二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.64 )
- 日時: 2013/01/19 22:21
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
石碑に刻まれた天使の名はエルギオス。
かつて大いなる天使と呼ばれ、またイザヤールの師匠だった。
「マルヴィナは彼の孫弟子ということになるね。カッコよかったよ、彼は。私も大好きだった」
マルヴィナはへぇ…、と頷く。
憧れのラフェットが憧れる天使が師匠の師匠、何だこのややこしい設定は。
「彼はね、ある村の守護天使だったんだ。でも、あるとんでもない嵐の日——
不運にも彼は、人間界に降り立つべく星の扉を通った直後でね。
それ以来——天使界には帰ってこなかった」
「えっ」石碑からラフェットへ、視線を転じる。
「それ以来、その村には守護天使が誰も就いてなくてね。イザヤールもウォルロ村に行っちゃったっしょ。
だからそれ引き継いで、マルヴィナもウォルロ村守護天使になったわけだけど…
もし彼がそのままいたら、イザヤールもマルヴィナもその村を守護してたんだろね」
「…その村って」
「ごめん。名前忘れた」
あっさり言って見せたラフェットだが、口調はやはり寂しげだ。
「…イザヤール、恐れてたんだよ。マルヴィナまで、もう戻って来ないんじゃないかってね。
人間界に降り立った天使はみんな戻って来ないし、
あいつにまで何かあったらまずいって思ったんだけど…ダメ。言っても聞かないんだよ。
あいつ、見かけによらず弟子思いだからさ」
ぽん、とマルヴィナの頭に手を置く。そして、はにかんだ。「愛されてることで」
「あい…」
マルヴィナは考え込む。思いついたのはエリザの姿だった。
(…よく分かんないな…何なんだろ?)
首を傾げかけるマルヴィナの頭から手を放し、ラフェットは石碑をもう一度見る。
「イザヤール、きっと帰ってくるからさ。気長に待とうぜ。
あいつは諦め悪いから、かなり時間かかるかもしんないけどさ」
いささか元気の戻ってきたラフェットは、そう言ってまた笑った。
キルガの想像通り、一番初めに集合場所に来ていたのはセリアスだった。
待ちに待った世界樹との対面が嬉しいのだろう——ということは、
キルガに言われるまでもなく見え見えだった。
「あー、確かあの時セリアス、ここにいたん」
「言うな言うな言うなっ! いや反省してますマジです勘弁してくれっ」
「わたしが上級天使だったらそれは通用しないぞー」
「………………………………………………」
完璧に黙らされた。
…ともかく、世界樹に着く。セリアスはマルヴィナが初めて世界樹と対面した時のように、
その大きさ、美しさに数秒見とれる。
先ほど帰ってきたときはそんなにまじまじと見られなかったから、感動も大きい。
「すっげぇなぁ…柄にもないけど、なんか生命の神秘、って感じだな」
「たまには詩人だな、セリアス」
「いやぁ、それほどで——キルガ、それ褒めてんのけなしてんの?」
「半々」
「…さいですか」
即答され、一気に脱力するが、世界樹を前に再び立ち直る。
「俺、もしかしたら天使界史上一番幸せなやつかもしんない」
「単純かつおめでたいことで」マルヴィナは笑って、世界樹の南側に立つ。
キルガは東に、セリアスは西に。
それぞれ、左膝を地につき、右膝を立て、両肘を足につけない程度に下げて両手を組む。“祈り”を表す。
そして、——祈る。
神経が、集中し始める——
—————————————……さっ…
——前に、何かの倒れる音を、キルガもセリアスも前から聞いた。
「っキルガ! マルヴィナがっ」
セリアスの声に、キルガは目を開ける。祈りは、中断された。
だが、それは彼らにとって今はどうでもよかった。
マルヴィナが倒れている。そっちの方が重要だったのである。
「…マルヴィナ…?」
彼女は、まるで眠るように倒れていた。顔が穏やかすぎる。息はしっかりとしていた。
キルガは訝しげに首をかしげた。どう考えても、この眠り方は尋常ではない。
だが、なぜかこのまま起きないのではないかとは思わなかった。
「ダメだ。埒があかねぇ。一回、戻ろうぜ」
キルガは頷く。マルヴィナを背負おうとして、
「——っ!?」
結界に触れたような痛みを覚えた。何かにはじかれたように。
「…えっ」
「…マルヴィナ…? 一体、どうしちまったって——」
答えは、なかった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.65 )
- 日時: 2013/01/19 22:24
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
———————美しい庭園だった。
どうやらわたしは、眠っていたらしい。頭が妙にくらくらした。
…ここはどこだ? 一言で言うとしたら神秘的、という言葉しか思いつかないそこに、わたしがいる。
けれど、うつろで、動けない。ただふらふらと、頭の重みに任せて至る所を眺めるのみ。
“ 人間は、この世にふさわしくない ”
不意に聞こえたその低い声に、わたしはびくりと肩を震わせる。
“ 嘘をつき、平気で他人を貶める。そんな人間のなんと多いことか ”
誰? 声だけで、圧倒されそうになる。
“ 私は、人間を滅ぼすことにした ”
私のすぐ横を、赤い光がすごいスピードで通っていく。もう一度、ぎくりとした。人間を、滅ぼす——?
