されていたのでテンション92ぐらいあがりました←微妙ッ

ウェスくん…
なんとも悲しい過去話でしたね´`

自分もウェスくんには是非生きていてもらいたいと思います。

では、今日はこのへんで失礼します(*´ω`*)
また読みにきますねw

Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.310 )
日時: 2011/08/08 14:01
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: 糸色 イ本 糸色 命

>>309
ども、お久しぶりです^^
私も久しぶりに会えてテンションが93.5714上がりました^ω^(←

ウェス君の話は書く時が重たくって仕方ないです(´・ω・`)
本当、生きられるなら生かせてやりたい…。くそう、エイルさーん

また来るのをお待ちしてますね!^^

Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.311 )
日時: 2011/08/09 18:38
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: 糸色 イ本 糸色 命


 ————粉雪が吹き付けている。


『残念なことだ』

低い声。続けて女の声。
『惜しい人が死んだわ』
続いてはなみずを啜る音。真白の零下、黒い墓石と喪服を着た何人かの人間が景色から浮いている。二つの墓石の前ではよく似た兄妹と、似付かない弟が立っていた。ラズリ種の少女は異父兄の手を強く握りしめて涕泗ていしを流している。嗚咽混じりの泣き声で何度も何度も兄の手を握りしめ直す。その姿とは対極的に、直立不動でいるのは飴色の髪の子供だった。頑なに他人の干渉さえ許さずに立っている。


 異父兄は瞼を閉じた。

————殺したのは自分だ。

唇を強く噛み締める。あの日、両親の命を奪ったのはあの男では無い。紛れもない、彷徨いていた自分の所為だった、と。

 自分が彷徨いていなければ。もっとしっかりしていれば!

「やはり全ては忌子の責任か」

続く後悔の念をまるでさらに追い込むよう、村長バティストゥータの声が入った。低い声が、老人の声が吹雪と混じりあって異父兄に突き刺さる。


————そうか。

口許に自嘲の笑みを浮かべた。

————生まれてこなければ、起きなかったんだ。

自責がこころを蝕み始める。孔は広がり、闇が食い尽くす。幾ばくもないうちに情は食われて消えてしまった。思考が失せる。

 そして、世界が音を立てて崩れた。




<Oz.18:Schneesturm-哀しきさゞめごと② 後悔、先に立たず->





「それ、本気で言ってるの?」

軽く涙目になったウェロニカがウェスに詰め寄った。ウェスウィウスはあしらうように返す。
「俺はもう今年で十七。良い稼ぎが無いと流石にキツいだろ?」
返答を聞き、ウェロニカは目の水分を更に増した。もう泣きそうなくらいまでに達している。「だってぇ」と涙声で呟いていたのはきちんと兄の耳に届いていた。なので、優しく白金の頭を撫でてやる。————大きくなるにつれ、彼女は母親に似てきていた。それを見る度に罪の意識に苛まれる。
「別に良いでしょ」
ウェロニカとは真逆に、血の繋がらない家族のフリッグは冷淡に言い切る。膝に小さな竜——通称、ポチ——を乗せながら厚い本の頁を捲っている。
「仕送りにするつもりだろうし」
種族の確定のできない少年は冷たい。兄弟というよりは同い年の幼馴染みに近いウェロニカはその様子に眉毛を八の字にしていた。

ウェスウィウスは微笑を浮かべて頭を撫でた。同じ色の髪をくしゃくしゃに撫でてやる。
「大丈夫、電話はするし、絶対帰ってくるから」
それを聞いたウェロニカは無言で頷いた。声の代わりに、ウェスウィウスの服を強く掴んでいた。



 ————それが、異父妹との別れなど誰が気付いていたのだろう。




* * *




 運命聖杖ノルネンを回転させ、次に前方に現れた男を弾く。火花と同時に金属音が鳴り響いた。次に荒い呼吸。回転し、鉈を手にした男の顎を蹴り上げる。


 少し離れた位置のフォルセティが天命の書版を開く。本のノドの部分が青く光っていた。
「"守りの流水アクアリウム"!」
フォルセティが喉を震わせると同時に本から青い光が放たれ、途中で二つに分かれる。背中を向けあって抗戦していたメリッサとクラウドに一ずつ宿った。心臓部に突き刺さるようにして宿った光が強く瞬く。秒速で光が全身に行き渡り、淡く光って消えた。流水系の呪文の一つだ。第一階位であるが、徐々に体力を回復させてゆく効果がある。
「すっげー、コレ!」メリッサが急に元気になって、満面の笑みで敵を薙ぎ払った。「どんどん体力が回復してくる感じー」
「そりゃあ、リジュネ効果持ってますから」
一筋の汗を右頬に流しながら、フォルセティは返した。

