二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.74 )
- 日時: 2013/01/20 21:46
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
ジャダーマが、両手を天に掲げる。刹那、どこからともなく稲妻がほとばしった。
雷は忠実に、敵の位置へ落ちる。呻き声が重なる。セリアスは攻撃への集中から、咄嗟に反応できなかった。
手が痺れ、剣がはじかれる。大きく弧を描いて、剣は飛び——
「わ、ちょっ!?」
…それはシェナの右手に収まる。思わず、彼女は剣を掴んだのである。
片手で。
「…えっ? シェ、ナ?」
剣は、重みのある、本格的なものであった。
マルヴィナはその天性の才能からその剣を扱うことが出来たが、シェナは賢者であり、
普段力仕事は任せる方である。そんなシェナが、剣を、しかも咄嗟に——片手で、支えた。
「……あ、せ、セリアスっ!」
「お、さんきゅ!」
セリアスはその事実に気付かなかったらしい。それだけ、集中しているのだ。この戦いに。
マルヴィナとキルガの訝しげな視線を背に感じて、シェナは少し肩をすぼめた。
「相手の、隙を探る…守りを考えず…確実にダメージを与えるために…」
セリアスは、ブツブツと呟いた。そして、目線をあげる。
元大神官は完全に魔の神に従っていた。マルヴィナには、それが歯がゆかった。
神に絶対を誓うはずの神官が、他の神に従っている?
ふざけんな、そんな怒りが、マルヴィナを静かに取り巻いた。
マルヴィナに生じていた光の力が、だんだんと大きくなっていく。スカリオは一瞬目を見張った。
無防備となるほどに自分の光に集中するマルヴィナ、
それに目を留めたジャダーマの攻撃を、キルガがさえぎった。
ジャダーマは舌打ちし、攻撃の的をセリアスに向けた。セリアスも同じだった。
ただし、相手の動き、隙、そして自分の実力を、冷静に考えて。
ジャダーマとの差、三丈ほど。セリアスは動かない。微動だにしない。
「————————っセリアス!!」
マルヴィナがその時、叫んだ。マルヴィナの光の力が、一瞬にして消えた——否、移った。
精神を集中させるセリアスに、マルヴィナの——
フォースに関しては素人であるはずのマルヴィナの光のそれが、セリアスに移ったのである。
攻撃。横ざまからキルガが走り込んだ。槍と、盾を使って、その攻撃を的外れな方向へ向ける。
セリアスが動いた。キルガが強く地面を蹴って後ろへ離れた。
驚いたジャダーマが、キルガに視線を向けていたのが、セリアスにとっての好機だった。
意図に気付き、更に驚愕に顔を歪めるジャダーマの瞳を見る。
そして——
————————斬る!!
——ジャダーマが、叫んだ。
まるで何かを、己の身の内にある何かを、絞り出すように。
痛み。そして、己が使えていたはずの聖なる神の声が——神の叱咤が——頭に、響いた。
あの剣に——少年の持った、あの剣に、何よりも清らかな、聖なる光が宿った。
それは、あの少女の、チカラ。
光…私は、何をやっていたのだ…何故私が、闇になっているのだ…
私は、光であり続けなければ、いけなかったのに——
黒い煙が、全身を取り巻いている。黒い力が、消えてゆく。
…煙が消えた時、中から現れたのは、力尽きたようにうつぶせになる大神官その人だった。
ぐらつく頭を押さえ、うつろな眸で、初めに目の前に立つセリアスを見る。
セリアスが息をつき、大神官に立てますか? と手を差し出した。
「…私は…一体何を、していたのだ? …何故、私は」
「果実」後ろで、マルヴィナは言う。「光る果実を食べた。…そうだろ?」
「果実…?」復唱したのち、はっと顔を上げる。
「そ、そうじゃ。果実…そうじゃ。
…だが、思い出せるのは…自分が、自分でなくなっていくような…そんな、恐ろしさ…」
