二次創作小説(映像)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.402 )
- 日時: 2013/08/03 20:33
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)
>>399
お久しぶりですー((*´ω`
ようやく夏休みに入ったと思いきや明日からまたちょうど丸々一週間
スケジュールに追われる日々を送りまする…←
待っていてくれるなんて嬉しい((*;ω; ブワッ
暇を見つけてちょいちょいと書いていきます——
Wordに((ぇ
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.406 )
- 日時: 2013/08/16 22:56
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)
苦しかった。
見ることが、聞くことが、傍にいるのが。
ただ、ずっと変わることのなかった思いが保てなくなったからとか、そういう意味じゃない。
理由は分からない。これは違う、そうじゃない。そう言うことは分かるのに、原因となるものが何もわからない。
分からないことも苦しいけれど、それとはまったく違う苦しさだった。
それもこれも、あいつの——花が好きで、お節介で、黒髪で、
耳の下に傷のあるあいつのせいだと——その思いが一番正しいように思えて、違った。
彼のせいだといえばそれまでであるのに言えないのは、納得しなかったからだ。
ねぇ見てアイリス、貸してもらっちゃった。笑いながらマラミアが見せてきた花の本が、
ふと気づけばそこにあった。警戒して、あたりを見渡した。人の陰どころか、風すらない空の下であった。
閉じたままの唇を軽く噛む。意味もなく息を吸い、そして吐いた。
ぱらぱらと、横にずらす指に合わせて頁が静かにめくられてゆく。
精密な絵と、その説明の周りに書き込まれた水性インクの文字。
微妙に滲んでぼやけているところと、書き直したところがある。何度も読み返すほど好きで、
ぼやけた文字をそのままにしているということは書き込んだことをほとんど記憶しているのだろう。
割と字は丁寧だ。あと多分彼は右利きだ。…しかし、よくよく観察していると、この滲み方が
汗のものではないような気がしてきた。何だろう? 何度も読み返している、というところは
おそらく変わりないだろうけれど。
いつものように全く関係ないところまで思考を進めて、ふとその手を止めた。
いつもその身に刻まれていた名が、左端に小洒落た文字で書かれていた。
…アイリス。
燃える思い、情熱、吉報…まるで縁のない世界が、つらつらと並べ立てられていた。
あなたを大切にします。そんな、愛しい者に永遠を誓うような言葉までを表している。
書き込まれた文字と共に眺めていたアイリスは、自嘲気味に笑ったと同時に、ふと小さな惨めさを覚えた。
変わり始めたこの世界。それを拒み続ける自分が、だんだんと滑稽に思えてきた。
そんな思いを持っているわけじゃないと否定しようとした時に、それは増幅する。
また、苦しさが襲った。アイリスは本を閉じて脇に置き、立ち上がる。
頭がぼんやりとしていて気分が悪かった。左肩が硬くなっているような気がして、少し強く抑えてみると、
案の定ひどく凝り固まっていた。そんなに最近、ストレスを溜めていたのだろうか。
…あまりにも周りを気にしなさすぎて、ストレスすら受け流してしまうような自分が、だ。
拒むのをやめ、このままこの世界の流れに身を委ねてしまおうか。
もう、そちらの方が、楽かもしれない。頬をくすぐる細い髪を耳にかけた。
と、聴覚が何かに反応する。同時に、第六感が働いた。しゃがみこんで、あたりを警戒する。
やがて聴覚は聴き慣れた声と足音を捕らえた。焦りや緊張などをないまぜにしたような表情のマラミアが、
アイリスの名を呼びながら真っ直ぐに向かってくる。右手には彼女の愛用する攻撃専用の爪が装着されていた。
説明されなくとも、彼女が何を言いたいのかは分かる——
