二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.314 )
- 日時: 2013/04/02 23:36
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
ザ メ ハ
覚目呪文というらしい魔法で強制的に起こされたセリアスは(この呪文はセリアス起こしに使えるな、と
さりげなく考え込むキルガであった)、呆れ顔のキルガと共に牢獄内へ走って行ってしまったマイレナを追った。
血と、死の臭い。けれど、今は混乱したように意味のない動きを繰り返す兵士たちと
希望に満ちた表情の薄汚れた服装の人間たち大勢が目に入る。
「これは…どういう状況だ?」セリアスが呟き、キルガが目を細める。
「チェス、一体これどういう状況?」
そして、久々に実体で再会した二人の伝説は、それに感動——するわけでもなく現状況についての話し合い。
まったくここまでさばさばしていると却って清々しい。
「やースンマセン。最後の最後で予想外が起きやした」
「作戦ミスか…現実ってやっぱ厳しーねぇ。ま、実はウチもさっきちょっくら…あ、マルヴィナだ」
ちょーめんどくさい状況になりかけて——と言おうとして、先にマイレナは“子孫”に気付いた。
チェルスの向こうを見る。その名に反応したキルガとセリアスが、ようやく表情を緩めた。
走ってきている。無事だ! それに安堵しかけ——はっと、後ろを追っている兵士の存在に気付く。
「時間かかったなぁ…で、誰あの男? 人質?」
「イヤどう考えてもマルヴィナを狙っているだろっ」チェルスに、セリアスが間髪をいれずツッコんだ。
マルヴィナの様子からして、彼女は後ろに兵士がいることに気付いていない。
マルヴィナ、後ろ——走りながら叫ぼうととびだしたキルガより早く、大きな声が飛んできた。
「マルヴィナっ! 兵士だっ! 危っぶねぇぞぉぉぉぉ!!」
マルヴィナはきょとんとする。後ろを振り返り——理解。兵士、即ちクレスもまた、
状況理解のために固まった。 クレス
あーそれ誤解…と言う前にアギロが兵士に体当たりすべく身体をひねり突進。
が、相手はチェルスの攻撃を二度にわたって躱したうえ、マルヴィナの剣技が
なかなか通用しなかったほど身躱し術に長けた青年、難なく避けた——が、もともといた位置が悪い。
クレスが避けたとなると、アギロの前に立つのはマルヴィナと言うことになる。
互いに慌てたが時すでに遅し、綺麗に吹っ飛ばしてしまったマルヴィナを、
…がしっ、
と、走り込んでいたキルガが咄嗟に抱き止めた。
が、何分突然の話。
状況を再び理解するのに数秒を有し——…。
「ひゃわわぁわっ!!?」クレスが頭を下げ、アギロが手を合わせ、セリアスが石化、
マイレナがくつくつくつくつと笑い始め、チェルスがそんなマイレナに半眼を送っていた頃にマルヴィナは、
ようやくその状況を理解した。
慌ててキルガから離れ、「ごっごごご、ごめふっ!!」と何故そこを噛む、と言われそうな場所を噛み、
マルヴィナは真っ赤な顔で謝った。が、キルガもキルガで、
「あ、いやそうじゃなく! なっ何分急で! えっと、」
傍から見て若干哀れになるほど慌てていた。
(…あれ? マルヴィナ)
ようやく石化が溶けたセリアス、そんなマルヴィナの様子を見てにやりと含み笑いをする。
(ほほ〜う。…春)
若干台詞がオヤジくさかったかもしれない。
「あっ、そ、そうだアギロ、違うんだ。この人、クレスっていうんだけど、味方だから!」
未だ心臓がすごい速さで動いている。どうしたんだ、自分。
ただ驚いただけじゃない。緊張? 何故? 違う、緊張でもない。じゃあ、今のは——。
「んあ? 敵じゃねぇのか? …一体どーいう?」
