二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.209 )
日時: 2013/02/03 22:06
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「マルヴィナ」
 最後に学校内を見ておきたくて、夕方、マルヴィナは一人校舎を歩き回っていた。
彼女がいた教室の前の廊下を通った時、その部屋の中から呼び止められる——声の主は、もうわかる。
「あぁ、モザイオ」
 マルヴィナは笑いかけた。初めて会った時の表情は、微塵も残っていなかった。
「その…しっかり、言っていなかったからな。その…えっと、…ありがとよ」
「…………………」マルヴィナは目を一度ぱちくりとさせ、くすりと笑った。
「どうしたの? 急に。…熱でもある?」
「どういう意味だ? …いやだから、…しっかり、言ってなかったから…」
「気にすんな。みんな無事で良かったよ」
 ばっさりと言い、にっこり笑うマルヴィナの顔が、夕焼けで赤く染まる。
モザイオは知らずうちに、顔を背けた。
「お前…本当は、ただの学生じゃないだろ。お前だけじゃない、…一緒にいた、…キルガってやつも」
「うん」マルヴィナは隠すことなく、あっさりと肯定した。
「わたしたちは…旅人だ。今回、探偵と間違われて、誘拐騒動を調べていた」
「そんなこと知らず色々、悪かったな」
「ちょっと、どうしたの? いきなり。この数日わたしが見てきたモザイオは、そんな性格じゃないはずだろ?」
 マルヴィナは髪を耳にかけて、モザイオを改めて見る。モザイオは慌てて、話を逸らした。
「明日、発つのか」
「うん。…帰らなければならない場所がある。だから…今日でみんなともお別れだな」
 モザイオは黙った。まだ、認めてそんなに時間がたっていないのに。
それはなんだか、長年の友を失ったような感覚だった。
 ——いや、違う。それは——その思いは——…。
「えっと…その、だな…」
 モザイオは何故か若干混乱しつつ、思ったことをぱっと口に出してしまった。
「お、俺さ——」


 夕焼けに染まる、教室前の廊下で。
 彼は、言った。

「俺、この学校、変えてやろうかなって、思ったんだ。あの初代が、こんな俺にも目をかけてくれたからよ。
…ちょっとこさ、その恩返しみたいな…その」
 言いたいことがまとまらず、一気にしゃべった。だが、マルヴィナはあっさり、本当にあっさりと、言った。

「頑張れ」と——

 できるとも、できないとも言わない、ただ、頑張れと。
その言葉は、今まで言われてきたどんな言葉よりも、力があるように思えた。
 マルヴィナが手を差し出す。モザイオは戸惑ったようにそれを見て——そして、その握手に応じた。
マルヴィナがニッと歯を見せて笑う。モザイオは慌てるようにその手を離し、
やり場に困って結局ズボンのポケットの中に突っ込んだ。そして、少しだけ距離をとる。
そのまま、手を少し上げて——

「じゃあ——気を付けてな!」

 叫んで、そのままマルヴィナの横をすり抜けて走って行った。
「あぁ、ありがとう」


 マルヴィナの声を最後に聞いた彼の顔が赤かったのは、夕日だけのせいではなかった。






 そんな青春を、

「ふふっ。キルガにライバル、とうじょーう」

 シェナは陰からこっそりと眺めていたりする。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.210 )
日時: 2013/02/03 22:12
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

         4.



