二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.279 )
日時: 2013/03/17 19:43
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 形勢が逆転した。闇竜は一回りも二回りも大きくなったように見える。
その前で、グレイナルはゆっくりと、顔を上げた。こんな状況でも声をかけられない自分の現状が恨めしい。
けれど、声をかけては、更に状況は悪化してしまう。
 けれど、動けない。マルヴィナはあまり痛手を受けていなかった。気付いた。
グレイナルは咄嗟に、マルヴィナを庇うように攻撃を受けたのだ。
あの時の、ルィシアを庇ったチェルスと同じように。
 …不利だった。ここで次の攻撃を喰らえば、どうなってしまうのだろう。
考える時間をくれるほど相手は優しくなかった。天を仰ぐ闇竜、再び裂かれた空。集まる雷、生じた——

(なッ!?)

 円盤。
 見たこともないほど大きな円だった。紫と黒の鈍い光を取り巻き、気分が悪くなるような電磁音を響かせる。
息が苦しい。口を抑えそうになる。だが、兜があって、それはできなかった。
顔を上げる。自分を叱咤するように。気付く。その、方向に——
 闇竜の目線の先に。それは、

 ———ドミールの里!

「なっ…貴様何をする気だ!?」
 愚問だと分かっていながら、グレイナルは叫んだ。
その言葉を待っていたとばかりに、闇竜はしゅう、と息を吐く。

“ ただ殺すだけではつまらん ”

 これほど何かを邪悪だと感じたことはあっただろうか。
マルヴィナの眼はもう、限界まで見開かれていた。

“ あの里の最期も見せてやろう ”

 思い出す、あの闘いを。
 思い出す、あの将軍を。

“— いずれこの里も消滅する —”

 ——あの言葉の意味は、まさか——!


 思わず叫んでいた。
叫んじゃいけないとは分かっていた。
けれど、止められなかった——
                            やめろ!!

 闇竜の眼だけが、ぎょろりとグレイナルを——否、その上の人影を捕らえた。
 しまった、とマルヴィナは後悔した。グレイナルが歯ぎしりした。
咎めはしなかった。妥当だと、考えたのかもしれない。
           ヒソ
 だが、その眼が困惑に顰められた。闇竜の眼の色が変わったのだ。
その眼の奥に隠されていたのは、困惑、不審、そして——憎悪。グレイナルにはそれが読み取れた、
だがマルヴィナはそれが分からなかった。仮に分かったとしても、何故このような目を向けられているのかは
分からなかっただろう。グレイナルもまた、その理由を知る術はなかった。
どう出るかは、分からなかった。だが——その円盤が向く方向は、変わらなかった。
 眸の色が戻る。バチバチとした音は次第に大きくなってゆく。間違いない。
狙いはマルヴィナではない、里だ。

 ——やめろ!!! 再び、自分は叫んだだろうか。言ったか、あるいは思ったか。
そのタイミングで、闇竜はその円盤を放った。グレイナルの目の前で、彼の故郷を滅ぼさんがために。
 マルヴィナの頭に蘇る、皆の顔、昨日までの出来事。
戦友たち、里の者たち、チェルスやルィシア。危ない、このままじゃ、皆———!!




「マルヴィナ」




 恐ろしいほど冷静に。
 現状に似合わぬほど静かに。
 光の竜は、竜戦士の名を呼んだ。
「——短い間ではあるが、世話になった」
 その言葉の意味するところを、初めは理解できなかった。   ・・・・  ・・・・・・・
「…どうやら、貴様にもいろいろ訳がありそうだ。だから、貴様に任せよう——奴を討つのはな」
 そこまで聞いて、ようやく分かった。その言葉の意味。隠された、真実に——
 マルヴィナは何かを言おうとした、だが、その言葉をグレイナルは聞かなかった。
それより早く、頭を乱暴に上げ、マルヴィナを空中に投げ出した。
「———さらばだ!!」
「————————————————————っぁ」
 せき込むように、マルヴィナは息を吐いた。見開かない目で、グレイナルを見る。
風の音で聞き取り辛くなった耳に飛び込んだ、グレイナルの言葉は。




「——生きよ。
           ウォルロ村の守護天使よ」




 音が消えた。一瞬だけ、思考が止まった。時間が止まったかのようにさえ思えた。
だが、その思いも…すぐに、消える。
 意識が薄れゆく。目を必死にこじ開けるようにして、マルヴィナが見た光景、それは——


