ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!!
日時: 2012/01/15 17:20
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/

投票有難うございました!銀賞感謝!!謝辞>>347
記念ということで人気投票やっています。>>350



Veronica(ウェロニカ)
*1世紀ごろエルサレムで活動したキリスト教の伝説上の聖女。ゴルゴタに向かうイエスの血と汗にまみれた顔を拭いたという伝説的聖女。

クリック有難うございます(*´∀`*)ノ
(※小説データベースから来た方はまずこちらへ→>>48
初めまして!
の人が殆どだと思います^^;
過去(といってももう四年くらい経つかも)に"燈(アカリ)"という別名で小説を書いていたものです(笑)

気を取りなおしまして、
初めまして!朔(モト)と申します。
某ゲームキャラじゃなくて、野村望東尼って人の名前が由来です。多分。もしかしたら、春風(←高杉晋作の名)に改名するorほかの場所に出没するかもしれません
期末テスト症候群…心理学的にいえば"逃避"に陥って、小説を書こうと思いやり始めました。ツッコミは心の中のみでお願いします^^
書くの久しぶりで、しかも元から文章力皆無人間なので、いっやー、ちゃんと書けるかなあとか不安ありつつ((オイ
頑張ってちまちま(←)書きたいと思います!

◆Attention
※注意※
・荒らし、悪口等厳禁。宣伝OKです^^いつ見に行くかは分かりませんが汗
・コメントへの返信、小説の更新不定期です。
・誤字・脱字、文章等いろいろおかし(←この場合の"おかし"は"趣深い"ではなく"変"という意味でつかわれています)。ツッコミ大歓迎ヽ(*´∀`*)ノ
・ジャンルはファタジー 一直線(笑)だと思いますけどねえ…(^^ゞ
・グロイのかなあ。怖い話苦手なんでそうでもないと思うけど一応流血表現あり(汗
◆Component
題名:Veronica(ウェロニカ)
作者:朔(もと)
ジャンル:ファンタジー・バトル、 "ツッコミ箇所満載"紀伝体ドラマ。
成分:ツッコミ箇所満載、多少流血表現あり、登場人物がKY、誤字・脱字・文章が基本オカシイ、Not神文
使用方法:ツッコミを入れながら読んでください。「お気に入りに登録しました」や「応援してます」などのコメントが入ると狂喜します。勿論、ツッコミ大歓迎。
2012年度冬の大会にてシリダク銀賞を受賞。本当に感謝感謝の大嵐。
製造日時:2010.11.30

◆Contents
*本編*
登場人物 >>4 (一覧編>>220※ネタバレ有)
まとめぺえじ>>219
歌 >>85(楓様に作っていただいた歌詞です)
Main↓
◇序:recitativo >>3
◇Oz.1: Blast-竜と少年の協奏曲コンチェルト- >>285
◇Oz.2: Norn-運命の女神と混乱の関係- >>286
◇Oz.3: GrandSlam-錫杖、両刃、骨牌の独り勝ち- >>287
◇Oz.4: Obsession-戦意喪失-
・Part1>>57 ・Part2>>58 ・Part3>>62 ・Part4>>64 ・Part5>>68
◇Oz.5: Potholing- 一樹の陰一河の流れも他生の縁-
・Part1>>73 ・Part2>>75 ・Part3>>77 ・Part4>>79 ・Patr5>>84
◇Oz.6: Hallelujah-神様っているのかなあ-
・Part1>>90 ・Part2>>93
◇Oz.7: Engulf-風に櫛(くしけず)り雨に沐(かみあら)う-
・Part1>>94 ・Part2>>104 ・Patr3>>105
◇Oz.8: Sign-夜想曲(ノクターン)に誘われて-
・Part1>>111 ・Part2>>114 ・Part3>>119 ・Part4>>120
◇Oz.9:Nighter-眠れない夜に-
・Part1>>128 ・Part2>>131
◇Oz.10:Howling-母と子(Frigg)、忘れ路-
・Part1>>133 ・Part2>>134 ・Part3>>136
◇Oz.11:Howling-母(Tiamat)と子、追憶-
・Paet1>>141 ・Part2>>145 ・Part3>>146 ・Part4>>148 ・Part5>>154 ・Part6>>161 ・Part7>>162
◇Oz.12:Tagesanbruch-黎明-
・Part1>>164 ・Part2>>165 ・Part3>>170 ・Part4>>174 ・Part5>>189
◇Oz.13・Part1>>198 ・Part2>>210 ・Part3>>218 ・Part4>>223 ・Part5>>226 
◇Oz.14・Part1>>228 ・Part2>>234 ・Part3>>237
◇Oz.15・Part1>>247 ・Part2>>248 ・Part3>>249 ・Part5>>250 ・Part6>>251 ・Part7>>252
◇Oz.16・Part1>>257 ・Part2>>270 ・Part3>>275 ・Part4>>282 ・Part5>>288
◇Oz.17 >>305
◇Oz.18 >>340
◇Oz.19 >>340
◇Oz.20 >>352
◆外伝>>235
作品を十字以内に簡潔に紹介しなさい。↓
『た た か う は な し』!どうだ!!
※参考
広辞苑、ジーニアス英和辞典、ブリタニカ、マイペディア、ウィキペディア等から抜粋。そして、相棒・電子辞書有難う、!!

