二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.264 )
日時: 2013/03/13 21:55
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 『わたしは天使だ』——マルヴィナの耳と訳し方が正常であれば、チェルスはそう言った。
 うん、天使。天使だろうな、なんせ——



「っええええええええええええええ!!」
「はい近所迷惑ーーー!!」



 マルヴィナの叫びを叫びで封じるチェルス。「何だったんだ今の間」
「いやあの、完全に、天使界に住んでいるノリで答えかけました」
「言うまでもないがここ人間界な。わたしは天使だ。…さっきも言ったが本名は敢えて秘密な」
「敢えて?」
「敢えて」
「敢えた」
「敢えた。…何だこのやり取り」
 傍から見てどう考えても変な会話をし、チェルスは一度わざとらしく咳払いをすると、
屋根の上で伸びをする。危なっかしすぎて見ている方が背筋が凍る。
「えーとね。大体あんたと同じだよ。わたしも落ちて翼と光輪消えた感じ。
…ま、わたしの場合は、原因分かんないんだがな」
「ふぅん…ん?」                    ・・・・・・・
 答えかけて、チェルスの言葉に引っ掛かりを覚える。——わたしの場合は?
「ちょっと、今の」
「で、こんなナリでのらりくらり旅して、マイに会って、…で、ちょっくらいろいろあってね。
あぁさっき遮られたけれど、あいつ『究極呪文マダンテ』覚えたんだよね」
 あっさりと、とてつもないことを言ってくる。
「でもさ、賢者ってのはなんか複雑で。その究極呪文は名の通りすんごい力持っているからさ…
アイツ、自分に流れ込んだその力に耐えられなくってね。…爆発したんだ」
「…爆、発?」
「そ。…あいつ自身が」                              ・・・ ・・・・
 ————————————————っ!! 叫びにならない叫びをあげる。そんなまさか。人間が、爆発する?
(シェナ—————!!)
 脳裏に浮かんだのは、仲間の姿。彼女は、彼女は———!!
「で、その爆発に巻き込まれたのが、わたしってわけだ。——早い話、その影響でわたしは、死んじまったのさ」
「………………」
 それほどまでに、強い魔法。強すぎる、魔法。

「未練はかなりあったよ。多分、だから『未世界』に飛ばされたんだろうな…
わたしは、やり残したことがあった。叶わなかったことがあった。…だからわたしは、なりかわりを創った」
 いきなり彼女は、天を仰ぎ、口調を変えた。見上げるマルヴィナには、その眸の色は窺えなかったが——
その眸は、はっきりと、強く何かを憎む色をしていた。
「わたしは、ちょっとばか特別な天使の一員だった。割と大きな力を持っていたのさ。
どういうわけか、その力は残っていた。でも、自分を蘇らせるのは無理だった——だから、『創った』」
 マルヴィナの心臓が、脈打つ。それは、その生命体は———!!

「————————あんたをね」



 ——それが、マルヴィナなのだ。




 途方もない話だった。だが、嘘をついているとは思えなかった。天使でさえ驚愕する、異能の力。
世界はとてつもなく不思議だ、不思議だが——この話は群を抜いていた。
「で、その影響で、あんたはわたしの記憶を若干受け継いでんのさ。
あんたが本来知るべきじゃないことを知ってんのは、それが理由」
 沈黙の末、カクッ、と—正確に言えば、カ、クッ、と言ったテンポだった—首を傾げたマルヴィナに
チェルスは思い切り脱力。屋根から転げ落ちそうになりマルヴィナは慌てた。が、落ちなかった。
「あのねぇぇ。あんた、自分が何でこんなこと知っているんだ的なこと妙に知ってんだろ? それのこと」
「え、と———」
「あぁもう! 天の箱舟が蒼い木に停められるのを知っていたのはわたしが調べたことがあるから!
ガナン帝国を知っているのはわたしが係わったことがあるから!
箱舟の呼び出し方を知ってんのは最初に同じ!
グレイナルが竜だと知ってんのはわたしが会ったことがあるから!!
…どう、分かった?(ちなみに何のことか忘れた人は>>66>>128>>211>>254に飛んでくれ)」
 一気にまくし立てて一息つくチェルス。この持久力は褒めるべきか。
「えーっと、一応理解」
「一応かよ」
「あぁ、だからわたしは昔の天使界のことを少し知っていたんだな!?」
 得心いったようにマルヴィナが応えると——チェルスの眸は、またあの色を成す——そう、それは憎悪。
 え、とマルヴィナは、少し身を引いて呟いた。それは凶暴な、餓えた獣すら怯む、殺戮の眸。
 が——その眸は、彼女自身によって閉じられる。
「…どこまで知っている?」
「…えっ…いやその、…自分では思い出すことができなくて、でも誰かがなんか言ったら、
あぁそんなことがあったっけって思い出す感じで…そんな感じ」
 焦って、慌てて、けれどちゃんと言った。いつの間にか俯いていた。
「…そうか」
 短く答える。が——その声は、通常に戻っていた。そろそろと、顔を上げる。
 が、そこでマルヴィナが見たのは。