 そして、時間は夜になる。
マルヴィナは、左手に握りしめた白いピアスを確かめるようにそっと盗み見た。
(“ルィシア”か——)
 もちろん気付いていた。彼女が、ガナンの一員であること、自分を見張っていたものであることは。
そしてこのピアスが、彼女のものであることも。

“— あれ、それって、ルィシアのじゃない? —”

 別れの挨拶を言いに行ったミチェルダの指摘で、それを知った。マルヴィナはその名をしっかり頭に刻み、気を引き締めた——



『来たねー、マルヴィナー』
 と。いきなりなんだか間の抜けた声が聞こえて、マルヴィナは咄嗟にピアスをその手から放した。
ポケットの中で握りしめていたので、下に落ちることがなかったのは幸いである。
 そしてその声——懐かしくて、でも知らない、だが自分を呼ぶことができるのは——

「マイレナ…?」

『はいせーかい。ここまでお疲れさまだねー。…どっこらしょっと』
 なんだか凄くババくさい言い方をして、マイレナは登場した。…屋根の上から。
「うわっ!!?」
『へーい初めましてん。若干有名人・“賢人猊下”マイレナと申す。
ちなみに本名はマイレナ・ローリアス・ナイン。歳は秘密で賢者やってるけど本職僧侶だよん。よろぴく』
「………………………………………………………………………………………」
 一瞬訪ねた人を間違えたかと思った——が、聞いてもいないのにつらつら説明された情報は、
以前マルヴィナがシェナから聞いたそれと一致している。…本物、だろうか。
賢者と言うからもっと真面目で堅物を想像していたのだが——が——…。

(わ…)
 マルヴィナは半眼になって、
(訳分からんこの人…)
 なんだかアイリスやマラミアとはまた違った意味でキャラの濃い人が出てきたなぁ、と思ったのであった。
「じゃあ、とりあえず本題に」
 何故か討論みたいな言い方になって、マルヴィナが言った。
『はいはい。何でも聞いてちょ』
 なんであなたはそんなに軽いんですか? …とはさすがに聞かず、
マルヴィナはずっと気になっていたことをはじめに、単刀直入に聞いた。
「わたしの“記憶の先祖”の正体を」
『むー?』眠たげな声を上げて、そして。

『…あぁ、“チェルス”のこと?』

 マルヴィナの表情が、緊迫したものになった。
 ようやく。ようやく、聞けた。謎だらけだった、その人の名が。…チェルス。それが、名前——!
『称号なら、もしかしたら聞いたことあるかもね』
 厳しい表情のマルヴィナの前で——マイレナはこれ以上ないほどすんなりと、
聞き逃してしまいそうなほどあっさりと、決定的な名を口に出す——

『あの、“蒼穹嚆矢”だよ』



 …マルヴィナの表情が、今度は固まった。
「……………………………………え?」
 そんな間抜けな声しか出なかった。
 そうきゅうこうし。蒼穹、嚆矢…?