◆お客様
*葵那 *Neon様 *夏目様 *ラーズグリーズ様 * 玖炉 *雪ん子様 *月夜の救世主様 *ささめ *緑紫様 *楓様 *舞阪 肇様 *ひふみん様 *千臥様 *ち せ(´・・).様 *風様 *X4様 *Vermilion様 *紅蓮の流星様 *Ghost様 *夢姫様

◆連絡
敵陣営 葵那>>96 Neon様>>99 月夜の救世主様>>107 玖炉>>112>>181 舞阪 肇様>>150 ひふみん様>>151 千臥様>>168
大切に使わせて頂きます^^

◆戯言
小説大会銀賞受賞…だ、と!?
放置プレイ上等小説に投票有難うございました!
本当に感謝感謝感謝感謝の嵐です!
おこがましいですが、これからも宜しく頂けると幸いです<(_ _)>
あと諸連絡(?)ですが、Ghost様に外伝小説を書いていただくことになりました!本当に有難うございます。
人とのつながりって本当大切なんだなあ…

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Re: 【Veronica】 雪国コンビついに登場?致しました汗 ( No.249 )
日時: 2011/04/24 18:53
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
参照: 新学期意外な多忙さにもたねえ…。

「起きたんだ」

凍てつくような、冷たい言葉が投げ掛けられる。雪のように白い肌、灰の髪、そしてアンバー種独特の琥珀玉がボサボサの髪から覗いている。同じ性別、種族のメリッサとは対極的な雰囲気だ。———メリッサが太陽なら彼女は月のよう。年齢はあまりフリッグと変わらないくらいだろうが、大人びて見えた。手には湯気が立っているシチューがあった。

「良かったね、生きていて」少女はそう言いながらフリッグの手から冷めたシチューを取り、代わりに暖かいシチューを渡した。「冷めてたでしょ?はい、暖かいの」
「あ、ありがと」

渡されたシチューの暖かさがフリッグの冷えた手に広がっていく。少年の食べる姿を見ながら少女は訊いた。
「君は、何処の人?」
口に放り込んだ肉を噛みくだき、飲み込んでから答える。
「生まれ育ちはスノウィン」
「ここはネージュ王国最北端。そんな辺境に、君は何か用でもあったの」
「いや———……」
フリッグはどもる。
「服装からして、あり得ないよ?そんな軽装で雪国ネージュの最北端、即ち大陸、世界最北端の極寒の地に来るなんて気狂きちがい以外考えられないから」
少女の攻め。流れ的に彼女に助けられたのは明らかになっていた。命の恩人には返しきれない恩が生まれる。

正直に言うべきだろうが、
「貴女が、助けてくれたんですか?」
という会話を逸らすような言葉がフリッグの口から漏れていた。

「ほっておけば死ぬと思ったから……。あと、私はユールヒェン・エトワール。長いからユーで良いよ」少女は軽く自己紹介した。「で、何で?」
人当たり良く話しかけてきてくれる気がするのだが、非常に取っ付きにくかった。取っつく難さはフリッグもあったのだが、彼女程話す量は多くない。

「どうして」
ユールヒェンは斬り込む。氷で作られた刃のような言葉の刃先が、突き付けられている気がしてならなかった。
「スノウィンに向かう途中、謎のヤンキーに襲われて、ここに送られた感じで」
かなりアバウトな説明だった。しかし、正直な話、フリッグ自身も状況理解出来ていない状態だったのだ。言い終わった後で名を名乗っていないことに気付いた。
「へえ」
アンバー種は髪を弄りながら小さく声を漏らした。納得と疑いの割合が掴めない。取り合えず食べ終えたシチューの、空になった皿を置き、ジェイド種の少年はリュックサックとヘッドフォンを探り始めた。長居はしていられないからだ。


 案外近くにあった二つを装着。布団を整え、立ち上がった。マットと地面の境目にある靴に手を伸ばす。ユールヒェンは静かに見ていた。ふと何かを思ったのか、彼女は口を開く。
「エメラルド種か何か?珍しいね」
風貌を見ていて思ったのだろう。

 ———確かにネージュでは珍しかった。と、いうかネージュという大国は主に二つの種族でしか形成されてないからだ。このネージュ王国という北に聳(そび)える大国の大半を占めるのが、蒼透石の眼を持つラピス種という種族だった。この国の人口のおよそ七割と言っても過言ではない。残り二割を同じ血統を持つラズリ種が占め、残りの一割はその他の種族が占めていた。ラズリ種自体数は少なく、最近発見されたばかりのエンジェルオーラ族と張り合っても良いものだという。

彼女の様なアンバー種は基本的に世界中に広まっている種族だ。なので、大して不自然ではなかった。どの国にもアンバー種が居るくらいなのだ。しかし、大半の種族は住む場が固定されている。だからエメラルド種のような種族が此処にいるのには違和感を感じたのだろう。

 しかし、フリッグはエメラルド種では無く、ジェイド種だ。知っている人は少ない———という以前に滅びている古代の種族だ。
「違うよ」靴紐を締め終えた彼は振り向いた。「僕はジェイド種だ」
「そう」
案外素っ気ない。少しばかりつまらなかった。これがメリッサやその周囲の人間なら声を上げて驚いていたものを。
「案外素っ気ないね」
残念そうに少年は言った。ユールヒェンは軽く欠伸をしてから真っすぐと彼に視線を返す。
「別に珍しい種族なんてそこらじゅうに居るもの。
それに、君は早く此処を出て行った方が良いよ。……と言っても、もう出ていくみたいだけど」
「介抱してくれて、有難う。僕も僕で、親類や仲間を置いてきてるんだ。申し訳ないけど、出ていくよ」
言ったフリッグの脳裏にウェスウィウスやメリッサ、フォルセティにティアマットの顔が浮かび上がる。ウェスにはスノウィンに良い思い出は無かった。だから、彼一人帰郷させるのは流石にフリッグでも気が引けたのだ。