「平たく言えば、クレスが結界を解いてくれたんだ! とととにかく、
これで準備完了だし、そろそろ——あれ? シェナは?」
ようやく周りを見渡せるほど落ち着いたマルヴィナが、はっとして言った。セリアスの表情が曇った。
「…そのことなんだが」
だが、それだけ言って、マルヴィナに、シェナを何も知らないまま信じる彼女に
言える言葉が見つからなかった。どういえばいいだろう。彼女が、実は敵の一員になっていたことを。
自分たちはそれの過去を認めた。だが、マルヴィナは、どう反応するだろう——そう思って。
「…来なかったものは仕方ない」だが先に、チェルスがその空気を打ち払った。
「そろそろ奴もこの騒ぎに気付いているだろう。ここに出てくる前に攻めに行く必要がある。話はあとだ」
「……」異議を申し立てることはできなかった。キルガもセリアスも不承不承頷き、黙った。
「…じゃあここからは、三手だ。将軍“強力の覇者”の元へ行く者、奴の周りにいる兵士を一掃する者、
ここで待機、監視する者——悪いが将軍の所にはあんたたち三人に言ってもらいたい。
わたしはここに残る必要がある。だからかわりに回復役として、マイ、あんたが———」
「———私に行かせてください」
——待っていた。
その声を、その言葉を、
その眸を。
解かれた結界の外に立っていたのは、強い決意に瞳を閃かせ、
堂々と、しっかりと唇を引き締めた——シェナだった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.315 )
- 日時: 2013/04/02 23:44
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
三人の声が、重なった。
頷く彼女は、熱で溶かされたからこそ打たれて強くなれた鉄そのもの。
その意思が、心が、強くなっていた。
「ごめん。勝手に、ふさぎ込んで。…もう、大丈夫。だって」
戦ってくれるのでしょう? 一緒に——恥ずかしくて言えなかった。
けれど、伝わる、その声なき声。キルガが、セリアスが、強く頷いた。
マルヴィナがシェナの前まで走ってきた。手を握る。笑う。シェナは変わらない彼女を見て、
強く、けれど少しだけ哀しく——笑った。
「…シェナ。ようやく、来てくれた——…」 ・・・・・・・・・
マルヴィナが呟いたその言葉に、シェナは違和感を覚えた。ようやく来てくれた?
だが、それに首を傾げる間はない。シェナは手を握り返し、静かに言った。
「…マルヴィナ。聞いてほしいことがあるの。…あいつの——“強力の覇者”のところで」
マルヴィナの表情は変わらなかった。疑問に目を見開くことも、深刻な様子を訝しむこともせず、ただ頷いた。
「分かった」
「あの子。話すつもりらしいね」
マイレナが呟いた。そして、当然返ってくるだろうチェルスの反応が——なかったことを訝しみ、
視線を転じる…そこにいたチェルスは、驚愕に目を見開いていた。
「…チェス?」
目の前で手を振って、ようやくチェルスはマイレナの声に気付いた。
「うわ」
「…何? どーかした?」
チェルスは答えに窮した。
「……」少し黙って、答える。「…思い出したくないことを思い出した」
「忘れな」マイレナは言った。「終わったことだよ。やな思い出をいつまでも覚えてる必要はない」
「それ、何回目だっけな」チェルスは自嘲気味に笑った。
マルヴィナの声が聞こえる。次に頷いたとき、チェルスの表情は、いつも通りに戻っていた。
「——嫌な風だ」
本拠地の、城の頂上で。
三人目の将軍が、まだ年若き剣士が、呟いていた。虎の如く鋭い眸。鎧と、剣のみしか携えていない。
(…来るのか) ブルーオーシャン・アイ
覚えている。同じ剣士。闇髪に、蒼海の眸を閃かせ、
