二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.269 )
- 日時: 2013/03/17 00:36
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
4.
「…説明を要求いたします」
「えーと…どこから?」
二時_この世界で言う、二時間_、経った。
ついに倒れて今は宿屋で安静にしているマルヴィナについてやっているキルガは、
頭を抱えるセリアスを後ろに超不機嫌顔のシェナを見て、苦笑していた。
「どっからでも来なさい」
「いや、そう言われても…セリアス?」
困りながら、キルガは珍しく、少々非難がましく後ろのセリアスを見た。
「いや悪い…話すつもりはなかったんだが…」
要するに——セリアスは、先ほど闘っていたことを、シェナに話したのである。
いくら寝ていたとはいえ、何故自分を呼ばなかったのか、まして故郷を守る戦いは自分が参加する義務がある、
熱なんてとっくに治まっているんだ寝ているのはケルシュがどーしてもって言って譲らないから仕方なしに云々、
機関銃のような勢いで参戦できなかった不満をまくしたてられ、セリアスがげんなり。
しかも、もう一つ——宿屋に寝ているもう一人、すなわち、ルィシア。
彼女の存在を見て、更に説明を要求され、説明下手なセリアスは遂に挫折しキルガに泣きついた——
とまぁ、大まかに現在の流れを説明すれば、このようなことである。
「話すつもりがないって言ったって、結果的にこうなっているじゃないか」
「イヤだって、ラスタバさん——いや、シェナ家か、に行ったら、起きてたからさ」
「…その恰好で行ったから、ばれたってわけか」
セリアスは戦禍を被ってぼろぼろであった。
「…面目ない」
「せめて着替えろよ…」
「……メンボクナイ」
「ちょっと」シェナだ。「隠すつもりだったわけ?」
「…こんな感じになるだろうから説明は里の人に任せよう、ってことになっていただけだ」
こんな感じ、つまり——説明を求められて、最終的にシェナチョップを喰らう確立を減らすための
男二人の(正確にはシェナチョップを最も恐れるセリアスがキルガに頼み込んで立ててもらった)案であった。
「…そーゆーこと」シェナは、第一段階は納得したように頷くと——いきなり身を翻して
セリアスの頭に容赦ないチョップを叩きいれる。
奇妙な絶叫。マルヴィナが起きる、とこれまた珍しくキルガの非難の眼。
「い、いや、悪い」
「シェナもだ」
「え?」
脱力。
「『え?』じゃない」
「………? …とりあえずゴメンナサイ」
反省っ気のない、いやそもそもなぜ非難されているか理解していない様子で謝るシェナ。
「…まぁとりあえず——だったら襲撃の話は誰かから訊くわ。
…下で寝ている敵を介抱している理由、訊かせてもらえる?」
彼らにとって、ルィシアは憎むべき敵だ。マルヴィナを狙い、ハイリーを殺めた、冷徹な少女。
敵を助けるという概念の理解できないシェナは、やはり不機嫌な顔になった。
「いや、どうせだからもう全部話すよ」キルガは椅子をずらしマルヴィナから少々離れた。
「…どこから話そうか…どこまで訊いた?」
「んー…戦って、勝って、そしたら襲われて、助けた。…っていう感じの話なら聞いたけど」
大まかすぎる説明に再び脱力。スンマセンと再びセリアスが言い、首を引っこめた。亀かお前は。
「えっと、まず初めに言っておくが——今、この里にはマルヴィナの『記憶の先祖』がいる」
シェナが目を開いた。あ、それ言ってない、とセリアスが思ったのは余談。
「それ、まさか…“蒼穹嚆矢”!?」
「あぁ。しかも、何故か実体で。その理由は知らないから説明は省くが、ともかくその人も一緒に戦っていたんだ」
いきなり出てきたその名に驚愕を隠さないまま、シェナは部屋の扉の横に座る。セリアスは立たせたままだが。
「それで、戦いの途中でルィシアが割り込んできて、マルヴィナと一対一で闘ったんだ。
この前から練習していた剣技でマルヴィナが勝利したんだが、その影響で疲労して、こうやって寝ている。
…なんとか全ての敵を倒したところで、襲撃の首謀者——先日闇竜の上に載って箱舟を襲ってきた
帝国のゲルニックって将軍が現れて、恐らく処刑としてルィシアに一種の攻撃魔法を唱えたんだが、
