複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
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- もしも俺が・・・・。『フィーダと那拓。』
- 日時: 2014/01/03 18:25
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
作者の今叫びたい一言 『ツイッター、始めました。>>205』 (By 作者)
序章、あとがき+読者様へ一言!! >>114
土下座で頼む、簡単アンケート!! >>115
↑アンケート円滑化のために、登場人物のリストを作りました!! >>123
オリキャラ大募集中!!!(こちらをお読みください。) >>140
【第一回 アンケート回答者リスト!! スペシャルサンクス!!】
・月葵様 →>>117
・るるこ様 →>>125
・檜原武甲様 →>>133
・李々様 →>>134
・八重様 →>>138
・エストレア様 →>>145
【オリキャラリスト!! スペシャルサンクス!!】
・李々様 →>>141 『明蓮寺 美夜』 >>151 『古屋 朱李衣』
・95様 →>>142 『葉隠 空冴』 >>146 『鳳凰院 龍雅』
・エストレア様 →>>145 『キル・フロート』
・檜原武甲様 →>>147 『知名崎 宇検』
・月葵様 →>>148 『結風 遥』 >>156 『矛燕』 『ゼヘト』
・グレイ様 →>>152 『周邊 蓮華』
・八重様 →>>155 『雛姫 容子』
・るるこ様 →>>166 『王 莉紅』 『鳳広炎』
クリックどうもありがとうございます。
おはようございます、こんにちは、そしてこんばんわ。
どうも初めまして。ご存知の方はお久しぶりです。
私の名前はヒトデナシと申します。
“自己紹介が終わったところで、この小説の注意点です。”
1、荒らしの方々は回れ右して去ってください。
2、読んでいただけるとすごくありがたいです。
3、コメントをもらうと、作者は歓喜に満ち溢れます。
“では次に、この小説はどんなものなのかを紹介いたします。”
1、この小説の中心の視点は基本、主人公である俺(作者ではありません。)が中心です。
2、この小説は、主人公が『もしもの世界』を体験したとき、どのように思うのか、またはどのように動くのかを描いたものです。
3、基本、自由である。
————と言った感じでございます。
では早速書いていきたいと思います。
楽しんでいただけると幸いです。
・登場人物・・・主要人物 >>119
黒川陣営 >>120
リバース陣営 >>121
DDD教団陣営 >>122
・イラスト広場(心優しい絵師様、常時募集中)・・・>>62
・用語説明・・・>>63
コメントを下さった優しい読者様
・月葵様
・八重様
・秘密箱様
・エストレア様
・小枝様
・るるこ様
・春野花様
・陽様
・修道士。様
・檜原武甲様
・李々様
・ちぇりお様
・95様
・グレイ様
・H様
・007様
———— 『もしも俺が・・・・。』目次 ————
【序章、日常編】
表紙→>>12 (八重様)
挿絵→ 第1幕 >>20 (るるこ様)
第6幕 >>89 (るるこ様)
第15幕 >>125 (るるこ様)
第1幕 『もしも俺が自己紹介をしたのなら……。』 >>1 >>7 >>8
第2幕 『もしも俺が自分の世界を紹介するなら……。』 >>14 >>16 >>19
第3幕 『もしも俺が風紀委員会を紹介したなら……。』 >>23 >>24 >>25
第4幕 『もしも俺がドラえもんの世界に行ったなら……。』 >>31 >>32 >>35
第5幕 『もしも俺がドラえもんの世界に行ったなら……続編。』 >>36 >>37 >>43
第6幕 『もしも俺(様)が華麗に参上したなら……。』 >>46 >>50 >>51
第7幕 『もしも俺がアンドロイドの世界に行ったのなら……。』 >>56 >>60 >>61
第8幕 『もしも俺がアンドロイドの世界に行ったのなら……続編。』 >>64 >>65 >>66
第9幕 『もしも俺(様)が異次元を渡るなら……。』 >>69 >>70 >>71
第10幕 『もしも俺(様)がゾンビの世界に飛び込んだなら……。』 >>76 >>77 >>82
第11幕 『もしも俺(様)がゾンビの世界に飛び込んだなら……続編。』 >>83 >>84 >>85
第12幕 『もしも俺が休日を過ごすのならば……。』 >>88 >>93 >>96
第13幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……前編。』 >>101 >>102 >>103
第14幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……後編。』 >>106 >>107 >>108
第15幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……終編。』 >>111 >>112 >>113
あとがき、そしてコメントを下さった方々に感謝の言葉を!! >>114
【第2章、闇人(やみびと)と天使編】
プロローグ >>124
第16幕 『もしも俺が日常を過ごしたのなら……。』 >>128 >>131 >>132
第17幕 『もしも俺がこれまでの事をまとめたなら……。』 >>136 >>159 >>160
第18幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……。』 >>163 >>164 >>165
第19幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……2。』 >>170 >>171 >>176
第20幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……3。』 >>181 >>185 >>186
第21幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……4。』 >>189 >>190 >>194
第22幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……5。』 >>198 >>201 >>204
第23幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……。』 >>206 >>209 >>210
第24幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……2。』 >>211 >>215 >>216
第25幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……3。』 >>217
------------ サブストーリー -------------
『交差する二人』・・・>>29 >>30
(300参照突破記念。黒川と水島の知られざる出会いの物語。)
『彼ら彼女らのクリスマス』・・・>>54 >>55
(600参照突破記念。元地山中学生の奇妙なクリスマスの物語。)
『物語崩壊、カオスなお祭り騒ぎ。』・・・>>72 >>73
(1000参照突破記念。あまりにもカオスすぎた。お祭り過ぎた。黒歴史とか言わないで。)
『たった一つのバレンタインチョコ。』・・・>>86 >>87
(1300参照突破記念。遅くなりましたがバレンタインネタ。元地山中学に甘い展開!?ww)
『風紀委員会の日常日記。』・・・>>104 >>105
(1500参照突破記念。風紀委員会で極秘に行われる秘密の日記が明らかに!?)
『The Time Start Of ティアナ。』・・・>>109 >>110
(1800参照突破記念。霧島とティアナ、そしてあのゼロの復活の物語……?)
『物語崩壊、カオスなお祭り騒ぎ2。』・・・>>127
(2000参照突破、日常編完結記念。もし俺メンバーのカオスな物語。
注意、この物語は18歳未満には刺激の強いちょっとした深夜族成分が含まれています。
お読みの際はにやけるお顔に気を付けて、一文一文丁寧にお読みください。By ヒトデナシ。)
『黒水SS By 火矢 八重様』・・・>>158
(トップレベルの作者様、火矢 八重様の執筆した黒水SS。
よく読んでくださる彼女でこそ書くことが出来る、レベルの高いSSですw
黒水SSは全ての読者様のモノ。皆様適当に妄想しちゃってくださいw
なお、もしも黒水SSを考えちゃった♪という神様がいるなら、
ぜひともこちらに投稿してくださればなと思いますw 私も読みたいですしねwww)
『花狩椿と銀色のいばら道』・・・>>168 >>169
(2500参照突破記念。花狩先生の少年時代の過去。
劣等感を胸に秘めた彼の前に現れた、ある人との出会いとは……?)
------------名誉、歴史--------------
・11月25日、『もしも俺が・・・・。』投稿。
・11月29日、100参照突破!! (ありがとうございます!!)
