二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.274 )
- 日時: 2013/03/17 01:03
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
篭手を腕に固定されたまま扱う、今までにない剣の持ち方だった。
ナザムの村にはドラゴンキラーと呼ばれる剣が売られていたが—竜殺しの名を着けていたのは
光竜を崇める思いよりも闇竜を厭う思いの方が強かったからだろうか—、
その剣の種類はジャマダハルと呼ばれる剣の中でも群を抜いて特殊なものであった。
このパタ—をモデルに鍛錬用に改造した剣—は、ジャマダハルの亜種であり、共に使いにくいのが特徴だ。
マルヴィナはどちらかというと斬撃のほうが得意だ。天使界では鍛錬は
レイピアもしくはフルーレを使っていたためほぼ刺突を学んできたが、人間界に落ちてからは
主に両刃の剣を扱い、斬撃のほうが自分にはあっていると思ったのだった。
一方でチェルスは、斬撃・刺突両方を見事に使いこなした。腕を固定された状態で、ここまで自由に動く。
剣を交わし、互いに笑う、だが目は真剣そのもの。
全身を使って攻撃をかわす、狙い時を見計らって動く。攻防一体。
ついにマルヴィナが、刺突体勢になった。斬撃だけでは勝てない。
この剣を使いこなせ、剣と一体になれ。
武器の力を、見極めよ!
「…こんなもんかね」
そして、半時余り過ぎ——
地面に寝そべるマルヴィナに、チェルスはカラカラ笑いながら言った。
「…負けか」
「いや、中断だ。さすがのあんたでも最初でこれだけ長時間使うのはまずい」
「…続けていたら確実に負けだった…いやそもそも、チェルス、本気出していないだろ」
「あらー。ばれてやんの」ちっとも悪びれず、軽く舌を出して素直に認めるチェルス。
「でもンなこと言ったらマルヴィナこそ。まだ本気じゃあなかったろ?」
「…わたしはいつだって本気でやる」
「冗談じゃねぇ。初めてで本気なんざ出したら今頃あんたの腕はガチガチだ」
だよね、と、今度はそれを認めた。確かに、本気でやったつもりでいた。
そう、あくまで、つもり。恐らく、本気は出さなかったのではない、出せなかったのだ。
扱いづらい剣、というものに、初めて会った。
「まっ、あんまこれは気にすんな。今時こんな剣、殆どないから——まーやっぱ
バスタードソードとかレイピアとか、そのあたりの鍛錬が一番だろうからね」
…じゃあなんでこの剣を選んだ、…とは言わなかった。
多分答えは、そっちのほうが面白そうだったから、だろう。
「それにしても、マルヴィナは斬撃派か」
「刺突はキルガに任せる。…それだけはかなわない」マルヴィナは素直に言った。
「それに、もう一本の剣は、両刃だからさ」
「もう一本…? 二刀流ってやつか? …両刃で?」
「や、…今は使うことができないんだ。錆びていて、さ。…使いこなせるかどうかも分からない、
でも…できたら、本当に使えるようになったときに、剣に相応しい腕を持っていたらいいなって思ってさ」
「自分に剣を合わせるんじゃなくて、剣に自分を合わせるってか? ——…ちょっとまて。それ——」
何だそりゃ、と言おうとして——引っ掛かりを覚える。…まさか、いやまさか…ちょっと待て。
「オイそれ、まさかとは思うが…名前、『銀河の剣』とかだったり、するか? …違うよな?」
「そうだよ」
あっさり言われ、チェルスは久々に自分が驚いたことに気付いた。もし今が夜で、
さらに場所が人里でなければ——間違いなく叫んだ。叫んだ拍子に魔物三匹程度吹っ飛ばす勢いで。
「おまっ、ちょっ、それ、何でお前が持ってんだ!?」
「へっ? …え」
「それ、今どこにある!?」
「宿の中」
「…う。…む。ん」
チェルスは一度落着き、咳払いをしてからふぅーーーっ、と息を吐いた。
「その剣、どこにあった?」
「え? と、ウォルロ村だけれど」
「うぉるろ?」
この大陸の崖を超えて北側にある、大滝の名所だと説明した。さすがに村の守護天使だけあって、
説明は余裕だ——何度も言うようにたった五日間のことではあったが。
滝、の言葉でチェルスは納得した。
「当時あの大滝の傍には一つ宿屋がぽつんとあった——恐らく村はそのあとにできたんだろう」
「え。…そ、そう、なのかな」マルヴィナは考え込む。大師匠エルギオスの消息が途絶え、
師匠は守護する場所をナザムから変更していた。もしかしてウォルロを選んだのは、
村としてできたばかりで守護天使がいなかったから?
