二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.129 )
- 日時: 2013/01/25 11:11
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
マルヴィナは腰の剣に手をのせ、じゃっ、と音を立て一気に引き抜いた。
順手にしっかりと持ち、ピタリと止める。マルヴィナは剣に意識を集中させながら、相手の剣を見た。
構え方からして、なかなかの有段者だ。
・・
(あの剣…確実に、これより上等だ)
残っていた兵士二人が動く。キルガとセリアスは素早く目を合わせた。
「俺はあっちを担当する」
「了解」
セリアスが左に、キルガが右に。それぞれ散った時、キルガは、シェナの様子にようやく気付いた。
拳を固め、顔を伏せ、若干震える彼女に。
「………?」
いやまさか、さっきのマルヴィナのように、赤い鎧を見ていられないというわけではなさそうだが、
だったら何故、あれだけ震えている? …まさか、知っているのか?
「っ」
考え込むと、どうしてもそちらに意識がいってしまう。危ない危ない、と、
キルガは集中する先を変更する。あとから考えればいい。大丈夫。大した敵ではない!
セリアスもまた、そう苦戦しているわけではなさそうだ。
互角、どちらかといえば、セリアスの方が優位である。
が——マルヴィナは。
(このままじゃ、こっちはそうはいかないかもしれない)
相手は上物の剣、こっちは刃の欠けかけた剣。実力以前に、根本的なところから不利であった。
(…なるべく、刃を交わさない方がいいな)
戦術を素早く組み立て、マルヴィナはじりじりと間合いを詰めた。と、相手が向かってくる。
「!?」
(は、速——)
——————……ィンッ………!
耳障りな金属音を立て、ふたつの剣が交錯した。やはり相手は大の男、力は強い。
強い力を込められて無事ではないのは、天使であるマルヴィナではない、剣の方である。
これが通常の剣であれば、こんな攻撃、大したことはないのに——…
(…くっ、しまっ…た…っ!)
このまま剣を折られたらたまったものじゃない——思ったことは、現実となる。
刃独特の音を立て、マルヴィナの剣が半ばから折れ飛ぶ。
「ッ!!」
相手の剣が振り下ろされる!! が、これを躱せないほど、マルヴィナものんびりとはしていない。
辛うじて後ろに跳び、後から冷や汗を浮かべる。闇色の髪が散っていた。
バクつく心臓をおさえ、折れた剣を見て悔しげに呟く。
「刃砕き、か…!」
「どうした、“天性の剣姫”。貴殿の力はこれほどではないはずだが?」
マルヴィナは目を見開く。
「…何故、そこまで知っている?」
自分たちを天使と呼んだ時点でおかしいとは思っていたのだが、自分の称号や実力まで知られていた。
特に、称号はまだ最近貰ったばかりである。
いつから奴らは自分たちのことを知っているのか…。 ワラ
「まぁ、仕方あるまい」マルヴィナの質問には答えず、兵士は邪笑う。
「睡眠薬を受けたその身体ではな…出せる本気も出せぬというもの」
「なっ!?」
これにはさすがに、キルガやセリアスも驚いた。
「そんなことまで…!」
「一体、何者なんだっ…?」
答えは再びの突進だった。マルヴィナは辛うじて身をかわし、歯ぎしりする。
このままじゃ、まともに戦えない。せめて、剣の代わりになるものがあれば——
「………………………仕方ない」
一言、マルヴィナは呟いた。目を閉じる。腕を下げ、隙だらけの格好となる。
「おい、なにやって」
セリアスの声を、無視する。そのままマルヴィナは、右手に持っていた剣を——
音を立てて、地面に放り捨てた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.130 )
- 日時: 2013/01/24 23:39
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「っ!?」
まさかのその行動に、さすがの兵士たちも度胆を抜かれた。
が、マルヴィナは。剣姫の名の如く、優雅に微笑むと——
「っ…はっ!!」
そのまま、気合の声を発し、深く腰を落として——回転。
キルガと戦っていた兵士にぶつかり、そして、そのままその手中の剣を奪い取る!!