・12月02日、200参照突破!! (皆様の応援に感謝しております!!)
・12月06日、300参照突破!! (3は私の好きな数字です。とにかく感謝です!!)
・12月13日、400参照突破!! (嬉しい限りでございます。執筆ファイト!!)
・12月21日、500参照突破!! (500ですか!! 1000まで半分を切りました!!)
・12月24日、600参照突破!! (メリークリスマス!!)
・12月31日、700参照突破!! (2012年最後の日!!)
・01月05日、800参照突破!! (2013年、始まりました!!)
・02月12日、900参照突破!! (復活しました!! 皆様のためにも頑張ります!!)
・02月13日、1000参照突破!! (明日はバレンタインですか。皆様の応援に感謝!!)
・02月15日、1100参照突破!! (1000という大台を突破できてうれしいです!!)
・02月17日、1200参照突破!! (本編も10幕を突破。これからもバンバン書いていきますw)
・02月18日、1300参照突破!! (スリラーナーイト!! ……申し訳ない、深夜の悪乗りですw)
・02月21日、1400参照突破!! (もうすぐ1500!! 大感謝です!!)
・02月25日、1500参照突破!! (きたあああ!!! 1500参照ついに突破!!)
・02月27日、1600参照突破!! (おおぉぉ!! 応援に大変感謝です!!)
・03月01日、1700参照突破!! (ついに3月ですね!!)
・03月03日、1800参照突破!! (ありがとうございます!! ありがとうございます!!)
・03月06日、1900参照突破!! (もうすぐ2000ですね!! 頑張ります!!)
・03月09日、2000参照突破!! (2000参照突破しました!! 歓喜です!! 最高です!!)
・03月11日、2100参照突破!! (3000目指して頑張ります!!)
・03月11日、序章完結!! (始めの物語、無事に書き終えることが出来ました!! サンクス!!)
・03月18日、第2章、始まり!! (実はというと、サブタイトルに結構悩みましたwww)
・03月18日、2200参照突破!! (第2章も頑張ります!!)
・03月20日、2300参照突破!! (第2章、本格的にスタートです!!)
・03月26日、2400参照突破!! (もうすぐ2500ですね!! 頑張りますね!!)
・03月28日、2500参照突破!! (2500参照突破しました!! 3000目指して頑張ります!!)
・03月30日、2600参照突破!! (たくさんのオリキャラをありがとうございます!!)
・03月31日、2700参照突破!! (なんという快挙!! ありがとうございます!!)
・04月02日、2800参照突破!! (4月になりましたね!!)
・04月06日、2900参照突破!! (もうすぐ3000かぁ……。行けるといいなぁ。)
・04月14日、3000参照突破!! (うわぁぁああ!! 3000です!! 3000なんです!!!)
・05月01日、3100参照突破!! (長期休暇を頂きました!! 本日からまた執筆頑張ります!!)
・09月02日、4600参照突破!! (久々の執筆なので腕が鈍りまくりですねw)
・09月04日、4700参照突破!! (5000までもうすぐですね。頑張ります。)
・09月06日、4800参照突破!! (9月と言えば作者はもうすぐ誕生日とやらを迎えるわけですか。)
・09月09日、4900参照突破!! (もうすぐ5000ですね。頑張りますね。)
・09月12日、5000参照突破!! (5000です!! ありがとうございます。)
・09月14日、5100参照突破!! (私の誕生日です。ありがとうございます。)
・09月23日、5200参照突破!! (最近私の家族にPCを占拠される事が多くなりました。)
・11月18日、5300、5400参照突破!! (ここを建設して約一年になります。)
- Re: もしも俺が・・・・。『死。』 ( No.108 )
- 日時: 2013/03/07 19:12
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート3。」
人は死んだとき、どこに行くんだろうか。
人は死んだとき、どうなるんだろうか。
黒川も含めた科学者たちがその幻想の答えを追い求めた。
死ねば答えは分かる。しかし、逆に死ななければ分からない。
死んだ者は戻ってこない。死んだ者は生き返らない。
だれもが最後に必ず理解する、幻想の答え。それが『死』というものだ。
黒川という人間は、死んだのだろう。
彼の眼前には見たこともない世界が広がっていた。
真っ白で、何もない。ただあるのは無限大の白の景色。終わりのない、白い世界。
目がチカチカしそうで、黒川は自然と瞬きが多くなっていた。
呆然と立ち尽くし、辺りをじっくりと見渡した後、機能する脳で冷静に思った。
ここが、天国なのか。ここが、死後の世界。
さすがに辺りに羽が生えた天使が飛んでいるというファンタジーな世界ではなかったようだ。
ふと、黒川は自分の身体を見た。
元々着ていた黒の学ランは、先ほどと違って全て修復しており、傷も全くない。
そして理解する。やはりここは現実ではない、と。
現実の俺は、きっと今も笑顔で横たわっているのだろう。
息を引き取って、死体となって転がっているのだろう————。
“————貴様はそれでいいのか?”
ふと、耳に直接流れ込んできた声に、黒川はハッとした。
辺りを見渡してみるが、声の主は分からない。
“貴様は『まだ』ここに来るべきじゃない。”
その声は今度は前方から聞こえた。ゆっくりと顔をあげて目を凝らす。
目の前に立っていたのは、羽の生えた天使、もしくは聖騎士の様な人物だった。
身長は170cmぐらいで、顔つきを見る限りでは女性だろうか。
背中には綺麗で見惚れてしまうような羽が両面に広がっており、身体は金色の防具で身を包んでいる。
瞳の色は、身につける防具と同じ、金色の瞳を両目に宿していた。
「……君は……誰なんだ?」
黒川は目の前にいる女性の目を見つめて尋ねる。だが、彼女がその問いの答えをいう事はなかった。
“貴様はまだ、生きている。”
その言葉に、黒川は思わず「えっ……?」と聞き返してしまう。
予想外の言葉に困惑しつつも、女性が紡ぐ言葉に耳を傾ける。
“貴様が望めば、まだ帰れる。いや、帰らなければならない。”
確かに目の前の女性が喋っている。けれどまるで、自分の心に直接語りかけているような感覚だった。
その声は優しそうで、だけど凛としてて、そして遠い昔になぜか聞いたことのある声……。
“貴様にはいるはずだ。守りたい、守らなければならない『誰か』が。”
その言葉に再び脳が痺れた。スイッチが作動したかのように、脳が活性化する。
そうだ、俺には戻る理由がある。
死んでいないというならば、生き返れるというのなら、俺にはまだ戻る理由がある。
「……そうだ、俺には……守りたい人がいる。水島という……大切な人が。」
自分にもう一度認識させるように、黒川は呟くように言う。
胸の辺りが熱くなる。きっと自分の感情が……限界まで高ぶっているんだ。
瞬間、黒川の身体はぼおっと光り始める。うっすらと、そしてどんどんと身体が消えていく。
困惑する俺の目の前の女性は、俺を見つめ、そして微笑んだ。
「君は……一体ッ……!?」
もう一度聞いてみるが、女性はゆっくりと首を横に振った。