…さすがにそこまでは分からない。マルヴィナは考えを振り払った。
「そういや言っていたな——昔旅人が、宿賃代わりに置いて行ったって」
「…オイなんだその話。まるっきり違うぞ」
「へっ?」
凄く真面目な——通り越して、若干不機嫌な顔をされ、マルヴィナは目をしばたたかせて訊ね返した。
「まるっきり違うって…何だ、知っているみたいに」
「知っているからな」
「は?」
聞けば聞くほど話が分からなくなっていく状況に——チェルスが、ついに終止符を打った。
「だって、その旅人、わたしだから」
爆弾発言——いやもう大砲発言並みだった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.275 )
- 日時: 2013/03/17 01:09
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
——ここに来てから驚きっぱなしだな。
翌朝、マルヴィナはふっと笑った。
シェナの出生の秘密、傷の完治、現れた『記憶の先祖』、“蒼穹嚆矢”のその実力、
ルィシアの正体、『未世界』の新たな情報、そして、銀河の剣——
——もともとそれは、わたしも貰ったものだったんだ。…だが、昔——ナザムとか言う村だったかな、
そこの武器屋のじいさんに、「お前には使えない」って言われたんだ。
実力とか、そういうのじゃなくて。ふざけんな、って思ったけどさ、まぁ、
あんな錆びちまっているし、持っていてもしょうがないじゃん? だから、信用おける奴に渡したんだよ。
…いつか、誰か本当の持ち主が来るだろうってさ——…何で宿賃代わりの話になってんだか。
…噂なんてそんなもんか?
大体そんなことを言ったチェルスに、マルヴィナは笑った。ナザムの武器屋のじいさん。
それはもしかして、マルヴィナに銀河の剣のことを語ったあの青年の、先祖なのだろうか。
「…首尾は」
時は少し戻り、深夜から早朝に差し掛かる頃。
チェルスが、静かに闇に尋ねた。
『ばっちりだ』
否、闇ではない。二人の陰。だが、実体は、ない。
『少々厄介な情報よ』
——マラミア、アイリスの二人だ。役目を終え、二人は現在、
魔帝国を探っている。つくづく頭の下がる二人だ。
「聞こう」チェルスは眉根を寄せ、静かに言った。
『兵士どもは殆ど魔物にされちまっている。どーやら奴ら、未だに“あの実験”を繰り返してるっぽいな』
『しかも、殆ど全てが霊よ』マラミアに補足を入れて、アイリス。
「となると…一気に攻めることは無理か」
『そうね。…無茶は禁物よ、一度に斃せば』
「分かっている」チェルスは打って変わって気だるげに答えた。
先に説明したとおりだ。
——同時に大勢の『霊』を屠れば、それだけ大きな『扉』が開く。
あまりに開きすぎると——屠られていない、関係のない『霊』まで、消えてしまう。
・・・・・・・・・・・・・・
「…消えるのはわたしだけじゃない、その辺は頭に置いているさ」
『そう』安堵でも納得でもない、ただ無感情に頷くと、話を続けた。
魔帝国ガナンの、現在の状況。国全体にバリアが張り巡らされていて、近寄れない。では、そのバリアとは?
