複雑・ファジー小説

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もしも俺が・・・・。『フィーダと那拓。』
日時: 2014/01/03 18:25
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)

   作者の今叫びたい一言  『ツイッター、始めました。>>205』 (By 作者)


   序章、あとがき+読者様へ一言!! >>114

   土下座で頼む、簡単アンケート!! >>115
   ↑アンケート円滑化のために、登場人物のリストを作りました!! >>123

   オリキャラ大募集中!!!(こちらをお読みください。) >>140



 【第一回 アンケート回答者リスト!! スペシャルサンクス!!】

・月葵様 →>>117
・るるこ様 →>>125
・檜原武甲様 →>>133
・李々様 →>>134
・八重様 →>>138
・エストレア様 →>>145


 【オリキャラリスト!! スペシャルサンクス!!】

・李々様 →>>141 『明蓮寺 美夜』 >>151 『古屋 朱李衣』
・95様 →>>142 『葉隠 空冴』 >>146 『鳳凰院 龍雅』
・エストレア様 →>>145 『キル・フロート』
・檜原武甲様 →>>147 『知名崎 宇検』
・月葵様 →>>148 『結風 遥』 >>156 『矛燕』 『ゼヘト』
・グレイ様 →>>152 『周邊 蓮華』
・八重様 →>>155 『雛姫 容子』
・るるこ様 →>>166 『王 莉紅』 『鳳広炎』









   クリックどうもありがとうございます。


  おはようございます、こんにちは、そしてこんばんわ。

  どうも初めまして。ご存知の方はお久しぶりです。

  私の名前はヒトデナシと申します。



 “自己紹介が終わったところで、この小説の注意点です。”


  1、荒らしの方々は回れ右して去ってください。

  2、読んでいただけるとすごくありがたいです。

  3、コメントをもらうと、作者は歓喜に満ち溢れます。




 “では次に、この小説はどんなものなのかを紹介いたします。”
    

  1、この小説の中心の視点は基本、主人公である俺(作者ではありません。)が中心です。

  2、この小説は、主人公が『もしもの世界』を体験したとき、どのように思うのか、またはどのように動くのかを描いたものです。

  3、基本、自由である。



  ————と言った感じでございます。



  では早速書いていきたいと思います。

  楽しんでいただけると幸いです。



  ・登場人物・・・主要人物 >>119
          黒川陣営 >>120
          リバース陣営 >>121
          DDD教団陣営 >>122


  ・イラスト広場(心優しい絵師様、常時募集中)・・・>>62

  ・用語説明・・・>>63




   コメントを下さった優しい読者様


 ・月葵様 
 ・八重様
 ・秘密箱様
 ・エストレア様
 ・小枝様
 ・るるこ様
 ・春野花様
 ・陽様
 ・修道士。様
 ・檜原武甲様
 ・李々様
 ・ちぇりお様
 ・95様
 ・グレイ様
 ・H様
 ・007様



    ———— 『もしも俺が・・・・。』目次 ————


【序章、日常編】 

  表紙→>>12 (八重様)
  挿絵→ 第1幕 >>20 (るるこ様)
      第6幕 >>89 (るるこ様)
      第15幕 >>125 (るるこ様)


   第1幕 『もしも俺が自己紹介をしたのなら……。』 >>1 >>7 >>8
   第2幕 『もしも俺が自分の世界を紹介するなら……。』 >>14 >>16 >>19
   第3幕 『もしも俺が風紀委員会を紹介したなら……。』 >>23 >>24 >>25
   第4幕 『もしも俺がドラえもんの世界に行ったなら……。』 >>31 >>32 >>35
   第5幕 『もしも俺がドラえもんの世界に行ったなら……続編。』 >>36 >>37 >>43
   第6幕 『もしも俺(様)が華麗に参上したなら……。』 >>46 >>50 >>51
   第7幕 『もしも俺がアンドロイドの世界に行ったのなら……。』 >>56 >>60 >>61
   第8幕 『もしも俺がアンドロイドの世界に行ったのなら……続編。』 >>64 >>65 >>66
   第9幕 『もしも俺(様)が異次元を渡るなら……。』 >>69 >>70 >>71
   第10幕 『もしも俺(様)がゾンビの世界に飛び込んだなら……。』 >>76 >>77 >>82
   第11幕 『もしも俺(様)がゾンビの世界に飛び込んだなら……続編。』 >>83 >>84 >>85
   第12幕 『もしも俺が休日を過ごすのならば……。』 >>88 >>93 >>96
   第13幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……前編。』 >>101 >>102 >>103
   第14幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……後編。』 >>106 >>107 >>108
   第15幕 『もしも俺がジョジョの世界に行ったのならば……終編。』 >>111 >>112 >>113

   あとがき、そしてコメントを下さった方々に感謝の言葉を!! >>114


【第2章、闇人(やみびと)と天使編】

  プロローグ >>124


   第16幕 『もしも俺が日常を過ごしたのなら……。』 >>128 >>131 >>132

   第17幕 『もしも俺がこれまでの事をまとめたなら……。』 >>136 >>159 >>160

   第18幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……。』 >>163 >>164 >>165

   第19幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……2。』 >>170 >>171 >>176

   第20幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……3。』 >>181 >>185 >>186

   第21幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……4。』 >>189 >>190 >>194

   第22幕 『もしも俺が魔法が使われている世界に行ったのなら……5。』 >>198 >>201 >>204

   第23幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……。』 >>206 >>209 >>210

   第24幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……2。』 >>211 >>215 >>216

   第25幕 『もしも俺(様)がドラクエの世界に行ったのなら……3。』 >>217




    ------------ サブストーリー -------------


  『交差する二人』・・・>>29 >>30 
  (300参照突破記念。黒川と水島の知られざる出会いの物語。)

  『彼ら彼女らのクリスマス』・・・>>54 >>55
  (600参照突破記念。元地山中学生の奇妙なクリスマスの物語。)

  『物語崩壊、カオスなお祭り騒ぎ。』・・・>>72 >>73
  (1000参照突破記念。あまりにもカオスすぎた。お祭り過ぎた。黒歴史とか言わないで。)

  『たった一つのバレンタインチョコ。』・・・>>86 >>87
  (1300参照突破記念。遅くなりましたがバレンタインネタ。元地山中学に甘い展開!?ww)

  『風紀委員会の日常日記。』・・・>>104 >>105
  (1500参照突破記念。風紀委員会で極秘に行われる秘密の日記が明らかに!?)

  『The Time Start Of ティアナ。』・・・>>109 >>110
  (1800参照突破記念。霧島とティアナ、そしてあのゼロの復活の物語……?)

  『物語崩壊、カオスなお祭り騒ぎ2。』・・・>>127
  (2000参照突破、日常編完結記念。もし俺メンバーのカオスな物語。
  注意、この物語は18歳未満には刺激の強いちょっとした深夜族成分が含まれています。
  お読みの際はにやけるお顔に気を付けて、一文一文丁寧にお読みください。By ヒトデナシ。)

  『黒水SS By 火矢 八重様』・・・>>158
  (トップレベルの作者様、火矢 八重様の執筆した黒水SS。
  よく読んでくださる彼女でこそ書くことが出来る、レベルの高いSSですw 
  黒水SSは全ての読者様のモノ。皆様適当に妄想しちゃってくださいw
  なお、もしも黒水SSを考えちゃった♪という神様がいるなら、
  ぜひともこちらに投稿してくださればなと思いますw 私も読みたいですしねwww)

  『花狩椿と銀色のいばら道』・・・>>168 >>169
  (2500参照突破記念。花狩先生の少年時代の過去。
  劣等感を胸に秘めた彼の前に現れた、ある人との出会いとは……?)