“しばらくはお別れだ。今度会う時は、貴様が運命の決断をするその時だ。それと————”
ほんの少しの沈黙の後、女性は口を開いた。
“貴様は私の『扉』を少し開いた。……ほんの少しだけ、貴様の持つ戦う『力』をあげよう。”
そんな意味深の言葉を最後に、俺の意識は飛んだ————。
「————黒川君ッッ!!! 起きてぇッ!!」
その言葉が届いた瞬間、黒川の目はパチリと開いた……。
先ほどとは違い、辺りはバカみたいに騒がしく、火花がちらちらと飛んでいる。
ふと自分の顔面に降り注いだ何粒ものしずく。それは黒川を抱きかかえる人の涙だった。
「……水島。」
黒川が守りたくて、守り抜いた人。水島愛奈の姿が確かに見えた。
ヒックヒックと声をあげる彼女は、きっと相当自分を心配してくれたのだろう。
そしてそれは同時に、自分が現実に帰ってきたことを意味した。
「……本当に生きてたのか。俺……。」
「ばかッ……!! ……よかったッ……。よかったよぉ……!!」
ギュッと痛いほど抱きしめられ、うっ、という声を漏らした。
目の前で泣きじゃくる彼女を愛おしく思いながら、黒川はそっと水島の頬に触れる。
「すまない……。心配かけたな。」
「本当だよ……バカッ……!! もうこんなムチャしちゃダメだよッ……!!」
ポロポロと流れでる涙は、彼女の頬を伝っていく。それを黒川の手がそっと救う。
スッと上体だけ起こし、泣きじゃくる彼女の身体を抱きしめた。
温かくて、女性独特の良い香りがする小さい身体。凄く落ち着いた。
“ひとまず、彼女が生きていてくれて本当に良かった……。”
これで俺は生き残り、彼女は死んだとなれば、多分俺は発狂していた。
だけど、俺は守り切れた。彼女の笑顔を、彼女の存在を。
そして自分も生きていた。死ぬ覚悟はあったとはいえ、純粋に嬉しかった。
そう思うと、黒川は勝手に笑みがこぼれた。本当に……よかった。
ほんの少しの間、二人は抱きしめあった……。二人の生存を確かめ合う様に……。
————そして二人の気分が落ち着いた頃合いを見て、黒川は聞いてみた。
「……だけど、どうして生きてたのかな、俺。」
「あっ……えっとね、あそこにいる人が……。」
黒川の言葉に水島はふと視線だけを向ける。それを目で追ってみた。
ちょうど承太郎がセインと戦っていた位置辺りに誰かの姿が見えた。
学生服を着た、リーゼント頭をした青年だ。
————そうか、と黒川は瞬時に理解した。
黒川は彼の事を知っている。彼の名前は、『東方 仗助 (ひがしかた じょうすけ)』。
彼もまたこのジョジョの世界に生きるキャラクターであり、
あろうことか、この物語、第四部の主人公でもある男なのだ。
無論、彼もスタンド使いであり、スタンドの名は『クレイジー・ダイヤモンド』。
こちらもスタープラチナと同じく接近戦を得意とするスタンドで、
その強さはスタープラチナと同等レベル。ダイアモンドを表す様な銀色を基調とした人型だ。
それ以外に、彼のスタンドには能力があり、それこそが答えだ。
彼のスタンド能力は、『壊れた物体、負傷した生物を元通りに直す・治す』という能力なのだ。
つまり、黒川の負傷した身体は彼のスタンドによって完全に修復されたという事だ。
その証拠に、今自分の身体には何一つ外傷がない。あれ程ボコボコにやられたというのにだ。
首の骨も元通り、貫かれた心臓も、数日前の痛みさえも消えている。
だが、彼のスタンド能力でも『死んだ人間は修復できない』。
つまり黒川が死んでからだと手遅れだったのだ。そう思うとゾッとした。
なぜなら俺の記憶が正しければ、俺は心臓を一突きされて即死だったはずだ。
つまり多分、俺が助かる猶予は長くて1分ほどしかなかったわけだ。
その間に仗助が到着して治していなければ、黒川はそのまま死んでいた。
水島があの時、身を危険に投じてまで俺を救っていなければ、
俺の身体を無理やり動かして、水島を守っていなければ、
何もかもがなければ、きっと俺はその一分間で蘇生が手遅れで死んでいただろう。
感謝しなければならない。何もかも。今までの行動全てに。
仗助に、自分の身体に、そして愛する水島に……。
————そして今、仗助は承太郎の傷を治しているのだろう。
彼もセインとの戦闘でかなり傷ついているからだ。死んではいないはずだが。
気を失っているセインの事は後で考えるとして、
「……なるほど。それは分かった、が————」
黒川はふと、先ほどから感じていた威圧感の方へと視線を向ける……。
視線の先には黒川が殺されかけたミストが退屈そうに座っていた……!!
「————あひゃ、感動の抱擁終わった? 長いなぁ、もう。」
ミストはスッと立ち上がり、不敵に笑みを浮かべた……。
ミスト・ランジェ。黒川がさっき大敗を屈した敵。
その姿を見て、震える水島の手をそっと黒川は握り絞める。
「黒川君のために今起きた数分の事を話してあげるねぇ。
まずは、いきなり現れたリーゼント君にはびっくりしたよぉ。
だっていきなり現れては一瞬で傷を治すんだもん。黒川君が元通りになっちゃって。
それで、その子殺してあげようかなぁって思ったんだけど、もうちょっと待てとか言われて、
ほんで待ってたらあら不思議—。黒川君が生き返っちゃった♪ 殺したはずなのにねぇー。
それで今まで感動の抱擁があったから収まるまで待ってたってわけ。ここまでで質問はー?」
「……とりあえず一つ言っておこう。意外に良い子だな。貴様は。」
黒川は苦笑した。意外と物分かりの良いいい子では?というバカの発想が沸いてくるほどだ。
それまでの話を聞いて驚いたのは、ミストが仗助を見逃したという点だ。
確かにミストにとっては興味ない存在だったからというのもあるだろうが、
もしかしたら興味ない者を無駄に殺傷するほどの殺人者じゃないのかもと、ほんのほんの少しだけ思った。
でもだからといって、ゼロを殺したことには変わりはない。それは絶対に許さない。
でももう一つ気がかりなのは、彼女が律儀に私の蘇生を待っていたという事だ。
その意図はよく分からないが、それでも私にとっては有難い。
……もう一度、私はミストと戦える。今度こそ、殺す……!!
殺気が湧き出て、立ち上がろうとする黒川の裾を、水島はギュッと握った。
小さな声で、「行かないで……。」という声が聞こえた。
きっともう彼女は、私に危険を冒してほしくはないのだろう。
もう二度と、私が傷つく姿を見たくはないのだろう。それは嬉しい。だけど————
ここで俺が戦わなきゃ、今度こそ水島が殺されるかもしれない。それは嫌だッ……!!
黒川は水島の頭に手を乗せ、そっと撫でる。
目に涙を浮かべる水島の瞳に触れ、ふき取ってやる。
「……約束する。今度こそ、君を泣かせはしない。君を危険な目に合わせたりしない。
————そして俺は死んだりしない……。君を絶対に守って見せる。だから……。」
そこまで言う黒川の決意が届いたのか、水島は顔をうつ伏せる。
大切な人に傷ついてほしくないと一心に願う彼女には、酷な決断を迫られている。
そして少し考えた後、黒川の裾の手がそっと離れた……。
水島は胸に手を置き、ギュッと握り絞める。ポタリと落ちたしずくが彼女の足元を濡らした。
「……絶対に……戻ってきてね。黒川君……。」
やっとの思いで絞り出した水島の声に、黒川は笑顔で答えた。
「必ず……。君と一緒に……ここから帰ろう。……すぐに、終わらせてくるから。」
黒川はそれだけ言うと、水島の頭から手を放す……。
彼女と帰る。そのために、勝つ。絶対に。
もう二度と、彼女を悲しませてはいけない……。絶対にだッ!!
