二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.14 )
日時: 2013/01/15 00:15
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

    【 Ⅱ 】   人間

      1.





 ・・・・ ・・
 わたしは、何だ?

 白くて、
 真っ白で、
 その空間、


 ——わたしは、目覚めた。




「…おい、いたぜ」
 ウォルロ村。
村長の息子ニードは、子分扱いの少年フォールに囁く。
彼らの視線の先にいるのは、守護天使像の前に立つ、闇色でミディアムより少し短い髪を風に流す少女。
見たところ、十五から十七歳程度だ。
「へぇ、アイツが、今回の大地震の時滝に落ちていた奴、でしたっけ?」
「滝に落ちてて、ほとんど死にかけだった奴、な」
「…の割りに、まだ三日目ですよ? 何でもう歩き回って——まさか仮病?」
 病気ではないが、そう言ったフォールにツッコまなかったのはニードが間違いに気づいていないからである。
「いんや。頭からソートー血が出てたよ。滝から上げたとき、水のせいで顔が血まみれに——
あー止めた止めた。気色悪ぃ」
 ニードが頭を振る。そして、わざと大声を出す。
「だったよなぁ、得体の知れねぇ旅人サンよぉ!」
 闇髪の少女が振り返る。蒼海の眸は、警戒の色。
「名前は——っと! 守護テンシだっけなぁ?」
「…マルヴィナだ」
 少女は、——マルヴィナは。
 翼無きかつての守護天使は、そう答えた——。



 天使界を襲ったあの波動が上がったとき、人間界では大地震が起きていた。
マルヴィナは、天使界から落ちて、たどり着いたのは、偶然にもウォルロ村だった。
滝に落ち、浮かび、そこを宿屋の娘・リッカに拾われた。
つまり、それは、天使であるはずのマルヴィナの姿が見えていたということ。それは、なぜか? ——単純だ。
 その時のマルヴィナに、頭上の光輪も、背の翼も、存在していなかったのだ——天使の力を奪われた天使。
    ・・
 いや、ほぼ奪われた、というのが正しい。人間と変わらないその姿——だが、天使の力は、まだ残っていた。
現に、大怪我を負ったマルヴィナの傷は、三日目にして(目がさめたのはつい先ほどだが)ほとんど回復していた。
周囲の、白い眼と、嫌なものを見るような目つきに——少しは、慣れたと思う。
だが、わざわざこうやって絡んでくる奴は、話し相手をするのが一番疲れると思った。
「は〜、お名前はまあ、どーでもいいだろ。てゆーか、どうも胡散臭ぇんだよな。
てかお前、いつ村に来た? どっから来たかも言わねぇし」
 言えるわけがなかった。わたしは天使だなど、そんな事。
「——っち、ダンマリかよ!お前、自分の立場理解しろよな!」
「——」
 突き飛ばされる、それを察知し、マルヴィナは寸前でくるりと身をひねり、かわした。
ニードはぎくりとし、勢い余って守護天使像に倒れる。
「——ってめぇ!?」自業自得のクセにそう叫ばれ、マルヴィナはうんざりする。
 とりあえず、殴りかかってきたニードの拳をあっさり受け止めて見せ、そのままひねり、足を払った。
「おぐぁっ!?」
 奇妙な叫びを発し、ニードは突っ伏した。
そして、チビで華奢なくせにとんでもなく力の強かった少女を恐る恐る見上げる。
「なっ、何、だ、おま、ひっ!!?」
 すべて言わせる前に、無言のままにマルヴィナが足をドンとニードの眼の前で踏み鳴らすと、
そこにはぽっかり足跡が残る。たちまち石化したニードとフォールの前で、
ちょっぴり凶悪な笑みを浮かべるとともに、
「…悪いな。記憶喪失っぽいわ」
 んなわけねぇと言われそうなことをぬけぬけと言ってみせる。
 やはり凶悪な笑顔のマルヴィナの背中を見つけたリッカは、その後にベストタイミングで来た。