「何か全然見たことない奴が暴れてて、何かラーク探してるっぽいんだけど、どこにいる!?」
焦って早口になったマラミアの言葉から必要単語だけ抜きだしたアイリスは
予想外の言葉に僅かに眉をひそめた。今その名を出すな。と思ったが、
軽く肩を上げて『知らない』ことを伝える。
「案内して」
「もち!」
アイリスは常に太ももに装着していた笛状の小さな杖を取り出し、軽く振った。
稀に魔物が未世界に紛れ込むことはある。大抵はむやみやたらと暴れまわるために、
それらを殲滅すべく二人はある程度の戦闘能力は持っていた。
それ以前に、趣味程度にマラミアは物理戦術を、アイリスは魔術を学んでいたのもあり、
基礎能力が他人よりずっと上回っていた。
未世界では珍しくない不毛地帯で、それは苦しげにのた打ち回っていた。
もう攻撃でもしたのかとマラミアに尋ねると、足に一撃だけ、という答えが返ってきた。
それだけで苦しんでいるのなら大した敵でもなさそうだ。
ラークはどこにいる、というような内容の言葉が響いてきた。
マラミアが答えに窮している間に、アイリスは笛杖を メ ラ ミ
元の位置に戻し、右手の人差し指と中指を立て、同時に二発の火炎呪文を放つ。
全く違えることなく二つの火球は直撃し、それは叫んだ。
「…何か怒ってない?」マラミアが横から覗き込むようにしてアイリスの表情を窺う。相変わらずの氷の仮面。
マラミアは無造作に後頭部をかくと、少しばかり攻撃的な笑みを浮かべた。「まぁ——どっちでもいっか!」
持ち前の素早さで一気に陰の背後をとり、速攻を仕掛ける。マラミアの一撃が容赦なく影の背を切り裂いた。
と同時、自分より少し大きいほどのその陰を見て、疑問符を伴った声をあげる。
アイリスにはその声が届かず、再び二本の指から火球を生み出し、抵抗ができていない陰に向かって投げつける。
「待った!」
完全に言うのが遅かった。二つが再び影を焦がしたのちに、マラミアは影を突き飛ばした。
共倒れになって、マラミアはひしゃげたような若干間抜けな声をあげる。
どういう意味、庇ったつもり、何今の声、手遅れだった、…いくつものマラミアにかける言葉があって
逆に何を言うべきか困った。そして結局、初めの言葉だけ言う。
陰はうつぶせになったまま、わずかに動くだけとなった。
とどめを刺すならこれ以上ない好機だというのに、何を待つ必要があるのだろう。
「アイリス、よく見て。こいつ」
いつでも火炎呪文を唱えられるように集中力を切らさないまま、アイリスは渋々近づいた。
他よりずっと暗いここでは、裸眼ではよく見えない。細かい作業をするときにしかかけない眼鏡は
置いてきてしまった。マラミアが色んな意味で見ていて心配になるほど顔を近づけ、目を細めて——
そして、マラミアが見てきた中で、間違いなく今までで一番はっきりと顔色を変えた。
苦しそうな、微かにこぼれ出る呻き声が、少しずつ消えてゆくと共に、その姿が変化し始めた。
が、完全に変わってからでないとその正体に気付けないほどアイリスの目は節穴ではなかった。
灰色の目、乱れた黒髪、妙な形をしたピアス。新たに刻み込まれていた、決して小さくない傷。
見慣れた、見たくもない者の、姿。
——かつてのように、感情のない冷静さがまだ彼女の中にあったのなら。
『ラークはどこにいる』——その言葉に、何の躊躇いもなく答えただろう。
——貴方の中に、と。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.407 )
- 日時: 2013/08/24 01:00
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)
——あの日からまた、無い時は流れた。
そしてまた、その日から、時は流れた。
一人で、いつもの石垣に腰を下ろして、ただ両手で包んだ花瓶に挿した花をずっと眺めていた。
…自分の中の気持ちはいつも喧嘩していた。なのに、結局、いつも勝つのは同じ気持ちだった。
あんな奴から受け取った花なんて、捨ててしまえばいい。水をかえるなんて、論外!
