二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.234 )
日時: 2013/02/24 21:38
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 魔獣の洞窟への、実に何百年ぶりかの来客は、相当に騒がしい者たちであった——
無論、マルヴィナたち四人だが。
「喰らえっ隼切りッ——避けられたっ!」
「マルヴィナ、後ろ——いや。スクルト!」
「“いや”ってなんだ…? おぉっと蒼天魔斬あたりっ!」 ニードルショット
「セリアスこそ“あたり”って何よ? えーと、じゃ私は——急所討ちでっ!」
 いちいち技の名前まで叫ぶのは、声が反響し返ってくるのを面白がっているからである。
つまり、大袈裟に騒いでいるだけであって、実際には意外にも、余裕綽々なのだ。…なのだが。
         メダパニ
「あ、セリアス、混乱呪文にかかった」
「な、何やってんだ一体。おーいセリアス」
 何をこんな時にと、マルヴィナは剣の鞘を引っこ抜きそのままそれでセリアスの頭を後ろからど突く。
「うぎゃ」と「ふぎゃ」が混ざったような声を上げ、セリアス元通り。
最初呆けたような顔つきをしていたが、その眼にまだ残っている敵の姿を確認すると、
少々やけっぱちな雄叫びをあげ敵に突っ込んでいった。

 ところでマルヴィナは、自分こそ『こんな時に』、とある魔物に一対一の勝負を仕掛けようとしていた。
スライム種族、全ての魔物の中でも上位の素早さと硬さを誇る珍種、“はぐれメタル”という
見た目は銀色のジェルのような魔物である。が、その堅さゆえに刃という刃は立たず、
その身体の性質は呪文を一切受け付けない。マルヴィナがこの魔物に目を止めたのは、
そもそも初めにそのはぐれメタルに攻撃された——という名の顔にへばりつかれたからである。
スネークロードという名の術師系の魔物と一戦交えていたときに、魔物の蛇の手(足?)が
近くを通り過ぎようとしていたはぐれメタルをむんずとつかみ、マルヴィナの顔面に投げつけてきたのである。
おかげで顔は銀色、視界がふさがれている隙に攻撃を仕掛けようとしていたスネークロードは
それより先に銀色を振り払ったマルヴィナの超・爆発的な怒りを買い、そのまま恐ろしいまでの
会心の冴えを見せた彼女の剣の前に撃砕。自分をそんな目に合わせてくれた銀色を探したところ、
そいつはマルヴィナの猛獣のような眼に文字通り飛び上がりマルヴィナの攻撃を見事に躱し、退散。
攻撃の空回りしたマルヴィナは呆気にとられ、その怒りも同時に吹き飛んだ。


「うー…あいつだけには勝ちたい」
「まぁまぁ。何もこっちから向かわなくても。“来るもの拒まず、去る者追わず”、———」
 …なんだろ? ——言おうとして、キルガは口を押さえた。——しまった。
瞬間的にそう思い——馬鹿野郎! 自分を、心中で罵った。
 その言葉の意味するところを、今更気づいた。…その言葉は、その考えは、彼女の師からの教えである。
…だが。『今』、それを連想させる言葉は——最も、言ってはいけない言葉であった。
(———————————しまった)
 キルガは慌てて今の失言を下げようとして——止まる。マルヴィナは、笑っていた——
でも、少し、哀しげに。    ・・・・
「…大丈夫。何があっても、——わたしの考えは変わらない」
 少し、切なげに。その様子に、キルガは、何も言えなかった。だが——自分の無神経さに、
恋しい人を傷つけた自分に、無性に怒りを覚えていた。





