二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.354 )
- 日時: 2013/04/11 21:40
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
しばらくすぎてから、わたしは長老オムイさまの元へ向かった。
さっきとは大きく違った様子のわたしに、近衛天使の方々は少し驚いている反面、
ほっとしてくれているみたいだった。心の中でチュランに大きなお礼をしてから、姿勢を正し敬礼する。
「神の国のことか」
「えぇ」頷く。
「わたしが出立を遅らせる原因になるわけにはいきません。天使皆の念願を背負っているのですから」
「——そうか」オムイさまは目を閉じ口元をゆるませると、天を仰いだ。
「…それでは、出立は明後日。おまえたちにも同行してもらいたい。…あとは、あの女性にも」
「チェルス…ですか」
「左様。…なに、儂がゆくというのに彼女が残るというのも奇妙な話であるだけのこと」
あぁ、なるほど…と理解しかけて止まる。
…ちょっと待って? わたしにはその言葉が奇妙に思えたのだけれど——
と、オムイさまがゆっくりと立ち上がる。
支えが必要かと動きかけたが、どうやらいらなかったらしい。
わたしの疑問を察知したのかは定かではないけれど、オムイさまは
そのまま進み出て、着いてくるように促した。
首を傾げるわたしを後ろにやってきたのは、天使記録書物室だった。
そこにいる上級天使の皆さんに一時的に出るように言い、オムイさまは
杖の音を小さく高く響かせながら奥へ進んだ。初めて見る書物室に、はしたないとは思ったけれど
どうしても興味がわいてしまって見渡す。凄い量だ。
ここに、全ての天使の記録が書かれている——あ、キルガの名前見っけ。
セリアスの名前は…と考えていると、それを見つける前に別方向へ曲がってしまった。
ごめん分かんなかったと、なんだかセリアスがここに居たら突っ伏して嘆くか
ちくしょーとか言いながら壁に正拳突きを叩き込みそうなことを考えながらついて行く。
外から見たらわからなかったけれど、妙に広い部屋だ。
「…今更だが、これは他言無用じゃ。…この先にあるものは、長老となった者にしか知らされぬことなのだ」
わかりました、と答えたのち、そういうのばかりだな…と思う。
ドミールでも里長のみにしか伝えられないことがあった。案外知らないだけで、
一般の者には知らされない、特別な者にのみ受け継がれる秘密というものは
どこにでも転がっているのかもしれない。
ありがちなのは王家だよなぁ、そう言えばフィオーネ元気かな、
グビアナってどうなったんだろう、また会いに行きたいな——そんなことを考えている間に、
ようやくそこに着いた。
…棚の死角、鍵で厳重に閉ざされた小さな部屋。明りはなかった。
カンテラを持ってくることを忘れていたらしいオムイさまは、戻るか、と言い出したので、
わたしは一つだけあった燭台を前に炎の気を集め、小さな火を灯した。
「魔法、か…もしかすればおまえたちは、もうこの天使界で
誰にも負けぬほどの強さを持っているかもしれぬな」
「わたしなんてまだまだです。剣しか取り柄がないですから」
ともかく、わずかながらも明るくなった部屋で、オムイさまは一冊、
薄くもなく厚くもない古めかしい書物を取り出してわたしに手渡してくれた。
中を見たい衝動に駆られたが、さすがにここまで厳重に管理されていた物を