------------名誉、歴史--------------


・11月25日、『もしも俺が・・・・。』投稿。
・11月29日、100参照突破!! (ありがとうございます!!)
・12月02日、200参照突破!! (皆様の応援に感謝しております!!)
・12月06日、300参照突破!! (3は私の好きな数字です。とにかく感謝です!!)
・12月13日、400参照突破!! (嬉しい限りでございます。執筆ファイト!!)
・12月21日、500参照突破!! (500ですか!! 1000まで半分を切りました!!)
・12月24日、600参照突破!! (メリークリスマス!!)
・12月31日、700参照突破!! (2012年最後の日!!)
・01月05日、800参照突破!! (2013年、始まりました!!)
・02月12日、900参照突破!! (復活しました!! 皆様のためにも頑張ります!!)
・02月13日、1000参照突破!! (明日はバレンタインですか。皆様の応援に感謝!!)
・02月15日、1100参照突破!! (1000という大台を突破できてうれしいです!!)
・02月17日、1200参照突破!! (本編も10幕を突破。これからもバンバン書いていきますw)
・02月18日、1300参照突破!! (スリラーナーイト!! ……申し訳ない、深夜の悪乗りですw)
・02月21日、1400参照突破!! (もうすぐ1500!! 大感謝です!!)
・02月25日、1500参照突破!! (きたあああ!!! 1500参照ついに突破!!)
・02月27日、1600参照突破!! (おおぉぉ!! 応援に大変感謝です!!)
・03月01日、1700参照突破!! (ついに3月ですね!!)
・03月03日、1800参照突破!! (ありがとうございます!! ありがとうございます!!)
・03月06日、1900参照突破!! (もうすぐ2000ですね!! 頑張ります!!)
・03月09日、2000参照突破!! (2000参照突破しました!! 歓喜です!! 最高です!!)
・03月11日、2100参照突破!! (3000目指して頑張ります!!)
・03月11日、序章完結!! (始めの物語、無事に書き終えることが出来ました!! サンクス!!)

・03月18日、第2章、始まり!! (実はというと、サブタイトルに結構悩みましたwww)
・03月18日、2200参照突破!! (第2章も頑張ります!!)
・03月20日、2300参照突破!! (第2章、本格的にスタートです!!)
・03月26日、2400参照突破!! (もうすぐ2500ですね!! 頑張りますね!!)
・03月28日、2500参照突破!! (2500参照突破しました!! 3000目指して頑張ります!!)
・03月30日、2600参照突破!! (たくさんのオリキャラをありがとうございます!!)
・03月31日、2700参照突破!! (なんという快挙!! ありがとうございます!!)
・04月02日、2800参照突破!! (4月になりましたね!!)
・04月06日、2900参照突破!! (もうすぐ3000かぁ……。行けるといいなぁ。)
・04月14日、3000参照突破!! (うわぁぁああ!! 3000です!! 3000なんです!!!)
・05月01日、3100参照突破!! (長期休暇を頂きました!! 本日からまた執筆頑張ります!!)
・09月02日、4600参照突破!! (久々の執筆なので腕が鈍りまくりですねw)
・09月04日、4700参照突破!! (5000までもうすぐですね。頑張ります。)
・09月06日、4800参照突破!! (9月と言えば作者はもうすぐ誕生日とやらを迎えるわけですか。)
・09月09日、4900参照突破!! (もうすぐ5000ですね。頑張りますね。)
・09月12日、5000参照突破!! (5000です!! ありがとうございます。)
・09月14日、5100参照突破!! (私の誕生日です。ありがとうございます。)
・09月23日、5200参照突破!! (最近私の家族にPCを占拠される事が多くなりました。)
・11月18日、5300、5400参照突破!! (ここを建設して約一年になります。)

Re: もしも俺が・・・・。『死神とゾンビの正体。』 ( No.83 )
日時: 2013/02/19 22:56
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

     ————第11幕 『もしも俺(様)がゾンビの世界に飛び込んだなら……続編。』————



         「パート1。」




  『ハロンド』の居場所が分かるのに、そう時間はかからなかった。
  紫苑がタロットを並べ、ほんの数秒した後、場所はあっさりと割り出された。



  ————ここからさほど遠くない、1km離れた場所の屋敷にいるようだった。



  そこは葉隠も足を踏み入れたことのない場所で、深い森のさらに深い場所にその建物はあった。

  外装から放つ何やら奇妙で背筋が凍るようなオーラは、訪問者に近づくなと告げているようだった。
  古びた建物で創立何百年というのでは数字が足りない程だった。建物自体は非常に大きく広い。
  城という表現はさすがに大きすぎるが、それでもそう言ってもいいほど広い。


  葉隠達は瞬時に玄関の両扉に背を合わせ、警戒を強め、一呼吸置いて勢いよく突入した。
  てっきり中はゾンビだらけ、みたいなRPGではよくある展開を期待していたが、それは見事に外れた。


  中はガランとしていて人気がない。ゾンビはおろか、果たしてその『ハロンド』がいるのかさえ微妙だ。
  ゆっくりと4人は足を踏み入れ、各々が拳銃を持つ腕の力を強くする。

  辺りを見渡しながら息をひそめ、とりあえず広い玄関の中央にたどり着く。
  目の前、そして左右にそれぞれ長い廊下が合って、そこには幾つもの部屋があった。
  二階建てであったため、二階に続く階段が葉隠達のすぐそばにあり、二階の探索をすることも容易であった。
  ハロンドを探すとなると、危険を承知で一つ一つの扉を開けていかなくてはならない。

  それは至極時間のかかる作業だ。いっそすぐに出てきた方がやりやすいのだが————。



   「……気を付けろ。奇襲という可能性もある————。」



  葉隠がそう言いながら、二階へ繋がる階段に足を踏み込んだその時だった————。


  上空からシャランという音がしたかと思うと、『何か』がうめき声をあげて落下してくる。

  葉隠達が上を見上げると、天井にぶら下がった明かりもついてないシャンデリアが、
  葉隠目掛けて落下してきたのだ。その上には一匹のゾンビがいる。奴がこれを落下させたのだろう。


  「青年ッ!!」と真っ先に声をあげた源次が即座に銃を構え、トリガーを二回引いたッ!!

  一発目はシャンデリアの側面に打ち込み、葉隠の真上に落ちてきていた落下の起動を変える。
  思惑通り、側面を撃ち込まれたシャンデリアは飛ばされるように人のいない別の場所に音をたてて落下した。

  二発目はそのシャンデリアに乗っていたゾンビに放った。その銃弾は見事ゾンビに当たり、
  大きな咆哮を一つ残し、消滅していった。間一髪、葉隠への奇襲を止めることに成功した。



   「源次ッ!! 囲まれてるぞ!!」



  葉隠が礼を言う暇もなく、柿原は辺りを見渡して叫ぶ。

  真ん中と左右の廊下、そして各々の部屋からなだれ込むようにゾンビが姿を現す。
  玄関の中央にいる源次達は簡単に囲まれる形となった。その状況に舌打ちした源次は、



   「青年、二階へ上がんなッ!! 多分おたくの倒すべき敵は二階にいるはずだわッ!!」


  先に階段を上がりつつあった葉隠に先に行くように促す。

  今の源次達には時間がなかった。たかが30分という短い時間しか用意されていない。
  後その半分も残されていない状態で、全員が全員雑魚の相手をしている余裕はない。

  かといって、見逃せばその分自分達の逃げ場がなくなり不利になる。
  誰かが先に行き、誰かがここでゾンビ達の足止めをしなければならない。そう考えた。
  だったら、その『ハロンド』と決着をつけるべきである葉隠に先に行かせるのは当然の事。


  源次は黒い銃を持ち直すと、ゾンビの一匹に向けて発砲した。



   「すぐに応援にいくわ。先に行って遊んでてくれや。」



  軽い調子で言う源次に一度視線だけを移し、申し訳ない様な気分になったが、振り払った。

  そんなことをしている場合じゃない。今は前に進むことだけを考えるんだと自分に言い聞かせる。
  一刻も早くケリをつけて、この世界の人々を元に戻す方法を聞きださなければ……。



   「……すぐに終わらせてくる。」


  そう言い残し、葉隠は即座に二階へと駆け上がって行った……。





  駆け上がったのを確認した源次はフッと微笑すると、もう一度ゾンビ達に向き直る。
  が、すぐに視線を柿原と紫苑に移し、「よし。」と意気込むと、



   「少年、嬢ちゃん。ダッシュで階段の中段まで上がるよ。

   ————ほんで少年、駆け上がったと同時におたくの鬼を階段の入り口に召喚してくれない?

