二次創作小説(映像)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.526 )
- 日時: 2013/12/08 23:10
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: fOamwJT9)
「ねぇ、ちゃんと言ってあげたの?」
幼なじみの女性に深刻な表情で言われたときは何かと思った。
「…何の話だ」
仕事の片手間に訊き返したイザヤールに、あぁ、間違いなく忘れているなこのハゲ、と
今やお決まりとなった悪口を添えて、ラフェットは自身の額に拳を軽くぶつけた。
「あんたってやつは…あぁもう、可哀想に。あんたじゃなくて。マルヴィナが」
「…は?」
それは、イザヤールが初めて弟子をとって、半年も経たぬ寒い夕方のことだった。
___特別版サイドストーリー 【 記念日 】
気合と共に息を吐き出し、突きを繰り出す。相手の細剣と交わった時の小さく高い金属音は、
だんだんと耳から遠ざかって行くように感じる。
目の前の相手を捕らえて離さない少女の眼は、鼠に焦点を合わせた猫の眸。気迫が変わる。
それに気づくことができた者は必ずと言っていいほど、遠くない勝負の終わりを思い知らされる。
これは彼女が本気になった時の癖だ。鍛錬中に相手の剣ばかりに目をとられ、
様子を観察できる余裕のない者は、この気迫を感じ取る前に彼女によって平伏せられる。
少女当たりの年齢になると、力の差が現れ始める為、男女で別れた鍛錬となるはずだった。
が、彼女の場合、その力の差さえ眼中に入れた戦いを展開する。しかも無意識らしい。
それが決して全面的に良いことであるとは言えないが、それでも天賦の才とはこういうことを言うのであって、
少女は未だ男天使の中に交ざっても変わらぬ強さを発揮している。
ダン、と鈍い音が響き、少女が一歩踏み出すと共に、細剣が相手の胴に吸い込まれた。
剣を突きだしたままの恰好で、相手は茫然と止まった。鍛錬終了、審判の年上の見習い天使が合図する。
二人は姿勢を正し、握手してその場から離れる。
この二人の鍛錬後を休憩時間としようと言われていた他の天使たちはようやく気の抜けた声をあげ、
講師の上級天使から延長するかという、からかうような声に一斉に口を閉じた。
冗談だよ、と笑われて、控えめながらに気を緩め始めた幼い天使たちが
すぐに和やかな雰囲気になるのは遅くなかった。
「…ふ、うあー! ちくしょー、マルヴィナ、相変わらず強ぇなぁ!」
四肢をだらしなく投げだし、肩で息を吐きながら、少年セリアスは叫んだ。
普段からよく通る彼の大声も、今は周りの喧騒に紛れて注目を浴びることはない。
隣に座って水をさしだす少女、マルヴィナは自分も一杯あおった後に年相応に笑って見せた。
「セリアスこそ。今日も負けるんじゃないかって、冷や冷やしたぞ」
「も、ってなんだよ。殆ど俺が負けてんじゃないか」
「そうでもないよ」
「いや、ある」
しばらく同じやりとりを繰り返したのち、二人して黙りこむ。勝ちならともかく、
何故自分の負けた記録を競わねばならないのか…と気づいて、なんだか馬鹿らしくなったのだ。
「マール、ヴィナー!」
「うわ!?」
突然後ろから抱きつかれ、マルヴィナは残っていた微量の水をこぼしそうになる。
ほんの少しだけ床に飛び散らせて、慌てて軽く拭いた。
友達の女天使存在を背後に感じる。どう考えても男友達の方が多く、
自然と口調もがさつになってしまった彼女を全体から肯定して付き合ってくれる、数少ない少女だ。
「もー、今日もイケメンだったねぇ。うらやますい」
「リズィー、危ないから」
マルヴィナは抱きつかれたまま苦笑して横に広がる友人の満面の笑みを見た。
幼なじみの一人であるリズィアナには正直、剣の才はないに等しい。もともと、彼女の憧れる
上級天使にしてマルヴィナの師匠イザヤールの得意技が剣だったという理由のみで
剣術を選んでいることは彼女を知る者全員が分かっていることである。
「ねぇねぇマルヴィナ、イザヤールさんは?」
「え。…いや、いつもの仕事だと思うが…」
「えー、えー、えー。ねぇマルヴィナぁ、たまには来てくださるよう言ってよー。
あの凛々しいお姿をもう今か今かといったぁ!!?」
べしっ、と、とても女子の後頭部がたてるとは思えないほどの鈍い音がして、
リズィアナは頭を抱え込む。マルヴィナとセリアスはその後ろを見ずとも、
そこに同じく幼なじみのフェスタが立っていることが容易に想像できた。
涙目になってリズィアナは振り返り、空気をも冷やすような眸で後ろの少年を睨み付けたが、
最早百七十年は共に過ごした仲。飄々とした表情で肩をすくめる少年がそこにいた。
「お前はそれより自分の腕磨けよ」
「ご心配なく、いっつも超美肌なリズィーちゃんですもん」
「お前は阿呆だろ、って今更か」
「首出せ首。はねてやる」
「ひゅー怖ぇー!」
この二人の遠慮の要らないやりとりも日常茶飯事だ。それは分かっているが、
どことなくマルヴィナはいつもより二人の気分が高揚しているように思えた。
「なんかいつもより楽しそうだな」
「んぇ? 何言ってんのあったりまえじゃーん! だってそろそろなんだよー?」
「え? …何が?」
「えーマルヴィナぁ、そりゃちょっとひどいよー」
え、と、再びマルヴィナは困惑して短く声をあげた。
何だ? 何か忘れていただろうか。そろそろ?