 狭い洞窟内で広範囲に及ぶ魔法は使えない。——味方にでも当たったらどうすればいい?そんなリスクの高い攻撃は諦めていた。なので気を失っていたときに回復した魔力で補助魔法を展開し、二人を援護する。回復に特化した流水系や、補助に特化している旋風系、また防御に適している氷雪系の呪文ならばこの狭い戦場でも容易に扱え、尚且つ効力を発揮できる。
「リジュネかー。って事は長距離走に使えば相当良いんじゃね?疲れないし」
茶目っ気を出して、メリッサがふざけた。紫紺の瞳は呆れている。
「……そんなものに使ってもマラソンの成績は良くなりませんよ、きっと」
「いーや、良くなる!」
「頼まれても使いませんから」
二人の実にどうでも良い口論の合間にクラウドは刀から出現させた氷柱で敵を串刺しにしていた。倒しても倒しても湧いてくる。——漸く口論を終結させたメリッサがクラウドの方に援護へと入った。

「倒してもキリ無いじゃん!」
顔を紅潮させ、眉間に皺をよせながら
「確かに、な」
刀を振るって氷を出現させて応戦するクラウドも相槌を打つ。華麗に舞っていたメリッサが着地。次に<スクルド>の"レ・ラクリスタル"を展開する。一瞬で村民が消滅した。が、ある程度減ったと思えばまた沸いてくる。そんな嫌な連鎖からは解き放たれそうに無かった。
「ゴッキブリかよ、こんにゃろっ」
<スクルド>から<ベルザンディ>に変えて振り払う。続けてクラウドが刀を振りかざす。一刀両断、鮮血と刀から出された氷が舞う。それでも湧く。————舌打ち。


————仕方ねえな!

少し空いた間を狙い、刀を勢いよく地面に突き刺す。すると突き刺さった刀身が徐々に透過されてゆき、周囲が凍てついた。刀を中心にして地面が凍りついてゆく。
「氷漬けになりたくなかったら跳べよ!」
「んな無茶な!!」
地面に接しているものを全て凍らせてゆく。クラウドの急な忠告、そして無茶すぎる発言に苛立ちながらもメリッサはフォルセティを抱えて跳んだ。足に旧盤でもくっ付いているのか、壁に着地して張り付く。如何やら壁までは浸透してこないらしい。
「この神器【氷孤(ひょうこ)】の力で暫く凍りついてろ!」
今迄の鬱憤を晴らすように吐き捨てた後のクラウドの表情は妙に爽やかだった。村人たちは地面の上で凍りついてゆく。彼らは逃げることなく、ひたすらクラウドに向かって行っていた。躰に触れることなく、全員が凍ってゆく。氷像と鳴り果てた彼らは、漸く湧いてくるのを止めた。冷たい冷気が周囲を覆う。寒さに慣れていないメリッサとフォルセティは同時に躰を震わせていた。


「もう降りて良いぞー」

青年が声を飛ばす。より先に二人は降りていた。アイスリンクと化した地面に足を滑らせながら、唸る。
「さあぁああああ、むいわあああぁあぁあぁぁぁぁ——……」
雪山で遭難した人間の様に、寝たら死ぬというくらいの顔つきになっているメリッサをクラウドは鼻で笑う。
「南方出身だから慣れてないんですよおおおおおおお」
フォルセティも唇を頻繁に震わせていた。青紫に変貌した唇に、血の気のない顔。"この程度"で寒がるなど、クラウドは理解出来なかった。自分も寒がりな方であるが、この程度はまだ序の口である。そのあたりは、やはり生まれ育った環境が関係しているのだろう。
「仕方ないな」クラウドは深く息を吐いた。「早く此処から去るか」