“蒼穹嚆矢”がそれを庇って——けれど少しはその被害を受けたらしく、現在気絶。
助けると言い出したのは“蒼穹嚆矢”だ。ゲルニックが言っていたんだが、彼女はどうやら
天使だったらしい。恐らく僕らよりずっと上位だ。となると、掟に従い、
僕らは彼女には逆らえないということになる——以上が理由だ」
感服してセリアスが「おー」と思わず拍手。さすがはキルガ、と呆れ半分、納得半分で頷くシェナ。
セリアスとは大違いだ——とは、思うだけにしておいたが。
「…そーゆーこと。…天使って義理堅いのね。…あ、皮肉じゃなくて」
素直すぎた感想に慌てて補足をいれ、シェナは言った。
「…その掟が、こんなことを起こしてしまったんだけれどね」
キルガが、マルヴィナを見る。箱舟の、二両目で起きた、あの出来事。
剣を向ける師匠に逆らえず、その剣を受け、悔咎に叫んだマルヴィナを思い出す。
…あの日から、彼女は変わった。前より、笑わなくなった。ふと気づけば、哀しそうな顔をしていた。
——信じていた者に、裏切られたから。
キルガの言った意味が分かって、セリアスもシェナも、言葉に窮した。…特に、シェナは。
「…僕らは、裏切らない。…絶対に」
「あぁ。もちろんだ」
「……………えぇ」
即答したセリアスに対し——シェナは、すぐに頷けなかった。
頷けない秘密を、それこそ今言ってはいけない真実を、まだ隠していたから。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.270 )
- 日時: 2013/03/17 19:33
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「いってぇ…」
更に半時経った後の、チェルス。ゲルニックの攻撃を半分——いや、それ以上に受けていながら、
けろりとした顔で「いってぇ…」程度で終わらせているこの生命力。
(あの毒魔術師野郎…少しは腕を上げたってか。…)
既に傷の治療は済んでいる。けれど魔法は、急所を撃った、あるいは打った。流石に急所は痛い。
胡坐をかいて、首を鳴らす。面倒なことに、先ほどマルヴィナは自分の正体を大声でばらしてしまった。
自分が消えた三百年前から今にかけて生きているものは少なくない。あなたがあの伝説の——云々、
かなり多くの竜族から声をかけられたが、あぁはいはいと受け流す程度に応じた。
ただ、妙なことに—— 一番問われるだろう質問は、誰も投げかけてこなかった。
——何故存在するのだ?
そのような言葉。
三百年前、忽然と姿を消した者が、突然現れた。いくらなんでもおかしいだろう。
それなのに皆、三百年前に生きた自分の姿を見ているように、話しかけてくる。
(…まさかとは思うが…『未世界』を知っているのか?)
腕組み、考える。いやまさか…だが、もしそうでないなら、他にどんな理由がある?
「………」
が。早々に、考えを打ち切る。どう考えても分からないことを考えるのは嫌いだ。
根拠のない、すなわち推測しか得られない。情報は、真実だけで十分だ。
脳裏で、マルヴィナに呼びかける。起きたか? …起きているよ。
答えが返ってきた。どうやら目覚めたらしい。チェルスはようやくかと、嘆息した。
早速だが、訊きたいことがある。マルヴィナが言った。申し訳ないが、来てほしい、と。
二つ返事で了解し、チェルスは手を使わずに立ち上がると、堂々と、颯爽と、その場を去る。
宿の一階の、カウンターの前のテーブルに、マルヴィナ、キルガ、セリアスがいた。
シェナはというと——重要な話がございますと言われ、ラスタバについて行ってしまったため、今はいない。
チェルスは髪を後ろで無造作に束ねながらやってきた。…そうか、マルヴィナがざっくばらんなのは
この人の影響か、と、男二人はそろって得心いったような表情になった。
「えっと…彼らが仲間だ」
マルヴィナは紹介する。
「“静寂の守手”キルガです」
「セリアスっす。“豪傑の正義”です」
思わず敬語になる二人に、あー堅苦しい、敬語やめい、とばっさりいうと、
一応は、ということで自分も名乗り上げた——『記憶の先祖』、“蒼穹嚆矢”——チェルスの名を。
(それにしても…うん。納得。そっくりだわ、あんたら)
自己紹介を終えてから、チェルスは思った。キルガと、セリアスを見て。