 円盤と里の間に入り、
 竜戦士を失った飛べない竜が、
 必死にその翼を広げて立ちはだかり、
 その口を大きく開いて光の炎を生じさせ——





 円盤と炎の交錯した爆発の中で、空に轟く雄叫びを上げた、空の英雄の姿だった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.280 )
日時: 2013/03/17 19:49
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 ——里は静寂に包まれた。彼らが見たもの、それは、向かってくる闇の円盤と、飛び塞がるグレイナル、
光の炎、そして——爆発に叫んだ竜。

 その爆発に里の者が顔を覆い、目を閉じ、そろそろとその光景を再び見たとき——そこには何もいなかった。
炎の攻撃を受けたのか、北の空へ危なげに落ちてゆく闇竜。そして、光竜は——そこには、いない。

 爆発の後に、消えた。

 そう——消滅。

 絶句というのは、こういう時に使われるべき言葉なのかもしれない。
言葉が全く出てこない。まだ、理解すらできていない。自分の感情すら、追いついていない。
——けれど。誰かが、真っ先に気付いた。その状況を。その意味を——
「——グレイナル様」
 その呟きが、人々を起こした。凍り付いていた口を割り、その悲しみは波となって広がる。
「…あぁ…グレイナル様!」
「グレイナル様ぁっ!!」
 次々と頽れ、悔しがる人々を前に、ようやくキルガやセリアス、シェナは我に返った。
グレイナルが、消滅した——思い出されるのは、もう一人。仲間の、姿——…。
「…マルヴィナは…?」
 呟いたのは、キルガだった。さっと血の気が引いて行く。かたかたと、歯が鳴った。
「マルヴィナ、はっ……」
 シェナは思わず、後退り、ふらりと倒れかけた。
後ろからケルシュに支えてもらいながら、シェナは絞り出すように言った。
「…死なないでマルヴィナ。戻ってきてよ…これ以上、失わせないで」
「くそっ…!」セリアスが額に汗をにじませる。
「チェルス、追ったんだろう!? どうなんだよ、マルヴィナは、無事なのかよっ…!」
 もう、待っているだけなんて嫌だった。
無事を確認できない焦燥感、いつまで待てば良いのかわからないもどかしさ。
 もう、これ以上、待たせないでくれ——
 と、その空から、蒼い鳥が旋回して頭上まで来た。と、その姿が溶け、人の形になる——チェルス!!
「…っチェルス! マルヴィナはっ…!」
 間髪をいれずに問うキルガをじっと睨むようにして見、チェルスは言い辛そうに言う——
「良いとも、悪いともいえない。——どちらかというと、悪い」
 不吉な言い回しに、彼らは動けなくなる。だが——その言い方からすると、マルヴィナは…?
「…幸いにして、生きてはいる。一歩手前で、グレイナルに投げ飛ばされて、
ついさっきかろうじて地上に落ちた」
 命があることには、安堵を覚えた。だが、それを打ち切るような状況が、更に待っていた——
「だが、相当の痛手を受けている。更に、落ちた先が最悪だ——」





 —————————————落ちて、落ちて。
 …どれくらい、経っただろう?

 竜戦士の防具は役目を終えた魂のように消えてしまった。
なんの防具も着ていない旅装がこんなに寒いと感じたことはあっただろうか。
 全身があまりにも痛すぎて、動けない。チェルスに事前に傷を治してもらっていてよかった。
おそらく、あの傷がまだ残っていたら、今度こそ自分は死んだだろう。
けれど、今のマルヴィナに、そんなことを考えるだけの余裕はなかった——…。