>>

Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.312 )
日時: 2011/08/12 11:09
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
参照: 糸色 イ本 糸色 命

* * *


「へぇ、カーネリア種とラズリ種の混血児ね」

眼前のアゲート種はまじまじとウェスウィウスを見てから眼鏡をくいと上げる。橙の髪が少しだけ顔にかかっていた。眼鏡越しに見える髪と同色の垂れ目が卑しい光を宿す。何か策謀している男の顔に違いは無かった。
「あの」

世界帝国と言っても過言ではないくらいの急成長を遂げたエターナル。降りたってすぐ、どぎまぎとしていたウェスウィウスに声をかけ、彼を興味本意で連れ去った眼前の男は稀有なものを見て喜んでいるようだった。ウェスが連れてこられたのは帝国首都ニーチェに聳え立つ政治の中心部。政治を担う評議員の宿舎だった。
「なんだい?」
眼鏡を光らせ、アゲートの男は書類で自分を扇ぎながら横目でウェスウィウスを見る。ウェスウィウスは軽く視線を逸らした。——父母が殺された際、オッタルと一緒に居た女に何処か似ている。
「いや、評議員が一体何用かと……」
「ああ」扇子代わりに風を作っていた書類の束を無造作に机上へ投げ、背凭れにかかりながら男は律儀に答えてやる。「混血児なんて見たこともないモノだったから気になってね。好奇心ってヤツに駆られたのさ」

回答を聞いたウェスウィウスの中に黒い靄が発生する。不快感が芽生えた。混血児なんて呼ばれたくは無い。——まるで不完全な人間であるようだ。

 評議員は、ウェスウィウスが気を悪くしたのを察ししたようで慌てて付け加える。
「別に差別的な意味ではないよ?————気を悪くしたなら謝るさ。それに、私の秘書も似たようなものだからね」
「…………秘書?」
混血の青年が聞き返すと、男は「そう、秘書」と薄笑いを浮かべながら小さく答えた。

————同じハーフか?

ふと淡い希望が芽生える。発芽した希望は、澱み停滞していた不快感を一気に払ってしまった。曇天が雲一つ無い晴天になる。心が爽やかな風が通り抜ける、夏空のようになった。
「ワケアリさ」
評議員はクスクスと小さな笑いを続ける。機嫌を直したウェスウィウスも小さく笑った。同じ境遇の人間なら会ってみたい。
「どういう感じの人ですか?」
好奇心に駆られて思わず訊ねた。相手は嫌な顔一つすることなく、にこやかに答える。
「暫く入れば、そのうち来るさ」


 ウェスウィウスは言葉を信じて暫く待ちはじめた。男はまるで退屈させないよう、饒舌に訊ね始める。
「キミみたいにね、絶望感に溢れた顔している人間は面白い話を持っているからね。——是非とも部下に欲しいな」
ウェスは一瞬困った。——不純な動機は気に入らないが、部下になればきっと良い収入になる。プライドを取るか、金を取るかの天秤が自分の両側に現れた。秤を支えるのは、無論自分だ。右の自尊心か、左の収入額か。自尊心に傾きかけたところに、左の皿の上に残してきた二人が現れた。……二人への仕送り。成長期の彼らより自尊心を重んじるなどは言語道断だった。
「……仕事が無いから有り難いです」
と、ウェスは返す。評議員は笑顔を浮かべた。
「そうかい、なら今日からやってみるかい」
「ですね」
仕方無く頷いた。視線を机上へやる。————フレイ=ヴァン=ヴァナヘイムと金で掛かれたプレートが立ててある。この男の名前らしい。


「ヴァナヘイム氏、入りますよー」

苦笑いになっていたウェスウィウスと笑顔のフレイの気まずさを破るように扉が開き、女の声が入ってくる。栗毛を二つのお下げにしたアメジスト種の女性が現れる。胸元に大量の冊子を抱え、
「あら、お客様?」
とウェスウィウスを見て困惑。明朗な雰囲気だが、真面目そうである。そんな彼女にフレイは助け船を出した。
「客人だけど、まずは資料をくれないかな、エイル君♪」
エイルと呼ばれた女は「あ、はい」と小さく返事をしてから急いて資料を渡す。直ぐにフレイから離れ、
「じゃじゃ、じゃあお茶を」
と焦った様子でまた出ていった。一瞬の登場、退場に追い付けなかった青年はポカンとする。フレイが意識を戻してやった。
「彼女が私の秘書だよ」
「は、はあ……」
意識が向き直ったウェスウィウスは困惑しながら相槌を返した。——現実は幻想を容赦なく壊してくれた。混血児なんかでは無いではないか!

