ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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【Veronica】 *人気投票中。参加頼みます!!
日時: 2012/01/15 17:20
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/

投票有難うございました!銀賞感謝!!謝辞>>347
記念ということで人気投票やっています。>>350



Veronica(ウェロニカ)
*1世紀ごろエルサレムで活動したキリスト教の伝説上の聖女。ゴルゴタに向かうイエスの血と汗にまみれた顔を拭いたという伝説的聖女。

クリック有難うございます(*´∀`*)ノ
(※小説データベースから来た方はまずこちらへ→>>48
初めまして!
の人が殆どだと思います^^;
過去(といってももう四年くらい経つかも)に"燈(アカリ)"という別名で小説を書いていたものです(笑)

気を取りなおしまして、
初めまして!朔(モト)と申します。
某ゲームキャラじゃなくて、野村望東尼って人の名前が由来です。多分。もしかしたら、春風(←高杉晋作の名)に改名するorほかの場所に出没するかもしれません
期末テスト症候群…心理学的にいえば"逃避"に陥って、小説を書こうと思いやり始めました。ツッコミは心の中のみでお願いします^^
書くの久しぶりで、しかも元から文章力皆無人間なので、いっやー、ちゃんと書けるかなあとか不安ありつつ((オイ
頑張ってちまちま(←)書きたいと思います!

◆Attention
※注意※
・荒らし、悪口等厳禁。宣伝OKです^^いつ見に行くかは分かりませんが汗
・コメントへの返信、小説の更新不定期です。
・誤字・脱字、文章等いろいろおかし(←この場合の"おかし"は"趣深い"ではなく"変"という意味でつかわれています)。ツッコミ大歓迎ヽ(*´∀`*)ノ
・ジャンルはファタジー 一直線(笑)だと思いますけどねえ…(^^ゞ
・グロイのかなあ。怖い話苦手なんでそうでもないと思うけど一応流血表現あり(汗
◆Component
題名:Veronica(ウェロニカ)
作者:朔(もと)
ジャンル:ファンタジー・バトル、 "ツッコミ箇所満載"紀伝体ドラマ。
成分:ツッコミ箇所満載、多少流血表現あり、登場人物がKY、誤字・脱字・文章が基本オカシイ、Not神文
使用方法:ツッコミを入れながら読んでください。「お気に入りに登録しました」や「応援してます」などのコメントが入ると狂喜します。勿論、ツッコミ大歓迎。
2012年度冬の大会にてシリダク銀賞を受賞。本当に感謝感謝の大嵐。
製造日時:2010.11.30

◆Contents
*本編*
登場人物 >>4 (一覧編>>220※ネタバレ有)
まとめぺえじ>>219
歌 >>85(楓様に作っていただいた歌詞です)
Main↓
◇序:recitativo >>3
◇Oz.1: Blast-竜と少年の協奏曲コンチェルト- >>285
◇Oz.2: Norn-運命の女神と混乱の関係- >>286
◇Oz.3: GrandSlam-錫杖、両刃、骨牌の独り勝ち- >>287
◇Oz.4: Obsession-戦意喪失-
・Part1>>57 ・Part2>>58 ・Part3>>62 ・Part4>>64 ・Part5>>68
◇Oz.5: Potholing- 一樹の陰一河の流れも他生の縁-
・Part1>>73 ・Part2>>75 ・Part3>>77 ・Part4>>79 ・Patr5>>84
◇Oz.6: Hallelujah-神様っているのかなあ-
・Part1>>90 ・Part2>>93
◇Oz.7: Engulf-風に櫛(くしけず)り雨に沐(かみあら)う-
・Part1>>94 ・Part2>>104 ・Patr3>>105
◇Oz.8: Sign-夜想曲(ノクターン)に誘われて-
・Part1>>111 ・Part2>>114 ・Part3>>119 ・Part4>>120
◇Oz.9:Nighter-眠れない夜に-
・Part1>>128 ・Part2>>131
◇Oz.10:Howling-母と子(Frigg)、忘れ路-
・Part1>>133 ・Part2>>134 ・Part3>>136
◇Oz.11:Howling-母(Tiamat)と子、追憶-
・Paet1>>141 ・Part2>>145 ・Part3>>146 ・Part4>>148 ・Part5>>154 ・Part6>>161 ・Part7>>162
◇Oz.12:Tagesanbruch-黎明-
・Part1>>164 ・Part2>>165 ・Part3>>170 ・Part4>>174 ・Part5>>189
◇Oz.13・Part1>>198 ・Part2>>210 ・Part3>>218 ・Part4>>223 ・Part5>>226 
◇Oz.14・Part1>>228 ・Part2>>234 ・Part3>>237
◇Oz.15・Part1>>247 ・Part2>>248 ・Part3>>249 ・Part5>>250 ・Part6>>251 ・Part7>>252
◇Oz.16・Part1>>257 ・Part2>>270 ・Part3>>275 ・Part4>>282 ・Part5>>288
◇Oz.17 >>305
◇Oz.18 >>340
◇Oz.19 >>340
◇Oz.20 >>352
◆外伝>>235
作品を十字以内に簡潔に紹介しなさい。↓
『た た か う は な し』!どうだ!!
※参考
広辞苑、ジーニアス英和辞典、ブリタニカ、マイペディア、ウィキペディア等から抜粋。そして、相棒・電子辞書有難う、!!