「ふ————————…うぁぁあ、ねっむ」
「………は?」


 いきなり伸び上って大あくびをする姿。
「あー眠。なぁなぁそろそろ眠くないかー? わたしは寝るのが趣味なんだよー」
「そ、それは趣味と言っていいのか!!?」
 さっきの様子の欠片もない、思いっきりだらけた様子である。一体さっきのは何だったんだ。
「いつでもどこでも寝られるぜ。ぶい」
「自慢する事じゃない、なんだぶいって」
「あー眠いそろそろ寝るお休み」
「ちょ、ちょっと待った!!」
 棒読みでさらりと言ったチェルスに、マルヴィナは慌てて静止の声をかける。危ない危ない。
「あのさ、明日、急にいなくなるとかやめてよ? …まだ聞きたいことは山積みだ」
「えー積むのかよーまーいーけどさー」
 やはり棒読み。
「まーそろそろガナンがこの辺くるだろーしさーその時は加勢してやっから安心しなー」
 変わらず棒読み。…って待て!!
「ちょっ今なんて!?」
「あー眠いそろそろ寝るお休み」
「どこまで戻ってんだ!!」
 マルヴィナはツッコみ、急いで復唱する。ガナンが来る?
「ちょ、そんな呑気な」
「はいお休み。お腹すいた。備えて寝な。まぶた重い。問答無用。お休みー」
「………………………」

 マルヴィナはむしろもう呆れて、何も言えなかった。



(…なるべく、里の人は巻き込みたくない)
 だが、強い決意は、抱いたけれども。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.265 )
日時: 2013/03/16 00:38
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

               3.



 ——歴史は繰り返す。
 あながち、それは、迷信ではないのかもしれない。
                                           ドルマ
———はいおはよう、敵襲だ! 起きろマルヴィナ! はい起きろ! 起きろー! 仕方ないここは闇固呪文を

「起きています! 起きています! はい起きています! チェルス…?」
 大事なことなので三回言いました——のギャグはマルヴィナは知らないが。
 どうやら、何某かの力を働かせて頭の中に話しかけてきたらしい。本当に一体、何者なんだ。いやそれより、そうそれより。
     ドルマ
 …何故闇固呪文系恐怖症と知っている!!?

「…? …えっと、チェルス?」
———あーやっと起きたねマルヴィナ。今すぐ準備して外に出ろ。ついでに仲間も起こしな。…襲うなよ
「…っ誰が襲うかぁぁぁぁぁっ!!」
———うわ耳、耳ちぎれる。きーんってするきーんって。あーもう早くする!
 朝っぱらから何つー冗談を、と憤慨しつつマルヴィナはキルガを呼ぶ。彼は起きていた、が問題はセリアス。
「がー」
 …やはり寝ていた。
「起きろ! 起きろ! 起きろ! 起きろ! 起きろ! セリアス! 起きろ! 起きろ!
起きろ! 敵襲だ! 起きろ! 起きろ! 起きろ! 起きろ! 起きろ!」
 目覚まし時計顔負けの勢いで叫ぶマルヴィナ。が、セリアスはしつこく寝返りを打つのみ。
計三十回「起きろ!」と言った挙句、マルヴィナは気疲れして一息。
これはかつてないほど寝起きが悪いのではないか。セリアス起こしの名人キルガは(本人はその呼ばれ名に
若干眉をひそめていた)既に外。
「起きろセリアス! 敵襲だぞ! あぁもう起きろ!!」
 それでも反応なし。マルヴィナの堪忍袋の緒が切れかける。
 マルヴィナは悪ーい黒ーい笑顔になり、剣を鞘ごと抜く。
(…あぁもう知らん)
 傍目から見れば可愛いとも言えなくはない笑顔のまま——マルヴィナは剣の鞘でセリアスの頭をブッ叩いた。
 奇妙な絶叫が響いた。