互いに数え切れぬほどの傷を負いながら剣を交えた一人の女傑。
待っていた。再び戦う日を。着かなかった決着を、着けるために。
そう、戦う。そして、勝つ。自分のために。そして、己が守るべき主のために。
「…妙な予感がしますね」
同じころ、将軍“毒牙の妖術師”ゲルニックが呟いた。
「いつまで“賢人猊下”を追っているのやら——そろそろ復活したはずでしょう」
使えぬ猫たちめ——捕らえるべき者、獲物と言う意味で、天使たちや二人の伝説を『鼠』、
それを狩る者として、帝国の兵士を『猫』と呼ぶゲルニックは、嘆息しながら毒づいた。
この男の称号はある意味ここからきているのかもしれない。
いつまで待たせる気なのか。苛立たしげに考えていると、猫が一匹、戻ってきた。
「しょ、将軍! ごほ、ご報告、申しあげます!」
その言葉に、既に不機嫌さを出しながら、妖術師は耳を傾ける。
「か、カデスの牢獄にて、反乱がおこった模様——結界は解かれ、“賢人猊下”も——だ、脱走——」
言葉がだんだんと、小さくなってゆく。将軍と呼ばれる男の、痛いほどの殺気に圧倒されて。
「…やってくれましたね。“天性の剣姫”…!!」
やはり、殺しておくべきだった。まさかここまでやるとは。
めりめりと、触れた杖が音を立てる。
「…仕方ありませんね」
口調からはとても想像できぬほど凶悪な表情と声で、妖術師は言った。
「次にあいまみえたときは——このわたくしが、直々にその息の根を止めてみせるとしましょうか——!!」
その指先から、杖が音を立てて、二つに砕け折れた——…。
「——とりあえず、作戦立て直しだ」 メダパニーマ
チェルスが周りの状況を確認。少し眉をひそめ混乱呪文改をかけなおして言った。
「アギロ、将軍の周りにいる兵士を一掃するのに行ってほしい。それから、——クレス」
指を鳴らしながら彼を指し、チェルスは半眼でちょっぴり危険に笑って見せた。
「マルヴィナが信用してんだ。——裏切ったら、ひどいぜ?」
クレスは少し嗤った。「承知した」あの口調に戻って、答えた。
「ここの兵士を監視、及び待機するのはわたしとマイレナ」
マイレナがりょうかーい、と気の抜けた声で言った。「復活早々暴れられたし、文句はないよ」
「…そして、親玉を斃すのが」
少々格好つけた物言いで、チェルスはにやりと笑った。
「“聖邪の司者”シェナ、回復及び補助、余裕があれば攻撃に転じよ」
シェナが静かに答える。
「“豪傑の正義”セリアス、終始攻撃に集中」
セリアスが拳を握る。
「“静寂の守手”キルガ、守備重視、状況に応じて攻撃」
キルガが確と頷く。
「そして——“天性の剣姫”マルヴィナ、攻撃及び回復——以上四人」
マルヴィナが強く笑う。
異議は? ——聞かれて、誰も答えない。
チェルスはいつもの、あの余裕の笑みを浮かべる——
「——作戦…開始っ!!」
チェルスの号令のもと、八人の戦士は走りだした。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.316 )
- 日時: 2013/04/03 21:58
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
5.
レンジャー
「——ふぅ。やっぱ然闘士の方が安心するかな」
『職』が戻り、武具を纏いながら、マルヴィナはあの変態魔法戦士が聞いたら
即刻突っ伏して嘆きそうな言葉をさらりと言った。
「…奴は、頭は悪いけれど、力は半端なモノじゃないわ。…気を付けて」
「分かった」
頷く。集中する。
何でそんなことを知っているんだ? …そう、マルヴィナから聞かれるだろうと想像していたシェナは、
何の答えも返ってこないことをもう一度、妙に思った。もしかして、彼女は知っているのか?