そのバリアを張っているのは、皇帝ガナサダイである可能性が極めて高い。
そして、今分かっているのは、そのバリアは、魔物兵に関係があるらしい。
『ここまでだ、こっからはまだ調査できてない』
「了解した」チェルスは頷く。「…で、前から思っていたんだが——」
そして——いつも思っていたことを、口にする。
「…それだけの情報、いつもどこから仕入れているんだ?」
その質問には、二人同時に、同じ言葉で答えた。
『『秘密』』
マルヴィナは問い返した。 ・・・・
「えーと、スミマセン。もう一回、ゆっくり言ってもらえません?」
里長の家の前、ドミール火山へ続く入り口付近。
背の高い、マルヴィナよりずっと年上の婦人が、口を押えた。
「あらやだ。これは失礼いたしました。…グレイナルさまからの言伝です」
それは聞き取れた。そのあとだ。
「どうやら、あなたさまの話をお聞きしてくださるみたいですよ。ですが、条件があると——」
え、と問い返し、だがそのあとの言葉に脱力しかける。条件て。
「条件は、あなたさまおひとりで向かうこと。
さらに、『竜の火酒』を持ってくるように、とも仰っていましたわ」
「『竜の火酒』」マルヴィナは復唱した。
「あの通路の地下にある酒蔵で製造されている特産品ですわ。
…では、確かにお伝えいたしました。勇気と信頼の証に、祝福を」
やはり出てきた不思議な挨拶に慣れないマルヴィナは、ありがとうございましたー、と苦笑しながら応えた。
(…まいったな。わたし一人、か)
よりによってああやって啖呵をきったわたしが呼ばれるとは。と内心でため息を吐きつつ、
宿屋に戻り武具を装着する。まいったなと思うのには、もう一つ理由がある。
というのは——マルヴィナは、未だ『職』が魔法戦士なのである。
ひとりでまた、あの火山を登らねばならない。回復魔法が使えないのは厄介だった。 ルーラ
しまった、このくらいだったら山頂の様子をしっかり覚えておくんだった。そうしたら転移呪文で
一発で着いたかもしれないのに。
キルガにグレイナルのところへ行ってくると伝え(そして心配され)、
セリアスが見つからないので仕方なしに隧道の地下へ向かう——と、セリアスはその中にいた。
マルヴィナが声をかけると彼は驚き、いやなんでもない、と
言い訳としては実に下手な言葉ではぐらかしたが、マルヴィナは敢えて何も言わなかった。
その表情が、チェルスと初めて会ったあの日と同じだったから。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.276 )
- 日時: 2013/03/17 01:13
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
『火酒』と呼ばれるだけあって、それはきつい酒の匂いがした。
どうやら里の民たちは、これを水や炭酸で割って飲むのが通常らしいが——そのまま飲んだら確かに、
燃えるくらいに熱くなるか、火を吹くくらいのことももしかして、うまくいけば、ひょっとしたら、
実のことを言うとできるんじゃないか——とマルヴィナは思った。…飲んでみたいかもしれない。
が、最初に飲むのはグレイナル様だ一番初めにできた一番上等な物しかお渡ししないんだからな
いいな絶対に飲むんじゃねえぞと酒職人のこの里には珍しいちょっぴり荒っぽい親父さんに
凄い勢いで釘を刺されマルヴィナはとりあえず頷いた——創っているあなたは味見のために
グレイナルより先に飲むんじゃないのか? …と内心言いたくて言いたくてたまらなかったが、
その酒の匂いに、酔いに強いマルヴィナでさえもくらりとしかけたので、反論はやめておいた。
酒を守りながら火山なんて登れるかなぁと思っていたが、周りの人は言った、
大丈夫、そのお酒は魔よけの効果もあってね、それを持っているときは魔物は殆ど襲ってこないから、心配無用!
…そんなまさかと思っていたら、ところがどっこい本当にあまり襲われなかった。…襲われなかったが。
(いやこれ魔よけっていうか…この匂いに魔物が酔っているだけなんじゃ…)
近付く度にふらぁりぽてん、と倒れてゆく魔物を見ながら、マルヴィナは一人苦笑していた。
ようやくマルヴィナが山頂に着き、流れる汗を振り切ると、光竜——というより今や老竜グレイナルは、
そんなマルヴィナを労わる風でもなく初めに「遅い」の一言で切って捨てる。
「遅いぞ。何をぐずぐずしておったか」
「か、勝手に呼び出しておいて失礼な。…で? わたしらのことガナンの手先呼ばわりしたあなたが、何の用で?」
やけに大きな壺だと思っていた火酒も、グレイナルの前に置くとかなり小さく見える。差。
嬉しそうに酒に首を伸ばすグレイナルに、マルヴィナは半眼になり、さっと壺を退けてしまった。
「先に答える」
「…つくづく恐いもの知らずな娘じゃな」
「お褒めの言葉をどうも」
ふん、と、グレイナルは不服そうに鼻を鳴らす。「そのガナンの兵士を斃したのは貴様ではないか」
マルヴィナの眉が上がった。「聞こえていたのか」
「竜の耳をなんだと思っておる」
「…逆に問うが、あなたの耳はどこにあるんだ?」
「…いちいちずけずけものを問うな、貴様は」
「尤もなことを聞いただけだ!」
相性が悪そうな者(?)とも漫才ができるということを知った。
