ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!!
- 日時: 2012/01/15 17:20
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
- 参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/
投票有難うございました!銀賞感謝!!謝辞>>347
記念ということで人気投票やっています。>>350
Veronica(ウェロニカ)
*1世紀ごろエルサレムで活動したキリスト教の伝説上の聖女。ゴルゴタに向かうイエスの血と汗にまみれた顔を拭いたという伝説的聖女。
クリック有難うございます(*´∀`*)ノ
(※小説データベースから来た方はまずこちらへ→>>48)
初めまして!
の人が殆どだと思います^^;
過去(といってももう四年くらい経つかも)に"燈(アカリ)"という別名で小説を書いていたものです(笑)
気を取りなおしまして、
初めまして!朔(モト)と申します。
某ゲームキャラじゃなくて、野村望東尼って人の名前が由来です。多分。もしかしたら、春風(←高杉晋作の名)に改名するorほかの場所に出没するかもしれません
期末テスト症候群…心理学的にいえば"逃避"に陥って、小説を書こうと思いやり始めました。ツッコミは心の中のみでお願いします^^
書くの久しぶりで、しかも元から文章力皆無人間なので、いっやー、ちゃんと書けるかなあとか不安ありつつ((オイ
頑張ってちまちま(←)書きたいと思います!
◆Attention
※注意※
・荒らし、悪口等厳禁。宣伝OKです^^いつ見に行くかは分かりませんが汗
・コメントへの返信、小説の更新不定期です。
・誤字・脱字、文章等いろいろおかし(←この場合の"おかし"は"趣深い"ではなく"変"という意味でつかわれています)。ツッコミ大歓迎ヽ(*´∀`*)ノ
・ジャンルはファタジー 一直線(笑)だと思いますけどねえ…(^^ゞ
・グロイのかなあ。怖い話苦手なんでそうでもないと思うけど一応流血表現あり(汗
◆Component
題名:Veronica(ウェロニカ)
作者:朔(もと)
ジャンル:ファンタジー・バトル、 "ツッコミ箇所満載"紀伝体ドラマ。
成分:ツッコミ箇所満載、多少流血表現あり、登場人物がKY、誤字・脱字・文章が基本オカシイ、Not神文
使用方法:ツッコミを入れながら読んでください。「お気に入りに登録しました」や「応援してます」などのコメントが入ると狂喜します。勿論、ツッコミ大歓迎。
2012年度冬の大会にてシリダク銀賞を受賞。本当に感謝感謝の大嵐。
製造日時:2010.11.30
◆Contents
*本編*
登場人物 >>4 (一覧編>>220※ネタバレ有)
まとめぺえじ>>219
歌 >>85(楓様に作っていただいた歌詞です)
Main↓
◇序:recitativo >>3
◇Oz.1: Blast-竜と少年の協奏曲- >>285
◇Oz.2: Norn-運命の女神と混乱の関係- >>286
◇Oz.3: GrandSlam-錫杖、両刃、骨牌の独り勝ち- >>287
◇Oz.4: Obsession-戦意喪失-
・Part1>>57 ・Part2>>58 ・Part3>>62 ・Part4>>64 ・Part5>>68
◇Oz.5: Potholing- 一樹の陰一河の流れも他生の縁-
・Part1>>73 ・Part2>>75 ・Part3>>77 ・Part4>>79 ・Patr5>>84
◇Oz.6: Hallelujah-神様っているのかなあ-
・Part1>>90 ・Part2>>93
◇Oz.7: Engulf-風に櫛(くしけず)り雨に沐(かみあら)う-
・Part1>>94 ・Part2>>104 ・Patr3>>105
◇Oz.8: Sign-夜想曲(ノクターン)に誘われて-
・Part1>>111 ・Part2>>114 ・Part3>>119 ・Part4>>120
◇Oz.9:Nighter-眠れない夜に-
・Part1>>128 ・Part2>>131
◇Oz.10:Howling-母と子(Frigg)、忘れ路-
・Part1>>133 ・Part2>>134 ・Part3>>136
◇Oz.11:Howling-母(Tiamat)と子、追憶-
・Paet1>>141 ・Part2>>145 ・Part3>>146 ・Part4>>148 ・Part5>>154 ・Part6>>161 ・Part7>>162
◇Oz.12:Tagesanbruch-黎明-
・Part1>>164 ・Part2>>165 ・Part3>>170 ・Part4>>174 ・Part5>>189
◇Oz.13・Part1>>198 ・Part2>>210 ・Part3>>218 ・Part4>>223 ・Part5>>226
◇Oz.14・Part1>>228 ・Part2>>234 ・Part3>>237
◇Oz.15・Part1>>247 ・Part2>>248 ・Part3>>249 ・Part5>>250 ・Part6>>251 ・Part7>>252
◇Oz.16・Part1>>257 ・Part2>>270 ・Part3>>275 ・Part4>>282 ・Part5>>288
◇Oz.17 >>305
◇Oz.18 >>340
◇Oz.19 >>340
◇Oz.20 >>352
◆外伝>>235
作品を十字以内に簡潔に紹介しなさい。↓
『た た か う は な し』!どうだ!!
