二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.109 )
日時: 2013/01/24 22:39
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

「船?」
 偶然の再会の喜びはそこそこにし、一行は本題である船の交渉をしにサンマロウ町長の家を訪れていた。
「そ。船。もらっていいかな」
 超がつくほど単刀直入に言ってしまったマルヴィナに他三人は何故かたじろぎ、
町長は両手いっぱいの宝石付き指輪を見せつけるようにぴらぴらと振った。
「ほっほ、何とまぁキレのいいお嬢さんだ」
 うるさいこの青ダコ、というシェナの呟きが聞こえたような聞こえなかったような。
「そぉですねぇ。アレはアタシの物ではなくてねぇ。マキナさんに頼んでみたらどうですかぁ?」
「…いちいち粘っこい話し方をするわね。きっとここから砂糖がたくさんとれるわよ」
 甘ったるい、という意味の言葉を遠回しにシェナは言ったのだが、
そりゃさすがのアタシも無理でして、と意味を理解していないまま真面目に反論される。
「…悪いけど、私このネバ甘男と喋りたくない。マルヴィナ、頼んだわよ」
 本人の前でよくこれだけ言えるなぁ、とマルヴィナは苦笑し、「マキナって?」と尋ねる。
「お屋敷のお嬢様ですよ。例の商人の娘さんです」
「あぁ」
 納得したのを確認し、町長は続ける。
「マキナさんなら、気前良くくださるでしょう。
来客全員を“おともだち”などと言って、ホイホイ物をあげていらっしゃるくらいですから」
「…何それ?」
「マキナさんの“おともだち”になれば何でも手に入るのですよぉ。妻なんて、
毎日のようにマキナさんをカモに、いえ、マキナさんと遊んであげてますよぉぉ」
 明らかにわざと間違えた町長の言葉に、四人はあからさまに顔をしかめた。



「つまり、あれってさ」
 町長の家を出た四人は一度同時にうなり、その後セリアスがぽつりと呟いた。
「船が欲しいなら、マキナと友達になれ、ってことだよな?」
「…そう、ね」
「なんか、後味悪りぃよ。だましてとったみたいでさ」
「確かにね」シェナは嘆息する。「そもそも私、そういうの、嫌いなのよね」
「とにかく」キルガが、赤くなり始めた空を見て言う。
「時間も時間だ。今日は、泊まろう。明日様子を見て…考えた方がいい」
「だね」
 最後にマルヴィナが同意し、服の砂埃を払う。「久々にまともな部屋で寝られそうだな」



 世界宿王グランプリ第二位の宿屋は、その名に恥じぬ豪華な部屋、美味の食事、従業員のもてなしであった。
これらに四人はとっさにカラコタ橋の宿屋と比べてしまい、苦笑し合った。
なにせカラコタ橋では大切な果実が盗まれないようにと宿屋で不寝番をするという矛盾した行動までしたのだ。
「やー、凄いな」宿の露天風呂で、空を見上げながらマルヴィナが言う。
「これだけにしては宿代も安いし。あの町長だったから心配だったんだ」
「ねー。ヤな奴だったよねぇ。もう少しでチョップ三発きまるところだったわ」
 シェナが言うと冗談に聞こえない。
「ま、今は風呂入ってるし、威力も落ちてるけどね」
「どんなんだ?」
 マルヴィナ、ぼそりと呟く。水音で幸いシェナには聞こえていなかった。
「それにしても、ホント気持ちいいわね。最近旅続きだったし、今日くらいはゆっくりしよーっと」
「わたしは早めに寝たいんだけれど…というかここで寝ちまいそう」
「珍しいわね、マルヴィナが眠くなるなんて。風邪ひくわよ」
 その言葉に、マルヴィナは今度は目をしばたたかせた。
「…なんか、かなり普通なツッコミだったな」
「はい?」
 シェナが問い返す。どうやら、もっと別の言葉を期待していたらしいが、
ちなみにどう答えてほしかったのかを聞いてみる。
「いや、欲したわけじゃないんだが。だってシェナなら、『明日のぼせたころに起こしてあげるわ』とか
『他の泊り客に湯けむり事故と見てほしいなら構わない』とか言いそう——痛っ!?」
 またしても答えはシェナチョップであったが、正直言って、
ちっとも威力は落ちていなかった(むしろ上がった)ような気がしたマルヴィナであった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.110 )
日時: 2013/01/24 22:43
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 風呂を出て着替え、服を洗濯し、シェナの長すぎる銀髪を乾かしているとき、
「あれっ?」マルヴィナは、一人の従業員に視点を合わせた。
綺麗な飴色の短い髪、化粧っ気のあまりないさっぱりした雰囲気の女性、マルヴィナはその人に声をかける。
「あのぉ…ひょっとして、ハイリーさん?」
 いきなり名を呼んだ泊まり客に、従業員は驚き、頷いた。
「え、えぇ…あの…?」
「やっぱり! ベクセリアで、町長サン家で、『お客様ですか?』って聞いてきた、
執事代理の、ハイリー・ミンテルさん…って」
「…マルヴィナ。あなた一体何者?」
 余計なほど覚えていたマルヴィナに半眼を向けるシェナ。
「…うん。わたしも、今思った」
(大抵あなたがこれほど覚えている相手って、怪しい人間のはずじゃ)
 マルヴィナはどこか疑わしい人物のことはよく覚えている。
実際、黒騎士の馬の鳴き声、ツォの魚窃盗未遂男、第一印象的に怪しかったらしい
カラコタ橋のメダル—開き直ってそう呼ぶことにしている—を今でもよく覚えているのだが、
(…ハイリーさんが、怪しい人物だって言うのかしら)
 そういえば、初めて会ったベクセリア、そこで見た彼女の動きには素人らしくないものがあった。
それと関係あるのだろうか。…いや。

