二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.224 )
日時: 2013/02/14 23:51
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「マルヴィナさんっ!!」
 寄合の前に眺めていた石碑のおそらく下に落し物をしただろう。
マルヴィナはポケットを探りそう思って、今出たばかりの教会を見てかなり後悔した表情を作った。
石碑の下にあったものが気になって、それを取り出してみようとして…
カン、という音がしたのは気づいていたが、物を落とした音だとはその時は気づかなかった。不覚。
ティルを連れ戻した後、石碑の下を探って、取り戻さねばならない——そう思っていたところ、
自分の名を呼ぶ聞き覚えのある声を聞いた。先程の、二人の店員である。
遠目からもはっきりとわかるほど青ざめた顔色を見て、マルヴィナの嫌な予感が働いた。
「寄合で何があったんです? ティルが、凄い泣きながら、村の外に飛び出してっちゃったんですよ!」
 表情が、強張る。
「どうしましょう、夜のこのあたりって、凄く物騒なんです! 村長、今大丈夫ですか?」
 大丈夫か、というのはおそらく機嫌のことだろう。大丈夫ではない。
もし機嫌が良かったとしても、彼は決して自ら探しにはいかないだろう。
マルヴィナの表情を見て覚った店員たちは、顔を曇らせる。
「やっぱり、スガーさんにも頼んで、僕らで探しに行くしか——」
「わたしが行く」マルヴィナはきっぱり言った。
「行ってくる。ティルが飛び出したのは、寄合に参加していた者たち全員の責任だ」
「マルヴィナさん」
「大丈夫」マルヴィナは緊張した面持ちで頷いた。
「怪我はもう大したことない。それに、譲り受けた強力な武器だってある。なんとかするよ」
 マルヴィナらしくない、本来根拠として成り立たない理由を述べて、彼女は頷いた。
店員たちは躊躇いがちに頷き返し、ティルの向かった方角を告げる。
 その先、北東。
 マルヴィナは腰に譲り受けた剣——隼の剣を携え、錆びた銀河の剣を確認し、村の外へ走る。



 新天地を一人で歩くのが、こんなに心細いものだとは思わなかった。
右も左も分からない。地図はキルガが管理していたので、マルヴィナの手にはない。
自分の直感のみを信じて、マルヴィナは走った。
頭が痛い。目の前が、くらりとする。それでも、マルヴィナは走る。助けてくれた少年、
親切にしてくれた少年を、探すために。
 幸いにして、ティルは見つかった。
北の橋を言われた通り東に曲がった時、岩に座りうずくまる彼を見つけた。
だが、ほっとしたのも束の間、       レッドサイクロン
草原から飛び出し無防備な少年を狙うは魔物、紅き旋風。         バギマ
 焦り、後悔、恐怖…それらに感情を支配されたティルを、魔物は嘲笑い、真空呪文の呪文を投げかける!
ティルは咄嗟に叫んだ——かもしれない。目を瞑り、手をばたつかせ——
風の刃は、届かなかった。間一髪、マルヴィナは横ざまからティルを抱き留め、跳躍、その場から逃れる。
着地し、ティルを立たせ、そのまま剣を引き抜く。真空の刃を突き進み、怯んだ魔物をそのまま薙ぎ払う。
怯んだとはいえ相手は浮遊体、攻撃を辛うじてかわし、にへらと笑う。
 が、その顔は、一瞬しか保てない。気付かぬうちに、もう一攻撃が、その身体を裂いていた——
                              レッドサイクロン
 隼の剣の性能を利用した、高速での二回攻撃。上と下に分かれた紅き旋風は、
その笑い顔を瞬時に憤怒に変え——だが、何もできずに、大地にしみ込むようにして消えた。
ぴっ、と横に払い、マルヴィナは剣を収める。そして、横に残したティルに、聞くまでもなかったが、安否を問う。
「あっ、だ、だっ、い」
 かなり震えてはいるが、言おうとしている通り大事無いらしい。マルヴィナはほっと安堵のため息をついた。