   後はゾンビ達が上がってこれない様に退けてほしいんだけど……出来る?」



  源次はそう言って急いで階段を上がって尋ねると、同じく階段を上がる柿原が、


   「誰に言ってんだ。当たり前だろ。」


  と、若干イラつき気味で片手に持つ銃で源次のケツを叩く。
  「いてッ!!」という悲鳴が聞こえたが気のせいだ。

  そして紫苑も上がり、三人が階段の中段あたりに来たと同時に、柿原は指をパチンと鳴らす。

  階段の入り口に2匹の大きな鬼が召喚される。赤鬼と青鬼だ。
  柿原達から見れば見下ろす位置に召喚された鬼達は、咆哮と共にゾンビ達の行く手を阻む。



   「鬼さん、近づけさせない様によろしく。」


  とだけ告げると、了解と言わんばかりに咆哮した鬼が、
  片手の持つ棍棒でゾンビ達をバッタバッタと吹き飛ばし始めた。本当の地獄絵図のようにも見えた。



   「……これでいいのかよ?」

   「うむ、エクセレントなのよ、少年。」

   「わぁー楽だねぇこれ。こっからでもポンポン狙い撃てちゃうよぉー。」



  源次が目を閉じてうんうんと頷く。どこの現場監督だとツッコみそうになった。
  紫苑はというと、吹き飛ばされるゾンビ達をゲーム感覚で狙い撃っていた。



   「で、なんでこんな事をしたわけ?」


  こんな事というのは、無論階段を上って、階段の入り口に鬼を配置するという今の現状の事を指す。
  柿原は源次に尋ねると、源次は「おやおやー?」と悪戯な笑みを浮かべて柿原に言う。



   「少年、まさかこの意図が分からないとおっしゃいますかい?」

   「別にこうする必要もないだろ。どこで戦おうと変わらねぇじゃん。」


  そう言う柿原に「甘い、甘いねぇ。クリームのように甘いねぇ。」と源次は首を左右に振る。



   「いいかい少年、この際だからちゃんと学んでおいた方がいいよ。
    戦いにおいて、勝つために必要なのは『強さ』や『武器』じゃないの。

   ————必要なのは、『判断能力』と『戦術』なのよ。」



  無言のまま耳を傾ける柿原に、源次は言葉を続ける。



   「戦闘の基本論に、こんなのがある。

   『地形の掌握と有効な活用によって、戦闘の勝率は格段に上がる。』ってね。

    今、俺ちん達はね、階段という地形と一つしかない階段を上るための出入り口を有効活用してるのさ。
    階段の入り口に鬼、つまり『バリケード』の役割をしている鬼達を配置することで、敵の接近を防ぐ。
    そして階段中段まで上がる事によって、鬼達の存在、数を数えられる。
    なおかつ、そこから安全に狙撃が出来る。気持ち的にも楽だろうねぇ。

    ……たった3人しかいないのに、さっきまでなら考えられない程、俺ちん達は有利だと思わないかい?」



  チラリと源次は微笑して横目で紫苑を見る。
  柿原もつられて視線を移すと、紫苑が楽しそうにゾンビ達を上から狙い撃っていた。


  源次の言いたいことは、瞬時に理解した。

  先ほどまで三人でやっとこさ退けていた大勢のゾンビ達を、今は紫苑一人でも十分すぎるほど。
  それは下で守る鬼達が優秀というのもあるが、少なくとも下にいたよりかは確かにマシだ。
  こうして柿原と源次がゆっくりと雑談にふけっているのも、十分な証拠といえるだろう。



   「戦闘では常に上空を取り、有利な状況を作り出した者が勝つ。少年、長生きするための秘訣よ。」



  源次がポンと肩に手を置いて、ニヤリと笑ってドヤ顔を浮かべてきた。
  そんな源次にイラッと来たので、柿原は銃を持つ手で容赦なく源次の腹部を殴ったのは内緒だ。



   「……とにかく、そういうことでだ少年。ここは任せる。俺ちんは二階へ加勢しに行ってくらぁ。

    たぶん大丈夫だと思うけど、お嬢ちゃんの事をよろしく頼むよ。」


   「……俺一人でもここは十分だ。紫苑と行ったらどうだ? 数が多い方が、戦術的にはいいんだろ?」



  柿原は先ほど嫌というほど聞いた戦術の事をここで皮肉を込めて言ってみる。
  微笑した源次は「そうそう、普通はそうなんだけどね。」と意外な回答を返した。




   「だがねぇ、俺専用戦術理論の一説にはこのような一文があるのよ。

   ————『レディーを危ない場所へは連れて行かない。』てね。」



  源次は柿原に背を向け親指を立てて言う。柿原は呆れ顔でため息を吐いた。


  確かにこの先には何が待ち受けているか分からない。

  もしかしたらすでに葉隠が『ハロンド』と交戦しているかもしれないが、それは定かではない。
  奇襲される可能性だってある。もしかしたら襲われる可能性もある。
  あらゆる可能性を考えたうえで危険かもしれないから、まだ安全であるここに置いていくということだ。
  ここなら紫苑は8割方安全だ。柿原もいるし問題はないと判断した。



   「戦術云々よりも、まずはレディーの身が安全第一なのよ。お分かり少年?」

   「……女たらしめ。」


  皮肉を精一杯込めて言ってやると、「俺様は変態紳士なのよ。」と返された。

  そんな調子の源次に一瞬微笑したが、ふと柿原は気になる事があった……。



   「お前、なんでじゃあ葉隠をわざわざ先に行かせたんだよ?

    この状態にしてから二人で同時に行けばよかったんじゃねぇのか?」



  柿原がもっともらしい理由を言ってみると、源次は首を振った。

  確かにそれは正しいともいえるが、必ずしもそうではない。
  もしも『ハロンド』という奴が真面目で正々堂々と戦う奴ならそれでもいいかもしれない。
  だが、後ろから奇襲して襲い掛かるという展開だって大いにありうるのだ。
  その場合二人で並んでいたのなら、二人ともあっさり殺される。

  しかし、その後ろに源次がいたとなれば話は別だ。
  いち早く気付いた源次が奇襲を止めることが出来る。
  逆に、相手が1対1の勝負、つまりタイマン勝負を持ち込んできた場合でも、
  相手に『一人』だと思い込ませておけば、途中で加勢した源次が奇襲することだって出来る。

  つまり相手をだまして、自分達の状況を有利にするという、これも立派な戦術なのだ。



   「……敵を騙すなら味方から、という言葉は聞いたことないかい?」


  そこまで言い終えた源次が人差し指を立てて言う。
  こいつ、嫌な奴だなと思ったが、柿原は口にするのを止めた。

  いや、正確に言うならそれよりも先に、源次が真剣な表情へと変わったのを見て、
  柿原は茶化す様な発言を控え、言うのをやめたと言った方が正しいだろう……。



   「それにね、確かめたいことがあるのよ。もしも俺様の情報が正しければ、

   ————相手は最悪の化物だ。奇襲であっさり『やれれば』いいんだけどね。」



  『やれれば』という言葉にゾクリと背筋が凍るような悪寒を柿原は感じた。


  それはつまり、『殺す』ということだ……。


  目の前の源次が到底発したとは思えない程、その言葉を恐ろしく怖く感じた————。




Re: もしも俺が・・・・。『ゾンビ屋敷、潜入。』 ( No.84 )
日時: 2013/02/20 19:37
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