思い浮かべたのは、もう二人の仲間。“悠然高雅”アイリスと、“剛腹残照”マラミアのふたり。
だが、今言うべきじゃない。今言うと、ややこしくなる。とにかく、チェルスは彼らの質問に応じた。
真っ先に尋ねられたのはやはり、ルィシアのことについてだった。
どうしてそこまで助けようとするのか。シェナが聞いておいてと言って立ち去ったためだ。
「んー…結論から言うと、マイのためかなぁ」
「…………………」
「…やっぱ結論からは厳しいか。説明ちょっくら苦手だから、分からんことあったら後から聞いてくれ」
チェルスは足を組み、腕も組んで話し始める。
———“賢人猊下”のことは知っているか? …話が早いな。“賢人猊下”マイレナ・ローリアス・ナイン。
三百年前までに実在していた僧侶だ。まぁ最終的には賢者になっていたが——
そいつには正真正銘の妹がいて、それがルィシアなんだ。…そ、つまり、あいつは
本来存在するべき人間じゃない——つまりガナンに甦らされた『霊』、わたしと同じ部類だ。
この人は何故こんなにも重要な言葉をさらりと言う。
驚愕の中に呆れを交えた表情をするマルヴィナ。先程覚えた違和感の意味が分かった。
彼女は自分をこう名乗った——
・・・・・
“ —…魔帝国騎士、“漆黒の妖剣”ルィシア・ローリアス— ”
そういう、ことだったのだ。でも、それなら。それなら、どうして。
「なんでマイの妹が、敵国にいるんだ、って話だよな。
…だがわたしも詳しいことは知らない。本人に聞くしかないな」
深刻な話になりつつあり——と思った矢先、チェルスの腹の虫が鳴った。一瞬にして空気が冷める。
「…………チェルス…………」
「正直だろ。腹」短く笑声を上げ、腰に吊った麻の袋から胡桃のような小さな食べ物を取り出す。
ひょいと口の中に放り込み、食う? と差し出されたので、三人は遠慮なくもらった。
「…そうそう、マルヴィナ、あいつのピアス持っているか?」
「え。…ルィシアの?」
「そ」
持っているが…と答えたマルヴィナに、見せるよう要求。マルヴィナは借り部屋に戻り、すぐに帰ってきた。
それをチェルスはしばらく観察し——「発信機は壊されているな」あの日マルヴィナが呟いたそれと
同じ単語を口にした。
「あぁそうだ、それ——」キルガだ。「その、『ハッシンキ』って…何なんだ?」
マルヴィナがいきなり口にした単語を、彼らは聞いたことがなかった。キルガは音の響きを覚えていて
それを調べてみたのだが、やはりどの書にも『ハッシンキ』なる言葉は載っておらず、
マルヴィナにも尋ねてみたのだが、あの時は冷静じゃなかった、頭に血がのぼっていたから、
自分でも何を言っていたのかは覚えていない。そう、答えたのだ。お手上げだった。
「ははぁ」チェルスは言った。「それも『記憶の子孫』の影響だな」
「影響?」
「『記憶の先祖』の記憶が受け継がれている、ってやつさ」
「じゃあチェルスは——知っているのか?」
「だからさっき、名前を言ったんだろ」
胡桃のような粒をもう一つ、口に放る。どうやらお気に入りらしい。
「『発信機』ってのは、まぁざっくばらんに言えばそれを持ったものの位置を特定する物だ。
帝国が獲物の動きを確認するための道具として密かに開発した物だから、世間一般には知られていない。
仕組みもよくは分からんが…まぁ多分、魔法の類だろう。——いや知らないから本当はどうかはわからんが」
「……」
「へぇえ」
キルガは無言で考え込み、セリアスは感嘆の声を上げる。マルヴィナは頷いた。
「でもどうやら、今は獲物じゃなく、兵士に取り付けられている。
その理由なんだが——長いぞ。それでもいいな?」
「長いのは慣れたよ」マルヴィナ。
「何事も説明なしではわからない」キルガ。
「……我慢シマス」セリアス。
チェルスはやっぱりな、とどこか疲れたような表情をしたが——
語り出す、
これから先に本当に重要になる話を。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.271 )
- 日時: 2013/03/17 00:50
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「ガナン帝国は三百年前に一回滅びたってのは知っているな?」