 フリッグが立ち上がったその時だった。轟音が轟き、"家"全体が激しく揺れる!床に置かれたシチューの受け皿とスプーンが音を奏でる。棚等の家具が軋んだ音を立てている。
「———なあ!?」
揺れに対応できなかった少年の躰が地面に倒れた。大きく尻もちをついた彼の元に素早くユールヒェンが駆け寄り、彼の両肩を支える。そして呟いた。
「また、始まった……!」
「一体何が、何だか!」
おさまらない揺れの中、フリッグは完全に混乱していた。状況が全く理解できない。ウェロニカと再会してかたこのようなことばかりだった。混乱する少年の肩を支えながら、少女は壁に立てかけてあった大きな狙撃銃に手を伸ばす。手が触れ、其れを自身に引き寄せた。
「もう少し早ければ逃げれたのに、ね」
フリッグの躰を掴んだまま、少女は部屋の奥に進む。クローゼットらしき木製家具の中からくすんだ白のロングコートや防寒帽子を引き出した。素早く装着してから、奥に置いてある散弾銃を取り、肩に提げる。クローゼットの前に置いてある軍靴をスムーズに履いた。手に持っている狙撃銃も肩に掛ける。
「説明を求めても良い!?」
少女に連れられたままの少年は小さく挙手した。ユールヒェンは足早に彼を掴みながら、洞窟の出入り口を目指している。翳(かげ)った琥珀の眼を、出入り口から差し込む僅かな光に向けながらアンバー種は呟くように言う。


「私はアンバー種、呪われた血筋」
その言葉を聞いたフリッグは思わず反論したくなったが、止めた。そんな暇は無いと思ったのだ。———メリッサやレイスと二人のアンバー種に会ってきた。が、彼らは決して血筋に囚われることなく生きていた。
自分の運命を受け入れ、其れを主張して生きている。そんなの全く他の種族と変わらない生き方、いや下手をすれば自分たちよりもよっぽど崇高に生きている。太古から迫害の歴史を持った流民の彼らを"呪われた血筋"というのは個人的に許せない。しかし、これもメリッサとの出会いが無ければ思わなかったことなのだろう。

 アンバー種は本当に崇高な種族だろう。同じように迫害の歴史を持っていたダイヤモンド種は迫害の中で絶対神エンリルに対する狂信的な信仰心と選民思想を抱いている。エンリルを信じていれば、最終的に救われるといった考えなのだ。同じような選民思想を抱いてもおかしくない程の歴史を持っている筈のアンバー種は不思議と抱いていなかった。———"神"等と言う目に見えない物を思想に持ちたくないというものがあったのだ。だから彼らは常に「自分の眼で見」、「自分の耳で聞き」、「自分で決断を下して生きている」。そんな生き方を出来るような自信は、少年には無い。


 フリッグの思考に構わず少女は続ける。
「特定の国を持たないアンバーはスパイ容疑をかけられやすいの———戦時中は特にね」
「戦時中……?其れは一体——————」
フリッグが声をはねあげたと同時に大きな轟音が鳴動した。


>>

Re: 【Veronica】 雪国コンビついに登場?致しました汗 ( No.250 )
日時: 2011/04/26 20:34
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: 新学期意外な多忙さにもたねえ…。

* * *


 深夜。ダブルベッドから起き上がった人影は手探りで眼鏡を見つけ、掛けた。空いた右手でランプを点け、左手で床に置かれたパソコンを拾い上げる。灯りに照らされ、男の艶やかな橙の髪と瞳が映える。そのまま膝に置いて起動。寝台に座りながらノートパソコンを弄り始めた。


「何をしてるの?」
「おや、起こしてしまったかい?」

パソコンの起動音で目を覚ましたらしい女は目を擦りながら上体を起こした。シーツを胸元まで引き上げる。男と酷似した顔立ちに、同じ橙色の瞳と髪。橙の流れは男より遥かに長く、シーツの白い海に色を映していた。男は微笑を浮かべた。
「『近親相姦』について調べていたんだよ」
右手で眼鏡をくいと押し上げ、左手でパソコンを閉じた。よく似た女は男の裸の肩に頭を乗せる。男は左手で女の橙の流れを弄り始めた。
「あら、珍し」
「最近、"彼"に会ったものでね」
「そういえば、彼の父母は異母兄妹だったわね」
女は鼻で笑い、男の手に自身の手を重ねる。男はそっと女を懐に引き寄せた。女は訊く。
「で、どう?何かあったの」
女の橙の河川を軽く甘噛みする。

「近親相姦によってもうけられた子供は遺伝子の異常を来しやすい。長くは生きられないようだ。———つまり、"彼"もそういうことになるみたいだね。アースガルズ王家の正妻の息子と愛人の娘の間の子供だろう?帝胤(※帝王の血統)を受け継ぎすぎているのさ」
「アースガルド王国では、インセストタブー———即ち近親間の性交渉の禁止或いは抑制があるものね。犯した場合は単に違反者に危険が及ぶだけじゃなくて、神の怒りを買い、社会全体が混沌に陥るとも信じられてる。それはエンリル神を絶対信仰するダイヤモンド種や祈り子アクアマリン種も同じね。
だから、アースガルドやダイヤモンド種、アクアマリン種の人間達は違反者に対して追放や処刑など、制裁を加える例が屡々しばしば見いだされるわ。
だからアースガルド王国も次期国王候補のバルドルと、ナンナの関係を曖昧にしていた」