 結局その日、ニードは二人の女から、喧嘩に負けるわ宿の桶で殴られるわで(リッカによる)
ひどい目にあったのだが、これは余談として扱っても良い話。




 リッカはすっかり仕事を無くしてしまった。
 というのも、例の“大地震”で東側にある大国と村をつなぐ通り道—人は“峠の道”と呼ぶ—が
土砂崩れでふさがり、客が来なくなってしまったのである。当然それに伴い、宿の仕事などできるはずもなく。
そのためか、
「マぁールぅーヴぃーナぁー! ご飯、でっきたよー!」
 マルヴィナを家に泊めるばかりでなく、いろいろ世話を焼いてくれるのであった。感謝してもしきれない。
 マルヴィナは外を眺めていた視線を扉に移し、立ち上がる。階段を下りて、ダイニングルームへ向かった。
マルヴィナの姿を確認するとリッカはニッと笑い、両手の皿を持ち上げる。
「はぁい、はいはい。マルヴィナ、これちょっとテーブルに」
 とか言い、そのままその大皿二つをいきなりドンと渡す。重くはなかったが、
不意打ちかましてくれるものだから、バランスをやや崩した。フラフラしながら、食卓に二皿追加。
リッカの祖父ファベルトの目が点になる。
 決して豪華ではないが、量は多い。そして、美味しい。マルヴィナは目を見開いてこの料理を褒めた。
別にお世辞はいいのよ? なんて言われたが、決してお世辞ではない。素晴らしい腕だった。
                          ・・
 和やかに食事しながら今日のことについて話す。自然とあの出来事の話題へ移ると、
今度はリッカは憤慨し始めた。
「何っなのよニードったら! 怪我して、体調よくないマルヴィナいきなり突き飛ばしたり殴ったりして! 信じらんない!」
 どちらも未遂ではあるが——とは言わないでおいた。
「でもさすがマルヴィナ。旅人。反撃格好良かったわ!
…それにしても、マルヴィナまだ若いのにさ。どうして旅なんか」
 マルヴィナは、旅人を装っている。前に述べたとおり、歳は人間界で十九歳である。
背丈からすれば十五、六に間違われるだろう。実際ニードには、そう思われていた。
とりあえず“若い旅人”は答える。
「…故郷から出てしまった、いや、出された、かな? 追い出されたんじゃなくて…
“出されて出てしまった”っていうか…ごめん。うまく言えないや」
 間違ってはいないのだが、説明しづらい。迷い、迷って、ようやく言えたのはそれである。
そんなマルヴィナにリッカは、
「そっかあ…苦労したんだね、マルヴィナ」
 そう、しみじみ言うのだった。
「デザートあるよ。食べる?」
 うまく話を切り替えてくれた。マルヴィナはいいよそんなにたくさんも悪いし、と
さすがに遠慮すべきかと思ったが、リッカはいいからいいからと言って、マルヴィナの前に出してくれた。
——美味しかった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.15 )
日時: 2013/01/15 00:25
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 再び、朝は来る——四日目。
 マルヴィナは眼を覚まし、頭をさする。

(大分…治ったな)

 天使界でもこんな大怪我を負ったこと、あっただろうか? …いや、ない。
怪我を負いそうな事といえば剣術の鍛錬くらいだが、マルヴィナの剣の実力は本当に優れていた。
天使界至上二番目の実力者なのである。一番は前に言った通りイザヤール。すなわち、剣では師弟で
頂点を飾っているのである。が、その彼に、最近鍛錬に付き合ってもらったことはない。
つまり、圧倒的な実力を持つマルヴィナが、普段の生活で怪我を負うはずがない。免疫がないので(と考える)
その分治りが天使にしては遅いほうであった。けれどいつまでもここにいるわけにはいかない。
 天使界に戻らなければならない——だが、翼のない今、どうやって戻ればいいのだろう。何も出来ない。


(…どうしてこんなことになったんだろう——神さまは、何故——こんな状況を許したんだ)


 永遠の救いを受けると言われて続けていた事がら。けれど、それはなかった。
今この状況、すがれるワラがあったら欲しい。天の箱舟も、例の波動で散った。
永遠の救いどころか、天使は苦しみに苛まれた——…。



 ——天使?
 ふっと、目の前の鏡を見る。自分の姿。人間のような風体。着ている服は、これまたリッカにもらったもの。
 ・・・・ ・・・・
 天使には、見えない。
(…いつものことをすれば)
 人助けをすれば。自分に天使の力は戻るだろうか。気付いてもらえるだろうか。
自分は翼無き天使だと、天使界から転落した者だと。根拠もなく、無茶苦茶な考えではあったが——
できることがない以上仕方がない。自分の直感を信じてみよう。
マルヴィナは決意して立ち上がり、扉に近付いたとき。