自分の——シェナの、本性を。
「なーチェス。あのクレスってやつ、人間だよね」
マイレナが傷ついた人々に一人ずつ癒しの呪文を唱えながら言った。
「あぁ。…間違いないな。帝国、まだあの実験続けてんだ」
「人体実験——」呟く。「人間を魔物に変えるってやつだよね? …あーやだやだ。そんなに魔物が好きか」
「…そういう問題じゃないような」
チェルスが呆れて呟いたとき、彼女たちがここに残った最大の理由になる者たちが、ようやく来た。
『チェス、マイ! やっとわかったぞ!』
『…良いとも悪いとも言える情報よ。心して聞いて』
マラミアと、アイリスである。おっしゃようやく来たかと、チェルスは手をひらひらさせた。
「ちょ、ウチになんかかける言葉とかないの?」
マイレナは、復活後初めて会う二人に身を乗り出して尋ねるが、
『アンタは復活しようがしまいが同じだろ』
ちょいとそれどういう意味っすかすごくすごーく馬鹿にされた気がするんスけど
どーゆー意味ですかーーというマイレナの早口抗議は対応するのが面倒なので無視。
癒しを施されていた者たちが、いきなり互い以外のものに話しかけているような二人を怪訝そうに見たが、
解説するわけにもいかずまたその気もない二人は無視した。
「で? いいとも悪いともいえないってのは?」チェルスが促し、アイリスが彼女にしては珍しく言いよどんだ。
それを見て、相当妙な話らしいと判断したチェルスは、幾分か姿勢を正した。
膨れるマイレナと、頬をかくマラミアの前で。アイリスは、言った。
『帝国の周りに張られた、結界についてよ』
ばん、と。
扉を開け、四人は突入した。
早くも剣に手をかけ集中するマルヴィナ、警戒心を研ぎ澄まし続けるキルガ、
何が来ても戦闘に入れる体勢のセリアス、祈るように拳を胸に当てるシェナ。
「ネズミどもが」
複数の兵士と共に、“強力の覇者”はいた。何ともご挨拶である。
「ネズミじゃない。わたしらは、——天使だ」
堂々と、悠然と。松明に刃を白く煌かせたまま、マルヴィナは早々にとどめの一言を言い放った。
「天使…だとぉ!?」
いきなり目つきが変わった。この男が探し求めていた存在。この反応は当然だった。
「そして、わたしの名はマルヴィナ。“天性の剣姫”マルヴィナだ!」
堂々と、悠然と。叫んだその名を聞いた兵士たちがたじろいだ。
この娘が…! あの、脅威の…? じゃあまさか、その周りの者は。どよめきの起こる中、
セリアスの背に隠れ気味だったシェナがゆっくりと、恐れるような足取りで進み出た。
ゴレオンの忌々しげな表情が、更なる驚愕に変化した。
咄嗟に二の句の告げられぬ将軍の前で、シェナは口を開く。
「…久しぶりね。“強力の覇者”戦士ゴレオン」
「なっ…んだ、とっ…!? さ、さ…さっ……」
驚いて、キルガとセリアスがシェナを見た。マルヴィナも、視線を転じる。
「…ずっと隠していてごめんなさい。でも、これで本当に全部よ」
シェナは心なしか震える声で、言った。
「私は三百年前、里の民の無事を条件に帝国に手を貸した者。三将軍の司令塔——
“才気煥発”シェラスティーナ・ヴィナウ」
冷たい空気が、あたりを支配した。
「条件などいまさら言ったって、言い訳としか捉えられないことは分かっている。
だから、これはあくまで独り言で、ただの弁解——私は帝国が嫌い。強く憎んでいる。だから、歯向かう」
強がるように彼女は言った。けれど、隠せない。腕が、足が、ひどく震えている。
あぁ、言ってしまった。…どうして今、こんなことを言ったの?