そしてミストの方に向き直り、キッと睨む。
ミストはニヤリと笑うと、さっきと同じ殺気をこちらに向けた……!!
「あひゃひゃ、いいのぉ? 抱擁だけで。もっとイロイロして良いんだよ? 待ってあげるから♪」
「……貴様の言うイロイロが何かは分からんが、俺がしたいことはたった一つだ。」
黒川はグッと拳に力を入れて、殺気を向ける……。
そして自分の足元に落ちていたバトンを拾い上げ、スイッチを入れる。シャイニングブレイドだ。
「後ぉ言い忘れてたんだけどぉ、あたしが黒川君を良い子に待ってた理由ってなんだと思う?
————万全な君を殺したくなったの♪ このムチムチの足で、ね?」
ミストの靴がキラリと光る。金属でできた、対シャイニングブレイド用の靴だ。
そしてやはりか、と黒川は内心思った。
きっと彼女はもう一度私と戦いたかったのだろうと予測はしていた。絶好の機会を逃してまで。
……だが、それが油断大敵というものだ。今の俺は、さっきまでの俺ではない……。
「だからぁ、今度はちゃんと逝かせてあげるね? 君も、あの女もさぁぁッッ!!!!」
「……彼女には指一本触れさせない。そして俺も生きる。全て守って見せる。だから————」
黒川の辺りが一瞬、暴風に似た衝撃波が巻き起こる……。
瞬間、ミストは背筋が凍る思いをした。目の前の黒川が、先ほどよりも殺気が増していたからだ。
……分かる。直感的に分かる。彼は何かが変わった、と。
そして笑う。嬉しくて笑う。目の前の彼の、その純粋な殺気と威圧感にミストの胸が躍る……!!
「————邪魔をするなッッ!!! ミスト・ランジェェッッ!!!!」
黒川の咆哮と共に呼応した様に、黒川の瞳がキラリと光る……。
黒川の右目は、先ほどと同じように光り輝く、金色に満ちた瞳へと変化していた————。
————————第14幕 完————————
- Re: もしも俺が・・・・。『生きて帰る未来へ……。』 ( No.109 )
- 日時: 2013/03/08 15:57
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
“サブストーリー 『The Time Start Of ティアナ。』”
「前編。」
————10月の中旬ごろ、俺、霧島勇気の元に一人の女性が居候することになった。
彼女の名前は『ティアナ』。
大人っぽくてスタイルもかなり良い、大人の女性といった感じ。
腰ほどまである長いレモン色な髪、透き通ったサファイヤみたいなきれいな瞳、
あっさりした白く透き通ったワンピースを身にまとっている、どこか不思議な女性。
普通の人間ではあるのだが、彼女はその綺麗すぎる見た目とは離れすぎた年齢をしていた。
その実年齢、なんと10歳。20代顔負けのスタイルなのにもかかわらず、だ。
霧島は14歳であるため年齢は4歳ほどしか変わらないものの、霧島よりも大人に見える。
そのギャップに霧島は心を射抜かれたと言っても過言ではない。
————だから初めて霧島の家に連れてきた時、母はびっくりしていた。
いつの間にお持ち帰りしてきたんだ、と騒いでいた。まぁ間違ってはいないのだが。
と、いうのも、連れてきたのにはちゃんとした理由がある。
ティアナはこの世界の人間ではない。別世界の人間なのだ。
だから寝床もない可愛い女性のティアナに、居場所を提供したというのも一つの理由だし、
霧島の個人的な好意の元で一緒に住もうというのも一つの理由だ。
改めて言っておくと、霧島勇気はティアナに惚れている。
将来設計まで立てていると言っていい。嫁にする。異論は認めない。
……そんな彼女がこの家に居候して数日が過ぎた。
ティアナは最初こそ戸惑いを隠せない様だったが、日に日にそれはなくなっていた。
まぁ母親も気に入った様子で、よく家事を手伝うティアナをむしろ歓迎していた。
時々、「このまま勇気のお嫁さんになればいいのにねぇ。」なんて母親の呟きを、
「おヨメさんってなぁにぃ?」って無邪気に聞くティアナの口を慌てて塞ぐのはもはや日課だ。
あまりに無知な彼女にあまり余計な知識を入れるのは、将来の夫としては好ましく思わない。
————そして数日過ぎたとある日に、さらに家族が増えることになる……。
その日の朝、霧島は10時になっても爆睡していた。
日曜日というのもあり、久々に良く眠れる日でもあったからだ。
だけれども、遊びたいという欲望を丸出しにしたティアナが部屋に入ってきて、
「あそぼあそぼぉー!!」なんて可愛い声で布団を引っ張るから起きてしまった。
ティアナは無論、別の部屋で就寝している。それはそうだ。
いくら14歳と10歳といっても、男と女。
一緒に添い寝など、あまりにも過激で理性が持たない。(主に霧島が。)
だが、そんなティアナの攻撃などものともしない。いつもの事だからだ。
後一時間ほど寝ようと二度寝を始めたのだが、そこでティアナはとあることに気づく。
————布団を取り上げた後、ティアナが凝視したのは霧島の下半身部分。
ヒョコッとズボンが盛り上がる部分を真剣に凝視していた。
霧島はそんなティアナが凝視しているなんて知るはずもなく、諦めたか、とホッとしていると、
不意に下半身に走る手触りに、霧島は思わずピクンと飛び跳ねた……。
それもそのはず。手探りするように触られている場所は、男の子の大事な大事な『部分』だ。
そしてかつ、朝の男の子特有の『あの現象』が発生しているため、妙に元気なのだ。
何事かと霧島がその部分に目を凝らすと、それはもう驚いた。
ティアナが興味津々で大事な部分を擦っているのだから。目をキラキラさせている……。
「キリちゃん何これ?」といった表情で不思議そうに擦るティアナを目にした瞬間、
霧島はマッハのスピードで飛び起きて発狂したものだった。
それを不思議そうにティアナは見ていたが、分かるはずもない。
そりゃあまぁ微笑ましい状況だし、気持ちいいからそのまま……なんて邪念もあるが、
擦られてるこちらとしては、一歩思考を間違えれば獣へと変貌してしまう。
そんな邪念を捨てるためにも、全力で逃げた霧島の意図など分かるはずなどなく、
「触らせて触らせてぇ!!」って15分程追いかけられて、霧島はようやく起きたのだった……。
- Re: もしも俺が・・・・。『ティアナの始まりの時間。』 ( No.110 )
- 日時: 2013/03/08 23:01
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「後編。」
————と、いうのはさておいて、ティアナが起こしに来たのはさらに別の理由があったようだ。
以前霧島とティアナの間に、一つの約束を交わしていた。
それは……ティアナのお友達である、ゼロの再生。修理だ。
アンドロイドの世界で、ゼロはティアナの危険を身を捨ててまで守り、そこで息絶えた。
悲しみに打ちひしがれるしかないティアナをもう一度立ち上がらせたのは、
他でもない、霧島勇気の熱心な言葉があってこそだ。
ゼロの生き様は立派だった。ゼロは後悔無しで死んでいった。
けれど、ティアナはそれでももう一度再会を願った。
自分の手で自分の友達を救えるのなら、と。