(…考えすぎか)

 シェナは止めていた手でタオル越しに髪をぐしゃぐしゃにかき回し、髪の隙間から二人を見る。
どうやらハイリーもマルヴィナのことを思い出したらしい。二人は楽しそうに話していた。
やっぱり、考えすぎねとシェナは自嘲気味に笑った。
「それにしても、どうしてここに? ベクセリアで働いていたのに」
「あれは出稼ぎみたいなものです」ハイリーは笑う。
「生き別れた弟がこの街に残っているって聞いて帰ってきたんです。
…残念ながら、とっくに親戚の家に行ってしまったみたいなんですけれど」
「そう、だったんだ」
 姉弟か、と思った。天使界に兄弟の存在は珍しい。が、親は誰にもいない。
天使にとっての親は、創造神、創り、天使界に送る、全ての生命の父創造神グランゼニスだから。
「それで、今はここの宿で働いている、ということです」
「ここの人たち、感じも良いし、真面目そうだし、ハイリーさんにぴったりかもね」
 シェナが髪をもてあそびながら笑った。
「あはは、私はそんな真面目じゃ——コホン。…従業員が礼儀正しいのは、
以前町の中央のお屋敷で働いていた、使用人たちだからですね。
どうやら、一年前に、全員やめさせられたみたいなんですけど」
「やめさせられたぁ?」
 マルヴィナ、復唱。「全員?」
「あ、すみません! こんな話」
「い、いや、続けて」マルヴィナは言った。ハイリーは驚いて、つい頷いた。
「は、…はぁ。お屋敷のマキナさまに、そうおっしゃられたと」
「じゃあ、何? マキナって、今、あの屋敷に…一人暮らししているってこと?」
 ハイリーの答えは、肯定だった。
「一年前、病弱だったマキナさまのご病気が、
ある万病に効くという果実のおかげで治ったということでして。でも、それ以来、
どことなくマキナさまは変わられたみたいだと、おっしゃっていました」
 そうなんだ、と頷こうとしたマルヴィナ&シェナ、その視線を素早くばっちり合わせ、
同時に「「果実って!?」」とすごい勢いで尋ねる。
「は、はい? い、いえ、よくは存じませんが、
手の平にしっかりと乗るような、大きな金色の果物だったそうです」
 金色の果物——! マルヴィナは叫びそうになったが、何とか抑えた。もしかしてこんなのか!? と、実際に集めた三つの果実を見せてやりたかったが、
さすがにそうするとこの町の長の、『あのオヤジ』に目をつけられそうなので、
行動に移すわけにはいかなかった。第一、今は部屋の中である。
 それにしても、どこへ行っても果実がすんなり手に入らない。
行く先行く先、狙ったように果実があったということが、唯一の救いではあったが。
「でも、やっぱり、マキナさまのことが、心配になってしまうんです」
 ハイリーは深々と、ため息をつく。