         「パート2。」




  葉隠は二階へ上がった後、一本道の廊下をゆっくりと、かつ迅速に足を踏み入れていた。
  どこかに潜んでいるハロンドを……ではなく、隠れているかもしれないゾンビ達に対しての警戒行動だ。


  ————ハロンドのいる位置は、とうに葉隠は分かっていた。


  この廊下を通り過ぎた最深部、少し広めの部屋に『奴』はいる……。


  いまだ目視出来ていないとはいえ、肌にピリピリと感じる気配。
  初めて奴に会ったとき、このピリピリと来る嫌な雰囲気に不愉快になったのを覚えている。

  それほど得体のしれない奴で、そして……『化物』だ。


  葉隠がようやくその最深部へと足を踏み入れた。

  明かり一つついていない薄暗い部屋だったが、なんとか辺りを見渡すことが出来た。
  奇妙な銅像など、鉄の鎧などのアンティーク品が辺りに置かれていた。
  どれもこれも錆びついていて、かつ所々に蜘蛛の巣やらホコリやらが被ってしまっている。
  せっかくの高価なものも手入れをしなければガラクタ当然か、と葉隠は思った。



  ……そして、ようやく目視出来た。『奴』を……!!



  葉隠の約10m前方に、一つの大きな机があった。
  その背後には綺麗かつ透明なガラスが壁一面に広がっており、そこから月の光が差し込む。
  高級そうな作りをした椅子に座っていた『奴』が見上げるようにしてそこから見える月を拝見していた。
  片手にカップを持っている。匂いからして紅茶だろうか。

  ふと、こちらの気配に気が付いた『奴』がクルリと椅子を回転させ、こちらに向き合った。
  葉隠は10m離れた場所から二丁の銃を構える。ドクンドクンという自分の心臓の音が聞こえる。


  『奴』は紅茶の入ったカップを置くと、そのまま座ったまま、ニヤリと笑みを浮かべて見せた……。




   「————待っていたよ。葉隠空悟。キキッ……。」




  コウモリの様な鳴き声を発して、ハロンドはスッと立ち上がり、殺気をむき出しにする葉隠に言った。

  身長は2m以上ある。姿形は人間そのものだが、色合いや顔つきなどは人間とは程遠い。
  全体的に皮膚は黒く染まっており、筋肉質で固そうというのが第一印象。
  手の爪は緑色で、発達しているのか凄く長く鋭い。鋭利な刃物の様だった。
  顔つきのことを言えば、人間と比べて変わっている点は、目と口元だろう。
  目は人間のように黒目ではなく、むしろ目の全体が白目、といった感じだ。
  本当にあれで見えているのかと思う程、不気味で奇妙だ。

  口元は広く伸びきっており、常時笑っているかのようにさえ思える。
  そしてそこから漏れ出る4つの大きな牙は、噛まれればひとたまりもないと思う程尖っていた。
  頭の部分には人間にはない二つの角が生えている。そこまで長くはなく、控えめである。

  全身に黒いマントを羽織り、まさしく吸血鬼の館の親玉のヴァンパイア、といった威圧感を感じる。



   「……相変わらず化物だな、ハロンド伯爵。」



  嫌みったらしく葉隠は言うが、それも褒め言葉と言わんばかりにハロンドは鳴いた。



   「キキッ、この良さが分からないとは。死神という人達はどうも見る目が無い人ばかりですねぇ。」

   「貴様にそもそも目はあるのか?」


  白目であるハロンドに対して冗談めいて言う。それを聞いたハロンドは、キキッと鳴き、



   「今日は随分と機嫌が良いようですねぇ葉隠様。仲良しなお友達でも出来ましたか?

   ————これから私の餌となるというのに、悲しいですねぇ。」




  ズガンズカンッ!!、という発砲音が二回鳴り響いた。


  葉隠の持つ二丁の拳銃から煙が出る。発砲したのは葉隠だ。
  黒の銃弾をまともに腹部と右肩に受けたハロンドだったが、その不気味な笑みを崩すことはない。



   「……貴様の会話に付き合う余裕はない。言いたいことは一つだけだ。

   ————この世界を元に戻せ。でないと殺す……。」


  葉隠がキッと睨んで強く言う。だがハロンドは、


   「キキッ……私を殺す以外、その方法がない、と言ったら?」


  と、笑みを零して言った。それが本当なのか、挑発なのかは分からない。
  が、少なくともこれだけは分かった。こいつは……死んでも戻す気はないということだッ!!





   「……ここで俺が殺すッ!!」




  葉隠がさらに連射するように黒の銃弾をまき散らすッ……!!

  マシンガンにも似た音が部屋中に響き渡り、その音が屋敷中にまでも響き渡る!!



   「吠えろッ!! 『ブラックバレット』ッ!!」



  ちなみに、この『ブラックバレット』とは葉隠の持つ二丁の拳銃の事だ。
  対ゾンビ用武器、葉隠に与えられた銃型武器だ。





   「————死神流銃撃、第3の型、『拒絶 (きょぜつ)』ッ!!」



  さらに加速するように銃音が部屋を駆け巡る。
  連射される二丁の銃、そして弾丸の雨をまともに受け続けるハロンド。

  が、幾百、幾千の弾丸を受けたハロンドだったが、倒れることもしなかった。
  身体の所々に空けられた空洞からは、風が吹き抜ける様に通り過ぎていく。
  弾丸は確かに直撃している。が、ハロンドはゆらりと身体を揺らして葉隠を見た。



   「良い攻撃ですねぇ。さすが対ゾンビ兵器、そして死神……と言いたいところですが、
    私は下にいるゾンビ達と違って、そこまで柔にできてはおりませんよ。

    貴方のその武器も、私にはそこら辺の拳銃と何ら変わらない。それに————」



  と、次の言葉を紡ごうとしたその瞬間だった————。









   「————秘技、『一本桜 (いっぽんざくら)』。」




  突如葉隠の後ろから声がしたかと思えば、葉隠の隣を一本の大きな光の矢が通り過ぎる!!

  その矢は回転するとともに一直線にハロンドに向かっていき、ハロンドが反応する間もなく、
  ハロンドの首から上の部分を跡形もなく飲み込み、吹き飛ばしたッ……!!




   「いやー悪いね。不意打ちでごめんねぇ。楽に終わらしたかったのよ。」



  驚いた葉隠が振り返ると、左手に緑の弓を持ち、右手でボリボリと頭を掻いた源次がいた。
  ハロンドはそのまま何が起こったのか分からないと言わんばかりに、残った身体が前のめりに倒れた。



   「源次か!! 下はどうしたッ!?」

   「ご心配しなさんな。安全だ。少なくともここよりかはな。」


  源次がそう言うと、葉隠は内心ホッとした。

  あっさりと終わった戦闘に葉隠は呆気ないと思っていた矢先、「だが————」と源次は言葉を紡ぐ。



   「青年、今のではっきりしたわ。逃げるぞ。ここにいたら死ぬよ。」

   「……? それは一体どういう————」



  瞬間、二人はピクリと肩を震わせた。

  確かに、何か異様な威圧感を感じる。その正体は……死んだはずの『ハロンド』からだ。



   「青年落ち着いてききな。俺様の嫌な予感が当たった。

   ————奴は不死身だ。どう足掻いたって倒せねぇみたいなのよ。」



  そう言いきった直後、ハロンドの身体は破裂するように分解した。

  否、分解したというより、無数のコウモリたちに分裂したと言った方が正しい。
  分裂したコウモリは笑う様に鳴きながらどんどん集まっていき、

  全てのコウモリが合体を終えると、そこには何一つ傷のないハロンドが笑みを浮かべて立っていた……。




   「————キキッ、驚きました。まさかお仲間がいたとは。油断しましたね。」



  ハロンドはニヤリと微笑んでこちらを凝視する。
  まさか……頭を吹っ飛ばされて、かつ幾千の弾丸に撃ちぬかれても死なないのか!?