 ふと妙な視線を感じた。アゲート種の男がにやにやと見つめている。
「同じ混血児だと期待していたね」
歪んだ口許が卑しい。ついでにさらりと心象を言い当てるのも。ウェスは眉を潜める。しかめ面を作った。
「取り敢えず」ギィと渇いた音を椅子から鳴らしてフレイは鼻で笑った。「お茶でも飲んでからだね。所属云々は上に話をつけてあげるよ」
「はあ」
話の進行が早い。有り難いと言えば有り難いのだが、すこし戸惑う。それでもやはり有り難いのだろう。————居場所になれば良いが——……。


* * *


 フリッグは抱き抱えたユールヒェンの顔を覗いた。いつの間にか、寝息を立てている。
 しかし、安らかな寝息では無かった。眉をしかめて、息苦しそうになっている。呼吸は不安定、何度も譫言を繰り返していた。——「ごめんなさい」、「ごめんなさい」と。

「誰に対する謝罪……?」

白く冷たい頬に触れる。悪夢に対する謝罪なのだろうか。先程の敵が彼女に対して使った呼称————<極寒の白い死神>。勿論、聞き覚えなど無い。彼女を蹂躙していた理由も分からない。しかし、何が理由でも明らかに自分より、社会的に弱い立場の者を踏みにじるのは許し難かった。


 吹雪が止んでくる。徐々に輪郭をはっきりとさせてきた景色の向こうに、集落らしきものが見えてきた。耳が聞き取る限り、人気はない。廃村らしい。
 だが、その方がユールヒェンを休ませるのには丁度良い。今は人目に触れてはいけない。紛れるように、身をやつすという手段も取りにくい。それならば、廃村で暫し体力を回復する方が賢いだろう。

 フリッグは速度を上げた。すぐに廃村に踏み込む。やはり、廃村は廃村だった。リュミエールや、ジェームズとのことが頭を過らせるような空間だ。しかし、雪に埋もれた家々は幸い形を残している。多少崩れてはいるが、然程支障は出ないだろう。

一番近い一軒の扉を開ける。中はスノウィンの自宅みたいな雰囲気だった。リビングも、キッチンもちゃんとしている。二階にはベッドルーム。荒らされた形跡もなく、モデルハウスのように綺麗だった。ダブルベッドにユールヒェンを降ろす。布団をかけ、確りと寝かせた。

「凄い」

唇が勝手に動いた。素晴らしいくらいに綺麗な状態なのだ。逆に不思議だ。ここまでに美しい廃墟は見たことがない。——まるで、住民が一瞬で消えたみたいだ。

「綺麗、でしょう?」

荒い息遣いの声がした。ユールヒェンが目を瞑ったまま口を閉口させている。
「——え?」
思わず聞き返すと、灰の髪の少女はゆらりと上体を起こした。琥珀の目を憂いに染めながら、言葉を紡ぐ。
「住んでたの。……アンバー種」
「そっか」
彼女は俯いた。目元から感情が消える。
「政府に騙されて、皆連れてかれて殺されたわ。————餓えてたから誰も疑わなかった、てね」
「詳しいね」
「だって」ユールヒェンは唇を震わす。「私、関わっていたもの」
言葉は二つの意味に解釈できる。——被害者と、加害者にだ。だが、フリッグは詰めて聞かなかった。ユールヒェンから喋る。

「つい先日。この村が、帝国人を匿ってるって噂が立ったの。——それから王国政府が粛清といって村に向かったのね。最初は、保護してやると甘い言葉をかけた。……餓えてたから疑わなかったわ。村人全員を広いところに連れ出して、そこを四方八方から一斉射撃。蜂の巣よ。その撃った方に居たの、私。————同族なのにねぇ……」