 マルヴィナは階段を使わず、そのまま二階の窓から地上へ飛び降りる。        ジゴ・スパーク
ざっ、と土を踏みしめ、着地。彼女が最初に見たのは、多すぎる紅鎧と、ドミールの民たち、獄雷爆を
発動させるキルガ、そして、見たことのない大剣を振るうチェルスの姿だった。
「ようやく来たか…いったい何やっていたんだか」
「とりあえずわたしのせいじゃないことは理解してもらいたい!」
「セリアスか」発動させ、息を吐くキルガが言った。「何回?」
「三十二」
「過去最高だ」
 キルガは真剣な顔のまま言う。その割に交わされている言葉はどうでもいいものなのだが。
「状況は?」
 隼の剣を構え、腰を落とし、マルヴィナはキルガに問う。キルガは敵と距離をとって答えた。
「彼女——あの人から聞いた情報ではあるが」あの人、とはチェルスだ。
「当初の兵士の数はざっと見積もって二十、どうやら兜の下は魔物らしい…元は人間だとか言っていたが、
うまくは聞き取れなかった。今は半分斃したが、殆どはあの人によるものだ」
「殆ど…?」
「あぁ」キルガは突進してきた兵士を眼光鋭く睨み付け、槍を振り相対する。マルヴィナも続いた。
「この里の人か? …なんか、違うように思えるんだが——」
 それに、と思う。それに——二度、驚いた。
 一度目は、彼女を見た瞬間に。二度目は、そこで驚いた、自分自身に。
 そう、また、思った。——懐かしいと。


「あぁ、違うよ」
 マルヴィナは気合を込めて魔物を一閃、剣を横に振って答えた。ようやく準備を整えたセリアスが
扉を開けて走ってくる。そして、同じように——チェルスを、驚いたように見る。
伝えるべき者たちが揃って、マルヴィナはにやりと笑うと——その動きを止めぬまま、言った。

「彼女が、わたしの『記憶の先祖』——“蒼穹嚆矢”チェルスだ」

 時を止めて思わず驚愕に叫んだキルガとセリアスに襲い掛かった魔物まで斃す羽目に遭った。




「はっ、大したことないな。その腕でわたしを狙おうなんざ三千年早いんだよ!」
 にやりと笑い——だがその瞬間、チェルスははっとして鋭く眼を空へ移した。険しい、顔で。
眼を見開く。ひゅっと、息を吸い込んだ。何かが、来る。この気は、知っている、これは、———————!!
「っ!!」
 マルヴィナが、視線を転じた。マルヴィナだけでない。キルガもセリアスも、戦う里の民たちも。
空に、紅が生じる。一つではない。複数だ。そのうちの一つ、少々黒みがかったその鎧、
艶めく羽と共に降りかかってきたその剣が過たずマルヴィナを狙う!!

「マルヴィナっ!!」
「だっ!!」

 マルヴィナは歯を食いしばり、咄嗟に前に跳び来んでそのまま転がった。
ワンピースの裾が翻ったが、この際恰好など気にしなかった。膝をついたまま、
剣を杖に必要以上に転がるのを防ぐ。キッと前を見据える。