安易に覗かないだけの常識と我慢はある。
これは何の書ですか、という問いに、「チェルス殿が知りたがっていることが書かれている」と
少々遠まわしに言った。
…“騎士”のことだ。確信して問うと、オムイさまは驚いたようにわたしを見たのちに頷いた。
話を聞いたことを察知したらしく、読む許可をくれた。
少し落ち着きを取り戻してから、そっと、まるで壊れ物を扱うかのように、
本当にそっと、それを開く——…。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.355 )
- 日時: 2013/04/11 21:45
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
——初代長老エルーファの名が乗っている。が、これはどうやら三代目長老の書いたものらしい。
その筆跡を見てわたしは思わずぞっとした。
忌々しい、という感情を必死に抑え込むかのような跡。時の流れによる影響だけではないのだろう、
たくさんの折れ曲がり線、汗の黄ばみと、よれよれになった羊皮紙。
言うまでもなく、天使界にとって異端の存在、“騎士”のことが、これ以上ないほど酷く記されていた。
ただ、事実とは少々異なっていた。“騎士”は、正式に創造神グランゼニスさまからその名を与えられて
生み出された集団だけれど、これには人間を快く思わない者たちの集まりが“騎士”である、と書かれている。
読書をそう好むわけじゃないわたしがここまで吸い込まれるように読んでしまったのは、
書いてあることがあまりにも深く胸に突き刺さってくるからだったのだろう。
…夜闇が辺りを支配し始める頃、曝された“騎士”の存在。
よく言えば勇気があり、悪く言えば無鉄砲なとある守護天使が、これより以前から
滅多に姿を見せなくなった“騎士”たちの会議を聞いていたのだという。
前々から怪しまれていた彼らの存在にいい加減な噂ばかりが立ち、
必要以上に大袈裟なほどその存在を悪とされていた。
そののち彼らは度々尋問され、責め立てられ、とうとうチェルスと同じ道を
辿ることになってしまったという——生死は、何も書かれていないことから不明なのだろう。
「…これを、チェルスに届ければいいのですか」
ちょっぴり震える声で聞いたわたしに、オムイさまは頷いた。
「我々が持っていても仕方のないもの…望まれるのならば彼女に差し上げても良いが…
こんなものを受け取るいわれはないな」
「…確認してみます」そうかもしれないなとちらりと考えて、そう答えた。
「…オムイさまは、チェルスをご存じなんですか」
迷いも間もなく、すぐに頷かれた。「後の方にな。書いてある」
“騎士”の中にたった一人、既に処刑として天使界から落ちた者がいるという——
そんなことが書いてあった。
ブルーオーシャン・アイ
闇髪に、蒼海の眸を持つ者——特徴まで書かれていたが、そのおかげで誰かは一目瞭然だった。
「…正直な。初めてお前を見たとき、少々驚いたものだ」
初めて、の言葉に戸惑ったのち、自分が天使界に送られて間もない頃を話していることに気が付いた。
…よく覚えている。やはり異常な時期に送られたからか、天使たちがたくさん集まっていて。
夜になりたての空だったから、建物の中からこぼれる光の影響もあってみんな真っ黒だったから正直怖かった。
…実は幼少のトラウマだったりもするが、それは言わないでおこう。——あれ、言っちゃった?
