二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.214 )
日時: 2013/02/03 22:30
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

        【 断章Ⅱ 】




 ——空へ昇る天の箱舟。
 静かな空気の中に張りつめた、緊迫感。

 マルヴィナは——いきなり現れた、懐かしい師匠に、…絶句、していた。
 懐かしさに喜びはしない。会いたかったと涙しない。
ただ、硬直し、時を止めていた。

「…しばらく見ないうちに、変わったようだな。どこか、大人びた」
「…イザヤールさまは、お変わりなく」
 久しぶりなのに、久しぶりに会えた大切な師匠なのに。
…何故か、人見知りを覚える。話す言葉を、いちいち選んでしまう。
何故。彼に物事を学んできた年月は、会えなくなってからの年月よりはるかに長いはずなのに。
——違う。時の問題じゃない。
 嬉しくないわけじゃない。会いたくなかったわけじゃない。
むしろ、望んでいたのに。じゃあ、何で——…。
「…世界に散らばった果実を集めていたのはお前だったな、マルヴィナ」
 マルヴィナは驚いて、肯定した。
 …自分に翼と光輪がないことについては、何も言わないのか。
それは気づかってのことなのか、それとも——
「それなら、果実は私が天使界に届けよう。渡してくれないか」
 遂にマルヴィナの肩が、ぎくり、とした。
…普段なら。三年前なら—(あぁ、もうそろそろ三年なのか!)—、躊躇いなく差し出していただろう。
…けれど、今日は。どこかで、彼を警戒していた。

 何故か。何故か、彼が——マルヴィナには、恐ろしく見えたのだ。
                                           コトワリ
 だが——マルヴィナは天使だ。天使であり、彼の弟子なのだ。これだけは忘れない。天使界の理。
 天使は、上位の者に、逆らってはいけない。渡せと言われた時点で——マルヴィナに拒否権はないのだ。


 …マルヴィナは、女神の果実を持つ腕に力を込めた。あんなに重かったはずなのに、
不思議ともうその重みを感じない。腕が痺れたから? …それとも、…………………………。
頭を垂れるというよりは、顔を伏せて、マルヴィナはひざまずき、果実を差し出した。
七つの輝きに、彼は、心なしか表情を緩めたが、その顔を見ていないマルヴィナは気づかない。
「さすがだな。見習いを終えたばかりのお前だったら、想像もつかなかった——」
 果実を受け取るために。腕を、少し上げる——

「——————————これで」






 刹那、マルヴィナの背筋を、凄まじいほどの邪悪な気配が走った。
目をいっぱいに見開き、唇を震わせる。ひゅっと、喉が鳴った。



 “ ——ご苦労だったなイザヤールよ—— ”



 耳元で囁かれたような、雷のように低く、けれどけたたましい声、
厳かなようであって笑っているような口調が怖気を呼び起こす。



 “ ——約束通り、果実を我が帝国へ届けるがよい—— ”



 はっ…と、彼は答えた。その手が果実に触れた——その手前、マルヴィナは咄嗟に手を引いた。
はずみで、果実がどさどさっ、と床に落ち、箱舟の金色と混ざり合って変わりなく輝いた。

 だが、マルヴィナは。

「………………ぅ…嘘っ………ま、さかっ…………………!」
 見る見るうちに蒼白となってゆくマルヴィナの顔色を見て、
彼は、イザヤールは…感情の読み取れない白い目で、そのまま果実に目を落とした。
マルヴィナは、この三百足らず生きてきた中で、かつてないほどに自分が震えていることに気が付いた。
逆らってしまったこと? 違う、それよりも。今流れ込んできた、『帝国』の名は———!!