「流石——不意打ちは、通用せずか」

 剣を地面に突き立てたまま、兜の下から聞こえた声は、女のもの。


 十二の魔物を従えて。
 空より獲物を狙い定め。
 紅き鎧に身を包む女剣士。
 今最も警戒すべき帝国の者。





「…ルィシア…!」





 再びマルヴィナの前に、現れた。その兜を無造作に放り投げ、魔剣士ルィシアは変わらず、冷たく笑う。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.266 )
日時: 2013/03/16 00:42
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 当初いた魔物どもは残さず撃退した。だが——新たに現れた敵。分かる。兜の下には、魔物の顔。
 魔物を従える騎士。
 静かというには緩すぎる緊張感が漂う。まるで、氷の中。冷たい、冷たい張りつめた空間。
「久しぶりでは、ないわね」
「あぁ」
 互いに値踏みするように視線を交わし合う、二人の剣士。ルィシアの眼が、もう一人の剣士に向いた。
「けれどこちらは——『お久しぶりです』——“蒼穹嚆矢”殿」
「…あぁ、久しぶりだ。…随分目つきが悪くなったな」
「帝国に居りますゆえ」ルィシアは嗤った。「昔とは違います」
「え? …え」
 マルヴィナはその会話の意味が分からなくて、訝しげに二人を見比べた。
「どういう——」視線を逸らしたのがまずかった。ルィシアは瞬時にして間合いを詰め、
マルヴィナの眼先を薙いだ。レイピアじゃない。今度は、両刃の剣だ。
再び不意を打たれ、マルヴィナは後ろにかろうじて跳躍。姿勢を低くする。頬が切れていた。
ルィシアは剣を振り、そして——マルヴィナに向かって、真っ直ぐに突きつけた。
「——追い詰めた。まさかこんな早く再戦を迎えるとは思わなかったけどね——
今ここで、あたしと戦う事ね、“天性の剣姫”」
「かっ」マルヴィナは喉が渇いていることに気付き——それに腹立たしさを覚えながら——言う。
「勝手なこと、言わないでくれる!?」
「従え、マルヴィナ」
 その言葉をさえぎったのは、他でもないチェルスだ。
驚いて、今度はルィシアから目をそらさず、説明を要求した。
「あんたがそいつを引き付けろ。じゃないと——形勢が崩れる」
 言葉の意味が分かった。現在のルィシアのポジションはこちらで言うチェルス、
団体戦にて個人技を発揮し、次々と敵を殲滅する者。誰かが引き付けておかねば、
こちらの戦士が一気に減ってしまう——そう言っているのだ。
「心配無用——あんたはそう簡単に殺られない。なんせ——」
 断言する、その理由は。
「わたしの『子孫』だからなッ!!」
 めちゃくちゃだ。マルヴィナは呆れながらも、頷いた。やってやる。
いずれ、剣を交わらせねばならなかった者だ。
 …いずれなら、今だってかまわない。
 マルヴィナは己の剣を見た。一対一には向いていない。ならば——
 後ずさる、しゃがみこむ。視線はつないだまま。右手を後ろへ、そして——掴む。

 敵国の剣を、その手に。
 右へ、左へ。強く重く振り、馴染ませる。がっしと握り、同じように相手に突き付けた。
「では、他の方には、暇を潰していただきましょうか——」
 ルィシアの鋭い合図、動き出す十二の魔物。キルガが、セリアスが、里の者たちが、
再び顔を険しくするその場で、ただ一人、チェルスは凶悪に笑う。
「さぁ、再戦だ」
 独特な、危険な生気を漂わせて、唱える——

「面を上げろ、武器をかざせ——戦闘開始!!」

 互いが吠えた。


                   ・・・・・
「…魔帝国騎士、“漆黒の妖剣”ルィシア・ローリアス」
「……」マルヴィナは一瞬考え——だが、堂々と、言った。「天界の民、“天性の剣姫”マルヴィナ」
 ルィシアが少しだけ、眉をひそめた。だが、それは一瞬。
 決定的な相手の発言に、マルヴィナは一瞬戸惑った、だがそれは一瞬。



 ——踏み込んだのは、ほぼ同時だった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.267 )
日時: 2013/03/18 20:52
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 重い斬撃。躱す。身をひねって半回転様に剣を振り下ろす。
斬撃の動きを止めぬまま、剣を頭上に、刃を刃で受け止める。
剣を離す。金属音。耳に障る。腰を落とす、居合腰。飛びのく、突き進む。
剣が擦れあう、ルィシアの気合一閃、炎をその剣に生じさせる。
(——火炎斬り!!)
 マルヴィナは顎をそらし、舌打ちした。魔法的な技も使うのか!髪が数本、焼けていた。厄介だ、と思った。
 上から、下へ。速い。重い。言うまでもない、相当の実力者。マルヴィナとほぼ互角だった。
一体誰に習ったのだろう、どうして魔法的な技が使えるのだろう——そんな考えは、
今は頭には入ってこなかった。ただひたすらに、目の前の敵の動きを見極める。
このままの状況が続けば、あとは体力、あるいは刃のこぼれ具合がモノを言う。
ろくに観察せずに取った剣はあまり良い使われ方をしていなかったらしく、心もとない。
早く、なるべく早く。速攻で終わらせられるような技術を、自分は持っているだろうか。

