二次創作小説(映像)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.29 )
- 日時: 2013/01/15 22:53
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
箱舟で飛び立つことを諦め、マルヴィナは新しい土地に向かって歩いた。
峠の道を北へ越え、のち東に向かって歩き続ける。見たことのない魔物が多い。…当たり前だが。
「マルヴィナー」
サンディがひょこっ、と頭巾から顔を出して、言う。どうやらそこを拠点(?)としたらしい。
なに、と問い返すと、サンディは両手を腰に、まるで子供を叱るお姉さんのような姿で言った。
「ここら辺からホント自分の身はしっかり守りなさいヨ?
殺しちゃかわいそーなんて言ってたらアンタがやられちゃうんだし」
「う…分かった」
そういうことをサラリと言わないでほしい。
マルヴィナは『勝負』は好きだった。けれど、『戦闘』は嫌いだった。
命を懸けるもの。勝敗は、どちらかが死ぬことによって決まる。それが嫌だった。
…けれど。魔物相手に、そんなことは言っていられない。
ただ、異種を殺めるために存在する生物だから。
殆どは、話の通じないものだから。
セントシュタインまではそんなにかからなかった。門は開放的で、入国にも大した時間はかからなかった。
町並みは綺麗で、シンプルな明るさがある。だがやはり国、とてつもなく広い。
当然、行き場所に困るマルヴィナであった。
「…広いなぁ…看板とかないのかな」
「あ、マルヴィナ、宿屋ってあれじゃネ?」目ざとくサンディはその建物を見つけた。「行ってみよーよ!」
…もしかしたら、リッカがいるかもしれない。この国に宿屋は一つだけとは限らないが、
とりあえず最初にリッカを捜しがてら観光するかと、マルヴィナはサンディの言葉に従った。
宿屋に入り、扉を閉める。悪くはない宿だ。少々寂れているのが気にはなるが。
「いらっしゃいませ。宿帳はこちらです」
自分なりに第一印象を評価していると、訊き慣れた声が耳に飛び込んでくる。
マルヴィナはその名を呼んだ。
「リッカ」
「あ! マルヴィナ! 来てくれたんだ!」
カウンターに立っていたのは、リッカであった。マルヴィナは目をしばたたかせ、言う。
「…もう、仕事しているのか?」
「うん。——いや、最初はこんな娘、って言われたけどね。任されてますよん」
「さすがだな…」マルヴィナ、苦笑。
「あら、マルヴィナ!」
続いて、登場したのはルイーダ。久しぶりでもない顔に、マルヴィナは一礼した。
「ん。そういえば」何か声をかけようとする前に、かけられた。
「遺跡で助けてもらったお礼、まだしてなかったわね。…貴女、確か一人で旅をしていたのよね?」
「…え。まぁ」
サンディを例外としていいものか悩むが。
「私が一緒に冒険してくれる仲間を見つけてあげましょうか」
目をしばたたかせる。
「…仲間」
マルヴィナは復唱した。仲間——人間の仲間か。
確かにありがたいと言えばありがたい。
けれど、自分に——天使の力についてこられる人間など、そんなにいるだろうか。
かえって足手まといになるのなら、いっそいないほうがいい。
「そ。彼らは、このセントシュタインにいるわ。このバッジをつけているの。
こっちの赤が募集中・募集され中、青が募集され中。…どっちにする?」
——などと言う考えはあくまで考え、ルイーダに伝わるはずもなく勝手に話が進んでいた。
断れぬ雰囲気が漂い、マルヴィナは結局答えてしまった。
「…赤で」
「了解。——目安は四人。貴女を含めてね。あまり多いと、狙われやすいから——それじゃ、良き時間を!」
やっぱりこの人には敵わないかもしれない。
マルヴィナは苦笑した。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.30 )
- 日時: 2013/01/17 21:12
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
はしゃぐサンディの横でやはり、マルヴィナは少々げんなりしていた。
「どーせならさ。イケメンを探そーよ、マルヴィナ!」
「断る」