「マルヴィナぁ、おは」ドカッ、

 ——というような不吉な音がし、マルヴィナのせっかく治りかけた傷は再びぱっくりと開いた。
つまり、リッカの開けたドアが、マルヴィナの顔面にストレートに当たったわけである。



 というのは余談として。余談が多いような気もするが余談として。
リッカは、マルヴィナの額の血をぬぐうと、ぺしんと絆創膏をはり、用件を言った。
「あのね。何がどうなってどうしてどうやってどう感じたのかってことでどういうわけか、
…何かややこしくなってきたけど、とにかくニードが来てるのよ。で、何か話があるんだって」
「話」リッカに指を指され、その後、「…わたしに?」
「そ。追い返すわけにもいかないし、とりあえず会ってあげてくれないかな。…あ、そうだ」
 リッカは指をぴしん、と立てると、そのままマルヴィナに突きつける。再び。
「…ハイ?」
「い〜い? 何か言われたら、昨日みたいに黙っちゃだめよ。し〜っかり言い返すの!」
 そこまでは良かったのだが、
「場合によってはチョップ三発まで許すわ」
 恐ろしいことを許された。



階段を下りると、いきなりニードと眼が合う。相手は「…よぅ」と一言。
マルヴィナは素っ気なく「おはよ」と返す。
「何? 朝から」
「…ここで話すわけにもいかん。ちょっとついて来い」
「タイマンか何か?」
「ちげーよ」              ・・
とか言いながら、着いた先が家の陰、やはりそれにしか見えない。
「さて、話だが、——って、何だよその手は!?」
「反撃準備」
「タイマンじゃねぇってだから! いいから降ろせ降ろせ、振り上げるな手をっっ」
 どうやら本気でビビッているらしい。ひとまず手は降ろしてやった。
「んーなビビらなくても。とって喰いやしないよ」
「そっそそうじゃねぇ!」
「ふん。——で、用件は?」
 ああ、とほっと一息ついてから、ニードは先に説明からはじめた。


「例の大地震があったろ。 あれのせいで峠の道がふさがっちまったんだよ、土砂崩れで。
…ああ、峠の道ってのは、こっから東にある道で、セントシュタインで国とここをつなぐ唯一の道なんだが——
って、お前も通ってきたから分かるか」              ・・・
 ふうん、と答えようとして、“唯一の通り道”という言葉に反応する。旅人のマルヴィナは
そこを通ってここにいないとおかしな話になってしまうのだ。
「あまり記憶にないけど、通った気もする」
「だろ。んーで、セントシュタインだの向こう側からの客が一切来なくなっちまって、
ウォルロの名水の販売も止まっちまったし、リッカの宿に客も来なくなっちまった」
 実は後者が、彼がこの話を持ち出した最大の理由らしいが、マルヴィナは気付かない。
「で?」
「話の読めん奴だな。——ああ何でもない何でもない、振り上げるな手をっっ」
 一瞬本気でリッカに許されたチョップ一発目を食らわせてやろうかと思ったが、
もったいないので、という理由でやめた。
「ってーなわけで、この俺がちょっくらそれを直しに行ってやろうと思ったわけだ」
「ふぅん。行けば?」
「冷めてんな、オイ。俺は別にそれを報告するためにお前に会いに来たわけじゃねーぞ。
あそこまで行くまでに出る魔物だ、魔物」
「魔物」マルヴィナは復唱した。                            ・
「そ。あの地震以来以前より凶暴化してかなわねぇ。…ンでよ。すげえ悔しいが、お前は俺よりは強い。
それに旅人だしよ。一緒に来てもらいてーんだわ」
 ・
 はに引っかかりを感じたが、マルヴィナは一応黙っておく。
(土砂崩れねぇ? 単純だな…通れない状況になっているそれが二人でなんとかなるものなのか?)
 無謀だと、笑ってやろうかと思った。だが——よくよく考えてみれば、それは——人助け。
無謀でも何でも、マルヴィナは天使として、いつもやるべきことをやり続けてきた。
(それに、一応場所を知っておく必要もある)
 その、二つの理由。
「——いいよ」
 承諾につなげる。          ・・・・・・・・・・・・・
「引き受けた。そのかわり、案内頼むよ。まだ記憶が薄ぼんやりなんだ」
 そして、抜け抜けとやはりそういった。
「よっしゃあ、話は決まった。早速出発だな。               ・・
——あ、後、面倒だから村の連中には秘密な。ンじゃヨロシクな、ついて来い、相棒」
 そう言ってくるり、と背をむけたニードに、
「…相棒…?」
 凶悪なマルヴィナの声がかかり、ニードが背後に生じた殺気に背筋を震わせかけたとき——