「何でも人にあげてしまうから…だから、欲望だらけの町の人に、いいように使われてしまうんです」

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.111 )
日時: 2013/01/24 22:46
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 シェナは一人、部屋の外のベランダで夜風にあたっていた。ほてった頬を風が撫でていく。
(懐かしいな。この町)
 眠り始めるにはまだ早い夜、民家や酒場から、人々の笑い声が聞こえた。
                ・・・
 シェナは目を閉じる。この町は、あの日を迎えてから、初めて来た町だった。

 私が目覚めてから、初めて来——



「あれっシェナ?」

 と、いきなり自分を呼ぶ声がする。びくんっ! と体が大きくはね、
勢いよく振り返ると、そこにキルガがいる。
「な、あ、き、キルガっ?」
「どうしたんだ? こんなところで、風邪ひかないか…って、そんなわけないか」
 ・・・
 天使が風邪をひくなんてありえないよな、とキルガは苦笑した。
が、それよりもシェナは自分の今の反応の不自然さを彼に気付かれなかった、
あるいは気にされなかった事の方が重要であった。助かった、と思った。
「ええ。大丈夫。…マルヴィナなら、あっちのベランダよ」
「あ、そっちか。——いやいや、訊いてない訊いてない」
 キルガが納得してから、あわてて否定する。が、最初に言った言葉は明らかに本音である。
その様子にシェナはいつもの調子を取り戻し、
「はい、無理しない」
 と言ってやる。当然返す言葉のないキルガ、シェナに「いってらっしゃい」と見送られ、
溜め息をついていることがまるわかりな足取りでその場から立ち去る。
と言いながら向かい先がシェナの言った方向なのだから何とも言えない。
だが、真っ先に会ったのはマルヴィナではなく、サンディであった。

「やぁぁぁぁっと見つけた——っ! マジ探したんだからーっ!」
 探されていたのはこっちなのか? と胸中で突っ込みつつ、
キルガはとりあえず「…サンディ」と名を呼んでおいた。
「あれ、キルガじゃん。マルヴィナかと思った」
「視力は?」
「両眼7.0」
「どんなんだ…? どう考えても見た目に無理があるだろう」
 というキルガの正論は、当然ながらサンディを凹ます材料にはならないのだが。
ともかくマルヴィナを探していたらしい彼女に、マルヴィナならあっちのベランダだと、
シェナ情報をそのまま伝える。が、彼女はいるならイイ、とあっさりした答えを返し、そのままくるんと回る。
「とっこっろっでぇ〜、このアタシ見て、な〜んか気付くことナイ〜?」
「あぁ、コサージュか?」
「分かってんなら先に言いなさいヨっ!!」
 サンディがいつも髪を飾っているコサージュである。
が、今は恐ろしいほどに色鮮やかな強烈ピンクの派手な花に変わっている。
なんだかどこかで見たことがあるような気がしたが、それにしてもサンディの好みに
ぴったりあった花だな、と思った。見ているだけで目を覚ましそうである。
「どうしたんだ? それ」
「ふっふ〜ん。そこの花屋的なトコからもってきた〜」
 いやそれ花屋だろ、と言いたかったが、それよりもキルガが意見を付けたのは、
「つまり万引き?」
 ということである。サンディは即答で反論をする。
「人聞き悪っ! フツーに、んー、まぁもらった的な?」
「万引きだな」
 当然キルガもツッコむ。
 サンディがぷううううっ、と頬を膨らませ、キルガが後で代価を払っておくかと苦笑した時、
「あれ、キルガ、何やってんだ?」
 という、捜していた人物の声が後ろからして、頭の上に何かが乗っていたら
確実に吹っ飛ぶような勢いでキルガは慌て振り返った。その様子にマルヴィナは驚き、目をしばたたかせる。
「…何?」
「あ、いや…驚いた」
 何ともそのまんまな感想に、マルヴィナはあそ、と気の抜けた返事をする。
サンディがマルヴィナの姿を確認し、シェナのいる方向へ行き、そしてマルヴィナは逆方向、
つまり少し緊張したキルガの方向へ歩いて行って、そのままその横を、
…通り過ぎる。
「ま、いいや。おやすみ」
「…は? あの、マルヴィナ」
「あー眠…今日は寝られそう…じゃ」
「……………………………」
 一人残されたキルガを、シェナはもちろん笑いをこらえながら眺めていたりする。

 ちなみに、セリアスはとっくに寝たらしかった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.112 )
日時: 2013/01/24 22:49
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

        2.



