二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.199 )
- 日時: 2013/01/31 22:43
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
「まさかとは思うけどさぁ、まさかマルヴィナの奴モザイオにケンカ売りつけたりしないだろうな?」
“まさか”を二回言って、セリアス。最近シェナ化している気もしなくはない彼女のことである、
まずない、とはキルガも断言できなかった。
槍と斧は外で行われるため、この二人は割とあっさり会えるのだが、
体育館兼講堂にいるマルヴィナはもちろん、格技場にいるシェナもなかなか交流が取れない状態である。
「しかしマルヴィナが誰かと関わろうとする日が来るとは…」
「しかも男だしな」
む、とキルガの表情が心なしか強張る。セリアスも割と狙って言ったので、その反応に少々吹き出す。
ナビ
「…マルヴィナはそう簡単に靡かない」
「お前がそれを言ってどうするよ」
キルガも言った後に、確かに、と思い直す。そして落胆する。
お前はピュアか、とセリアスが胸中でツッコむ。
なんだか妙な空気が流れた頃、二人の耳に聞き慣れた声が飛び込んでくる。
「おつかれ、お二人さん。…何? この微妙な空気」
それは弓の道着に身を包んだシェナである。なかなか会えないと言った後にこれである。
落胆したまま顔を上げないキルガに変わり(とはいえ落胆していなくてもだろうが)セリアスは引いてから
「なんで来れた!?」
と問う。それに対しシェナは居丈高に言う。
「え? 当たり前じゃない。すっぽかしよ」
真面目に言うな断言するな悪気ない表情をするなとはセリアスは言わなかった。
とりあえず落胆キルガとなった状況を簡単に説明。
するとシェナは先ほどと同じように、あっさりと言葉を紡ぎだす。
「じゃあ見に行けばいいじゃない」
「はぁ?」
「心配なら見に行って、なんか雰囲気良さそうでもまずそうでも阻止してあげればいいんじゃないの?」
それはどっちにしろ阻止しろと言うことではないのか? とキルガは思ったが、
それは口に出さず、「それはマルヴィナに悪い」と落胆した時の声のまま言う。
若干呆れ気味に半眼で苦笑するセリアスは、
あぁどうでもいいからコイツに闘志を与えてやってくれとシェナに目線だけで言う。
それが彼女に伝わっていたかは別として、ともかくシェナは少し考えてから
少しだけにやりと笑ってキルガの耳元に口を寄せる。
「マルヴィナは剣術強い人に一番ときめくのかもよ? 今この状況で剣術強い男っていえば——」
最後まで言わせず、キルガの頭がいきなり上がる。半死人みたいだった目が別物のように開いている。
何事かと驚くセリアスにしっかり向き直ると、
「行こう、今すぐに!!」
何故か倒置法できっぱり言い切り、返事も待たず体育館に向かうのであった。
(訂正。お前は単純か!!)
セリアスはもう一度胸中でツッコみつつ、一言二言で心情をあっさり変えさせた仲間に苦笑したのだった。
移動を開始した三人の後ろに、またしても影が姿を現す。
ところでサンディはというと、
「やっばマジぱねぇぇ何あのスタイル! いーなチョーかわいーアタシも真似しよっかなー」
いろんな生徒を見ては、自分のギャルスタイルについてよくよく考えていたのだが、まぁ今は関係のない話。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.200 )
- 日時: 2013/01/31 22:46
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
(…うん。こんなものかな)
時は少々戻る。
マルヴィナはある程度の情報を集めてから一つ肩の力を抜いた。
(…そろそろ鍛錬かな)
実際に細剣を交えるなら、やはり相手にすべきはモザイオである。だが、新参者がいきなり
一番の強者と称されるモザイオと戦えさせてもらえるだろうか。 ・・・・・・
ある程度の実力者だろうと想像がついているであろう他の者も、まさかとある別世界で彼女が一番——否、二番目の剣技を誇っているなどと気付くはずはない。
となると、別の者と戦い、実力を見せつけるべきか。
それとも迅速に、挑発してその気にさせるか。
いや、早すぎると相手にもしてもらえないかもしれない。どうするべきか——