ダメだ、と声をあげたくて——声が出ない。けれど、すぐにもう片方の横を、今度は青い光が通り抜ける——
わたしの脳裏に、世界がうつった。赤い光が、世界に届くか、届かないか。
そんなところで、青い光が赤い光を止めた。二つの光が散った。お待ちください、と、綺麗な声が聞こえる。
頭に、連続して声が流れてくる。まるでせめぎ合うように、まるで先を争うように。
“ 何故…止めるのだ。人間たちをかばう必要などないではないか ”
“ 私は人間を信じます。まだいるはずです、清き心を持った人間が! ”
“ 邪魔をするな、————! ”
声が一瞬途切れる。誰かの名を呼んだように感じた——
“ 私は人間を信じます ”
悲しげな、綺麗な声がする。
“ 私は…身を以て、そのことを——— ”
その瞬間、光がはじける。目の前が明るくなった。
それは、まぶしくて、暖かな、ひか———
その瞬間、わたしは——
「っ!!」
——その瞬間、わたしは、
マルヴィナは、目を開けた。
「マルヴィナ!」
目に見えたのは、キルガとセリアスの二人。
「あ、あれ…ここは?」マルヴィナの呟きに、
「おいおいおいおおいおい、まさか記憶喪失ってことはないだろな!? わたしはどこここは誰とか言わなきゃ、…アレ?」セリアスが混乱し、
「セリアス、逆」キルガが冷静に指摘、
「あ、そうだ、わたしは誰ここはどことか言わなきゃ問題ない!」セリアス訂正、
「わたしはマルヴィナですか?」マルヴィナがちょっとボケてみて、
「聞くのかーーっ」どぉっと脱力するセリアス。ほぼ漫才である。
「マルヴィナ。大丈夫か?」
最後のキルガの一言に、マルヴィナは頷いた。
「…何か、変な感じがする。…意識が別のところにあったような…」
「人間界で“夢”と言われるものか?」
「分かんないよ。見たことないんだし——」マルヴィナは頭をおさえて、
かぶりを振りかけて——はっとした。「って、あれ? 光輪は? …翼は——」
マルヴィナが座り込んだまま、背と頭の上を確認(実際には見えなかったが)する。何もなかった。
「…戻らなかった? …いや、祈りを中断しちゃったからか」
「…多分」
「…そっか」
溜め息をつき、ごめん、と謝る。“夢”の内容を、忘れないうちに話しておこうと思った。
そして、口を開いた——
———守護天使マルヴィナ、守護天使キルガ、候補セリアス…私の声が聞こえますか?
だが、聞こえたのはマルヴィナの声ではない。無論、マルヴィナが発したわけでもない。
その声は、世界樹から聞こえた——
「…えっ? あ、あなたは…!?」
言って、マルヴィナははっとした。先ほどの、綺麗な声。
今聞こえる声は、同じだった。
———今は名を語ることはできません。…一度人間界に落ちてもまたここへ戻って来られるとは、
これも奇跡というべきでしょうか。…あなたたちに、お願いがあります。
世界に散らばった女神の果実…それを、全て取り戻してほしいのです。
私のチカラを宿せし青い木が、あなたたちをいざなうでしょう
「…女神の果実…」
「青い木…?」
三人は復唱した。
———守護天使マルヴィナ。あなたに、一つの呪文を授けます。
転移呪文——名を、“ルーラ”
「る、—————っ!?」
今度は復唱できなかった。
マルヴィナの周りに、あの眩しくて、暖かい光が生じる。
マルヴィナの中で、何かの封印が解かれたような感触がした。
何かを身に着けた、そんな感触が——
———天使たち…どうか…果実…お願……し………
…世界樹の光と声は、そこで消えた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.66 )
- 日時: 2013/01/19 22:28
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「…ど、どーなってんだ? 今の声、一体…」
セリアスが変わらぬ体勢のまま、マルヴィナを見る。
「なんかマルヴィナにかなり期待してたみたいだけど」
「分かんないって。とりあえず、長老オムイさまにこのこと報告——」
「聞こえておったぞ、守護天使マルヴィナよ」
別の場所から聞こえた言葉に、マルヴィナは立ち上がり、キルガは振り返り、セリアスは体勢を整える。
無論、長老オムイであった。近衛天使とともに、杖を片手に、しっかりと頷きながら。
まさか来ていたとは思わず、三人は慌てて敬礼した。それを制し、オムイは三人に命じる。
「…今のはきっと、神のお告げ。お前たちが、女神の果実集めを命じられたのならば従うのみ!