「ってええぇえ!!?」
 一度目のチョップを、その頭にストレートに喰らった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.16 )
日時: 2013/01/15 20:14
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 ——彼は、たまたまその地にやってきた漁師の舟に乗っていた。
 漆黒の髪が潮風になびく。
端整な顔立ちの彼の左頬には、今は治りかけている—元は大きな傷だった—そこを覆うように
ガーゼが貼ってあった。
目を細めたまま、ひたすらに続く船を見ている。何か、言い表せぬ思いを抱きながら。

「お前さんの噂は聞いてっぞ、兄ちゃん」

 漁師の、威勢のいい親父さんが、彼に話しかけた。
驚いて振り返る。一番初めに話しかけた人だった。
「何でもあの大地震の時、その後上から落ちてきたらしいじゃねえか」
「ええ、まあ」
 彼は二語、人間の世界では珍しい、不思議な声で答えた。
「いってぇお前さん何者だい? 聞いた話じゃトンでもねぇ大怪我負ってたっつうに、
今やそんなケロッとしてやがる。いくら若ぇったってなぁ」
「鍛えられたんです」そう答える。「それだけですよ」
「それだけでそうなっちまったら、大したもんだぜ。…ところで、そろそろだ」
 成程確かに、彼が視線を前に戻したときにはうすぼんやりと大陸が見え始めていた。
「セントシュタインに行きたいんだったな?」
「えぇ」頷く。
「悪いが、あの辺で降りてもらうしかねぇ、そっから歩いてくれ…道は分かるか?」
「大雑把になら」
「なかなかの答えだな」親父さんは笑った。簡単に説明をしてくれる。
「停めるところから、真っ直ぐ西に行くと川に当たる。ちょいと南側に橋があるはずだ。
…そっからは道なりに、北の方に進んでいきゃ着くさ。間違えて関所にはいくなよ?」
 豪快に笑う。彼はそんな親父さんを見て、頭を下げた。
「分かりました。ありがとうございます」
「まあ早まるな。礼は後だ」



 半時も経たぬ間に、船は陸に着く。彼は軽い身のこなしで大陸に降り立った。
親父さんは舟の中のロープをつかんだまま、ニヤリと笑った。
「ま、これも何かの縁。俺の名はジャーマス! 覚えておいてくれよな!
——っても、ま、この顔の刺青で分かるか」
 そう気にしてはいなかったのだが、ジャーマスの右頬には獰猛そうな魚の刺青がある。
ピラニア、と言う種類らしい。
確かに何年経っても忘れそうにない。加えて彼は、もともと記憶力が良かった。
「ジャーマスさん、ですね。いつかまた、お会いできる日が来ますように」
 彼は笑い、手を差し出す。大きく逞しいジャーマスの右手が、がっちりつかむ。