◆お客様
*葵那 *Neon様 *夏目様 *ラーズグリーズ様 * 玖炉 *雪ん子様 *月夜の救世主様 *ささめ *緑紫様 *楓様 *舞阪 肇様 *ひふみん様 *千臥様 *ち せ(´・・).様 *風様 *X4様 *Vermilion様 *紅蓮の流星様 *Ghost様 *夢姫様

◆連絡
敵陣営 葵那>>96 Neon様>>99 月夜の救世主様>>107 玖炉>>112>>181 舞阪 肇様>>150 ひふみん様>>151 千臥様>>168
大切に使わせて頂きます^^

◆戯言
小説大会銀賞受賞…だ、と!?
放置プレイ上等小説に投票有難うございました!
本当に感謝感謝感謝感謝の嵐です!
おこがましいですが、これからも宜しく頂けると幸いです<(_ _)>
あと諸連絡(?)ですが、Ghost様に外伝小説を書いていただくことになりました!本当に有難うございます。
人とのつながりって本当大切なんだなあ…

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Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.334 )
日時: 2011/11/13 21:30
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: fCAUmeG6)  

 ————ずっと、気を張らねば為らなかった。
 弱みを見せる間など、余裕など、無かった。
 病に臥した母を助ける人間は何処にも居なかったから、私しか居なかったから。

 世界は常に孤独で、残酷で。

 ————今、大国として成り立つ国家の中で唯一といっていい。南方の大国アースガルド王国は未だに完全な絶対王政を貫いている。王家には王族の血縁しか許されない。国王の子には、無論庶子が多くいたがそれらは王室への侵入さえ許されていなかった。ただ、正室の子供だけが許される場だったのだ。庶子など所詮は血縁が絶えたときの保険に過ぎない。

 帝胤であるが、嫡子では無い。側室の娘でも無い。
 葛藤の中で、悩みきっていた。分かり合ってくれる人間が居ないことも分かっていた。理解しきっていたのだ。

 震える肩を、優しく包む人間をエイルは知らなかった。だが、それは、今知ることになった。

 混血の青年は、彼女に優しく寄り添っている。——そっと、優しく包み込むように。彼が言葉をかけなかったのも、寧ろ嬉しく感じられた。下手に繕われた言葉を聞いてられるくらい、今のエイルは強くなかったから。


<Oz.19:tragedy-哀しきさゞめごと③ もう送れぬ愛情表現->



「負けたああああああ!!!」

叫び声を挙げた橙髪の男は書類で溢れかえった机の上にバタンと倒れ込んだ。その影響で机上の書類がヒラヒラと舞う。
「うるせえよ!!」
ウェスウィウスは罵声を浴びさせる。
「ウェス君に寝取られる前に私が寝取っておけば良かったものを!!」
「やってねえよ!!ついでに黙っとけよ!
つか、お前は専属秘書に手を出そうとか思ってたのかよ!?」
「勿論!」自信満々にフレイは言い放った。「それがどうかしたのかい!?」
光らせた眼鏡をくいと押し上げる。