 セリアスとシェナはともかく、マルヴィナとキルガは—どちらかというとキルガからは—それから少々
気まずい雰囲気を伴って、奥部へと足を進めた。地下へ続く階段をゆっくりと降り、彼らが目にしたのは、
今までの薄暗くかび臭く、音の響く迷宮ではない。どこから与えられているのか、
木漏れ日のような光が射し、二つの地、繋ぐのは頼りない一本のつり橋、その下は黒くて何も見えない。
「…何だ? ここ——…」
「邪悪ーな気配、臭う?」
「犬かわたしは」
 シェナの発言にツッコミを入れておいてから、マルヴィナはあたりを見わたす。「——いや。特に感じないな」
「面倒がなくて助かるわね」
「戦うつもりだったのか?」
 話しながら、つり橋を渡り始める——と、セリアスが躊躇うような足取りをしていることに、二人は気づく。
「どうしたんだ? セリアス」
「い…いや」
 否定の言葉を発しながらも、セリアスの足取りは不安げだ。
「もしかして…高所恐怖症?」
「や、そういうわけじゃ、ない、はず、なんだが」
 見ていても不安になりそうなその歩き方に、例によって先頭を歩いていたキルガが足を止めた。
「なんてか…その、足下が見えないところってのは、結構、怖いもんだなと」
「恐怖症ね。ちょっと意外かも」
 シェナはマルヴィナに先に行くよう促すと、セリアスに「目を閉じて」と一言。
いきなり何かと思い恐る恐る目を閉じた瞬間、シェナの一体どこに隠していたんだというほどの
馬鹿力にひかれ、セリアスは妙に情けない悲鳴を上げて何とか橋を渡りきる。
「——————っ、——————っ、—————————っ」
 声にならない声で荒く息をつくセリアスに、シェナはちょっぴり困ったように笑うのだった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.235 )
日時: 2013/02/24 21:34
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 未だ心臓のバクつく青い顔のセリアスを何とか励ましながら、四人はつり橋の奥に一つだけあった
石造りの小屋に入る。中は同じように木漏れ日のような光が射しているが、
やはりどこから発生しているものかはわからない。煉瓦に巻きつくツタ、薄いコケ。
まるで小さな隠れ家である。が、四人が真っ先に目を引いたのは、ど真ん中に鎮座する、
石の巨像であった。そして彼らは、洞窟の名の意味を理解する。


 その巨像は——魔獣の形をしていた。
鋭い犬歯、雄々しき尾、尖った爪、竜の羽、右手には槌、左手には盾。
それらは言うように石でできたものだったが——恐ろしく精密で、恐ろしく現実的だった。
加えて、恐ろしくこの場に似合わない。
「凄いな…ビタリ山のラボオさんを思い出すな」
「動いたりして」
「やめてよ」
「…………………………………」
 キルガ、マルヴィナ、シェナ、そしてセリアス——尤もセリアスは未だに話す気力がないのだが。
「最深部——だよね」
「多分」
 光の矢は…と、探し出す。と、声を上げたのはマルヴィナだった。
「あった、像の後ろ」
 マルヴィナが手招き、三人が集まる。なるほど、石像に守られるように、黄金色の弓矢が
そこで静かに輝いていた。が。守られるように——というか、実際に守られているのである。
つまり、石像が邪魔で、いくら手を伸ばしても弓矢に届かないのだ。
「こ、ここまで来て諦めてたまるかっ」
「ちょ、マルヴィナ!?」
 と、マルヴィナは、石像の左手の盾部分によじ登り、弓矢に近づこうとする。
もう少し近づけられれば、届きそうだ!

 ——が。もちろん、そのままあっさりと入手させてくれるはずがなかった。
 ごがが…といきなり、あたりが揺れだす。
「うわわわわわ、じじじ地面ががが揺れれててててていってぇ!!」
「ばばばばかか、しゃ喋ると舌噛むっ——むーーー!」
 セリアスとシェナが騒ぎ、キルガは揺れながら「マルヴィナ!」と叫ぶ。
正しく叫べてはいたが、そのあとに舌を噛んだ。が、今は気にしない。
それよりも——マルヴィナは、盾にしがみついたまま上下左右に揺られているのである。そう、

 揺れているのは地面ではない。
 ・・・・・・・・
 石像が動いている!!

「ちょ、ちょちょ、ちょわぁぁぁっ!!」
「ハうフィなっ!?」噛んで、シェナ。
と、その上に投げ出されたマルヴィナが落ちてくる。二つの珍妙な悲鳴が上がる。
「重っ」
「軽鎧のせいだ!!」
 即座に反論、シェナは冗談よ、と軽く流したが、今この場で冗談を言ったことに若干後悔した。
揺れはおさまった、だが、彼らの目の前には。


 先ほど目の前にあった石像に瓜二つの、巨大な魔獣が、槌を振り上げて挑発的に笑っていた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.236 )
日時: 2013/02/24 21:39
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 …仕留める。
 何としてでも、仕留める、仕留める、仕留める——…!