「ま…まさか、冗談、です、よね…?」
 後退り、固まった表情は、恐怖でかえって唇の端を持ちあがらせている。何言っているんですか、
そんな感じで笑い飛ばす顔を作りたくても、恐怖感が数倍も勝って、こんな表情しかできない。
…マルヴィナのかすかな希望を砕くように、彼は、冷徹に言い放つ——

「私に逆らう気か、マルヴィナ」
 と。


 マルヴィナの表情が歪む、何もできない。下がり続けた足が、遂に三両目への扉にかかった。
それでも、もうどこも動かせなかった。どんなことがあっても、どんな理由があっても、
マルヴィナには、イザヤールに剣を向けることはできなかった。…たとえ、相手に向けられていようとも。


 容赦は、なかった。

 無防備も同然のマルヴィナは、彼の剣の前に、ゆっくりと頽れる。
傷は一つしかなかった、だが、その痛みは全身を駆け巡り、マルヴィナの動きをすべて封じ込めてしまう。
「……………………………………」
 イザヤールは何かを言いかけ——だが、結局口をつぐんだ。
果実が彼の手に移る、マルヴィナはただそれを見ることしかできない、
それでも、それでも、身体の底からあふれる感情、抑えられない思いが喉をとおり、そして———





「うっ…………ああああああああああああああああああッ!!!」








 そして、限りの、悲痛と、苦悶の叫びをあげる——……。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.215 )
日時: 2013/02/03 22:35
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「マルヴィナ!?」
 キルガが、セリアスが反応し、二両目の扉を開ける。絶句する。
そこにいたのはイザヤール、紛れもない自分の仲間の師匠。
だが、その手にしているものは。女神の果実、そして——剣。
「な…んで…っ」
 キルガはどうにか、それだけ言った。すぐにでもマルヴィナのもとに駆け寄りたかったのに、
その前に立ちふさがる天使の様子に圧倒されて、近づけない。
後退はしなかったが、その一方で足がその場から一歩も動かなかった。
 イザヤールは答えなかった。ただ一言、「…さらばだ」呟いただけで。
 車両の、外へつながる扉が、破壊音を響かせて壊れ、風に呑まれる。
流れ込んだ凄まじい風に二人が怯んだ隙に、イザヤールは外へ飛び立ってしまう。
「な…っ…何で…っ、マルヴィナ、マルヴィナしっかりしろっ!! マルヴィナっ…!」
「俺、知らせてくる!」
 サンディは運転中だし、シェナには万が一と言って一両目に残してある。
だが、最早万が一と言っていられる状況ではない。そう言える事態は、二両目で起こってしまったのだから。
キルガが、倒れて苦しげに顔を歪めるマルヴィナの傍らに座り、回復を試みる。
マルヴィナは呻き、うっすらと目を開けた。
「キル、ガ…?」
「マルヴィナ、大丈夫か!?」
 愚問だった。大丈夫なはずがなかった。
だが、その場でかける言葉が、それ以外に思いつかなかったのだ。

 だが、追い打ちをかけるように、あるいは、イザヤールと帝国のつながりを
決定づけるように——それは起こる。シェナを連れてセリアスが戻ってくる、その時——
「な…何だ、あれっ!!?」
 セリアスが叫び、キルガは彼の視線をたどって壊された扉の外を見て、同じように目を見開いた。
マルヴィナに更なる回復を施していたシェナも、次いでそれに倣い——


「———っ! バルボロス……………っ!!」


「な、何だよあれ、竜…!? な、何でこんなところに…っ」
 シェナの絞り出すような声は、セリアスの叫びと風のうなりにかき消される。
竜——黒、否、闇の色の鱗を身に纏った、紅き瞳の堂々たる、あるいは邪悪な——闇竜。
そしてその上に跨る—風の抵抗をまるで感じていないようだ—、嫌らしい笑みを含めた、男がいた。
若くはない、だが、まるで年齢が感じ取れない。
ひだひだした、奇妙な法衣を羽織っている。妖鳥のような顔つきの男だ。

「ほっほっ、首尾はどうですか? イザヤールさん」
 その男が、身体を仰け反らせるようにして、イザヤールに向く。
「私のお目付け役か、ゲルニック将軍。ご苦労なことだな」
「ホホ、めっそうもない。たまたま用事が重なっただけですよ。
…まぁ、我々帝国があなたをまだ完全に信用していないのも、事実ですがね」
「心配せずとも」イザヤールは目を細めた。「果実は手に入れた」
「ほう…では、次はこちらに手を貸していただきましょうか」
 横に並んだイザヤールを確認し、ゲルニックと呼ばれた将軍はくつくつと笑い、視線を前に戻した。
「ドミールの地を目指します。そして、“空の英雄”を亡き者へ。
我が帝国の誇るこの闇竜バルボロスも、溢れんばかりのチカラに満ちておりますよ…!」
 少しお見せしておきましょうか。ゲルニックは言う。そして、イザヤールの顔色を窺った。
相変わらずの、無表情である。ゲルニックは嘆息して、口早に闇竜に指示を出した。

 闇竜の口から、黒い雷が渦巻き、球となって過たず箱舟を狙い撃つ!!