※参考
広辞苑、ジーニアス英和辞典、ブリタニカ、マイペディア、ウィキペディア等から抜粋。そして、相棒・電子辞書有難う、!!
◆お客様
*葵那 *Neon様 *夏目様 *ラーズグリーズ様 * 玖炉 *雪ん子様 *月夜の救世主様 *ささめ *緑紫様 *楓様 *舞阪 肇様 *ひふみん様 *千臥様 *ち せ(´・・).様 *風様 *X4様 *Vermilion様 *紅蓮の流星様 *Ghost様 *夢姫様
◆連絡
敵陣営 葵那>>96 Neon様>>99 月夜の救世主様>>107 玖炉>>112・>>181 舞阪 肇様>>150 ひふみん様>>151 千臥様>>168
大切に使わせて頂きます^^
◆戯言
小説大会銀賞受賞…だ、と!?
放置プレイ上等小説に投票有難うございました!
本当に感謝感謝感謝感謝の嵐です!
おこがましいですが、これからも宜しく頂けると幸いです<(_ _)>
あと諸連絡(?)ですが、Ghost様に外伝小説を書いていただくことになりました!本当に有難うございます。
人とのつながりって本当大切なんだなあ…
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- Re: Veronica ( No.54 )
- 日時: 2010/12/11 20:46
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: Veronica,Where are you now?
>>52 玖炉様
メルが隣で叫びながら歓んでますよーw
でも、結構大変かも。変に借金つけられたり…((オイ
本当気楽が一番ですよねー。ウソ!?そうなんですか?
文才なんてもう最初から底見えてますよー。そんなそんな汗
リュミちゃんが大活躍!実は最後にメリッサと…あ、ネタバレなのでいえませんッ
大丈夫ですか!?気を付けてくださいね!
クリスマスですか!過去の話とかになるかもしれませんが、良いですか?出来るだけ早めに書きますが、いつになるか分かりませんっ<m(__)m>
コメありがとうございました(*^^*)
- Re: Veronica ( No.55 )
- 日時: 2010/12/11 21:37
- 名前: 雅 ◆2WetyLTYZk (ID: 7hV223vQ)
ひ、ひょっと出のあの子がそんなに出世するだなんて…!
ああああんな子でよければ、是非ともお使ってやってください!願いします!(どこの親かw)
しかもリクまでしちゃっていいんですか!!
か、感涙が止まらんとです(ノAд`。)
本当ありがとうございます
んー…そうですね、一度ポチ目線の話が見て見たいです。
ポチから見た世界と言うか、仲間と言うか…。
今年もインフル流行るみたいなので、朔様もお体気を付けて下さいね!
ではまた来ますね〜ノシ
- Re: Veronica ( No.56 )
- 日時: 2010/12/12 10:34
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: Veronica,Where are you now?
>>55 雅様
いえいえいえいえ^^ありがたく使わせて頂きます!
ポチ目線の話ですね〜。すさまじい事になりそうです(笑)リク有難うございました^^
受験生ですから、本当気を付けてくださいね!去年は確か予防接種三回やったかな…。でも今年は一回でいいそうですし
またの来店(?)をお待ちしてます^^そちらにも遊びに行きますね〜
- Re: Veronica ( No.57 )
- 日時: 2011/01/17 21:57
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: Veronica,Where are you now?
————誰の声だろう。聞いたことの無い、男の声だ。少し高めの、若い声……。
『———まだ、寝てるのかい?』
白く霞んでいて、景色がよく分からない。どうやら、男の言葉は僕に向けられているらしい。僅かに、翡翠のような硝子玉二つだけを僕の目は捉えた。
『君は、———だろう?———で、———の………』
言葉が掻き消されて、耳が全てを捉えられない。何だ……?