 直後、その頭と白金の頭にスパーンという気持ちの良い音が叩き付けられた。頭を押さえながら顔を上げると栗毛の短い御下げを揺らした女性がファイルを持ちながら仁王立ちしているのが目に入った。———エイルは紫紺の瞳で睨み付け、紅の唇で言葉を紡ぐ。
「阿呆二人で何してんのよ!!」
そんな女性の胸についた膨らみを何かが鷲掴みした。……フレイだ。にやついた顔をして、鷲掴みした胸に顔を近付けた。
「相変わらずの良い乳をしてるね」
「猥褻行為ですね良く分かります」
機械のように無感情で減り張りの無い喋りでエイルは冷淡にフレイを見下した。素早く銃を取りだし、彼の髪を撃ち抜いた。銃口から白煙がうねりでている。フレイはエイルから逃げるように高速で離れ、何故かウェスにすりよった。「気持ち悪い」とウェスウィウスは一蹴、彼を押し退けようとする。

「エイル君がっ……エイル君が鬼のごとくボクを苛めるよぅっ……!」
「———ったく、天下の評議員がそれじゃしょうもないだろ……」
呆れながら、ウェスウィウスは言い切る。評議員はぐるりと顔をエイルに向け、負け惜しみのように叫んだ。
「鬼っ!悪魔ッ悪女ッッ!!」
「ハイハイ、好きなだけ御叫びなさいな」
秘書は冷静沈着である。涼しい顔をしていた。
「ボクがいないところで別の男と一晩過ごしちゃうなんて……裏切者っ!」
「そんなこと言われてもねー。毎晩、自称女を悦ばしまくってるナイスガイ☆の貴方が言えること?」
「フレイヤだってオーズという名の夫がありながら、オッタルを始め、沢山の愛人が居るんだよ?私だけでは無い!」
目まぐるしくフレイの口調が変わる。やはり、これが国政に携わると考えると頭痛がする。ウェスウィウスは無言で、幼稚な駄々を見つめた。エイルはまるで母親のようだ。
双子きょうだい揃って最低なくらいのタラシね」
「嗚呼———……そういえば今日はゲルドと会う約束があったかなぁ……。だから今夜私は留守にするよ」
最早彼は自分だけの世界に入り浸っているようだ。目を輝かせながら自分に酔いしれて喋るフレイを見たウェスウィウスは更に呆れた。これが帝国を動かす評議員の一人……ハッキリ言って情けない。

「もうこの国は終わりだ……」



* * *

 赤い上着を寝台の上に脱ぎ捨てる。下に着ている黒いシャツの姿で上着の横に寝転んだ。目線を寝台近くにある電話にやる。目的の番号を押して、発信。一定のリズムを刻む発信音が耳元に流れた。あまり経たないうちに回線が繋がる。

『はい?』
「よかった、フリッグだな」
『……だけど、ウェス?』
元気……では無いが相変わらずの様子に胸を撫で下ろす。故郷に一人置いてきた、義弟はいつも通りの様子だったのだから。杞憂で安心した。
「相変わらずそうで安心した」
『——あ、そう』
フリッグは皮肉を漂わせたぶっきらぼうな態度だ。幾らいつもどおりで良かったと言っても彼は無関心らしい。
『ウェスは、相変わらず無職のまま?』
「いや、職にはついた」
そう言ってから小さく、一応それだけは、と付け足す。
『あ、そ』
珍しく相手から話題が振られたが、やはり話はすぐに途切れた。どうも、この少年は同じ話題で話を続けるのに向かないようだ。というより、フリッグは話をすること自体が苦手らしい。無言が続いては通話料金の無駄だ。取り合えず様子だけ分かったのだから、これ以上用件は無い。切っても問題ないだろう。

「じゃあ、また何かあったらすぐ連絡してくれよ?切るけど大丈夫か?」
『————…………あ、いや』
途端にフリッグの声色に表情がついた。不安げな、年相応の雰囲気を纏っている。やはりまだ子供、見知らぬ人間との同居に慣れる筈も無い。苦笑を混ぜ、ウェスウィウスは優しく訊ねた。
「どした?」
何か年頃の悩みでも出すものかと思った。そう言えば、いつもは率先してウェロニカが出る筈なのだが、珍しく出ていない。今親代わりになっている人間は、いつも会話を妨げるので、またそれに遭っているのだろうとウェスウィウスは深く訊かなかった。————あとに思えば、此処で少し過剰なくらい神経質になっていれば良かったのだ。