「ケチ」
“いけめん”の意味が微妙に分からなかったマルヴィナだが、
あまりいい意味じゃなさそうだったのでそう答える。
「僧侶の人いないかなぁ」
「イケメンの?」
「断る」
「ケチ」
傍から見たら独り言を言う怪しい少女である。
「てかさ、マルヴィナ。どこ向かってるわけ?」
「え、いや——別に、特には——」
そう言いながらもマルヴィナの足取りは迷いがなかった。
初めて見る土地である。右も左も分からない。なのに、足が勝手に動いていた。まるで、引き付けられるように。
と。マルヴィナはその時、裏路地に目を留めた。何故そうしたのだろう。後から考えたが、分からない。
けれど、あえて言うなら——やはり、引き付けられたように。まるで知っていたように、そこを見た。
彼らが近くにいると、彼女がそこにいると、分かっているように。
セントシュタイン国は広い。
治安が良いので、一般的に住民は心穏やかな人が多いが、
「彼女、美人だネ。ちょっと来てくんない?」
こんな柄の悪い不埒な男共もいるのである。
五人いる。十代か、二十代ほど。全員、不埒で不潔で不安で不審な感じがした。
声をかけられたのは、銀髪と金色の眸の、少し背の高い美少女である。
だが、あくまでその眸は厳しい、というより無感情だった。
「聞こえてるー? ちょっと来てくんないって」
不埒なことに、馴れ馴れしく美少女の肩を掴んだ男は、
その次の瞬間天と地がひっくり返ったように見えて、——そのままズダンと自分がひっくり返っていた。
——つまり。その美少女が、遥かにでかいその男を打ち倒したわけである。…あるが。
「……なああぁぁぁああっ!?」
一人は叫び、
「て…てめぇっ!?」
一人は態度を一変させる。
マルヴィナがそこへ来たのは、ちょうどその時だった。
「…危ない」ほぼ反射的に路地へ走った。
「えーちょっとマルヴィナ、関わるのよしなって! あーあ」
サンディの声は無視した。走りながら跳躍、そのまま一番近くの男に足蹴りを食らわせようとした、
その時、
別の場所で、一人倒れた。
「…っは! 悪いが、治安維持も戦士の役目なんだ!」
聞き慣れた声が、響いた。
「セリアス、…やりすぎだ」
もう一つ、良く聞いたことのある声が。
「って言いながらキルガこそ、その一撃は荒いんじゃ——」
マルヴィナが足蹴りを食らわせた男がどさりと倒れたとき、その声はスコンと途切れた。
「…………」
マルヴィナはその声の主をじっと見つめ、
「…………」
「…………」
二人のその声の主たちもマルヴィナをじっと見つめ、
…そして、裏路地に驚愕の声が響き渡った。
…というわけで。
「…マルヴィナだ」
「キルガです」
「俺セリアス」
カニも縦に歩くのではないかと思われるほどの奇跡で再会した元天使三人組は、
絡まれていた同い年くらいの美少女に自己紹介をした。
「…助かりました。どうもありがとう。——私はシェナ。旅人です」
シェナと名乗った彼女は、丁寧な口調でお辞儀した。
「何かお礼がしたいけれど…あいにく、何も持ってなくて」
「いやいやいや、大げさな。ただわたしは、反射的に動いただけだし」
「俺は仕事だし」
「…右に同じ」とは、キルガ。
えーとどうしようか…と、未だに起こったことの信じられない三人が迷っていると、
シェナは考え込むような視線を三人に送った。
「…え、と?」
言ったように、シェナは美少女である。そんな彼女にまじまじと見つめられて、
少々居心地が悪くなった、その時だった。
「…えっと…貴方たち、もしかして——」
シェナは、ほとんど確信した声で、言う。
「——天使じゃない?」
——と。
「え」
「はっ?」
「な!?」
三者それぞれの驚愕の声が重なる。
「当たりね」
シェナはくすっと笑った。
「ちょちょちょちょちょっ!? なんで!? 何で分かった!?」
「ちょ、セリアス」
セリアスの質問と、マルヴィナの慌て気味の声に、シェナはあっさりと答えて見せた。
「…私もなのよ」
「はい?」
「私も、色んなわけがあって天使界にいられなかった——元、天使」
二度目の驚愕の叫びが上がった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.31 )
- 日時: 2013/01/17 21:42