「…僕の名は、キルガです」

 彼は——キルガは。


 翼と光輪を失った、かつての天使の一人は、そう言って、漁師ジャーマスに別れを告げる——。






「ど…どういう事っ!」
 ——さらに西、ウォルロ村にて。
リッカは思わず、門のところにいた近所に住む若者の胸ぐらをつかんだ。

 ——時は十分前に戻る。      ・・・・・・・・・・
 村長のドラ息子ニードと、突然現れた守護天使と同じ名前のマルヴィナの二人が、
村の外、峠の道まで出かけた。
 そのことを知らないリッカは、しばらくマルヴィナを探し回り、人々の情報で門までたどり着いた。
「あの二人ならさっき出て行ったぞ」
 という若者の言葉によって、リッカがその若者の胸ぐらをつかむこの光景ができたという事だ。
「い——痛い痛い。分かった、話すから離してくれっ」
「え? 何を?」
「手を!」
「…? ああ、離せ、ね。喋る“話す”、かと思った。——ごめんなさい」
 開放された若者は、大げさにげほげほ咳き込み、その後無造作にぐしゃぐしゃと頭をかく。
「いや、何かニードさんが来て、峠の道まで行くからここを通せって——いや、俺は止めたぞ?
——本当本当! でもコイツがいるからって、あの変——じゃなくてマルヴィナつれて行っちまって」
 リッカはもう唖然とするしかなかった。昨日あんなことがあったって言うのに——何でそうなるわけ?
「な…何てことよ…ニードったら…帰ってきたら即チョップ決定よ…」
 リッカは低く呟き、宿へ向った。情報提供したにもかかわらず礼も言われぬまま残された若者は、
「やれやれ…ニードさんご愁傷様」
 見えないニードへの冥福を祈っていたりする。俺は知らん。——あぁ知らんとも。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.17 )
日時: 2013/01/15 20:15
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 道が二手に分かれていた。
看板には、『峠の道』の文字。マルヴィナは、さっさとそっちへ行く。一方ニードはというと、

「お、おい、待てよぉ…お前、速すぎる…」

 情けなくへたり込んでいた。
 マルヴィナは顔だけ振り返り、早口で言う。
「何それ自分から言っておいてギブアップ?」
「な、舐めんな! 俺はまだへこたれてねーぞ。さっさと行くぞ!」
「誰が?」
「うるせ」
 恐らくこの二人は相性が合わない。
 何だかんだ言ってニードは何度もへたり込んだがようやく峠の道に着く。
その瞬間一体どこに隠していたのやらと言うほど元気になったニードが先頭を歩きだした。
「さて、この先が土砂崩れのはずだ」
 思いっきり威張り口調、マルヴィナ無視。
反応なくさっさと進むマルヴィナにかなりの虚しさを感じたニードは、ちえ、と舌打ちする。
だが左へ曲がれという指示(命令)は忘れない。
反応はやはりなく、ちくしょうコイツは…と頭を掻いていると、いきなり彼は何かにぶつかった。
慌てて顔を上げるとそれは、呆然とその場に立ち尽くすマルヴィナだった。

「……?」

 ニードはその様子に興味を持ち、マルヴィナの後ろから彼女の視線先を見る。
だが、そこはただ木が倒れているだけ。何も変な所はなかった。
「何やってんだよ? 木が倒れているだけじゃねぇか」
「…は? ———…」
 マルヴィナはその言葉を聞いて、気付く。
マルヴィナの眼には、倒れた木は映っていない。その前に、別のものが倒れているのが見えるから。

 ——別のもの。

(天の——)

 人間の目には決して見えない——それは。

(箱舟!!)

 天使界から、崩れ、散ったはずの——天の箱舟。

(こんな、ところに——!)
「変な奴。倒れた木がそんな珍しいのか? …あっちだ。先行ってるぞ」
 …ああ、と受け流す。
 ニードが林の奥に消えたのを確認すると、マルヴィナはそのまま箱舟の扉に手をかけた。開かない。

(やはりダメ、か)

 悔しさに唇を噛んだ。ここにあるのに。あの日天使を救ってくれなかった神の舟が、ここにあるのに——…。
 どうすればいいのだろう。仕方がないと言って諦めることができるものではなかった。
マルヴィナはもう一度扉に手をかけた——
 ニードの絶叫が聞こえるまでは。




「っどうした!? ——うわ」
 天の箱舟からその絶叫に、咄嗟に反応したマルヴィナは走った——だがその原因を瞬時に理解し、脱力する。
「どうしたこうしたねぇ! 土砂崩れってこれかよ! これじゃ二人でじゃどうにもなんねぇじゃんかよっ」
 彼らに見えたものは。大きな岩が、でーん、と見事に道をふさいでいるという光景であった。
確かにどうにもなりそうにない。…大体想像はしていたが。
「くっそぉぉ、せっかく親父の鼻を明かすチャンスだったのによお!」
 実はそれが目当てだったんじゃないのか? とマルヴィナが半眼を送る。
これは仕方ないと言える状態だろう。マルヴィナはさっさと諦めて帰るぞと声をかけようとした。