 がしゃぁぁぁぁぁああんっ!! どこかで、聞いたことのある——箱舟が、襲撃を受けた音が、鳴り響く。
「うっ!!」
「きゃあっ」
 軽いマルヴィナとシェナは、その衝撃で跳ね上げられ、強かに床に背を打ち付けた。
そのままバランスを崩した箱舟が傾き、シェナは壁にぶつかった。
だが、マルヴィナは。開いたままの扉の向こう、つまり——外へ、投げ出されていった。


「マルヴィナぁっ!!!」


 キルガが叫び、手を伸ばす、だがもう間に合わない。必死に彼女の名を呼ぶキルガを
セリアスはどうにか止め、シェナはどうしてよいかわからずにただうろたえる。
再び、襲撃。箱舟が遂にその向きを変えた。






 天ではない。いう事を聞かなくなった箱舟は、
そのまま地上へ向けて落ちる、落ちる—————………………。






Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.216 )
日時: 2013/02/03 22:40
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

          はは
          ⅩⅠ 登場人物入れるの忘れた。←






         【 ⅩⅡ 】   登場人物紹介。

 __マルヴィナ__  「…みえているよ。貴女のことは」
   翼無き天使の然闘士。“天性の剣姫”の称号を持つ。
   剣術においては天才的な技術を持つ。
   師であるイザヤールの裏切りから、持ち前の天真爛漫さを次第に失ってゆく。
   だが一方で、少しずつ辛い経験を積み、大人びてゆく。

 __キルガ__     「後悔なんて、誰だってできるだろ」
   翼無き天使の聖騎士。“静寂の守手”の称号を持つ。
   マルヴィナで言う剣のように、天性の槍使いである。
   幼なじみのマルヴィナに好意を持ち、だがその思いに自信が持てないでいる。
   さまざまな人々の教えを一心に受け止め、『聖騎士』として成長してゆく。

 __セリアス__    「…悪いのは、ガナン帝国だ」
   翼無き天使の闘匠。“豪傑の正義”の称号を持つ。
   器用なために、ひときわ重く扱いにくい斧もやすやすと使いこなす。
   仲間思いで、四人の中ではよきムードメーカー的存在。
   箱舟襲撃以来気持ちの乱れ始める仲間を気遣い、これからのことを考える。

 __シェナ__     「大丈夫。…大丈夫」
   自称天使の、世界有数の賢者。“聖邪の司者”の称号を持つ。
   主に弓を使うが、攻撃・回復の呪文ともに優れた才能で援護する。
   ガナン帝国の捕虜であった過去を持ち、ガナンの名を聞くと敏感に反応してしまう節がある。
   次第に落ち着きをなくしていくのは、何か別の大きな秘密を抱えていることを意識し始めたからだろうか。


 __サンディ__
   『謎の乙女』を自称する、天の箱舟運転士をバイトとする妖精。
   やや強引な性格。人間には姿が見えない。
   再び壊れた箱舟を修理する一方で、今回ばかりは相棒にかける言葉が見つからず、
   あえて距離をとってらしくもなく静かに見守ってゆく。

 __ティル__     「ボクもね、余所者なんだ」
   ナザム村、数少ない子供。
   サンマロウから、両親を亡くしたことで親戚の村長の家に引き取られる。
   余所者を嫌う村長に抗議したい一方で、自分の思いが伝わらないことに孤独感を募らせる。

 __村長__      「わかったら、とっとと出て行ってもらおうか」
   ナザム村長。代々、継がれている。
   余所者に対し剣呑な態度をとり、また甥のティルにもいささか冷たく当たる。
   彼が余所者を嫌うのは、何か他に理由がありそうなのだが…