「な、」
「何ィ!?」
驚愕の声を受け止め、マルヴィナはその勢いを止めることなく一気に相手の懐を薙いだ。
間一髪で兵士はその攻撃を避けたが、並の者では
確実に腹を切り裂かれていただろうというほどの早業だった。
しかも、たったそれだけの行動で、この重さと鋭さゆえに持ちにくいこの複雑な剣は
まるで忠実な生き物のように、マルヴィナの手にぴったりと馴染んだのである。
「なんだとっ。何故、貴様が瞬時に使いこなすことができる!?」
帝国の兵士ですら、この剣をまともに扱うのに数年かける。
それほどまでに扱いにくい剣だった——それを知っているからこそ、驚愕に叫ばずにはいられなかった。
「すげーぞマルヴィナ! さすがイザヤールさんの弟子!」
セリアスが勝ち誇ったように叫ぶ。キルガもまた、呆然とした兵士の隙を突き、
「マルヴィナの剣の実力を舐めるなよ!」
誇るように、そう叫んだ。
「イザヤールだと…!?」兵士が呟き、その後、にやりと笑う。「そうか…そういうことか!」
セリアスが顔をしかめた。…余計なことを言ったか? ——いや待て、それよりも——…。
マルヴィナは重く、速く剣を唸らせる。兵士はそれを辛うじて受け止める。
が、この恐ろしく剣の腕に冴えた天使は、勝利の確信を表情に出した。
このまま戦いが続けば、不利になるのは明らかに兵士の方である。
果実はあきらめた方がよい。大丈夫だ、新たな、否——思った以上の収穫があった。
この不覚は帳消しにできる。
「…ふ、仕方ない、果実はあきらめるとしよう…!」
「えっ!?」
叫んだのはもちろん、部下の兵士二人である。思わず動きを止めた時にできた隙を
見逃すはずのないキルガとセリアスは、そのまま体当たりし、冷静にそれぞれの武器を突きつける。
セリアスは武器が斧なので、ほぼ断頭台のような状況だったが、動けない兵士は既に覚悟でもしたのか
目を思い切り閉じていた。マルヴィナは交錯した剣にさらに力を込めながら、逃がさせまいとする。
が、敵は素早く身を翻しそれを躱すと、そのまま嘲笑うような視線を彼女に向けた。
そしてそのとき、兵士は——飛んだ。跳んだのではなく。
「天使よ…覚えておくが良い! 貴様らは必ずいつか斃される。必ずな…」
だんだんと、声が小さくなってゆく。兵士は空に消えた。
呆然とする彼らの前に、油で光る羽がひらりと落ちてくる。
「…キメラの翼だ」
マルヴィナは苦々しげに言った。突きつけていた武器を元に戻し、
キルガとセリアスがマルヴィナの後ろからその羽を覗きこむ。置いて行かれた兵士二人は、
明らかな不利を感じ取り、すぐさま近くを流れていた川へ飛び込む。
鎧の重みで沈みかけるのを何とか防ぐようにしながら、派手に水飛沫を立てて逃げ始める。
「…行ったか」セリアスが呟く。
「ガナン、帝国…」キルガが復唱し——首を、傾げた。
「妙だな。初めて聞いたはずなのに…知っている気がする」
「キルガもか?」セリアスだ。
「俺もそう思ったんだ。バカな話だけど、それどころか…関わったことまであるような」
マルヴィナはその二人の会話に驚き、二人もなのか、と呟いた。
が、あえてそうは言わず、別の話題を出す。
「…ガナン帝国…何故、イザヤールさまのことを知っているんだろ」
「…悪い。俺、余計なこと言ったかもしれない」
「気にしないで」マルヴィナは言った。「そんなこと、分からなかったんだから」
「…いや、でも——すまん」
「…結局…何だったんだろうね」
「それに」キルガはシェナの様子のことを言おうとして、口をつぐんだ。
馬鹿馬鹿しい考えだった。そんなことがあるはずがない——そう言ってその考えを消したかった、
が、消したい一方で、その可能性を否定できない自分がいる。
シェナが、あの帝国とつながりがあるのではないか、という、その考えが。
「なんか…嫌な予感がするよ。すごく…嫌な…」
マルヴィナは呟き、不安げに敵国の剣を握りしめた——…。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.131 )
- 日時: 2013/01/24 23:41
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
プラチナメイル