「っっっっっえぇぇぇぇええぇぇええっ!!?」
『ド馬鹿声がでかい!!』



 “馬鹿”に“ド”をつける初めて聞くツッコみどころ満載の単語をツッコミの言葉に交えて
マイレナが制した。が、もちろんマルヴィナはその言葉も耳に入らない。
「そ、そっ…………そう、そそ、そうきゅ」
『うん。まずはな? まずは落ち着こうなマルヴィナちゃん。…ごめん今ちゃんつけたこと後悔した』
「オイ何気に今失礼なこと言わなかったか?」
『よし調子戻ったね。…そ、あの有名な蒼穹嚆矢が、あんたを作り出したんだ。よろし?』
 マイレナに確認され、マルヴィナはこくりと頷いた。あまりに衝撃的で、
それこそ心臓が止まるかと思ったほど衝撃的過ぎて一瞬混乱したが、どうにか落ち着いた。
しっかりと、マイレナの話を聞く。
『おし。…では、説明しよう。こほん。…ウチとチェルスは、不人間じゃあない、霊だ。
ウチは生きてた時、あいつと旅したことあるからね。あいつはうちの正体、ちゃんと知ってるよ』
 マイレナは世間話でもするように言い——幾分か、声色を真面目にした。
 マルヴィナはその言い方に首を傾げつつも頷いた。
そして、もう一つ気になっていたことを問う。
「その…マラミアから、聞いたんだけれど。“未世界”にいる霊を、この世に送ることのできる奴が
ガナンにいるって…詳しいことはあなたに聞けって、言われて」
 マイレナはだらけきったような表情を、別人かと思うほどに引締めた。
マラミアも、この話をするときは真面目そうだった。これは、相当重要な話らしい。
『…あぁ、知ってるよ。…今回の犯人も、その系統だしね』
「へっ!?」
『あと、あんたらが関わったっていうルディアノの黒い騎士とそいつにぞっこんラブ状態だった魔物と、
ヘンな病魔と…んー、そのあたり? も似たよーなもんよ』
 表情の割に軽い口調も、今は気にならなくなった。次々と現れた、懐かしい名。
しかも——それらには、とある共通点があった。マルヴィナは、自分の心臓を押さえる。
マイレナはそれを見て、『まさか』と今度は本当に、切羽詰まった顔をした。
『…そいつらが昇天した時、妙に心臓動いたりしなかった?』
「!!」
 マルヴィナはぎくりと身をすくませた。…図星だった。
今まで、ただの偶然だ、激しい運動の後だからだろうと、無理矢理納得して、
気にしていなかったそれが——マイレナの口から、説明されたのだ。
「…その、とおりだけれど…あの…?」
『あ、いやなんでもない。…………………』
 その言葉の割に、その表情は——思いが顔に出やすい性格なのだろう、
だからこそマルヴィナは、その不安を拭いきれなかった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.211 )
日時: 2013/02/03 22:15
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 が、風がマルヴィナの背筋を震わせた後、マイレナの表情がようやく、当初のものとなる。
『ごめ。話戻すか。…んとね…とりあえず、落ち着いて聞きなよ』
 謝りの言葉の“ん”を抜いたのはわざとなのか? と、この軽い人物(?)の話し方が
大分理解できてきたマルヴィナは思った。
『マルヴィナが天使界から落ちた時、嫌な波動が襲ってきたっしょ』
 マルヴィナが頷く。マイレナは一度ふっと天を仰ぐと、そのまま唇をほぼ動かさずに、早口に言った。

『…あれを放った者と、霊を甦らせている者は、同一人物だよ』

 雷が身体を走ったようだった。目は見開き、足はすくむ。
「……………………………ぅ」
 嘘だろ——思わず、言いかけた。もちろんこの状況で嘘をつかれたはずがないということは、分かっている。
だが、そう言いたくなるほどに、衝撃的過ぎたのだ。
 もう、何年前になる? …天使たちの笑顔が、喜びが、ただその一撃で砕かれたあの瞬間。
あれで、どれだけの天使たちが行方不明になったのだろう——

「………………………?」

 ふと、とある疑問が頭をかすめた。だが、マイレナは、そのまま話を続ける。
『正体は、今は知っちゃいけない。だけど——いつか知ることになる。ただ、これだけは言っておくよ。
…そいつは、マルヴィナに、深く関係している』
「なっ!!?」驚いてばかりだ。「わたしに…? どういう事なんだ、わたしに関係するって、一体何なんだよ」
『それは』マイレナは一度言葉を切る。
『ウチが言ったら、とんでもないことになる。…それは、自分で探り、自分で見つけること。
人から聞いたことは信じられなくなるところがある。でも。自分で見つけたことは、
どんなに信じがたくても、それが真実だってことで、信じなければならないからね。
…だって、自分の目なんだから』
 マイレナの少し難しい話に、マルヴィナは少なからず驚いた。
そして、思う——この人は、本当に賢者なんだと。
『まぁ、まずは天の箱舟とか言う乗物に戻りな。果実は、そろったんだからさ』
「………………………………」マルヴィナは一度、黙った。
「本当に、分かるのか? いつか…それは近いのか?」
『わかるよ。遠いか近いかは…あんた次第かな』
 そういうなり、マイレナは少し消えかかる。…だが、彼女は。完全に消える前に——こういった。