言うのは、戦いが終わった後でもよかったじゃないか。どうして、戦う前に、こんなことを——…。
「…ごめん。みんな——」
呟いたとき、肩を叩かれた。びくりとして、勢いよく振り返る。マルヴィナだった。
「…関係ない話だよ。過ぎたものなんて」
まったくの予想外の言葉に、シェナは目を見開いた。
それは、認めた言葉。キルガと、セリアスと同じ答え。
しかも彼女は、悩むこともなく、さらりとそう言った。
彼らは過去で判断しない。自分たちが共にあった時間を信じて。
——本当に、今更だった。
彼らは仲間だ。何もかもを認めたうえで——自分を、『シェナ』として見てくれる。
自分は今まで、そんなことに気付かなかった。
「今は戦う。それだけ——だろ? ・・・・・ ・・・
“聖邪の司者”、シェナ」
マルヴィナに続いて、セリアスが声をかける。
「そうそう。今やることだけに、集中すればいい」
キルガもまた。
「いつもの通り——任せていいな? シェナ」
励ましじゃない。確認じゃない。これは、『言葉』。
当たり前の、ごく普通の会話と同じ重みの、文章。傍から見れば、綺麗事だと思われるかもしれない。
けれど、そう思われても構わない。
シェナはゆっくりと、視線を前に戻した。そして、三人の『言葉』の、答えを出す——
頷いた。しっかりと、はっきりと。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.317 )
- 日時: 2013/04/03 22:13
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
「なかなかの戯言だった」
いきなりゴレオンのだみ声が邪魔をした。
…こちらから来たのだから文句は言えないのだが、ともかく四人は再び構えなおした。兵士が動く。
だが、ゴレオンがひと睨みすると、慌てたように引き下がった。
「第一貴様ら、どうやって結界を解いた? まさか、裏切り者でもおったのか」
マルヴィナは少々考え——クレスの存在を隠すべきかと思ったが、そういえば彼はあとから来る。
隠しても無駄だと考え直し、答えた。
「解いたのはわたしじゃないが、解こうとしたのはわたしだ。…見てみな」
言うなりマルヴィナは、再びガナンの紋章を取り出した。
「助かったよ。これを奪われなかったのは幸い」
「貴様いつそれを!?」 ・・
遮られた。最後まで人の話聞けよと呆れかけたマルヴィナは、ふと疑問の言葉をなぞる。いつ?
何故、ではない、いつ、と聞かれた——その意味は——…。
「それは俺のものではないか!」
「…え? 何これ、あんたのだったの!?」
「えーとマルヴィナ? 自分で出しておきながら問い返すって…」
「イヤこれ貰い物」
「貰った、だと…?」再び、ゴレオン。が、考えることは早々に諦めたらしい。
まぁよい、下らん反乱を捻り潰してから調べてやると言い、兵士に攻撃を命じる。
がちゃり、と鎧や金属音を響かせながら。ある者は緊張しながら、ある者は恐々と。ある者は挑発的に笑い。
間合いを詰め、一気に飛びかかってきた無謀者を見て、マルヴィナは音も立てず剣を引き抜き、
そのまま斬って伏せた。——たった、一撃。
「…悪いが」
その現実に、部屋の中心に鎮座する者と、扉の前に立つもの四人以外の全てが、驚愕に表情を変化させる。
「…あんたらを相手にするために来たんじゃない」
この牢の支配者が大将なら、それを相手にする彼女は即ち、まるで王者の風格。
実力と共に備わった威厳で周りを怯ませる、絶対的な存在だ。
誰もが、彼女の称号の意味を改めて理解したような気がした——
「う———っス!! じゃぁぁぁますんぜぇぇぇぇぇっ!!」
が、それとほぼ同時に、ようやくアギロが突入してきた。
一体何やっていたんだろう、と思ったが今は関係のない話だと、早々に考えるのを打ち切った。
突然現れた囚人のまとめ役の大男に兵士は少なからず驚く。
加えて、その後ろからやってきた赤鎧のクレスからの不意打ち。さらに面食らう。
「き、貴様っ」叫んだ声には聞き覚えがある。昨日クレスに刃を向けていた者だ。
クレスは表情を変えず一瞥、別の兵士の攻撃をかわし、アギロがその兵士の腹に一撃を入れる。
「貴様が裏切り者か」
先程の一件もあり、少々固まっていたままだったゴレオンがゆっくりと立ち上がる。
じゃら、と危険な音をたてて、鉄球を持ち上げて。 ・・・・・・・・・
「——成程。確かに貴様は称号に値する風格の持ち主だ——だが、それだけで何になる!?