…そんな考えの方がずっと強いと思っていたのに、捨てることもできず、放置することもできず。
…けれど、もうその花は、限界を迎えていた。
その花の名を、彼女は知らない。
背筋を伸ばすことの困難になり始めた茎を人差し指で軽く持ち上げながら。
どうしても甦るあの日の記憶に、もう拒むことなく身を任せた。
…ようやく思い出したという言葉から、始まっていた。
不毛地帯で暴れまわっていた魔物の正体を知ってから、人間の世界で言えば五日ほどたった時のことだった。
自分のこと。未練。そして、自分の正体。見慣れたラークの丁寧な、
けれどどこか恐怖と緊張を交えたような文字で、羊皮紙には長々と書かれていた。
マラミアはいなかった。既にこの手紙を読んだのかどうかは定かではない。
ただ、アイリスをこのいつもの石垣に誘導し、無言のままに手紙を指したところから見ると、
恐らく少しは読んだのだろう。一輪の、薄い赤紫の花を挿した花瓶の下に挟まっていた羊皮紙を、
そっと取り出して。絶対全部読めよ、最後まで! そう言い残したマラミアが去ったのを見てから、それを広げた。
人間の世界に、とある国があった。
名を言ったところで分かるはずはないので、簡単に『帝国』と呼ぶ、と書かれた文を読んだときに、
無駄を省く性格のアイリスは共感しかけて止めた。
彼はその国の一兵士だった。初めて会ったときのあの独特の殺気と、
少々ばかり戦の経験のありそうな雰囲気はそれが原因かと納得した。
あくまで良い国とは言えなかったという。取り立てて治安が悪いとか、税金が高いとか、
そう言ったよく耳にはさむようなことではない。青年期になれば男女関係なしに
兵役の義務があったのを除けば、むしろ国民にとっては特に感じるものはなかったかもしれない。
問題は、皇帝や、その周りの科学者、上位の兵士たちだった。彼らは内密に、
さまざまな実験や発明を繰り返していた。全ては、他国の征服のために。
改めて、人間とは欲の尽かないものだと思った。
…それでも不人間は、そんな者たちに憧れるのだから、よく分からない。
自分自身、不人間の一人だというのに。
…要点をまとめきれていない文章だったが、内容を要約した時、アイリスはおそらく
初めてぞっと背筋を震わせた。しばらく動けず、声が出せず、ただ空白の時を過ごしてしまった。
もう一度、繰り返してその文字をなぞるように読む。
…帝国が最も力を入れていた実験は、兵士の強化だった。
皇帝は好戦的な性格で、短期間で爆発的に兵士の力を上げたがっていたという。
…手を出したのは、人間を魔物に変える実験だった。ただの暗喩だと思った。
違う。書かれたそのままのことが、その帝国では行われていた。即ち、神をも恐れぬ禁断の術。
(人体実験…)
二度読んで、乱れた気分に少しだけ余裕ができた。羊皮紙から手を離し、上を向いて長く息を吐いた。
…大丈夫。続きを読もう——この後書かれていることは、大体想像はついている。
それでも彼女は、再び向き直った。
…主に実験には、どこかの捕虜や囚人が使われていた—表現方法が思いつかなかったのだろうか、
使われたという文字の前には何度も消した跡があった—。未だ試作段階で、人材はすぐに尽きたらしい。
…次に使われたのは、下級の兵士たちだった。
アイリスはもう一度、顔をしかめた。間違いない。この後に書かれていることと、
自分が想像していることは、一致しているだろう。あまりにも惨い、真実が書かれているのだろう。
今すぐ破り捨てて炎の糧にすることは容易い。一瞬だけ大きく動いた指は、
すぐさま理性によってかたく握りしめられた。…最後まで読まなければならない。そんな気がした。
…ラークもまた、その実験を受けた一人だった。そこからは曖昧らしい。
痛みなど感じた記憶がない。何があったかも覚えていない。
けれど、確かに何かが起きたのだと、理解した。とばされた、この世界で。
…実験はまだ完成していない。あの、あまりにも不恰好で醜すぎる姿で分かるように。
意図せず、突然あの姿になってしまうのを見て分かるように。
何故、彼自身を探していたのかはわからない。失われた自分を取り戻したかったのか否か——
きっとそれは誰にもわからないだろう。
…感謝している、という言葉があった。理性無き自分を止めてくれてありがとう、という意味の。