 ハイリー・ミンテル、否——ガナン帝国騎士“紫紅の薔薇”ハイリーは、ただそれだけを考えていた。
かつて、世話になった娘を。談笑しあった娘を。
 ——そして、裏切った娘を。
 …あの、闇髪でありながら、その心に闇を一切見せなかった娘を、
ただひたすらに真っ直ぐだった娘を——マルヴィナを、仕留める——…。
 そうして、私は、願いを叶えてもらうのだ。
 こんな好機は滅多に訪れない。だから。
 だから、私が。


 …なのに。
 確かにマルヴィナは、村の外に出たはずだ。しかも、その場で、消えた——
おそらくはキメラの翼などで、移転したのだろう。
 だが、発信機は、ナザムの村を指したまま動かない。
ならば別人か。だが、あの顔は、間違いない——…  ・
すぐにでも村の中に入りたかった。そして——本当は、彼に会いたかった。

 だが。それは、叶わない。なぜなら、今は帝国の人間だから。
 もう、一般の人間ではないのだから。






 マルヴィナの唇から、かすれた高い音が響く。
ファレスとルゥジェ、そう名付けた二匹の聖狼がマルヴィナの足元に降り、
一気に大怪像へ間合いを詰め、強い二攻撃を与える。
 キルガの手にした槍は、目にもとまらぬ速さで四回、突きの攻撃を繰り出した。
五月雨突き、と呼ばれるその技は、重装備にもかかわらずその重さを気にしない天使の力を兼ね備えた——
すなわち、素早く動ける彼だからこそ使える大技である。
 セリアスが掲げたそれは、戦闘斧バトルアックス。天井に掲げ、意識を集中させる。
魔神斬りと呼ばれるその技は、一か八か、当たれば魔神にも匹敵するほどの大ダメージを与える渾身の一振り。
シェナの手中には、ケイロンの弓。更に弓技、天使の矢と呼ばれるそれは、消費した魔力を取り戻す技。
敵へのダメージに比例して回復させることで魔力を蓄え、そして援護・攻撃の呪文を唱えてゆく。
 マルヴィナだけは、その武器を使わなかった。傷が疼き、再び熱っぽさも戻ってきた。
うまく剣が扱えなかった。どんなに剣の腕に自信のある者でも、己の体調と睡魔だけには叶わない。
 地響き、ハートブレイク、そして時々繰り出される圧倒的な破壊力を持つ攻撃—冒険者はそれを、
痛恨の一撃、と呼ぶ—。互いの攻撃の手は止まらない。
          スカラ
 キルガとシェナの守増呪文、セリアスの兜割、マルヴィナのストームフォース。
 相手は強かった、少なくとも、今まで彼らが戦ってきた敵の何よりも。
光の矢の守り人——大怪像ガドンゴ。
死角は、ない。先ほどのような余裕など、以ての外だ。
 ガドンゴの攻撃を、キルガは最前に立って盾で受け止めた。押し返す、だがそれは最初だけ。
力の差があった。押し返されてゆく。
「っ」
 キルガは歯を食いしばり、押されまいと槍の切っ先を背中の壁に突き立て、後退を防ごうと試みる。
が、それは墓穴を掘ったに過ぎなかった。変な具合に力が加わる。
両端に妙に加わったその力は中心へ、そして——


     「      」


 音を立てて、彼の槍は、中心から二つに折れた。
「ッ!!」
 そしてそれは、命取りになる。一瞬彼が見せた隙を、ガドンゴは突いた。横ざまから飛ぶ槌、そして——
 当たりは、しなかった。
 この間にのんびりしているほど、仲間は薄情でも怠惰でも、貧弱でもない。
                ドルモーア
 セリアスの蒼天魔斬、シェナの闇大呪文、同時にガドンゴの背に当たる。
怯んだ瞬間にキルガは飛びのき、手に残った槍の柄を放った。
二つの強力な技を喰らった大怪像がその動きを鈍くした瞬間——マルヴィナが、その剣を抜く。
 とどめ、だ。
 マルヴィナは眼光鋭く、間合いを一気に詰め、斬りかかる。押すものと押されるもの、
その動きが止まった時——大怪像の鼻頭に、その剣を突き付けていた。
「勝ち、だ」
 マルヴィナは息を吐き、短く言った。他の三人も、溜め息を吐く。
今回ばかりは誰も何も話さなかった。気力がなかった。が、溜め息に下がりかけた顔が四人、
ほぼ同時に上がる。剣先を突き付けられたにもかかわらず、大怪像は跳躍——
なんといつしか、元の台座に戻っているのである。

「「「「…………………………………」」」」

 なにがあった、としか思えない四人はそのまま絶句。が。
『汝の勇気、確と見た』
 大怪像——否、石像に戻ったガドンゴの“声”がする。
「…はぁ」
 が、曖昧にしか答えられない。
『光の矢を掲げ、天を射抜け。さすれば道は開かれん』
 その言葉の意味することは——認可。眩いばかりの光を放つ、
 ——目が開くようになったときには、石像はそこになかった。受け取れ、とでもいうように。
更に後ろの台座の上で、光の矢は名の通り、美しく、重々しく、ただ静かに輝いていた…。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.237 )
日時: 2013/02/27 22:18
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

           4.



