二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.69 )
- 日時: 2013/01/20 21:24
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
セリアスは、ダーマ神殿地下一階のフリーフロアと呼ばれる場所で、ごすん、と椅子に座った。
「まぁまぁ。気を落とさないでよセリアス」
「落とすに決まってんだろ…せっかくきて、大神官いないから転職できません、そりゃねーよ…
あー、なりたかったなぁバトルマスター。うー…」
もう一度深い溜め息をつく。幸せ抜けるわよ、とシェナが小声で茶化し、マルヴィナがつま先で蹴る。
「ほぅ。そなた、バトルマスターになりたいと申すか」
ネ
そんな時にいきなり聞こえた声。よくあるパターンだなとマルヴィナがじろりと睨めつけかけ、
だがその半眼が見開かれる。
大体五十代の、日に焼けた肌を持つ、大柄な男だ。深い 皺、白髪がかった髪、だが老人を思わせない。
そんな男に声をかけられたセリアスは、まず初めに、相手の名を聞いた。
「…あの、あなたは?」
「私は、ロウ・アドネス。バトルマスターだ」
低く、重々しい声だが、恐ろしさを感じない。どっしりとした、冷静さを感じさせる。
マルヴィナが珍しく身を引き、キルガが興味深げに眺め、
シェナがしばらく見とれ、セリアスは椅子を蹴り立ち上がる。
「そ…そうなんですかっ? …うわぁ…なんか、……すげぇ」
率直な感想を言うセリアスに、ロウはそのままの表情を崩さず、聞き返した。
「少年。名を何と言う」
「あ、俺、セリアスです」
「そうか」一つ答えたのち、彼は少しだけ考える。「セリアス、そなたは今、戦士…といったところか」
凄い! マルヴィナは、顔に出さずそう思った。見ただけで。何の特徴もないこの姿だというのに、
一発で職を当ててしまった——いやまぁ確かに僧侶や魔法使いには見えないけれど。
驚いたのはマルヴィナだけではない。
「…どうして分かったのですか?」シェナの問いに、ロウは慇懃に笑って答える。
「この年まで神殿に滞在すればな。大体は、雰囲気で分かる」
年の功だけでそうなれば素晴らしいものである。
が、彼はその表情を少しだけ固くすると、改めてセリアスに向き直った。
「バトルマスター。そなたは、甘く見てはおらぬか?」
「え」
セリアスの瞼が高速でしばたたく。
「その名のとおり、バトルマスターは、戦いの猛者。己の全てを攻めにかけ、身を捨てても戦い抜く。
故に力は必要だ。だが、それだけでは、不十分だ」
「と、いうと…?」
「精神力だ」ロウは続ける。
「途中で投げ出さない、守りを考えない、己が向き合った相手には、最後まで向き合う」
「うっ…」セリアスが詰まる。
「そして——最後に、己の力は、己の力は、自分のために磨くのではない。
そなたの…その仲間のために、磨くのだ」
「仲間、の」
セリアスだけではない。マルヴィナも、キルガも、シェナもその話に聞き入ってしまう。
しばらく物も言えなかった。
だが、ロウはその様子を見て、臆するでない、と言った。
「だが、攻めに全てをかけると言うことは、守りの全てを捨てるも同然。
そうしても問題ない仲間を持っているか? 背を預ける友を持っているか?」
三人を見回して、最後にもう一度セリアスを見る。
「セリアス、決意があるならば、もう一度私の元を訪れるが良い」
言い残して、彼はフリーフロアの、最も隅の席にひとり座った。
「意外と…大変なんだな、バトルマスターって…セリアス?」
マルヴィナが呆然顔のセリアスに声をかけるが、キルガがそれを止めた。
考える時間をあげよう、と言う意味らしい。
「席を外そうか」
それを見て、とりあえずセリアスにそう言ったが。
「え、行くのか? 待てまて、俺も行くぞっ」
いつもの調子で、自分から放って置かれることを拒んだ。
落ち込んでいたんじゃないのか、と思ったキルガとシェナが顔を見合わせ…シェナが、呟いた。
「単純」
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.70 )
- 日時: 2013/01/20 21:28
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
その男は、かぶっていたビーバーハットをきゅっ、とかぶりなおした。
自分へと視線を送ってくる僧侶や魔法使いの女性たちに、軽く手を振ってやる。
女性たちの、その反応の分かりやすいこと! 瞬時に頬を薔薇色に染めてきゃいきゃいと騒ぐのである。
ところがその男、フフン、と嫌味に鼻を鳴らすと、その後いきなり溜め息をつくのである。