 __スガー__     「あんたなら、大丈夫さ」
   ナザム村で鍛冶と武器屋を営む巨大な男。
   武器に対する目利きが優れている。
   マルヴィナに、彼女の持つ朽ちかけた剣の本当の正体を明かす——

 __ラテーナ__    「同じだからよ。貴女の顔が…あの時の彼とね」
   黒珈琲の髪、青紫の天鵞絨に身を包む、年若き娘の霊。
   ナザムの出身。
   世界各地を回り、誰かを探している。

 __エルギオス__
   イザヤールの師匠、すなわちマルヴィナの大師匠に当たる。
   マルヴィナが天使界に送られる前に人間界へ赴き、それきり帰らなかったという。
   かつて『大いなる天使』と呼ばれていたもの。

 __ルィシア__    「悪いわね。——断るわ!!」
   ガナン帝国騎士、“黒羽の妖剣”。
   マルヴィナ同様、剣の扱いに優れた娘。
   その理由でマルヴィナを追い、またその命を狙う。

 __ハイリー__    「…ごめん」
   ベクセリアで執事の代理を、サンマロウでホテルの従業員を務めた女性。
   隙のない身のこなしがかつて四人に違和感を覚えさせた。
   生き別れた弟を探していたと言うが…

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.217 )
日時: 2013/02/06 22:08
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

       ——x中編Ⅱx——


    【 ⅩⅡ 】   孤独



     1.



 何もない。
 空になったミルクのコップのように、
 空気をなくした風船のように、
 今、わたしの中に、感情というものは、何もない。

 ——落ちて、落ちて…終わったら、わたしは死ぬのだろうか。冗談じゃない。
 こんなことで…こんな時に、こんな形で死んじまう天使なんか。





 ——————————————————だんっ!!!!













 その村は、人の気がないように見えた。だが、それは間違いである。
皆が皆、ある一点に集まっているだけなのである。
 ざわざわと、躊躇いの会話を交わし、きょときょとと、困惑の視線を彷徨わせる。
そして、結局は。目の前の、橋の上で血を流し倒れている、
少女から娘へと変わる年ごろを終えたくらいの歳の、闇髪の娘を見てしまう。
中にはその凝視しがたい血の量に、口元を押さえ嘔吐する者や、
気絶したふりをして目当ての男の腕を狙う若い娘までいた。

 ——ティルは、なんとなく住民たちの集まる個所が気になって、野次馬たちに近づいた。
背の高い大人と、太り気味の大人の腰と腰の隙間から、彼らの視線の先をたどった。
 誰か、倒れている! しかも、血がかなり出ている。
今まで見たことがないほど大量のそれに、ティルはぞっとした。だが、人々を押しのけ、
ざわつく住民たちの前で、ティルは娘を恐る恐る、揺すった。動かない。けれど、息はある。生きてる!
「みんな、この人、すっごい怪我してるけど、生きてるよ! 急いで手当しなくちゃ!」
 だが、少年の呼びかけに、答える者はいない。
彼らは、助けようとするティルに冷たいのではない。助けられる娘に、冷たいのだ。
「…何でみんな見てるだけなのっ!? いいよ、だったらぼくが助けるよッ!!」
 ティルはそう叫ぶと、ぐったりしたままやはり動かない娘に、再び声をかける…。





 …しゃり…じゃり。
 嫌な音が、背後でした。
 振り返る。何もない。そう思ったら、今度は正面からその音がした。
 視線を戻す。何もない。右から。左から。何もない、何もない。上から? 何もない。下から?

