二次創作小説(映像)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.179 )
- 日時: 2013/01/29 21:49
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
マラミアはまず、自分たちのことから話しはじめた。
自分の正体——それは、“霊”ではない。
そもそも、人間の世界に、実在していた者たちではないのだ。種類の名はない。
あえて、“不人間”とでも言っておこうか、とマラミアは話した。
住まう地は、先程ちらりとその名を出した“未世界—実はこれも仮名である—”。
未世界とは、人の形をしていながら人になれなかった者=不人間、
実在はしていたが強すぎる後悔、未練を残した者=霊、の二つの種類が集う場所だという。
『何でそんな世界があるんだとかは聞くなよ。
何で人間界とか天使界があるんだって聞くようなもんだから』
マラミアはそう言って、余計な質問を回避した。
『まぁ、いろいろややこしい世界だからその辺の説明は必要な時にだな』
既に十分ややこしいわ、と言いかけてマルヴィナは一応黙ったままを保った。
『で。…どうやら今の世、その“未世界”から“霊”を蘇らせるほどの力を持っている奴がいるらしい』
「はぁ!?」マルヴィナはつい大声を出し、急いで口を塞ぐ。
マラミアのジト目に、ゴメン、と頭を下げて謝る。
「え、じゃあマラミアも」
『誰が呼び捨てで良いっつった!? …しかも、アタシは“不人間”だって』
やはり混乱するマルヴィナに、マラミアはやっぱ説明難しいわ、と溜め息をつき、説明再開。
“霊”が蘇るというのは、実体として再びこの世に存在すること。
“不人間”がこの世に出てくることは束の間の“顕現”であり、時間が限られていること。
『“不人間”系統を呼び出すのは、修業を積んだ奴ならまぁ難しいことじゃあないんだ。
ほら、例えばあんたも今日、あの二匹の狼呼び出したろ?
…あいつらも、“不人間”だよ。なんかおかしいけどな』
頭の中でその言葉を理解するのに少々かかった。「…えぇっ!? あの二匹が!?」
『そ。それとか、ほら、占い師とか召喚士とかいるだろ? あいつらが呼び出すのも、“不人間”だ』
「あ…そういうことなんだ。幽霊呼び出しているわけじゃないんだ」
『そう勘違いされてっけどな。…でも、“霊”は違う。
一度消えた魂を再び戻すってのは、とんでもない力が必要なんだ。だから、よく言われるだろ?
たとえ蘇生の呪文を身につけたとしても油断するな、命が完全に消えるまでに呼び戻せと——
完全に消去される前なら、蘇らせることが出来る奴もいる』
マルヴィナはその言葉を聞いたことがなかったが、おそらく賢者であるシェナは聞いたことがあるのだろう。
『しかも、その蘇生ができるって奴は——』マラミアは話を戻し、そして一度切る。
少し溜めてから、言った。
『…どうやらガナンの中にいるらしい』
マルヴィナの眼が開く。マラミアが出会ってから一番厳しい表情を作る。沈黙が、続いた。
が、その重苦しい空気を払うように、いきなりマラミアは『…ま』と気の抜けた声を出した。
「はい?」
『ちょっくらそろそろ時間がまずいんでね。
このほかに聞きたいことがあったらエルシオン学院にいるマイに聞いてみ』
「は? …マイ?」
『そ。…あぁ、本名はマイレナな。へへっ、アタシら、こんな感じの愛称持ってんだ。
マイレナはマイだし、アイリスはアイだし。アタシはマミ』
「…マラミアだけ滅茶苦茶わかりにくいね」
『余計じゃ』
「…で? あと一人は?」
マルヴィナの質問に、マラミアは固まる。
「イヤ『ん?』って顔しないでよ。わたしの記憶の先祖とやらだよ」
『あー…』マラミアは答えを濁す。『ま、とにかく、一応エルシオンはここから東な』
「無視かい」
『アイツは賢者だったんだ、少なくともアタシらん中で一番頭がいい。いろいろ教えてくれるだろうさ』
要するに、マイレナという人物に聞けと言うらしい。
賢者…その言葉に、再びシェナを思い浮かべる。ガナン。シェナ。つながり——?