揃いも揃って舐めたもんだ——そんなに望むなら、この俺様の力、思い知るが良い! ——はァァッ!!」
自信ありげに叫んだかと思いきや、いきなりその鉄球を振り回してきた。
「っ!」
鉄球は四人だけでなく、近くにいた兵士たちにも襲い掛かった。
集中していた四人でさえ辛うじてかわしたのだから、別の場所に気をとられていた兵士が
咄嗟に避けられるはずもない。その兜を吹っ飛ばし、数人は昏倒した。
「なっ」マルヴィナははっとそちらを見た。幸い、皆気絶しただけであったが、
一歩間違えればそのまま死んでしまっていたかもしれない。
「味方もろとも攻撃するなんて…っ」
マルヴィナがゴレオンを睨み、半歩下がった。
「「スクルト!」」キルガとシェナがほぼ同時に守備の呪文を唱える。と、ゴレオンが頭上で鉄球を振り回した。
「どんだけ力あんだよっ」セリアスが驚愕の声を上げたとき、
回っていた鉄球が自分たちに襲い掛かってくる。速い。マルヴィナはシェナを庇うようにかわした。
セリアスが大きく二歩分下がってかわすと、足が地面に着く間もなしにタッと前へ飛び込んだ。
振り回しきった、その一瞬の隙を狙って——
「!?」
無かった。
その隙は、無かった。
「うらァっ」
振り回しきった後、休む間もなく、逆方向に再び振り回す。隙を突いたつもりが、
逆に突かれてしまったセリアスは、避ける体勢をつくろうとしたところで重い一撃を喰らった。
「ぐ、がっ!!」
「セリアス!」
兜が割れ、破片を散らばらせる。吹っ飛ばされたセリアスは三人の目の前に倒れ込んだ。
咄嗟に避けようとしただけでも幸いだったかもしれない。まともに喰らっていたら、
それこそ首の骨が折れるなどの重傷だったかもしれない。 ベホイム
そんなことを頭の端で考えながらマルヴィナは、呻くセリアスに再生呪文を送るべく集中した——
「危ないッ!!」
「——え」
その後、マルヴィナは叫んだ——気がする。
気付いた時に見えたのは、すぐ目の前まで迫った鉄球の陰。
——と、咄嗟に飛び込んだ、キルガの背だった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.318 )
- 日時: 2013/04/03 22:24
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
骨が折れるような、いやな音がした。
呆然と目を見開いたまま、マルヴィナは横へ飛ばされ、壁に背を打ち付けるキルガを見ていた。
「——っキルガ!!」
マルヴィナが叫び、シェナが顔をはっきりとしかめた。
…今の攻撃の受け方は、まずかったかもしれない。間違いなく鎧は今の一撃で使い物にならなくなった。
それほどまでに強い、強すぎる攻撃を、もろに喰らった——…。
「マルヴィナ、任せて。…奴の攻撃を引き付けてちょうだい」
「……」実質的に、自分のせいでキルガに傷を負わせてしまった。
そう思ってしまっているマルヴィナは、すぐに返事をすることができなかった。
シェナはその心情を想像したが、かける言葉を見つけ出すほどの余裕はない。だから敢えて、一括した。
「マルヴィナ!」
「え、あ…わ、分かった」
マルヴィナは慌てて頷くと、シェナから離れて聞き取れぬ叫び声をあげ、ゴレオンの注意を引き付けた。
…いつもそうだ。いつも、守ってもらっている。
例えそれが役割だとしても、キルガだって超人じゃない。何でも無事に受け止められるわけじゃない。
…知っていた。自分は、身を守ることは、うまくできないのだ。
防御は大抵、剣で攻撃を受け流していたから。もちろん素人の攻撃をかわすことくらいならできる、
けれど相手は将軍。素人じゃない。…攻撃が、かわせない。だから、いつもわたしは。
(…ごめん)
マルヴィナはいつの間にかその剣を強く握りしめて、思った。
(ごめん、キルガ。みんな——)
その一方で、シェナは拳を握り、集中する。
(川を、風を、波を起こせ。癒しを光と変えて、降り注げ。)「ベホマラー」
セリアスの頬の傷が塞がった。ひとつ呻くと、頭を振って兜の破片を落とし、はっと顔を上げた。