五年に一度の神様への感謝祭はついこの前だった。上級天使候補になるにはまだ早い。
人々の感謝の結晶だという星のオーラはまだまだ足りないと、師匠は言っていた。
つまりこの世界の頂上にあるという世界樹に女神の果実が生りそうだということではないだろう。
…あと思いつくことと言えば——
「ってか二人は今日じゃねーの?」
フェスタが暴走しそうなリズィアナを再び押さえ込んで訊ねた。再びきょとんとして
ますます考え込むマルヴィナの隣で、セリアスは「よーやく気付いたかぁ」とにやにやと笑った。
「うっそ!! あれ、今日だっけ!」
「お前も忘れてんじゃねーかよ!」
「えー、いやこれとそれとは話が」
「一緒だよ」
再び始まった喧嘩を、とても良いタイミングで響いた上級天使の鍛錬再会の声が遮る。
未だ疲れの抜けきらないセリアスが重い腰を上げ、マルヴィナが必死に
事を思い出そうとしているところで、喧嘩を止めたフェスタが振り返る。
「とりあえず、って言うとちょっとアレだけど。おめでとうな。後でイケメン野郎にも言っとくか」
「おぉ、さんきゅーな」
「おめでとーマルヴィナ」
「え? あ、あぁ、うん」
フェスタの言うイケメン野郎、というのは十中八九キルガである。
今日? わたしたちが何をしたんだろう…? 途轍もなく気になることではあるが、
誰かに聞いてはつまらないことだ。必死に答えを探しながら、マルヴィナも腰を上げた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.527 )
- 日時: 2013/12/08 23:17
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: fOamwJT9)
この不器用生真面目ムッツリ鈍感薄情禿頭大馬鹿煮豆上級天使、と、
一部褒め言葉にもとれる単語を交えながら一応ラフェットは幼なじみを罵った。
よくもまぁそこまでの悪口が一瞬のうちに飛び出てくるものだなと、自分に向けられた
罵声だということに困惑する前に感嘆したい気分だった。
「…何故そこで煮豆が出てくる?」
「嫌いだから」
イヤ知るか、と思わず即刻反論しそうになった。
「だって何さあの甘いの。凄いもっさりしてるし。豆はやっぱつまみの枝豆に限」
「罵倒の理由を問いたいんだが」
訊いてもいないことをぺらぺらと喋り出す幼なじみの言葉を意図的に遮り、イザヤールは横目に訊ねる。
話を中断させられた不満と、つい先ほど話した、彼の弟子にとって今日が『何の日』であるかに対する
彼の反応が薄かったことへの憤りから、ラフェットは太陽をも凍らせる眸で幼なじみを睨み付けるが、
こちらは最早一千年もの付き合いである。揺らぐはずがない——と言いたいところだが、
その睨みはこれまでに受けたものの何よりも強く、ある種の憎しみさえ込められているような気がした。
ますます怪訝な表情を作る男に、ラフェットは胸倉を掴んでやりたい衝動に駆られた。
「あんた…何とも思わないわけ」
「…何がだ」
「最低」
ラフェットはむくれて自分からかちりと合わせていた視線を外した。
腕を組み、とても女性的とは言えない所作でどっかりと腰を下ろす。
足を組んで、いらいらと人差し指を打ち付け始めた。
「師匠になっても、なーんも変わってないんだねー」
先程からはぐらかされてばかりで、こちらの求める最終的な結論を出してはくれない幼なじみに
何を言っても無駄だと悟るが、無視はできなかった。