「あの書物を眺めていて間もない頃だったからの。…まさか数千年の時を超えて、
その天使が我らのもとに戻ってきたのではないか——そう思ってしまったのだ」
すぐには答えられなかった。…あながち間違いじゃないかもしれないな、と思ったので。
…話しておくべきだろう。おそらくオムイさまは、少なくともわたしとチェルスには
弱くはない関係があるものとみなして、これを見せてくれたのだと思う。
長老のみにしか閲覧を許されなかったという、この書を。
ならばこちらも、それに見合うだけの情報を提供するのが妥当というものだ。
わたしは、チェルスたちが時間をかけて話してくれた自分たち三人のことを、
順に整理しながら伝えた。チェルスとの関係性。天使界から落ちて、三人ともが翼と光輪を失った理由。
そして、わたしは、創造神グランゼニスさまによって創られた生命ではないということも。
——言うなれば。“騎士”とは別の意味で、わたしは“天使”じゃなかった——のかもしれない。
簡単に認められる考えじゃないけれど。
大体のことを話し終えて、静寂が落ちた。少々居心地が悪くなる。長く話したのちの沈黙は痛い。
少し迷って、「…と言うわけです」と、多分先程の話の終わりに言った言葉と
同じことを言って間をどうにか埋める。
「…そうか…」
短く声をあげたきり、オムイさまはまた黙ってしまった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.356 )
- 日時: 2013/04/11 21:50
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
…困ったことに、ますます気まずい雰囲気になってしまった。
会話を繋ぐべきかそれとも沈黙を守るべきか悩んで、とりあえず何か動いて時間を稼ごうかと、
もう一度書物を読もうとした時だった。
「——イザヤールはな」
不意にとびだしてきた師匠の名に、少なからず驚いたことを自白する。
はっと顔を上げたと同時に、書物を広げようとした手も止まってしまった。
「決して弟子をとらず…師匠になることを拒み続け…怯えておった」
——怯え? いつも真面目で堅くて堂々としていて、ちょっぴり厳しくて、でも時々優しくて、
そんな彼に似合わない言葉に首を傾げた。
「…あいつの師匠——『大いなる天使』エルギオスを知っておるか」
迷わずに、はい、と一言答えた。彼に憧れていたラフェットさまからも聞いた。
彼を捜し続けるラテーナからも聞いた。
「…イザヤールがまだ守護天使にもなっておらぬ時に、行方をくらましたきり、戻ってこない——
おそらくあいつは、自分の弟子が師匠のように消えてしまうことに怯えていたのじゃよ」
そこまで言われて、ふと思い出した。
ラフェットさまも、初めてエルギオスさまのことを話してくれた時に、
似たようなことを言っていた気がする。
——“ …イザヤール、恐れてたんだよ。マルヴィナまで、もう戻って来ないんじゃないかってね。
人間界に降り立った天使はみんな戻って来ないし、あいつにまで何かあったら
まずいって思ったんだけど…ダメ。言っても聞かないんだよ。
あいつ、見かけによらず弟子思いだからさ ”——
…何で彼を疑ってしまったのだろう。
百何年、彼の弟子になって。ずっとお世話になっていたというのに。
彼が起こす行動には、必ず何か意味がある。そう、知っていたはずじゃないか。
「…おまえの師匠になることを言い出したのはイザヤール自身じゃ。…他の者に言われたのではなく、な」
身じろぎもしないまま、わたしはずっとその話を聞いていた。
何も知らなかった、陰に隠れていた出来事。
「無論、我々は皆驚いた。ずっと弟子をとらなかったはずのあいつがまさか
そんなことを言い出すとは思わなかったからな…皆、何があったのだ、本当に良いのか、
何者かも定かではない少女だというのに、と問うたほどじゃ」
あ、やっぱりそう思われていたんだ。って、思わず苦笑した。
今はもうどうってこともないけれど、やっぱり昔は奇異なものを見るような周りの目つきが怖かったから。
けれど。彼はそこで言ったらしい。