言葉をいきなり切って、大神官は切羽詰った表情ではっと顔をあげた。
セリアスの差し出した手を無視して、ふらリ、と立ち上がる。ありゃ、とセリアスが気の抜けた反応をした。
「戻らなくては。神殿に、人々が、私を呼んでおる」
まだ何かに取り付かれているかのように、危なげな足取りで歩く。
「おっと…送っていくとしようか。すまぬがあとで——セリアス、あとで私のところに来い」
ロウがそう言い、セリアスが驚いた。が、彼は大神官を追い、スカリオがそれに続く。
マルヴィナが続かないのを見て止まりかけたが、以外三人に睨まれたので、そそくさと退散した。
残された四人は、自然に顔を見合わせる。
「…で。結局、果実…駄目だったのかな」
「さぁ…………ん?」
シェナの声に肩をすくめたマルヴィナは何となく横を見て、
そしてそこにぽつんと残されたものをしばらく眺めた。
「………………」
それは、黄金に輝く、綺麗な果実——
「…………………………」
マルヴィナは、それが何か判断するまでに少々長い時間を使い。
「ッあああああぁぁぁああっ!?」
叫んだ。セリアスが盛大に驚く。
「うわわっ! 何だいきなり!」
「か、果実だ! 女神の果実だ! まだ残って——たのか?」
「聞くの?」
シェナが最後につっこんだ。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.75 )
- 日時: 2013/01/20 21:48
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
こうして。
一つ目の果実を手に入れた一行は、ダーマ神殿へ戻った。
神殿もちょっとした活気を取り戻し、転職を心待ちにしていた人々が続々と押し寄せた。
中にはメイドになりたいとか言う老人(男)もいたが…一体どうなったのだろう。
シェナいわく、「あーゆーオジジはどこにでもいるものよ」らしいが、
…とりあえず気にしないでおいた。
…ところで。
「セリアス〜。転職おめでとう? ま、とにかく、良かったわね」
シェナは転職を終えたセリアスに真っ先に声をかけに行った。
セリアスはびっ、と親指を立ててはにかんだ。バトルマスターとして、ロウに実力を認められたのである。
ジャダーマ戦、セリアスが最後に見せた、あの動き。守りを捨て、攻撃に専念した、あの一撃。
まさかバトルマスターとしての修行を積んでもいない彼が、
バトルマスターの戦いを見事に心得ている動きを見せたのだ。これは天賦の才だ、と彼に言われて、
セリアスは大いに照れた。そして、彼の攻撃の手前。
最高のタイミングで援護し、最高のタイミングで仲間を守った仲間たち。
良い仲間たちだな、と言われ、セリアスはもう一度照れたという。
ロウはバトルマスターを辞めるつもりだったらしい。
そのために、見込みのあるものに、自分の意志を託そうとしていたそうだ。
「意志?」
シェナが聞き返す。セリアスは頷いた。
「何か、バトルマスターっていう名を持ってるために、自分の武器に頼る奴が多いんだってさ。
本当の武器は、精神力と己の力。それが分かっている奴を探してたって」
「それがセリアスだったのね。やるじゃん」
笑ったついでに、シェナはふっとさっき目を引いたものについて尋ねる。
「思ったんだけど、それ。その背中のって、ロウさんの斧よね」
「えっ? ああ、そうだよ。もう使わないからってさ。正直、結構重い」
「…そう、なんだ」
シェナは思わず視線をそらした。——重い、の言葉。思い出す。あの事を聞かれたくない——
「持ってみるか?」
「——へっ?」
だが、セリアスは何を思ったか、それとも何の考えも無しだったのか、そう言った。
シェナは呆然として——頷く。セリアスは、重いと言っていながら片手でスッと突き出す。
シェナはおずおずと両手を出した。
「離すぞ。——もういっぺん言っとくが、重——」
その瞬間。
が ん っ!