「あのさ。えっと、シェナってわかる?」
『あー? あぁ、分かるけど』
「話が早いな。…あのさ、シェナ、ガナン絡みとなると、
いつも何かに怯えたような感じになるんだ。…何か、知らない?」
知るわけないか。聞いている途中に、思った。
だが、マラミアの眼が一瞬、本当に一瞬だけ険しくなったのを、マルヴィナは見た。
——知っている?
『あー…うん。そりゃ、仕方ないわ』
そして、言いづらそうに、その言葉から始める。そして、言った——…。
『その娘昔、ガナン帝国に捕まってたことがあるようだな。だからだろ』
先ほどより長い沈黙が落ちた。
「え」
マルヴィナは一言呟き——
「ええええぇぇぇぇえええっ!?」
そして、思わず叫んだ。
『わっ、バカっ』マラミアは焦り、そして、自分を見てさらに焦った。顕現時間がもう終了するのだ。
『と、とにかく、いいか、その話、絶対誰にも話すな、本人にもだ!
もし話した時、お前の魂消滅させることになるからなっ!? とにかく次はマイに会』
マラミアの話途中で、声は途切れた。
宴の続く集落の片隅で、マルヴィナはしばらくの間ずっと立ち尽くした。
とんでもない過去を秘めていた、仲間を想いながら。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.180 )
- 日時: 2013/01/29 21:52
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「あと一つ、か——」
セリアスが腕や背を十分に伸ばしながら言った。
ダーマ神殿、ツォの浜、カラコタの橋、サンマロウ、グビアナ砂漠、カルバドの草原。
そして今、導かれるままに、次の地へと赴こうとしている。
そこに、果実はあるだろうか。期待と不安が入り混じるとは、まさにこのことである。
「エルシオン学院? 有名な学校ね。文武ともに鍛えられるっていう…何、マラミアって人が言ったの? そこへ行けって」
「う、うん」
「…どうしたのマルヴィナ。調子悪いの?」
「え」マルヴィナはシェナの視線を受けかけ——そらす。ううん、大丈夫、と呟くように言った。
カルバドの集落を後にした彼らは、次なる地エルシオンに向けて船を出した。
セリアスはいつもの通り舵を切り、マルヴィナは魔物の姿が見えた時以外はのんびりモード、
シェナは多量の魔力使用による気絶の後遺症(?)がすっかり消え、
そしてキルガは例によって調子が悪いのだが、寝ているとサンディがわぁきゃあうるさい、ということを
学んだので今日は初めから外に出て潮風に当たっていた。
マルヴィナはそっと目を伏せる。まともに、シェナを見ていられなかったから。
まさか、ガナンに捕まっていたことがあったなんて——道理で、過剰な反応を見せてしまうわけだ。
けれど——
“—その話、絶対誰にも話すな、本人にもだ! もし話した時、お前の魂消滅させることになるからなっ!?—”
…先日の戦いでマルヴィナが呼び出した二匹の狼は、実際にこの世のものに傷をつけた。
実体がないと言えど、ものに触れることができる——ややこしすぎる。 だが、事実であるのだ。つまり…マラミアの行ったこと——マルヴィナの魂を消滅させる、
即ち殺めることは、可能。
…物騒なひと。
マルヴィナは、そっとそう思った。
「で——何、まだ聞きたいことがあったの?」
「うん、まだ、教えてもらっていないことだらけでね。
まず“記憶の先祖”とやらの正体も名前も聞いていないし、正直、何かこんがらかってきてさ。だから」
「ふぅん…」
シェナが頷く。そして、会話が切れたのを境に、一度大きく伸び、そのまま柱に背を預けて座った。
「いい天気ね、今日も」
「そうだね。…確かにこれだけの快晴だったら、外にいた方が酔わないだろうね」
マルヴィナはキルガを見て、言った。最近誰も髪を切っていないせいで、
キルガの髪も少し長くなってきている。周りの女性曰く、それがいいらしいのだが、
やはりまだマルヴィナはそういうことに関しては鈍感だった。
「キルガも、いろいろ変わったよねぇ」シェナが呟く。
「なんていうか、何かを超えたような…成長とか、そういうのじゃなくて。どことなく、そんな感じがするわね」
「確かにね」マルヴィナは頷く。「顔つきが、変わったと思う」