『早く、気付いて』
長い、黄金の流れが輝いた。靄が消え、だんだんと姿が———顔が見えてくる。
———————僕?
僕の体に、勢いよく風が吹き付けられ、そして何故か視界が暗闇に覆われた。
世界が反転する——————
暫くして、視界に僅かに光が差し込んできた。
「あ!気が付いたみたい!!」
白の長髪を靡かせ、黒曜石の瞳を輝かせた童顔が、目覚めたフリッグの眼前にあった。
<Oz.4: Obsession-戦意喪失->
「メルおねえちゃん、レイスおにいちゃん!
金髪のおにいちゃん起きたよ!!」
フリッグの目覚めを確認した、幼い少女が飛び回りながら部屋を出ていった。
フリッグは呆然とする。見覚えの無い部屋だ。古い木の板の床と壁の部屋に、動くと非常に軋む、白く安っぽいシーツと布団と枕のベッド、あと小さな木製の机だけが置かれた素朴な部屋だった。フリッグの真横に大きな窓が一つ、色褪せた桃色の下地に桜の模様が描かれたカーテンで隠されている。フリッグは起き上がり、カーテンを開けた。眩しい光が差し込む。
彼の耳にはヘッドフォンが無かったが、今までとは違って無くても平常で居られるくらいの静けさだった。
飛んできたポチが、そっとフリッグに耳当てを渡した。彼はそれを受け取り、耳に当てる。ヘッドフォンを付けていた音楽機器も恐らく置いてきたのだろう。暫くは何かで代用した方が良さそうだ。取り合えず、新しくヘッドフォンを買うまではこの耳当てで代用することにフリッグは決めた。
ドタドタと、複数の人間が走ってくる音がし、バンッと扉が乱暴に開けられた。
「フリッグ、起きたって!?」メリッサはフリッグに歩みよるやいなや、彼の首根っこをつかんで揺さぶった。「生きてたんだね————ーっ!!良かったぁあーー!」
号泣するくらいの勢いである。少年に喋る暇など与えなかった。
「フリッグ……と言った…な?」
「アンタ誰」
歩み寄ってきた黒髪のアンバー種に容赦ない言葉を浴びさせた。が、相手は表情を一切変えていない。
「俺はレイス・レイヴェント。メリッサに雇われた」
レイスはぺこりとお辞儀した。フリッグは不貞腐れた表情で、軽く舌打ちする。どうも、機嫌が悪い。
「そこのちっこいのは」
少年がレイスの後ろにいる、膝までの白髪の少女を指差した。
「リュ———リュミにはちっこいのじゃなくて、ちゃんとリュミエール・オプスキュリテって名前があるの……!」
ぱっつんの前髪を振い、黒曜石のような漆黒の瞳を涙で潤ませた、リュミエールと名乗った少女はフリッグに向かって走り寄り、拳骨にした拳でぽかぽかとフリッグの腹を殴った。力が無いため、全く痛くない。
「なんか、ウチらを助けてくれた子みたいなんだよね。なー、リュミ」
メリッサがリュミエールの頭にポンと手を乗せると、リュミエールは手を止め、メリッサの胸に顔をうずめた。躰が小刻みに揺れているのを見ると、どうやら泣いているらしい。
「———何があった?」
ぎらつかせた瞳を、三人に向けたフリッグの声はいつもよりはるかに暗く、低かった。リュミエールの背中をさすりながら、琥珀をしっかと向け、メリッサは答える。
「アンタが、ジェームズ・ノットマンに殺されかけてたのを、アタシとレイスが助けた……。
でも、逃げる途中でポチ…?が負傷して、森ん中に落っこちたってワケ。それで、倒れてたのを通りすがったリュミが助けてくれたの」
ポチが巨大化する理由等、訊きたい事は山ほどあったメリッサだが、流石にそれは抑えた。一番けがのひどかったフリッグは、数日間眠りについていたからである。やっと目覚めた躰に無理をさせ、悪化させてはいけない。安静にさせなければ。
「———負けたの?」
少年は、窓の外に広がる蒼い空を見た。三人とは、ま逆の方を向いている。それは、頬に伝って流れる涙を見せないためだった。
「アタシが、アンタを巻き込んだ……。本来なら、アタシが悪い———関係のない、アンタを無理矢理まきこんでさ……。もう少ししたら、送ってく」
必死に謝罪するメリッサ。だが、フリッグはその言葉に首を振った。
「確かに、メルに巻き込まれたっての分かってる。でも、さ———。