「ひっ」
「あら」
斧の刃、床に激突。綺麗に。
「あああああああああ“あら”じゃないっっっ! 重いっつっただろっ!?」
「遅い。…えーと、床、大丈夫?」
「どうしたんだっ?」
最後は宿屋にいたキルガである。ちょうど出てきたところだったらしい。
「あ、いや…これシェナに渡したら、刃が床に…」
「重いもの持たせるからよ。
…あの戦いでセリアスの剣を持ったのは、火事場のなんとやら、って奴なんだから」
「持たせろ言ったのは誰だ!?」
「先に言ったのはセリアスじゃなかったっけ?」
シェナの反論にセリアスは口ごもりつつ、会話している中で、キルガは。
そうか、火事場の馬鹿力だったのか、と思って——思いかけ——首を、かしげた。
刃のあたったような音はした。だが、それにしては、おかしなところがある。
床は、切れていなかったのだ。
重さによって取り落としたのなら、このやわらかい絨毯には必ず付くはずの——傷が。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.76 )
- 日時: 2013/01/20 21:52
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「てか、キルガ。マルヴィナは? 一緒じゃなかったのか?」
シェナについに反論できなくなったセリアス、苦し紛れに話題をそらしたが——
そういえば何処だ、と後から思う。だが、キルガもキルガで、首をかしげた。
「そっちこそ、一緒じゃなかったのか」
頷くセリアスの横で、シェナポツリ。
「スカリオのところ」
三人の間に静寂が落ちる。が、セリアスがすぐさままくし立てる。
「いやいやいやいや、待て待て。あの変人男、マルヴィナに手ぇ出したら絶対許さんっ」
キルガ、複雑な表情。別にセリアスはマルヴィナに好意を持っているわけではない、
彼は仲間思いな性格なのだ、と言うことは分かっているのだが——
やはり、最終的にこの複雑な表情になる。
だが、シェナは。
「フリーフロアのはずよ。今回はマルヴィナから行っちゃったけど——あ、聞いてないわね」
セリアスが脱兎の勢いでフリーフロアに向かっていた。無論、キルガも追っていた。
「スカリオ」
マルヴィナが、ひとりカクテルをあおっているスカリオを呼ぶ。すぐさま手を休めて振り返る。
「…あぁ! マルヴィナ、君凄いね。絶対魔法戦士の素質あるよ」
「あぁ、そのことで話がある」マルヴィナは当初であった時よりかは柔らかな笑顔で言った。
「——あの時、そのフォースを教えてくれなかったら、魔法戦士に興味を持たなかっただろう。感謝する」
「ああ! ようやくボクに——」
「興味を持ったのは“魔法戦士”だ。“スカリオ”じゃない」
スカリオの発言を笑顔でサラリと一刀両断するマルヴィナ。乾いた空気が流れた頃。
「マルヴィナぁ! 大丈夫か! っっっスカリオぉぉっ!!」
かなり迷惑な叫びと共にセリアス登場。
思えば彼らはこのフリーフロアで何回も叫んでいる。ある意味迷惑な連中である。
「セリアス君? 何だいそんな慌——うわっ首絞まるっ」
そしてそのままきゅううううっと問答無用で首を絞めたわけなのだが、
続いて登場したキルガ、ではなくシェナに、凄い勢いで頭をはたかれ、
「あー、すいませーん。勘違い、勘違い」
という言葉で、スカリオは命拾いしたわけである。
「どうしたんだ? いきなり」
首を絞められたスカリオとはたかれたセリアスを別に心配するわけでもなくマルヴィナは訊ねる。
「なんでもないのよ。それよりマルヴィナ、
魔法戦士に転職するつもりで、スカリオさんに話を聞いていたんでしょ?」
「え? あぁ、うん。そうだよ」
涙目セリアス&無事キルガ、頓狂な声を出す。
マルヴィナは肩をすくめ、もったいぶった口調で宣言した。
「決めた。わたしは、魔法戦士になる」
マルヴィナは一人、ダーマ神官に会いに行っていた。
フリーフロアに残された三人の内——スカリオは、キルガを呼んだ。
しかも、いつものへらっとした様子ではなく、大真面目に。どこかの不良かと一瞬思ったほどに。
「…何か?」
キルガは若干警戒しつつ、尋ねた。スカリオは少し離れた位置にキルガを誘導する。
ますますもって訝しげな顔をするキルガに、スカリオは低い声で、一言言った。
「好きなんだろう、あの子の事」
キルガは一瞬呆気にとられ——途端に、身体を硬直させた。何で分かったんだ!?
