二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.219 )
日時: 2013/02/06 22:17
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 夕方近く、マルヴィナは村の外に出てみた。
 小さな門、近くにある看板。いかにも不愛想に、そっけなく書かれた『ナザム村』の文字。
川が流れ、井戸があり、こぢんまりとした家々があり、畑があり。
歩き慣れたものにしか通れそうにない小道があり、水車があり、
少し綺麗な教会があり、酒場があり、武器屋があり。
そして、血の跡の目立つ桟橋が、あった。マルヴィナは顔をしかめる。
どうやら自分はそこに倒れていたらしい。…その周りの柔らかくなった地面に集中する、数々の足跡。
物見。だが、誰も助けない。
本当にあったことが、マルヴィナには容易に想像できた。
住民たちも、マルヴィナを異様な目で眺めてくる。分かりやすく顔をそむける者までいた。
それは、村が余所者を異常に嫌っていることと、あれだけ死にそうな怪我を負っていた娘が
短期間で歩き回れるようになったからだ。
 ウォルロ村で、リッカに助けてもらったばかりのころを思い出す。嫌悪、好奇、不審、侮蔑、恐怖。
それらの、決して受けて気分の良いものではない目を受けたあのころに似ている。
「余所者が。さっさと出てけよ」
 だれかが、ぼそりと、だが聞こえるように言った。
「この村に変な空気を持ち込むな、余所者が!」
「………………………………………」
 マルヴィナは反応しなかった。あくまで、しなかったのだ。
理不尽な言葉に、相手かまわず言い返し、正しいと思ったこと、自分の正義を貫いていた頃の面影は、ない。
「………」「……!」「……………」
 ひそひそと、かわされる内緒話、意地の悪い笑声。
すべて、余所者の一言で済まされた、娘に対しての言葉。