   「それにしても妙ですねぇ。そこの少年、まるで『図った』様に私の頭を丸ごと撃ちぬきましたが?」


  ハロンドの言葉に驚いたのは葉隠だった。『図った』? どういうことだろうかと首を傾げた。
  源次はフッと微笑すると、「ご名答だよ。」と言葉を紡いだ。




   「実は噂に聞いていてね。最初は冗談だと思っていたんだがねぇ。

   『どんなに攻撃しても死なないコウモリの化物が世界に存在する』……ってね。

    ただその時の唯一の噂に、『頭を丸ごと吹き飛ばせば殺せる』というものがあってな。
    それをちょいと試したいがために、奇襲させてもらったのよ。」



  源次がそこまで言い終えた直後に、葉隠は待て待てと間に割り込んだ。


   「源次、なぜ貴様がハロンドの噂を知っている!? 俺は話してないぞ!?」


  それはごもっともな事であった。確かに葉隠すらも知らない情報を源次は持っていた。
  まるで昔から掴んでいた情報であるかのような、そんな感じだった。

  源次は「ああ。」と一言言うと、さらに話を続けた。



   「青年、この野郎はこの世界だけに留まっているわけじゃないのよ。
    多分こやつはね、ここの世界を実験台に使ったんだ。そして目的は至極単純。
    あらゆる世界でこやつはこの世界と同じ様にし、世界を破壊する。

    そして『俺様達の世界でもそれをやろうとしている』。————そうだろ?」



  源次は一度言葉を止める。そしてニヤリと笑みを浮かべて言葉を発した。












   「————DDD教団所属。不死身のハロンド伯爵さんよ。」




  ピクっと一瞬ハロンドの眉が動いた。そして表情がほんの少し真剣なものになった……。



   「……なぜそれを知っている? どこから手に入れたんでしょうかねぇ?」


   「おたくらの考えは大体知ってる。俺様は情報が広くてね。

    そして俺様達の世界に出入りしたゆがみの正体、それはおたくでしょ?

    定期的に来てるようだねぇ。通りで姿を見せないわけだわな。
    ここに逃げ込んでんじゃあ見つかるわけない。」



  源次は苦笑していった。葉隠は途中から何を言っているのか分からないと言った感じだったが、
  ハロンドから発せられる威圧感が増したことを確認したため、無駄口を叩くことも止めた。





   「キキッ……どうやら、貴方だけは始末しておかないといけませんねぇ。

   ————今後の計画のためにッ!! 死んでいただきましょうかッ!!」



  そう言い放つと、ハロンドは甲高い音をあげた。両手を広げ、背中にある羽を大きく広げる。
  マントで覆われていて最初は気づかなかったが、背中には立派な羽が生えていた。漆黒の羽だ。

  そしてハロンドの右手から右肩にかけて、ふと崩れ落ちる様に分裂していく。

  それは無数のコウモリとなってハロンドの上空を飛び回り、赤い目でこちらを見つめている。



   「……青年。まずは廊下まで逃げるよ。でないと俺ちんら、あっけなく殺されるからね。」



  確かに今上空を飛び回るコウモリの数は尋常ではない数だ。
  もしも一気に襲い掛かられたなら、あっけなく噛みつかれ、血を吸われてそのままあの世に一直線だ。
  それに戦闘の基本である『上空を取る』というのが、すでにハロンドによって握られている。
  向こうの数、そして上空を取られている時点で、源次達は圧倒的不利。しかも相手は不死身。

  分が悪すぎて勝機すら見えていないのに、こんな広い部屋で戦うなんて自殺行為だ。
  囲まれる前に一本道の廊下まで逃げて、コウモリの来る位置を一点に絞る。

  そうすれば少なくとも囲まれるよりかはマシだ。それに、




   「迷ってる場合じゃないよッ!! 行くよ青年ッ!!」



  二人は即座に走り出した。部屋の出口に向かって一直線に走る……。



   「……キキッ、血を吸いなさい。私のかわいいコウモリたちよ……!!」



  ハロンドが合図を送ると、一斉にコウモリたちは突進する。

  その姿はまるで一つの黒い竜巻の様で、一体何匹いるんだと頭が痛くなった。
  源次達は無事一本道の廊下に出た。が、すぐに後ろからコウモリが追い付いてくる。
  キキキという狂気に満ちた鳴き声を発し、血を吸わせろと突撃してくる。


  源次は振り返り、弦を引く。弦と右手の間に綺麗な光の矢が現れるッ……!!





   「————秘技、『一本桜 (いっぽんざくら)』ッ!!」



  力一杯引いた右手の矢を放つと、それは回転して大きな光の矢になる。

  向かって来るコウモリたちの大群である、黒い竜巻にも似たモノと接触すると同時に、
  大きな音をたてて、四散するように爆発した……!!


  コウモリたちの何体かはこれで始末できたはずだが、それでも数の一割にも満たないだろう。
  すぐにコウモリたちが集結し、こちらに向かって突進してくる。



   「ちッ、やっぱ威力が足んないねぇ。一掃出来ねぇか!!」



  源次が舌打ちして後ろに下がりながらも矢を連射して応戦する。
  それに援護するように葉隠も二丁の銃を連射する。

  が、コウモリたちの猛攻は止まらず、コウモリ達は徐々に距離を詰める。



   「源次、これじゃあ逃げ切れないッ!!」

   「分かってますよッ!! 後2分でいいんだ。2分でひとまず逃げられる!!」

   「2分……?」


  なぜ2分なのかと首を傾げた葉隠に、源次は苦笑して、申し訳なさそうな表情をした。




   「わりぃ青年、おたくも巻き込んじまう事になる。この世界に未練あるかい?」

   「……どういうことだ源次?」



  言っている意味が分からないと葉隠は続けて言う。ただ、その訳を源次は説明している余裕はなかった。
  後ろからコウモリ達が迫りつつある状況で、優雅に雑談している間もない。



   「説明の時間がねぇ。そして説明するためにはこれを聞いとかなきゃいけねぇ。
    ……とりあえず聞かせてくれい。未練は、あるかい?」

   「……ハロンドを殺せればそれでいい。どうせここはもう助からない事は分かった。」

   「物分かりが良くて助かるぜぃ!! じゃあパパッと説明するわ!!」



  矢と銃弾が連射される廊下で、その音が響いて声が聞こえづらいが、葉隠は耳を傾けた。






   「おたくには、俺ちんの住む世界に来てもらう事になるのよ。」

   「なッ……?」



  思わず驚きを隠せない葉隠に、源次は付け足す様に言った。



   「心配しなさんな。どうせその世界でもハロンドとは会えるわよ。決着はそこでつけな。」

   「それならいいが……貴様は何者なんだ?」

   「別世界の人間。そう思ってもらえれば助けるねぇ。そんで2分後、強制的にそこにワープするのよ。」



  ようやく意図を理解した。つまり2分というのは、源次の住む世界に戻るためのタイムリミット。
  その2分が過ぎれば、源次も、そして葉隠もこの世界とは違う場所にワープするという事だ……。


  なんとも不思議な話。なんとも不思議な男なのだと葉隠は思った。

  だが実際にこうして、人が全滅したはずのこの世界にまだ生き残りがいた。
  それは決して生き残りではなく、別世界から来たなら、なんとなく話は理解できる。




   「……その場所は、良い場所なのか?」



  ふとこんなことを聞いていた。廃れた世界で生きてきた奴とのセリフとは思えない程穏やかだった。



   「……少なくとも、こんなつまらなくなった世界よりかはね。」



  源次の言葉に葉隠は微笑した。もっともだ、と思った。これ以上の地獄はあるまい。
  そしてそれをハロンドが壊そうとしているなら、それを止めなければならない。


  自分が……ケリをつけなければッ!!