「まぁ、あの“蒼穹嚆矢”が珍しいことに認めておるしの。とりあえずは信用してもよいと言う事じゃ」
「へぇ…信頼しているんだ」
「世話になったしな」
チェルスに!? とマルヴィナは思った。言いはしなかった。…本当に、一体何者なんだあの人は。
「…いつまで退けておる」
「はいはい、どーぞ」
マルヴィナは呆れて火酒を差し出した。長い口を突っ込み、豪快に飲む。
顔を上げて、ふいー、と声を上げる。酔っ払いか。
「しみるのぅ。…飲むか」
「いや、結構だ」
水割りにしていないのに飲んだら冗談抜きで火を吹きそうだ。
わたしはまだ竜にはなりたくない。…一生なる気はない。
「おぉ、そうじゃ、忘れるところじゃった」
少々上機嫌になったグレイナルが、ぽん、と何かを放って寄越した。
マルヴィナは右手でそれを掴み、しげしげと眺めた。紫を基調とした、旗型の小さな紋章である。
だが、それには見覚えがあった。この模様は。
「…ガナンの物か?」
「そうじゃ。奴らにゃ大事なモンらしいが、儂にはガラクタ同然。まぁ売ればそこそこの値に」
——マルヴィナとグレイナルの表情が、ほぼ同時に緊迫したものになる。
同時に、空を仰ぐ。空から感じる、気配。
敵意。邪悪。脅威。危険。嘲笑。
「あれはっ……!」
刹那、闇の渦が、吸い込まれているように迫ってくる。
————————————ざがしゃぁぁぁぁんっ!!
敢えて音を言葉にするなら、キルガにはそう聞こえた。渦が直撃したのは、階段の横の崖だった。
その崖の上にいたキルガは反動で、思い切り吹っ飛ばされた。
「ってぇ…」
だが、うずくまっている暇はない。同じように被害を受けた人々を助け起こし、怪我人を任せ、
キルガは戦慄して空を見上げた——闇竜!!
闇竜バルボロスが、里を襲ってきた!!
「諦めの悪い奴らっ…」
キルガは悪態をつき、周りを見渡した。このままでは、里の民が危ない。
だが、妙なことに、闇竜は一発放っただけで、何もしてこなかった。追撃を行わなければ、
向かってくることもない。何故だ…? キルガは訝しみ——そして、まさか、と思った。
思った矢先、もう一発が来た。今度は、さらに上——頂上付近に向かって、である。
間違いない。振ってきた岩を巧みに避けながら、キルガは思わず言った。
「誘き…出している」
——マルヴィナ、と、唇が動く。危ない——危ない!
「…くっ」
キルガは急いで、腰鞄からキメラの翼を取り出そうとした。中に入れていたものは
ほぼぐしゃぐしゃになっており、翼も羽が無残にはがれ使い物にはならなかった。
「キルガー!!」
こちらの名を呼び、瓦礫を避けながら走ってくるセリアス。「悪い、キメラの翼を貸してくれ!」
キルガは首を振った。こちらも使えない、と返す。
眼を見開いて、セリアスは歯ぎしりした。「こうなったら、直接——」
「落ち着け」
と、チェルスが二人のもとにやってきた。驚いて彼女を見る二人。
「こういう時程、冷静になる——バトルマスターと聖騎士は、そういうものだ」
静かに諭し、チェルスは目を閉じる——
「アイツのことはわたしに任せろ。できることをしな」
短く、鋭く言うと——チェルスは、一つ翼を、放り投げた——…。
そして、空に現れたのは——蒼い鳥。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.277 )
- 日時: 2013/03/17 01:17
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「あいつっ…また来たかっ!!」
「…ふむ。紛れもない、確かにバルボロス——蘇ったとでもいうのか。恥晒しが」
「——え?」
ハジサラシ、の言葉にマルヴィナは訝しげにグレイナルを見たが、
それより先にグレイナルは壺を咥え横に退け、マルヴィナを見た。
「すまぬが話はあとじゃ。付きおうてもらうぞ」
「…戦うつもりか」
「当たり前じゃ、里を襲うとは卑劣極まりない。この空の英雄が直々に制裁を加えてやろうぞ」
さすがだな英雄、と答えようとして、む? と首を傾げる。
「ちょっとまて、付き合ってもらうって、どうやって?」
「儂の力を蘇らせる役を担ってもらう」老竜は即答した。
「今から貴様に竜戦士の防具を授ける。それを纏い儂の背に乗れ。そうすれば儂はまた飛べる!」
そういうこと。マルヴィナは納得した。了解だ——そう言おうとした時、空から別の
邪悪な気配が飛んできた。風を巻きちらし、マルヴィナの前に立ちはだかる。はっとして、そちらを見る。
「くく…そうは、させん」
まるで自分自身の力を誇るように、そいつは言った。
「何だ、お前はっ!?」マルヴィナは剣を抜き放ち、身構えた。
「名乗るものでもない、ただ竜戦士の防具とそれを纏うものを始末せよと皇帝より命を受けた一介の兵士」
「どうやらただの馬鹿だということが分かった」しっかり名乗った魔物兵士に剣を向ける。
「ふむ。狙いは貴様か…ちょうど良い、奴を蹴散らし、竜戦士となるに値する者かどうか、儂に証明してみよ」
「お安い御用だ」
マルヴィナはにやりとする。自分に酔っていた魔物兵士は明らかに イオラ
馬鹿にされた会話にピシ、と青筋をたてると、いきなり折り畳んでいた翼を広げ、呪文を詠唱した——爆発呪文!!