その理由を自分自身見出せぬまま、黙って彼女の次の言葉を待つ。
「…あの子さ。もう、百七十年ひとりきりだったんだよ。——や、百七十一年、だね」
師匠が現れることを、ずっと待たされた少女。彼女の幼なじみたちでさえ、
他と比べてかなり遅かったとはいえ、マルヴィナだけは異常に延ばされてきた。
通常、天使たちはこの世界に送られてきて一、二年で師匠が決まるのだ。
詳細を述べると長くなるが、とある天使の事情でラフェットでは彼女を弟子にとることができなかった。
一方で、気にかけてはいた。イザヤールよりかはマルヴィナのことを理解している自信はある。
「…一人がどんだけ寂しいものなのか、知らないわけじゃあるまいに」
ぴくり、とイザヤールの眉が動いた。本人だから分かることだ。ラフェットは遠まわしに
彼の師匠のことを話していた。ある日突然戻ってこなくなった、大いなる天使のことを。
「…誰が寂しいと言った」
「言ってないよ、口じゃあね。…あの子も同じなんだよ。
言っとくけど、あんたたち、実は結構似てるからね?」
似た者同士ならわかるでしょ。続けて発せられた言葉は、射抜くような眸がそれ以上のことを語っていた。
分かってるよ。あんたは素直じゃない。生真面目すぎて、何事にも意味を求めるような面倒くさい奴だ。
でも、何事にも理由が必要なわけじゃないでしょ? 正解がない事がらなんて、
この世界じゃどれだけでも溢れているんだ。
——あんたの師匠だって。本当は正解のない事がらのために、行方をくらましたんじゃないの。
彼の師匠のことをこれ以上言うと本当に機嫌を損ねかねない。ラフェットは一度
立ち尽くす男の胸をとん、と拳で叩くと、お下げにした長い髪を揺らしてその場から立ち去った。
——自分だって、何度も言ってあげようかと思った。
けれど、何か違うような気がしたんだ。あの少女にその言葉を言うのは、所詮他人でしかない自分では。
(…言い訳、だな)
ラフェットは自嘲気味に笑った。思わずカッとなって言いたい放題言っちゃったけど。
自分も、そんなこと言う資格なんてなかったかもしれない。
空を染めるオレンジワインを連想させる夕焼けは、徐々に夜の藍に支配されてゆく。
ぽつぽつと、役目を終えて星となったかつての天使たちが姿を現してゆく。
幼なじみの男が部屋を出るのを目で追った。天使たちの今日の鍛錬は先ほど終わったらしい。
キルガはローシャから、セリアスはテリガンから。
それぞれの師匠から、今年もまたその言葉をもらうのだろう。
あぁ、自分の弟子も、もうすぐだ。覚えている。でも、今日も。
本来、あの男が真っ先に言うべき言葉だ。初めは譲るしかない。でも、今年は、私もあの子に言おう。
鍛錬用の防具から着替え終わったマルヴィナは、ふと視線を上げた。結局セリアスやリズィアナたちの
高揚した気分の正体は分からぬまま。必死にセリアスに話を合わせ続けたので、
今更結局何がそんなに嬉しいのかと訊くことなどできるはずはない。
仕方ないからこっそりキルガにでも訊くか、と決意していたと同時のことだった。
「イザヤールさま」
笑顔こそ見られなかったが、声色は喜びの類を表現していた。
む、と、表情変化に乏しい男は仏頂面を保ったまま答えた。自分の存在を喜ばれて悪い気はしない。
が、それを出せるほど表情筋が仕事をしてくれない。
マルヴィナの声をいち早く聞きつけたリズィアナが梳いた長い髪をフェスタに打ち付けながら振り返る。
果実の良い匂いを顔面に叩きつけられるが、でたのは「ぶへっ」という情けない悲鳴だった。