「そういやさ、ティル」
 村に戻らず、そのまま北へ歩いてゆくティルについていきながら、マルヴィナは尋ねた。
ティルは少しだけ後ろのマルヴィナに歩く位置を合わせ、マルヴィナの言葉を待つ。
「これ、見覚えないか?」
 マルヴィナはポケットの中から、青白く静かに、神秘的に光る宝玉を、羽を模った石で包み込んだような
美しい首飾りをティルに見せた。ティルはそれを見て、宝玉の輝きに見とれながらも、首を横に振った。
「ごめん、しらないや。…どこにあったの?」
「そっか…うん、教会の、石碑の下。なんか光ったように見えたから、探してみたら、
凄く埃を被った状態で、あったんだ。…その時、ちょっと大事なものも落としちゃったんだけれどね」
 あはは、と力なく笑うマルヴィナ。ティルはふぅん、と答えて、まじまじと首飾りを見た。
「あそこにあったんだ…今まで、知らなかったな」
「まぁ、知らないなら、しょうがないしな。ありがとう。…で」
 マルヴィナは同じ場所に首飾りを戻し、ティルに尋ねる。「どこに向かっているの?」
「うん。ぼくの、お気に入りの場所。すっごい、きれいなところなんだ…
マルヴィナさんにも、見せてあげたくて」
 そういうと、ティルは少しだけ歩く速度を上げた。
「もう近くなんだよ。ついてきて!」
 マルヴィナは目をしばたたかせ、微笑むと、歩幅をティルの速度に合わせた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.225 )
日時: 2013/02/14 23:55
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 橋を通り、森を抜け、その先を見る。
 マルヴィナは、息を吸って、小さく感嘆の声を上げた。

 そこは、生命の煌めき。
 碧く育った若葉、共に存在する小枝、静かに流れ続ける小さな滝、きめ細やかな白い砂、
星を映し、月を反射させ、波と光で煌めく泉。
 声は出なかった。その蒼、その輝き。先ほどの首飾りの蒼を散りばめたら、こうなるのだろうか。
そう思ったほど、その泉は、言葉で言い表せない、言い表してはいけないほどのものだった。
思わず足を止めた彼女に、声の出ないマルヴィナに、ティルは屈託なく笑った。
「ね、きれいでしょ。一度見せてあげたかったんだ!」
「…うん。…ありがとう、ティル」
 マルヴィナは目を細めて、反射して揺れる月を見た。


 ——月。

(……イザヤールさま)
 違う。違う…彼が、裏切るはずがない。裏切るはずが——…

(…寂しい)
 辛い、悲しい、痛い。寂しい。真実が知りたい。
 ——でも。

(わからない…!)

「マルヴィナさん」
 ティルが、少し控えめに、呟いた。
「ぼくもさ、余所者なんだ」
「……………………」
 少しだけ、村長が言っていた。それだけは知っている。
「サンマロウって町からね、親戚のおじさんに引き取られたの。お父さんとお母さんが死んじゃって…
ぼく、お姉ちゃんがいたんだけどね。…お姉ちゃんも、いなくなっちゃった」
 両親の死…? マルヴィナは思った。サンマロウ。真っ先に思いつくのは、マキナの姿だった。
…まさか。マルヴィナは思ったが、言わなかった。
「それで、親戚のおじさん…村長さんに、引き取られたの。ぼくのお母さんの、お兄さんだって…
お母さん、この村を出て行ったんだって。…マルヴィナさんも、追い出されちゃったんでしょ?」
「…まぁ、ね」
 追い出された——という言い方は微妙なところがあるが、本質的には間違っていない。そのまま、曖昧に頷く。
「…黒い竜を追うの?」
「………………………」
 マルヴィナはすぐには返事ができなかった。だが、しばらくして、うん、と答える。
…仲間は承諾してくれるだろうか。
あんなに圧倒的な、天使とはいえ立ち向かうことは厳しいだろうあの敵を追う、
そんな考えを理解し、共に来てくれるだろうか。
「でも、もしかしたら、また襲われるかも…」
 ティルがいきなり、話を切った。マルヴィナは訝しげに、ティルの顔を覗き込む。
 もし、かした、ら…ティルの唇がそう動き、マルヴィナが身体を起こそうとしたその瞬間、
「あ————————————!」と叫ばれ一時停止。
「そうだそうだよマルヴィナさん、ドミールのグレイナルに力を貸してもらえれば、勝てるかもしんないよ!!」
「えっ、どっ、ど…っそうだ、ドミールだ」
 先ほど『ドミール』のドの字しか思い出せなくて悩んでいたのを思いだし、
マルヴィナは納得、しかけて慌てて「グレイナル」と復唱した。
「そうだよ! 昔あの黒い竜に勝った『空の英雄』だよ! ドミールに行けば何とかなるよ! …でもね」
 ほらきたぞ、とマルヴィナは思った。多分ここでなんか不具合があるぞ——と持ち前の嫌ぁな予感から
内心身構えていたマルヴィナは、同じく内心で剣を持った——念を押すが、あくまで内心である。
 ティルは先程のハイテンションはどこへやら、今度は気落ちした様子で話し始める。
 今はドミールへ行ける当てがないという。行こうとしても、底なしと呼ばれる崖を越えねばならず、
空を飛ばぬ限りそれは不可能であること。
ならばどうすれば良いか? 言い伝えを、信じてみれば良い。ナザムの村に伝わる、言い伝え。