「あぁ、言えてる。…それにしても様になるわね…容姿が良いやつには風が似合うってのは本当ね」
「毎回思うんだけれど、それ、誰の言葉?」
「ん? 毎回即興」
「じゃあ『本当ね』とか『〜とは言うものだ』とか人に聞いたような言い方を止めてくれ…ややこしい」
いいのいいの、と手を振ってシェナは笑った。
なんとなく噂されている気がしたので、キルガは遂に怪訝そうな視線を送ってくる。
二人は肩をすくめ、そちらへ向かった。
「調子は?」
とりあえず、最初にそう聞いておく。
「前よりはずっと良いと思う」
「でしょうね」マルヴィナではなく、シェナが笑って答えた。
バサつく髪を掬うように抑えつつ(シェナが決まりすぎでしょ、と半眼になっていた)、
キルガは、ところで次の場所にも誰かがいるのか、と問うてくる。
「うん、いる。マイレナって人で——そう、シェナと同じ、賢者だったらしい」
「——へっ?」シェナが素っ頓狂な声を上げる。いきなりの指名に驚いたのかと思ったが、違った。
「…私」
しばらく悩んで、考えてから——やっぱり、と確信を持ったような口調で、シェナはいきなり言った。
「私、その人のこと、知ってる——」
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.181 )
- 日時: 2013/01/29 21:57
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
数秒の沈黙の後、マルヴィナが、神妙この上ない顔つきでシェナの肩を叩いた。
「…前から何度も言っているし、」
「うん」
「前から何回も思っていたが、」
「うん」
「シェナ、…………………………あんたいったい何者?」
「………………………………」黙ってから、シェナは何とも微妙な笑顔をつくった。
「うーん…今回は、“賢者”かな?」
意外とまともな答えが返ってきたので、マルヴィナは頓狂な声を上げてから手を放す。
「結構有名なひとなのよ。たしか、本名はマイレナ・ローリアス・ナイン。
初めは、彼女は僧侶だったの。とある有名な世界に認められる団の一員だったみたい。
で、治療の魔力を十分に身に着けて、しばらくして賢者となって——最終的に、
史上最強とまで言われる呪文を手懐けた、賢者の中の賢者よ」
恐ろしくさらりと説明してしまったシェナに、やっぱ何モンだこいつ、という半眼を送るふたり。
「そんな顔しないでよ。賢者の中じゃ常識でもあるんだから。
ほら、多分、称号なら、この世界の冒険者も知っているかもよ?」
「そなのか?」
「ちなみに?」
マルヴィナ、キルガと言い、シェナはえーと、と呟いてから、言った。
「確か——“賢人猊下”」
過剰に反応したのは、マルヴィナだった。
「賢人猊下!?」
あぁ、やっぱり知ってる? ——と言いかけて、
表情が驚愕以外の何かを秘めていることに気付き、言葉に詰まる。
「どうしたの?」
「だ、ダーマ神殿で、聞いたことがある。ほら、名前知らないけれど、武闘家の人がいたろ。
彼に、聞いたんだ…伝説とまで言われた、その女戦士の名前」
「伝説」キルガが言う。「なんだかその言葉も生ぬるく聞こえるほど凄そうだな、そのマイレナって人は」
「そうね」頷いてから、ついでにとシェナは二人に説明を始めた。
「まず、究極呪文を覚えるまでが大変だわ。…究極呪文マダンテは、太古の昔の大賢者が編み出した
聖とも邪ともつかない魔法。でも、その前に、二つの魔法を取得しなければならないの」
イオグランデ
一つは、聖——空爆呪文系統最大の魔法、極爆破呪文。
ドルマドン
もう一つは、邪——闇呪文系統最大の魔法、絶闇呪文。
有能な賢者となると、ある日突然、とんでもない高熱を出すらしい。
それが、その二つの内、どちらかを身に着ける合図——
ドルマドン イオグランデ
自分の中に闇が多ければ、取得するのは絶闇呪文、光ならば、極爆破呪文だと言われている。
「呪文で自分の評価がされるってことか…恐ろしいな」
「そうね。でも、もう一つの魔法を取得するにはどうすればいいのか、
それはあまり知られていないの。そもそも、一つを身に付けられても、二つ目は無理だ、って人が多いしね」
何で? と問い返す。シェナはだって、と肩をすくめた。