ティアナはこの数日、ひたすらゼロの復元、修理に身を投じた。
無論、それを霧島も無言で見届けた。いつか叶う、その日まで。
そしてついに、それは数日の時を経て叶った……。
「お……おお……!!」
ティアナに引っ張られて、霧島は早足で庭に出てみると、
目の前にいたのは、あの時のゼロそのものだった。
紫色の長めのストレートヘアーで、全身には紫の鎧に身を纏った、あのままだ。
今はまだ命の息が吹き込まれておらず、動いてはいない。
が、それはティアナの指先一つで全て解決する。ティアナの持つスイッチで。
ティアナをふと見てみると、何やら不安な表情を浮かべていた。
ついさっき完成したこともあり、システム的にもしかしたら不都合があるかもしれない、と。
そして最も心配だったのは、記憶の復元の安否。
ティアナは過去のゼロの記憶を別の機械にバックアップデータとして残しており、
それを目の前の新しいゼロに埋め込んだ……はずだ。
それでも正常に機能するとは限らないし、もしかしたら失敗しているかもしれない。
失敗していれば、あの頃のゼロではない、別のゼロが誕生する。
けどそれでもいいと思った。それならそれで、新しく思い出を作り直せばいい。
思い出などこれから作ればいい。昔の記憶など……大したものではない。
だけど……なぜだろう。ティアナは身体の震えが止まらない。
きっと、ティアナは怖いのだ。どこか振り切れていない部分があるのだ。
昔の事を忘れたゼロに会うのが、とてつもなく怖い。
あの頃、孤独だった彼女と一緒に過ごしてきたゼロがいなくなると思うと、
身体は意識と関係なく震えだす。嫌だ嫌だと嘆きだす。
ティアナは本当はあの時のゼロに会いたい。そう思っているに決まっている。
だからこそ、霧島は震える彼女を抱きしめた……。
恐れるな、怖がるな、俺がいると囁いた。
ゼロを信じろ、自分を信じろ。あの時ティアナが望んだ現実は、きっと実を結ぶ。
だから……きっと大丈夫。前へ進むんだ……。
霧島の言葉に何度も頷き、ギュッと手を握った。
霧島も、ティアナの手を握り返した。そして、微笑んだ。
きっと、大丈夫。そのためにティアナは、ここまで頑張ったのだから……。
覚悟を決め、ティアナは勢いよくボタンを押した……。
ガクンと震える様にゼロが動いた。きっと動力が稼働したのだろう。
何度か震えた後、ゼロは数秒間ピタリと止まった。
その様子を、二人は手をつないで見届けた……。
きっと大丈夫、きっと大丈夫と何度も願う。つなぐ手を、強く感じて。
————そしてゼロはゆっくりと動き出した。
まずは自分の身体を恐る恐る見ていた。手を足を、身体中を。
そして次に、太陽が昇る天を見つめた。
快晴で、雲一つない青空。空を浮かぶ機械。あれは飛行機というのだと瞬時に理解した。
そして一度目蓋を閉じた。太陽の光を、全身に浴びせているようだった。
最後に、前方の二人を見た。一人は少女、一人は男性。
交互に見た後、ゼロはそっと口を開いた————。
「————ただいま戻りました、ティアナ様、霧島様。」
と、はっきりとした口調で言ってのけた……。
「……ぁ。」
二人同時に間の抜けた声を出した。一瞬まばたきをして、二人は顔を合わせる。
そして熱く込み上げるモノを我慢して、二人はゼロに向き直った。
「ゼロッ……ゼロぉ……ッ!!」
「ティアナ様、また会えたこと……我は光栄に思います。」
「ゼロぉッ……!! ゼロぉぉッ!!」
ポロポロと涙を流し、ティアナは急いで駆け寄っていく。
全身でゼロに体当たりし、抱きしめる。その身体に……熱を感じる。
胸で泣きじゃくるティアナを、ゼロはそっと両手で包み込んだ。
ゼロは……あの時のままだ。何も変わってはいない。
そう認識すると、ティアナは涙が止まらなかった。それはティアナだけではない。
霧島も、呆然と立ち尽くして泣いていた。まるで奇跡を見たかのように、動かなかった。
ゼロも信じていたのだ。きっと、ティアナの元に戻れることを。
そしてティアナも信じた。きっと、ゼロが戻ってきてくれることを。
こんな二人を前にして、奇跡と言わずなんといえというのか……。
「は……はは。ガチ泣き……してんじゃねぇか……。おれ……ッ。」
思わず泣き笑いの様な顔をして、二人の抱擁を見つめた。
きっと今までで、一番うれしかったのかもしれない。
自分の好きな少女が、見事夢を実現したことに。
そしてそれを、一番近くで見られた事に……。
「霧島様、ティアナ様を守っていただき、本当にありがとうございます。
————それにしても、なぜ霧島様が泣いておられるのですか? 疑問。」
「ッ……う……うっせ!! 今は俺なんかよりッ、ティアナの事を気に掛けろ……。」
泣いた顔を急いで腕で拭き、霧島は背中を向けて言う。
ゼロが霧島の事を知っているのは、ティアナが新しく記憶に埋め込んだからだ。
霧島だけじゃない。黒川の事も無論記憶に入っている。
だけどゼロの過去の記録の中に、霧島の記憶は強く残っていた。
自分の洗脳を身を投じて破ってくれたこと、ティアナの事を必死に訴えてきたこと。
これだけでもゼロにとって、感謝を述べるのに十分だと言えた。
「ウッ……ううぅ……わぁぁああんッ!!」
ゼロの中で未だ泣きじゃくるティアナに、ゼロは苦笑して頭を撫でた。
まるで子供を慰める母親の様に、ゼロはティアナにそうし続けた……。
これ以上、言葉はいらない。
これだけで、お互いの気持ちや言いたいことは理解したから。
あの時言えなかったことも、あの時に伝えられなかった気持ちも、
これから時間のままに伝えていけばいい。
そう、ティアナの時間は……ここから始まるのだから————。
“霧島様、何をしようとしているのですか?”
“ああ、写真だよ。記念にカメラで撮っておこうと思ってな。”
“記念? 疑問。一体何の記念でしょうか?”
“キリちゃん、何か良いことあったのぉ?”
“……ああ、あったさ。今日はきっと特別な日になる。これからも、な。”
“へぇー!! なんの記念—?”
“そりゃあティアナちゃん、決まってるだろ? ゼロが生き返った日、そして————”
“————俺達三人が、『家族』になった記念日だ!!”
パシャッとシャッター音が鳴り響き、一枚の写真に収めた……。
そこにはティアナを中心に、三人が笑顔で移った大切な写真。
三人が笑顔で同じ時を生きる、大切な時間が移っていた————。
———————— Fin ————————
- Re: もしも俺が・・・・。『ティアナの始まりの時間。』 ( No.111 )
- 日時: 2013/03/09 16:09
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
————第15幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……終編。』————
「パート1。」
背中には、温かい視線が感じる……。
俺の背中には、俺が守りたい人がいる。
引くわけにはいかない……。死ぬわけにはいかない……。
かならず帰る……。笑顔で、元の世界に————
「ミストッ……ランジェエエェッッ!!!!!」
————瞬間、二人の身体が同時に動いた……!!