そんなフェスタに「あんた何変な声あげてんの」と言いたげな
リズィアナの視線が突き刺さる。お前の所為だよ、と返す。
「あぁもう格好良いなぁ。もっと早く来てくれたらよかったのに——ちょっと、何すんの」
すぐにでも寄って行かんばかりのリズィアナの腕をフェスタは掴み、止まらせる。
察せよ、とフェスタは半眼になった。
「…あのさぁ。よくよく考えたら、マルヴィナ、ほんとは知らないんじゃないか」
「え、何が」
「…だから、今日が何の日か」
まさかと返そうとして、ようやく思い当たる。リズィアナはまばたきをした。そう言えば、マルヴィナは。
今までの彼女にはいただろうか。その日を伝えてくれる、そんな人が——…。
「…と言うわけで今日は許さん。殴りたいなら殴れ。譲らんけどな」
「…別にいいよ。今日は」
変わらない様子のイザヤールと、躊躇いがちな足取りのマルヴィナの背を見続けて。
二人は、同時に彼女へ、とある一言を呟いた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.528 )
- 日時: 2013/12/08 23:51
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: fOamwJT9)
言われるがまま、黙って師匠についていった。
師弟の関係を築いて間もない。未だ漂うよそよそしさは、さしものイザヤールも少々の気まずさを感じ取る。
だが、いかんせん今まで弟子と言う弟子をとらなかった彼は、そういう時の対応に
優れているわけではなく。このような時だけ、口うるさい幼なじみの女性を尊敬したくなる。
「剣は、どうだ」
「…あ、ハイ、えっと…まずまず、です」
まずまずの基準が分からないが、よく考えれば質問の仕方が悪い。悪すぎる。
何と曖昧な訊ね方だ。もしや自分が弟子をとりたがらなかったのは
他人との接触が苦手だったからなのではないかと考えたことはあるが、
…あながち間違っていないかもしれない。
再び流れた沈黙は、先程よりもずっと重かった。話しかけないほうが良かったかもしれないと
思わざるを得ない状態に、これではいかんと思いなおす。全く、どうも調子が狂う。
周りが心配して眺めるほど異様な雰囲気を纏ったたどたどしい二人は、
やがて天使界の建物の裏口へ到達し、扉を開く。
外は完全に闇に包まれていた。マルヴィナの肩が強張る。彷彿として思い出すのは暗闇に浮かんでいた、
大きな天使たちの、異様なものを見るような眼。否応なく蘇るトラウマは、
夜の外へ運ぶ彼女の足を幾度となく阻み続けた。
こんな時間に夜風を感じるなど、何年振りだろうか——自然と視線が地面へ行く。
鬱蒼と茂った木々のざわめき。自分を見ていた天使たちの、不審を交えた声に聞こえる。
遅ればせながら、イザヤールはその様子に気付いた。思考を巡らせた結果、
最終的に並び立って歩き始めた。…先程より足取りがぎくしゃくし始めてはいたが、
マルヴィナの硬くなった表情は徐々にやわらかくなっていった。
少女は少しだけ口を開いた。冷たい空気を吸い込みながら、声を出す。
「…どこへ、向かわれているのですか」
「…じきに分かる」
普段は質問しても、彼はヒントしか与えてくれない。
自分で考え、答えを見つけることこそ重要だと教えてくれるからだ。
だが、今回ばかりはそのヒントすらくれなかった。今までにない様子に、一抹の不安が宿る。
怒っているのだろうか。…顔を見上げるのが怖い。思い出す、あの日のことを。
——あれ?