「なかなかボクの好みはいないなぁ…まぁ、仕方ない。それが本当のイイ男ってもんだ」
まったくもって意味がつながっていないが。
——だが、そんな時に、彼女はいた。その男の、理想とする女性は。
「それじゃ——そろそろ、果実に着いて情報を集めていこうか。どうせだし、二手に分かれるか?」
その女の子は、そう話していた。声も凛としていて素敵だ! …しかし、ちょっと待て。
今、果実、っていったか? わざわざ、こんなところに来て、求められる…果実。
それは、まさか…いい! いいぞ、話しかけるチャンス。
「そこの女の子!」
精一杯の、ボクのいい声を出す。今まで、これに振り返らなかった女の子は(ほとんど)いない。
実際、メイドと女戦士と、理想の女性——
…の隣の女の子が(若干睨みつけられた、というところまで気付かなかった)ボクを見る。が、
——か、か…肝心のその子は、見てくれなかった!! それどころか、話を思いっきり進めている。
「前と同じように行く? わたしとセリアス、キルガとシェナ、って形で。それとも、替——」
「ねぇマルヴィナ」
「ん?」
その理想の女性は——マルヴィナというらしい。いい名前だ!
——少々発音しにくいが、ボクに呼べない女の子の名前はない。
「この人、貴女に用事があるみたいだけど?」
「は? 何?」
ようやくまっすぐ見る形となる。面と向かうと、かなり可愛い! ボクは一つ咳払いして、話しかけた。
「果実って…金色のかい?」
結局その場に残ることにしたマルヴィナたちは、その場でこれからの方針について話し合っていた。
「そこの女の子!」
とか言う声には、シェナが反応し、口中でうっさいわねと毒づいていた。
まさかそれが自分に向かってかけられた言葉だったとは欠片も思っていなかったマルヴィナは、
いきなり現れた第一印象・嫌味男に、いきなりつっけんどんな物言いをした。
だが、
「果実って…金色のかい?」
その言葉に、眉をひそめ、立ち上がって聞き返す。
「…なんで知っているんだ? ——イヤそもそも、あんた誰?」
その嫌味男は、ビーバーハットを(再び)かぶりなおし、馬鹿馬鹿しいほどに丁寧なお辞儀をする。
「ボクは——スカリオ! 華麗なる魔法戦士さ!」
「へぇ」
大して興味を持たないマルヴィナである。
「な、なかなか簡潔だね」少々落胆したのち、精一杯余裕の笑みを浮かべながら感想を言う変人。
「この反応以外に何か? で、その果実探しているんだ。情報があるなら、教えて欲しい」
一応は依頼する側、極度に優しくなりすぎず失礼になりすぎずの微妙な口調で、
マルヴィナはそっけなく言った。だが、変人男、否スカリオは、ふふん、と鼻を鳴らす。
セリアスは咄嗟にロウ・アドネスと比べてしまい、咳払いした。
本当は今すぐ剣の餌食にしたかったが情報提供してくれないと困るのでどうにか堪える。
「教えてあげてもいいけどー、その代わり、ボクと——」
「あー、スカリオさん。マルヴィナは口説かないほーがいいよー。本気で怒らすと、こわいよー」
シェナが冗談とも本気とも取れる、一番恐ろしい口調でさえぎる。
「…口説いていたのか? 悪いがあんたみたいな変人に興味はない。
情報も教えてくれないなら、いるだけ無駄だ。とっとと帰れ」
マルヴィナがトゲだらけの言葉を返す。
キルガは苦笑し、セリアスは吹き出し、シェナはうんうん、と頷く。
「あ、あぁ、じょっ冗談だよ! 教えるよ。
——実はねぇ、その果実、ここの大神官が食べちゃったんだよね」
少々長い、沈黙が落ちた。
「……………………………………………………………た」
そして、震えてマルヴィナが声を出す。
「「「「食べたぁ———————————————————————っ!?」」」」
…その後フリーフロアに、四人分の声が響き渡った。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.71 )
- 日時: 2013/01/20 21:35
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
当然だが、その大声に反応した者がいる。
メイドと、とある武闘家であった。
「イヤイヤイヤイヤイヤてめぇ冗談でいう事じゃねーぞそれ!!?」今にも胸ぐらをつかんで
縦にぶんぶん振りそうな勢いのセリアスを制するべくシェナがチョップを叩きいれる。
「冗談なのか!?」
「冗談じゃないよ! ボクは見たんだ! あぁ信じてくれ小鳥よ」
「一気に信用無くなった!」
「ヒドイ!」
「あの果実」空気をぶち壊して、キルガが冷静に、けれど内心焦りに焦って言った。
「人間が口にすると、まずい」