死神は饒舌だった。つらつらと述べ、二度躰を倒す。目元に右腕を乗せた。
「私、は……<極寒の白い死神>。頼ま……れれば、何でも、する、傭兵だか……ら」
嗚咽を混じらせて語る。フリッグは手を伸ばせなかった。頑なに拒否する彼女に容易に触れるような勇気が無かった。——メリッサを羨ましく思える。彼女は壁に構わず関われるのだから。
「だから、アイツ等君のこと……」
捻り出せたのは、襲撃された時の相手のことだった。少女は答える。
「そう。懸賞金も凄いから」
それからフリッグに喋らせる間を与えずにユールヒェンは背中を向けた。そっとしておく他に無かった。


 仕方無い、と部屋を出る。キッチンを漁ると、まだ賞味期限の切れていない乾パンの缶詰が幾つかあった。野菜室は危険なのでやめる。何故、缶詰があるのは不明だが、今の状態では有り難い。料理器具を使い、簡単な料理でもしようと冷蔵庫を漁る。麺類の袋を発見。使えるのはそれくらいだった。

しかし、丁度二人前。コンロを捻ったが、やはりガスが止められていて点かない。今度は家中を散策する。偶然、物置を発見。中を見る。幸い、簡易コンロがあった。火も点く。それをキッチンへ持っていき、鍋の水を沸かした。麺を入れて茹でる。茹でている間に、汁を作った。付属のスープと、適当な調味料を入れる。湯だった麺と、茹で汁を注いで完成。東方の島国、オリエントで食べられる"饂飩"という食べ物だ。長期保存のきくこの食べ物は、極寒の続く北方では重宝する。東方から輸入するしか入手ルートが無いので、政府は鎖国化にある東方と何度も会談を設け、やっとのことで貿易をすることが出来るようになったと聞く。


 盆に添え、階段を一段一段ゆっくりと登る。借りた硝子のコップに水を入れたのも付けて。二人分の食事を、一人持ってゆく。扉をあけっぱなしにしておいたのは良かった。難なく入ることが出来たのだから。
「少しくらい、食べた方が良い」
フリッグはぶっきら棒な口調で言い、ベッドに近い化粧台にお盆を置いた。化粧台に付属している椅子に座り、「頂きます」と言ってから"箸"という——これもまた東方特有のものなのだが——道具を使って饂飩を啜り始めた。一旦食べるのを止め、「先に食べてるから」と小さくユールヒェンに語りかけてから再開する。彼女は布団に埋もれていた。少しだけ出ている肩が、小さく震えている。矢張り関わることは出来ず、ただ見守っているしかなかった。

>>

Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.313 )
日時: 2011/08/22 20:21
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
参照: なるほど、分からない。

* * *


「アイゼン共和国の銃器メーカーのか。すげー……」
席に座りながら、ウェスウィウスは好奇の目で置かれた銀の拳銃を見る。
「S&Wね。有名所よ。正義の銃なんて言われてる」
エイルという秘書は注ぎ終わったポットを置いて、銃を没収。持ち主なのだ。
「あ、エイル君は何だか不服そう?」フレイが火に油を注ぐような発言をする。「なんなら、今夜相手しようか」
「いえ、結構。貴方みたいな放蕩評議員はゲルドさんとか、抱くのが仕事でしょ?そこまで仕事にしたくないし、あと貴方みたいな浮気者なんて相手にしてたら男が出来ませんからね」
さらりと答え、饒舌に攻撃。フレイも太刀打ち出来ないらしく、黙り込んでいた。

 茶を交えながらの会話。ウェスウィウスが軍隊に所属するという手続きと、更には宿舎の提供というまでフレイは話を進めてくれた。————流石、帝国政府を担う評議員である。が、彼は若い。まだ二十歳を過ぎてすぐくらいだ。十代後半の自分と、一体幾つぐらい違うのだろう。十も離れていない筈だ。
「宿舎の方にはエイル君が案内してくれれば良いよね?」
瑪瑙の双眸を細めて彼は言う。女は顎を引いた。
「貴方と一緒にいるよりは断然マシ」
「そんな放蕩者の秘書をやっているのは何処のお馬鹿さんでしょう」
「さあて、そんな人間(ひと)、この世界には存在しないんじゃない」
二人だけで会話が展開されている。妙に仲睦まじく見えるので、怪しい。しかし、ウェスは深く考えずに見つめていた。やがてエイルが席を立つ。