「ッ」
マルヴィナは小さく舌打ちすると後転し、身を低くして着地、爆発に巻き込まれるのを免れる。
ウイングデビル
(羽の悪魔——魔力の根源は、翼か!)
マルヴィナは目を細め、踏み込んだ。つま先で地面を蹴り、飛び込むような形で敵の懐を薙ぐ。
魔物が凍える吹雪を吐いた。マルヴィナははっとし、急ぎその体勢のまま右に倒れこみ地面を転がった。
辛うじて、回避。ちょこまかと動く小娘に苛立ちを覚えた魔物は再び、羽を広げる——
刹那、その羽の付け根が、断ち切られた。
「根源を、」
ほぼ同じタイミングで、もう片方も。
「——叩っ斬る!!」
魔物の背後に、風を纏い現れたマルヴィナが、剣を地面に突き立てて叫んだ。
「…こ」
憤怒に、あるいは、醜態に、その顔を歪める魔物。
「小娘ぇぇぇえ」
感情を押し殺し、マルヴィナは魔物の急所を刺した。そこから波動が生まれ、魔物の姿をかき消してゆく。
「…ふん、やるではないか」
グレイナルが満足げに笑い、マルヴィナは頬に着いた血を指で拭い、「お安い御用といったからな」応えた。
剣の血もふき取り、腰の鞘にぱちりと納め、マルヴィナはグレイナルに近づいた。
「おっと、その剣は、置いて行ったほうが良い。落としたら敵わんじゃろう」
「む…」
若干不服ではあったが、仕方ないと嘆息した。確かに、武器を失うのは辛い。
二本の剣を外し、火酒の横に置く。グレイナルが鳴く。マルヴィナを、淡い光が包み込んだ。
はっと驚く間もなく、マルヴィナを、純白の鎧が覆った。鎧だけではない、篭手も、膝当ても、ブーツも。
純白に、高貴なる赤のマントが映える。兜をかぶる。
頭はもちろん、口元まで覆われた兜の下で、マルヴィナはニッと笑う。
「…似合うではないか」
「あぁ、ありがとう」
マルヴィナは応える、三百年前の英雄に祈る。グレイナルではない、かつてこの鎧を纏い、
グレイナルと共に戦ったであろう英雄に——どうか、力を貸してくれ、と。
ひらりと、グレイナルの背に跨る、その角をしっかりと掴む。光輝——グレイナルの咆哮。
「——ふむ。懐かしい——かつての力が戻ったようだ」
言われずともわかる、竜は、幾分か若々しさが感じられた。
「行くぞマルヴィナ。奴を蹴散らしてくれる!」
マルヴィナは頷き——どこかで、あれ、わたし名乗ったっけ——と首を傾げつつ、空を見上げる。
襲い来る魔物、雄叫びを上げる光竜。
翼は空を切り裂き、魔物を叩き落とし、闇の渦巻く空へ、今再び飛び立つ——
——空の英雄の名のもとに。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.278 )
- 日時: 2013/03/17 19:38
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
5.