翌日セリアスは、がばっ! と跳ね起きると、白金鎧を装着——しかけて、止めた。
鎧の重さに既に慣れてしまったので、何も着ていないようでむしろ戸惑ってしまう。
が、慣れれば結局楽であった。おっしゃ、やるぞ、と気合を入れてから、
一気に腹筋と背筋と腕立て伏せを各二百回ずつとなんとなくイメージトレーニングを済ませると、
朝のジョギングと言うには早すぎるスピードで宿を出て船着き場まで走る。
「おじさん!」
あっという間に着いてしまい、だが大して息も乱れてはおらず、そのままセリアスは叫んだ。
漁師ジャーマスにである。
「おぅ、セリアス。早ぇな」
「そりゃそうっすよ!」にっと笑ってから、次に仲間の肩をポンとたたいて、
「おっす、マルヴィナ」
ようやく挨拶をする。
が、マルヴィナは凶悪な仏頂面で「…おはよ」と呟く、あるいは唸ると、
「…あんたさ。いきなり“おじさん!”はないだろ。
わたしにかと思ってつい“わたしは女だ!”って思ったぞ」
「はは、悪ぃ悪ぃ。つーわけで、おはようございます、ジャーマスさん」
「おぅよ」ジャーマスはそこらの岩ほどにもある拳を引き締まった腰に当て、にやりと笑った。
「よし、セリアス。今から俺が船乗りの基礎からみ〜〜〜っちり教え込んでやる。ついて来れるかっ!」
「ついて行きますっ!」
「よぉし! よく言ったぁ!」
叫ぶ男どもを前に、マルヴィナは「…ついて行けるか」とかなんとかなんとか呟き、早々に退散する。
マルヴィナはその後、自分のフードを覗き見た。果実は——四つ。
マキナの家の裏の、小さな墓に——それはあった。マキナの墓。そして、そこに寄り添うように、
人形マウリヤは座っていた。もう動かないマウリヤの横に、果実は残されていたのである。
そして彼女の言伝で、船はマルヴィナたちに譲る、ということになった。
彼らは手を叩き、伸び上がって喜んだのだが、
「誰が動かすのヨ」
というサンディの珍しく冷静かつもっともな意見の元、
彼らの歓喜は空気の抜けた風船の如くしゅうううう、としぼんでいったのだった。
そこで手をあげたのがセリアスである。
彼は四人の中では機械や仕掛けなどを解くのが最も得意であった。
そのことから、だったら自分が船を操縦すると言い出したのである。
だが、彼も当然船というものを人間界に落ちて初めて見たので、右も左もわからない状態だったのだが、
そんなセリアスに指導(?)してやると出てきたのがジャーマスであった。
…というわけでこの状況なのだが。そんなことを思い出しつつ、
マルヴィナは集まった果実を見て、ひとりにやにやと笑っていた。おそらく誰かが見ていたら
怪しい人だと思われただろうが、幸い周りには誰もいない。
それにしても。もしかしたらわたしたちって、凄いのかもしれない、と少しだけ自惚れてみる。
もう果実が四つも集まったのだ。折り返し地点。嬉しいし、誇らしい、——のだが。
(…………………………………………………重い)
やはりさすがにフードに四つも入っていると首が絞まる。
(あ〜頼むセリアス。早く乗れるようになって。んで倉庫かなんかにしまわせてくれぇ)
やはり自分で管理すると言うのは少々厳しかった、と後悔しているところ——
「だいじょぶ? マルヴィナ」
そのフードがいきなり軽くなる。「はぶっ!?」若干吹き出しつつ、マルヴィナは面食らって振り返る。
そこには、昨日の様子はどこへやらの、ひょうひょうとした表情のシェナがフードを掴んで立っていた。
「しぇ、シェナかぁ。びっくりした」
「なんで? ——あ、これ、ハイリーさんから。今回の事件解決のお礼だってさ」
「礼」マルヴィナはきょとんとして、シェナの差し出した白布の袋を受け取る。
じゃらっ、と音をたて、ずっしりとした重さを感じつつ、袋の紐を解く。
…中には銅貨と銀貨が入っていた。銀貨も一枚二枚ではない。
「…………………………………うわわわわわわ」マルヴィナ乱心。
「た、た、大金じゃないか。こんなに受け取れない」
「んー。いいんじゃない? それにしても、ハイリーさんてお金持ちなのねぇ」
どうやらこの貨幣はすべてハイリーが用意したらしい。
マジかよ、と言いそうになるのをこらえつつ、マルヴィナは恐縮しつつもシェナに返しておく。
「キルガは?」受け取って、シェナは尋ねた。
「町長のところ」
「そ。…あれ」