黒川とミストの接触は、わずか一秒もかからなかった。
先手をかけたのは……ミストだった。
さっそくミストは瞬時に地面に両手を突き、挨拶代わりの鋭い蹴りを腹部にお見舞いするッ!!
「……ッ!?」
ミストは一瞬動揺した。黒川はその蹴りを右足を上げ、真正面から膝で防御した。
てっきりシャイニングブレイドで防御してくると思っていたので、
まさか直接膝を使ってくるとは思っていなかったからだ。
“ッ!! 嘘でしょ!? まさか真正面からあたしの蹴りをッ……!?”
ハッキリ言って想像していなかった。なぜなら、無謀ともいえるからだ。
今やミストの蹴りは、金属製の靴の事もあり、攻撃力は倍増していると言っていい。
それを生身の身体で受ければ、下手をすれば骨をバキバキに折られる。
いや、むしろ普通の人間なら普通のミストの足でも折れているのだけど。
黒川は自分でもそれを分かっていて、だから今まで剣を使って防御していた……はずだ。
なのに、今まさに目の前でミストの蹴りを簡単に受け止めている。
そしてシャイニングブレイドは、剣先が地面すれすれのところで静かに構えられている。
構えが今までみたいに胸辺りに構える上段の構えではなく、
むしろ足元に構える下段の構えになっているところも不思議な点だ。
それはまるで防御を捨てたようで、防御する気がないとも見える。
「なんのつもり……ッなのよッ!!」
ミストは連続して高速の足蹴りを繰り出す……!!
狙いは無論、主にシャイニングブレイドの構えられていない顔面部分に。
分身して何重にも見える蹴りは、常人にはとても見切れない。回避も難しい。が————
————黒川の動きは、精密で、そして完璧だった。
一つ一つのミストの蹴りを完璧に見切り、全てを紙一重で躱す。
時々ミストの蹴りが顔をかすめ、かすり傷が付くことはあるけれど、それだけだった。
黒川の金色の右目が忙しなく動き、全ての蹴りの動きと速さを……読む。見る。
ミストの表情が、思わず曇った。
ミスト自身の蹴りが遅くなったわけではない。むしろさっきよりもスムーズで速い。
しかしそれ以上に、黒川の回避はその攻撃を完璧に見切って見せた……!!
「このッ————!!」
ミストも自分の蹴りが躱されることにさすがにムキになり、
顔面付近に放っていた蹴りから、即座に足元部分に狙いをつけた蹴りを放つ。
……瞬間、黒川はスッと態勢を低くした。
そしてミストが蹴りを放つより前に、黒川は瞬時に右足で地面に付く両手を薙ぎ払った。
足払いならぬ、両手払いを受けたミストは困惑したまま態勢を崩し、逆立ちから解除される。
ミストの態勢が崩れた所を狙い、今度は黒川の鋭い左足の蹴りが、ミストの腹部を捉えた……!!
「……あぅぅッ……!!」
思わずうめき声をあげたミストだったが、すぐに両手をつき、黒川に蹴りの連打を浴びせる。
が、これも全て、黒川の異常とも取れるほどの回避能力で、悲しくも空を切った……。
まるで見切られている。自分の攻撃が……全て紙一重で躱される……!!
「きゃあぁぁッ!!!」
ミストの放った蹴りの一発を、黒川は空いている片手で止めると、
ミストの足首を握り、一回振り回した後、力一杯遠くに投げた……。
ほんの5mほど投げられたミストだったが、大したことはないと判断し、
冷静に態勢を立て直し、クルンと回って落ち着いて地上に着地する。が、
「……ッ!!」
瞬時にミストに接近していた黒川が、ついに牙をむいたッ……!!
下段に構えていたシャイニングブレイドを真っ直ぐに突きだす。
狙いは、ミストの顔面。迷いなく、熱を帯びた剣がミストの眼前に突きだされる。
とっさに右に回避し、かろうじて紙一重で空を切った。
ほんの少し、刃がミストの頬に触れて焼けた。チリチリと焼ける感触がする。
ミストはゾッとする悪寒を覚えたが、すぐにキッと殺気を向ける……ッ!!
「……よくもあたしのッ……綺麗な肌をォォッッ!!!!」
ブチ切れたのか、ミストの表情が今までの表情と一変する……。
陽気な表情はすでに消え、目の前にいるのがトラの様にさえ感じる。
しかし、それでも黒川の表情はあまりにも冷静であった。まるで機械の様だ。
金色の瞳がミストを見据え、冷静に分析しているようにさえ見える。
無言のまま、一言も喋らず黒川はグッとシャイニングブレイドを持つバトンを握る……。
「やあああアアアアアァァァッッ!!!!!」
奇声にも似た声を発し、ミストは逆上して冷静さを失った。
ナイフの様に手のひらを鋭くし、黒川の心臓を貫いた時の様に、
殺気を纏ったミストは左手で手刀を繰り出すッ……!!
この時点で、ミストの判断は失策だ。
なぜなら、シャイニングブレイドを防ぐ術が左手にはないからだ。
ここは冷静に金属の靴を使った足技で攻めるべきだったのだ。
だが、だからといって逃すわけがない。否、逃すはずもない。
それを黒川は無情にも空いている手でミストの手刀を止めた後、
ミストにも見える様に、キラリとシャイニングブレイドを光らせた。
まるで、今から焼き切ってやると言わんばかりに不気味な雰囲気を漂わせて……。
「……ひッ————」
ミストが甲高い悲鳴を上げた直後、黒川は容赦なく掴んだ左腕に熱を帯びる刃を当て————
————そのまま切り裂く様に、ミストの左腕の関節部分から手の先にかけて切断した……!!