「ウェルが————死んだ」


 フリッグが、弱々しい声で紡いだ言葉はウェスウィウスの耳を鋭く貫き、暫く彼を殺していた。

Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.335 )
日時: 2011/11/20 00:23
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 4HN4VOsr)
参照: 零式ちょこちょこやりつつテスト期間

実はもうすぐ一周年だったりする件←
すみません、なんだか精神的にも肉体的にも時間的にも最近多忙だったりして更新遅くなってたりします。特にこれからイベント沢山で((汗
来週テストなので更新できないかもしれない…orz でも幸いなことに携帯サイト出来てくれたのでそこから更新するかもしれません
その後に修学旅行で、その後に展覧会…作品完成してねえええ

↑の回、本来はもう少しあったんですけどね〜…なんて言いますか、携帯からだと修正きかないので分割したんです。

Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.336 )
日時: 2011/12/10 12:07
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: WI4WGDJb)
参照: 一年経ちました。有難うございます^^

* * *

 ————遺体は無いとの話だった。そして正確には"死んでいない"とのこと。いつものように、二人遊びに出ていたらしいが、突然ウェロニカの背後が爆発。そのまま死んだと思ったそうだが、突如現れた謎の"オジサン"が彼女を生き返らせ、そのまま連れ去ったと言うのがフリッグが語った、彼のみた現実だそうだ。
 一転してフリッグやウェロニカの面倒を見ていたスノウィンの面子は揃って「ウェロニカは雪崩に遭って行方不明、フリッグはそのショックで記憶が曖昧になっている」等と謳っていた。その姿は異様で、ウェスにとって信ずるに値しなかった。きっと、面倒事に巻き込まれたくないからそんな適当な事を言っているのだろう。確かに、フリッグの話は非現実的過ぎて、ウェスも最初は村人の言い分を飲み込んだ。十三歳の子供が作った幻想に————大好きで大切な幼馴染みを失った現実を否定する非現実要素としか考えられない。それでもウェスウィウスが彼の言い分を信じたのは、やはり村人達の不可解過ぎる言動からだった。

 幼い頃から住んでいるので、比較的スノウィンは詳しい。更に、母と隠れるように住んでいたので、村人よりも詳しかった。雪崩が起こりうるような場所は無い。何せ、帝国との国境にあるのだ。生憎国境は平坦な場所に在る。子供が遊びに行くとしても、きっと少し郊外になったところの遺跡だろう。そう考えると、村人の言い分は信じがたい。仮に雪崩があったとしても、ネージュの情報網からすぐにわかる。雪国でそう言った事象が多く、よく犠牲も出るのでその辺りは他国よりしっかりとしているのだ。

 それでもまだフリッグの言葉は夢にしか思えないのも事実。だが、村人にウェロニカの遺体を回収する意図は見えない。だからといって、彼女が拐われる理由が解る筈でも無いのだが。取り合えず、唐突すぎて混乱しているのは事実だった。————兎に角突然だが、仕事を休んで一時帰郷せねば。フリッグに会わなければ。

『おにいちゃん』と耳の奥で彼女の声がこだました。

 途端に後悔が更に込み上げてきた。最早呼吸も困難になる程に肉体も事態の理解に追い付いていない。嘔吐しそうになるのを飲み込んだ。すると脳裏がすっと軽くなって、妹の笑顔が映った。また吐き気がくる。一旦帰郷しなくてはいけないから、上司に連絡を取らねばならないと電話に手を伸ばした。震える指で番号に触れていく。青ざめた顔のまま、相手が出るのを待った。幸いにも然程間が無いうちに回線が繋がった。「はい?」と若いエイルの洒落声。