つい最近だが、それは聞いた。それぞれの反応で頷く三人。
「それがまた現れたってことは、二つの可能性がある——はいキルガ」
「えっ?」いきなり話を振られ、困惑気味に答える。その二つを応えろと言う意味か。
「…末裔たちによってたてなおされたか、あるいはその—まだよくは知らないが—
『未世界』って所から蘇った『霊』によって成り立っているか…ってことか?」
「お前本当に凄いな」完璧な回答に若干退いて半眼で答え返すチェルス。
「正解。で、どっちだと思う?」
「本来なら前者だが…話の流れからすると後者だな」
「流石はアイの——」ついうっかりぽろりと素直な感想を言いかけて、チェルスは慌てて誤魔化した。
三人、特にマルヴィナが怪訝そうにチェルスを見るが、「続きだ」と言われ、首を傾げるだけに終わった。
「そ、んで、今の帝国には『霊』がごろついている。今日来た奴らもそうだ…
殆ど骸骨だのなんだのゾンビ系統だっただろ」
「あぁ…」マルヴィナ。「そうだったな」ファイアフォースを皆にかけたのだから、覚えている。
死してなおこの世を彷徨うものに効くのは、炎、そして光。
だから聖であり炎である空爆系統は浄化に適していると、シェナは言っていた。
単に殲滅するだけなら、火炎系統が最も効果的ではあるけれども。
「だが——兵士には二種類いる。ひとつは、『霊』。もう一つが——正真正銘の、今生きている人間」
「へっ?」
「……」
「…あ、ぁ」
セリアス、キルガ、マルヴィナ—尤も喋っていないキルガをカウントに入れるかどうかの問題があるが—。
キルガは既に理解している。マルヴィナも思い出す。ようやくセリアスも気づいた。
弟を探し、ナザムの村で、その生涯を閉じた女性の存在に。
「何でまだ人間集めてんのかはまだ調査中。だが——ようやく本題に戻るが、
この『発信機』はあの国のクサレ皇帝がそんな兵士たちを監視するために使われてんのさ。
もちろん、兵士には知らせないで。——あいつは気づいていたみたいだが」あいつ、というのはルィシアだ。
「監視」マルヴィナが復唱する。「そんなものを付けて高みの見物であれこれ命令ってか」
「…いや」キルガ。「多分…脱走しないためじゃないだろうか」
「お前は…」チェルス。「何でそんなに頭が働くんだ」
「…え? …む?」セリアス。完全に蚊帳の外。
「ハイリーさんみたいに、途中で帝国から離れたくても離れられない状況の人がいた。
…そう考えると、こっそり自分の故郷に戻って一般人のふりをする人が出てもおかしくはないだろ?」
「………」チェルスはかなり微妙な表情で苦笑いした。まったくこいつは。
「はいはい、じゃあもう一つはさすがにこの秀才でもわからない情報だ」チェルスはその表情のまま言う。
キルガは気を害する風でもなく、いやそもそもその『分からない情報』のことを自覚していて
そのまま尋ねるつもりでいたので、黙って話を聞く体勢に。どこまで誠実なんだこの男。
「もう一つ、『霊』に取り付ける理由だが——まぁ、人間と同じ状況も
予測されるっちゃあ予測されるが流石に三百年もたてば村町国の様子は変わる。
そんな故郷に脱走してまで帰るとは考えにくい」
多分そいつ(キルガ)はそう考え済みだっただろうが——とは言わない。
・・・・・・・
「結論から言うと——『霊』の何を監視するかっていうのは、消えたかどうかだ」
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.272 )
- 日時: 2013/03/17 00:50
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
やはり沈黙する三人組。
だから結論から言うなっての。と思ったのはマルヴィナ、
消えたかどうか…。とその意味を考えるキルガ、
…………。頭の中でも黙るセリアス。そろそろ意識がぶっ飛びそうだ。
「はいそれでは——ここでいきなりですが『未世界』について説明をします。マイにまとめてもらった」
そう言って羊皮紙を取り出すチェルス。字を書いたのはもちろん実体のある彼女だったのだが。
『未世界』——仮名。本名? 知るか。
何で存在するのか——そんな質問した奴、何でこの世があるのか説明してからにしなさい。
世間一般が『あの世』と呼ぶものとは異なる