「っ!!」

 彼女の足元を、黒と紫と赤と、それらを汚く混ぜたような色の渦が音を立てていた。ぐしゃり、ぐにょり。
「ひ……………っ!!」
 小さく、悲鳴を上げる。逃げようとする、が、足を何かにつかまれる。渦から、何かが生まれ出でている!
「だっ…」
 誰か、と叫ぼうとした。だが、誰もいない。誰ひとりいない。必死に抵抗する、
だが足を封じられた身体は身動きをうまくとらせない。額に嫌な汗が流れる、動けない、動けない…!
 と、誰か、人の形となって誰かが彼女の前に現れる。
誰かが、いつしか倒れこんだ彼女を見下ろしている。それは、キルガの形をしていた。
その後ろに、また影が。今度はセリアスだ。だが、その形も、動きはせず、ただ彼女を見下ろすばかり。
シェナの形もいた。同様だ。皆、動けない彼女を見て、それでも何もせずに見下ろすだけ。
と、その足が、反対側を向いた。皆、踵を返し、立ち去ってゆく。
渦に引きずり込まれんばかりの彼女を置いて。
「みんな? …ちょっと、ねぇ、どうしたのッ!?」
 彼女の叫びは届かない、代わりに、機械で変えたような、
聞いていて心地よいとは決して言えない声が、あたりに響く。
 まだ信じるのか、奴らを信じるのか。一番信頼していたものに裏切られたばかりだというに!
 彼女は絶句した。身体に込めていた力が抜けてゆく。
 信じて良いのか。信じるのか。奴らは自分をどう思っている? 利用するだけ利用して、
捨てる時は捨てるやもしれぬ、そんな奴らを信じて良いのか…!
 やめろ、彼女は言った。やめて、そんなこと言うな! 声は笑う、一向に止めない。
考えろ…考えろ! お前は本当に、奴らを信じ切れるのか…!


「やめろぉぉぉっ!!」


 最後まで叫ぶことはできただろうか。
 渦に呑まれる、呑まれて、そして——あたりが暗くなって——…


 光?
 遠くに、光が見える…。
 …その光を信じていいの?


 …疑っちゃだめだ。彼女は、思った。ここで疑ったら、さっきの声に惑わされているのと同じ。
 絶対に裏切らない。仲間たちは。キルガや、セリアスや、シェナは。サンディは、絶対に裏切らない。

 …じゃあ、何で、師匠は。

 違う。違う——! 何が違う? そうじゃない、そうじゃなくて…!
 光に手を伸ばす、伸ばして、その先に見えたものは…






「あっ、お姉ちゃん、気が付いたんだね? よかったぁ!」

 彼女が、マルヴィナが見たもの。
 それは、見覚えのない古めかしい民家と、十も満たないような歳の少年の、屈託のない笑顔だった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.218 )
日時: 2013/02/06 22:14
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 マルヴィナは茫然とした表情のまま、しばらく目を開けたり閉じたりする。
ピントが合ってきた——そして、先ほどの声の主の少年を見る。
「…大丈夫?」
 マルヴィナはしばらくそのままその少年を見て——そしていきなり状況を若干理解して勢いよく起き上がり、
「っ」
 頭の痛みによってそのままぱたんと倒れこむ。
「あっ、だめだよ、まだ起きちゃ! けが、治ってないでしょ」
 言われて、改めて気づく。頭に、いかにももうすぐ外れそうな包帯が緩めに巻いてあった。
きっと、慣れない人が手当てしてくれたのだろう。マルヴィナは少しだけ苦笑した。
もしかして…と、マルヴィナは思ったことを尋ねてみる。
「これは…君が?」
「あ、うん。…やっぱり、下手かな?」
 聞かれて、まさか子供とはいえ親切に手当てしてくれた人に対して悪い意味での正直なことを
言うわけにもいかず——と思っていると、いきなり包帯がずるりと滑り、二人の間にポサリと落ちた。
 二人は呆けた表情でそれを見、そして顔を見合わせ…ぷっと吹き出す。
が、少年の表情が、マルヴィナの晒された頭部を見て曇る。そんなに思わしくないのだろうか、と
マルヴィナは自分の背嚢を探し、鏡を取り出して(シェナにせめて女の子は云々と言われて持っているのだが、
せいぜいが太陽に反射させて火を起こすのを手伝うのに利用される程度である)傷を確認し…顔をしかめた。
 晒されていたその頭部に見えたのは——右の眉の上から、
左の髪の生え際までざっくりと深く刻まれた、生々しい傷である。
 これはさすがに、治らないかもしれない…マルヴィナは、大袈裟でもなくそう思った。
まず、傷の具合からして、負ってから二日ほどは経過しているだろう。にも関わらず、塞ぎ切っていない。
それほどまでに傷は深いのだ。しかも、炎症を起こしかけている。まずいな、とマルヴィナはそっと思った。
よく考えれば熱っぽさもある。相当ひどい打ち付け方をしたか、妙なところに当たったか、
天使の力が薄れてきているのか…いや、最後はないだろう。
なんだかんだ言って、こんな傷を負いながらも生きているのだから。
「…大丈夫?」
 同じことを言って、少年が再び覗き込む。マルヴィナは慌てて頷くと、
簡単に手当てし、包帯を巻きなおし始める。
「えっとね…ぼくはティルっていうの。で、ここはナザム村だよ」
 ここは何処かと、その途中に聞くと、少年ティルは親切に教えてくれた。
ナザム村——確かエルシオン学院の抜き打ちテストで、マルヴィナが埋められなかったところだ。
確か地図の南西にあり、さらに西に行くと、崖の上に里があったはずだ。
ドから始まったのは覚えているのだが、頭がぼうっとして考えがまとまらない。
 次いでマルヴィナは、ほかに三人、旅人がいないかと、ティルに尋ねた。
一人だけいるよと言われ一瞬ほっとした表情をしたが、その一人とは
数日前から滞在しているという全くの別人だった。となると、皆とは完全にはぐれたことになる。
…別々になった時、セントシュタイン城のリッカの宿に集まろう。いつか決めた約束を、思い出す。
 マルヴィナも名乗り、挨拶を交わす。そして、感謝の言葉をティルに向けた。
素直な気性らしく、少年特有の純粋な笑顔を見せる。
「えへへ、どういたしまして。それにしても、マルヴィナさんって、きれいだね」
「——へっ?」
 面と向かって言われ—やはりまだ自覚しきれていないが—マルヴィナは、頓狂な声をあげる。
もちろん先に述べたように、ティルは十あるかどうかに見える少年。
深読みする言葉ではないのだが…それでもマルヴィナは、その言葉を曖昧ながらにも受け止めた。
 そういえば。ティルの歳のことを考えたときに思った。ここまで運んでくれたのは誰なのだろう。
まさかこの少年一人ではないだろう。マルヴィナがいくら軽いといえども、
少年の力で運ぶことは天使でない限り不可能である。