けれど一方で、何故止めたのか、という言葉をにおわせる文章が続いていた。
何故止めたのが、二人だったのかと。間接的にかかれていた文章の最後にははっきりと、直接——
震えて乱れた字で、彼の本心が小さく書かれていた。
——あなたには、知られたくなかった。
漆千音))せ…台詞がない Σ((´ω`
次でこのどシリアスサイストは最後になります
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.408 )
- 日時: 2013/08/25 12:13
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)
…ラークはどこか遠くへ去ってしまった。
あの日から間も経たぬうちに、二人には告げず。
手紙は、置かれていた花の話で締めくくられていた。
世界の変化に戸惑い、不安を押し殺して気丈に振る舞う貴女へ—何を言っているこいつは、というような
意味の言葉が思い浮かんだ—。
——『あなたの幸せを』。
「いたの」
アイリスは視界の右端にマラミアの姿を認め、意識を引き戻した。
そう言えば、マラミアに会うのも久しぶりのような気がした。それはあくまで感覚であって、
実はそういうほど時は立っていないのかもしれない。
声をかけてすぐに、マラミアがいつもの彼女の雰囲気を纏っていないことに気が付いた。
パターン化しているもので、こう言うと大抵は「いるよ」「さっきから」「まぁね」等々の
軽い声色と返事が来る。どうかしたのかと訊くと、マラミアはそこで少しだけ頬を緩ませた。
「アイリスからそんな言葉がきけるなんてね」質問とは別の答えが返ってきた。
他という他に全く興味をもっていなかった彼女は、ようやく、少しずつ、変わりつつある。
きっかけをくれた今はもういない青年に、これ以上ない感謝の言葉を述べたかった。
「読み終わった?」結局、アイリスの質問は軽く流すだけにとどめて、マラミアは訊ねた。
短く肯定の返事が来る。座ったままのアイリスの斜め前に立って、マラミアはまた黙った。
ずっと待っていたのだろう。なのに、一向に要件を言わない。さすがにこの雰囲気を伴って、
何でもない、ただここにいるだけということはなかろう。しかし、先程既にどうかしたのか、と訊ねたばかり。
もう一度訊いたところで答えがかえってくるとは思えなかった。
「…その花」
次に彼女が出した話題は、アイリスの隣で力なく頭を床に下げる、
茶色が少しずつ侵食し始めた赤紫の花だった。「枯れてきたね」
「…そろそろ限界ね」アイリスはさも何でもないように言って見せようとして、見事に失敗した。
感情を偽ることに慣れていないことを、今更思い出す。「…最後までお節介な奴だった」
「お節介?」
「この花の言葉」
言った途端に、マラミアの顔色ははっきりと変わった。喜びでも、安堵でもない。
何かを待つような、緊迫を帯びた表情。けれどアイリスの視線は花に向けられていて、気付くことはなかった。
「手紙、最後まで読んだの?」
「…いや」マラミアは静かに答えた。
「どう見たって、アイリスに向けた奴だったから…途中でやめた。…あ、でも、その花のことは…読んだ」
「そう」
枯れかけた花に、自分の哀切の思いを重ねて、どこか悲しく嘲笑うように呟く。
「…未世界に、幸せなんてないのに」無意識に、もう一度茎を指で持ち上げた。人差し指に
身を委ねるばかりの茎は、少しだけ重く感じた。「嫌な奴だったのに…何か、去ったら去ったで、妙な感じ」
「…」マラミアは一度、開いた口を閉じて、また開いた。深呼吸をして、自分自身を落ち着かせた。
「…嘘だよ。それ」声色に緊張は強くにじみ出ていた。
一体、この花をアイリスへ送ろうとした彼は、いくつの思いをその身に宿していたのだろう。
苦しくて、切なくて、それでも一時の自分の中の想いに正直になりたくて。けれど、それは許されなくて。
「…その言葉が何度も書き直されていたことが気になったんだ」
言われて初めて気が付いた。『あなたの幸せを』——その文の下にも、何度も書き直された跡が
少しだけ残っていた。あまりにもその言葉だけがアイリスの中では強すぎて、気付かなかったのだろう。