『それに、どうせ戻れないから』——マルヴィナには、聞こえない声で。





 翌朝——マルヴィナはセントシュタイン城に赴き、リッカと久々に会話した。
もしかしたら、もう会えなくなるかもしれない。だが、長居はかえって、辛さを仰いだ。
マルヴィナは耐え切れなくなって、昼前には宿を出た。
「また来てね」——リッカの、何も知らない屈託のない笑顔を、少し寂しそうに受け止めながら。



 そしてその昼——アユルダーマ島、ダーマ神殿西、草花の生い茂る草原の中、蒼い木の前——
「シェナ、いいね。逃がさんぞ」
「………………………………………」
     ・・
 天使界へ戻ることを、シェナは前回と同様に渋っていた。だが、マルヴィナの必死の説得で、
観念したのかどうにかここに立つまでに持ち込んだのだ。
「…で。結局、どーやって呼び戻すんだ?」
 いつかサンディは言っていた——箱舟が今蒼い木の所にないから果実は箱舟の中には入れられない。
じゃあどうやって帰るんだよ!! とセリアスが言ったところ、マルヴィナが「当てがある」と言い出したのだ。
前回まで、そんなことは言わなかったのに。
「で、何でマルヴィナが知っているんだ?」
 キルガの悪気ないぽつりとした意見に、
「あー…なんでだろうね? ウン」
 マルヴィナが何とも曖昧に答え、
「いやウンじゃないぞ」
 セリアスが手を上下にひらひら振ってツッコミを入れる。
そうこうしているうちに、マルヴィナは木の前に立ち、その堂々たる幹に手を触れさせる。
マルヴィナが目を閉じる。途端、葉の蒼が、マルヴィナを包み込む!
ない風に吹かれて、マルヴィナの髪が踊る。目を見張る三人と、黙ってそれを見るサンディの前で、
マルヴィナは唇を動かさず、厳かに言った——
「…神の創りし天空の舟よ。女神の力宿せし聖なる樹木の前に、今姿を現せ——」
 遠くから、甲高い汽笛の音が鳴り響く。キルガが、セリアスが、はっとする。
黄金色の曲線を引きながら、それは次第に姿を現した。

 女神の果実同様、優雅な金色を携えた、天の箱舟、まさにそれであった——…。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.212 )
日時: 2013/02/03 22:25
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「あ、あの、“黒羽”様」
「………………………………………………………」
 ルィシアはもう、答えない。ただ、立ち去ろうとしていたかの学院を、もう一度見る。
そして、目を細める。気のせいか。…気のせいだろう。だが、それならば、なぜこんなことを思った?
 …確かに、ふと感じた。懐かしい気配、幼き頃に失った感覚。

 歳の離れた、姉の気配が。



 自分とは違って、短髪を好んでいた。
 僧侶を志して、ある有名な僧侶団に入っていた。
 たったひとり、仲間を作り、ともに戦っていた。
 その名はいつしか有名になり、旅人なら誰もが知る称号を手にした。
 そして、最後には、賢者となった——その名は、マイレナ。


 だが——
 ルィシアはふっと自嘲気味に笑った。          ・・・・
 だからなんだと言う。もう、関係ない。そもそも、それは、三百年前の話。
もう、ここにいるはずがないではないか。
 ルィシアは自分自身に目を落とし——そして、そのまま、学院を後にする。
 振り返りもせずに。


ブラックコーヒー        ビロード
 黒珈琲の髪を、青紫色の天鵞絨の外套の頭布ですっぽり覆ったその娘—以前、マルヴィナたちが、
カラコタ橋のキャプテン・メダルのテント前で会った女性だ—は、そっと溜め息をついた。
結局、ここへ戻ってきてしまった。森の奥に隠された泉、初めてあの人を見つけた、この場所に。
行ける範囲は、もう行きつくしてしまったように思えた。それでも、あの人は、一向に見つからない。