「じゃあ、貴方の住処に案内するから、ついてきて頂戴」

ヒールの音を鳴らしながら女が歩く。その後に急いで立ち上がった青年が続く。



* * *


 胸元から顔を出した竜がくしゃみをした。吐息が白い。
「あー。やっぱりポチも寒いのかあ」
ポチはコクコクと素早く頷いた。フリッグとは違い、この伝説級の竜・ティアマットとは会話できない。竜はフリッグ以外と意思疎通する気はなさそう——という訳ではない。単に彼女が元は人間という、特異な存在であるからなのだ。ちゃんとした竜の血統は持っていない。それ故、彼女の声を聞きとれるのは"絶対音感"を持ったジェイド種のみである。しかし、それも音感が失われたジェイド種とは会話が出来なくなる。
「ネージュには色々とあると聞きましたけどね」フォルセティが白い吐息を吐く。「神器やら、遺跡やら」
「神器は世界的に多いものだろ」
クラウドが冷たく返す。彼の吐息も白かった。黒いコートに比例して白い息を吐きながら、地上の雪原を見渡す。——幸いにも、地上に出れたが、全く分からない場所に着いてしまっている。

 スノウィンの村人たちの所為で、ウェスウィウスとは離れたままだ。このまま周囲を詮索していれば、なんとか彼とも会えるだろう。
「どうにかして、探さなきゃだよね」
ふう、とメリッサが溜息。希望という二文字が似合う彼女には今の様子は似合わない。寒い為、躰を小刻みに震わせていた。
「そうですね」
紫紺の眼をした少年が頷く。ふと、周囲を見た。雪に埋もれた大理石で出来た建造物らしきものが見える。あれ、と指差し、二人の意識を呼び寄せた。

「何でしょうか?」
近づいてみると、恐らく古代の建造物だと言うことが一見で分かった。取り敢えず寒さを防ぐのに、メリッサは何でもいいから建物に入りたくて仕方が無かったらしく、一足先に足を入れていた。「あ"」と二人の男が同時に籠った叫びを上げる。
「だって寒いじゃん」
何とも言えない、自分勝手な理論で彼女は突き進んでいた。焦って二人続く。大理石の上を、ブーツが音を鳴らしていた。響いた音が反響して居る。


 遠くに何かが横たわっている。嫌な予感がメリッサとフォルセティを貫く。眼を細め、遠方を確認。見慣れた皮のジャケットに、白髪の髪が地に染まって見えた。

————そんなァ!

琥珀と紫水晶の眼が絶望の色を帯びる。何かを考えるより先に、足が動いていた。少年少女が一気に向かう。
「おい!」
取り残されたラピス種の少年が怒鳴り声を上げた。が、既に二人ははるか先にいる。一人になるのは危険であり、尚且つ雪国に慣れていない人間を勝手な行動にさせる訳にはいかないと判断した彼も足を速めた。が、なかなか二人には追い付かない。

 メリッサの口が大きく開けられ、喉から悲鳴の様な声が上がる。
「ウェスッッ!!」
触れようと迫った瞬間、彼女の右肩に何かが掠った。焼け焦げた臭いが鼻を突く。瞬間的に戦闘態勢に入った。躰を回転させ、手元にノルネンを出現させる。
「敵、でしょうか」
ずっと戦闘ばかり続いているのに段々と慣れてきていたフォルセティもメリッサと同じく神器を手元に出す。天命の書版の頁を開き、待機。そんな二人の足もとには大量に弾丸が降り注いだ。避けるたびに後ろへと下がっていく。——恐らく、この銃撃の正体はウェスウィウスから二人を引き離したいのだ。