二卵性双生児の男女はお互い饒舌に喋っていた。
「よって"彼"も存在自体闇に葬られて生きている訳だ。これは、ホズによる王族狩りから逃げられると読んだバルドルが勝ちだねえ」
そう言って男は眼鏡を外し、ランプの下に置いた。女を抱き寄せ、彼女の躰に絡み付く。女は笑う。
「さあ、どうかしら。お馬鹿さんのホズのことよ。読みが無くても探せられなかったんじゃないのォ?」
よく似た顔に女の細い指が触れた。熱い吐息が紅の唇から漏れる。
「さてね。私には分からないよフレイヤ。
———ファウストの思惑の成功率も、ね」
「そうそう。フレイ———貴方マーリンらと接触したみたいだけど、何を考えてるの?」アゲート種の男の言葉を聞いた女は彼を睨み付けた。「まさか、裏切る気ではないでしょうね」
彼は苦笑した。女の胸に顔を埋め、
「まさか」
と声を漏らした。

呆れ顔で女は返す。橙の短髪が胸部に触れていた。
「あの男の借りを忘れないでよね。———十二神将として私達が成り立っているのを。
もとは一人の肉体である我々を」
「【豊穣】ヴァナヘイムだろう?」自嘲染みた笑みを浮かべる瑪瑙の双眸。「……ふ、これではバルドルらを笑えないね」
状況が語っていた。同じことを考えていたらしく、女も男と同じ表情を浮かべた。


「楽しいじゃないの。
腐った世界での禁忌タブーなんて」


* * *

 雪道に足跡と言う名の道を刻んでいく。先程まであった吹雪は消え去っていた。それに安堵したウェスウィウスは口元を緩める。
「吹雪は収まったし、そろそろ到着だな。まだ俺ん家残ってれば良いんだけどよー……」
青年の言葉を聞いたメリッサは爆笑。頭上に竜を乗せて遊びながら、ウェスウィウスを見て喋る。所々に笑いが含まれていた。
「『家残ってれば』って、どんな冗談?マイケル・ジョーダン?フリッグと居て、なんで家が無くなるのさ〜」
「色々あんだよ、バーロッ」
混血の青年も笑う。

その中でフォルセティは何かを見付けたらしく、空気が読めていないと自覚しつつ割り込んだ。
「すみませ……、到着したみたいです、よ」
気まずさが彼の言葉を塞き止めている。詰まり詰まりの言葉に二人は会話を止め、目線をフォルセティの指に集中させた。少年の小さな手から生える、また短い指が前方の看板を指している。木製の朽ちた看板には、"Snowin"の消えかかった文字。


———着いちまったか……。

内心で思わず本音が出た。はっきり言って帰郷などしたくはなかった。忌まれた場に再び戻る理由など、残した唯一の家族を自分の元に取り戻す以外は無かったからだ。スノウィン村長であるバティストゥータの顔を思い返すだけでも虫酸が走る。

「うわー、寂れてる」

アンバーの少女が発した不躾な言葉に青年は現実に引き戻された。そして笑う。確かに人気があるのか無いのか分からないような静閑な場所だ。メリッサの発言もあながち間違っては居ない。しかし、スノウィンに思い込みがある人間が聞けば憤慨しそうな発言だった。

フォルセティもそう思ったのか、ウェスウィウスを気にしながらメリッサに近付き、
「駄目ですよ、そんなこと言ったら」
と囁いた。背の差があるため、少年は背伸びし少女は小さく身を屈めている。
「ホントのコト言っただけじゃん」
メリッサは唇を尖らせた。紫の目は呆れている。
「これだからアンバー種は……。そんなのだから、ミュシェヴヘルのように功績を奪われたりするんですよッ!」
フォルセティはエンジェルオーラ族発見という歴史的功績を奪われたアンバー種の流民の名を刻んだ。

メリッサの額に青筋が走る。
「へーえ、よく知ってんじゃん」
ミュシェヴヘルの話は琥珀玉の種族間でも暗黙の事実だった。いかにアンバー種が他種族から忌み嫌われているのが分かる事実である。奪ったのはカーネリア種———帝国エターナルだった。アンバー種に渡るくらいなら、功績は奪った方が良い。所詮は利用されるだけの哀れな民族なのだ。
「知識だけはありますから。———それに、太古から嫌なくらい付き合いが有りますしね。アルメニ=ミスト協定に於ける領土問題とか!」
「お、おいっ !!」
アメジスト種の少年は声を荒げた!ウェスウィウスが急いで抑止にあたるが止まらない。

「アンバー種建国派代表で協定を結んだミスト=レモンバームといい、その婿養子で王国対抗勢力ヤンターリを組織したS=ラヴァードゥーレといい、どれだけ僕らの国を荒らせば気が済むんですかッッ !?」
「だからって殺す?利用して利用して利用して利用して、最後は殺すってどゆこと !?
それが高貴なる魂を持つ王族がやることだって正当化してんのはアンタ達じゃんっ!」
メリッサが反論。南で起きている種族間の問題は、北の国で若者たかが二人の間でも勃発していた。

「———だからって!」
フォルセティが我鳴り立てたと同時に乾いた銃声。混血の軍人がよく立てる音だ。煙りはフォルセティを向いていた。思わず目を瞑っていた少年の紫紺が見開かれる。