(戻りたい)

 娘は、思った。

(戻りたい。…けれど、置いてきてしまった。…どうして、隠してしまったの。…戻りたい。
もう一度、わたしに夢を見させて——…)

 娘は、泉に足をおろした。
 波紋は、もう広がらない。



「さてマルちゃん。もう一回聞こうか」
「だから分かんないって! てかマルちゃん言うな! 変態か!」
「何故それで変態になる!? 基準を述べよ!」
「セリアスが言うからだ!」
「それだけ!!?」
「マルヴィナ」
 果実を二個持ったマルヴィナと果実を二個持ったセリアスが単純かつくだらない議論をしていたときに、
果実を二個持ったキルガが珍しくその話に割り込んだ。
前に言ったように、彼が人の話の間を割るということは、相当重要な話があるという事、
またこの時にヘタに無視するとあとから恐ろしいことになる。…やはりその中身は伏せておくが。
 ともかく、そのまま彼らはあっさり、若干作り笑いを浮かべんばかりの表情で、キルガに話の主導権を譲る。
「マルヴィナは、あの木のことを…“女神の力宿せし聖なる樹木”と言った」二人は頷く。
「あの時…前回、天使界に戻った時、聞こえたあの“声”が、木に力を宿しただろ。…ってことは」
「女神だった、ってこと?」訊いたのは果実を一個持ったシェナだ。
何のことか知らないながらも、そう尋ねた。
 キルガは頷く。
「…予想だけれどね。でも、そうだとすると…波動は天使界を襲ったが、
女神様は無事だということになる。…望みはありそうだ」
「キルガの予想は大体当たるからな! マルヴィナよりはましだ」
 先ほどのお返しのように、果実を二個持ったセリアスはあっさりと言う。
「ちょっと待てそれどーいう意味だ?」
「だってマルヴィナが百発百中当たるのはヤーな予感だろがっ。
別に求めてないことをパンパかパンパか当ておって、占い師かアンタはっ」
「「「………………………………………………………………………………」」」
 果実を二個持ったマルヴィナばかりでなく、果実を二個持ったキルガや
果実を一個持ったシェナにまで黙りこくられて、果実を二個持ったセリアスは「ふぇ?」と問い返す。
「ちょま、何で最近俺がしゃべると毎回シラケる?」
「…今、反論材料をそろえていてな…文章を組立て中だ」
「……………………………」
「なぁセリアス。——この話題、止めにしないか?」
「…そうしましょう」
 ダメだこりゃ、と呆れたのは運転中サンディ。
「…えと、ところでさ。…さっきから思っていたんだけれど」
 果実を二個持ったマルヴィナが、言った。
「…なんでわたしら、果実もったまま話しているんだろ?」
「え、や、なんとなく」
「降ろしていい雰囲気じゃなかった」
 降ろそうとしたあたりでキルガに話しかけられたしとは賢明にもセリアスは言わなかった。
「…三両目に置いておくか。天使界まで遠いし、重いし」
 果実を七つ集めたことで、心なしか一つ一つが重くなったような気がした。
マルヴィナは最大で四つ、自分のフードの中に入れていたことがあったが、
今そんな行動をすると間違いなくマルヴィナは首を絞められるか、
そのまま後ろに倒れるかのどちらかになる。けれど試しに、七つ持ってみると
どれくらいの重さになるのかなんとなく知りたくて、マルヴィナは自分が持っていくと言い出した。
手伝おうか、とも言われたが、考え事をしたいんだと言うと、
そのなんとなく思いつめた様子を感じ取った彼らは黙ってマルヴィナひとりに任せてくれた。
ただし、まずいと思ったら遠慮なく呼べよ、という言葉は忘れずにマルヴィナへ送ったけれども。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.213 )
日時: 2013/02/03 22:23
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 一両目に残された三人は、それぞれ席に座り、思い思いの行動をし始めた。
キルガは棚にあった歴史書を読み、セリアスは簡単な筋力トレーニングを始めた。
シェナは、運転するサンディのご機嫌な鼻歌を聞きながら、
ひとり、先ほどのマルヴィナ以上に思いつめた表情で考え込んでいた。