答えてから、シェナは首を伸ばし、遠くを見た。ハイリーの姿が見えたのである。
「うーん…やっぱりハイリーさんて、謎よねぇ…行動といい、このお金といい…マルヴィナ?」
ねぇ、と同意を求めようとして——マルヴィナの目が、困惑と警戒の色になっていることに気付いた。
シェナは戸惑い、見比べる。相手は視線に気づかない。シェナは首を傾げる。
が、マルヴィナは、その時思った。
ハイリーの、気配、生気が——
…例の帝国に似ている、と。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.132 )
- 日時: 2013/01/24 23:44
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「グビアナ城に行ってみたいんだ」
日は巡る。
その日の夜、宿屋の夕食に舌鼓を打っていた一同に、キルガはそう言った。
船乗りの修行を圧倒的なというか異常なというか、
とにかくありえないスピードで終えてしまったセリアスは、
今やすっかり船を乗りまわせるようにとなっていた。
これにはさすがのジャーマスも引き、
「おまえ…本当は船、乗ったことあるだろう」
もちろんありません、とセリアスは即答したらしいが。
ともかく、そんなわけで船は正式に一向に譲り渡された。
大切に使えよ、と言われ、何故か契約書みたいなものを書かされた。
ちなみにマルヴィナが書いたので、サンマロウの民からは
マルヴィナ一人が船を受け取ったものと勘違いされていたりする。
「グビアナ城?」
マルヴィナは問い返す。
「セリアスには話したんだけれど。僕は天使界から、グビアナという名の国に落ちたんだ。
セントシュタインで戦士になれるように、グビアナでは聖騎士になることができてね」
「あぁ…もしかしてそこで、聖騎士に?」
「話が早いな」キルガは笑うと、頷いた。「まぁ…事情があって、修道院は追われたんだけれどね」
「あぁ、そうなんだ…そうだよね、キルガが自分からそんな短期間で
何かをやめるなんて言い出すわけがないからな、セリアスみたいに」
最後に呟かれたマルヴィナの一言に、スープをすすっていたセリアスが「ぶほっ」と言ってむせた。
少量が飛び散る。
「マルヴィナっ、なんつーことをっ」
「こぼれたのはわたしのせいじゃないぞ! さっさと拭け!」
「そーじゃねぇっ。明日船に乗せてやんねーぞっ」
「契約書を書いて正式に受け取ったのはわたしだ! あんたは運転手だ!」
「んじゃその船から突き落としてやる!」
「その言葉、そっくり返すぞド変態!」
「…………あの」とりあえず、シェナが一言。
「今、食事中なんだからさ。とりあえず手を動かしましょうよ。ついでにマルヴィナ、“航海士”ね」
「…………………………………………………」
のーんびりと言われ、二人は乾いた表情で黙り込む。ついでに脱力。シェナは無視した。
「…どこにあるのか分かってんのか、そこは」
セリアスは繕うように、話題を戻す。キルガは苦笑して、「分かっている」と答えた。
「北東だ。記憶に残っているし、訊いても見た。間違いない」
「北東か」マルヴィナはパンを千切り、口に放り込む。
「新天地だな。この辺りでちょっと、気を引き締めるとするか」
「あれ、行くこと決定?」セリアスが問い返す。
マルヴィナは肩をすくめ、「じゃあどこに行くと?」と抜け抜けと言ってみせる。
「まさか思い出つくりの旅に出るとか言わないわよね?」シェナまで便乗する。
当然返す言葉のないセリアスは、
「…なぁキルガ」
話し相手をキルガに変え、
「何?」
「女って怖いな」
「そうだね」
その後素早く目を合わせた女二人に男たち二人がボカスカ殴られる羽目にあったのは言うまでもない。
翌日、四人は旅立つ。
今回は、様々なことがありすぎた。女神の果実と船の入手、謎の帝国と——その記憶。
…その記憶を巡り、彼らの旅に新章が訪れることを——四人が、知るはずもなかった。
【 Ⅷ 親友 】 ——完。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.133 )
- 日時: 2013/01/25 22:52
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