マグマ
燃えたぎる岩漿と、渦巻く闇色の空。
光伴う竜は岩漿のもとから、闇纏う竜は闇空の中から。
かつて同じ時代を共に生きた二匹の竜が、睨み合っていた。
——否。光竜には、ひとり味方をつけている。けれど、闇竜には気づかれぬよう、息をひそめていた。
“ 久しぶりだな。グレイナルよ ”
その音のような声は、闇竜のもの。嘲笑めいた、決して聞いていて心地よいとは言えない声。
グレイナルは目を細め、言った。
「まだ、存在していたとはな——恥晒しめが」
“ ふん ”
まただ、とマルヴィナは思った。『恥晒し』。その意味が、分からない。
再会を懐かしむ風はなかった。ただ相手を落とす、勝利する。闘いの思いしかない。
火山の岩漿が爆発音に近い音を立てた。それが合図だった。
思わず下を向いたマルヴィナは振り落とされそうになって慌ててしがみつく。
自分が落ちては、グレイナルはその飛行能力を失い、負けとなる。——勝利の鍵を握っているのは自分だ。
ただしがみつくだけではあるけれど——それでも、やって見せる。
例によって闇竜が吐きだしたのは、あの闇の渦。マルヴィナは片目を閉じ、歯を食いしばる。
今度は、受けても絶対に吹き飛ばされないぞ。
だが、そう思う必要はなかった。グレイナルもまた、対称的な光の渦を吐き出し、
ちょうど両者の中間でぶつかり合い、爆発した。闇竜のほうが、攻撃が早かった。
なのに、ぶつかったのは中間——グレイナルのほうが、渦の速さは上だ! マルヴィナは、まだ油断はならないが、一つだけ安堵を覚えた。
と、その爆発の中にグレイナルが突っ切った。爆発を目くらましに向かってきたグレイナルに
バルボロスは、黒く輝く—表現はおかしいが、少なくともマルヴィナにはその黒が輝いて見えた—、
闇の炎を吹く。初めて見る動きだ! マルヴィナは思った。
闇竜の名があるように、バルボロスは闇の攻撃しか出せない。
光竜もまた、その名の通り、光の攻撃しか出せない、闇は光に弱い。
だが、一方で光もまた、闇に弱いのだ。
忘れていない。ツォの浜で、仲間と話した対になる二つの話。光と闇、
どちらも存在せねば両方とも消えゆくもの——これはセリアスの意見だ。
…そんなことはない。グレイナルは、バルボロスがいなくても存在していた。
マルヴィナは自分の意見を変える気はなかった。
——まだ。
闇の炎に対抗するは、光の炎。対の攻撃で、抗う。再び交錯する光と闇、突き抜けたのは光の炎!
闇竜が、その光に焼かれた——かのように見えた。
確かに、痛手は受けていた。…だが、その様子は? 何より…その眼の、色は。
“ 流石だな。グレイナル ”
——ここ一番の嫌な予感がした。
“ だが、この前の—竜には三百年前も、この前なのか—ようにはいかぬぞ ”
お決まりの文句。そうほざいたとき、大抵は——この後に起こることは——…。
“ …来たれ、『哀切の焔』 ”
「「———っ!?」」
グレイナルと、マルヴィナまでもが、その名に反応した。知らない。聞いたことがない。記憶には、ない。
でも——だったら、なぜ今反応した?
天を裂き、生じた雷、どす黒い霧が取り巻く。何かが、見えた——何?
霧の中に見える、何かの陰、あれは…あれは、人…否、
—————天使……!?
闇竜の雄叫びが轟く、闇竜に降り注いだ黒い雷に目が眩む! 上下左右の区別のつかない目に変わり、
耳だけはその声を、正確に聞き取っていた。
“ あれから、三百年 ”
「それが…次の力というのか」
グレイナルの声は、憎しみを孕んでいた。
「やはりまだ、貴様は——」
遮るようにバルボロスが啼き、その先の言葉は聞き取れなかった。だが——
もしかしたら、その言葉は——辛うじて聞き取れた言葉から推測すれば——
“操られて”?
が、そう思った瞬間、視界を何かが覆った。気付かなかった。それは闇竜の攻撃だった。
目の前に迫ったそれは、過たず光竜を狙い撃つ——
「ッ!!!」
痛みじゃない。その身を襲ったのは、何と言われて、表現できるものではなかった。
しがみついていた背が低くなって、マルヴィナは無意識に閉じていた目を開く。
見えたのは、先程の逆——闇竜の前に、ぐったりと首を垂れるグレイナルの姿だった。
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