「————イイィイイアアアアアアアアアアッッッ……!!!!!!!」
ミストは走る痛みに耐えかね、ついに初めての悲鳴を上げた……。
ジュッという熱と共に焼き切られた左腕は、切断部分が赤く熱を帯びていた。
血こそ出ないものの、関節部分を境に、完璧に左腕は分離した。
分離した左腕の一部はミストの足元へと落ちた。ジュッという音が鳴っている。
黒川はそれを一目も見ることなく、ただただ冷静に棒立ちしていた。
目の前で倒れ込み、痛みで地面に転がるミストに冷たい視線を向けて……。
ミストは痛みで表情を曇らせ、額から変な汗さえも出始めていた。
ミストがうっすらと、「痛い……痛いッ……」と呟いているが、黒川は気にかけない。
「黒川……くん……。」
背後から、かすかに水島の声が聞こえた。震えていた。
いつの間にか黒川のすぐ近くに来ていたのだった。震える足で必死にここまで。
多分、水島にはなぜ黒川がここまで酷い事をするのか、分かってはいないだろう。
「もう……いいよッ……? 止めて……?」
水島が言いたい気持ちはよく分かる。酷い事をしているのは分かっている。
けれど、俺には許せない憎悪がある……————。
ジュッとさらに音が鳴り響いた……。
さらに切断した音。熱の刃が、人の肉を、骨を焼き切った音。
————黒川は、さらに関節部分を境にミストの両足を切断した……。
「————〜ッッッ!!!!」
ミストは今度は声にならない悲鳴を上げた……。
痛みの絶頂を超え、声すらも出ないのだ。目を見開いて、痛みを受け入れるのみだった。
左腕、右足、左足。計三か所を切断した。後は心臓を————
「もうやめてぇッ!! 黒川君ッッ!!!!」
黒川の背中から声がしたかと思うと、黒川はガッシリと両手を押さえられた。
細く綺麗な腕。黒川の背後に感じるほのやかで甘い香り。水島だった。
「……離せ水島。俺は……こいつを許さない……。」
「ダメッ!! お願い黒川君ッ……お願いだからッ……!!」
「……ッ!!」
震える声で訴える水島の声に、持っているシャイニングブレイドの腕の力が一瞬緩まる。
背中に染みる涙が黒川の表情を曇らせる。目の前の敵への……殺気が止まり始める。
だけど……だけど……。こいつは……許してはいけない。
そして黒川は、またも腕に力を入れて、シャイニングブレイドの刃をミストに近づけていく……。
「……水島、俺はやはり許せない……。こいつを……ッ!!」
「ダメだよッ黒川君ッ!!! だって……だってッ————」
水島の声が、静寂だった辺りに響き渡る……。
「————もう彼女はこれ以上……戦えないよッ…………。」
「————ッ!!」
水島の言葉にハッとした。我に返った。
熱くなった頭が次第に冷静になり、ぼおっとする。
目の前の視覚さえも今まで以上にはっきりと見え、ミストに視線を落とす。
左手と両足が切断されており、もはや一歩も動けない状態。
今ミストは荒い息を出し入れしており、いかにも辛そうであった。
それはそうだ。普通の人間なら、痛みのショックで死んでいても可笑しくはない。
「ぁ……。」
黒川は情けない声を出した……。
さっきまでの殺気がまるでなくなってしまい、黒川はポトリとバトンを落とした。
シャイニングブレイドの刃が消え、ただのバトンへと戻った。
唖然としてミストを見下ろし、黒川は自分の行動を冷静に……恥じた。
“これじゃあ……俺はただの殺人鬼じゃないか……。”
ゼロが殺された時、黒川の中で何かが弾けていた。
それはあまりに行き過ぎた正義感からの憎悪。
ミストを許せないという感情が、人並み以上の憎悪を生み出していた。
憎悪は黒川をいつの間にか、ミストをただ殺す様に誘導していた。
いつしか黒川はミストを『殺す』事だけを最優先に考えていた……。
水島が殺されかけた事もあり、それは一層強くなっていた。
……違う、そうじゃないんだ。それだと、ただの憎悪に満ちた敵討ちにしかならない。
『殺す』のは本当の意味で、最後の最悪の手段だ。それを安易に実行してはいけない。
……だから、今は殺しちゃ、ダメだ。
何も出来ない相手に……一方的に手を出してはダメだ。
それじゃあこいつらと一緒だ。だから……俺は……。
黒川はグッと拳を握りしめた。目蓋を一度キュッと閉じ、そして再度見開く。
そして肩の力を抜いた。それを感じて、水島はそっと押さえていた両手の拘束を解いた。
「黒川君……。」
「……ありがとう水島。おかげで……俺はこいつらと同じにならなくて済んだよ。」
黒川はゆっくりと振り向いて、フッと笑った。
水島の目に涙が滲み、ポロポロと涙が頬を伝う。そんな水島の身体をそっと抱き寄せた。
黒川の胸の中で、肩を震わせて泣いた。きっと、怖かったのだろう。
背中を優しくさすり、温かい体温を感じながら、黒川もそっと目を閉じていた。
気付けば黒川の右目の瞳は、金色ではなく、いつもと同じ青色に戻っていた。
「……あひゃ……せ……せっかく……もうちょっとだった……のに……殺さない……の……?」
ミストが短く単語を区切りながら、絞り出す様に言葉を発する。
「……俺は貴様を許さない。だが、今の貴様は殺すに値しない。」
「あひゃ……かっこいい……こと……いうじゃん……。後悔……するよ……?」
「二度は見逃さない。もう一度戦う時があるなら、その時は……分かるな?」
黒川はミストに背を向けたままだったが、その威圧感はミストに伝わった。
ミストはそれを嬉しそうな表情で受け止め、「楽しみ……。」と一言漏らして気絶した。
黒川の威嚇にも取れる言葉さえも、彼女にとっては楽しみの一環でしかないのだろう……。
「————やはり貴公がそうでしたか、『覚醒種』。」
黒川の背後、ちょうどミストの隣にストンと降り立った人影。黒ローブだった。
『覚醒種』……そういえば、ミストもそんなことを言っていたな、と黒川は思い出す。
黒川がその『覚醒種』と分かった途端、ミストは焦った表情を見せていた。
「……その『覚醒種』とやらはなんだ?」
黒川は振り向かず、泣きじゃくる水島を抱えたまま質問する。
背後から殺気やらは感じない。多分この黒ローブは黒川達に敵意を示していない。
ゆえにわざわざ身構える必要もないだろうと黒川は判断していた。
「残念ですが、お答えすることは出来ません。まだ私も解析の途中ですから。」
「……そうか。」
これ以上は無駄だろうな、そう黒川は判断した。だから短い返事を返して会話を切った。
あいにく、今の黒川はまるで闘争心がそぎ落とされたかのように脱力していた。
敵意を向けてこないというなら、こちらから食ってかかる必要もないだろう。
それに今はどうでも良かった。この戦いは、もうこちらの勝ち同前だからだ。
セインは承太郎によって完全に沈黙。今は仗助のスタンド能力による治療を受けている様だ。
ミストもそうだ。今はとても戦える状況じゃない。下手をすれば、このまま死ぬかもしれない。
「申し訳ありませんが、ミストはこちらで回収させてもらいますよ。
……抗うなら、お相手しないこともありませんが、いかがなさいますか?」
「……貴様はまだ未知数だ。相手をしなくて済むなら、それに越したことはない。」
「賢明な判断、感謝します。」
黒川としても、これ以上の戦いは望まない。むしろ黒ローブの言葉にホッとしたのも事実だ。
黒ローブは両手でそっとミストを抱きかかえる。気絶したミストの表情は、どこか穏やかだ。
「……向こうのセインとやらは回収しないのか?」
黒川がふと聞いてみると、黒ローブは「ええ。」と短く答えた。
「彼はもう十分すぎる仕事をしました。後の処理は貴公達に任せますよ。」
「用済みになったらポイ、か。反吐が出る。」
「褒め言葉です。……おっと、そうだ。」
黒ローブは思い出したかのように言葉を紡ぐ。
「自己紹介、しておきましょう。貴公とはどうせまた会う事になるでしょうから。
————私の名前はセルダーク。DDD教団の科学者です。」
「————ッ!?」
思わず、背を向けていた黒川は振り返った。黒ローブと対峙し、目を見開く。
DDD教団。無論、黒川だって知っている。裏社会の最低最悪の犯罪集団。
世界を滅ぼすための組織とも言われ、噂ではどいつもこいつも人間を超えた化物であるとか。
目の前の黒ローブ、セルダークと呼ばれる奴は確かにそう言った……。
「では……失礼。」
セルダークは瞬時に漆黒のゆがみを出現させると、そこに吸い込まれる様にして消滅した。
一瞬の出来事だったため、質問する間もなく消えてしまった……。
「……DDD……教団……。」
黒川はもう一度、呟くように復唱した。頭の中に、その単語がグルグルと回る。
ミストもそのDDD教団の一員という事になる。そしてセルダークも。
だがしかし、奴らがなぜこんな『もしもの世界』に行き来している?