 けれど、もう辛くない。これより辛いことは、もう経験してしまったから。







「よぅ、アンタ」
 いつの間にか伏せていた顔を上げる。
辺鄙な村には珍しいと思っていた酒場の方面からやってきたのは、体つきの逞しい、
筋肉のかなり引き締まった男がいた。
その肉体を隠すことなく、むしろ自慢するように晒しているのだから、よっぽど自信があるのだろう。
 …この状況で戦うことは、絶対に避けたい。マルヴィナの近くにかろうじて残っていた剣は、
何があったのか前の白金の剣以上に刃こぼれしていて、どうしようもなかったし、
また無事だったとしても素人は素人である者に刃を向けることはしたくなかった。
 だが、その心配は不要だった。男はマルヴィナを一度ざっと眺めると、挨拶をする。
「…あれだけの怪我負って、もう動けるのか。…俺は武器職人のスガーってんだ。
アンタ、普通の旅人じゃねえな。…俺の創った武器を使いこなす自信があったら、ちょいと来な」
 また命令口調の人間か…と思ったが、マルヴィナは少しだけ笑った。
初めて、旅人と認められた。余所者ではない、ひとりの旅人。…マルヴィナは、素直に相手の誘いを受けた。
好奇や嫌悪のひそひそ話は、驚愕の内緒話と化した。あの武器職人が、余所者と一緒にいる!
いったい何があったんだ…住民は困惑したように互いの顔を見合ったが、
その状況を答えられるものは当然ながらいなかった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.220 )
日時: 2013/02/06 22:22
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 そしてその後、マルヴィナは目をしばたたかせることになる。
驚いたことに、店員たちは、マルヴィナに意外と親切だったのである。
 加えて、マルヴィナを村長の家まで運んでくれたのは彼ららしい。
マルヴィナは感謝の念でいっぱいになった。
 いやだって、久々のお客じゃないですか! せっかくカウンターに立ってても、誰も来ないんだもんね。
若い店員たちは、そう言って笑った。そっか、とマルヴィナは思った。
村人に武具を売りつけたって、何にもならない。使われないのだから。
余所者には何も売りつけるなと村長は言っていたけれど、それじゃあ経営は成り立たない。
それに、スガーさんが言うように、ただの旅人じゃないみたいだ! 彼らはそう言って、
自慢の品ぞろえを見せてくれた。
「実は私たち、村長様のお考えに納得がいかないんです。
だって、来る人皆が、不幸を呼ぶわけ、ないじゃあないですか」
「まぁ…不幸?」
 あ、そっか、と、店員は問い返された理由を悟る。村人でない人と話したことなど滅多にないので、
つい知り合いと話しているような言葉選びになってしまうのだ。
「古い話さ」
 スガーはマルヴィナの剣を研いで打ち直してやりながら答えた。
「昔、そうさな、三百年くらい前か——村の娘が助けた男が原因で、この村が一回滅びかけたんだとよ。
で、そっからもう余所モンを寄せ付けないようにしたんだとさ。…村長は、代々続けてやってっから、
特に耳ダコになるほど聞かされてるらしいしな」
「…そう、だったのか」
 マルヴィナは頷きながら、そっと眉根を寄せた。また、三百年前だ。
最近聞く言葉は妙に、この単語が多いような気がする。
「でも、僕にすれば、いつまで昔のこと引きずってんですか! なんですよね。
怯えすぎなんですよ、村長様も。ティルも、可哀想に」
「三百年前のその娘だって、良心で助けたのに! それが原因なんて、可哀想すぎるわ」
 そろって頷く店員二人。
「まぁ、その男ってのが、噂によりゃ人間じゃなかったんじゃねぇかって話もあるがな…むぅ、こりゃ無理だな」
 スガーはその手を止め、剣を持ち上げ、首をふった。
刃こぼれがもう目立たないほど、綺麗に研ぎなおしてある。素晴らしい腕だったのだが——状況を見て、
マルヴィナも納得した。
「これじゃあもう研ぎ過ぎだ。細すぎる。折れるのは時間の問題だろう。
…よう、言った通り、俺の創った武器を見て来いよ」
 ありがとう、と、マルヴィナは男性店員のほうに案内されて、武器を眺めた。
 一つだけしかない、見たことのない剣を手に取る。細身の、レイピアである。
やけに軽い。あまりにも軽すぎて、重くは振れそうにない。だが、刃はしっかりしているし、
加えてその軽さを逆手に、瞬時に二回の攻撃を繰り出せそうである。
ひゅ、ひゅん、と空所に向かって鮮やかに剣を振り手懐けるマルヴィナに、店員二人と、
スガーまでもがしばらく唖然と見守った。軽さゆえに、空回りさせるものもいる。
そんな剣を、マルヴィナはいきなりその手に馴染ませてしまったのだ…マルヴィナや、
仲間たちには見慣れた光景でも、やはり赤の他人には目を見張るものがあるらしい。
「…大したもんだな。そいつぁ、たまたま出来た、魔物専用の武器だ。…よし、それ、アンタにやろう」
「…………………………え? …無料!?」
 マルヴィナは動きを止め、レイピアを見、そしてあまりの驚きに次はスガーを見るという
若干忙しい動きをした。
「そんな、助けていただいたうえに、そんな——」スガーはマルヴィナの驚愕をさりげなく無視して続ける。
「見込んだ通りだ、アンタは熟練の旅人だ。…そいつだって、そういうやつに使われたほうが喜ぶってもんよ」
 マルヴィナは金額について何も触れず、ただ武器の使い道に真剣な武器職人に、
苦笑しながらも大きな感謝をした。
「カッコつけちゃってぇ」
 女性店員がはやし、スガーがうるせぃ、と反応しながらもまんざらでないような顔をし…
そして、マルヴィナの腰の、もう一本の剣——ぼろぼろで、朽ち果てかけているのに
なぜか無事だった妙な剣に、目を止めた。
「そういや…それ、その剣。そいつぁ魔剣か何かか? あんたが落ちてきたとき、すげぇ光ってたんだが」
「え」
 マルヴィナは言われてから気づく。そう言えば、また妙に前より小綺麗になっているような気がする。
「…さぁ、わたしにもわからない。大切なものであることには、変わりないんだが」
 この剣に守られてきたことが、どれだけあっただろう。リッカに、大切な親友にもらった、お守り。
でも、この剣の正体を、彼女は知らない。
「む…ちょいとそれ、俺に見せてくれねぇか?」
 マルヴィナは、驚いて相手を見たふりをして、目の色と方向、そして相手の呼吸を窺った。
そして、ただ単純に観察したいだけだということを判断し、鞘ごと差し出した。スガーは、
壊れないように—まぁ、実際マルヴィナが大怪我を負い使っていた剣もひどいことになっていた状況で
明らかに一番被害を受けそうなところを受けていなかったのだから、壊れないだろうが—、
ゆっくりと剣を受け取った。そして、観察。うーむと唸り、ぶつぶつと何かを呟き。
あまりにも空気が静かになったものだから、店員たちもマルヴィナも気を使って、何? さぁ…などと
かなり短い会話を小さな声で交わしていると。