「……外したか」
聞こえたのは男の低い声だった。聞き覚えのある音にウェスウィウスは視線をやる。立っていたのは、動物の毛皮を纏った白髪のラズリ種の老人だった。———スノウィン村長、バティストゥータが邪悪な笑みを浮かべているのだ。周囲には煙をうねらせた銃口を握る屈強な男が数名。嫌な予感にウェスウィウスは硬直した。
「しかし、どうせ撃ち殺す奴なのだから良いだろう」

 地面に人が倒れる音。子供の叫び声。倒れたのは焦茶の髪のアンバー種だった。右肩に紅い染みを作った彼女はフォルセティに笑みを向ける。
「ほーれ、借り、つくって……やった、からなー。あ、と……で返し———てもら、う……よ?」
「バッッ——— !!」
思わず憤った。メリッサはフォルセティに放たれた弾丸を察知し、自分で喰らっていた。自らを重んじている筈のアンバー種の行為には思えなかったフォルセティは怒鳴る。
「なんで助けたんですかッッッッ !?」

また銃声。今度はアメジスト種の少年を貫いていた。急所は外していたが、血が溢れ、子供は呻いた。メリッサの上に倒れ込む。残ったティアマットがウェスウィウスに憤怒の焔を宿した目を向けていた。ウェスウィウスの深紅と紺碧の目にも火が宿る。
「テンメェェェエエェェッッッッッ」
ホルダーから銀の筒を取り出し、リボルバーを握る。安全装置を外し、狙いを定めた。咆哮と共に引き金を引くっ!

 が、銃弾は届くことなく終わった。スノウィン住民の真ん前まで行ったところで何かの壁に阻まれた。音を立てて落ち、雪に埋もれる。
「なあ !?」
信じられない光景に声を出したウェスウィウスの下腹部に強い衝撃。踞り、呻いた彼の頭が上から押さえ付けられた。そのまま地面に押し付けられる。

ラズリ種のバティストゥータは冷酷に見下していた。ウェスウィウスは紅耀珠と瑠璃の眼を血走らせ、睨む。

「連れていけ。残りは放置だ。
いずれ死ぬさ」
バティストゥータの冷酷な命令に男たちは静かに頷き、ウェスウィウスの四肢を固定した。足掻く青年の口腔に布が突っ込まれる。竜は羽ばたき、阻止したが羽を撃ち抜かれた。

 残酷に、凍てつくような風が吹き抜けていた……。


>>

Re: 【Veronica】Oz.15更新完了。 ( No.251 )
日時: 2011/04/28 22:21
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: 風邪引きました←

* * *

 妙に地面が冷たい。雪とは違う感触で、しっとりとした感じの雪とは違いごつごつした感じだった。右肩付近が痛む。其処にそっと左手を当てた。そのまま起き上がる。焦げ茶の髪が乱れていた。
「っ———……」
何が起きたのかは理解出来なかった。というか、したくも無い気がした。しかし、しなければならないのだろう。仕方なく状況把握を始める。

 前方には萌黄色の服を着た、栗毛の少年が血を流して倒れている。メリッサは駆け寄って彼の躰を揺すった。呻き声ぐらいは聞こえてほしかったのだがそれすらする気配が無い。
「おい、フォルセティ!情緒不安定二時成長真っ只中少年!ガキンチョ!!」
返事は無かった。先程より強く揺する。が、動く気配すら見せない。取り敢えず、自分の頭に巻いている漆黒のリボンを解き、フォルセティの肩に結ぶ。一旦止血だ。きつく縛った。……これでも目覚めない。仕方ないと思ったメリッサは少年の小さな体躯を担いだ。其処で、萌黄色の服の間に包まれている深緑の鱗に気付く。ポチ、ティアマットだった。彼女は何も言わずに羽を気にしている。銃口の穿たれた羽は出血していた。フォルセティとポチを発見、あとはウェスウィウスなのだが何処を見回してもそれらしき人間は見つからなかった。

———なんつー、面倒くさいことになってんだかッ!

痛む右肩を我慢し、少年を担いだ少女はゆっくりと一歩踏み出した。銃で撃たれた経験は殆どない。<ウルズ>で傷を塞ぐべきなのだろうが、そんな物を三人同時に使っては自分の体力が尽きてしまう。仕方なく、フォルセティとポチを優先した。失血死は免れなければならない事態だ。
「……ウル、ズ」
空けた右手から光の棒が生える。先端に三つの金輪を付けた運命聖杖ノルネンが出現。杖を地面に突き刺すと同時に淡緑色の光が溢れ始めた。それらは徐々に背中の十歳児と竜を包み込む。先程まで穿たれていた傷口だけでなく、破れた服さえも直していた。過去を意味する<ウルズ>の能力によるものである。力を使った影響で、メリッサ=ラヴァードゥーレの体力は限界を超えかけていた。しかし、倒れてしまっても仕方ない。必死に倒れそうな躰を堪え、立った状態を維持する。小刻みに痙攣している足はいつ倒れてもおかしくなかった。


「……め、り?」
「あ、おはよ」
漸く目を覚ました背中の子供は、まだ夢と現の狭間に居るようで半端な眼でメリッサを見ていた。が、直後に覚醒し、状況を瞬時に理解する。
「な———!ど、どうしたんですか !?」叫んだと同時に撃たれたはずの背中から痛みが消えていることに気付く。「ど、どうして治って……?まさか」
フォルセティが目覚めたことによる安堵で少女は微笑んだ。
「重いから降りてくんない?」
そう言われて気付いたフォルセティは「すみません」と小さく言ってから飛び降りた。解放されたメリッサが大きく伸びをする。そしてノルネンを掲げて歩みだした。後に急いで少年が続いていく。