——決意したまでです。天使を弟子にとるのは当然、なのでしょう。
何を今更、なんて言われそうな言葉だったけれど。
わたしは天使である、と。そう、はっきりと言ってくれたのだという。
——私があの少女を、守護天使にしてみせます。
言葉の通り、強く決意した、そんな声色で。
…思わず唇を噛んだ。目を閉じて、気持ちを落ち着かせる。
…何も考えていないわけじゃなかったけれど、何の言葉も思いつかなかった。思いつけなかった。
「…お前は天使だ。そして、紛れもない、守護天使だ。——あいつはまだお前には早すぎると言っていたが、
本当にそう思っているのなら何が何でも否定する。なんせ儂が言っても
何十年も弟子をとらなかった男だからな。…内心では、認めていたのだろう」
何故なら、嬉しいとか、感動したとか、そんなのじゃなくて、
もっと強くて、もっとあったかい感情が流れてきて、だからこそ言葉で表せなかったから。
「…どんな姿になったとしても、どんな出生であったとしても——
お前たちは天使で、そして帰るべき場所はここじゃ。…忘れるな」
唇を無理矢理引き締めて、真面目な表情をつくった。
はい、と、今までで一番大きな声をあげて、敬礼する。
けれど実は、誰が見ても笑っている表情だったというのを、わたしは知らない。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.357 )
- 日時: 2013/04/13 17:11
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
4.<キルガ>
—— 一体何をしていたんだろう。
マルヴィナがラフェットさんに呼ばれた後、二人の元を同じように離れ、
今は閉ざされた“星の扉”の前の長椅子に腰を下ろした。
高い天井を仰ぎ、唇を結んだまま目を細める。口を閉ざしているのは、
そうでもしなければ溜め息を吐くのは確定だからだ。目を細めたのは…まぁ多分癖だ。
その格好を保ったまま無駄に時間が流れた。
結局小さな溜め息を吐いてしまったことにこの時は気づかなかった。
…本当、一体何をしていたんだろう。もう一度、思う。そんな自分自身に、嫌気がさしながらも。
肝心な時に何もできない性質だということを、自覚していた。 サッキ
人間界に落ちたときだって、誰かが危険にさらされたときだって。それだけじゃない、先刻みたいな、
シェナとチェルスの対峙だって、どこかで圧倒されて、何も言えなかった。
シェナがチェルスに挑んで、セリアスが強く諭して。マルヴィナが、温かな言葉をかけて。
だというのに、自分ができたことと言えば、理解できた話に対して答えただけだ。
…あのときだって。
声を張り上げるだけで、何もできなかった。
叫ぶだけでは、人を救えない。マルヴィナが箱舟から落ちてしまったときに、学んだはずなのに。
なのに、同じことを繰り返すだけで、救えなかった。
何の得もないのに助けてくれて、世話を焼いてくれて、騎士道について教えてくれた、恩師を。
記憶にあるよりもずっと静かなその場で、また更に時間が過ぎてゆく。
立ったとしてどこに行く当てもない。座っていてどうにかなるという確証もないのだが、
ただ何かが起こればまた動くのだろうな——と思うと、自分からは何もしないというこの状況が、
『何もできない』原因なのではないかと考えてしまう。
…考えることはできるのに。だったら何故、いつも動けないのか——…。
ひょい、と、その時一つ暗い影がどこともつかぬ場所を見ていた視界を遮った。
その影に二つ大きな薄紫の目がくっついている。思わず目を瞠って、現状理解に少々時間を費やしたのち、
驚いて短く大きな声をあげた。…その拍子に少々仰け反った気もするから、
もし座っていたのがただの軽い椅子だったらひっくり返っていたかもしれない。長椅子で良かった。
その目が離れ、次いで哄笑が静かな空間に響き渡る。言わずもがな、セリアスだった。
「やー、驚いたなキルガ。驚き方まで様になるな。ちくしょぉぉぉぉ!!」
「イヤ待て何で怒ってんだよ!」「理不尽すぎるー!」
いつもの調子、いつもの安心感をもたらす笑顔の後に何故か悔しがられた。…何だったんだ一体?