 ルィシアは苛立っていた。
一向に動きがないことをさすがに不審に感じて、今さっきハイリーに命じたのだ。標的を探せ、と。
もたもたして、奴らがドミールに行ってしまっては、後々面倒くさい。
確かあの地には、ドミールへの架け橋、光の矢が眠っている。それを手に入れようとする動きがあれば
、それを阻止せよと命じてあった——が、村から出てこないのでは意味がない。
まぁ、ドミールへ向かう可能性が今の所ないわけではあるが——それはそれでこちらは動くことができず、
それでも、やはり『後々面倒くさい』ことになる。
 やはり小娘だ、部下など持っても、使い道を誤るだけさ! 昇格と欲望だらけの馬鹿な兵士たちに
そう言われるのは別に気にしてはいないが、面倒くさいのだ。相手にするだけ、馬鹿馬鹿しい。
 ともかく、と。ルィシアは嘆息して、艶光りする羽を取り出す。
ちっぽけな、無愛想な村をその頭に思い浮かべながら。





 マルヴィナは悩んでいた。
 光の矢を入手したことをティルに伝える方法として、いくつか候補を上げたが——
全てが全て良い方法ではない。
(てか、全部だめだ)
 マルヴィナは胸中で自分自身をぶん殴ってみた。

 ティルに伝えるために村に入る。これが一番単純で、考えるまでもないことではある。
が、マルヴィナは自分で言ったのだ。『ティルを探したら、村を出る』と。
村人に見つかれば、マルヴィナはもちろん、更なる余所者のキルガたち三人や、
ティルまでもが白い目で見られるだろう。
 ならば夜は? 村人たちは寝ているから、人目に付く恐れはない。が、それはティルもである。
第一、少年だ。大人たちより早く床に就くだろう。起こすのは憚られる。
 村の前で「ティルー、手に入れたぞー、」と叫ぶか。いや、それでは村民からの石つぶてが返事だろう。
「嘘をつくな馬鹿野郎!!」なんて言われそうだ。…なら、逆は? 光の矢を使い、橋を架けた後なら。
石つぶては、前者よりも少なくなるのでは。…何で石つぶて云々で考えているんだろう。


「これでドミールに行けるな! うっしゃ新天地!」
「このあたり地図が読みづらいな…近道はあるだろうか。…ないか…かなり遠そうだ」
 はしゃぐセリアスと顔をしかめるキルガを横目に見て控えめに笑い、シェナは額に手を当てた。
「さっきまで洞窟にいたせいかしら。…暑いわね」
 ぱたぱたと、手団扇で顔を仰ぐ。
「そーか? そんなに変わんないと思うぞ」
「セリアスに同感だ。…シェナ、熱でもあるんじゃ」
 マルヴィナという前例がいるので、キルガはそう問うた。…が、シェナは。
「てっ…」
 シェナの手がひゅっと風を切り、下降。拳を握りしめる。
「天使が病気になるわけないでしょっ!?」
「えっ?」
 マルヴィナ含め、皆が固まった。シェナのいきなりの大声、かみ合わない返答。
「い、いや、そうじゃない。…ほら、前に言っていただろ、賢——」
 言いかけて、止まる。様子がおかしい。天使じゃない、賢者として、キルガはそう言った。
賢者の熱——それは特別な意味を持つ。そう話したのは、シェナ自身じゃないか。
あの話をした時、セリアスは船の舵をきっていた。だから、彼は何のことかわからない。だが——
「だ…大丈夫。…大丈夫、だから」
 シェナはそっと、まるで自身に聞かせるように、小さく呟いた。
様子がおかしいと思ったのはキルガだけではない。マルヴィナもだった。
だが、彼女は、別の意味で。もしかしたら、本当に体調が悪いのかもしれないと。
無理はさせないほうがいいと。そう、思っていた。

 ——思っていた、のだ。








「っ————!!」




 マルヴィナの背筋が凍る。反応、する——来る。否——



 ・・
 来た!!!