とさまざまな考えを巡らせている間に、鍛錬は始まる。マルヴィナは考えるのをやめた。
最終的に、両方やるかと決めたのであった。
天使界二番目の実力派剣士は、凛とした表情で初戦に臨む。
そして、マルヴィナ見守り三人組。
…が、体育館兼講堂に着く手前——
「む?」
その出入り口に少々人だかりができている。それに対し声を出し反応したのはセリアスだけだったが、
無論無言の二人も軽く首を傾げる。
「なんだ…?」
問うても答えが返ってくるわけではないので、実際に近づく——そして、
その意味は大して時間をかけず知らされる。
「む」
「おっ」
「あら」
三者それぞれ短い感嘆の声を上げる。
彼らの視線の先にいたのは——持ち前の剣技を披露するマルヴィナの姿であった。
『なかなかの実力者』ではない。『相当』——という言葉で表していいものか、それほどの実力者だ。
マルヴィナのことを、周りはそう認識し始めた。こんな強い人がいたのか——そんな羨望と憧憬の目。
強い、と言うより、美しかった。まるで舞を踊っているように見えた。
それに魅了され、思わず周りも動きを止めていたのである。
「凄い」
ミチェルダが素直に目を見張り、
「…………………………………」
モザイオが憎々しげな表情をし、
「ほう」
剣教師ガザールは感嘆の声を上げる。
ちなみに、マルヴィナはまだ本気ではない。『常に本気であれ』——師の教えである。
が、彼はマルヴィナの実力がさらに上がると、なかなか難しい言葉を教えてくれた。
・・・・・・・・・
『本気にならないことに本気になれ』————
なんのこっちゃ、と首を傾げる。どうしてもわからなくてキルガにも何気なく尋ねたのだが、
彼もお手上げだったらしい。セリアスはなんとなくぼんやり分かったような、分かっていないような、
そんな感覚だけがあるらしい。
『本気になるべきところでないところで本気になると、
無駄に体力を使うことになる』と言いたかったのだろうか?
なんとなく納得がいかないながら、とりあえず今はそうなるように『本気を出している』のだった。
鋭く、弾かれた音が鳴り響く。マルヴィナ、三度目の勝利。
彼女はここでようやく、周りの人々が自分を見ていることに気付く。
なんとなく気恥ずかしさを覚え、彼女にしてはかなり珍しく顔を赤くし肩をすくめた。
「むー…『好き』って感情以外であんな表情をすることもできるのね…」
「シェナ、それ、禁句」
「だいじょーぶよ、さすがにキルガもこの程度では」
キルガの頭が下がっていた。
「ってなんで落ち込んでんのよ!?」
「は?」と、瞬時にキルガの頭が持ち上がる。目は、何のことだ? と言っていた。
「…はい?」
「…へ?」
「………………………………………」
三人がなんだかよく分からない空気に包まれていたとき——
「マルヴィナ君、どうだね、うちの強者と戦ってみるかね?」
ガザールはそんな質問をマルヴィナに投げかけていた。
「強者ですか?」あえてとぼけてみるマルヴィナに、当の本人から声がかかる。
「っざけんなよ、女ごときに俺様がやられるわけねえだろ!」
「逃げんのー?」
マルヴィナがそろそろかな、と相手を乗り気にさせるための言葉を言おうとしたとき、別方向から声。
それは、ミチェルダであった。
少し驚くマルヴィナに、彼女はにっ、と歯を見せて笑った。
モザイオの居丈高な状況を変えてくれる者が欲しい。
モザイオに勝てる人が欲しい。
マルヴィナの勝利を確信している。
ミチェルダはそう思ったうえで、そう言ったのだ。
マルヴィナは笑い、無言で、だが挑みかかるような目で相手を見据えた。
モザイオはしばらくそのにらみ合いに応じていたが、悪態をつくと、乱暴に細剣をとりあげ、
そのまま大股でマルヴィナの前まで歩いてきた。
「…ちょーしノってんじゃねぇぞ」
モザイオのすごむ様子をみて、マルヴィナは口だけで微笑む。
・・
「…誰が?」
このやりとりを、彼らより一層鋭い眸で眺めている者——
ルィシアの存在に、マルヴィナは気づいていながら何も言わなかった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.201 )
- 日時: 2013/01/31 22:52
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
—————っぱぁん!!