「————————あぁぁああああッ!!!」

 いきなり、建物ひとつひっくり返すのではないかというほど大きな声を上げて、スガーが叫ぶ。
驚いてスガー以外三人、そろって飛び上がって二歩下がる。
 が、お構いなしのスガーは、その筋肉をぶるぶる震わせ、あわわと口をパクつかせる。
「お、おおおいアンタ、これ、ああアレじゃねえかその、ぎ、ぎぎ、ぎ」
「お、落ち着いてくださいスガーさん。なんでいきなり機械みたいな声出してんですか」
「ぎ…ぎっ、…おい待て誰が機械だ」
「いやぎーぎー言うもんですから」
「で、どーしたのよ?」いさめたのは女性店員。なんだか板についたようなその光景にマルヴィナは今度は笑った。
 ともあれスガーが落ち着き、話は元に戻る。
「…これ、なんか凄い剣だったりするのか?」
 マルヴィナは尋ね、スガーは頷く。
「凄いってもんじゃねぇぜ。そりゃ最早伝説だ」
「伝…」
 マルヴィナは言いかけて、止めた。スガーが、もう一言——



「そりゃ、銀河の剣だ。この世界において、最も優れた——いわば、最強の剣さ」

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.221 )
日時: 2013/02/06 22:25
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 夕日が差し込む茜色の武具店。
 その中から、計三人の驚愕の絶叫が村中に響く。
 あまりにその声が大きくて、畑を手入れしていた農夫は鍬を落とし、
夕飯準備を終えて皿を並べていた主婦は料理をこぼしかけ、
呑み過ぎて夢の世界を彷徨っていたのんべえは現実世界に帰省し、
水車の近くに紛れ込んでいた魚を眺めていたティルは危うく落ちそうになる。
 そして、肝心の大声を上げた三人——店員の男女二人とマルヴィナは、空いた口を塞ぐことのできぬまま
衝撃の事実を発表したスガーとその手の剣を凝視していた。
「…えと、あのな。まずは、ちょっと座ったらどうだ。お前らも」
 口を開けたまま何も言えずかたかた震えているか、口を開けたまま完全に動きが止まっているか、
口を開けたまま——とにかく一つだけ間抜けな共通点を持った三人は、スガーに促され素直に座る。床に。
「いや、せめて椅子に」
「いいからさっさと話してよ」
 女性店員。「私は防具しか興味ないけど、なんか面白そうじゃない」
「面白いってレベルじゃないけど」男性店員。「これは、今凄い瞬間に立ち会っているかもしれない」
「…銀河の剣、なのか、それは」マルヴィナが、未だ震える声で、言う。「本当に?」
 剣士として、マルヴィナはそれの名を知っていた。知っていたが——スガーの話を、黙って聞く。
「突然変異——と言ったら妙だが、この剣はそうしてたまたま偶然、出来上がったものだ。
今は廃れたが、錬金術の結果だな。…アンタ、刀は知ってるかい」
「あぁ。剣と違い片刃の武器…サーベルともいうもののことだろ?
何度も焼きなおすために、剣よりはずっと丈夫な」
「やはり知ってるか。話が早いな。…そうだ、強度は剣より刀のほうが上だ。
だが、そんな常識を覆しちまう。…コイツの丈夫さと、鋭さは、肩を並べる者がねぇどころか、
ずば抜けている。決して刃こぼれしねぇ、まさに神秘としか言いようのねぇ究極の剣だ…今はこんなだがな」
「……………………………………」
 マルヴィナは、スガーから受け取って、そしてまじまじと見つめた。…手が、震えていた。
 史上、最強。
 目の前にある錆びた剣が—とてもそうと見えない剣が—、この世界においてただ一つ、
最高の称号を得たもの。錆びても、壊れることのなかった剣。窮地を救ってくれた剣。
「…スガーさん、これを元に戻すこと、できないか?」
 マルヴィナは改めて、素晴らしい腕を持つ鍛冶屋を見た。だが、スガーは、顔を伏せてむぅ、と唸った。
「…多分それは、人の手を加えて戻るもんじゃねぇ。魔法的な力がかかってんだ。
俺ぁ魔法の類は、トンとさっぱりなんでな」