あの、ジェームズ・ノットマンって奴は明らかに僕を狙ってた」
———また、ウェロニカ絡みなのだろうか。
バジリスクを放ったウェロニカ。もしかしたら、今回もあの男を刺客として自分を狙わせた———ネージュ……いや、スノウィンに帰れということなのだろうか。
「貴方……何かあったの?」
眼をくりくりとさせたリュミエールが、フリッグの顔を覗き込んだ。涙に気付いた彼女は、まずいことをしたと思い、そっと少年から離れる。
「メル———…。多分、僕とアンタが出会い、行動を共にしたのは運命だったのかもしれない。
あの男———ジェームズ・ノットマンは、僕を探してた。僕を標的としてたのは確かだ。奴と僕が出会うのは決まってたのかもしれない。だから、メルは———そんなに悪くない」
"そんなに"だけを異様に強調した言い方をし、少し笑った顔で少年は振り向いた。それに安堵したようで、メリッサも笑い返す。
「———そういえば、耳あてをしてるな。何故?」
起きた瞬間に、耳あてをし始めたフリッグに疑問を感じたようで、レイスは問いかけた。だが、フリッグが喋る前に彼はポケットから音楽機器付きのイヤホンを取り出し、そっとフリッグの手に握らせた。
「何…これ」
「大体は、メリッサから聞いている。ジェイド種なのかもしれない———と。
俺も旅をしている中でジェイド種についての話はよく出てくるから、少しは知っている。暫く使っていてくれ」
確か、メリッサと森を進んでいるときに妙に詮索してくる彼女にフリッグは自分の"音"に対する能力について話をしていた。———同行する上で話しておく必要があったからである。ヘッドフォンを着用している理由も勿論(もちろん)話していた。恐らく、それをレイスにも話したのだろう。
「———有難う」
イヤホンを耳に着けたフリッグはレイスにお辞儀した。青年もお辞儀を返した。
* * *
体がまだ少し軋んでいる。所々痛かった。起き上がる気もさせない痛みだ。いつまでも寝ているわけにはいかないので、フリッグは取り合えず立ち上がった。
———何処なのだろう。
一応、まだ帝国領だと思われる。だが、カーネリア種らしき人間は見当たらない。
「エターナル辺境の村で、マックールて言うの」
窓硝子から外を眺めているフリッグのすぐ後ろで、熱いお茶を持ってきたリュミエールが言った。
「えと……、リュミエール?」
渡されたお茶を手に持ったフリッグは童女の瞳を眺めながら自信のない様子で名を呼んだ。リュミエールはうん、と大きく首を縦に振った。
「リュミは、えっと…七歳だから———ここで生まれて、七年ずっとマックールで暮らしてるの。
おにいちゃんは、エメラルド種?リュミはねぇ、エンジェルオーラ族っていうの」
「違う。ジェイド種(仮)。
エンジェルオーラ?何その長っったい名前」
フリッグの態度は冷たい。あうー、と声を漏らし、泣きそうな顔になるリュミエールだったが、今回は堪えたようだ。
「え、エンジェルオーラ族っていうのは……ね」キョロキョロと辺りを見ながら喋る少女の様子に、フリッグは少し苛立つ。何故か、無性に苛々していた。「白色の髪の毛で、戦い嫌い〜って人と戦い大好き!って人の二つに分かれてる種族。おにいちゃん、聞いたこと無いの?」
「おにいちゃんじゃなくて、僕はフリッグだから。えっと、言ってることが分からん。
———誰か、通訳呼んでください」
右手を挙げたフリッグは、扉に向かって大声を出した。リュミエールが泣いたのは言うまでもないだろう。
だが、予想以上にリュミエールは大泣き———泣き声というよりも喚き声といった感じだ———をしていた。それを聞いたメリッサが、大急ぎで部屋に入ってきた。乱暴に開けられた扉は、人の手を借りることなくバタンという音を立てて閉まった。メリッサは一直線にリュミエールに向かい、泣き喚く童女をそっと引き寄せ、頭をなでて宥(なだ)めた。
「リュミーぃ、どうしたー?あの情緒不安定思春期真っ盛りボーイが苛めた?」
うん、とリュミエールは頷いた。その応答にメリッサも頷きながら、泣く子供を胸に埋(うず)めた。そして、子供をあやすような甘い声とは全く逆の、軽い憎しみの籠った形相で少女は眼前の少年を睨みつけた。