「おやおや。またしても生きていたのですか、“天性の剣姫”」


 ——声がする。覚えている。この声は、そう——ゲルニック!!
 虚ろになった眼を、一瞬にして殺気立たせる。身を起こそうとして、だがそれより早く
戦斧や槍がマルヴィナの首筋にあてがわれた。——紅い鎧の兵士までいたのだ。
「ぐ、ぅっ…!」
「まぁ良いでしょう」
 マルヴィナに背を向けて、片手をひらりとあげる。「狂った計算は、利用すればよいだけ」
 ねじ伏せられながらも、マルヴィナはその眸の色を決して変えはしなかった。
「蒼穹嚆矢をおびき出す餌になってもらいますよ、マルヴィナさん」
 ゲルニックは天を仰いだ。マルヴィナは顔を動かせなかったのでわからなかったが、
そこにいたのは——蒼い鳥。三人の仲間の力を借りた、蒼穹嚆矢の二つ目の姿である。
「…蒼穹嚆矢。見えていますね? 『子孫』の命が惜しくば、ガナン帝国領、カデスの牢獄まで来ることです。
猶予はありませんが——せいぜい『子孫』があの環境に耐えられる日数を考慮するんですね…!」
 マルヴィナは再び薄れゆく意識を、唇を噛んでどうにか堪えていた。
ゲルニックはマルヴィナの未だある意識を嗤い——目を剥いてその杖を振るった。
「ぐっ!!」
 マルヴィナは短く呻くと、そのまま少し唇を切って昏倒した。がしゃん、と戦斧や槍が退けられる。
「さて、兵士! この者をカデスの牢獄へ。
言った通り、“剛力の覇者”にはただの人間と伝えるように」        ル ー ラ
 周りに、魔法文字の円盤が生じた。キメラの翼ではない、それは紛れもなく転移呪文だった。
空羽ばたく蒼の鳥は旋回し里に向かい、生じた円盤と共にマルヴィナは消えた…。



——————————————「闇竜の様子を見に来ていた奴らに捕まった」
 チェルスの話を聞き終えて、真っ先に沈黙を破ったのはキルガだった。
「その…カデスの牢獄とやらに行けばマルヴィナがいるんだな」
 キルガの言わんとしていることが分かった。だが、それより先にチェルスが「駄目だ」制した。
「あんたらは連れていけない。マルヴィナを人質に取られるのが落ちだ」
「だからって」キルガは言った。「このまま指をくわえて待ってはいられない!」
 確かに、実力はない。まだまだ弱くて、何もできない。けれど、仲間を助けたい気持ちは、譲れない。
しばらくチェルスとキルガたち三人が睨み合った。だが、流石のチェルスもその数には勝てない。
諦めたように舌打ちし、頭をがしがしと掻くと、二日待て、と言った。
「二日…?」
「時間がないから理由は省くが、おそらく明日あたりにでももう一回この里が襲われる可能性がある!
今度狙われるのはあんたら三人だ、そいつらを食い止めてからにしな。
兵士も下せないようじゃただの足手まといだ。いいな、二日待てよ!」
 チェルスは背を向けた。何かを考え込んでいた。

(そろそろ、あんたの力を借りるべきかもしれない)
(うーぃ。…確かに、ちょっくらまずいっぽいね)

 脳裏で自分の戦友に語りかけ。
 困惑顔の三人をその場に残し。



 蒼穹嚆矢は、再び空へ飛び立つ——…。
 長い戦いが、始まろうとしていた。








            【 ⅩⅢ 聖者 】  ——完。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.281 )
日時: 2013/03/18 20:50
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

    サイドストーリーⅣ  【 僧侶 】



 かつて、アルカニア、と呼ばれる街があった。
 場所は現在のビタリ海岸の高台の上、ビタリ山の東の断崖絶壁にたった他との交流が一切ない街であった。
だが、その街は、魔法によって栄えていた。魔法によって作られた崖下への移動手段——
俗にいうエレベーター、というものを使い(円盤に乗り、上下を移動する仕組みだった)、人々は水を得た。
その魔力で火を起こし、光をつくり、生活をしていた。
 そう——いわば、魔法都市。
 ここはとある有名な二つの魔法組織の本部が構えてあった。

 一つは、その知識で魔術を操り、生活から護衛まで幅広くその力を発揮する魔法組織。
ホーリーウィザード
 聖魔術師・センディアスラを頂点とする、『魔術団アーヴェイ』。

 もう一つは、その精神で癒しを施し、傷の治療だけでなく人の寿命まで研究を続ける魔法組織。
法王・ルヴァルディスタを頂点とする、『僧侶団マーティル』。
 ——…僧侶マイレナの所属する、団体である。


「…む。ぐぅ……ふむぐぐぐ」
 初めて聞く人だったらまずそのうち全員が何の音だと考えるだろうが、この音——否、声は、いびきである。
真横から日差しがまぶしく射し、その顔を容赦なく照らしているのに、
一向に起きる気配のない姉を、妹・ルィシアは冷めた目つきで眺めていた。
じりじりじり、と耳元のベルを鳴らす。起きない。鳴らす。鳴らし続ける。じりじりじりじり。
起きない。鳴らす。じりじりじりじりじり。近所迷惑になり始める。鳴らす。じりじりじりじ