「魔法的な…」マルヴィナは復唱して、ふ、とため息をついた。まぁ、そんな簡単に行くはずないか、
でもどうにかして、甦らせてあげたい、そう考えていたところ。
「む、ちょっと待てよ」
 スガーが、ぱっと顔を上げた。その眼がいつの間にか希望の光を奥に秘めていることに気付き、
マルヴィナもまた顔を上げる。
「確か…おい姐さん、ちょいと手伝ってくんねぇか」
「え? えぇ、いいけど」
 女性店員が立ち上がり、スガーと一緒に店の奥へ消える。残された男性店員とマルヴィナは、
剣を挟んで顔を見合わせた。
「…その剣」
 男性店員は、言った。
「その剣は、主がいると思うんです。ちゃんと使いこなせる、ただ一人の主——
その剣がこの世界にただ一つしかないように、使いこなせる者もこの世界にただ一人しかいないと思うんです」
「主」再び、復唱。
「今はそんなですけど…それでも、その剣は、マルヴィナさんを認めています。
…もしかしたら、って、思いませんか?」
 マルヴィナは改めて、彼を真正面から見た。
「…………………………………………………………わたしが」
 わたしが、この剣の、主?
 言おうとして、先にそんなまさか、という考えのほうが出てきた。
まだまだ、自分より強いものはいる、強い剣士はたくさんいるはずだ。
…実際に、知ってもいるのだから。
「強いだけじゃ駄目なんです。剣を認め、剣に認められる、そんな人が主なんですよ」
 だが、マルヴィナの考えを察したように、男性店員は言った。驚くマルヴィナを前に、一つ頷く。
マルヴィナは、剣に目を落とし——そしてまた顔を上げ——「貴方は、一体…?」

「はーい、お待たせー」
「あったぜ、剣再生の当てが!!」

 その時、はかったかのようなタイミングで、女性店員とスガーが戻ってきた。
男性店員は、静かに笑っていた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.222 )
日時: 2013/02/06 22:36
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 二人が持ってきたのは、ずいぶん古びた辞書のようなものである。
表紙は殆ど文字がかすれて読めないが、昔はさぞ立派な本だったのだろう。
「俺は学がないんでな。こういうもんは読まねぇんだが、俺のご先祖様が鍛冶屋たるもの
この程度の知識は身に着けとけって残してってくれた代々伝わる武器のための本だ」
 読めねぇから意味ねぇけどな、と言ってからから笑う。
イヤそんなんでいいのか、とツッコみたくなる言葉だった。
 そんなスガーを横に、女性店員はしばらく頁を大雑把にめくり、
しばらくしてから一枚ずつ確認して唸った。
「んー…もしかしてこれかしら? えと…げん…じゃない…ぎん…? ぎん、が…あった、これよこれ!」
 子供のようにはしゃぎながら、女性店員は三人に見えるように広げて床に置いた。
瞬時に、三人が頭を寄せ合う。
 決して人の手ではどうすることもできないもの——いわゆる“神器”と言う名のあるものが、
書き綴られていた。銀河の剣はどのようにしてできたのか、いつからあるのか。
そして、いつその力が失われたのか——そのようなことが書いてある、と思う、と彼女は言った。
 よくよく見れば一世代前の言語である。マルヴィナにも読めるかどうかは怪しかった。
キルガの影響でようやく単語が少々読めるようになった程度である。加えて、殆ど色あせて
何が書いてあるかを読み取るのは困難な状況であった。
「むぅーん。もう殆ど読めないなぁ…あ、これだっ、呪文…呪文だって!」
「「呪文?」」マルヴィナとスガーの高さの違う声が重なる。
「うーん…封印、されてて、で、それを起こす…とかなんとかで、…ちゃんと呼んであげなきゃで…
剣は生き物か!! って突っ込みたくなるわね」
「少なくともこいつは生きもんだろうよ」と、スガー。「魔法ってのは全部生きもんだろ」
「…そうかなぁ…」
「とにかく、えーっと…読むわよ…」