「な、何だいキミいきなり——」あ、やば、と言うセリアスの声がした。見れば二人とも少々退散している。
マルヴィナとセリアスにとっては案の定、シェナとスカリオにとっては驚くことに、
キルガは鋭い睨みと固められた拳、半端ない殺気を醸し出した。
「………」蛇に見込まれた蛙、というのはこういう事だと誰もが思った。
キルガが誰かの話をさえぎると言うことはよっぽど重要な話があると言う事であり、
またこの時に下手に話を続けるとこうなる。まだいい方である。恐ろしいときは、
——イヤこれ以上言うのはやめておこう。
「…なんで?」
ともかく、その雰囲気に少々首をすくめながらも、シェナが問い返す。
自分がつい公共の場で大声を出してしまっていたということにようやく気付いたマルヴィナは、
いくらか声をひそめてシェナに知らないの? と聞き返し、素早く説明した。
「女神の果実は、願いを叶えるチカラがある。…だけど、願いがあまりにも強すぎたり、
心に邪悪があったりすると、食らったものの身体から破壊したり、
自分を抑えることが出来なくなるらしいんだ」
「…え」シェナは視線を逸らした。「何それ、知らなかった…てか、まずいんじゃないの? それ」
「かなりまずい。邪念はともかく、強すぎる願い事はありがちだし…スカリオ!」
「なんだい?」
名前を呼んでもらったスカリオはいい返事をする。
後ろのセリアスから剣を少々抜いた音がしたのは気のせいか。
「大神官が行きそうなところを知っているか!?」
そんなことは当然気にしていないマルヴィナは鋭く言い放つが、
スカリオはビクッと硬直し、あさっての方向を見る。
「…………………………………」
「…知らないのか?」
「とんでもない。ただボクが興味あるのは可愛い女の子の行く先で——」
「知らないのね」
簡潔に呟いたシェナの発言には六本ほど棘がくっついていた。
「…肝心な時に…」
そんなことで八つ当たりも出来ないのだが——
「…あの…心当たりが、あるんですが」
こういった言葉が聞こえると、やはりスカリオの間抜けさを感じさせられるマルヴィナである。
視線を転じた先に立っていた者——それは、例のメイドだった。
「はい?」またしても突然現れた初見の人間に視線を転じるマルヴィナ。
「あの…あたし、最後に大神官様にお会いしたんです。
果実も、大神官様がデザートとして出して欲しいと言われたので…お出ししました。
でも…それを口にされたとき、大神官様は、急に人が変わったようにフリーフロアを退出されたんです」
四人は顔を見合わせた。
「間違いないな。女神——」 ・・・・・・・・
言いかけて、セリアスは一度口をつぐむ。「俺らの探している果実だ」
「そのようだね」殺気モードの解けたキルガも頷く。
「それで、心当たりがあるって言うのは?」
スカリオに対するものとは全く違う口調で、マルヴィナが尋ねる。ほとんどスカリオは無視されていた。
「ダーマの塔、さ」
次に言ったのは、武闘家の男である。シェナはその様子から、あ、この二人恋人だ、と鋭い観察力を見せた。
「塔?」
「ああ」武闘家は答える。
「昔は転職の儀式はそこで行われていたんだ。だが、今は魔物の巣窟…誰も近寄らないが、
多分、そこにいると思う。俺も探しに行きたかったんだが、コイツ一人残してはいけないしよ」
「愛ね」シェナが呟く。
「んじゃ、わたしたちが行こう」マルヴィナはその話を聞くなり勢い良く仲間を振り返り、
拳を握り締めて言う。
「あんたらが!? い、いや、だけど、…あそこの魔物は強いぜ? 大丈夫なのか…?」
「じゃ誰かについて来てもらう」
あっさりと言ったマルヴィナに、おいおい、とつっこむセリアス。
…その後、マルヴィナはロウ・アドネスをつれて戻ってきた。
一体どうやって説得したのかが大いに気になるところだったが、彼女は何も言わなかった。
いきなり現れた大男にスカリオはビビり、武闘家男は安心した顔になる。
「ロウさんが一緒なら心強い。…悪いな、あんたたち。こんなこと頼んじまって」
「ご、ごめんなさい…」
「謝る必要はないよ。どうせ、わたしたちは行かなきゃならなかったんだし…ね!」
マルヴィナが同意を求める。当たり前、と言うように、三人は頷いた。
この四人…武闘家男は、目を細めた。
もしかしたら、見かけによらず、凄い奴らかもしれない。会話から、何となくそう思った。
一同は、ダーマの塔を目指す。
何故か人数が六人いたが。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.72 )
- 日時: 2013/01/20 21:39
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
3.