「彼に近づくのは、止めて」

凛とした女性がこだました。奥から出てきたのは、フォルセティと同じ栗毛に紫紺の瞳をした女性だ。細い体躯が、凛と歩いてくる。手には銃口が四つ付いた銀の銃——まぎれも無い、魔弾の射手ステラツィオが握られていた。
「色々手遅れみたいです」
頬を一筋の汗が伝っている。二人並んだ状態で、魔弾の射手ステラツィオとウェスウィウスを交互に見ながらつぶやいた。
「フリッグに会ったらなんて言えば分かんないよ、コレ」
「最悪のパターンが待っていそうです」
「いや、もう遭遇(あ)ってるんじゃね?」
ウェスウィウスの死と、恐らく敵の手に神器が渡ってしまったという事実。そして無事を確認できないフリッグ。最悪の条件が揃ってしまったみたいで、恐ろしくてたまらない。



 相手の女性が持つ神器は、銃の形をした神器の中でも最凶を誇ると言っても過言ではない。最多の銃弾の種類を持つのだ。しかし、相手は神器一つに対し、此方はクラウドを含めれば神器三つ。攻撃力を持つ武器型に、魔法を扱うのに長ける書物型、攻撃力は皆無だが特殊な能力を持つ道具型に分類される神器のうち、メリッサとクラウドが持つのは勿論武器型、フォルセティが持つのは書物型だ。攻撃力に関しては断然上回っている。
「メリッサさんの運命聖杖ノルネンだって、神器の中ではトップクラスですからね」
知識庫である少年の口元が少し吊りあがる。禁書の中でも最強である天命の書版に、全神器中唯一形体を三つに変える事が出来る運命聖杖ノルネンがあるのだ。ノルネンに関しては、三人のジェイド種がそれぞれ作った三つの武器を一つにまとめたと言う特殊なものであり、その能力も通常の神器を遥かに凌駕するものだ。下手をすれば、クラウドの持つ氷孤でさえも軽くへし折ることが出来る。
「二つしかないって聞く、書物型の神器である僕の天命の書版もあります。氷雪系の技を使いこなすのに長けている氷孤もある。これで勝てない方が不思議です」
自信ありげにフォルセティは言い切った。先程までは心配で仕方なかった筈だが、冷静に考えてみると断然有利なのが分かり、戦闘に関する心配は消え去った。早く眼前の彼女を振り払い、ウェスウィウスの安否を確認したい。


 一足遅れ、息を切らしたクラウドが入ってきた。彼も氷孤を出し、取り敢えず二人の横に並ぶ。
「なんだ?」荒い呼吸で、彼はメリッサを見た。「敵、か?」
彼女はこくりと頷く。黄褐色の眼が紫紺の女性を捉えた。ステラツィオの銃口が向く。
「双魚宮(パイシーズ)!」女の掛け声と同時に、銀銃に水色の光が宿った。「湾雹凍雨(アイシクル=スリート)!!」
女の声と同時に、大量の雹の様な弾丸が銃口から発射。確実に三人を捉えていた。咄嗟にフォルセティも魔法を展開する。砂色に光る魔法陣が
足もとに広がると、またたく間にそれらが大理石を粉塵と化させた。舞い上がった粉が三人の前に壁を作り上げる。それらはやがて先程まで大理石と存在して居た時の様に硬くなり、強固な壁を完成させた。——防御に秀でた"砂塵の加護(クラウド・オブ・ダスト)"の魔法は全ての弾丸を防ぐ。
「なあ?」
防御しきった彼らに対し、思わず疑念。しかし、それも数秒で次の弾を発射。今度は普通の弾丸だ。壁から出たメリッサが一気に向かい、それをノルネンの<ベルザンディ>で撃ち落とす。

「クラウドさん!」
本のノドの部分に蘇芳の光を宿らせたフォルセティが残っているクラウドの方を向いた。ああ、と声を出して目を合わせる。
「僕が合図したら、出てください」
何だか良くわからないが、今迄の様子から彼の言葉は信用できると判断したクラウドは無言で頷いた。了承したのだ。其れから間もなく、フォルセティが合図を出す。
「今です!」
「ああ!!」
合図と同時に壁が崩壊、クラウドがジェット噴射の様に走り出した。メリッサと同じ距離になったところで、フォルセティが叫ぶ。
「"猛爆(エクスプロード)"」
声と同時に蘇芳の光が激しくなる。同時に、二人の足もとより二歩後ろが爆発。爆風で二人のスピードが加速された。

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