「…っぶねぇ。意識飛びかけてた——さんきゅ、シェ——」
ナ、と、小さく呟いた。そうせざるを得なかった。シェナと共に視界に入った、キルガを見て。
彼は動かなかった。傷が癒えていなかった。その、意味するところは——
「——回復魔法じゃ、間に合わない」
シェナが、ゆっくりと呟いた。少し声が、震えていた。
「魂が——消えかけている」
意味するところ——死の、間際。
「…な…き、キルガ! キルガっ!!」マルヴィナが叫ぶ。自分の今の役割を、半ば忘れて。
「おい、キルガっ—————…ッ!!」セリアスは顔をしかめて、飛んできた鉄球を躱した。
悪態をつく。回復魔法じゃ間に合わない。じゃあ、どうすればいいんだよ。
…こんな時、何もできない自分が恨めしい。
「…方法はあるわ。ただし…非情に高度。——マルヴィナ」
シェナは冷静さを欠いた彼女に、静かに言った。
「…覚えているわね? こんな時、使う魔法」 ザ オ ラ ル
マルヴィナはふっと、シェナを見た。少し視線を落とし——「蘇生呪文」呟いた。
「その通りよ。——手伝って」
ザ オ ラ ル
蘇生呪文——消えかけた魂を呼び戻す魔法。
完全に身体から魂が消える前に行わねばならぬうえ、非情に高度な魔法であり、
更に失敗することがある。 レンジャー
だからこそ、賢者であるシェナと、然闘士であるマルヴィナ、二人係で唱えるのだ。
シェナですら扱うのが厳しい呪文を、自分に扱えるのか。けれど、迷っている時間はなかった。
…でも、また、攻撃が飛んできたら。次は——
——次は、誰を犠牲にしてしまうの?
「————————ぉぉぉおおおお!!?」
誰かの叫び。次いで別の絶叫。はっとして、三人はそちらを見た。
すぐに分かる。ゴレオンの上に重なって倒れてもがいている兵士。アギロが兵士を投げ飛ばしたのだ。
クレスが走る。鉄球を奪い取ろうと力を込める。「今のうちに!」叫ぶ。
顔を上げた。彼らがくれた時間と心の余裕、そして傷ついた仲間を、無視することはできない。
マルヴィナはようやく頷くことができた。シェナと共にひざまずく、両手を組んで祈りをささげる。
——仲間のために、そして、自分のために。これで失態を償えるとは思っていない、でも。それでも。
マルヴィナは祈る。
——信じてくれた、認めてくれた。信じるけれど、信じられないくらいの偶然の中、出会えた仲間のために。
シェナは祈る。
——こんな時できるのは、限られている。けれど、その限られた何かを、自分にしかできないそれを、する。
セリアスは走る。
キルガを小さな金色の粒子が覆う。淡く光るそれが包み込み、煌めく。
多くは願わないから。
ただ今だけは、この祈りを、聞き届けてほしかった。
「—————…?」
長い呪文の旋律が完成して。
その中で、キルガは茫然としたまま目を開け——はっと顔を上げて痛みに顔をしかめた。
「キルガっ!」今度はその喜びに、彼の名を呼ぶ。 ベ ホ イ ム
「あ、ちょっと——」シェナが抑え、今度は先ほどより集中せずに再生呪文を唱えた。
しっかり回復した未だ困惑顔のキルガを見て安心したように立ち上がり、
マルヴィナに視線を転じて「さ、これで大丈夫。あとは抱きつくなりなんなりしなさい」と
懐かしいにやにや笑いをして見せる。
「——えッ!!? い、いや、そそそそんなことはし、しないってもう!」
「——ん?」想像した反応と全く違い、しかも語尾の“もう”の言葉にシェナは首を傾げた。
「え、何、今の——」
「おい、今戦闘中ってこと忘れてないか?」どんどん話が脱線していく二人に—“こんな時”という状況で
のんびりしてしまうことにどこか懐かしさを感じながらも—、セリアスはとりあえず歯止めをきかせた。
「おっとごめん」シェナは笑い、マルヴィナの様子をもう一度見て——
「ほら、さっさと立って」やはりまだ何が起きたのかわかっていない様子のキルガを立たせて集中しなおした。
叶ったとびきりの奇跡を、心の底から嬉しく思いながら。
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