謎の親友から視線を外し、彼より前に出ながらセリアスの言葉に意見した天使たちを見る。
声を聞いた瞬間に分かった。幼なじみたちだ。
右からアレク、フェスタ、ラフ、カルテ、リーラス。
後ろにはチュランとリズィアナ。皆、僕らが天使界に送られてきた四年後、
いわゆる『正常時期』に送られてきた天使たちだった。…あ、シェナもいた。
「…今私のこと気付いてなかったでしょ?」しかも気付かれた。
答える前にチョップが飛んできて、咄嗟に避けたものだから、今は後ろにいる形となったセリアスに直撃した。
・・・
未だ何かに怒っていたセリアスは相も変らぬ奇妙な絶叫の後撃沈する。
おー、とアレクとラフが何故か拍手を送っていた。
「あ、ごめん」
反省っ気のない声をあげて、シェナは何故かそのまま戻ってゆく。…良かったのか? これで。
「さっきおれらが脅かしたらさ、すっげビビって叫んだんだよコイツ」セリアスを指しながら
にやにやと笑って言ったのは上級天使候補アレク。
「で、リズィーが恐ろしく素直にその驚き方を指摘したモノだから」チュランと同じく、
上級天使候補及び司書見習いのリズィアナの通称を呼んで説明を繋いだのは、上級天使候補リーラス。
リズィアナとは恋仲であり、その所為か多くの天使から御苦労リーラス、とも呼ばれていたりするが、
本人にしてみればそうでもないらしく、意に介さない様子だ。
「だって面白かったんだもん。そこの三人——」指したのはアレクとフェスタとラフ。
フェスタはあのエルシオン学院の守護天使候補だが本人は多分俺以外の奴がなる、と言っていた。
ラフはアレクと同じで上級天使候補だ。
「——が揃ってビビらせてさ。そしたらいきなり『ほぎゃーーーーーー!』だって。
ほぎゃーだよほぎゃー。超笑った」
「ちょっおまっ」早くも回復したセリアスが慌て止めようと騒いだが、
「ついでに石みたいに固まったまま横に傾いた揚句ひっくり返った」という、上級天使候補カルテの
清々しいまでの無視した言葉で一気にまた撃沈した。…感情の忙しい奴だな。今更だけれど。
「あー、確かに前よりかはちょっとこさ格好良くなってるかもね。女が騒ぐわけだ」
シェナと話していたチュランが遠くで頷いている。…何の話?
ともかく、一気に幼なじみたちが集まってきたところを見ると、
セリアスがここまで連れてきたということらしい。…再会の仕方はともかくとして。
「たく、お前まで元気無くしてどうするよ。久々に帰ってきたんだからさ」
彼らの近くへ歩きながら、セリアスは七人とシェナには聞こえないくらいの小声でそう言った。
すまない、と少し笑いながらも、複雑な思いだった。セリアスはすぐにこういうことに気付く。
気付くだけじゃなくて、そのあとの、場合に応じた行動までできる。
…本当に、羨ましかった。こんなことを言うとこいつは、笑うだろうけれど。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.358 )
- 日時: 2013/04/14 01:08
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
彼らの前まで歩を進めると、いきなりアレクは腕をつついてきた。
「聞いたぞ、スゲーじゃん! 今や世界の守護天使並みの活躍! ってさ。くぅー、シビれるー!」
天井に向かってガッツポーズをするアレクを、フェスタがつついたというには強すぎる力で押した。
「何言ってんだよ。世界の守護天使って誰のこと言ってんのか分かってんのかよ」
「しらねーよ!」
「イザヤールさんだよこの知ったかぶり!!」
フェスタは凄い勢いでアレクの腹部を殴りつけるが、昔から変わらない光景なので誰も止めず、
今や勝手にやっていろという雰囲気だ。ちなみに僕も例外ではない。
「へぇ、イザヤールさんって、そんなに凄いの?」唯一彼をそんなに知らないシェナが
隣にいるチュランに尋ねた。——が、それに答えたのはリズィアナだ。
「凄いに決まってんじゃん! マルヴィナのお師匠さまだしー、頭いいしー、オムイ様からの信用