「分かりやすいんだよ。マルヴィナのことが好きだって、見れば分かる。が——まだ、躊躇ってるんだな」
スカリオはまるで先輩にでもなったように、続ける。
「確かにあの子は、人一倍度胸もあるし、剣技の実力は半端じゃない。正義感もある。それに、可愛いし」
「…最後は関係ない」きっぱりと、キルガは言った。「僕は、マルヴィナの性格が、…好きなんだ」
それに、あえて言わせて貰うなら、表現が違う、と思った。
“可愛い”ではなく、“美人”でもなく…彼女には、“綺麗”、と言う言葉が、一番似合った。
彼女を創り上げる、性格や、特徴を全部含めても。
「へぇ、言うじゃないか」スカリオは笑った。
「だが、気をつけるんだね。もたもたしてると、彼女は違う方向を見てしまう。別のところを見てしまう。
彼女は、そういう子さ。あっという間に、視界から省かれてしまう…今のままだとね」
キルガは思わず彼を見た。その通りな気がする。何で、分かるんだろう。
「…君よりは色恋沙汰に詳しい自信を持つ者から、助言しておくよ。現状維持は、危険信号だ…ってね。
——ま、ボクは彼女を諦めるつもりはないよ。彼女と行動を共にする、って言うのはキミのハンデだ。
…お互い頑張るとしようか」
スカリオはふっと笑うと、キルガの肩をぽん、と叩いて、立ち去った。
(危険信号…か)
キルガは、口をつぐんだ。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.77 )
- 日時: 2013/01/20 21:55
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「よう、マルヴィナさん」
その日、魔法戦士に転職したマルヴィナは、例の武闘家の男の声に反応した。
「…あぁ、どうも」
「どうも、はこっちの台詞だ。…いや、本当に、ありがとよ。
…正直、最初はあんたらで大丈夫かとも思ってたんだ」
マルヴィナは短い笑声を上げた。仕方ない。どう考えても、十代後半にしか見えない旅人なのだから。
「…けどな。いや、よくよく考えれば、あんたらは凄い。魔物に、臆さない、強い意志を秘めてる。
…多分、俺には、それがなかったんだ。あいつを置いて行けないからって、
言い訳してただけに過ぎないんだな」
彼の視線の先には、転職を終えた者とこれからする者、それぞれの思いを抱く人間を相手に必死に、
けれどすごく楽しそうに働いている彼の恋人がいた。
「だが、これからは違う。本当にあいつを守るために、俺は言い訳せずに立ち向かうぜ。
…あんたらを見習って、な」
「頑張れ」
マルヴィナは短く応援した。武闘家は、にやりと笑った。
「——と。あと、もう一つ、聞きたいことがあったんだった」
立ち去りかけた彼の足が止まる。マルヴィナがきょとんと首をかしげ、話を促した。
「称号、あるだろ」
「称号? …あぁ、旅人の」
スカリオも言っていた、旅人ごとに付けられる称号。マルヴィナも貰った。
この称号に相応しいものが彼女以外にいるだろうか? それほど良い名だった。
「それだ。…“蒼穹嚆矢”って知っているか?」
「…そ、そうきゅうこうし…?」
「あるいは、“賢人猊下”」
「…けんじんげいか………?」
どちらも棒読みである。
「…知らねぇか」
「…う………いや……あれ………?」
「いや、いい」武闘家は制した。「どっちも三百年くらい前の伝説の称号だからな」
「伝説」マルヴィナはコクッ、と喉を鳴らす。
「あぁ。ダーマ神殿では通な奴は誰でも知ってる。三百年前に、急に現れて、
いきなり消息の途絶えた、おっそろしく強かった二人の女戦士たちの称号だったんだが…
いや、そのうちの“蒼穹嚆矢”の特徴があんたにかなりそっくりでさ」
「…わたしに?」
「子孫かと思ったんだよ。いや、悪いな。…んじゃ、達者でな」
手をひらり、と振って、フリーフロアを後にしていった。
迷いなき足取りで。
けれど、マルヴィナは。
(…蒼穹嚆矢…賢人猊下…)
その二つの名を、一瞬だけ、確かに
(知っている)
そう、思ったのだ。
聞いたことはなかった。初めて聞いたとき、それが称号だとすら分からなかったのに。
なのに、彼女は、その名を知っていた。
(………何、で……………?)
知らずうちに、手を握り締めていた。
風は吹き、滝は流れ、草木は歌う。
今日、また、そこから新たな名を持つ旅人が旅立った。
一人は“天性の剣姫”、闇髪と蒼海の眸持つ魔法戦士、
一人は“静寂の守手”、冷静で知識豊富な聖騎士、
一人は“豪傑の正義”、闘うことで仲間を守り抜く闘匠、
一人は“聖邪の司者”、聖と邪の呪文司りし賢者。
旅人たちは、更なる旅を求め、歩き出す。
ここは、ダーマ神殿。
【 Ⅴ 道次 】 ——完。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.78 )
- 日時: 2013/01/21 19:19
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
【 Ⅵ 】 欲望
1.