 ——翌日。
 珍しく早く寝て、ぐっすりと眠ったはいいが、これまた珍しくちっとも起きてこないマルヴィナを
ひっぱたきくすぐり怒鳴り耳を引っ張り挙句の果てにはチョップまで一発かましたシェナだが、
やはり何をしてもダメである。普通なら何かしらの状態異常を考えるだろうが、
しつこく寝返りを打ちもにょもにょ何かを呟いているのだから、
やはり寝起きが悪い問題であろうということが分かる。
 というわけで、シェナはついに最終手段をとることにする。軽く身構え、
マルヴィナに向かって投げないようにするために集中し、そして。
「………………ドルマ」
 マルヴィナの頭上で、ぶぉすぶぅすぶぉすぶすっ、という何とも珍妙な音がして、
「ひいっ!?」
 マルヴィナ、いきなり生じた闇の気配に、戦闘の危機感を覚えてがばっと起床。
シェナは慌てて唱えるのを止める。目を高速でしばたたかせ、
呆然とするマルヴィナに対し、「おはよう」とそっけなく言うのであった。
「しぇしぇしぇシェナぁぁっ? アンタなんてことをっ…」
「はい、さっさと準備する」
 さらりと受け流される。
 憮然とした表情でマルヴィナはフェンサードレスに腕を通す。
そんなマルヴィナに、シェナは「珍しいわね」と話しかける。
「何が?」
「だから、最後に起きるなんて。セリアスじゃあるまいし」
 隣の部屋からセリアスの盛大なクシャミが聞こえる。
「んー…なんか、目覚めがすっきりしないなぁ…こんなにいい宿だったのに」
「えぇ?」シェナは眉を片方持ち上げる。
「私はぐっすりすっきりよ。…まさかマルヴィナ、こんなところで睡眠薬でも飲んだ?」
 茶化すつもりで言ったのだが、マルヴィナは何と「…それかも」と言い出した。シェナは引く。
 薬草がいい例であるように、人間の薬も天使には効く。可能性は否定できなかった。
「イヤ自分で飲んだわけじゃあないんだが…なんだろ…昨日の夜から、どーもねぇ…」
「か、仮にも女性であるマルヴィナに睡眠薬って…い、異常はないわよね!?」
「仮にもってなんだ仮にもって。わたしはれっきとした女だ…でも、気にはなる」
 あくびをしかけたマルヴィナ、そこで目をしっかり見開く。急にベッドの下を覗きこみ、
そこに隠した女神の果実を確認する。問題ない。三つ、確かにそこにあった。マルヴィナは嘆息した。
「よかった。もしこれが狙われたら、シャレになんないしね。危ない危ない」
「そうね。…って、まさかほんとにその果実狙われたんじゃないでしょうね…?」
 シェナは訝しんでそう呟く。マルヴィナは肩をすくめ、
「まぁ、シェナが来た以上、確認できなくなっちゃったけれどね」と言う。
 問い返すシェナに、マルヴィナは個室の扉を指した。
「下の方。見えるだろ? テープが」
 シェナが扉の下に目をやると、なるほどそこに、傷を負ったときに使用するテープが、扉が開くと
剥がれる位置に貼ってあった。マルヴィナが寝る前に貼り付けたものである。
こうすれば、マルヴィナが寝ている間に何かが侵入した時テープがはがれたことになり、
翌朝マルヴィナは侵入者の存在に気付けると言う仕組みだったのだが——今はシェナが入ってきたために、
シェナが来る前にそのテープはどうなっていたのかが分からないのである。
「…………………………………」
 ようやくその意味に気付き、シェナは絶句した。しまった、と冷や汗混じりにようやく呟く。
マルヴィナは笑い、考えすぎかもしれないし、いいよ、となだめる。シェナは微妙な表情で頷くのだった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.113 )
日時: 2013/01/24 22:52
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 マキナの家は、ハイリーの言った通り、使用人が誰もいなかった。一見豪華な屋敷も、
埃の積もったテーブルや額縁が目立ってしまい、どことなく静けさを感じる。
「掃除、していないのかしら」
「誰かが出入りした形跡は残っている…な」
 無論、床にも積もるものは積もっていた。
よくよく見てみれば、足跡がついているのである。妙にその跡が大きいのが気になるのだが。
「で。着いたはいいけど、どーすんだ…?」
 セリアスが呟いて、反応はない。沈黙が落ちたときに響いたのは、別の声だった。