マラミアは何故か、妙に緊張した。
一瞬、言うのをためらって、もう一度気分を落ち着かせた。言わなきゃならない。
「言いたくないのなら無理に言う必要はないわ。別に構わないから」
「駄目」
その言葉に対してだけ即答したことに驚いて、アイリスは茎から手を離した。
「言わなきゃ…ラークが浮かばれない」
なにそれ、と心中で一つ息を吐いた。まるであの青年がもう、
この未世界にすらいないような言い方を——どう考えても、言葉の使い方を間違えているとしか、
コ コ
「落ち着いて聞いて。…ラークはもう、未世界から消えたよ」
——思えなかった。
「…え」
一瞬、周りの音が、すべて消えた。
周りの色が、全て真っ白になった。
何かを言いたかったのだろう。アイリスの唇が開いたまま、固まった。
手紙を読んだ時以上に、長い時が流れた。
「…嘘じゃない。…」
何も言えなかった。何も考えられなかった。ただ、頭の中で、そのたった一言を整理することができず、
ぐしゃぐしゃになった思いをそのまま放置することしかできなかった。
何故わかる、という意味の言葉を言っていた。何でそんなことをきいたのかはわからない。
それに対する返事も覚えていない。自分が言ったことも、マラミアが言ったことも、何も耳には入ってこなくて。
ただ、そのあとの言葉だけは、何故かしっかりと、耳でとらえて離すことはなかった。
「…その花の名は、スカビオーサ」マラミアは続けた。本当に言いたかった、伝えたかった、ラークの意思。
幾多もの思いに阻まれ、邪魔され、それでも形にした、最後のメッセージ。
「意味は…『叶わぬ恋』」
…好きだ、という想いを、直接伝えられなかった彼は、この花を添えた時どんな顔をしていたのだろう。
この手紙を震える手で書き続けた彼は、どんな気分だったのだろう。
ご丁寧にも、人の性格を変えてくださって。そんな彼を、忌み嫌っていたはずなのに。
帝国とやらで、望んでもいないのに兵士の一人となって。
意志とは逆に、ただ身分が高いだけの人間に、いいように扱われて。
彼は、一体、何のために生まれて、何のために生きたのだろう。
彼は国の流れに逆らわずに過ごすしかなかった。
世界の流れに逆らおうとしていた私は、彼の目にはどう映っていたのだろう。
…どうして彼は私なんかを、気にしてくれたのだろう。
あんなに邪険に振る舞っていた自分を思い出した。
もっと早く気づいていればよかった、もっと早く、自分の想いに正直になっていればよかったと。
ずっとその気持ちを押し殺して苛ついて、なのに伝えられなかったからと後悔して。
そんな自分はあまりにも滑稽で、情けなかった。
花瓶を両手で包んだまま、女は涙を手の甲に落とし、
力を失いつつあったスカビオーサの花びらは一枚、静かな音を立てて床に落ちた。
サイドストーリー 【 花言葉 】———完
漆千音))…あれ、こんなはずじゃなかったんだが Σ((´ω`
もっと『ハッピーでバッドなエンド』を目指していたんだが…何でこうなったんだ?((知るか
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.409 )
- 日時: 2013/08/25 23:22
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)
うーあー…明日からまた学校だ
夏休みは今日で最後です短い。
大学のAO入試に落ちたので(泣)部活動を引退した後は勉強尽くしになりそうでふ((撃沈
つまりどういうことかって、
…また今以上に更新が不定期になります((どーん
あくまで不定期であって、減るとも限らないし増えるとも限らないというこの超中途半端な状態。
この場を借りて——
ゴメンチャイ。((殴×4
そうそう、いつしか参照が4000を超えていました。
なかなか更新できないこの小説を見てくださる皆様、ありがとうございます。
次はⅩⅤ章7.のシェナパートとなります。こちらはかなり短くなると思われます。
ではでは、またしばらくお待ちくださいゴメンナサイ。
漆千音でした。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107
この掲示板は過去ログ化されています。