 “ ドミールへの道を目指す者現れし時。
       像の見守りし地に封じられた光で 竜の門を開くべし ”

 像の見守りし地というのは、大陸北、魔獣の洞窟と呼ばれるひどく危険な迷宮。
 封じられた光というのは、かつてはナザムに封印されていた、秘法『光の矢』。
 そして、竜の門というのは、ドミールへ行く道の前、『底なしの崖』。
 まとめると——魔獣の洞窟に言って光の矢をとってきて底なしの崖へ行け、という意味合いの言葉であった。
なんだ、聞くだけなら大したこともなさそうだ、大丈夫、仕掛けがややこしいとか魔物が強いとかなら問題ない、
…と思ってマルヴィナは、まだヤーな予感が抜けていないことを
無理矢理頭の端から追い出そうとしているのだが、

「………………………でもね」
 重ねられた反語に、追い出し不可能となった。
「…今は洞窟に入る穴も、封じられちゃってるんだ。
それを開く呪文もあったらしいんだけど、今は誰も知らないって」
 …予感、どんぴしゃり。来ると思った。
 ずぅぅぅぅぅぅん、と落ち込んで下を向き髪の毛をだらー、と下げるマルヴィナを見て、
ティルは慌てふためき頭をかく。
「なんか、くやしいなぁ…ぼく、村に戻って、……?」
 ティルははっと、マルヴィナをもう一度見た。顔を下に向けたマルヴィナが、
ピクリと何かに反応したように動いた気がしたのだ。髪の隙間から見えた蒼海の眸は険しく、鋭く、
真剣になっていたのが見えて、ティルはただものならぬ気配を感じた。
が——ふっと彼女が顔を上げたとき、その眸の色はなかった。穏やかな、強く優しい娘の眸。
「マルヴィナ、さん…?」
「あぁ、ごめんティル。…何だっけ?」
「えーと…そう!」元に戻ったことに安心し、ティルは続けた。
「ぼく、村に戻って、何かないか、調べてみる!
…村の人には、ぼくが言うから。マルヴィナさんを、入れてあげてって」
 その時のティルの顔は、十あたりの幼い少年の顔ではない、意思と決意を持った、
ひとりの青年のような雰囲気を帯びていた。マルヴィナは一瞬、呆気にとられたが——
「お願いする」にやりと笑って、親指を立ててみた。
「ようし、さっそく——」
「あぁちょっと待った。…ごめんティル、わたしにも一つ、用事ができた」
 さっそく戻ろう、と言われる気がして、慌てて遮る。
「で…また襲われると、危ない。…これ、使っていいよ」
 マルヴィナは、背嚢から取り出したキメラの翼をティルに握らせる。
それを握って、ナザムの村を頭に描きだせと言う。ティルは首を傾げながら、言われた通りにし——