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
…再び、というわけで。
「ルイーダさん。バッジ返しに来ましたー」
仲間は決定した。
成り行き旅芸人のマルヴィナ、
何故か聖騎士であるキルガ、
この国で戦士となったセリアス、
そして『元天使』、賢者のシェナである。
「早いわね」
とだけ言われ、ルイーダはバッジを受け取った。
まさかの『元天使』を名乗ったシェナに少々疑惑を抱いた三人ではあったが、
嘘だと言うことも厳しかった。迷いなく見破った自分たちの本性、自らより大きな男を打ち倒したあの能力、
ただの人間には思えなかった。
もともと回復役をもとめて僧侶を探していたのだ。
攻撃、回復共に扱える賢者の彼女が仲間入りしてくれるのなら心強い。
もしよかったら、一緒に旅をしないか。
マルヴィナが差し出した手を、シェナは握り返した。
とりあえずこれからの方針を決めようと、早速リッカの宿屋に泊まることにした。
カウンターの横、酒場の人通りの少ない席に四人は座る。ルイーダが冗談めかして、乾杯する? と聞いた。
「さて…まずはどうしようか」マルヴィナ、
「ん。俺ネタ持ってるけど」セリアス、
「ネタ?」シェナ、
「黒騎士か」キルガ。
マルヴィナとシェナがきょとん、としたので、事情を知る男二人は説明から始めた。
世界を揺るがせた大地震。その後、このセントシュタインの国に全身を黒に染めた騎士が現れた。
彼の狙いは国民には知らされていない。だが、国にとって脅威の存在であるという。
国の兵士は、その騎士に戦いを挑んでは、ことごとく返り討ちにあったらしい。
「俺、前直接会ったんだけど。馬に乗っててさ。足払いかけたら逃げてったけど」
「臆病なんだな」
「馬がな」
セリアスは氷をがりがりと噛む。
「んで、何か知らんが見込まれて、…んで、何か知らんがこの国で戦士の『職』をもらった」
「そうなんだ。…キルガは?」
「僕は別の場所で聖騎士になったんだ。だから断った」
「聖騎士?」
「あぁ。簡単に言えば——守備担当、と言ったところか」
「へぇ…」マルヴィナが答えたとき。
「……って、チョットさっきから全員無視しすぎなんですケド! アタシを忘れないでよねっ」
…いきなりサンディ登場。正直サンディの言うように忘れていた。
「あ、サンディ」
「お? 誰だよこの妖精?」
「だからサンディだって」
「可愛い」
「え、カワイイっすか? いやー、ありがとー。マルヴィナて石アタマで何も——おっと」
マルヴィナが頭をはたこうとして、見事にかわされていた。
「へー、みんな元天使なんだー。ドンだけいんのよ、羽なし天使。どーりであたしの姿が見えるわけだ」
腕を組みつつ、サンディはニヤリと笑う。
「んじゃ、みんな天の箱舟ちゃん使って天使界戻りたいってコトですよネ」
「え?」セリアスが素っ頓狂な声を上げた。「何で天の箱舟の事知ってんだよ」
「アタシ、運転手だし」
「…………」
マジかよ、と言う声が聞こえたような聞こえなかったような。
「んでさっ。アンタ達、コレ見える? 見えるコレ?」
サンディはマルヴィナの背の頭巾に潜ると、しばらくしてひょこりと出てくる。何かをつまむような仕草で。
「じゃーん! アタシは何を持ってるでしょー?」
若干胸をそらして右手を頭上に掲げるサンディを前にした三人の反応は、
「は?」セリアス、
「腕のブレスレット…なわけないか」キルガ、
「?」シェナ。尤も喋っていないので、数えるべきか悩みどころではあるが。
で、静寂。マルヴィナ苦笑。ていうかそんなところに入れていたのか。
「…見っ事に誰も見えてないんですケド…星のオーラよ、星のオーラ! あんたらがチョー大事にしてたものヨッ」
変わらぬ沈黙。変わらずマルヴィナ苦笑。
「…見えてないってことか?」
「…みたいだな」
「……」
三者それぞれの反応を見たサンディは、遂に深々溜め息をつく。
「…誰乗せても天使界行けないか。しゃーないマルヴィナ、黒騎士って奴。あれ、退治しに行くわヨ」
「はぁ!?」
マルヴィナは飲みかけの酒から口を離して叫んだ。喉に溜まっていた残りが引っ込み、ゲホゲホ咳き込む。
「言ったっしょ、星のオーラ集めりゃ絶対天使って認めてくれるって!