今日一番、鋭い音を立てて、細剣が弾かれる。
「っ!?」
「…………………………………」
弧を描いて主のもとから弾き跳んだ細剣は、観衆のいない空白のスペースに落ちて乾いた音を立てた。
勝負あり。細剣を未だその手に携えていたのはマルヴィナ、消えていたのはモザイオ。
文句なし、マルヴィナの勝利であった。
「す」
沈黙を破ったのは、ミチェルダの歓喜か、あるいは圧倒による震え気味の声。
「すごいマルヴィナ、よくやったー!」
「わっ」
構えを解いたところでいきなり飛びつかれ、マルヴィナはよけようか——と思ったが
それもやめて素直にとどまった。さすがに学院一の猛者をこうもたやすく倒してしまうとは、
周りの人間、ガザールすら思わなかったらしい。驚愕、歓喜、若干の同情と羨望。
群衆がさまざまな表情をしている中で——
やはり一人、異様な殺気を漂わせた娘がいることに、三人は気づく。
「彼女…」
勝敗の行方は分かっていながらも安堵と歓喜に包まれていた三人の中で、
真っ先にその重い空気を見つけたのはセリアスで、そのことに対し口を開いたのはキルガだった。
鋭い翡翠の眸に、感情といった感情はない、どこまでも深い、深い海の底のように冷えていて、
その眸に気付いたものに言い表せないほどの悪寒を覚えさせていた。
「彼女の霊気…まるで別格だ。…まさか、あの人まで、ガナンの手先じゃないだろうな…」
「…分からん。でも、それならマルヴィナが、真っ先に警戒すると思うんだが」
まぁ…ね。キルガは曖昧に頷いてから、隣のセリアスの、さらに隣にいるシェナを一瞥した。
シェナは無言だった。殺気漂わせる娘への鋭く、値踏みするような視線は変わらない。
やはり、どうしても拭いきれない何かがあった。シェナと、ガナン帝国。
どこかで、何かつながりがあるのではないか。花の街サンマロウ、その北の洞窟——
恐怖から無理矢理に立ち直ったマルヴィナが、震える身体を押さえながら対峙し、
しかし敵の武器を奪いその類稀なる才能を見せつけてみせた、あの兵士が現れてから——
その兵士たちへのシェナの反応を見てから——どうしても、そう思わずにはいられなかったのだ。
・・・・・・・・
だが、もし彼女がガナンの、そういう意味での関係者だったら——マルヴィナが、
あの邪悪に敏感に反応する彼女の勘が、黙ってはいないだろう。
マルヴィナはシェナを仲間とし、信じ、認めていた。疑うことなく、純粋に。
…マルヴィナを信じているのに、何故彼女の信じる者を信じないでいる? それは、矛盾していないか。
「……………………………………」
キルガはそっと、内心でかぶりを振った。
そして、最終的に仲間の勝利に喜ぶ二人と同じように、屈託なく笑うのだった。
話通り、その日は早い時間に授業が終わる。
生徒たちは放課後の教室でおしゃべりをする者もいれば、いそいそと更なる勉強に勤しむ者も、
図書館で好きな本を読む者も、購買へ行って買い物気分を味わう者も、
さっさと寮へ戻って寝る者も——さまざまだった。
キルガは槍術にてお前なんでそんな強いんだよ一体どこで教えてもらったんだよ
くそうただの優男じゃねえなちょっと俺に槍を教えてくれよ今ここで勝ち逃げとか許せんなどと
彼に負けた、あるいは彼の試合を口をあんぐり開けて見守っていた男たちに囲まれて
なかなか逃げ出せないでいた。…おそらく周りの男たちも、彼の近くにいれば
たとえ自分に向けられたものでないとしても大勢の女の子から視線を集められるという理由で
集まっていると言うこともあったのだろうが。
セリアスはセリアスで、さっさと寮に戻り、自室で筋力トレーニング。
普段鎧を着こむ彼には、何も身に着けていないように感じて、
いつもよりもトレーニングをしていないと落ち着かないらしい。
そしてその分へとへとになり、身体もほてり、最終的にはクールダウンに寮の外へ出て
くしゃみを一発かましてから元の部屋へ戻っていくのだ。
シェナはというと、放課後の教室でおしゃべりをするクラスメイトに付き合っていた。
彼女は授業の合間はいつも授業についていけなかったセリアスのために
その授業ごとの要点をまとめて説明してセリアスに毎度頭を下げられているので、
彼らにとって情報を得る時間と言うのは放課後やその他の時間に充てられるのであった。
そして、マルヴィナは。
目の前にいる、前日までは敵意と、恐怖感の入り混じった視線で見られていた大人数を前に——
不敵な、だが決して嫌ではない——むしろ優雅ともいえる微笑をその口元に浮かべていた。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.202 )
- 日時: 2013/01/31 22:58