マルヴィナはその拍子に、もう一つだけ思い出した——気がした。
…あの日も。こんな、寒い夜のことだった気がする——…。
「…ここだ」
いくらかの時が経って、イザヤールは再び自分から声をかけた。
珍しいことに、本日二度目の考え事に没頭していたマルヴィナは驚き、慌てて視線を上げる。
そしてまた、少しだけ目線を外した。
ここだ、と言われても、それが何を表しているのか皆目見当もつかない。
しいて言えば、目の前にある樹は他のそれらよりも少しばかり太く、大きいということだけである。
…これは新しい問題か…? 勉強は苦手なんだけれど…と気づかれないように顔をしかめると、
イザヤールは突然、軽い身のこなしで枝へ足をかけた。
「…え、イザヤールさま?」
想像図にない、師匠の木登りの姿に、マルヴィナは自分でも赤面するほどの間抜けな声をあげた。
天使はこの世界ではめったに翼を使わないが、飛べないわけではない。
だというのにわざわざ足を使って高いところへ行く、というその姿は
やはり驚く以外の反応が見つからなかった。
「来い」
登りきり、二人分ほどの広さを開け、イザヤールは呟いた。
ほんの少し躊躇ってから、マルヴィナは倣って自分もよじ登ることにした。
小柄な彼女には枝々が遠い。とても人様には見せられないような乙女とは程遠い表情をしながら、
師匠の座る枝へとようやく手を伸ばした。
全身を使い息を吐く。剣を使っているときは全くと言っていいほど感じないせいか、
疲れは久しぶりの体感である。着くいなや再び下を向く弟子に、イザヤールは思わず苦笑した。
曲がりなりにも久しぶりの笑みである。
息が整うのを待って、イザヤールは弟子に、前を見るように促した。マルヴィナはしっかりと師匠を見る。
…違う、そっちの前じゃない。言葉が足りなかったと反省し、
彼女から見て横、自分からすれば前である、所謂外の景色を見るように言いなおして。
躊躇うように、怯えるように。ゆっくりと、俯き加減に左へ視線を転じたマルヴィナは、
——インディゴ=ブルーの夜に散りばめられた、流れる満天の星々を、その眼に映した。
…ゆっくりと、自分が息を吸い込んでいる音が、耳に届く。
ひとつ、ふたつ、みっつ。夜の布を斜めに横切り、静かな輝きを植え付ける。
強い輝き。控えめな輝き。一匹狼。身を寄せ合う星。
様々な小さな光は、マルヴィナの全思考を停止させ、魅了した。
「…凄、い…綺麗」
呟くマルヴィナの声は震えていた。今までに見たことのない景色が広がっている。
冷たい空気の中の、冬の星空。
「…昔、教えてもらったのだ」
意図せずぽつりとこぼれた言葉は、今度は穏やかな笑みと共に発せられた。
「…夜は嫌いか?」
「…苦手、でした。…でも」
マルヴィナは目を離さぬまま、言葉を紡いだ。イザヤールは思わず二度見する。…いま、確かに。
「…ちょっと、考えが変わりそうです」
——彼女は笑っていた。
おそらくは、少女が彼に見せる、初めての笑顔らしい笑顔だった。
「そうか」
木の幹に身体を預けようとして、そう言えば今は自分が木の幹から見て外側にいるということに気付いた。
…あぁ、今は自分が、師匠の立場なのだ。改めて思い出すと共に、自分の師匠が見えた気がした。
あの日、この場所に座るのは師匠で、マルヴィナの位置に座っていたのは自分だった。
自分がこの世界に送られてきて、丁度五十の年月が過ぎた時のことだ。
師が、この場所を見せてくれたのは。
…忘れていた。毎年のように、その日になると声をかけてくれた、あの言葉を。
——今は。自分が、このたった一人の弟子に言う番だ。
「あの日も、こんな夜だったな」
マルヴィナはその言葉に、ようやく記憶のピースがはまるのを感じた。
そうだ。百七十年——いや、百七十一年目。
あの日の今日、わたしたちは。
目を見開いた様子を見て、この少女も忘れていたのか、と思うと、
ラフェットの言った「似ている」と言う言葉が蘇ってくる。
間違ってはいないな。苦笑して、イザヤールは少女へ、再び口を開いた。
一年に一度、大切な記念日を祝して。
「——誕生日おめでとう。マルヴィナ」
特別版サイドストーリー 【 記念日 】——完。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.529 )
- 日時: 2013/12/13 21:52
- 名前: ユウ (ID: viAVUXrt)
キルガ様・・・・。
カッコ内の言葉を声に出したらどう?
サラ「面白いから、が理由でしょ?」
ばれた?
ヤンガス「セリアスのあんちゃん。守護天使候補が嘘をついていいんでガスか?」
ククール「あれは見栄を張ったっていうんだよ。」
セイン「遅れましたが、お誕生日おめでとうございます!」
いやあれサイドストーリーだから。
お誕生日おめでとう♪
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.530 )
- 日時: 2013/12/15 23:14
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: nkm2s9o8)
>>529
漆千音「おおおありがとうごz…!」
シェナ「いや、ユウさん多分、マルヴィナたちにおめでとうって言ったんだと思うけど」
漆千音「(( ;ω;」
シェナ「リアルでおめでとうって言葉割と貰えたんだからいいじゃないの。割と」
漆千音「そこ復唱しないで!!?」
セリアス「ゴメンナサイ…嘘ついて…ゴメンナシャイ…(色々ショックでめり込み中)」
キルガ「さて、セリアスはしばらく無視しておくか」
マルヴィナ「同意」
シェナ「…いつもこんなんだったの…?」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107
この掲示板は過去ログ化されています。