「わ————————ぁぁぁぁ……………………」

 そして、その身がその場から消えた。これで今頃は、ナザムの外か、あるいは中だろう。
気絶していないことを祈る。夜だし、そのまま寝てしまいかねない。

 ともかく、今は。

「見えているよ。あなたのことは」

 マルヴィナは、振り返って——その先にいる、黒珈琲の髪の娘に、声をかけた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.226 )
日時: 2013/02/14 23:57
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

『………………………………………』
 娘は、ちらり、とマルヴィナを見て、視線を泉に戻し——
『………………………………………っ!!』
 すぐに、もう一度マルヴィナを、警戒するように、焦ったように見直した。
だが——見覚えがあると、思ったのだろう。雰囲気が、人間とは違った——そんな者に、いつか会った気がする。
「カラコタ橋以来、か。あの時は、あなたはまだわたしに気付いていなかったと思うけれど」
『—————————』視線をそらすように、泉を見る。
だが、唇を引き締め、マルヴィナを見、まっすぐ歩み寄ってくる。二人の小柄な姿が、対峙した。
「わたしの名はマルヴィナ。あなたは?」
『…わたしは』
 娘は少しだけ上目づかいに、言った。

『わたしの名は——   ラテーナ』







 彼女はナザムの村娘だった。
とある人を探し、昇天することもなくこの世を彷徨っていた——霊。
だが、甦らせられた初代エルシオンとは違い、人間には姿の見えない、ただ彷徨うだけの、霊である。
『貴女なら、できるかもしれない。いきなり不躾だけれど——貴女に、取ってきてほしいものがあるの』
 ラテーナは前置いて、そういって——だがそこで、マルヴィナのポケットに目を止めた。
『…まさか、そこに——』
 マルヴィナはその視線に気づき——さっ、とそこに入れた首飾りを取り出した。
それは、相変わらず蒼く光を放っている。ラテーナは、少しだけ表情を緩めた。
『そう…それ。その首飾りは…わたしの大切な人からもらった、唯一の宝物。さぁ、それをわたしに返して』
 言われて、マルヴィナは咄嗟に視線を彷徨わせた。躊躇ったのだ。返して。渡して。——


 ——“ それを、渡してくれないか。 ”——


 声が、あの声が、鮮明に思い出される——…。




 ラテーナは、その様子を見て、不謹慎だと分かっていながらも、くすりと笑った。
『…誰かに、信じている誰かに、何かを奪われた——裏切られたことがあるのね』
 マルヴィナは目を見張った。「な…」言葉が咄嗟には思いつかなかった。
「どうして、それをっ…!」
 マルヴィナの困惑の視線に、ラテーナは静かに、目を細めて、哀しげに言う。
『同じだからよ。貴女の顔が…あの時の彼とね』
 彼女の言葉の意味が、表情の意味が、マルヴィナには理解できなかった。
けれど、マルヴィナは、首飾りを差し出した。ラテーナは、その貌のまま、口だけで笑う。
 首飾りは、霊である彼女の手から落ちなかった。そこに、しっかりとのっていた。
切なく、哀しく。笑う。見える、と呟く。




「見えるわ、あの人が———」

















       ——————記憶の波が、押し寄せる。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.227 )
日時: 2013/02/15 00:00
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 ——セントシュタイン、リッカの宿屋。
 タンタンタンタン、と、キルガはせわしく人差し指をテーブルに打ち付けていた。
彼にしては珍しく、苛立っているのだ。正しくは、不安な思いを
不器用にも苛立ちにしか変えられないことに、本人は気づいていないのだ。
 万が一はぐれたら、リッカの宿屋に集まろう。あの約束が、果たされるとは思わなかった。
 キルガはあの黒騎士と戦ったシュタイン湖の草原に倒れていたらしい。
セリアスとシェナは偶然か幸いか、セントシュタインの街の中に落ちてきた。
彼らの下敷きになって負傷者が出なかったのは本当に不幸中の幸いであった。
三人は天の箱舟に乗って落ちたためにそんなにばらばらになることはなかったが、マルヴィナは違う、
彼らよりずっと先にひとりで落ちているのだ。しかも、とんでもなく高い位置から。
 …師であるイザヤールに痛手を負わされ、竜から襲撃を受け、さらに箱舟から落ちる。
天使とはいえ、あれに無事に耐えられるとは——…。

「っ!!」

 その忌々しい考えを、愚かしい考えを、キルガはやや乱暴に左の拳を額に打ち付けることで、消し去った。
 マルヴィナが、そんな簡単に死ぬはずがない。彼女は生きている。ちゃんと、戻ってくる。


 ——でも。
 遅すぎや、しないか?