が、言葉が出なかった。口は忙しく開口と閉口を交互に繰り返して労働しているにも関わらず————なのだ。
「どうしたの」
とエイルが声を曇らせた。だが少し落ち着け、と促しているようにも聞こえた。ウェスウィウスは二、三度深呼吸をした。先程よりはまだ楽になれた。
「か、ぞく……が亡くなりまして」
それでも、まだまだこの一言が精一杯だ。事前に家族構成について話していたためか、エイルにはどの人間が亡くなったかある程度分かったようで、
「妹さんか弟さん?」
と恐る恐る訊いてきた。妹です、と低いトーンで答える。職についてまだ一日程度というのに早速休みます、と付け足すと、エイルは私もついていくわと答えた。
「だって、心配だもの」
とつい昨日は脆くなっていた姿を忘れるくらいに気丈な言葉を放つ。今のウェスウィウスでは、どうにも一人ではいられないくらいに自分が保てなくなっていたので、頼みます。と返していた。

 それからすぐにエイルに会い、明日の予定を立てた。即急に決めたので、上司らには殆ど詳しくは伝えられなかった。
 翌日、二人は足早に朝一でネージュへ、スノウィンへと向かったのだった。




 * * *



 葬儀は実に簡素で、遺体の入っていない空の棺桶を前に皆が静かに黙とうする程度だった。村長が軽く何かしら言葉を述べただけで、その他は特に何も無かった。こんなにあっさりとしたものなのだろうか、とぼんやりとウェスウィウスは耽る。嘗ての、両親の葬儀時には何かしらあった筈だった。あの時は、葬儀に参列した者たちがこそこそと喋りこんでいたりした。それに比べて周囲は怖いくらいにひそひそとした話し声もせず、しんとした静寂を保っている。誰かの嗚咽も聞こえる事無かった。こんな調子で、思っていたよりも早く葬儀が済んだのだ。不幸か幸いか、分からなかったが兎に角早く終わったのだった。

 何故か喪主を務めていたのか、子供であるフリッグは一人淡々と葬儀をこなし終えていた。久しぶりに会った義理の弟は意外にも涙を見せていなかった。事情も実に端的に、無感情に説明終えている。同行していたエイルに対しても特に訊くことなど無く、名前を訊ねるだけと言う非常にドライな態度を取っていた。しかし、それも何処か自分を支える為に纏っている鎧にすぎない事を、ウェスウィウスは感じ取っていた。こういうときのフリッグは、下手に優しく接してはいけない。だからと言ってほったらかしにするのも駄目だ。適度に関係を取ることが良い。崩れやすいのを、ウェスはよく知っているのだから。


「非常にドライな弟さんね」
エイルは妙に背筋を伸ばしているフリッグの背中を見ながらウェスに言った。彼は苦笑ながら返す。
「そうしないと持たないみたいで」
「義理の兄弟でも、どこか似るんじゃなくて?」
「俺も似てる所あるのは、否定できないなあ」
いつの間にか二人で話しに盛り上がっているのに気付く。無意識にお互いを許し合っているような感じがした。焦って二人とも、妙にそそっかしくなる。エイルが話を振った。

「妹さんが亡くなったのに、泣きはしないの?」
その質問にウェスは眉を顰めた。確かに哀しいことに変わりは無いはずなのだ。だが、何故か涙は出なかった。——フリッグの言ったことを信じれば、ウェロニカは何処かにいると言うことなのだ。だが、それはウェスウィウスにしか話されていない事であり、恐らく家族だけの秘密になる。この秘密が成り立ったと同時に何処かへ連れさらわれたウェロニカはひそかに二人の手で助け出さねばならないと言う使命が二人に現れたのだ。それはきっと他人を巻き込むことが出来ない。なのでエイルにも「良くわからない死因で死んだ」としか告げていなかった。死んでいないのだろうと言うことが信じられるからこそ、涙は出ないみたいだ。両親の様にあからさまな死を見ていないせいもあるのだろう。
「哀しいけれど……なんだろう、何だか涙が枯れているみたいなんだ」
そうウェスウィウスは曖昧な返事をした。しかし、エイルは鋭い。彼の予想だにして居なかった言葉を切りだしたのだ。