   「……そいつは楽しみだ。」


  フッと笑みがこぼれた。久々にこんな笑みを浮かべた気がする。
  それにつられて源次も笑うが、すぐに接近しつつあるコウモリの大群に向き直る。





   「————あと一分、踏ん張るぜ青年ッ!!」

   「ああ、くたばるなよ源次ッ!!」



  二人の言葉が交差し、咆哮をあげ、二人の攻撃が重なるように乱舞する……!!


  残り一分、彼らにとっては、それが果てしなく長い時間だった————。

Re: もしも俺が・・・・。『VSハロンド。』 ( No.85 )
日時: 2013/02/21 18:51
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



        「パート3。」




  その一分がどれ程長く感じただろうか。


  休む間もなく降り注ぐ源次の矢と葉隠の銃弾だが、コウモリの大群はそれ以上の突進を見せた。
  徐々に距離を詰められた結果、残り5mまで近づいていた。このままでは、一分も持たない。

  さすがの二人もやばいと判断したのか、その表情にすでに余裕はなかった————。



   「やっぱダメだわ、青年!! こりゃあ一発、どデカいのをブチかます必要があんねぇ!!」

   「一掃狙いか? ヤケクソだな。源次ッ!!」

   「それしか助かる方法がないって言ってんのさ!! 息合わせんぜ青年ッ!!」



  源次が左手を前方に突きだすのと同時に、葉隠も二丁の銃に力を込めるッ……!!

  瞬間、コウモリ達の大群は一つの塊から、二つの塊に分かれた。

  一つの黒い大群が二つに分かれ、枝分かれするように左右に広がる。
  ちょうど半分づつ左右に分かれ、両方面から挟み込むようにして源次達を襲う。
  トドメを刺しに来たと言ってもいいだろう。だがこれはむしろ、源次達にとっては好機と言えた。



   「右頼むぜ青年!! 左は俺様が打ち抜くッ!!」

   「ああ、一匹たりとも残すなよッ!!」



  源次の合図とともに、葉隠は右から来るコウモリの大群に構え、源次は左の大群に標準を合わせる。
  これを退けば、なんとか一分稼げる!! これが最後の勝利の分かれ目だ……。



   「青年!! わりぃが、この武器『貰う』ぜいッ!!」



  源次が葉隠に確認を取る間も待たず、葉隠から『借りた』黒の拳銃、ブラックバレットを手に取る。

  そしてギュッと力を込めて握り、目を見開いて叫ぶ————!!







   「————武装ジェネレート!!」



  一瞬、眩く光ったかと思うと、手に持っていたブラックバレットが、
  光を纏って小さな光の球となって、直後源次の持つ弓に引きこまれる。


  源次の弓には、一つの秘密がある。

  他の武器そのものを弓の中に取り込むことによって、その武器に似た攻撃が出来る様になる。
  例えばブラックバレットならば、『ゾンビ相手に有効な攻撃が可能』という不可能力が付く。
  それだけじゃなく、葉隠のブラックバレットは元々強力な武器だ。
  取り込むことによって、源次の弓はさらに力を増し、爆発力も増す。

  これならば、さっきと比べてはるかに強い威力を叩きだすことが出来るだろう。



   「青年の力、存分に使わせてもらうぜいッ!!」


  源次がそう叫ぶと、今度こそと言わんばかりに今までで一番強く右手を引く。
  葉隠も咆哮し、二丁の銃を重ねる様にしてコウモリに標準を合わせる。


  コウモリの大群はすでに1mを切っている……。二人は覚悟を決めて、最後の一発を放つッ!!






   「死神流、第1の型————」

   「括目せよ、特殊秘技————」



  二人の言葉が重なる。そして二人の目が見開き、叫ぶ————!!












   「————『虚無 (きょむ)』ッ!!」

   「————『黒龍扇 (こくりゅうせん)』ッ!!」





  二人の叫びが廊下を響き渡り、同時にその力を解き放つ……!!


  葉隠の放った二丁の銃からは、まるで一つのレーザー砲の様に漆黒の塊が放出された。
  それはうねる様な音をあげ、コウモリ達を飲み込むと、一瞬にして大群を消滅させた……!!

  源次の放った黒色の矢は、大きな一匹の龍へと姿を変え、咆哮して突撃する。
  コウモリ達に接触すると、その黒の龍はまるでコウモリ達を食べる様に大群を飲み込んだ……!!

  左右から来たコウモリ達は一瞬に塵と化し、コウモリ達の猛攻が一瞬だが止まった。

  そしてそれは同時に、源次達の逃走の成功を意味するのだった……。



   「……!? これは……。」

   「時間だ。どうやらギリギリ生き残ったねぇ、青年。」



  二人の身体が少しづつ薄くなっていくのを感じる。足元から少しづつ消えていくのが分かった。
  隣の源次を見ると、彼も少しづつ姿が消えつつあるのが目に見えて分かる。
  本当にこれからワープするのだな、と葉隠は改めて思った。疑っていた訳じゃないが。

  お互いに目を合わせ、そして一緒に戦った戦友の安全にホッとした。そして、



   「お疲れさん、青年————。」

   「……貴様もな————。」




  そんな他愛のない会話を最後に、彼らはゆっくりとその場から姿を消した……。




  コウモリ達は甲高い鳴き声をあげて突進するが、時すでに遅し。

  囲むようにしてコウモリ達は源次達に襲い掛かるが、すでにそこに実体はない。
  可笑しいなと首を傾げる様に、コウモリ達を辺りを見渡す様にヒラヒラと飛び回る。

  その時、コツコツという足音が廊下に響き渡る。

  二人の姿が消えたのをこの目で見て、その足音の正体であるハロンドは悔しそうに歯軋りした。



   「逃がし……ましたか。」



  先ほどまでなかったはずのハロンドの右腕から右肩は、すでに何事もなかったかのように戻っていた。
  源次達を襲い損ねたコウモリ達は、悔しそうにギャアギャアと鳴き声をあげた。
  ハロンドはマントを翻すと、先ほどまで源次達のいた場所に背を向けて、部屋に戻る。




   「まぁいいでしょう。どうせ、また会う事になるのですから。

   ————その時こそ、貴方達の血は頂きますよ。キキッ……キキキキッ!!!」



  歓喜にも近い鳴き声を発し、ハロンドは不気味に笑みを浮かべた————。


















   「————…………死ぬかと……思ったわ。」



  元の世界に帰ってきた源次が発した第一声が、まさしくそれだった。

  目の前でぜぇはぁ言って倒れている源次を前にして、柿原と紫苑は何があったのかと首を傾げる。



   「……お前の事も気になるが、まずは説明しろ。なんで葉隠がここにいんだよ?」

   「わーい、葉隠クンこっちに来たんだねぇ。いらっしゃーい!!」



  呆然と立ち尽くす葉隠に紫苑が後ろから抱き着くようにして突進するのを横目に、柿原は尋ねた。

  ちなみに葉隠はというと、ただ立ち並ぶビルやら、大勢の人やらに唖然としていた。
  まぁ当然と言えば当然である。葉隠にとって、人を見るのは久しぶりだろう。
  それに向こうにあったのは廃墟と墓地とおっかない屋敷。ビルなんて初めて見るんではないだろうか。