「誰かいるのかっ!?」

 声を出しかけたところで、岩向こうから若くもなく老いてもいない声がした。
「うひゃうっ」
 ニードが驚いて超高速できっちり五歩引いた。
さっきの威勢どこに逃げた、と呆れ、代わりにマルヴィナが答える。
「いる。——ウォルロ村の者だ」
「それはオレだろ」
 ニード返答。立ち直り早っ。
「おーい、ここだー。ウォルロ村のイケメンニード様はこ——あでっ」
 二発目のチョップ。あと一発。
 妙な語尾を気にせず、岩向こうの誰かが返答した。
                  ・・・・・・・・
「やはりウォルロ村の者かー。私たちはセントシュタインの兵士だ。
王様に命ぜられ、土砂崩れを取り除きに来たのだが」
 二人が顔を見合わせること数秒、ニードがいきなり拳を振り上げる。
「まじかよ、セントシュタインの王が動いたのか!
んじゃ問題は解決したも同然じゃねーか、わざわざ来るまででもなかったんだな」
(わざわざ付き合わされる理由もな)
 苦々しくニードを睨むが、相手は気づいていない。
「ところでウォルロ村の者よー。取り急ぎ確認したいことがあるのだが、
お前たちの村にルイーダという女性は来なかったかー?」
 ニードはマルヴィナを見た。マルヴィナも見る。「お前、実は」「わたしはマルヴィナだ」即答し、
最終的にニードは首を振る。
「知らねぇな、そんな奴は」
「そうかー。実はキサゴナ遺跡からそちらに向ったという噂があるのだ」
 二人は同時に眉をひそめた。
キサゴナ遺跡——マルヴィナは思った。確か、昔はセントシュタインへ行くための通行手段だったはず。
だが、崩れやすく、魔物も出るからと、遺跡の扉は閉ざされ、峠の道が開通されたと、
マルヴィナはイザヤールからそう聞いていた。

「キサゴナ遺跡ぃ? まさか、あそこを女一人で向かうこたぁねーだろ?」
 同感だ。…声には出さないが。
「…そうか。まあとにかく、村人にはしばらくすればここは通れるようになると伝えておいてくれ」
「おっし、了解だぜ!」
 単純な奴。
マルヴィナはそっと、小さく笑った。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.18 )
日時: 2013/01/15 20:23
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 帰りが行きよりずっと早かったのは、ニードの様子が意気揚々としているからであろうか。
ともかく上機嫌で自宅に戻ったニードと、何故か着いてこさせられたマルヴィナはいきなり、

「この、大バカ者がぁっ!!」

 …怒鳴られた。もちろん村長にである。
自分に向けてではないと分かっていながらも、マルヴィナは反射的に首をすくめる。
「な、何で怒られるんだよ? そろそろ通れること、オレらが聞かなきゃわかんなかったことだぜ!?」
「別に開けばおのずと分かることだ。命を危険にさらすほど価値のある情報ではないわ。
だからお前はバカだと言うに」
「ぐうっ…!」
 すごい。マルヴィナは吹き出したい気持ちを何とか抑えて思った。
さりげない、命の心配の滲み出す怒りだった。伝わっているかは別として。
「そ…そういえば、ルイーダとかいうねーちゃんが行方不明になってるとか聞いたぞ!」
 何とか価値のある情報を言おうと必死になっているのがバレバレであった。
マルヴィナは今更ながらに何でわたしここにいるんだっけ、と考えていたりする。
村長は片方の眉を少し上げただけだったが、
「ちょっと! その話、本当なのっ!?」
 後ろの扉から声がして、リッカ登場。マルヴィナは少し目を開いて、あぁ、遅くなってごめん…と
右手を顔の前で立てて謝った。一方、ニードの慌てぶりはある意味で凄い。
「りりりりリッカっ!!? なな、何でここにっ」
「なんでって、あなたがマルヴィナを外に連れ出すからでしょう!?
ってそれよりもルイーダさんが行方不明って本当なのっ!?」
 リッカがニードの胸ぐらを掴まんばかりに顔を近づけて睨んだ。
ニードは慌てて意味のなさない言葉を早口に言い、必死に顔をそらす。
「知っておるのか、リッカ」
 村長の一言で、リッカは頷き、ニードを解放した。
「父さんの知り合いにそんな人がいたはずなんです。セントシュタインの、宿屋の酒場の、女主人」
「ふうむ。そういえばリッカはセントシュタインの生まれだったな」
 マルヴィナはそんな二人の間で首を傾げた。セントシュタイン。…誰だっけ、守護天使。
「あ、そーいや、キサゴナ遺跡から来るかもって言ってたぞ〜…」
(何故小声?)
 とは、マルヴィナ。
「それなら、探しに行くのは危険すぎるな」村長はうーむと唸った。
「…リッカ、今日はマルヴィナをつれてもう帰りなさい。わしはこれからこのバカ息子を
こってり絞ってやるのでな」
「そっそりゃねーだろ親父ーーー!!」
「あ、待ってください。——ねぇマルヴィナ、ニードに許した数だけチョップした?」
「へっ?」いきなり予想外のことを聞かれ、マルヴィナは素直に答える。ニードは完全無視の状態だった。
「いや、二回」
「じゃあ後一回残ってるわね」リッカは再びニードの前に立つ、そして。
「よくもマルヴィナ連れ回してくれたわねっ」
 最後のチョップを、それも盛大な音を立てて喰らわせた。