 —————ある。



 たった一つだけ—— 一撃必殺の強力な技が、ある。
だが、成功するかはわからない。もともと物理的な戦いを主としてきたマルヴィナにとって、
この技——魔法的な技は非常に難易度が高い。キルガに手伝ってもらいながら、鍛錬し続けた、この技。

 …やるしかない。できるかどうかじゃない。やる。

「————っは!!」
「!!」
 ルィシアの火炎斬り、再び突かれる不意。炎で隠された刃は見切ることができない。
「がっ!!」
 横腹を、剣が裂いた。たちまち紅くなる。思わずその場で、よろめいた。
(しまっ)
 マルヴィナが頬を引きつらせる、ルィシアが勝利の確信を笑みに乗せる。
「く、っ…………!!」
「終局!!」
  ト
 殺った。ルィシアは、そう思った。
 一瞬だけ。

 マルヴィナが鋭く叫んだ、その微妙な体勢から、彼女は後ろへ飛んだ——
 空中へ。

「なッ!?」
 さしものルィシアも驚いた。まさか——まさか、あの傷で、あの体勢で。
剣は上から振り下ろした。そんな中で宙返りなど——下手するとそのまま体に
刃が突き刺さりかねないその行動。あり得ない、だが実際にあったその行為に、
ルィシアは一瞬、けれど確かに、あってはならない隙を作った。
 膝を深く折り、腰を落とし、マルヴィナは剣を横に、両手で持った。意識を集中させる。


 雷光。稲妻。光電。稲光。光輝。


「————は」

 轟け。唸れ。気を溜めろ、溜め込んで——

「———ぁぁあ」

 そして————

「—————————————っあああああああああああああああ!!」




 ——————————————————爆発せよ!!




 稲妻が駆ける、響く轟音。黄金の雷電を、剣に生じさせ、一閃する、その名は。
 『雷光薙剣技』、
「…っギガスラッシュ————!!?」
 ルィシアの叫びは、最後まで聞こえなかった。手加減など意識の外に飛ばされていた
マルヴィナの一撃必殺を、驚愕したままもろに喰らい——がっ、と声を上げ、背を強かに打ち据えて——
ルィシアの手から、剣が抜け落ちた。


「……………っ、は」
 剣を両手に構えたまま、マルヴィナは荒い息を繰り返した。
横に倒れるルィシアの姿を認識できるようになると——マルヴィナは、はっとして剣を地面に落とした。
乾いた金属音。今更ながらに手に伝わった痺れ。疲労に、足の力が抜ける。
「かっ、た」
 どうにか呟くが——疲れすぎた。動けない。だが、戦いは終わっていない。
 ルィシアは肩で荒く息をし、どうにか立ち上がろうとするが、ままならない。
 ——終わった。ルィシアは、思った。ここで、あたしも終わりか。
「——マルヴィナ!」
 チェルスの声がした。よく知っていた者の声が。
 ——そう、そして、あなたも言うんでしょう? …とどめをさせ、と。

「殺すなよ。死なせるな! そいつには話がある、交代だ!」
「…ぅ、交代…?」
「あんたの役割は援護だ、戦うのは奴らに任せな——あんた、魔法使いか魔法戦士の経験は?」
 後者、と呟く。正直、喋る余裕さえ失われつつあった。
「悪いが戻ってくれ。その技で援護しな——」言いつつ、マルヴィナの額に指を突き付けるチェルス。
淡い光。回復したわけではない。だが——全身を巡る、変化の風。異なる力を取り戻した、感覚。
「…え?」
「それであんたは魔法戦士にもどった、あと少しだ、終わったらなんかおごってやる」
 素早く言って——チェルスは、困惑顔のマルヴィナを押し、未だ倒れるルィシアの前に立った。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.268 )
日時: 2013/03/17 00:30
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 困惑しつつも自分を奮い立たせ、兵士の——ではなく、自らの剣を手にする。
マルヴィナは、相手を見た。観察したのではない、見ただけで、敵の弱点が分かる。
それは魔法戦士の特技。一年弱異なった『職』を経験したが、勘は鈍っていない。
「マルヴィナ、悪いが相手の守備を下げてくれ!」
「分かった」        ル カ ナ ン
 マルヴィナは集中し詠唱、守減呪文改を唱える。魔物の気力を奪う。
そして、炎——ファイアフォースを送る——全員に。
「流れはこちらだ、一気に片を付ける!」
 疲労を払うように、マルヴィナは叫んだ。唱和が響く。