住民は主に二種類、強く未練を残した実在していた者、即ち『霊』。
もう一つは——人間としてこの世に生まれ出でられなかった者、即ち『不人間』(仮名)。
降霊術師だの召喚士だの、そいつらが呼び出すのは『不人間』。
この世を離れきってしまった『霊』を蘇らせるには相当の魔力が必要。
しかも、本来存在する者ではない為、その身体が再び死を迎えたときその身体は消える。
最後のは、マルヴィナも初めて聞く話だ。チェルスは段々疲れながらも話を続ける。
代わりに読もうか、と言おうとしたのだが——それは天使界のものでありながら古代文字であり、読めなかった。
さてここで世界の真実です。
霊関係の仕事している人には有名だよ〜僧侶とか「しまった、マイの言ったことそのまんま書いちまった」
人が死を迎えたとき、魂はどうやって別世界に行くのか? って話。
まぁ、死者の扉が開くんだろうって考えが最も有力らしいけれど。実は、正解。
もち名前は違うけれど、ごく小さな扉的なものが開いて、そこから魂は別世界に飛んでいく。
『霊』も同じで、死を迎えた瞬間その扉を通って『未世界』か『あの世』とかいう世界に戻っていく。
その時身に着けていたものも一緒に消えちゃう。発信機だって例外じゃない。
だから、『霊』に取り付けた発信機が消えた時点で、その『霊』が死んでしまったかどうかが分かるって仕組み。
「…マイの説明はいちいち軽いなマッタク」
重要なことを何でもない顔してさらりと言うお前が言うな、…とは流石に三人も言わなかった。
「そのための発信機か…納得した」
「やっぱ異世界っていうのは不思議だな。この世も天使界も説明し始めるとキリがなさそうだな」
キルガ、そしてマルヴィナ。セリアスは口から魂が抜けそうである。
「…でな。——これで最後なんだが——ちょいと厄介な話があるんだ。——“霊”が複数
ほぼ同時に消えた場合、その扉ってのはやっぱ結構大きく開くらしい。
——そうすると、別に死んだわけじゃない“霊”まで一緒に消えちまうんだよ。とばっちり受けてさ」
「…それ、凄い迷惑な話じゃないか」マルヴィナがぼそりと呟いた。
「……」チェルスは一度黙った。「…あぁ、本当にな」
その言葉を、マルヴィナの目を見て言っていたことが、少々気になったが。
「…説明は以上。よろし?」
「わたしは大丈夫」マルヴィナが答えたが、キルガはまだ何か考えている。
一体どこからそうも疑問が出てくるんだ。
「…まぁ、さすがに説明はもうこれで勘弁してくれ。言った通り説明は苦手なんだ」
「だってさ、キルガ」
「…あぁ」
「分からないことがあったらまた訊きに行けばいい」マルヴィナの助け舟。
不承不承、キルガも頷き、長い説明の時間は終わった。
ちなみにセリアスは寝ていた。
「——あぁ、本当に迷惑な話なんだよ」
宿を出てから——チェルスは、呟いた。
「——あんたにとっても、さ」
チェルスがその脳裏に思い浮かべていたのは、自分の“子孫”とシェナの姿だった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.273 )
- 日時: 2013/03/17 01:00
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「シェナ、何かあった?」
——夕方から夜になるような、そんな時間。
マルヴィナは、里長の家の前の墓に手を合わせるシェナを見つけた。
「マルヴィナ」
シェナは応え、まぁね、と顔を曇らせた。両親と、祖母。少し離れた位置にある、ひとりの少年の墓。
「…ドミールに伝わる『真の賢者』ってね」
シェナは、心配してくれるマルヴィナの優しさに甘え、思っていることを話し出す。
「生まれる前に父親を、生まれたときに母親を亡くす…って言われがあったみたいなの。
その子に宿った魔力が、吸い取ってしまうからって」
そう、そしてシェナは、まさにその境遇にあった。
「私が…その『真の賢者』と呼ばれる者」続ける。
「…どうしても、そう思えなくて…ううん、思いたくなくて」
ゆっくり首を垂れる。
「…どうして?」
「だって」シェナは唇を噛んだ。「私が生まれたことで、二人も死なせたのよ? しかも、両親を…
それに、そんな称号があったって、未熟なのには変わらない。…未熟だったから…だから…っ」