 兎に角、ウェスウィウスを探さなければ意味はないようだ。見る限り洞窟内。スノウィンの地下なのか、それとも山間なのか分からなかった。———が、放り込まれたことに変わりは無いのだろう

 メリッサは頭上から光が差し込んでいるのに気付いた。其れを攀(よ)じ登ろうと、岩肌に手を掛ける。背後のアメジスト種の少年は、竜を抱えながら彼女を見つめていた。
「……登るんですか?」
「じゃなかったらどうすんの」
「———無駄、ですよ。そんな高さじゃ」
フォルセティの紫紺の眼には絶望があった。殆ど投げやりの状態だった。
「じゃあ、ポチにでっかくなってもらって」
竜を見たメリッサが、閃きを言う。しかし、少年は直ぐに意見を否定した。
「駄目ですよ。ティアマットじゃ大きすぎます」一呼吸置いてから言葉を紡いだ。「お互い魔力も吸い取られてるみたいですよ。……出れません」
それだけ言った少年はその場に座り込んだ。光のさしこんでいる出口らしき所まで、ざっと見十メートルはある。もしかしたらそれ以上あるのかもしれない。それを人間の手足で登るのは無茶すぎる行為だった。運命聖杖ノルネンは、どこぞの如意棒の様に「伸びろ〜!」と言って伸びるような物でもないし、フォルセティにも人を上に上昇させていくような魔法は無かった。人間が空を飛べるような魔法など、未だに存在していないのだ。地面から大樹を生やす<ユグドラシル>という技が存在するらしいのだが、伝説的なものであり、フォルセティも名前しか知らなかった。少年の頭の中で、「脱出不可能」という結論が三回出される。


 しかし、フォルセティとは対極的に少女は登り続けていた。その滑稽な様子を見ながら、言う。
「無茶ですよ」
それでもメリッサは黙々と登っていた。なのでもう一度言う。
「無茶です」
少女は受け答えなどしなかった。一度右手を岩壁から滑らせ、落ちかけるがギリギリで止まる。三回目は声を荒げた。
「無茶ですって !!」
怒鳴り声と同時にメリッサの両手が離れ、躰が大きく降下。音を立てて、少女の細い体躯は地面に激突した。これで諦めるだろうと思ってフォルセティは駆け寄る。が、メリッサは止めず、再び手を引っ掛けて登り始めたではないか!彼女の躰は小さく痙攣していた。右肩から滲んでいた血液は、先程より面積を広げている。何故か彼女は自分の肩ではなく、フォルセティの傷口を自身のリボンで止血していた。行動が不可解過ぎて、少年は理解できない。

 また手が滑った。降下。二度目の落下だ。全身を打ちつけてもまだ登ろうとする。血液が滴っていた。
「も、止めましょうよ!どうしてそんなにやるんですかッ!もう、助からないですよ!」
限界に達した少年が先程以上の声を発して怒鳴った。壁に手を付けていたメリッサは後ろに振り向き、フォルセティを琥珀の眼で真っすぐと見た。唇が言葉を奏でる。




「そんなさあ、絶望してる暇があんなら、さぁ……。———希望持とーよ」




少女の本音の言葉を聞いてフォルセティは停止する。少女は続ける。
「『駄目だ』『無理だ』『無茶だ』なんて言って何もしないんじゃ、何も進展しないじゃん。なら、そんなこと考えてる暇があるなら動けば良いんだよ。
結果がどうなるか目に見えて立って、動かないで結果を待つよりもまだ他の可能性が出てくる訳じゃん」
それからまたすぐに手が滑り、落下した。今度は頭部を強く打ちつけたらしい。一瞬ピクリとも動かない状態になったが、直ぐに立ち上がった。

 メリッサの言葉を聞いて、フォルセティはイルーシヴの言葉を思い出す。それから自分の甘さを痛感した。諦めない限り、道は続いている。自分は体育会系の人間ではないし、どちらかというとスポ根的な考えは嫌いだった。が、これはなんとなくわかる気がしていたのだ。諦めも大事だが、諦めてばかりではいけない。

 岩に掛けられた手が落ちた。躰も落ちる。立ち上がれなくなっていた。
「メリッサさん!」
フォルセティが駆け寄る。彼女の顔は蒼白になっていた。呼吸が非常に弱い。躰を支えてやった。右肩に触れていた少年の手に生温かい液体が流れている感触が走る。嫌な予感がして、手を引いて見た。紅い血が流れを作っている。

———無茶しすぎなんだよ……!

頬を叩いたり、体を揺すったりしても確かな反応が得られない。自分や竜を直したのがノルネンの<ウルズ>であるならば、体力の消耗は思っているよりも早い筈だ。其れに加え、失血もある。まずいと思ったフォルセティは咄嗟に天命の書版を出現させる。回復系の呪文、"治癒(キュラブル)"を唱えて応急処置を施した。魔力が殆ど消えうせている少年が今できる最善の応急処置だったのだ。これだけで大丈夫なはずはない。よりよい処置を施して貰わなければならない。ポチを空中に羽ばたかせる。竜の血赤色の眼は不安げに二人を眺めている。
「ティアマット、さん。人の気配とか、他の出口とかの感知をお願いします。僕は兎に角メリッサさんを運びますから」
ティアマットは頷いた。周囲を旋回し始める。自分より数十センチも背の高い女の躰を担ぎ、少年は踏み出した。重みに耐えられないかもしれないと思ったが、其処は我慢する。こんな痛み、他の人が感じている痛みに比べれば、マシなものなのだろう。


 そう心に言い聞かせて。

>>

Re: 【Veronica】Oz.15更新完了。 ( No.252 )
日時: 2011/04/29 19:27
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: 風邪引きました←