「———言ってることが、分からなかっただけ」
ぷい、と少年はそっぽを向く。例えるなら———兄弟喧嘩をしていたところに母親がやって来て、理由もなく上の子を叱った時の、叱られた子供の態度である。"僕の所為じゃない、そいつが勝手に泣いただけ"というオーラ全開であった。
「フリッグが、フリッグが!何か……通訳呼んでくださいって!」
———呼び捨てかい。
さっきまでは"おにいちゃん"と呼んでいたくせに、何なんだろうかこの餓鬼は。フリッグは呆れる。どうも子供は嫌いのようだ。
「分かった。あのフリッグっつー思春期少年はメル様がキッツゥーく言っておくから。な、泣くな〜リュミ〜」
背中をぽんぽんと優しく叩き、そっと彼女を連れてメリッサは外に出て行った。
その様子を見届け、一人部屋に残されたフリッグは、思いっきり右の拳で壁を一回殴った。発散する場所のない感情が、拳を媒体にぶつけられた。
Next>>58
- Re: Veronica ( No.58 )
- 日時: 2010/12/13 21:03
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
- 参照: 錆びついた 時の中に "黄身の声"を 聞く
* * *
マックールという、この村は実にのどかである。澄んだ空気!小鳥たちの囀(さえず)り!川のせせらぎ!———レイス・レイヴェントは内心物凄く感動していたが、全くの無表情で村のほぼ中心にある切り株の上に座ってた。膝にはポチがおり、その頭を撫でながら。
このマックールという集落は、エンジェルオーラ族のみで構成されている。レイスには既知のことである。白髪を持ち、戦闘を好むものと好まないものの両極端に分かれるこの種族が知られたのは、ほんの百年ほど前である。古代書などにも、僅かながら存在が語られていた割には最近になって名称がついたものである。発見数も少ないことから、少数民族だと考えられている。
このマックールという村は、ネージュのすぐ隣だ。先日ジェームズ・ノットマンと交戦した廃墟から数キロ離れているだけだが、危険な魔物と樹海に阻まれるためそうそう見つけることは出来ないようだ。エンジェルオーラ族の発見が最近なのに少し納得できる。
遠くから、リュミエールが今にも転びそうな走り方で走ってきた。スピードを緩めるタイミングに失敗したらしく、急に止めたようで転びそうになる。その躰を立ち上がったレイスがそっと受け止めた。膝のポチは彼の服にしがみ付いている。
「どうした?」
「メルおねえちゃんが、暫くレイスおにいちゃんと遊んでなさいって。フリッグと話すって言ってたの」
息を切らせながら喋るリュミエールの黒いコートが乱れていたので、青年はそっと直してあげた。
「そうか」齢(よわい)僅か七歳の少女の、絹の様な白髪をそっと撫でおろし、彼女の小さい右手を握った。「暫くの間、周囲を案内してくれないか?」
「うん!」
満面の笑みで、少女は大きく頷き、青年の手を引っ張って行った。
* * *
「何か、カリカリしてるよね。やっぱ、アタシが巻き込んだことに怒ってるワケでしょ」
部屋に戻ってきたメリッサが、扉を閉めながら言った。
「———別に」
フリッグはそっぽを向いた。
「怒ってる———よなぁ……。死にかけたんだし」
「別に怒ってなんか」
メリッサに反論しようと、激しく躰を動かした瞬間、フリッグの頭に激痛が走った。激しい頭痛が、何の予兆もなくやってきたのだ。頭の中で、見たこともない映像が流れ始めたので、蜘蛛膜下出血では無いようだ。
———また?
フリッグの脳裏に、またあの金髪の男が現れる。同じ様に微笑んでいる。
「誰だよ!!!?」
フリッグは男に叫んだつもりだったが、メリッサには誰に向けられたものか分からない。何も言葉が出ず、呆然と立ち尽くす。
「フリッグ——————どした?」
だがメリッサの声は、フリッグには聞こえていなかった。フリッグの意識は別次元にある様なのだ。
『フリッグ?それが、"今"の名前?』
男がフリッグに訊いてきた。
———"今"…の、名前………?
「な、何だよ!!