「起きんかいっ!!」

 遂に折れて、というかキレて、横を向いて寝ているために上になった脇腹に両手チョップを叩きいれる。
ほぎゃー、とベル以上に近所迷惑な大声を上げて姉・マイレナは起きた。
「わ、ルイ、何でここに」
「自分の家ですから」
「あーそっか」
 納得するのかよ。
言うだけ言ってまたふらふらぽてんと寝そうになるマイレナを、今度は殴って止めるルィシア。
「遅刻する新人なんて即首飛ぶよ。いくら頭いいからって」
「なー…? …今何時!?」
「紅玉と橄欖の間——よりちょっと過ぎたあたり(7時半過ぎ)」
 いきなりガバリと起きるマイレナ。「さんくすルイ、助かったぁ!」
 危ない危ない、今から準備すれば何とか間に合う!
 こんな時間に起こしてくれるなんて本当に良くできた妹だ。なんせ物語のよくある話では大抵、
親族や友人は遅い時間にしか起こしてくれなくて、主人公が「遅刻だー!」って叫んで痛い目に遭うじゃないか。
 瞬時にして起き上がり支度を始めた姉を見てルィシアは、呆れかえりながら床に落とされた布団を拾い上げた。



 僧侶団マーティルの入団試験が行われたのはつい八日前。
 合格発表があったのは一昨日で、出勤は今日からである。一昨日渡された法衣を身に纏う。新人の証。
大抵の者には絹のローブが与えられるが、入団試験上位通過の者にはそれより少々上等なものが与えられる。
マイレナは二位通過で、纏うのはヒュプノスガウンと呼ばれる眠りの神を冠した法衣である。
他国で絹は上物らしいが、この国ではそうでもない。
時々商人たちが内緒で外国へ行って売りさばいているらしい。
 このせいで、他国と係わりのないはずのこの国の情報は少しずつ外部に漏れ始めてもいる。
 二人暮らしゆえに、行ってきますの言葉をルィシアだけにかけ、マイレナは外へ出た。
 今日も魔法都市は活気がある。




 いきなり意識が両手を上げてぶっ飛びそうだった。
 おはよう諸君今日から君たちは誇り高き聖者マーティル様に仕え法王ルヴァルディスタ様の下で
聖職に就く素晴らしき僧侶たちださぁこれより僧侶団についてをうんたらかんたら、うんぬんかんぬん、
聴いていてうんざりするほど長ったらしい司祭の言葉をマイレナはほぼ聞き流していた。
隣の娘はかなり真剣に聞いている。頷いてさえいる。勉強熱心なこってと、肩をすくめる思いだった。
だらだらとした話が終わり、組織内部の案内に入った。上位から二十人ずつ五つの集団に分かれるらしい。
 そうか、合格したのは百人程度か——そうちらりと思って、マイレナは案内について行った。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.282 )
日時: 2013/03/18 20:58
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「ここが精神統一の場、己の精神力を磨くためにうんぬん、ここが治療室、
怪我を負った人をかんぬん、そしてこちらが、だらだらだら…」
 こいつの説明は何故こんなに長い。
 マイレナはげんなりしながらついて行った。だが、流石は20位以内、殆ど皆熱心に話を聞いている。
先程隣にいた娘は本当に張り切っている。聞けば彼女が今回の入団試験のトップらしい。
「そしてこの先が上位僧たちの部屋なのだが、君たちはまだ入れない。
そしてそれより先の先、この組織の最上階にいらっしゃるのが法王ルヴァルディスタ様。
…話を聞いてばかりではつまらんか? ——ではここで質問だ。ルヴァルディスタ様の本名は?」
 一瞬、空気が揺れた。試験に出る範囲では法王の名は
ルヴァルディスタ・ルーウィとされているが(イヤそもそも、何でそんなのが試験に出るんだよ、てな話だが)、
正式にはもっと長いということは大抵の人に知られている。
 ルヴァルディスタ・シュアティ・ラムス・テスカナ・ルーウィ、それが法王の本名だ。
 だが、そこまで覚える人はあまりいないらしい。分かる人、と言われ、手を上げたのは三人。
トップの少女と五位の少年、そして不承不承ながらもマイレナ。上げただけましだろう。
 少年に答えを要求した司祭は、彼の完璧な答えに満足げに頷いた。
「では、関係はないが——あちらの、魔術団アーヴェイの頂点の正式な名前はわかるかい?」
 今度ばかりはこの二人も黙った。えー何それさすがにそんなの知らないよ。分かるわけないじゃない。
周りから囁かれるそんな会話すら聞き流しながら、マイレナは必死にあくびを噛み殺していた——が、
司祭にはバレバレだったらしい。
「君、ちょっとたるんでいるのではないかね? …答えてみなさい」
 でた、と、マイレナは思った。
態度の悪い生徒に難問を押し付け、解けないのを見てほら見たことかという表情をする。優越感に浸る教師。
 ここは学校じゃない。そしてマイレナは、生徒でもない。
「ほら——やはり答えられないだろう」
 思った通りの反応をする司祭を前に——ちょっぴり小馬鹿にしたような表情で、言って見せた。
「…センディアスラ・ガウス・ファルシ・テスカナ・フィージャー。
テスカナの名で分かるように法王サマの血縁関係に当たり、昔から双方の相性は悪く、
現在もそれは同様であり、互いに住民の支持を集めようとして組織の本拠地の様子もどんどん良くなり、
今や魔法組織は入団試験を行い優秀な人材のみを集めるエリート職になった——」
 すらすらと、訊ねたこと以外のことまで言い切ってしまったマイレナに、
周りは思わず唖然として時を止める。そんな空気を解くごとく、マイレナは同じ表情で言う——