この国の人が黒騎士に困ってるなら助けるべきなんですケド。——だいじょぶ? マルヴィナ」
「生きてるから大丈夫でしょ」
「ひどいぞシェナぁっ!」
「ほら、元気になった」
返す言葉がない。
「…でもま、いいんじゃないか?」笑いながら、セリアスは言う。「俺ら四人の、初の戦い、ってな感じで」
単純だなオイ、と胸中でマルヴィナ。
「よし、んじゃ早速、明日城ん中行こうぜ」
「勝手に話を進めるな」
そう言いながらも、賛成する三人であった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.32 )
- 日時: 2013/01/17 21:45
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
ペリドット
翌朝、橄欖石の刻—八時—頃になる。
「うあー、眠っ。なんか久々に寝た気が…」
「羨ましいことで。…わたしは全然寝られなかったぞ。——いや宿のせいじゃなく」
「…実は僕も寝られていない」
「何、二人とも寝付けない人?」
「んー…以前は良く寝られていたんだけれど…」
「僕は元から。…セリアス、立ったまま寝るな」
会話しながら四人は椅子に腰を下ろす。リッカが紅茶を出してくれた。
「よし。黒騎士戦に備えて食うぞ」
「戦うの?」
シェナがツッコミを入れた。
四人はその後、城門へ足を進める。
「アリーシュ、通してくれ」
セリアスがそこにいる若い兵士に声をかけた。
「ん? セリアス、お前、サボり?」
「違げーよ、今は戦士じゃなくて旅人。…ほら、戦士にはなるけど、あくまで旅人のままで——って言ったろ?」
「はいはい、おめでたい奴」
「なんか違わないか?」
と言う会話の中で、あっさり入城許可は下りた。
「広いな」マルヴィナが目を丸くし、
「城だからねぇ」シェナがほのぼのと言い、
「…分かっているって」マルヴィナ脱力。
セリアスの案内で、王座の間の手前までたどり着く。意外に短かった。
しかじかの王宮作法の後、そのまま四人は王座の前まで行くことになる。
「…客人か? すまぬが、今は——」
発しかけた言葉を、その目にセリアスを写すことで止めたのがセントシュタイン国王である。
そして隣にいるのが、セントシュタイン姫君。
名を、フィオーネといった。
「王様。決めました。黒騎士退治に、向かいます」
気取った風でもなく、ごく平凡な言葉でセリアスが声をかけた。
セリアスが一国の主と話しているー! とか思ったマルヴィナはそのまま唖然とした。
うむ、と満足げに頷いた国王は、次いでマルヴィナとシェナに目を留める。キルガはともかく、
昨日会ったばかりの二人を王が知るはずも無かった。
「…とりあえず、私たちにも話して欲しいんですけど…事の経緯を」
シェナが首をすくめ、意見する。尤もな話だった。
王はおそらくセリアスやキルガにしたものと同じ説明を始める。
「黒騎士というものが、このセントシュタインを狙っていることは知っておるな?
あれの目的は、我が一人娘フィオーネ。そしてかの黒騎士は、今宵、フィオーネをここより北、
シュタイン湖に向かわせよと言うておる! だが、それを私は罠だと思っているのだ」
「お父様!」
フィオーネの声を無視して、国王は続ける。
「普通、その場合は城の兵士を向かわせるのが妥当と言うもの。
だが、そんなことをすれば、この城の守りは薄くなる! おそらく黒騎士はそれを狙い、
城に攻め込むつもりじゃろう。故に、そなたらのような自由に動ける人材が欲しかったのじゃ」
「そんな、お父様! 見ず知らずの旅のお方を巻き込んではなりませぬ!」
「黙っていなさい、断じてあやつの好きにはさせん」
フィオーネの意見は全て聞き入れないようだ。うわぁ頑固そうだなぁこの人、とマルヴィナはそっと思った。
「…あんまりですわ…わたくしの気持ちを知りもせずに」フィオーネはフイと顔を背ける。
(ふうん…なるほど。——なんか、隠しているんだな)
マルヴィナは表情にも声にも出さず、そっと思った。
「とにかく。そなたらにはこれからシュタイン湖に赴き、黒騎士を退治してもらいたい。
うまくいけば、褒美を取らせよう」
国王は、玉座に座りなおした。
「黒騎士って言うのは強いのか?」
城を出たのち、マルヴィナは唯一黒騎士と接触しているセリアスに問うた。が、セリアスは、
「んー…俺も、実際に戦ったわけじゃないしなぁ…あの時もどっちかっつーと、
追い払ったのは黒騎士じゃなくて馬だし」
「でも、この国の兵士はことごとく返り討ちに遭った、って言ってたじゃない」
「…あぁ、まぁな。——でも」
セリアスは少々言い辛そうに振り返った。
「あぁ、まぁ——」キルガも苦笑しながら、頭の後ろをおさえた。
「平和ボケしていそうだよな。ここの兵士って」
あまりにも言い辛くて濁していた言葉をマルヴィナがあっさりと言ってしまい、二人は少々慌てた。
「同感ー」
シェナの言葉にも慌てたが。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.33 )
- 日時: 2013/01/31 21:58
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
2.