マルヴィナ、キルガ、セリアス。再び人間界へ赴き、散らばった七つの果実を集め無事戻るのじゃ!」
——託された使命。それは——
「はっ」
その意味を、胸に刻みつけて。三人は、同時に了承した。
僅かにもずれることなく。
長老たちを見送って、うわぁハイって言っちゃったけれどこれ超重要な仕事じゃん的な表情になってから、
セリアスはふと気づく。
「まった」
まさに箱舟へ向かおうとしていたマルヴィナとキルガは足を止めた。
「何?」
「運転士。箱舟の」
「あ」
サンディである。
彼女は、天使界についたいなや『テンチョー探し』と称してどこかへ行ってしまったのである。
テンチョー = 天の箱舟の真の運転士 であることにはしばらくしてから気付いた。
「………。とりあえず、行ってみない? 何か案が見つかるかもしんないし」
「…期待はしないでおく」
その答えにマルヴィナはあいまいに答えつつ、トコトコ歩くこととなる。
「あいつワケわかんない時にいて肝心な時にいないんだからなぁ」
いつもフードから後ろ髪をひかれる(別に未練が残って云々の意味ではない)マルヴィナは
皮肉も込めてそう言ったが、扉を開けた後のそこにサンディ張本人がいるのだからたまらない。
「うわぁぁっ」
当然、マルヴィナは盛大に驚いた。思わず身を引いて、セリアスに背中がドン、と当たった。
ちなみに小揺るぎすらされていなかったが。
「うはっ!? な、何ヨ。アタシが何!?」
いきなり驚かれたサンディは、原因も知らずそう答える。
「なな、な何でいんのっ!? アンタ『テンチョーサガシ』してたんだろっ!?」
言われたサンディはその場で腕と足を組み、ぷぅ、とむくれる。
「しゃーないじゃん。あのオッサンいないんだし。なーんか人間界で行方不明っぽいのよねー。
でもテンチョー探さないとバイト代もらえないしさー。…正直探すの超メンドいんですケド」
三人は顔を見合わせる。人間界?
「てゆーか何でアンタ達こそここにいんの? ハネもワッカもないから天使界追い出された?」
「阿呆」
「うっわセリアスにだけは言われたくないー」
「お前なぁぁぁぁ」
この二人は相性が悪いのか? と考えるキルガ。
「…まぁいい。人間界に散らばった女神の果実を集めることになったんだよ。ちゅーワケで人間界連れててて…」
マルヴィナとキルガが語尾に妙なものの入り混じったセリアスの言葉に反応し、彼を見る。
「かんだ」
「…………………………………………………………………………」
シラけた空気が漂い、だがサンディがすぐに打ち破る。
「まっ、アンタらが人間界行くんなら、協力してあげてもいーヨ?
…でも、箱舟ちゃんまだ壊れてるっぽいのよねー。ちゃんと人間界に停められるのかあやしーんですケド」
「無責任な」
セリアスが呟き、
「サンディ、青い木、見える?」
マルヴィナが話を進めた。
「青い木? ——あー、うん、あるケド」
「そこに停められるはずだ」
「はぁ? つか何で知ってんの?」
マルヴィナはそのままの表情で答える。
「何かさっき不思議な声が聞こえてさ。そこに行けって」 イザナ
「マルヴィナ?」キルガだ。「確かにあの声は、青い木が僕らを誘うとは言ったけれど、箱舟を停められるとまでは言ってないよ」
「…え? でも、停められるはず…」
珍しく弱気な、だが少々にじむ確信の声に、キルガは首をかしげる。
「あー、グダグダメンドい! ちょいまち。調べてやんから」
「調べられるのかよ」
だったら最初にそうしろよ、…とまではセリアスは言わなかった。
箱舟が出発する。
青い木に、確かに停められるということが分かってから——
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.67 )
- 日時: 2013/01/20 21:19
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
2.