シェナの視線が転じる。その先——ディアの眠る墓へ。離れない。あの光景が。
あの姿が。
あの思い出が。
——あの言葉が。
ア イ シ テ ル 、 シ ェ ナ
“ 無上の恵愛を、貴女に—— 優美なる人へ ”
古の言葉を使うことを好まなかった彼が、シェナに示した最後の存在の証。
どれだけ必死に考えたのだろう。
どれだけの想いを、言葉に込めたのだろう。
だが、その若さゆえに率直に刻むことのできた言葉は、もう昔の出来事。
昔だからこそ、もう戻らないからこそ、シェナは辛かった。
…あの時私に、もっと力があったなら。
「…称号ほど立派な存在じゃない」シェナは震えた。
「犠牲の上でしか生きていないのに。…何が、何が、『真の賢者』よ。…私は」
私は、……。
「…今のままじゃ、そうかもしれないな」
不意に、マルヴィナが言った。重い、低い声で。
「確かに今のままじゃ——シェナは誰かの犠牲の上で生きていることにしかならない」
——否。それは、厳しいというのが一番合っている——そんな声だった。
少し驚いて、シェナはマルヴィナを見る。真剣な目を、見た。
「…いや…それだけでしかない、というべきか。…事実は変わらないかもしれない。
でも、だからこそ——ってものが、あるんじゃないか」
思わず、問い返した。蚊の鳴くような、小さな声ではあったけれども。
「そんなことがかつてあった、そう思うだけじゃ、何も変わらない。
…もう、そんなことを起こしたくない、だからこそ強くなって見せる、前を見てみせる——
そう思わないと、本当に『犠牲の上の者』でしかなくなってしまう」
黙って聞くシェナの手を握った。
「シェナは頑張っている。わたしたち仲間を守ってくれる。
そんなことは思うな。この方たちを、犠牲者で終わらせるな。
…そうじゃないと、可哀想な人で終わってしまう——そうなってほしくないだろ?」
どうして彼女の言葉は、ここまで心を軽くしてくれるのだろう。
それはきっと、彼女だから。
マルヴィナという、ひとりの人格だからこそ、ひとりの戦友だからこそ、紡ぎ出せる言葉。
——マルヴィナ、私は、貴女が羨ましい。
でも、貴女に出会えたことに、感謝したい。
「あぁ、ここにい——」
突然、後ろの階段から、月を背にしたチェルスがやってきた。いつの間にか空は暗い。
マルヴィナは振り返り、その名を呼んだ。シェナは噂の人物が現れたと、同じように振り返って——
「「!!?」」
そして、二人は見つめ合った。
シェナと、チェルス。驚いたように、戸惑ったように、弾かれたように。
「…え」
マルヴィナが困惑して、二人を見比べる。「どうしたの?」
「え? う、ううん」
「い、いや」
だが、マルヴィナの言葉に、同じような反応を見せると、互いに目をそらした。
じゃあ、時間も時間だし、と言って、シェナは戻った。
最後に、ありがと、という言葉は、忘れなかったけれども。
「どうかした?」
訊ねたのはマルヴィナだった。チェルスはその質問が今の反応について聞いているのか、
訪れた理由を聞いているのか分からなかったが、とりあえず後者の答えを言った。
「まぁ、ちょっくら暇潰し——体調は?」
「良好」
「問題なし」
にやりと笑って、チェルスは一本の棒——否、剣をマルヴィナの足元に放って寄越した。
「…え」
「一本、勝負してみないか」
見れば、チェルスの手にも同じような剣が握られていた。拾い上げ、観察する。
それには鍔らしいところがなかった。握りの部分を例えるならば——篭手。
篭手の装飾のようなものから、剣身が生えている——といった感じだろうか。
「一回、あんたの実力を見てみたいんだ」
鍛錬というからもちろん刃はないが、それにしては威力が高そうだ。しかし、ひどく持ち辛い。
「パタ、って剣が基だ」チェルスは言った。「持ちにくいだろ。下手すると手首を痛めるから気をつけな」
「ちょっぴり厳しい鍛錬にはおあつらえ向きってか」マルヴィナは苦々しげにも笑って言った。
「そーゆーこと」びゅんびゅんと重く振り回しながら、チェルスはぴたりとマルヴィナに向けた。
マルヴィナも感覚をものにし、ゆっくりと持ち上げ、構えた。
「…いくぞ」チェルスは静かに言い、鍛錬にしては少々荒っぽい一戦が始まった。
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