「謎の゛オジサン゛という存在に連れさらわれたから————でしょう?」



「ッ——!!?」
彼女の切りだしにウェスウィウスは驚愕を隠せなかった。もしかしたらエイルが何処かでウェスウィウスとフリッグの会話をきいていたのかもしれない。だが、周囲に気を配っていた為にその可能性は低い——と考えるとエイルは何か知っているのかもしれない。その推測は同時に彼女に対する疑いを生み出した。動揺の所為で、ウェスは仄めかしつつ窺うという動作をすっかり忘れ、即刻に本題を訊くようになっていた。
「ウェルの……ウェロニカについて何か知っているのか!?」
半ば興奮状態のウェスウィウスを落ちつかせるようにエイルは「しぃ」と呼吸の様な声を立てながら立てた人差し指を口の前に持ってきた。そして彼に囁くような声で語りかける。
「——詳しくは国に戻ってから。まずは弟さんをどうするか、考えて頂戴。連れて帰るなら連れて帰るし、貴方が此処に居残るなら残る。それだけ決めて。そして帝国に戻ってくるなら、そう答えて。——真相は、帝国に戻ってからじゃないと告げられない」
「どうして」
ウェスは少し張り上がった声で訊ね返す。

「落ちついて」今度は彼の唇に指を当て、エイルは顔を急接近させた。「落ちつけないのは分かる、でも落ちついて。——ここじゃ聞かれては困る会話なの」
これ以上は聞けそうにない。そしてエイルに従うほか無いと分かったウェスウィウスは渋々頷いた。そして、歩き去っていくフリッグの背中を追うように、彼も歩き始めた。エイルはその場に居残ったままだ。

 これからフリッグについてどうにか決めなくてはならない。只一人、家族として残ったウェスウィウスが彼を引きとるのに違いない————そうフリッグとウェスウィウスは思っていた筈だった……。



* * *



「では、フリッグは村長バティストゥータの援助を受けながらスノウィンの村民で育ててゆくということにし————」

スノウィンの尊重であるバティストゥータは通った声で声明を発表していた。この件に関して当事者も彼の家族であるウェスウィウスは全く知らないままだった。何時決められたのかも分からないその件は、突如二人に突き付けられた。勿論これに二人とも反対した。まずウェスウィウスが反論する。
「村長、ハッキリ言って彼には俺と言う家族がまだ残ってます!俺は正直、フリッグを帝国に連れて行って一緒に暮らそうと思っています。その方が彼の為である、と」

その言い分にフリッグもわずかながらに頷いていた。彼の肩でとぐろを巻く竜も、小さくうなずいているようだった。だがバティストゥータは威圧感のある声で言う。
「貴様の様な為り損ないの忌子になどは任せられん。ウェロニカが死んだのも貴様と言う存在が居たからだ。——これ以上スノウィンの村民を減らすようなモノをここには要らん。貴様は即刻帝国に戻り、二度と戻ってくるな」
「そんちょ……!」
流石の言葉にフリッグも怒りをあらわにしていた。バティストゥータに向かって反論しようとしたが、近くにいた村民に阻まれる。
「フリッグ、いい。ウェスウィウスがウェロニカを殺したのだから」
「お前の様な良い子は死んではいけないよ。だからウェスウィウスとは離れなさい」
村人が口ぐちに言い、フリッグとウェスウィウスを離していく。遂に村人に囲まれ、お互い姿を視合うことが出来なくなったところで、バティストゥータがウェスの後頭部に銃口を当てた。彼が頬を釣り上げて嘲笑する。

「お前もここで死んでおいた方がよかろう」

 ウェスウィウスは両手を上げた。そして小さな声で言う。
「出て、もう、戻りませんよ」
それが聞けて嬉しいのか、バティストゥータや他の村民はにこやかな笑顔を浮かべていた。その言葉は勿論フリッグの耳にも入っていた。彼は裏切られたような顔つきで、ウェスウィウスの顔をじっと見た。言ったことは嘘だと、その言葉だけを求めているような小動物の眼をしていた。ウェスウィウスは心の中で彼に謝る。ここで殺されて、更なる悲劇をフリッグに味わいさせたくない。このままこの場を切り抜けて、フリッグを帝国に連れ帰るのも手であるが今の状態では出来そうにない。——少しの時間を空けて、警戒が解けた時にフリッグを帝国まで呼び寄せよう。そう決めた。そしてそれを目でフリッグに伝えた。幸い、そう言うことを察知するのに長けていたフリッグはウェスの思惑を全て理解してくれた。その証拠に、彼はこくりと頷く。