「これで満足ですか?」






「姉さん、一体何やったわけ?」
 同日、後翠玉の刻を少し過ぎたあたり——家に帰ってきたマイレナに開口一番、ルィシアはそう言った。
「何が? ——ただいまルィシア」
「そのままの意味よ。——お帰り姉さん」
 テーブルの洋灯に火を灯し、出来上がった少なめの料理を並べてマイレナを見る。
「なんかすごい噂になっていたんだけど」
「…なんて?」
「色々。凄い頭いい人が来たー、とか、司祭を唸らせた新人がいるー、とか、
なんか魔術団と僧侶団の架け橋になるんじゃないかー、とまで言われていたんだけど…何やったの? 一体」
「いや別に何も——」
 何じゃそりゃ、てか架け橋て、と反論しようとして——思い当たる。あさっての方向を見た。
「…やったのね?」
「………ハイ」
「な、に、を?」
 妹の厳しい目。この表情になるとはぐらかせない。下手に言い繕うとすぐさまレイピアの餌食になる。
鍛錬用なのでもちろんさして危険ではないが、好んで痛い目に遭おうとも思わない。
…剣術に長けた妹をもつというのも考えものだ。
「…単に質問に答えただけだよ、魔術団の頂点を答えろって言うから」
「それだけじゃないでしょ」
「…えーと。ついでに昔っから相性悪いことを指摘しました」
「…で?」
 まだ聞くのか。
「…司祭殿が凍りついた」
「解凍させた後は」
 まだ聞くか。てか解凍させた後って。
「…爆笑されてこりゃあ面白い奴が来たって言われた」
「…そーゆーこと。得心いったわ」
 解放された。やれやれとマイレナは肩をおろす。
「あぁ、あと——」まだあるのか。「ひとりじゃ『爆笑』って言わないってことはわかってるわよね?」
「…分かってるよ?」だけど仮にも上位の人指して『馬鹿笑いしていた』とは言えないだろう。
「わかってんならいいわ」ルィシアは踵を返した。「そこで馬鹿扱いされるのも面倒だから」
 そんなに信用ないのかなぁ、とマイレナは椅子に腰かけながら苦笑した。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.283 )
日時: 2013/03/18 21:03
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 僧侶団に入職してから、半年が過ぎた。
 僧侶団本部東棟五階特別研究室前第二控室という長ったらしい名前の一室にて——

「…ふ、ぁぁぁぁ…」

 マイレナ、乙女のたしなみもなくがばぁと口を開ける。
「まったく君は。もう少し緊張感というものがないのかね? ついでに言うと淑女の姿というものは」
「あいにくながら」
「…ちなみに何回目か自覚しているか?」
「6854回よりは少ないかと」                          ・・
 例によって大あくびをかますマイレナに、司祭は—そう、あの日マイレナが唸らせたあのである—、
言葉で咎めながらも笑っていた。