「あぁ…お前か」
両手両足を鎖につながれた、ネイビーブルーの羽を背に持つ男が、独り言を言うように呟いた。
無論、一人ではない。お前、と言われたもう一人、王族の装の男は、低くしゃがれた声を出す。
「…仮にもお前は囚人だ。発言には気をつけるんだな」
「お前こそ立場を理解することだ。——で? 今度は何の用だ。
闇竜に、将軍三人に、多くの兵士——これ以上何を蘇らせたいと言う」
「——“蒼穹嚆矢”だ」
囚人は、興味のなさそうな顔を少しあげた。
「…あぁ。あの、伝説の。…悪いが、そいつは出来ないな」
「何だと」 ・・・・・・
「彼女の力は強すぎる。おそらくその者は、人間ではない。…少しばかり、長い時をかけるが…
その間、別の者は蘇らせられない。それでも構わないと言うか? ——無理だろう。欲深いお前にはな」
皇帝は舌打ちした。相変わらず、癪にさわる物言いをする。
「…お前が女神の果実を集めきれば…私の力を増幅させられれば、簡単だとは、言っただろう。
さて、いつになったら手に入ることか」
「黙——」
れ、とまでは、言えなかった。
皇帝の持つ杖の先の宝玉に、映像のように、どこかの景色がうつった。
…その中に、四人の影がある。
一人は、銀髪と金色の眸持つ美しい容姿の娘。
一人は、紅の髪をぼさぼさにした、勝気な青年。
一人は、漆黒の少し長めの髪を風に躍らせる青年。
一人は、闇髪と蒼海の眸の、手に黄金に輝く果実を持った——
「……っな…女神の、果実!!」
皇帝は叫ぶ。囚人が、くっ、と笑った。
「遅かったようだな。…どうすることか…」
「黙っていろ!」
皇帝は怒鳴りつけると、その四人を食い入るように見る。
(こいつ、は——!)
「これは、あのイザヤールの、弟子ではないか…!」
しかも、こっちは。いや、こっちは…。
「ほう」少しだけ、囚人の声色が高くなった。
「…奇遇なことだ。さて、どうする、皇帝。
求めているのだろう、その果実を…それも、喉から手が出るほどに」
「……………」
今度は、怒鳴りつけない。しばらく考えて——考え続けて——
「ふん」
…そして、短く邪笑った。
杖の玉の中で、四人の若者が屈託なく笑う。が、その笑みがぐにゃり、と崩れ、
そして、一瞬にして、杖からフッ、と消えた…。
アユルダーマ島、神聖なる青い木の下にて。
「サンディ、調子は?」
そこに停めてある、天の箱舟の中で、サンディはその修理をしていた。
「ん? アタシは上々。箱舟ちゃんはサゲサゲ」
「……」要するに、サンディは元気だが、箱舟は直っていない。
そう頭の中で解読したマルヴィナは少し悩んでから、「そう。…果実、一個目、手に入ったよ」
ずっと手に持っていた果実を差し出した。意外と重い。
サンディは、ん? と振り返り、マルヴィナの手中の黄金の輝きに目を留め、おっ、と短い声をあげた。
「やるじゃんマルヴィナ! ひとまずここに置いとく系?」
「いや、いい。自分で管理する」
「別にここに置いといても、人間には見えないわヨ?」
「…んー…でも、やっぱり警戒しておきたいんだ」
ふぅん、とサンディ。まいっか、と足を組んだ。
「——で。これから、南のツォって浜に行って、東南の大地へ行くつもりなんだ。どう、来られる?」
「んー…」
サンディは新天地への興味と箱舟への意地との二つの希望に悩み、結局、頷いた。
「ま、こんだけ引きこもって直ってくれないんだし。ここにいるの、いーかげん飽きたしネ。行く行く」
マルヴィナの前まで飛んでくる。「…で、さっきから思ってたんですケド、何そのカッコ?」
ん、とマルヴィナは目をしばたたかせ、自分の旅装を見た。
「…あぁ、これ? 魔法戦士の証の服。わたしだけ貰ったんだ。——あ、転職したんだ」
話す順番が狂ったが、ともかくそう説明すると、
へぇと言う、あまり興味のなさそうな声が返ってくる。が、
「あ、じゃさ。アタシも転職できないかなー」
「ええ?」
いきなりそんなことを言い出したサンディに、四人は同時に聞き返した。
見事にハモった。いつもなら、何ハモってんの? とツッコまれるところだが、今は気にしていないらしい。
「あのオシャレでゲージュツテキでカッコイイ仕事!! あ〜も〜アコガれるぅ〜〜」
一人ハイテンションでくるくる回りだすサンディに、キルガは、苦笑して彼女の名を呼ぶ。
なぁ〜にぃ〜、と歌いながらごきげんで問い返す彼女に、一言、
「大神官にサンディの姿は見えないと思うよ」
「………………………………………………………………………………」
サンディがピタッ、と止まった。乾いた空気が流れた。
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