『目覚めよ』




「目覚めよ…?」




『目覚めよ、この剣に』




「剣に——」




『汝と共にある者のもとへ戻れ、—————————』





 そこで女性店員は、「むー!?」と明らかに不満を表す唸り声を上げた。
「な…」幸か不幸か、その先の言葉を解読できたマルヴィナも、思わず声を上げた。
「どうした」と、スガー。
「何かあったんですか」と、男性店員。
 マルヴィナは本に顔を近づけ、頁をめくって透かし…悔しげに、口を開いた。
「そのあとの言葉が、分からない」
「わからんだぁ!?」スガー。
「ちょうどここが、見えないのよ! 一番肝心なのに!」
「まって、もう一回見せて!」マルヴィナはもう一度試みるが、やはり駄目だ。
 女性店員も食い入るように睨み付けるが、しばらくしてかぶりを振った。
「ダメだわ。“空の英雄”の“空”の字は見えるんだけど…それだけ。これじゃあ分からないわ」
「…くっ、せっかくここまで来たのに…!」
「焦っちゃだめです」男性店員。「きっと、いつか見つかるはずです。マルヴィナさん」
「…………………………………………………………」
 そうか、とすぐに答えられることではなかった。マルヴィナは唇を噛み俯く。
だが結局、ため息をついた。最早自分の一部と言っても等しい剣を蘇らせる手立てが見え始めたことよりも、
あと一歩届かないと言う事への悔しさの方が大きくて。
 けれど、もうこれは手詰まりだ。いつまでも落ち込んでいるわけにはいかないと、マルヴィナは本を閉じた。
そして、世話になった三人に、丁重にお礼を言って、窓の外を見る。紅石の刻まで、あと少しだった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.223 )
日時: 2013/02/14 23:47
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

               2.



 先に述べたように、教会は少し綺麗で、この小さな村にしては大きな建物だった。
 淡いクリーム色をした窓は、今は夜の闇に溶け込んでいる。
不思議なうねりを見せる燭台から、縦に長い火が頼りなさげに光を放っている。
奥には石碑、古い言葉で、何かが刻まれている。


 教会の中央、幾人が集まるそこに、マルヴィナや村長はもちろん、何とティルまで来ていた。
どうしても気になって、様子を見に来たらしい。
 何もないかのように静かな、静かなそこで、村長は話を続ける。
「あの黒い竜こそ、三百年前に存在した闇竜バルボロス。奴が現れたのち、お主はこのナザムの村に落ちてきた」
 寄合の内容は、いきなり空に現れた闇竜についてであった。
…天の箱舟を襲った、あの竜の。マルヴィナは黙って、目を閉じた。
「訊こう。お主とあの竜は、何か関係があるのではないのかね!?」
「…………………………………………」
 マルヴィナは、目を閉じたままだ。ゆっくりと考える時間を作り、そして答える。
「…あると言えばある。だが、ないと言えばない。
話をする。あるのかないのかは、あなたたちが決めることだ」
 マルヴィナはゆっくりと、事の経緯を話し始めた。人間でも、分かるように。
人外の力を、天の箱舟や天使の存在のことを、さりげなく言い換えて。
「…成程。狙われたことは、“関係ある”が、直接的には“関係ない”——そう、言いたいのだな」
「…間違いない」
 ばん、と、長椅子を叩く鋭い音がした。驚いた住民が村長を見て、マルヴィナは真っ直ぐ彼の目を見る。
「信じられるか! 竜に襲われて、生きておれるはずがない。
はっきり言おう、我々は疑っているのだ、お前があの闇竜とグルなのではないかとな!」
「ちょっ…ちょっと待ってよ!」
 何を馬鹿なこと、マルヴィナがそう反論するより早く、ティルが飛び出してきた。
拳を震わせ、マルヴィナを背に庇い、村長を見上げて。
「なんでマルヴィナさんの言う事を信じてあげないの!? マルヴィナさんは、襲われて、
こんなに怪我してるんだよ!? グルなわけ、ないじゃないかっ!」
「お静かに! 神の御前ですよ!!」
 そういう自分が一番大声を出した神父を、同時に睨む村長とティル。
ティルの目は興奮して潤んでいる、村長の目は冷酷に乾ききっている。
 その対でありながら同じ意味持つ眼に神父はたじろぎ、村長はそれを無視して次いでマルヴィナを睨んだ。
マルヴィナはその視線を、静かに受け止める。