そして最近騒がれている、特殊部隊の活発化。DDD教団との戦争の可能性。
そしてそして、黒川に向けて発せられた『覚醒種』という言葉……。
「……今この世界では……何が起ころうとしている……?」
目の前で消えてしまった奴らの場所を見つめ、呆然とする……。
そして業火と崩壊を続ける杜王町を背景に、自分と大切な人の存在を確かめる様に、
黒川は水島の身体を包む両手に、グッと力を込めて強く抱きしめた————。
- Re: もしも俺が・・・・。『決着……!!』 ( No.112 )
- 日時: 2013/03/10 14:57
- 名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「パート2。」
その後、黒川と水島、そして後々合流した花狩先生は、承太郎達の元に向かった。
お互いに顔を合わせた時、承太郎達はお前らは誰だ?、という様な顔をしてきた。
まぁ黒川達は知っているが、承太郎達が知らないのは当然と言えた。
けれど自己紹介をしている暇もなく、結局この後、する時間などなかった。
————色々、お互いに聞きたいことはあった。
例えば、承太郎や仗助からしてみれば、黒川と戦っていた奴らは誰だったのか、であったり、
黒川達にしてみれば、なぜ杜王町がこうなってしまったのか、であったり。
しかし、黒川達にとってはそんな長居をしている時間もないのも事実。
残り5分程度しかなく、お互いに知りたいことを探るのはこの際やめにした。
そして話題は、一人の青年に移った……。
承太郎が止めたこのセインという男。今は気絶しているが、死んではいないらしい。
そして洗脳も解けていると見ていいだろう。これはセルダークの言った言葉が正しければ、だが。
ただ、もしもまだ洗脳が解除されてないというならば、多分セインを連れ帰ったに違いない。
だからもう暴れることはないはず、というのが最終的な結論だ。
とはいえ、セインのしてしまった罪は……重い。
町一つを壊滅状態にしてしまったこともあり、それはとても許されない。
目覚めたセインがはたしてどのような行動をとるのかも、まだ分かったわけではない。
なのでセインの処理、処罰はこちらで決めると承太郎が提案したのだった。
……それを決めた直後、黒川達についにタイムリミットが来てしまった。
徐々に身体が消えていく三人を見て、承太郎達は目を見開いて驚いていた。
仗助は、「やべぇぜ……グレートだぜ……!!」なんて驚きの言葉を言っていた。
承太郎は、「やれやれ、不思議なヤローだな……。」なんて、呆れた表情をしていた。
結局もっと話したい、もっと楽しみたいという気持ちが解消されないまま別れが来てしまった。
だから最後に、「また来る。」、そう一言だけ残して、黒川達は消滅した————。
————そして現在、人気のないいつもの公園に帰ってきたわけであった。
結局、紫苑の言っていた『物語の危機』というのは、十中八九『奴ら』の事を指しているのだろう。
紫苑には感謝しなくてはならない。おかげで、黒川達は色んな情報を得た。
そしていち早く察知できた。世界に何か起こるかもという危機を……。
DDD教団……。まさか奴らが本当に動き出しているなんて思わなかった。
先ほど花狩先生に聞いてみたのだが、詳しくは知らない様だった。
まぁ当然だ。分かっているなら対策を早急に練っているわけで……。
「…………。」
で、まぁそれは良いとしよう。後々に考えるとしよう。しかしだな————
「……黒川君、一つ質問があるんだけど。」
「……何かね、先生。」
苦笑した花狩先生が手をあげて尋ねてくる。
まるで生徒と先生の立場が逆になった様だ。それもそのはず……
「————なんでセイン君、『こっち』に来てるのよ?」
チラリとお互いに視線をある場所に向ける……。
そこには本来なら『向こうの世界』にいるはずのセインが、なぜか横たわって倒れていた。
気絶して、眠っているようだった。穏やかな表情は、とても町をぶっ壊した殺人鬼には見えない。
「し……知りません。」
「うおおおい!! 承太郎さんとの会話の意味ないじゃんかよ!!」
花狩先生がそういうのもごもっともだ。てっきり私達はセインを承太郎に任せた気分でいた。
処理処分はこちらで決めると言っていたので、まぁ辛い事にならなければいいかと心配ではあったが、
まさか一緒に飛んできてしまうとは。一体何の冗談なのだ?、と黒川は首を傾げた。
「これじゃあティアナちゃんと一緒じゃないか……。
おいおい黒川君、いつから君はどこぞのリア充主人公になったんだ?」
「一級フラグ建築士という資格がありまして……って、違いますよ、先生。」
思わずノリツッコミをしてしまう程、黒川も焦っていた。
偶然ではない、必然? そう思ってしまう程の出来事。
もしかして出会った人が全員こっちに来てしまうのか?、という仮説を立ててみたが違うだろう。
なぜなら、それならドラえもんや、承太郎もこちらに来るはずだ。なのに来ていない。
頭を回転させればさせるほど、謎はどんどん深まった。なので、いったん止めた。
ゴホンと咳き込んで、黒川は頭を冷静にして、本題に入る。
「……とにかく先生、一旦そちらで預かってもらえるか? セインを。」
「ま……まぞで?」
「マジで? と言いたいのだな? そうだ。マジだ。」
「うおぅふ……。こりゃあ一応遺書書いたほうがいいか……。」
花狩先生は襲われる前提で考えている様だ。その証拠に、本気で怖がっていた。
まぁ確かに、もしまだ洗脳が解けていなければ、その時点でアウトだ。
その時は……葬式ぐらいには行ってあげようかと黒川は思った。
……ただまぁ、冗談抜きで、今頼れるのは花狩先生しかいない。
もちろん花狩先生もそれが仕事であるし、保護するのも役目だ。
だから当然であると言えば当然である。が————
「ま、こっちは任せてよ。ほんで……だな。問題は……だな……黒川君。」
「…………。」
花狩先生の言葉が詰まり、咳払いを一度して、チラッと横目で黒川の隣を見る。
————先生の言いたい事は大体分かっている。一番の問題は、彼女だ。
花狩先生の視線の先には、水島愛奈がいた。しかし、問題であるのは、水島の状況だ。
水島は今、黒川の腕を絡めてギュッと抱き着いている。ピタッとくっついて、無言で俯いていた。
「……相変わらず、返事なし?」
「……ああ。」
花狩先生が耳打ちすると、黒川は小さく頷いて答えた。
セルダークが消えた後から、ずっとこの調子だった。
無言で黒川にピタッとくっつき、離れなかった。それほど怖い思いをしたのだろう。
試しに何度呼びかけても、彼女は無言のままだった。何も言わず、ただ身体を預けた。
「……水島は私がなんとかする。だから……大丈夫だ。」
「……さすがに役得だねぇ……って、おちょくることも出来ないな。」
花狩先生もさすがにおちょくる元気が出ない程、表情を曇らせていた。心配なのだろう。
黒川も無言で俯き、隣の水島の絡める手を、そっと握る事しかできなかった……————。
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