「自分が光の存在だ…って証明してもらったとしたら、大抵、もう一つの呪文を覚えるために
邪悪になろうとする人なんて、そうそういないでしょ? 逆に、闇だって証明されたら…
ショックじゃない? 悔しくて、でもどうにもならない。
邪悪だって言われた自分が聖になれるはずがない、って」
「あー…」マルヴィナは曖昧に答えた。
「まぁ、後者は、人間にはありがちだな。…シェナはまだ覚えないのか?」
カルバドの地で、シェナはその二つの一歩手前の呪文を取得した。
となると、これはそろそろだという合図ではないのかと、キルガはそう言っているのだ。
だが、シェナは「まだまだ!」とどこか笑って言った。
「あんなのとはレベルが違いすぎるわよ。このうちのどっちかを覚えるだけでも大変なんだし、
まだ私じゃ無理ね。…それに」
一度切って——シェナは、少しだけ表情を暗くして、呟いた。
「…できれば、今のままがいいわ」
「………………………?」
マルヴィナとキルガは、顔を見合わせた。
シェナのその一言に、何か言い表せない辛さを感じたので。
(そうか…てことは、マイレナは、“霊”なのか——)
賢人猊下——まさか、その名をここで聞くとは思わなかった。
そして、あれ? とつい呟く。賢人猊下——その名を聴いて、思い浮かべられるもう一つの名——
——“蒼穹嚆矢”。
もう一人の、女戦士。
彼女は、一体——…?
何故かは分からない。
けれど、潮風が、その時だけ冷たく感じた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.182 )
- 日時: 2013/01/29 22:02
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
サイドストーリー 【 夢 】
本当に、気が付いたら、そこにいた。
目を開けているのか閉じているのかがわからない。それほどまでに、真っ暗——違う。真っ黒な世界。
「…っキルガ? セリアス、シェナーっ?」
仲間は、わたしの仲間はどこにいる? わたしはどうなっているんだ。ここは——どこなんだ?
「ッ!!」
途端、わたしは震え上がる。鳥肌が一気に襲ってきた。 ・・・・・
思わず耳を塞ぐ——塞いでいるの? 同じ音量で、まだ聞こえる、まだ叫んでいる。誰の、何の叫び声なんだ…?
…何かが見えた、何が? …あれは、なんだ…?
「 ——————————————————————————— 」
音量が高まる、空間がびりびりと揺れる——
もう無理だ、耐え き れ ———…
「——声?」
…翌朝、アシュバルの地帯のとある場所で。
次にエルシオン学院を目指すことが決定した四人は、海の状況を見てここ二日ほどは
船旅を避けたほうがいいと決め、テントを張り、そこで野宿生活をしていた。
カルバドでもらった野菜や肉を腐らせないよう、キルガは野菜を塩漬けにし、
適当な具でマルヴィナはシチューを作り(料理はリッカに教えてもらったため、何気に今は一番上手い)、
シェナはそれを手伝っていた。
鶏肉と、ジャガイモと人参、カルバド特有の玉ねぎ、大豆、なんかよくわからない紫の物体、
それにそろそろ消費期限の怪しげなものになってきたパンを小さくつぶして混ぜ込んだものである。
食材を探しに行ってくれているセリアスが戻ってきたら、もう少し中身が増えるかもしれない。
手伝いの手を止め、シェナはそう問い返した。
「うん。キルガは聞こえなかったって言っているけれど」
「珍しく寝られたからね。わからない」
昨日の不寝番の担当はセリアスとシェナだった。キルガが知らないのも無理はないのである。
「んー…昨日は静かだったからねぇ。叫んだ奴といえばブラックベジターくらいだけれど、
きぃきぃ言っていた程度だし」
「ブラックベジター…?」マルヴィナはその名に覚えがなく、問い返す。
「紫色のキュウリみたいな、あるいはズッキーニみたいなやつ」
「あぁ…」
マルヴィナは目をぱちぱちしばたたかせてから…ガッ、といきなりすごい勢いでシチューの中を覗き込む。
「ちょっとまて。さっきこの中になんか訳分からん紫色の物体放り込んだけれど…
それまさか、…まさかじゃないよな!?」
「え? いやマルヴィナ、それは——」キルガの言葉をさえぎって、
「あれ? バレた? いやーだってあまりにも美味しそうだったからー…☆」と、シェナ。