めっちゃ厚いしー、カッコいいしー、ちょっと厳しいけど優しいしー、世界中をまわってるしー、」…等々
イザヤールさんのことを語らせたら止まらないリズィアナの機関銃説明。シェナが驚いて仰け反った。
「シェナちゃんを困らせるなボサボサ頭!」
「ボサリズィー」
「あんたら表に出ろぉ!!」
すぐさまアレクとラフの守護とリズィアナの絶叫。珍しくシェナは困ったように笑っていた。
ラフが逃げたため、アレクが怒りの餌食になっている。…さっきから殴られてばかりだな、アレクは。
「でもま、なんてーかさ」アレクの相手をリズィアナに任せ、フェスタがぱしっ、と肩を叩いてきた。
昔は冗談でもそれだけでかなり痛かったのに、今は何ともない。
「何か不思議な感覚だよなぁ。ついちょっと前まで、よく一緒にいて競ってたってのに、
今じゃいろんな人間助けてんだろ? 何か俺まで鼻が高いってかさ」
短く笑声をあげながら、フェスタは鼻の下をこすった。昔からの癖だった。
彼らは変わらない。けれど、自分たちはこの短い間で、かなり変わった。
…不思議な反面、少しだけ遠のいてしまった感覚もある。
ラフがやれやれと肩をすくめながらフェスタの横に並ぶ。…何か妙なことを考えている顔だった。
「お前、人間界じゃそれを“狐の衣を狩る虎”って言うんだぞ」
「逆じゃない?」「三ヵ所違う」「それはおかしい」
シェナ、カルテ、僕の順に、けれどほぼ一斉に指摘する。
格好つけたはずが格好悪いところしか見せられなかったラフだが、シェナにまぁまぁ、と目尻を下げつつ
芝居めいた笑い方をしている。妙に顔を強張らせたままセリアスが一歩進み出たと同時、
カルテが横からラフの首根っこを掴んだ。
「『虎の威を借る狐』だ。衣でもないし狩りもしない。使い方も微妙に違うし」
「苦しいな! なんだよ、虎だってたまには狐の恰好したいって思うだろ!」
「とりあえず黙れ」
相変わらずだな、と思わず苦笑した。
人間界にいる時のように武具を纏っていないと、まるで自分は天使の姿に戻っていて、
変わらぬ生活を送っているような気がしてならない。
…けれど、以前は彼らのこの騒がしい会話ですら気にならないほど賑やかだったここは、
今では大声が響くほど閑散としていて、哀しいほど静かだ。
床に入っている亀裂は一本二本の話ではない。こんな調子でも、彼らだって本当は辛いはずだ。
未だ戻ってこない天使だっている。ずっと元気でいられるはずがない。
——辛いのは自分たちだけじゃない。悩んでいるのは自分だけじゃない。
ここにまた賑わいを取り戻せるのは、きっと僕ら四人だけだ。
…僕にはまだ、できることがある。落ち込んでいる場合じゃない。
気づかず拳を握りしめていた。ところで、とリーラスが声をかけてくる。
「マルヴィナはどうしたんだ? …さっきから姿が見えないけど」
「ラフェット様のところ」チュランがずれた眼鏡を人差し指の第二関節で上げながら答えた。
「…あいつやっぱまた強くなったか?」剣術仲間でもあったフェスタが少々声を潜めてセリアスに訊ねたが、
小声にした意味もなくしっかりと聞こえている。
「あぁ、大分」
「やっぱかー…」ぴしゃっ、と音を立てて額を叩く。その拍子に
トサカみたいに立った髪の毛までしおれたように見えたのは気のせいか?
「や、でも、そんな変わんないっしょ。最後に会ってからまだ二年しかたってないんだし」
「いーや、その二年間でキルガがまたカッコ良くなってんだからマルヴィナだって変わってる。絶対」
アレクとリズィアナの妙な真剣な会話。…さっきまで殴り合いしていなかったか、この二人。
唯一マルヴィナと既に会ったらしいチュランは少々唇の端を持ち上げながら黙って聞いている。
僕らはつい顔を見合わせた。…リズィアナの意見は正しい。確かにマルヴィナは、
この二年間で外見や印象がかなり変わったように思える。けれど、どういえばいいかが分からず、
結果皆何も言わなくても大丈夫だろう、と判断した表情をしていた。
「…しばらくしたら来ると思う」
結局、アレクの問いに答えたチュランの言葉に補助を入れるだけにした。
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