誰だよお前ッッッ!!!!!」
なんと表せば良いのだろう———怒りの籠った少年の声が、大きく響いた。だが、フリッグの問い掛けに答える前に男は消え、フリッグの意識は現実に戻った。
「———メル」
然り気無く逃げようとしていたメリッサのことを呼んだ。仕方なく、彼女はフリッグの前に進む。
「何?」
そっけない言い方だったが、フリッグの身を心配しているメリッサの表情は少し険しかった。自分がトラブルメーカーというのは十分自負している。———だから、今回その性格所以、少年を危険な目に遭わせてしまったという自責の念が込み上げて来ていた。笑顔を繕っても、笑顔に見えないだろう。
「———僕、何だかジェームズと戦ってからよくわからない。
会ったばっかりだけど、この気持ちは———多分、君ぐらいにしか吐き出せない。メル……頭の中に、僕そっくりの男が現れるんだよ。僕より年上だけど———多分僕。
記憶が、混乱してる。———どうすれば良い?」
脆かった。
今までメリッサが見た、フリッグの中で一番弱くて、脆く見えた瞬間だった。
無愛想な面構えの少年の顔には、不安だけが募っているようだった。———誰にも吐き出せない、自分も如何すれば良いのか分からない。少年の存在自体が、悲鳴をあげ、助けを求めていた。
「———何か、関係……とか、心当たりでもあるの?」
少女の琥珀の瞳が、小刻みに震える少年を優しく包み込んだ。フリッグには、その瞳から放たれる光が陽だまりの様に思え、つい気を緩めてしまい、ため込んでいた涙が両目から少しずつ溢れ出た。
少年の口が、震えながら言葉を紡いだ。
「———あの時、頭の中に流れた映像……。
僕によく似た人間が、———あの廃墟に立ってた。
状況からして、多分その人があそこを滅ぼしたんだと……思う」
"貴様は何も覚えていないのか?"
ジェームズ・ノットマンの台詞がフリッグの記憶から思い出された。
「僕には、幼馴染が居て———ウェロニカっていう、ラズリ種の女の子。孤児(みなしご)だった僕にも、隔てなく接してくれた、幼馴染の子。皆にも人気で、さ———"ウェル"って呼ばれてた。」
フリッグは、虚空を見ながら語り始めた。メリッサは静かに彼を見て聞いている。———彼は、昔話を彼女に全く話していなかったのだ。
「三年前にね、いつも通り遊んでたら……。
そのころは僕、体弱くて、体力なくてさ。走ってくウェルを必死に追いかけてた。ウェルは先で止まって、僕を笑顔で眺めながらずっと来るのを待ってる。それが日常だったんだよ。住んでたスノウィンの家のちょっと離れたところに、遺跡みたいなのがあって。そこまで遊びに行くのが日課だった。
でも、その日は違った。———ウェルが眼の前で死んだ」
「———それから、どうしたの」
メリッサの問いかけに、フリッグは苦笑いを浮かべながら答えた。
「見知らぬ"オジサン"がやって来て、ソイツがウェルに触れたらウェルが生き返って———それでどっか行っちゃったよ。
夢だって思ってた。ウェルの家族も、兄貴しか残ってなかったから、葬式みたいなのは挙げなかったし、そもそも家出人扱いで終わったから。
自責の念がありながらも、ただただ過ごしてたけど、ついこの間、その兄貴———帝国で働いてる奴から手紙が来て、帝国に行ったらウェルと再会して———。
でも、ウェルは敵みたいでさ……。まるで、僕には関わるなって感じで。
だから、ジェームズ・ノットマンも最初は刺客か何かだと思ってた。でも、アイツ、僕に『貴様は何も覚えていないのか?』って言ったところから、多分違う理由。過去に面識があったのかもしれない」
俯きながら少年は口だけを動かしていた。淡々と、淡々と———まるで無言で部品の組み立て作業でもしているように。
「十五年前までさ、永雪戦争が続いてたじゃん」
語り終わったフリッグに続き、メリッサは声を発した。彼女の言葉にフリッグは首を縦に振った。
「僕は、スノウィンに居たけど小さすぎて良く知らない。でも、ウェルの兄貴のウェス———ウェスウィウスって奴は覚えてるって」
少年の脳裏に、一瞬白金の青年の姿が現れる。そうそう、アイツにとっては故郷同士の戦争だったよな———。
「ジェームズ・ノットマンは、エターナルとネージュの国境———即ち、スノウィンのちょうど隣にあったセルジュ村出身にして、唯一の生き残り」
表情も変えずに、淡々と喋るメリッサの言葉に思わずフリッグは眼を丸くした。———唯一の生き残りという言葉に、特に驚きを隠せなかった。
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