(…ばか。なんで、ついてきたの)

 自分自身に、嫌気がさしながら。
(…どうする気なの。今更、言うの? そんなこと、できるはずがない)
 シェナは自分が、小さく震えていることに気が付かなかった。
                ・・・・・・・・・
(…これから、どうしよう…もし、いられなくなったら…どうすれば、いいんだろう…っ)
 心のどこかで。彼女は、このまま箱舟が、どこにも着かなければ良いのに、そう考えていた——…。




 果実のあまりの重さにあっちらこっちらよろけつつも、マルヴィナは三両目の扉の前に立った。
開けようとして——止まる。
「……………………………………」
 そして、黙り込んだ。考え込むことが、多すぎて。


 第一に、“蒼穹嚆矢”チェルス、記憶の先祖。
 自分を創り上げたもの。自分は、創造神グランゼニスが生み出したものではない——
では、そのチェルスというのは何者なのか?
天使を一人創り上げるだけの力を持つ——その、チェルスという者は。

 第二に、マイレナ。
 暗闇でよくは見えなかった、だが、彼女は、どことなくルィシアに似ていた。
邪心のない、ルィシア。どこか、共通するものがあった。…まさか、子孫?

 第三に——昨夜、マイレナとの会話の途中に感じた疑問。
 地上に落ちた、天使たち。随分長いこと旅をして、おそらく世界の大半は既にまわったであろう。
だが——天使の姿を、誰一人として見なかったのである。天使界に戻った時、天使の姿は見えた。
だから、見えなくなったわけではない。本当に、見なかったのだ。
落ちたのはマルヴィナ、キルガ、セリアスだけではない。
他、地上へ、いなくなった天使たちを探しに師匠たち——イザヤールや、ローシャや、テリガンといった
上級天使たちも天使界を離れて地上に降り立っているはずなのだ。…何故、誰にも会わなかった?

 第四に——シェナだ。                  ・・・・・・・・・・・・・・
何故彼女は、天使界へ行くことを拒んでいるのだろう。自分を、昔翼を失い地上に落ちた元天使と称す
彼女の噂を、マルヴィナたちは聞いたことがない。
天使たちによって、隠されているのか?
おそらく同い年の彼女を、マルヴィナたちは知らなかっただけなのか?

 そして、第五に——女神の果実。
七つ集めきった。これで、天使たちは神の国へ戻ることができる。それを昨日は喜んだ。
だが、ふと思い出した——カルバドの草原で思ったこと。
…翼も光輪もない自分たちは、果たしてどうなるのかと。
それに、地上に、ガナンや、謎の者—“未世界”から霊を蘇らせられる者—を残して、
このまま行ってしまっていいのだろうか。

 …すっきりしなかった。分からないことが、多すぎた。
早く戻りたい、戻って、皆の喜ぶ顔が見たいと考えつつも、どこかで、
このまま天使界へ行ってしまっていいのだろうかというもやもやとした思いが渦巻いていた。


 そんなことを考えていたからか。マルヴィナは、気が付かなかった。
 自分の後ろで、淡い光の渦が生じていることに。それでも、しばらくして振り返ったのは、
懐かしい声が聞こえた気がしたから。真っ直ぐ自分に、「久しいな、マルヴィナ」と言われたからだ。
しびれかけた腕を気にせず、マルヴィナは勢いよく振り返り、そこに立っていた姿を見て——
その瞬間、思考を停止させた。



 なぜなら、その人は。





「……………………え…っ…………………………イザヤール、さまっ………!?」










 それは、何年振りかにあった、自分の師匠だったのだ。















            【 ⅩⅠ 予感 】  ——完。     


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