サイドストーリー 【 聖騎士 】
「…ちょっと、だれか、手を貸してくれない!?」
時は一年前、世界を揺るがせた大地震の起きた翌日のことである。
世界の東側に、砂漠の大陸がある。その大陸を統治する国の名から、
その砂漠は、グビアナ砂漠、と呼ばれる。すなわち、国の名は、グビアナ。
その城下町には、聖騎士団がある。砂漠の安全を守る役割を持つ聖騎士たちは、
その日も大地震の影響を受けて砂漠に変化が起こっていないかを
落ちた針を探すような目つきで見まわっていた。
叫んだのは、聖騎士団の女小隊長、名をパスリィと言う。男勝りで負けず嫌いな彼女は、
どちらかと言うと異性よりも同性に憧憬の目で見られている。
彼女は、持ち前の行動力と、槍術の腕前で、聖騎士たちから一目置かれていた。
…と言うか、一部は、パスリィの恐ろしさに負けて従う者もいたのだが、それをパスリィは知らない。
ともかく、彼女のその一声で、彼女の部下である聖騎士たちが四、五人集まってくる。
「この子、大怪我負っているけど、生きてるわ。とりあえず、修道院に運んで!」
パスリィの指先には、黄砂の舞う中で、異国風な服を身に纏った、
十代後半あたりの整った顔立ちの青年がいた。だが、横倒れになり、全身に傷を負っている。
頬と頭から直視できないほどの血を流し、目は開かない。
「こ、これだけ怪我負ってて、生きてるんですか…?」
「あー、つべこべうるさい!
朝の教訓で聖騎士の誇り忘るるなかれ、って言ってるのは、アンタでしょうが!」
「わ、分かりましたよぅ」
すっかりしぼんだ聖騎士たちに青年を担がせる。かなり華奢だ。
だが、言った通り、息はしっかりとしている。昨日の地震の被害者だろう。
だが、この生命力。もしかしたら、聖騎士の素質があるかもしれない。パスリィは、そう思っていた。
その青年が目を覚ましたのは、一日と半分が経ったころである。
「…っ…」
その呻き声に、やることがなくてぼーっ、としていた騎士たちは、即座に反応した。
「…おおおっ! ほんとだ、目、覚ましたぞ!!」
「なにぃ!? くそう、俺の有り金、ほとんどパァだ!」
「ばか、うるさいっての。…よう、兄ちゃん、大丈夫か? まだ痛いところはあっか?」
聖騎士たちは、頭を起こし、呆然とした表情の青年に、声をかけていく。
「水いるか? 水」
「腹減ってないか? 賭けの勝利祝いだ、おごってやるぜ」
「何ならグビアナダンスホールのおねぇさん呼んでこようか? かなりたくさんの子が心配していたぞ」
「それ、お前が会いたいだけだろうが」
「えぇ、だって、最近入った子、知らねぇのか? かなり初々しいって」
「あー、コホン」最初に、痛いところ云々を訪ねてきた男が咳払いで関係ない話をする男どもを黙らせ、
未だ困惑顔の青年を見る。
「………………………」
が、その青年の端整な顔に、だんだんと驚愕の色が見え始める。
青年は、急に、後ろ…否、背中を見、そして、不意に頭を押さえた。
「おぉっと、頭痛か? 鏡要るか?」
「え…あ、お願いしますっ」
切羽詰まったような青年の声に—不思議な声色に少し驚きつつ—その騎士は
手鏡にしては大きなそれを差し出し、「ほれ」と言った。
「………………………………っ!!」
青年は、鏡に映った自分の姿を見て、声を失っていた。
さすがにただならぬものを感じた騎士たちは怪訝そうな顔をする。
が、やはりその空気を消し去らせたのは、今は鏡を持っているその騎士だ。
「…とりあえず、な? 何かいろいろ混乱しているようだが…初めに、差支えなければ、
お前さんの名前を教えてくれねえか。ここはグビアナ城下町、そしてこの宿舎は聖騎士団のものだ。
俺はハルク。ハルク・テイストル、聖騎士団の副団長だ。お前さんは?」
ハルクと名乗った聖騎士副団長を、青年はまっすぐ見る。
そして、名乗る前にとりあえず立とうとして、痛みが戻ってくる。
おっと、いいから、安静にしてな、と言われ、体制を戻し——青年は、名乗った。
「…僕の名は…————キルガ、です」
漆千音))もうヤダサイストの存在すっかり忘れていたあーもうわたしって馬鹿…
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