* * *

* * *

 岩肌に傷をつける。ナイフを握る手からは血が滲んでいるのに気付いたラピス種の若者は深く溜め息を吐いた。セットした藍の髪も乱れている。お洒落好きな青年には辛い。目線を下に送った彼の顔が青ざめた。
「———ッあ゛!!畜生、ニケのスニーカーがっ、高かったのに!」
青年の悲痛な叫びがこだまする。

土や雪にまみれ、表面が破れているスニーカーはブランド品であった。大手スポーツ用品店のもので、履き心地や使い心地の良さからアンバー種の傭兵や軍人も使っているような物であった。


 今日で大体三日。スノウィンの住民に襲撃され、地下牢とは言い難い洞窟に閉じ込められた。食事も与えられず、仕方無いので自分が持っていた携帯食を食べた。登山などで遭難した時の非常食のようなものなので、満足はしない。携帯食料で虚しい。寒冷地帯での洞窟、暖もまともに取れないのは寒がりな青年にはキツかった。だが、寒がりなのが幸いし、着膨れしていたお陰で少しはマシである。ほんの少しだけ自分の寒がりに有り難みを感じた。

 寒さを感じ、外していたフードを深く被る。いつなにが来ても良いよう、二等銃を引き寄せ、抱える。彼の耳が遠くで物音を感じ取った。足音らしきそれは、引き摺ったような音で、近付いてきている。スノウィンの奴等ならば、と思い青年は手から刀を現す。随分昔に見つけた神器だ。氷を生み出すそれを右手に、左に二等銃を掲げ、息を潜めた。

洞窟内は蟻の巣のようになっており、小さな窪みに人が入れられる。そこには鉄格子があり、脱出出来ない。壊して出るべきであろうが、下手に出て住民に襲われては元も子もない。なので今まで出なかった。

が、敵が攻撃してくれば別。正当防衛を掲げて打ち返すつもりだ。銃の先端部を檻に通す。撃てるように準備。


 人影が青年の蒼い眼に映った。———奇妙な形である。下半身部分は細く、上———頭の辺りは非常に大きい。歪な形だ。眼を細めて見てみる。近付いてきているそれの姿が明らかになってきた。



* * *

 冗談キツい。

人を撃つ音と鼻を焦げ臭いものが鼻を掠める。引かれた右手の先を見た。灰色の髪を揺らしたユールヒェンが走りながら狙撃する。

「伏せて!」
彼女の氷のような声でフリッグは伏せようと身を屈める。が、加えて上からユールヒェンが押さえつけた。モゴッという奇妙な音を発す。直後に頭上で銃声が鳴り響いた。急すぎて少年も状況が分からない!
「起きて」息をする間も無いくらいでユールヒェンの指示が入る。「走って!」
返事より先にアンバー種の細い手がフリッグを引いた。厚い手袋からでも細い指だと感じられるということは、更に女の指が細いのを仄めかしていた。

 厚い雪の下に埋もれる穴へ滑り込む。止むことを知らない万年吹雪の所為で視界が悪く、フリッグは眼前に来るまで気付かなかった。しかし、ユールヒェンは的確にそこを目指していたのだ。最早、躰が覚えているかのように。

 岩盤の上を滑り、中へ突入。先に行ったユールヒェンが強い力で少年を引き、奥へ投げた。そして出入り口を魔法で塞ぐ。ぶつぶつと何か唱えると空いた穴に岩が広がり、穴を封じた。彼女は安堵した表情を浮かべる。それを疑いの目で見られていたのに気付き、顔をフリッグに向けた。
「……今は戦争下だから、危ないの」
「なんで?永雪戦争は終息したのに。
それに世界にはネージュより北の国はないはず!特に、こんな場所は回りにそんなの無いだろ!?」
フリッグは荒い声で問うた。少女は暗い表情をしている。

ユールヒェンは重い息を吐いた。その場に座り込み、岩壁から鋭利な岩の欠片を取り、平らな地面に線と文字をえがき始める。
「アースガルド王国のアフルヘイム問題は、既知?」
形の揃った筆記体を書きながら少女は訊ねた。
「アンバー種建国派による、領土問題……」
「要約すると、ね」
少女の岩を握る左手が上に移動、円を描く。そこに"Neige"の文字。———ユールヒェンは左利きらしい。そういえばウェスウィウスも、ウェロニカも左利きだった。かくいう自分も元は左利きで養父母に矯正されて両利きになっている。ネージュの人間は何故か左利きが多いのだ。

「此処は北の大国、ネージュ王国最北端スニェーク。主に犯罪者等が流刑として流される、極寒地獄」
思考を剃らしていたフリッグはユールヒェンの言葉で戻される。円の一番上に、円を重ねて"Sneak"と書いた。
「多くのアンバー種は無実の罪で太古からここに流されてきた。全ての罪を着せられて」
雪女のような彼女は琥珀の目を沈ませる。声色も落ちた。
「そんなに……」
声が詰まった。予想以上にアンバー種に対する世界の迫害は厳しい。
「アースガルドで、セージ=ラヴァードゥーレとアルベルト・メグオームが設立した【ヤンターリ】が抵抗するように、此処のアンバー種を組織化を謀ってた。……でも」
女の声がくぐもる。フリッグの翡翠は悩ましげな彼女の琥珀玉を見ることしか出来ない。