 止まる時間。

 ついにティルが、教会の外に飛び出した。
 伝わらない思い、疑心溢れる空気、自分の無力さ。それらに耐え切れなくなって。
扉は、開け放しにされた。流れ込む風は、冷たかった。
「とにかく」
 ティルを追おうと扉に向いたマルヴィナに、村長が止めるように言葉を発した。
飛び出したティルを、いかにもなんとも思っていないような様子で。
「余所者は、不幸を呼ぶ。わかったら、とっとと出て行ってもらおうか」
「…ティルは」
「あ奴など、放っておけばよい。じきに戻ってくる」村長は鼻で笑う。「…所詮あ奴も余所者だからな」

 その言葉に、ついにマルヴィナは我慢の限界を感じた。
「……あなたは」
 その眸に、憤怒の炎を燃えたぎらせて。
「あなたには、愛情というものはないのか?」
 村長は気だるげに、マルヴィナを見た。「何のことだ」
「ティルが、余所者だって? それを、あなたが言うのか? あなたが、余所者扱いをするのか!?」
「あ奴は別の場所から来た」村長はあくまで冷徹に、言う。
「この村の者ではない。それを余所者と言わずして何という」
「家族だろう」マルヴィナは負けじと言った。
「ティルはあなたの甥だろう、住んでいた場所が違うだけの家族をなぜそこまでないがしろにする!?
ティルをどこまで、孤独にさせるつもりなんだ!?」
「ですから、神の——」頼りなく言った神父にも、マルヴィナは厳しい視線を向けた。神父は喉を鳴らし、後退する。
「…あなたもだ、神父殿。あなたの信ずる神は何者か知らない、だが、平等の思想は同じはずだ!
あなたはあなたが信ずる神のいう事を無視している、そうでないというならば
それは全く勝手に作られた氏神でしかない!」
「なっ…何をっ」
「じゃあ何故せめてあなただけでもティルを助けない!?    ・・・・
わたしのことはどうでもいい、けれど、この村にいるティルを、存在する彼を何故助けない!!」
 マルヴィナは言い終え、はっと息をついた。

 これが、マルヴィナ。
 理不尽な言葉や行動を黙って見過ごせない、正義感強き娘の本質の姿。

「ティルを探してくる」
 マルヴィナは言った。
「そのあとで、この村を去ろう」
 そして、返事を待たず、マルヴィナはその場を去った。
村を去るのは、そうしろと言われたからではない。今のマルヴィナなら、そんな命令には従わない。
だが。そう、決めたのは。
度々自分の目の前に現れるようになった、ガナンの存在があるからである。
このまま村にいれば、いずれまたガナンの手先が現れる。…一度襲われて、生存が確認されれば、
再び狙われる可能性は低くない。犠牲は出したくなかった。
たとえ、どんなにおかしくて、どんなに許せない者たちであっても、絶対に。


 ——マルヴィナは、まだ知らない。自分の恐れた、その想像した出来事が、三百年前に実際にあったことを。
 そしてそれこそが、この余所者嫌いの村を創り上げた歴史であることを——今は、まだ。


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