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
どん、と。
マルヴィナの前に、なんだかすごく大きなグリルチキンの皿が置かれた。
目をしばたたかせ、また一方でおそらくグリルチキンよりも大きな喜びを感じているだろうマルヴィナに、
それを置いたセリアスは二言、
「戦利品だ。食え」
と促した。
たちまちマルヴィナの表情が華やぎ、素早くお祈りを済ませてから、
何とも嬉しそうな顔でチキンを切り始める。
「それを言うなら勝利祝いじゃない?」
シェナがマルヴィナの横でそれを眺めながらセリアスに尋ね、
「いんや。それもあるが、これ手に入れるのにちょっと一戦してな」
「…一体何をしたんだ…」
キルガが真剣な表情で尋ねるわけでもなく呟いた。そして目の前のマルヴィナの
チキンを口にした嬉しそうな声に顔を上げる。
「セリアス…実はいい奴だったんだね」
「ほめてもそれ以上は——ちょっと待てなんだ『実は』って」
もう一度チキンを口に入れながら、マルヴィナは「はぐ?」と
目だけで“なんのこと?”と言いたげな視線をセリアスに送った。
相手の悪気ないその表情に、いややっぱいいわ、とセリアスは苦笑気味に諦め、
シェナがお疲れー、といまいち言葉通りの感情を抱いていなさそうな声色で言い、
キルガはマルヴィナの幸せそうな表情を同じように幸せそうに見ていたりする。
言うまでもなくサンディはまたしても摘み食いである。
「で、首尾は?」
シェナが、こちらは慎ましくパンを口に入れる前にマルヴィナに尋ねた。
マルヴィナは幸せそうな表情を未だ崩すことなく、そしてさらりと、
「とりあえず奴らの中に入り込んだ」
と言って三者から同時に問い返しの言葉をもらった。
「不良グループ。なんかモザイオに勝ったことでモザイオにも取り巻きにも恐れ半分に認められてさ。
今日、ちょっと動いてみようと思う」
「今日」キルガだ。「…夜にか?」
マルヴィナは頷く。そして、簡単に説明を始めた。
事件に一番関わりのありそうなグループに潜り込んだことで、
なかなか関係のない生徒からは聞けそうにない話を聞き出せた。まず、幽霊の話。
セリアスが冗談交じりで言ったあの話。ないとは言い切れない。
そこに女神の果実が関わっているのなら、あり得ない話ではないのだから。
だから、マルヴィナは幽霊方向で調査を開始することにしたのだ。
その話を出すと、彼らは何とも気まずそうに黙り込んだ。モザイオが話さないので、
周りも話していいのかどうかと悩んでいるらしかった。埒が明かないと思ったマルヴィナは、
やり方は好きではなかったが、モザイオの意地を突いて——すなわち、「怖いの?」と言って——
どうにか話を聞き出した。聞き出したのはいいが、その先まで行ってしまったのだ。
日付変更時間——学校の屋上にある、守護天使像。その額を触ると、幽霊がでる。
その噂は、シェナが知っていた。放課後で聞き出した情報である。
関係あるかもしれない——マルヴィナがそう思って、一人内心力強く頷いた時、モザイオが言ったのだ。
『それなら実際に試してみようぜ』
取り巻きたちが一斉に血の気を引かせたのは言うまでもない。モザイオですら、若干震えていたのだ。
マルヴィナは少々呆れ半分、もし本当に起きたらモザイオの身が危ないという緊迫感半分で
それを否定しようとした、だが相手は頑固だった。
結局——日付の変わる時間、その行動にマルヴィナも付き合わされることになったのであった。
話し終えたマルヴィナが再びチキンに手を伸ばし、
「単純」
シェナが見えないモザイオに対し棘が五本ほどついた発言をし、
「………………………………………」反応のしようがなくてキルガは黙っていた。
「てかさマルヴィナ、なんでそんなアイツのこと気にしてんだ?」
セリアスが何気なく尋ねる。シェナがずるっ、と椅子から滑りかけた。
「あんたねぇ…さすがに分かるでしょ」
「え? …何が?」
「…ちなみに恋愛感情じゃないってことくらいはわかるわね?」
「そうじゃないと思っているから聞いているんだ」
「許容範囲。よし」 ・・・・・・・
という、セリアスとシェナのよくわからない会話を聞き流したのち、マルヴィナは答える。
「ん…なんとなく。なんとなくなんだけれど——」
マルヴィナはこの時間の中で、初めて表情を曇らせる。手を止めて、潜むように、そっと言った。
「…あいつが、次の犠牲になるような気がしたから」
小さな声で。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.203 )
- 日時: 2013/02/03 21:47
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
3.