 それを見てチェルスは、よし、と頷くと——いつの間にか顔を上げていたルィシアと、視線をぶつけた。
「…なんの、つもり…?」
 自分を生かせ、と言った理由だ。
変わらず深く息を吐きながら、麻痺する身体を動かそうとして——無理だった。
「言った通り——話がある」
 チェルスは相手に合わせた姿勢にはならず、ただ立ったまま話し続ける。
「わたしを復活させ——あいつはどうなっている」
「…さぁ?」
 ルィシアは目を閉じてもう一度息を吐く。「どうこうとかは、訊いていない」
「…『儀式』は行われていないんだな」
 チェルスはどこかで安堵しながら、言った。
「貴女が、逃げ出した、から…よっぽどのことがない限り、『儀式』とやらは、行われないでしょうよ」
 帝国に対する侮蔑を孕んだ物言いに、チェルスは眉をひそめた。心中で、やはりと思いながら。
「…もう、一つだ」
 先陣を切るキルガとセリアス、後に続く里の民たちによって最後の魔物も、討伐される。
里の勝利に喜び、負傷者の手当てにまわりだした皆を見て、チェルスは問うた——
「里襲撃の命令を下したのは誰だ?」

 答えは、別の場所から返ってきた。

「わたくしですよ、“蒼穹嚆矢”殿」



 丁度、あるいは狙ってか。チェルスの名を呼んだ者が、姿を現す——
「ッ!!」
 意識の飛びかけたマルヴィナが、息を吐くキルガとセリアスが、はっとそいつの姿に目を見開いた。
ひだひだしたローブ、毒を含んだ丁寧語、まるで妖鳥のような顔の、男。
 あの日、箱舟を襲った者、

“ —首尾はどうですか? イザヤールさん— ”

 闇竜に乗り、師匠の名を呼んだ、あいつが————…。


「「…ゲルニック…!!」」


 マルヴィナとチェルスに同時に名を呼ばれたそいつが、邪悪な笑顔を浮かべて立っていた。





「…久しいな、“毒牙の妖術師”」
「全くです。いきなり面倒を起こしてくださった、出来損ないの天使殿」
「面倒起こしはどっちだ」チェルスが吐き捨て、マルヴィナが叫んだ。
「貴様っ…!」
 その姿を目に映し、ゲルニックはわざとらしく驚いて見せた。
「おやおや…生きていたのですか。確か、イザヤールさんの」
「死にかけた、で止めたよ!」マルヴィナは怒気を孕んで、詰め寄った。「よくも、わたしの師匠をっ…!」
 ゲルニックは答えなかった。まるで軽くあしらうような小馬鹿にした笑みを崩さず、
再びチェルスへ視線を転じる——否。その先は——ルィシア。はっとして、ルィシアが顔を上げた。
憤怒、屈辱。だが、動けない。
「…無様な」
 少々、声色を低くして——ゲルニックは、杖を持ち直す。
マルヴィナが、チェルスが、そして何よりルィシア自身が——その先の行動が目に見えて、息を呑む。
前触れなしに、杖から生じた黒い雷を伴う、箱舟を襲ったそれに酷似した渦が、ルィシアに向かって放たれる!!
「————————————ッ!」
 マルヴィナは、何かを叫ぼうとした。だが、声にはならなかった。
 狙いが外れるわけがない。それは、そこにいた——

「ぐっ!?」

 否、
 そこに飛び込んだチェルスを、遠慮容赦なく襲った。

「  」
 ルィシアの驚愕の声は、だが、チェルスが受けきれなかった分に襲われ、
意識が飛び——声には、ならなかった。
「チェルスっ」
 マルヴィナが叫ぶ、駈け寄ろうとして足をもつれさせる。
限界が来た。肩を支えるキルガ、武器を構えるセリアス。嗤うゲルニック。
「おやおや…まさか敵を庇うとは。まぁ、いいでしょう」
 くくっ、と、厭らしく笑って。
「——いずれこの里も消滅する」
「!?」顔を上げる、戦慄する。
「このっ」斧を手に、だっと走るセリアス。だが、その前に、ゲルニックは飛び去った。
 むなしく空をきった斧の上に、キメラの翼の羽が、嘲笑うようにはらりと落ちた——…。


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