「大神官様は、まだお戻りにならないのか!?」
世界地図で、大体は中心に描かれる、この小さな島——アユルダーマ島。
転職を司る神ダーマの眠る地として、そこにはその転職の儀式が行われる神殿があった。
その神殿に名はなかった。だが、人々はこう呼ぶ。
ダーマ神殿、と。
「最後に見たのは、やはりお前のようだな」
ダーマ神殿、フリーフロアと呼ばれる一室でメイドの仕事を務める娘に、武闘家風の男が言った。
「うん。そう、みたい」
二人は恋人同士の仲である。
彼は最後に大神官と会った、という彼女が疑われないか、大いに心配していた。
——疑い。
そんなものを抱かれなければならない理由。
それは、ダーマ大神官の失踪にあった。
わざわざ遠くから転職しに来た者たちはなかなか目的を果たせないことに苛立ちを覚えていた。
それはより一層、神殿に勤める兵士たちの焦りを増幅させた。
そのため、事前に大神官に会っていた者は、ほぼ八つ当たりの対象として、
拷問のような勢いで責められたものである。
「…どうしよう。やっぱり、あたしのせいなのかな…」
「心配すんなよ、じき、戻って…来るさ」
彼の言葉も、かすかに不安がにじみ出ていた。
数時を経て、マルヴィナ、キルガ、セリアスは地上へ着く。だが。
「っあ゛ー、よーやく着いたぁ…運転雑になってないか…?」
「うー、同感だ。少し気分悪いぞ」
セリアスとマルヴィナは水を失った魚、あるいは太陽を浴びすぎたモグラのような雰囲気を漂わせる表情、
早い話が疲れた顔をして呻いた。
ちなみに、一人平気なキルガが、あまり心配していなさそうな口調でとりあえず尋ねる。
「大丈夫かい? …気付け薬、あるけど」
「薬も冗談もいらんわ」
「あ、それ上手い」
「ども。…うー」
「大丈夫そうだね。——ところでマルヴィナ、 ルーラ
あそこに見える建物、覚えておいてくれないか。後から転移呪文で来られるように」
「建物?」マルヴィナはふぅらり、視線を転じる。「あぁ、あれね。分かった」
ふらついた頭を、手を使ってまっすぐに立て、
マルヴィナはじぃぃぃぃっとネズミを睨む猫のような目つきでその建物を見る。
…真剣にものを覚えるときの彼女の癖だ。恐い。
「後で? 今行きゃいーじゃん」
サンディは自分の運転が悪評価だったことの不満も込めてつっけんどんに言ったが、
「シェナに会いに行きたいだろうって思ってね。覚えておきさえすれば、いつでも来られるわけだし」
キルガの余裕の口調に、あそ、と次いで微妙な声を出したのであった。
「あぁっ、マルヴィナ、久しぶり! また来てくれたんだ!」
セントシュタイン城下町の宿屋。
早速役に立った転移呪文でキルガとセリアスが先に入り、マルヴィナも入ると、
いきなりリッカが走ってきてマルヴィナにタックルした。本人曰く首っ玉にかじりついた、らしいが、
ともかく勢いが強すぎてマルヴィナは頭をドアにドゴンとぶつけた。…凄い音だった。
「痛…リッカ、力、強すぎ」
普段ならリッカに叩かれようが蹴られようがマルヴィナならほとんど揺らがないだろうが、
全くの不意打ちに飛びつかれてはふっ飛ぶ以外の行動はなかっただろう。
「え。あぁゴメン! 大丈夫?」
「なんとか」
と言いながらも目線がいろんな所をさまよっていた。
「…えっと…リッカ、ルイーダさんは?」
「え? ああ、ルイーダさんなら、グラス取りに言ってるよ。すぐ戻ってくると思うけど」
「はいはーい。戻ってきてるわよん」
ルイーダ登場。相変わらず優雅で堂々としている。マルヴィナは一礼した。
「ちょうどいい所に。…ルイーダさん、シェナいる?」
「ん? …あぁ、旅の仲間ね? 職業は」
「賢者」
「あぁ、賢——あ、あの可愛いコね。酒場に引き抜いちゃった」
「…………………ハイ?」硬直する三人組。
「……引き抜いた?」
「えぇ」
「…………酒場に?」
「だから言ったとおり」
「……いやいやいやいやいやいや。ちょっっと待ってくれ! 幾らなんでもそりゃちょ痛っ」
そこまで言ったところで、マルヴィナの頭がバシッという音をたてる。
二度同じところをーーーーー!! と、顔をしかめて振り返ると、そこに宿屋のドアを片手で開け