 もし、…もし、彼女が、戻ってこなかったら。

 そんなはずはない、そんな馬鹿なことがあるはずないと思いながらも、キルガは思ってしまうのだ。
根拠が、ないから。
「…キルガ」
 セリアスが後ろから、キルガの名を呼んだ。彼の前の席に、がたりと音を立てて座る。
「…心配だけど、あまり思いつめると、お前までまいっちまうぜ」
「…それは、そうだが」
「海に落ちていないかとか、獣に食われてないかとか、そんなことまで考えかねないだろ」
 キルガは黙った。…後者はともかく前者は考えかけていた、とは言えなかった。
「シェナも最近、元気ないしな」
 シェナは一人、借り部屋にこもっていた。大丈夫かと声をかけると、何でもない、大丈夫といって
笑ってみせるが、視界から彼らが外れた途端に表情が暗くなることを彼らは知っていた。
「…やはり、ガナン絡みなんだろうか」
 キルガはふと、そう言っていた。セリアスの表情が強張る。
「セリアスのことだ、気付いているだろ? シェナが、ガナンの名に妙に反応していることは」
「………………………………」セリアスは答えに窮したが、肯定していることはキルガには見て取れる。
「…何か、関係があるんだろう。…さすがにもう、そうでないとは言えない」
「まさか」セリアスは、少しだけ厳しい目を向けた。
「シェナがガナンの仲間なんじゃないかとか、思ってないよな?」
 キルガは、一瞬だけ黙った。
「さすがにそれはないかとは思う。…マルヴィナが、気付かないはずがない」
「…ならいいけどよ」
 セリアスは、いつの間にか浮きかけていた腰を戻す。
「まぁ、な。昔ガナンに捕まってたとか、そういう類ならありかもしんないけどさ」
「………………………………………」
 セリアスが呟いた言葉に——キルガは、ふっと目を開いた。二秒の間、
そして、がたんっ!! と音を立て、キルガは椅子を蹴り立ち上がる。
もちろんリッカやルイーダ含む宿屋内の全ての視線を集めてしまい、キルガは固まってから
咳払いを一つすると、できるだけ静かに椅子に座り直し、セリアスに『耳を貸せ』のジェスチャーをする。
「…セリアス。それ、当たりかもしれない」
「……。アレ? なんかこんな会話前も——」
「そうすると、いろいろ説明もつく。…それかもしれない」
「って聞けよ!」
「まぁいずれ」
「いずれっていつ!?」
 セリアスと話していながら、キルガはつい笑った。セリアスはおっ、と表情を変化させる。
「ようやく笑ったな、キルガ」
「え。…………あ」
「こら。戻るな。どうせ仲間一人足りない時に笑うなんて不謹慎だとか考えていたんだろうけど、
そんなんでお前が変わっちまうことなんかマルヴィナは望んでないだろうよ。ほれ、笑う笑う」
 促されて一度真顔に戻ったのを笑顔に変えられるわけではないのだが、
それでもキルガはここ数日ぶりに表情が和らいだのを感じた。
「まぁ、さ」
 セリアスはそのついでに、自分より少し下にあるキルガの鼻を、ぺちーん、とはじいた。
「てっ」
「マルヴィナなら、そろそろ帰ってくる。あんなことがあったからって、そこで死んじまう奴じゃない…
それはお前だってわかってるだろ?」
「………………」キルガは黙った。その通りだ。
 マルヴィナはあんなことのあった後に死ぬほど、弱くない。
「…俺の勘だって、悪くはないんだぜ」
 セリアスのおどけた、それでも真剣な言葉に、キルガはひりひりする鼻を押さえ、微笑った。