「裏切りの汚名を着せられ、ネージュから攻撃されてるってこと」



* * *


 うっすらと意識が戻っていく———。


「起きたか」

しゃがれた老人の声により、完全に覚醒する。目覚めたと同時にウェスウィウスの躰に衝撃。腹部を押され、嘔吐しそうになった。
「ッ———アッ!」
押される感覚によって咳き込む。が、それは許されないらしく悶えた青年は髪を捕まれ顔を無理矢理上げられる。眼前にはバティストゥータの蒼い眼。ラズリ種の尖った耳がある。
「フリッグ=サ・ガ=マーリンはどうした !?」
厳しい罵声にウェスウィウスは答えられなかった。喉から声が出ない。苦しい。そしてその問いは、自分が一番訊きたかった。俺が訊きたい !!と怒鳴り返そうとしたとき、ウェスウィウスの口が無理矢理開かれ固定される。やかんが運ばれて来て、熱湯が口内に注がれた。悶え苦しむ。喉が焼ける!叫びさえ出なかった。

 注ぎ終えた後は再び頭を地面に押し付けられた。一人ではなく、複数のがたいの良い男たちにだ。バティストゥータ村長は優雅に眺めている。
「ウェスウィウス。我らはマーリンが必要なのだよ。そして貴様という家族が邪魔だ。彼の肉親になるべきは、我らだからだ」老人は低く笑う。「それに貴様のような忌み子は死すべきだ。恨めしい血の瞳など、言語道断」
言葉の終わりと同時に、ウェスウィウスを押さえていた男の一人が小刀を取り出した。それを青年の紅い眼に押し当てる。金属の冷たさが目元に恐怖と共に広がった。

「さあ、えぐってやれ」
言葉と同時に刃が突き立てられそうになる。が、それよりも早く懐に手を入れていたウェスがS&W M10を握り、撃った。押さえていた他の男の顔面を的確に射撃っ。そのまま拘束から解かれた彼は刃物を持った男の中心を撃ち抜く。男は叫び声を上げてもがいた。六弾しかない弾丸を素早くリロード。そのままバティストゥータを目掛ける。

が、老人は姿を消していた。その代わりに老若男女の死兵のような輩があふれでていた。ラズリ種たちは皆虚ろな眼で武器を持って此方を狙っている。上手い具合に間合いをとったウェスウィウスはタイミング良く弾を放つ。薬莢が切れる度にタイミングを見計らい、再装填する。だが、これもいつまで続くかわからない。


———仕方ねぇっ !!

軍人に属しながら、まだ人を殺めるのには慣れていない。慣れたら人間失格になってしまう気がしていた。しかし、今は殺らなければ殺られる。かつてはこうでは無かった筈のスノウィンの住民達に。


 上手く攻撃を避け、武器を落とさせる。まずは農夫が持っていたくわを手に取る。それを右手で扱い、左手で射撃。子供が持っていた回転式拳銃を奪った。左にあった銃を懐に戻す。奪った銃で撃つ。眉間を撃ち抜かれた女が倒れた。弾切れを確認するとそれを投げ捨てた。老人に命中、同時に鍬で薙ぎ払う。落ちていた短銃を拾い上げた。……ウェスウィウス愛用の銃は既に弾切れだったのだ。

斧を振り回す巨体から軽やかに避け、そのまま走り去る。背後からの飛び道具が不安だった。幸い荷物に手榴弾が一つあり、それを後方に投げる。青年の脚は速度を上げた。


 爆音。


思っていたのとは違った、意外にもショボい爆音が鳴る。悲鳴はしなかった。後方をちらと見たが、煙で見えなかった。少しは時間稼ぎになるだろうと思う。というか、それであって欲しい。近くに小さな穴が合ったので転がり込んで少し休むことにした。意外に喰らっていた攻撃のダメージと疲労が蓄積している。頬を掠めた弾丸に足を斬った刃。傷跡は、服を破いた簡単な止血帯で止血だけした。茶色のコートの値段を思いだし、少し虚しくなる。それを首を振って、振り払った。兎に角呼吸だけは整えたかったのだ。

———ちぃ……っ。

こんな事態など考えていなかった。が、有り得ないことは無かったのだろう。帰郷を躊躇われたのは迫害同然のことを母子で受けていたからだった。


 躰が冷える。
 誰かの温もりが欲しかった。

 一年前に死んだ恋人を思い出す。彼女の温もりが、今になってとても恋しくなった。———三つ離れていた女の、母のような温もりが。今更生き返ることはまずない。引き摺っている自分が哀しく、滑稽だった。

「エイ、ル———……」
掠れた声でウェスウィウスは恋人の名を呟いた。涙が出そうになるが、圧し殺した。未だ甘えん坊なウェスウィウス・フェーリア・クロッセル・アリアスクロス。とんだ罪男だ。


「あら、また泣き虫さん?いい加減良い年なんだからしっかりしてよね」


姉御肌の、聞き覚えのある声にウェスウィウスは顔を上げた。———有り得ない。夢以外有り得ない。頬をつねり、叩いた。が、眼に入った人間は夢ではない。現実だ。


 二つの短い、栗毛のお下げに紫紺の眼。長い睫毛に細身の女。微笑む姿は間違いない。

 今迄、唯一愛した女———エイル・ヴァジュラ・アースガルズ本人だった。


<Oz.15:Cruel-雪は白く、全てを消していって…- Fin.>

Re: 【Veronica】Oz.15更新完了。 ( No.253 )
日時: 2011/04/29 19:51
名前: 千臥 ◆g3Ntw.kZAQ (ID: .v5HPW.Z)

おぉぉ…
更新されている!!(嬉

次の展開が気になりますねぇ^^
では、お邪魔しましたw


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