もう一方の手をマルヴィナの頭と同じ位置まで上げたシェナが凶悪な笑顔で立っていた。
「…わわわっ、シェナなななっ」
「何で取り乱してんの…? …戻ってきたのね、結局」
シェナは別れた時の旅装と同じ格好をしていた。マルヴィナの耳元で、呟く。
「もしかして、翼も光輪もないから、天使界追い出された?」
「サンディと同じことを言うな」
「あ、そうそう。サンディちゃんは?」
「後でね」
今は人間の前である。
「——は、いいとして。シェナ、これからもヨロシクってことでいい?」
「ん? やっぱそーなるの? いいけど…でも、仕事残ってるし」
「はいはい」ルイーダは笑う。「仲間紹介する仕事の私が、“行っちゃだめ”何て言わないわよ」
——そんなわけで、再びシェナが仲間になったのだが。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.68 )
- 日時: 2013/01/20 21:21
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「ここって、ダーマ神殿?」
薬草などの道具を揃えなおしたのち、彼らは再び蒼い木の前に訪れる。
本当に便利な呪文を授かったものである。
そして、シェナが崖の上に立つ建物を見て、言った。
「ダーマ神殿?」
「そ。転職が出来るんだって」
「転職?」マルヴィナが問い返した。
「うん。たとえば、旅芸人から武闘家、とか、戦士、とか魔法使…って柄じゃないか」
「余計なお世話だしかも好きで旅芸人になったわけじゃない」
早口で一気に言い済ませるマルヴィナ。
「…む? じゃもしかして俺、ここで戦士からバトルマスターになれたりする?」
シェナは笑って頷いた。
「なれるわよ。もちろん」
「詳しいねシェナ」
「そりゃ、賢者ですから。ダーマ大神官は賢者の一人なの。…セリアス、転職はタダよ」
財布の事情を確認し始めたセリアスに、シェナは次は苦笑した。
「そなのか?」
「…とりあえず、行ったほうが早そうね」
一同は神殿に足を踏み入れる。
ちなみに、サンディは天の箱舟にて、壊れた部分と格闘していた。
神殿のある崖上に行くために、四人は長い長い階段をひたすらのぼる。
「362、363、364、3…ちょセリアス危ないっ!!」
セリアス、バランスを崩す。
だが、さすがはセリアス、持ち前のしぶとさでなんとか足を地面に残す。
肝を一気に冷やされたキルガとシェナは微妙な表情で溜め息をついた。
「…再開するか。えっと何段だっけ?」
「知らないわよ。368くらいじゃないの?」
三段ずれている。
「そっか。えっと、368…あれ? ここが368? それともこっち?」
「……………数えるの自体やめたらどう? ここの階段は673段よ」
知ってんなら先に言え、と言わんばかりの視線をシェナに送るが、
見事にスルーされたというのは関係ない話。
ようやく673段と言う中途半端な段数の階段を上り終えると、まずそこに立っていたのは二人の神官である。
現れた四人の若い旅人たちを見て、神官は右手を左胸に当て、頭を垂れた。
天使界では“光栄です”を表すが、人間界ではそうではないようだ。
とりあえず四人は止まり、神官の言葉を待つ。
「ここは転職のすべてを司る神ダーマの眠る地」
「ようこそダーマ神殿へ。転職をご希望ですか?」
真っ先に頷いたのはやはりセリアスだ。隣でシェナが、当たり前でしょ転職の神殿なんだからと呟く。
「…そうですか。それでは、どうぞ中へ」
神官は道を開ける。セリアスが進み、マルヴィナも倣う。
セリアスはともかく、彼女は少し首を傾げていた。
「…ねぇキルガ。なんか…おかしくない?」
そのマルヴィナの後ろ、神官を抜いたところで、シェナがキルガにささやく。
彼は頷いた。同じ考えらしい。
「あぁ。妙に…拒絶されているような気がする」
「何で? …もしかして、転職の儀式する人、いないからできませんよオチだったりして?」
シェナの予想は完璧に当たっていた。
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