「マーキーナーちゃんっ! あっそびに来たよ〜っ」

 甲高い、艶っぽい女の声がする。四人はあまりにも似つかわしくないその声に、
思わずびくりと体を硬直させる。声の主を見ようとそれぞれ視線を一点に集める。
そこにいたのは、明らかに遊んでいいような歳でない町の住民の大人たち。
どやどや、何のためらいもなく、一つの部屋へ向かう様を見て、キルガは
「とりあえず、ついていくか?」
 苦笑まじりに尋ねるが、もちろん道に、あるいは屋敷に迷いたくはないので、頷いた。
「怪しい人みたいだな、ここの住民たちは」
「…僕らも充分に怪しいと思う」
 部屋の扉の横に立ち、ほぼ盗み聞き状態である。確かにマルヴィナの言える台詞ではなかった。

 さておき、怪しい四人組、自然と黙る。中から、初めに訪れた女の声が真っ先に聞こえた。
「マキナちゃ〜ん、遊びに来たよん」
(仕事しろよ、仕事)
 と思ったのはセリアスである。
女は手にしたリボンをひらひらさせ、作り笑いを浮かべる。化粧の濃いその表情は結構怖かった。
 隣にもいる。武闘家風の、筋肉ムキムキと言うのが一番ふさわしい男である。
しかしその右手にあるのは、爪や棍ではなく、ケーキである。恐ろしいほどに似合っていなかった。
「今日はさ、マキナさんのためにケーキ作ってきたんだ」
 武闘家風男、にこやかに嘘をつく。
(…明らかに買ったものだろう…)
 と思ったのはキルガである。宿屋で商品として売られていたのを見たことがある。
 が、この際それはどうでもよいことであった。一番驚いたのは、マキナの反応である。
「ありがとう。ケ…キ? ケキー? 花瓶に入れて飾っておくわね」
(…は?)
 四人、大体同じタイミングで頭上に疑問符を浮かべた。
「もー、あんたは黙ってなよ! …ね、マキナちゃん。
いっつもおんなじリボンしてるでしょお? 新しーの、あげるー」
(…この喋り方、この町の特徴なのかしら)
 と思ったのはシェナである。
 が、やはり気になるマキナの反応は、簡潔であった。
「いらない!」
(短っ!)
 これはさすがに、四人同時に思った。
 もちろん、即答で拒絶された女は焦り、説明を始める。
「な、何でっ!? 色も模様も可愛いし、」
(…流行遅れよ、それは)もちろんシェナである。
 が、マキナ、聞く耳持たず。
「いらないったらいらない! これは大切なおともだちとお揃いだもん。いらない、帰って。もう絶交よ!」
「ちょ、ちょっと、待ってよぉっ」
 その様子を耳に、盗み聞きの四人、沈黙。

「強敵だ」マルヴィナ、
「恐るべし女神の果実、よね?」シェナ、
「つか女神より悪魔では…?」セリアス、
 そして、
「…誰が話す? 船のことは」
 キルガがぽつり呟く。
「………………………………………………」
 もちろん、うまく話す自信のない四人は、思い切り黙り込む。
「…仕方ない。多数決だ。せーので、行くに相応しい人を指差す。いいか?」
 マルヴィナが言い、異議はない。
「…せーの」
 決!
 マルヴィナが指したのはシェナ。シェナが指したのはセリアス。
セリアスが指したのはキルガ。キルガが指したのはマルヴィナ。
「…………………………………………………………………………………………………………………」
長い沈黙。
「…1対1対1対1…」
「…どする?」
 答えはない。こうなったら四人全員が行くか、とセリアスが言いかけた時。
「2ヨっ」
 別な声が遮る。無論、この独特な話し方は、マルヴィナのフードを住処とするサンディであった。
「はい?」
 問い返す四人に、サンディは得意げに胸をそらす。
「だってアタシ、マルヴィナ指してマスから」
 言いながら、サンディは長い爪をマルヴィナに突きつける。
「………は?」マルヴィナがやや遅れて反応し、
「…なら、多数決でマルヴィナ?」キルガ、
「そーみたーい」シェナ、
「…がんばれー」セリアス。
「ちょ…ちょっと待て、そんなんアリか—————っ!?」
 叫びこそしなかったものの、マルヴィナは心の中で屋敷をひっくり返すほどの勢いで虚しく抗議した。


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