 ニードの家を出た瞬間、家が飛び上がるのではないかと思うほどの大声が聞こえた。
マルヴィナとリッカは同時に吹き出す。
「それにしても驚いたわ。マルヴィナが村の外に出たなんて。でも、全然何ともなさそうね」
「慣れているから」
「そっか。マルヴィナは旅人だったもんね」
 リッカは歩きながら、ふっと暗い空を見上げた。
「ねえマルヴィナ。もし良かったら、頼めないかな。
私、やっぱり行方不明のルイーダさんが気になるの。だからキサゴナ遺跡に——」
 そこまで言って、リッカは頭を振った。
「ううん。——ごめん。やっぱり、そんなこと頼めないよ。危険すぎる…
今私たちに出来るのは、彼女の無事を祈ることだけ」

 …無事を。

「守護天使マルヴィナ様——どうかルイーダさんをお守りください」

 守護天使は、今、天使ではない。
 ならば、誰がこの村を、誰が彼女を、守るのか。一体誰が?

 ——答えは、決まっているじゃないか。

「——リッカ。わたしが…わたしが、探して来る。その、ルイーダって人を」
「マルヴィナ!?」驚いて、リッカはマルヴィナを見た。「で、でも…それでもし…もしもの事が、あったら…っ!」
「大丈夫。わたしは簡単には死なないよ。何せ」
 マルヴィナはニッ、と笑う。
「あの滝に打たれて、すぐに動けるようになったくらいだから」
 誰にでも安心感をもたらす、会心の笑み。絶対的な自信に満ち溢れた、守護者の微笑み。
「すごいね…マルヴィナは」リッカは呟いた。「私には、そんな勇気が、持てない」
 家に着く。扉を開いて、リッカは弾かれたように駆け出した。
戸惑うマルヴィナに、ちょっと待ってて、の声をかけると、すぐに戻ってきた。
「マルヴィナ。これを持っていって」
 彼女が両手に抱えて持ってきたのは、二つの剣。
「これは、単なる宿屋の忘れ物。そしてこっちが——昔、ここに泊まっていた人が、
宿代として置いて行ったんだって」
 忘れ物のほうは、プラチナ製の細い剣。そしてもう一つが——
ところどころ朽ちた、使い物にもならなさそうな剣だった。
「星…? 銀河かな…?」
 辛うじて見える剣の模様をマルヴィナが声に出した。
「すごく錆びているけどね。不思議なの。今まで色んな災害とかから守ってくれた。
ほら、大地震で色んなところが壊れちゃったけど——ここは、ほとんど無事でしょ?
きっとお守りになると思うの。だから、これからもずっと持っていて欲しい」
 どこかで見たことがある気がした。昔これを見て——悔しい思いをしたような、曖昧な感覚。
その正体が何かは、分からない。けれど、マルヴィナは。この剣が自分を守ると言うのならば、
自分もこの剣を守ろうと、そう思った。頷く、そして——受け取る。親友から、戦士への贈り物。
 二人の視線が、まっすぐに交錯した。そして、互いに微笑んだ。

 得体のしれない自分を、助けてくれた。
今度は、わたしがあなたを助ける。


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