 司祭の名はファンデ・ホウス、正式な名はもっと長いらしいが試験に出るわけでもないし
そもそも興味がないので覚えない。
「まぁ、君は優秀だし、多少は大目に見られるだろうがね——芝居でも態度を改めるふりをする気は」
「ありません」
「言い切ってくれるなよ」
 やれやれと肩をすくめる。が、先に少々述べたように咎めているようには見えない。
「僧侶団とて完璧な人材ばかりは集められん、中には反抗的なものもいたが——いやはや、
成績優秀なものは皆品行方正だったからな——あぁいや君がそうでないと言っているわけではないのだがな、」
「給料は実績で決まったでしょう」再び何回目かと聞かれるのも面倒くさいので今度はあくびは噛み殺した。
「態度によって加算されるという話も聞いていません。よって別に飾るつもりはありません」
「…完全に否定できない理由を立てたな。尤もといえば尤もではあるが——」

「聖者マーティル様の恩恵を。——お早いですね、司祭ファンデ様、同士マイレナ」

 途中で、別の声が遮った。そしてその声が慌ててもう一言。
「お話し中でしたか? 非礼をどうかお許しください」
 その声の主は、マイレナと同じく僧侶団本部東棟五階特別研究室前第二控室に呼ばれ、
まさしく淑女の振舞いをし、必要以上に丁寧で必要以上に勉強熱心で、なおかつ僧侶団入団試験トップ、
そしてその位置は未だしっかりと守り続けている——

「いや、気にせずとも良い、修行僧ティナ」


 ——少女ティナ・オーリウスレイである。


「勿体なきお言葉です」
 マイレナはその言葉にうんざりと顔をそらした。どうもこの少女は苦手だ。
いちいち言動がへつらっているようにしか思えない。
「あのぅ…わたくしは、遅かったのでしょうか?」
 自分より先に二人が来ていたことに戸惑って、ティナは訊ねた。ファンデの言うような
『品行方正な』彼女にとっては上司を待たせてしまったように思えるのだろう。
                ・・・・
「いいや、早いくらいだ。わたしはたまたま早く来てしまっただけなのだ」
 嘘を吐け、ウチに説教たれるのが目的だったんだろうが——とは言わない。
あくまで『品行方正な』ではなく、『面倒くさいから』ではあるが。
「それでも、お待たせいたしました——お詫び申し上げます」
「あぁティナ、君は少々力を抜きたまえ。そうへりくだられると相手はかえって居心地を悪くする」
 了解したように応えるティナ。やっぱり好きになれそうにない。




 だが、好きになれそうにどころか、根本的に嫌いになりそうな事実を、マイレナは目の当たりにしてしまった。
 司祭ファンデが失礼、と言って一時的に部屋をたった時——
ティナは空気漏れしたようにいきなり力を抜いたのである。
「ふー。肩イタイ」
「………………」マイレナは腕を組んで横目で見た。
「…あら? 驚かないのね」
「何の話」
「態度。普段こんな『いい子』なのが、こんな様子になるなんて」
 思いっきり、良く言えばのびのびと、悪く言えばだらけたティナの面白がるような声に、
だがマイレナはほぼ反応しない。
「別に——驚くことでもない」
「流石ね」ティナはニッとした。「あたしのこんな態度を見せるのはあなたが初めてよ」
「それ誇れること? 私に得があるようには思えないけど」
「…ふふっ。あなたは誰に対しても態度を変えないのね」
「それほど器用じゃないからね」で、何が言いたいんだこいつは。
「…ねぇ、何であたしたちがここに呼ばれたか、分かる?」
 おしゃべりな少女はそのにやついたような表情のまま問う。
「さぁね」
「…分かってるくせに」
 面倒くさいやつ。
「…どうせ——」黙っている方が面倒になりそうだと思い、仕方なしに答えてやろうと口を開いた瞬間、
ティナの姿勢がいきなり正しくなった。「あぁ、ありがとうございます。もう結構ですわ」
 いきなり口調を元に戻した——その理由はすぐに分かる。
「失礼、…司教様はまだお見えでないですかな?」
 その扉が開き、別の司祭が入ってきたのである。
この人も呼ばれたのか、と横目で見る。          ・・・・・
一方ティナは完璧な所作でお辞儀し、まだですわ、と先ほどの素晴らしい態度で応えた。
 その司祭と話すべくティナは進み出た。

 呆れ果てて無言を通すマイレナを、少し離れたそこから、ティナは含み笑いをして見た—— 一瞬だけ。


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