 がちゃ、ぎぃぃ…と木のきしむ音がした。扉が開いている。その先は外らしい。
扉は一つ。一部屋しかない家のようだ。古めかしいとは思っていたが、予想以上に昔からある家らしい。
入ってきたのは、いかつい顔立ちに、妙に多いしわと目立ち始めた白髪、口ひげを蓄えた、
四、五十代の初老の男。深緑のシャツというには長い服の上に、黄土色の使い古したベストを纏っている。
ティルの父君だろうか、とマルヴィナは幾分か姿勢を正した。マルヴィナが口を開くより早く、
その男は、マルヴィナを無遠慮に睨んでから「…ようやく起きたか」と低く鋭く言った。
その声の中に含まれた敵意、あるいは、歓迎されない何かに、
マルヴィナは少しだけ困惑したように眉を動かした。
「あ、はい、おじさん」
「そう呼ぶなと何度言ったらわかる」
 ティルの言葉への反応にも、同じような響きがあった。
親子じゃない…? マルヴィナはそのまま、会話を黙って聞き続ける。
「…ごめんなさい、村長さん」
 村長。…村長か。静かに、納得する。…長がこれなら、住民はどうだろう。
マルヴィナはなんとなく想像がついて、だがそれでも、家に上げてくれたことへの感謝は述べる。
 だが、村長はマルヴィナの言葉を無視し、あくまで厳しく、冷たく言う——それは命令口調。
「今夜、寄合を開く。紅石の刻(この世界の約午後7時)、教会に来い。
それまでならこの村に留まることを許してやる」
 さすがにここまで傲慢に言われると、マルヴィナの性格上言い返したくなる。だが、今は怪我の身、
自由に動けない。下手に反論して新天地でもあるこの大地に放り出されては、元も子もない。
マルヴィナひとりに向けられた言葉でもある。…自分が抑えれば、それで良い。…良いのだ。
「分かりました」マルヴィナは返答する。「けれど…仲間がいます。彼らと連絡を取ることは」
「出したのは滞在許可のみだ。他の者を連れてくることなどなおさら許さん」
「…………………」
 なんとなく想像していた答えに、マルヴィナは口をつぐんだ。
 ティルは居心地が悪そうに、先ほどから村長とマルヴィナを上目づかいに交互に見やり…
そして結局は、どこともつかぬ場所に目を落とした。


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