——シュタイン湖。
セントシュタインの領域、その国の北に位置する湖。
黒騎士は、現れた。
マルヴィナ、キルガ、セリアス、シェナの四人は容赦も遠慮もせず、
いきなり攻撃を仕掛けてくる黒騎士に相対した。
「…っヒャド」 ヒャド
マルヴィナが叫ぶ。氷固呪文、小さな氷の刃を生み出す魔法だ。
黒騎士はそれを、自分に降りかかる前に槍でいとも簡単に払いのける。マルヴィナは舌打ちした。
キルガは聖騎士として、常に他の三人の様子に注目した。
一番注意したのは魔法に集中し守りの疎かになったシェナへ降りかかる黒騎士の攻撃だった。
セリアスは剣を構える。剣術でマルヴィナに勝った事は一度も無かった。
だが、腕としては、並みの旅人より遥かに上だった。余計なことは考えず、ただ攻撃に集中する。
ホイミ ドルマ
シェナはキルガの体調に応じて応急呪文を唱える。余裕があるときは、闇固呪文というらしい、
賢者のみ使いこなす魔法を黒騎士に投げかけた。
そして、黒騎士の足が、がくりと崩折れた。
「っ!」
四人が、同時に息をつく。それぞれ武器を収めた。
初めての連携にしては、なかなかよかった。と思う。
「…な、ぜだ…」
「…む」
膝を屈した黒騎士が、一言声を発する。マルヴィナは眉を持ち上げた。
「何故、メリア姫は、お前たちのような者を、ここに向かわせた…? あの時の約束は、偽りなのか…?」
「メリア姫?」 フード
戦いの終わった気配を感じ取ったサンディが、マルヴィナの頭巾から顔を出す。
「ねぇマルヴィナ、この黒騎士おかしくない? あの城にいたのは確かフィオーネ…メリアじゃなかったはず」
うん、と頷こうとした時、
「それは誠かっ!?」
と、間髪を入れずに黒騎士の問い返しが来る。ビクッ、と身を引いてから、サンディは叫んだ。
「ッキャー!! ななっ、何でアタシが見えんのよぉっ!? マジ、ビビったんですケドっ!!」
そして、サッサとフードに潜る。髪の毛が微妙に引っ張られて、マルヴィナは小さく悪態をついた。
「…な、あれは、メリア姫ではなかったのか…?」
「…」どうやら事情があるらしい。「あんたは一体、何者なの? それから話してくれないか」
「……」
黒騎士は立ち上がる。
「——私は、深い眠りについていた」
そして、語りだした。
マルヴィナは目を閉じた。黒騎士の話をまとめると、こうだ。
黒騎士の名はレオコーン。
ルディアノという名の国の騎士だった男だ。
ずっと眠りについていたような感覚。記憶は無かった。
自分が誰で、何が自分に起こったのかは、何も分からなかった。
その記憶が戻ったきっかけが、セントシュタイン城、いや、その国姫君の姿を見たときであった。
自分はルディアノの騎士。
あの姫君が、メリア姫、自分と婚礼の約束を交わした方だと。
だが、それは違った。国はルディアノではなく、セントシュタイン。
そして、名はメリアではなく、フィオーネ。
全くの別人だった——
「んじゃアンタ、あの姫と元カノ間違えちゃったてワケ? ドンだけ似てんのよその二人ー」
「も、元カノて」
軽すぎだろと胸中で思いつつ、黒騎士レオコーンをもう一度見た。
「いずれにせよ、私はこの過ちについて詫びないといけないだろう。あの城にもう一度向かわねばなるまい」
「むー…やめたほうがいーと思うぞ」
セリアスがぼそり、と言う。
「確かに。ややこしくなるだろう」
キルガも頷いた。
「次は本気で殺されちゃうかもしれないしねぇ」
シェナがのんびりと恐ろしいことを言う。
「わたしらから伝えておこうか? あなたの伝言を」
マルヴィナが問う。なんだか上手くまとまったような。
「…そうだな。そうしていただきたい。もう城には近づかない。そう伝えてくれ」
「分かった」
レオコーンは頷き、くる、と背を向けた。
「ルディアノでは本当のメリア姫が私の帰りを待ちわびているはず。私はルディアノを探すとしよう」
ひらりと、黒い馬に跨る。そして、そのままゆっくりと行ってしまった。
傷を負っていた割にちゃっかりしているような気もする。
(なんか、妙だな——)
「…あ」
湖に四人残された状態、セリアスが一言。
「…馬取り返すの忘れてた」
「馬?」
「あ」
キルガまで。
「…あの黒い馬。武器屋のおっちゃんの。…どうか取り返してくれって涙流して言われてたんだ…
ああやばいなぁ…どうしようか」
返答は風の音。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107
この掲示板は過去ログ化されています。