ダーマの塔。
かつて転職の儀式があったというだけあって中はなかなか神聖な雰囲気を感じさせられた。
しかしこうも魔物が多くては、神聖もへったくれもない。そして。
「…………………………………なんでアンタまでいるんだ?」
ちゃっかり横にいる変人スカリオもうっとうしい。
「何でって、来ないなんて一言も言ってないよ」
「来るとも言ってないだろっ」
「まぁ、細かいことは——」
「気にするわッ」
「ああ、ようやくボクに気を——」
「前言撤回、気にさわる!!」
妙にテンポのいい会話を背景に。案内人・ロウ・アドネスは、先頭にいた。
当然の如く、セリアスはその後ろである。彼は向かってくる魔物にのみ対抗した。
逃げ隠れする魔物には、手を出さない。だが、その一撃の、重さ、鋭さ、正確さ。
初老であることなど全く気にならなかった。一瞬たりとも隙を見せない。
代わりに、無駄のない行動をとる。そんな彼の動きを、セリアスは糸でつながれたように見続けた。
これが、バトルマスター…
(常にまわりを意識し、集中する…仲間を、守る為に)
セリアスの中で、決意が固まってゆく。
ロウの強さに恐れをなしたのか、魔物たちは上階ではほとんど手を出してこなかった。
しんがりのスカリオを狙おうとする魔物もいたが、意外なことにそいつらは
スカリオの剣技の元に次々ひれ伏して行った。
(…へぇ。意外とやるんだ)
マルヴィナはその様子を見て、少しだけ、ほんの少しだけ、本当に僅かに、
見えないくらい僅かにだけ認める。
そんなわけで、意外と早く塔の頂上に着く。それでも、そろそろ夕暮れる前であった。
「誰もいない…よね」
シェナが嘆息しつつ呟く。「もしかして無駄骨だった?」
「いや」答えたのはロウだ。「こちらだ」
ロウが指し示したのは、明らかに場違いそうな、そこにぽつんと立つ大きな鏡である。
銀色だったのだろうその縁は、今や永の時を超えて灰色にくすんでいた。
「これは己の決意を表す鏡」説明する。
「転職は生半可な決意で出来るものではなかった。
その決意を認められた者のみ、この先の空間へ行けたのだ…だが」
ロウはそのまま呻く。シェナが首を傾げて、言った。
「…確かに、何らかの魔法的な力がかかっているみたいだけど…
どっちかというと、呪いの匂いがしませんか? …これは、きっと別の入る方法があるはず」
「分かるのか。…だがあいにく私は、魔法的なものの知識はないのでな」
そりゃそーだバトルマスターなんだから、と声に出さずマルヴィナ。
「“光戦士”殿」
「ん?」
ロウの特別な名の呼び方に、反応したのはスカリオである。
「なんだい? てか、知ってたのか。ボクのこと」
「無論だ。…任せても良いだろうか」
「あぁ、いいよ。魔法はボクの専門だからね」
前に進み出るスカリオ。
「………“光戦士”?」
「ボク自身の称号さ」
スカリオは至るところを観察しつつ答える。
「知らないのかい? 旅人や城の兵士などには、たいてい称号が付けられる。
神殿でつけてもらえることもあるんだ。世界広しと言えど、同じ名前の人はいるからね。
称号なら、よっぽどのことがない限り同じものは現れない…分かったよ」
スカリオは肩越しに振り返る。「行くかい? この先に」
「行く。当たり前だろ」
「ん。じゃあ、みんな、目を瞑ってくれ。——行くよ」
マルヴィナは、目を閉じた。
身体がかあっと熱くなる。重い風が、彼らをさらった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.73 )