   「まぁ色々あってね。結果こっちに来てもらったのよ。」

   「ハロンドって奴はどうした?」

   「討伐失敗。いやむしろ、逃げんのに精一杯。ありゃあしばらくは無理だね。」


  無理無理—と投げやりに手を振って答える源次を見て、本当に化物だったんだなと柿原は思った。

  結局紫苑とはゾンビを倒す、ゲーセンにある様なガンシューティングをやるノリで遊んでいただけのため、
  柿原達は全く持ってけがはないし、危険も全くなかったが、一目だけ見たかったなと後悔した。




   「それはそうと————どうよ青年? この世界は?」



  源次は身体を起こし、呆然と街を見渡す葉隠に聞いてみた。
  葉隠は一度「そうだな……。」と呟くと、源次の方に向き直り、



   「……悪くないな。楽しそうな世界だ。」


  と、うっすら笑って言った。穏やかで、最初に会った時とは別人のようだった。
  「それならよかったわ。」と源次も微笑し、力を抜いて、またも寝転がった。





   「お嬢ちゃーん、膝枕してくれぇ!! 俺様昼寝したいのよ。暖かい太ももを提供してくんない?」

   「いいよぉー!! 後でクレープおごってねぇ!!」

   「おいバカ、止めとけ紫苑。セクハラされるぞ。」



  そんな三人の会話を聞いて、葉隠は思わずフッと笑ってしまった。

  源次が「おいおい少年、それってどういう事よ!?」と聞き捨てならないといった感じで言う。
  柿原が「そのまんまの意味だよ。」と冷めた言動で源次に吐き捨てる。
  紫苑が「じゃあ間を取って、召クンが太ももを提供したら?」と笑って提案を持ちかける。


  葉隠は今まで、こんな平和すぎて呆れるほどの会話を聞いたことがない。

  だからこそ、さらに強まった。今度こそ、奴の好きにはさせない。
  こいつらのいるこの世界だけは……あの世界と同じにしてはいけない。


  絶対に守らなければ、そう強く誓いをたてた……。




  “だが今は……力を抜いてもいいだろう。”


  この一瞬の時だけは、自分は死神ではない。

  今の自分は、ただの葉隠空悟。ただのその辺の青年に過ぎないのだから————。




      ————————第11幕 完————————


Re: もしも俺が・・・・。『ゾンビ編完結。』 ( No.86 )
日時: 2013/02/22 16:34
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


       “サブストーリー 『たった一つのバレンタインチョコ。』”


            「前編」




  ————黒川達が中学二年生へと学年が上がる、今年の2月14日。運命の日は訪れた。


  それは世間ではバレンタインという行事であり、女の子にとっての勝負の日。
  男子はソワソワ、女子はドキドキ。青春という甘い空気が確かにそこにはあった。




   「————今日俺は、朝飯と昼飯を抜いてきたッ!!」


  ちょうど昼休みに入るころ、とある少年は大きな声でこんなことを口走った。

  茶髪にツンツン頭をした少年、霧島勇気のお腹がグウと悲鳴を上げていた。
  急に勢いよく立ち上がったので、座っていた椅子がガタンと音を立てて倒れる音が辺りに響いた。



   「今日は無くても生きていける、そうだろ!? 水島ちゃん!?」


  ビシッと指を指された少女は、クスッと天使に似た笑みを浮かべた。
  彼女はクラスのマドンナである水島愛奈であり、そして霧島の友人でもあった。



   「霧島君、それでも昼飯は持ってこなきゃダメだよ……。」

   「水島ちゃんがくれるから問題ない!!」

   「もう……。……はい。ちゃんとありますよ。霧島君の分も。」



  スッと霧島の前に出されたのは、きちんと包装された例のモノであった。
  ピンク色の可愛らしい柄で、小さく猫のシールが張られているのがまた可愛らしい。

  『霧島君へ』。中心にはそう書かれていた。

  それをマッハの速度で受け取ると、霧島は子供の様に無邪気に喜び、目をキラキラさせていた。



   「さっすが水島ちゃん!! あんがとぉ!! 最高だ!!」



  霧島はさっそくと言わんばかりに包装を開け、中身を吟味する。
  そんな霧島を可笑しいと思って微笑んでいると、ふともう一人の人物の事が気になった。



   「あれ? 黒川君は?」


  水島の言葉に反応した霧島が、少々不機嫌そうな顔をしたのが垣間見えた。





   「……あいつはとっくにここから脱出したよ。いたら『渡される』からな。」



  チラッと横目で霧島はいつの間にか人口密度が多くなったクラスを見つめる。
  どうやら他のクラスの女子も含まれているのが原因のようだ。
  そして彼女達はキョロキョロと誰かを探している様だ。そしてその答えはすぐに分かった。

  女子の何人かが「黒川君いないの?」という声をあげるたびに、霧島はため息をついた。



   「……ええっと、どういう事なの霧島君?」

   「見ての通りだよ水島ちゃん。アイツはモテる。それだけだ。」



  確かに集まっている女子の数はゆうに30人は超えていて、まだ集まりつつある。
  そんな数に苦笑しながら、ふと疑問に思った事を口にする。



   「でもだったらなんでなおさら逃げちゃうの? せっかく貰えるのに。」

   「……アイツは昔からモテるんだ。その度々にクラス一個分か二個分くらいのチョコを貰う。
    そんでそれのほぼ全部本命だ。いわばアイツは男の敵なんだよ。顔が良いからなおさら、な。
    それが原因で他の男子達から絡まれることが多いらしくてな。
    それが面倒で、アイツはチョコを受け取らない様にしてんだと。」



  霧島は最後に、羨ましい奴、と呟くと、水島から貰ったチョコにかぶりついた。
  甘く、とろける様な味だった。脳が溶けるかと思うぐらい、甘かった。

  その話を聞いて水島は改めてクラスに集まった女子達を見つめる。

  確かに女子内でトークをしている時も、よく黒川君の事を聞かれることがある。
  自分と黒川は良くいる仲だからだ。その度に好きだという話を聞くこともあったが、ここまでとは。



   「ま、どうせ屋上にいるだろうから行ってきたらどうだ? 渡す暇は今しかないと思うぜ?

    下校時刻になったら真っ先に帰るだろうから、アイツ。」



  霧島の言葉に若干嬉しく思いつつも、内心不安であった。

  自分のチョコを受け取ってもらえるのだろうか。本命、というわけではない。
  日頃の感謝の気持ちとして、自分の気持ちを込めたチョコを受け取って貰えるのだろうか。

  そんな心配をしていると、見透かされたように霧島はニコッと笑って言った。



   「心配すんなよ。水島ちゃんのチョコは別だ。きっと受け取って貰える。

   ……いや、本人は死ぬほど欲しがってるぞ、多分。

   だからわざわざ俺に教えたんだろうしな。回りくどい奴。」



  そういう霧島に首を傾げて理由を尋ねるが、いやーそのーと曖昧な返事しか返ってこなかった。
  まぁ今はいっか、と頭の隅に追いやり、今は黒川君に渡すことだけに専念しようと考えた。

  水島はフッと微笑んで、「ありがとう、霧島君。」と礼を言うと、ゆっくりと教室を出ていった。


  そんな水島の後ろ姿を微笑して見つめた後、顔を前方に戻すと、あら不思議。

  なぜかは分からないが自分の元に集った30人が、押し寄せる様にしてチョコを前に出した。
  よく見ると先ほど黒川を探していた女子だ。まさか場所を聞きに来たのか?、と思いきや、



   「これ、本命じゃないけど受け取ってぇ!!」

   「霧島君だよね!? これギリチョコです!!」

   「霧島君受け取って!! ギリだけど。半分本気!!」



  押し寄せる様に自分の机に置かれるチョコ。だけどその度々に『ギリ』という言葉が飛んでくる。
  そして挙句の果てには『チョコあげるから黒川君の場所を……』などと取引道具に使って来る者も。