「フリッグの事、頼みます」
ウェスウィウスはそう言ってくるりと背中を向けた。「ついでに、仕送りぐらいはしますから。一応出稼ぎですし」と付け足す。
 村民たちはまるで奪われないようにするくらいフリッグを大事に囲っていた。去ってゆくウェスウィウスの背中を睨みつけながら。

「これでマーリンをこの場に置ける」
最後に漏らしたバティストゥータの呟きを、ウェスウィウスは決して逃さなかった。


>>

Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.337 )
日時: 2011/12/28 17:24
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
参照: 久しぶりの更新で申し訳ないです


* * *




「やっぱり排他的なものなのねえ、スノウィンって言うのは」
帰路の途中、隣のエイルが呆れた顔で呟いた。独り言のように見えて、何気なくウェスウィウスに投げかけていた言葉だったのだが、ウェスウィウスは何も返さなかった。無言で帝国首都の煉瓦道を歩んでいた。
 帰り道の中でも、エイルは一度もスノウィンでウェスウィウスに言いかけた話を一度もしていなかった。此方から切り出すのも妙に遣り辛いので、ひたすらに彼女が切り出してくるもを待つだけだった。


 ニーチェの評議員宿舎へ行き、フレイに帰ってきたと直接報告をしてから自分の宿へ帰ろうと思うと足が自然と早くなる。いつの間にか青年は早足になっており、エイルの先を歩いていた。焦った後方の彼女が、足並みをそろえようと早足になる。
「早く帰ったと連絡した方が良いものよね」
女は作り笑いで言った。ウェスが「ああ」と小さくうなずく。
「それにしても、アレぐらいの年頃の子供を見ると、実家の方を思い出すのよね」
ふと、空を見上げたエイルが小さく言葉を漏らした。
「弟でも居るのか?」
とウェスウィウスが咄嗟に訊ねる。すると彼女は、問いかけを思っていなかったようで、顔に焦燥を滲ませた。
「ええ。多分フリッグ君と同じくらいかな」エイルは指折り何かを数える仕草を始めた。「ええと、うん。今年で十三歳?ヴィーダルっていう小生意気な子と、もう一人一歳上の病弱なヘニールっていうお嬢さんの二人……かなあ」
「実家って言ったら、王家の方だろ」
「まーね…」女は紫水晶の瞳を曇らせる。「面識のある下の子供はそれくらい、上の人も二人くらいしか知らない」
遠くで聞いた話では、確かアースガルズ王家は後継ぎを大量に作っておかなければならなかった筈だった。兎に角家柄を気にせずに子をもうけろということなのだろうか——いや、そんなはずはないだろう。何せ隣の女は母親の地位によって継承権を認められていない。

 そんなことを思いながら、エイルを見た。彼女が異常なくらい、孤独に見えた。雪国だったら、吹雪に掻き消されてしまいそうなくらい、脆弱に見えたのだ。都会の風に一吹きされれば、塵となって消えてしまいそう——そう見えたウェスウィウスは思わず彼女の手を取り、きつく握った。冷たい女の手の感触が、自身の掌に滲んだ。

 急なことに驚いたエイルは紫の眼を見開いていた。唐突すぎる出来事に彼女の頬が鴾色の紅潮していく。
「バッ……!」
顔を真っ赤にしたエイルがウェスウィウスの手を振り払った。刹那に離れた手だったが、また直ぐ秒単位で繋がれる。今度は離れないように、きつく握っていた。
「な、に…急に」
「良いから」握った手を重心に、ウェスウィウスの顔がエイルの顔に急接近する。「黙ってこのままで居てくれ」
消えそうな彼女の姿が、小さい頃の自分の姿と同化し、ウェロニカの笑顔が重なって脳裏で弾けた。このまま離せば、彼女はきっとどこかに消えてしまう気がしたのだ。その感情が先走って、自然と彼女を強く抱きしめていた。
「ウェ…………」
彼の名前を呼ぼうとしたエイルだったが、唐突に止めた。そして彼女も彼の体躯に触れ、抱きしめる。今迄に感じた事の無い感情が心の底にあった。彼の事を考えると、胸のあたりが痛い。甘い毒の様に、神経を痺れさせる。それはエイルに限ったことでも無かった。ウェスも同じだったのだ。


 夕日に映った二人の影が、大きく重なった。



* * *

 