- 日時: 2013/01/22 15:17
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「っっっっっぱはぁっ!?」
マルヴィナは無意識に止めていた息を一気に吐いた。
「んあぁぁ…苦しかった」
「息止めてるからよ。…っと。お出ましかしら?」
軽くツっこんでから、シェナは銀色の髪を掻き分けにやりと笑った。
鏡の中の世界。
視線の先は、漆黒の魔神。針の如く鋭い二の腕を、その魔神はいきなりの来客六人に突きつけた。
「何だ…貴様ら?」
「そりゃこっちのセリフだよ」セリアスが呟く。「大神官はどこだ?」
「大神官? はっ!」魔神は突き放したように笑う。
「馬鹿め。分からぬか! 今や私は大神官ではない…この力で人間どもを従えさせる魔神、ジャダーマである!」
「…俺が馬鹿なのは認めるけどよ。何? つまりアンタ、大神官?」
「魔人ジャダーマと言っておる!」
何このやりとり、とシェナは呆れた。
漆黒の魔神、元大神官は、唇と思しきそこをむぎゅうと歪めた。 ・・・
「ちょっと。何で、大神官が魔物なんかになっているんだ? しかも、ジャマーダ?」
「…えーと。ジャダーマね」キルガが吹き出しそうになるのをこらえて訂正する。
「確かに邪魔にはなるが——ともかく、果実のせい、だろうな」
「果実? …まさか…」やはり願いが強すぎて…? 言う前に、的は行動した。
「うわっ、来た!」六人はばっと散った。左にセリアス、ロウ、シェナ。右にマルヴィナ、スカリオ、キルガ。
…なんだか謀ったような組み合わせである。
がぁん! 腕が床に叩きつけられ、ヒビを作る。凄い破壊力だ、と四人は思った。
「ジョーダンじゃないって」
マルヴィナは呟き、仕方ないとばかりに剣を抜く。
「…果実が、大神官を魔物にしちゃったってこと?」
「だろうね。…彼の身体から破壊するために」
「果実に強く願いすぎたって事か。てことは、元は人間なんだな? 戦いにくいなぁ…」
マルヴィナは嘆息したが。
「いや…大丈夫だ」キルガは答える。
「彼は死なない。果実による呪いなら、彼を倒せば、呪いが解けるはずだ。あの書物が正しければね」
書物、と言うのは天使界に帰った時にキルガが読んだものである。
「そっか。じゃあ、…遠慮は、いらないんだな?」
「あぁ。ま、ほら。既にセリアスもロウさんも、攻撃に専念しているし」
ロウが何かを呟くたびに、セリアスのいい返事が聞こえる。緊張しているのか、張り切っているのか。
いずれにせよ、セリアスは戦いの才能が四人の中では一番長けている。
セリアスなら、なれると思った。彼の憧れる、バトルマスターに。
後は、彼が信頼して背中を預けられる仲間——自分たちがそうである必要がある。
「…うん。じゃ、ボクもだね。——せっ!」
スカリオの気合いの声が響く。マルヴィナが目をしばたたかせた時、
元大神官を除く全員に、光の力が生じた。きらきらと輝く、聖なる光。
「…な? 何今の?」思わず尋ねるマルヴィナに、スカリオは得意げに鼻を鳴らす。
「フォースさ。ライトフォース! 魔物には、それぞれ弱点がある。
その弱点を突き、また自分たちの守りを固める…それがフォース。魔法戦士だけの!」
「…フォース、か」
マルヴィナは少し考える。受けた光の力を感じながら。ジャダーマの、隙を探りながら。
…悪くないかもしれない。この、魔法戦士というものも——いや、スカリオは別として。
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