  正直何度心がおられるかと、もしくはこれなんかの罰ゲームと思う程悲しみが押し寄せてきたが、
  まぁその中にも本命な方もいて、それでなくても貰えるのは有難かった。

  やっぱり今日という今日だけは黒川の事を憎まなければ気が済まないと、
  一個人の男子として、霧島勇気は天を仰いでそう思った————。





Re: もしも俺が・・・・。『遅めのバレンタインネタ。』 ( No.87 )
日時: 2013/02/22 22:32
名前: ヒトデナシ ◆QonowfcQtQ (ID: j553wc0m)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode



         「後編」





   「————やれやれ。やっと落ち着いたか。」



  屋上で冷たい風に当たって、空を仰ぐ様にして寝ていた黒川はホッとした。

  多分今クラスでは恐ろしい光景になっている事だろう。
  霧島は口の堅い奴だから教えたりはしないだろうが、内心は今も警戒している。
  とばっちりを受けた霧島に後で妬むような目で見られるだろう。後で謝る事にしようと考えた。

  正直自分だってその気持ちを受け取ってやりたいと思ってはいるが、それは無理だろうなと思う。


  なぜなら私が受け取れば、毎度痛い目を見るのは私じゃない。

  女性が一生懸命気持ちを込めて作った、チョコという心そのものだからだ。




  私は小学生の頃、クラス一個分のチョコを貰った。

  その時の私は純粋で、山のように置かれたチョコを持って帰るのに苦労したものだ。
  先生にゴミ袋用の白いビニールを貰い、それでよいしょよいしょと持って帰っていた。


  ……しかし帰りの道中、同じ小学校に通う同級生数人、私の前に立ちふさがった。


  彼らは妬みの目を向けて、私を襲い、不甲斐ないながらもいくつかのチョコを破壊していった。

  私が全て鎮圧させた時には時すでに遅く、
  チョコの大半はとても食べれるようなモノでない状態になっていた。

  女性の心が詰まったチョコを、みすみす私は守りきれずにゴミ同然にしてしまったのだ。

  そんな自分が情けなく、せめて彼女たちの心だけは受け取っておこうと、
  バラバラになって形すら原型を留めていない土がついたチョコを全て残すことなく口に放り込み、
  次の日体調不良で病院に運ばれて点滴を打ったのは、今もいい思い出である。


  あの時の様な事をもう繰り返したくはない。
  彼女達の心は踏みにじられてはならない。どんなことがあっても。
  せっかくの唯一の日なのだ。とても私には受け取れない。

  またあの悲劇を繰り返してしまえば、私は二度とチョコなんて食べられなくなってしまうからだ……。





   「————黒川君。」



  ピクッと肩が震えた。とうとう見つかってしまったのかとため息を吐いた。

  とはいっても、実は覚悟をしていた。
  もしも少人数でここが見つかったなら、その時は受け取ろう、と。
  少なければ守り切れる。その確信はあったからだ。

  そうしていったい何人来たのだろうとドキドキして身体を起こして振り返ると、意外にも一人だった。
  しかも良く知る人物で、私が今、一番チョコを貰いたいと思っている人だった……。



   「水島、か。ここがよく分かったな。」

   「ふふっ、霧島君が教えてくれたの。」



  フッと微笑むと、水島は隣へと腰かけた。制服のスカートが風に吹かれてヒラリと揺れる。



   「悪いな。無言で席を外してしまって。心配、させたか?」



  黒川が微笑して尋ねると、水島は首を左右に振った。

  とはいっても、内心は来てほしかったというのが本音だ。
  霧島にあえて伝えたのもそのためだ。まぁさすがに露骨すぎてあの霧島でも気づいているとは思う。



   「話、聞いちゃった。黒川君がチョコを渡されるのを避ける理由。」



  その時少し黒川が驚いた表情を浮かべたが、すぐに穏やかになった。


   「別にかまわんさ。減るものでもない。」


  そう言った。ほんの少し見えた表情に、過去の辛さが垣間見えた気がした。

  水島は、決断しなければならなかった。

  目の前には、渡したい人がいる。けれどほんの少し、怖い。
  拒絶されるのではと心配になった。霧島君はああ言ってくれたけど。

  ほんの少しの勇気なのに、その一歩が踏み出せない。その時だった……。



   「なぁ水島、話……聞いたのだよな?」


  ふとそう呟いた黒川に、「う……うん。」と緊張気味に答える。




   「じゃあ……少し矛盾した話になるのだが————」




  黒川は頭をポリポリと掻いた。何やら気恥ずかしそうで、頬を赤らめているのが目に見えて分かった。
  そして次に出た言葉は、水島も予想だにしていなかった事だった。















   「————チョコ、あるか? 欲しいのだが……ダメか?」





  と、後半になるほど消えゆくような声になっていった。

  それを水島は思わず「えっ!?」と声を少し大きくしてしまう。
  てっきり要らないと言われるかと思いきや、まさか自分から要求してくるとは思ってもいなかったからだ。




   「えっ……でもいいの? 私のチョコ……渡しても?」

   「…………矛盾しているとは分かっている。でも————」



  黒川は水島の方に向き直る。今度は顔を真っ赤にした黒川がはっきり見えた。








   「————君のチョコは欲しい。誰よりも、だ。」




  今度ははっきりと聞こえた。一言一句、はっきりと。

  あまりに直球すぎて、水島も思わず顔を真っ赤にした。恥ずかしかった。
  何秒かぼおっとした後、ハッと我に返ると、「う……うん!!」とそそくさと例のモノを出す。


  バレンタインチョコ。『黒川君へ』と書かれていた。


  それをゆっくりと手渡しすると、「おおっ……。」と呟いて、
  何秒か水島から渡されたチョコをジッと見つめていた。

  水島はそんな彼を前にクスッと笑った。
  なんだ、黒川君は自分のチョコを待ってくれていたんだ。心配する必要はなかった。




   『君のチョコは欲しい。誰よりも、だ。』




  その言葉がリピートされるように頭を駆け巡る。その度に心臓が跳ねる。

  あれ、可笑しいな。私なんでこんなにドキドキしてるんだろう?
  直球的に言われたからかな? 心臓がびっくりしたのかな?


  水島がそんなことを考えていると、ふと自分の肩から背中にかけて何かが羽織われた。


  それは学ラン。男子専用の制服だ。黒川君のものだ。


  隣を見るといつの間にかチョコを見ていた目はこちらに注がれており、
  「寒いだろう? ここは冷える。」と言って制服を被せてくれた。

  クスッと笑って、「ありがとう。」とお礼を言うと、黒川君は何も言わずに水島と反対方向に向いた。
  照れ臭かったのだろう。きっと彼の顔を真っ赤になっているのだろう。


  その後ふと、「なぁ」と黒川が口を開いた。水島は首を傾げて黒川を見つめる。


  少しの沈黙の後、その言葉は小さく響いた……。







   「————もう少し、隣にいてくれ。」




  黒川の小さくつぶやいた声は、確かに水島に届いた。

  水島は照れ臭くなって頬を赤らめる。今も心臓は、ドキドキしている。これがなんなのかは分からない。




   「————うん。」




  短い返事を返し、黒川から受け取った学ランを力強く握って、コトンと頭を彼の肩に置いた。
  一瞬ピクリと身体を震わせたが、すぐに彼はほんの少し身を寄せて、頭を置きやすくしてくれた。

  その時チラリと見えた横顔は真っ赤で、私も同じような顔をしていたと思う。


  二人の空には、チラリと雪が舞った……。






   「いつもありがとう、黒川君————。」






  私の感謝の気持ちは……届いたかな————?






    ———————— Fin ————————



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