「『だったからー☆』じゃないっ!! ちょっと待てせっかくの食材がっ!!」
「だいじょーぶだってマルヴィナ」
「全然大丈夫なんかじゃ——あ、セリアス、…お帰り…」
トーンダウンしたマルヴィナの視線の先は、戻ってきたセリアスの抱える紫色の——大きな玉である。
「……………何、それ?」
「そのシチューの中に入ってるやつ」
「…じゃなくて、その名前は?」
「…あぁ、ウドラーの葉っぱ」
「……………………………………………」
しばらく固まってやはりすごい勢いでマルヴィナは再びシチューと対面し、中身をどうにかしようと手を伸ばし、
「紫キャベツだよ、マルヴィナ」
ようやくキルガが苦笑して真実を告げた。
「……は? むらさききゃべつ?」
問い返したマルヴィナが改めてシェナとセリアスを見ると、二人そろって笑いだすのをこらえている始末。
「あ…あんたら…」
ようやくからかわれたと気づいたマルヴィナは、お玉を持つ手に亀裂を走らせんばかりの力をこめ、
頬をぴくつかせてほんのちょっぴり黒い笑顔で二人をにらみつけた。
「いや悪い悪い、なんかあまりにも面白そうな雰囲気だったんで」
「まさかここまで簡単に引っかかるなんて思わなかったのよ」
ねぇ、と見合う二人に、マルヴィナは今度こそにっこり笑って一言、
「ふたりともシチュー抜きな」
慌てて二人が頭を下げたのは言うまでもない話。
「声…?」
幸いマルヴィナの機嫌が直って、温かいシチューにありつけるようになったセリアスは(シェナもだが)、
シェナと同じように問い返した。
「いや、確かに叫んだって言ったらこのシチューに入れたブラックベジターくらい」
「しつこいぞ」
「冗談。昨日倒したブラックベジターくらいだが…そんなに響かなかったしな。
夢に出てくるまでの声じゃあなかった」
「そっか…」
マルヴィナは天を仰いだ。
「なんか、こだわっちゃうんだよな。すごく、鮮明に覚えていてさ…何だろう、
なんか…かかわるような気がしてさ、その魔物と」
「あぁ、やっぱり、魔物だったの?」
「多分」マルヴィナはすくった時に頭を出した紫の物体に若干顔をしかめかけ、だが平静を保って頷く。
「でも、あんなの、見たことがない。なんか、大きくて、角があって…目つきが悪くて——
そう、なんか、サイが服着て威張り散らしているような奴だった」
「…っ?」
反応したのは、キルガとシェナだ。マルヴィナとセリアスは訝しげに首をかしげる。
だが、二人とも、まさかね——とでも言いたげな表情だった。どうやら二人が考えているのは同じものらしい。
相当あっぴろげなものだったのか、あり得ないことだったのか——その日は、
マルヴィナがいくら聞き出そうとしても、二人とも何も教えてはくれなかった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.183 )
- 日時: 2013/01/29 22:07
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
消えかかったたき火を見て、マルヴィナは体操座りをした。
今夜の不寝番はマルヴィナとキルガである。先にマルヴィナ、後にキルガ、
日付が変わってしばらく経つから、あと半時余りでキルガが起きてきて交代するはずなのだが——
代わったところで寝られそうになかった。
寝られないのに寝ようとするのはこれで結構厳しいので、大抵そういう時は起きたまま不寝番を続ける。
今日もそうしようかな、と思っていると、キルガとセリアスのいる側のテントの幕の開く音がした。
「あぁ、キルガ…まだちょっと早いよ?」
いつもの言葉だ。
「いや、いいよ。一度起きてしまったら、また当分寝られない」
そして、いつもの言葉が返ってくる。言えてる、と相槌を打って、マルヴィナは座る位置を横にずらした。
「マルヴィナこそ、寝ないのか?」開けてもらった位置に座り、キルガは手を温める。これもいつもの言葉だ。
「うん、寝られそうにない」
「そっか」
この五つの会話は最早パターン化している。けれど、それに対して特に何も言うわけでもない。
キルガは天を仰ぎ、口をつぐむ。
「あのさ」
マルヴィナはやはり、気になっていたことを聞き出したくて、声をかける。