 マルヴィナは叫ぶ、「ガナン帝国!!」他の三人の表情が、いつものように緊迫した。
マルヴィナはあたりを見渡す、どこだ、どこにいる。遠くを、近くを、上を、前を——
見て、はっと気づく。その先——ナザム村。

 ナザムの村周辺から、邪気を感じた。

「——あっちだ」
 マルヴィナは鋭く言い放つと、三人を促して走る。そして、その眼を疑いながらも、眉をひそめた。
 ナザムに入ろうとする人間がいる。ベクセリアで、サンマロウで。そして、ここで。
 三回目に出会った、その人は。



「…ハイリーさん」





 それが、ハイリー・ミンテル、その人だった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.238 )
日時: 2013/02/27 22:22
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 真っ先に彼女のもとへ着いたのはマルヴィナだった。
然闘士のあまり公にされていない力、風を読み取りそれに乗り、素早く行動する。
                   ・・・・・・・・・・・
 三人を残す形で、彼女はハイリーと——ただの私服のハイリーと対峙し——仲間たちは
マルヴィナの合図を見た。その、合図は——待機せよ、という意味だろうか。
 キルガは担当地ベクセリアに居た人として、セリアスは次期担当地予定サンマロウ出身の人として、
シェナはただ単純にそんな人がいた程度に、それぞれ彼女を覚えていた——だが。
 マルヴィナは——…。


「お久しぶりです、マルヴィナさん」
 ハイリーはどこか冷静に、そう言った。少し緊張気味に、少し驚愕して、でもそれを表情に出さずに。
「こちらこそ。…今回は、何故、ここに?」
 あくまでもマルヴィナは、そう問うた。少し緊張気味に、少し警戒して、でもそれを表情に出さずに。
「…サンマロウで、お話ししましたね。探し人をしていると…その子が、ここにいると聞いたのです」
 マルヴィナは思ったよりも具体的な内容に、言い逃れとしては詳しすぎ、
不向きすぎるその言葉に困惑した。相手の出方が、全く分からなかった。
 …分からなかったから。


「…でも、この村、住民以外をひどく嫌っている」
 マルヴィナは、前に出た——ハイリーの、目の前に。
 背を見せて。


 ハイリーの頭に、思い浮かぶあの時の言葉。“天性の剣姫”を仕留めた者に与えられる、特権——…。
 ハイリーの手が自身の腰に伸びる。そこにあるもの——硬く冷たいその道具を手に——
「だから、入るのは多分容易じゃない——」
 刹那。




          ——————————————…ィィィン…



                                      レイピア
 暗殺、ただそのためだけに作られた帝国の短剣と、いつの間にか抜き放たれていた細剣が、
マルヴィナとハイリーの間で耳障りな金属音を響かせた。ハイリーの緊張と驚愕は
比べ物にならないほど大きくなり、マルヴィナの冷静な眸を動けぬまま見ていた。
待機を解除し、駈け寄った仲間たち——真っ先にシェナが、身を低くして増速、
地を蹴り腕を横に振り、ハイリーの懐を狙って体当たりする。
セリアスに教えてもらった、先手必勝の不意を狙った攻撃である。
「かっ!!」
 ハイリーは目を見開き身体を折る。マルヴィナが素早くハイリーの手を叩き、短剣を払った。
短剣は弧を描き、地に刺さる。走っていなければ危うくセリアスが短刀を頭に突き刺しただろう。
頽れたハイリーに、世話になったことのある女性に、マルヴィナはそれでも、その剣を突き付けた。
今度は、かわされないように。絶対に反撃できないように。
「…………っ」
「気付かなかった」マルヴィナは言う。「最初は、分からなかった。…あなたが帝国の人間だったなんてね」
 目を細めて、焦燥に瞳を瞬かせるハイリーの目を、見る。
彼女は、殺そうとしただけで、殺したくはなかったのだ。彼女の目は、マルヴィナにはそう見えた。
「…あなたの闇は、小さい。あなたは帝国の人間らしくない。
…できるなら、わたしはあなたと戦いたくない」
 ベクセリアであった時は殆ど会話もしなかった。サンマロウで会ったときは、協力すらしてくれた。
彼女は、帝国の騎士として動いていたのではない。きっと、ただの住民として——
けれど、サンマロウで、マルヴィナに睡眠薬を盛り、その情報を帝国に流したのは、
彼女で間違いないだろう。…それは彼女の意思?
…そうは、思えなかったのだ。動いているのではない、動かされている。
そう見えるからこそ、戦いたくない。
それでも、彼女は。
「…いまさら情けをかけるの? それでも私は、あなたを」

 ———————仕留める。

 呪うように、何度も何度も口中で繰り返した言葉。
繰り返したことで、それを自分の意志と思いこませようとした。今更、変えられない。
「…どうして」
 マルヴィナは、剣を構えたまま—けれどその手に最初の力は入っていなかった—、尋ねる。
「…こんな好機、二度とない。願いを叶えてもらう、そのためにあなたを仕留」







「そこまで」







 恐ろしく無情に、恐ろしく冷静に。
 その声は、天井から降りかかってきて、マルヴィナの剣を弾いて乱入した——












「…ルィシア…!!」

 闇髪、翠眼、それはルィシア。


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