深夜——
マルヴィナは寝台の横の電灯を少しだけつけ、か細い光を頼りに着替えてそっと部屋を出た。
堂々と入口から出るとバレるということは勉強済みだったので、今度は屋上へ行き、周りを確認し、
そこから地面へ飛び降りることにした。人間界へ落ちてからまだそんなに年月がたっていないのに、
自分が天使であることを忘れかけていたマルヴィナだが、本当にこういう時
自分の生まれを嬉しく思う——まぁ、本当に天使なのかどうかは、分からないことではあるが。
ともかく、屋上に出て、扉を閉める。雪がちらついていた。寒い。さく、さくと新雪の踏まれる音が響く。
マルヴィナはしっかりと校舎を見つめ、屋上の手すりに手をかけ——
「飛び降りる気か、マルヴィナ?」
「———————————ぃっ!!?」
だしぬけに声をかけられる。マルヴィナは慌てふためき手をわたわたと振り
髪の毛が自分の顔を叩くほど凄い勢いで振り返り——
そしてそこに飄々とした様子で立っているその人を見てため息をついた。
「キルガ…」
「ごめん、驚かせて」
いつもの通り、いまいち反省っ気のない声でさらりと言われて、マルヴィナは苦笑を返すしかなかった。
「…また寝られなかったの?」
「それもあるが…抜け駆けはなしだ、何があるかわからないんだから」
つまり、心配して来てくれたのである。聞けば、セリアスとシェナはすでに校内にいるらしい。
そんな仲間たちに、マルヴィナはほっと安堵のため息をついた。
「おー。待ちくたびれたぞー」
——校舎屋上。
普段にぎやかな場所が静まり返るのは割と恐ろしく、
やや足早にマルヴィナは階段を上った。キルガも後からついてくる。
そしてセリアスの呑気な声を聞き、シェナのいつものくすくす笑いを見て、そして、
「ホント、つくづくお人好しよネ」
後ろからサンディの声。もう寝ているかと思っていたマルヴィナは驚き、振り返り、
その際頭をゴインとぶつけた。
「痛った…」
「サンディ、いつの間に?」
「イヤてか、今までどこにいたんだ…?」
「サンディちゃんなんかお久ー」
四者それぞれ反応。…マルヴィナは自分自身に反応したのだが。
「てかこんな時間に外出るとか? マジひじょーしきって感じなんですケド。
夜更かしっておハダに悪いのよネ。知ってる? 遅くまで起きてると太るのヨ?」
「…と言われても」
マルヴィナはいつものようにフードに入るかと問おうとして、
今は制服を着用しているので(ジャージには着替えなかった)それはできないことを思い出し、返答を曖昧にした。
「あのふりょー、もうすぐ来るっぽいヨ。てか呼ばれたのマルヴィナだけなのにみんな来るってどんだけ!」
超ウケる、と最後に言って、マルヴィナの肩に乗る。
どこから手に入れたその情報、とツッコむ前に、サンディはそうそう、と付け足した。
「あのルィシアって超ジミなオンナさ、気を付けたほーがいいよ。剣とか凄い強いっぽいし」
「ルィシア…あの、殺気立ってた奴か?」
セリアスだ。「すっげぇマルヴィナ睨んでた奴」
「せーかい。そいつ。ポニテの。ぜったいキケンだって——あ、来たんじゃネ?」
言うなり、再びマルヴィナの肩に乗るサンディ。
…が、マルヴィナの伸びた髪が当たるのでこそばゆく、一回くしゃみをしてから避難した。
「おぅ、ちゃんと来てたなー」
初めて言葉を交わした時よりも友好的に、モザイオは言った。
ちゃんと人を認められるところ、実際そんなに悪いやつではないのかもしれない。
「…なんかほかにもいるっぽいな」
「あぁ。…友達だ」
「ふぅん。ま、いいや。誰かよくわかんねーけど、行くぞ」
モザイオ側も二人、ついてきている。
痩せぎすで歯の少し出ているものと、ガタイは良いがどことなく気弱そうな顔立ちの、いずれも男である。
「みんなビビりでよぉ。こんだけしか来なかったんだ。ったく意気地がねーよなー」
モザイオは、暗闇でその腕を思い切り震えさせながら、そう言った。
日が間もなく変わる。マルヴィナは、静かな緊張感を覚えた。
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