「何でもいいんだ。何を知っているの? わたしが見た夢の…あの魔物について」
キルガはまだ考えていたのか、と少し苦笑した。
「いや、本当にあり得ない話なんだ、気にしないほうが——」
「いい」
一言で、瞬殺される。なおも説得しようとしたが、マルヴィナはあくまでも真剣だった。
「……………」キルガは困ったように視線を一度そらしたが、根負けした。
軽くため息をつき、本気にするような話じゃないことは分かってくれよ、と前置きをしてから、
ついに話し始めた。
「ずっと前——そうだな、僕が守護天使になる少し前だったか…
酒場でディムさんに不思議な話を聞かせてもらってね」
キルガは、師匠のローシャがよく行くために、
彼女を探すべく酒場に行く(あるいは行かされる)ことが多かった。そのため、
自然と酒場をよく利用する天使たちと交流が深くなったりするのである。
ディムという天使もそうで、彼は守護天使を引退した初老の天使である。
その年のおかげか、なかなかの情報通であったのだ。
「世界は、一つだけじゃない——さまざまな次元の違う世界がある…
いわゆる並行世界、ってものがあるといわれているんだ」
「並行世界?」
「あぁ。多分…マルヴィナの言っていた、“未世界”ってやつも、その種類なんじゃないかな」
なるほどね…マルヴィナは肩をすくめる。
でも、訂正、言ったのはマラミアね、とツッコむところはツッコんだが。
「並行世界は、絶対に行くことのできない場所だ…行くべきでもない。
けれど、この世界の生物がそこに通じることのできる場所がある」
マルヴィナは無言のままに話を促し、キルガはそれに応える。
「『夢の中』だ」
マルヴィナは目をしばたたかせる。
「…じゃあ、わたしは夢を通じてその並行世界に通じていたってことか? …なんか言葉が被ったな」
自分自身にツッコミを入れたマルヴィナに少しだけ笑ってから、多分、とキルガは答えた。
「で——次は、テトさんから聞いた話だけれどね」
「あぁ、アレクのお師匠さん?」
マルヴィナたちの四年後に天使界に送られてきた幼なじみの一人である。
「そう。同じ、その並行世界の話だったんだけれど…やはり、未知の世界だから、さまざまな生物がいる。
言い出すとキリがないけれど——まぁ、代表的なものをあげれば、人間とか、ドワーフとか、
獣とか、人魚とか、霊とか——もちろん、魔物だってある」
「魔物…」
「かなりの力を持ったものだっている。…」
そこで一度、キルガは黙る。
もう一度言うけれど、本気の話じゃないから、と呟いてから、最初の質問の答えを話す。
「…テトさんに聞いた強大な力を持つといわれている魔物に、マルヴィナが言っていたような奴がいたんだ」
マルヴィナは笑わなかった。あくまで、真剣に受け止めた。
「まぁ、その並行世界自体、本当にあるのかどうかなんてはっきりしていない。
昔から伝わるものではあるけれど、すべて嘘だっていう可能性だってある」
「『煙のないところに火は立たない』っていうけれど?」
「まぁね——ん? …マルヴィナ、逆。『火のない所に煙は立たぬ』じゃないか?」
「え?」
「煙はなくても火は立つだろ」
思い返して、マルヴィナは少しだけ固まってからあさっての方向を見た。
「ともかく」無理やりその言い間違いを無視し、マルヴィナ。「わたしはその話、ありかもしれないって思う」
「そうか? まぁ…信じるのは、その人次第だからね」
「キルガは信じていないの?」
キルガは質問を聞いてから少し考え込み、天を仰ぐ。
「そうだな…信じるだけの理由はない。でも、信じない理由もないからね」
「…………………」
「答えになっていないか。まぁ、あえて言えば——」
ふっ、と視線をマルヴィナに戻して——言葉が途切れる。
マルヴィナが、ぐらりと揺れた—あえて言うなら、そんな感じだった—瞬間、どさり、と横に倒れる。
いきなり気を失った彼女に驚き、言葉を失ったのだ。だが、容体は確認しなければならない。
「マルヴィ——」
ナ、とまでは言えなかった。次いで、キルガもまた。
目の前が急に歪んだかと思うと、頭に重みが増したような気がして——彼もまた、気を失った——…。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107
この掲示板は過去ログ化されています。