 耳元で呼び出し音が響く。長い騒音の後に、これで五度目の「ただいま電話に出ることができません」の言葉。いい加減嫌になった青年は受話器を投げ捨てた。しかし、流石に其処まで八つ当たりするのも大人げないと思ったので、仕方なく受話器を拾い、元あった場所に置き戻す。後ろの寝台の上で寝転がっていたエイルの方を向いて、眉を顰めた。
「駄目だ。あの変態野郎出そうにない」
「まあ、どうせ何処かの女とにゃんにゃんしてるんでしょ」
女性は布団から這い出ながら、呆れたように言い捨てた。

 気付けば朝、結局あの後エイルをそのまま"お持ち帰り"した自分が、ウェスウィウスは妙に情けなく思えた。
「あら、女と一晩明かすって言うのがそんなに珍しいものに思えるわけ?」
微妙な表情のウェスをからかうように、エイルが悪戯に言った。
「そりゃあー、もう保健体育とかクリアしてるからどういうこととかはよくわかるけどな、なんていうか、まあ……微妙なもんなんだよ、色々と。恋人なら分かる——的な」
「それは私の様な人間は恋人にしたくないっていう意味?」
眉間に皺を深く刻んだエイルが力任せにウェスウィウスの脛に蹴りを入れる。痛いと端的に叫んでから、その打撃を受けた場所を抑えながら
「違えーよ!段階っていう物があるだろうって言いたかったんだよ!」
とがなった。
「言っておくけど、私の方が年上なんだからね」
「分かってるっつの」
疲れた表情の青年は、はいはいと言うようにその場だけの返事を作って言葉として吐きだした。



 何だかんだ言って、彼女とは関係を深めていいのか分からないと言うのが今のウェスウィウスの正直な感想だ。

 何処かひかれるものがあって、彼女に引き寄せられるように接していった。が、それで良いのか分からない。ウェロニカの件、彼女は何かしら隠しているように見えるからだ。——好きかと訊かれれば、好きなのかもしれない。いや、正直に好意を抱いている。もうこの段階では、彼女に他の男が寄ってくるだけでも虫唾が走るくらいになっていたのだ。同時に、下手なことを訊いて彼女から嫌われるかもしれないと言うことに不安を覚えていた。それで彼女から、あの時にごもった言葉を訊けずにいる。

「何だか何か訊きたそうな顔してる」




まるでそんなウェスの心を読んだかのように、エイルが不敵な笑みで彼に言葉を投げた。——ハッとする。自分が無意識に考えを表情に出していたのかもしれない、と。
「フレイが居て、一緒に教えた方が良いかもしれないけど面倒だからここで直接言うことにする」と、淡々と言葉を紡ぎ、彼女はウェスウィウスの双眸を離さないように見つめた。
「今、世界の見えないところで大変なことが起きかけているそうなのよ。——その計画に必要だったのが、ウェスの妹のウェロニカ」
「はあ?」
唐突の言葉に、ウェスウィウスは喧嘩腰で返していた。しかし女はそれに動じず、話を続ける。
「コッチだって詳しい話は知らない。兎に角、世界征服めいた事を考えている輩——"オジサン"っていうのが、貴方の妹を必要としてたのよ」
「何でだよ!」
怒鳴った彼に思い切り不快な表情をして静かにエイルは吐き捨てる。
「知らないっつってんじゃん」

 訳のわからない話にウェスはついていけていない。混乱に陥らせたことに、罪の意識を感じたエイルは仕方なく彼を宥めるように言った。
「貴方を軍に入れたのも、その背景があったんでしょうね。
だとしても、見捨てる事は無い————妹さんの件は、私個人でも、軍でもどうにかしようって思っているから」
だが、そんな言葉で慰められるくらいにウェスウィウスは従順では無いのだ。頭の中で不満が募るが、言葉には出なかった。少なくともエイルは嘘を言っているように見えないのだから。

 ——怨むなら、世界なのだ。憎むなら、この残酷な世界なのだ————。



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Re: 【Veronica】 *参照3000突破、有難うございます! ( No.338 )
日時: 2012/01/01 12:12
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: ikU9JQfk)
参照: http://west7496.blog25.fc2.com/

あけましておめでとうございます^^*
更新頻度が着々と低くなっているという何とも言えない状態になっていますが、今年もよろしくお願いします!

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