「…そうかもね」

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.228 )
日時: 2013/02/15 00:04
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 ——それは昼下がり。
 午睡の時間の終わった頃。

 ナザムの村娘ラテーナは、香草を摘みにいつものように泉にいた。
 が——今日は。その香草を思わず、地面に落として目を見開いた。



 目の前に。
 目の前に、大きな白い翼持つ男が、大怪我を負って倒れているのである。
翼…風変わりな、服。金色の少し長めの髪。目は閉じていて、覚ます雰囲気はない。
「あの…っ」
 声をかけても、届くことはない。ラテーナは唇を引き締め、翼持つ男に駆け寄る。



 これは、三百年前の話。
 わたしとあの人が出会った、その日のこと。



 村の、その時からほとんど何も変わっていない、村長の家。
「それじゃあ…あなたは本当に、天使なのね」
 その男は——天使は、頭に包帯を巻かれていた。マルヴィナと、同じように。
だが、その頭上に、光輪はない。天使の姿が見えないのは、光輪があってこそなのである。
すなわち、それがない今——その天使は、人間にも姿が見えることになる。
だが、そんなことを知らないラテーナは、感動と歓喜に顔をほころばせる。
「この村は昔から、エルギオス、って守護天使に守られているって、聞いていたけれど。
まさか本当に存在して、目の前にいるなんて!」
 ラテーナは笑い、家の中から、教会のある方向を見た。光輪なき天使が、
何とも言い難い表情で顔をそむけたのは、その時の彼女は気づかなかった。



 …あの人が、わたしの大切な人。
 ずっと探している、たった一人の、天使。



 村に、紅い鎧の兵士たちが並んでいた。
 紅い兜、紅い鎧、紅い小手、紅い脛当て、紅い鉄靴。全身を血に染めたような、
生々しく不気味な集団だった。野次馬たちが、じりじりと後退しつつも、村の入り口をふさいだ。
その中に、ラテーナもいる。父である村長セイハンが、進み出た。相手の兵士の中からも、
ひとり違う姿の者、紅いことは変わりないがどこかもっと凶悪で、
もっと危険そうな施しをされた武装の兵士が出てくる…代表者だろう。
 両集団の前で、対峙する二人。
「…何か用か」
 村長セイハンの、押し殺したような、異常に低い声。
「うちには、金目のものはありゃせん。とっとと出て行かれるがよろしかろう」
 あぁ、何も挑発しなくたって! ラテーナはぐっと唇を噛んだ。
案の定、その兵士は、けけっ、と妙な笑い声をあげる。
「残念ながら、そうはいかねぇんだなぁ」
「この世の全てはガナン帝国のもの」
 もうひとり、現れた。最初に言葉を発した軽薄そうな兵士と、大体同じ格好。
だがこちらのほうが、冷たく堅い雰囲気を姿から醸し出している。
「そーゆーこと。ぜーんぶ、俺らのもんさ。こんなちっぽけなごみ溜めみてぇな村でもなぁ!」
 村の者たちが、憤る。勝手なことを! 出ていけ! ここはお前らみたいな奴らの来る場所じゃない!
 飛び交う声、つぶて。だが、村長はあくまでも、表情を変えない。
「そうとて、出せる物がないことに変わりはない」
「そぉかぁ?」
 軽薄な側が、言葉の端に笑みをのせて、言う。「そうでもねぇぜ。たとえば、そこにいる娘とかな」
 ラテーナは、目を見張った。わたし!? 身体中に、雷が走ったようだった。
「娘を差し出せと言うのか!?」
「さっきもドミールで一人な。なんかすげぇ賢者っぽいし、使えそうなんだわ」
 質問には答えず、軽薄兵士。堅そうな側は、黙っているのみ。
じり、と、ラテーナは後退した。後ろの住民に当たり、思わず目をそらす——と、その腕をねじ伏せられる!
「うっ!!」
 住民が慌てて逃げる。ラテーナはもがいたが、どうにもならない。
セイハンがラテーナの名を呼び駆け寄ろうとするが、他の兵士に邪魔される。
拳が振り上げられる。村長が危ない——



 —————————————————————!!!



 言い表せない轟音と共に、その兵士を、本物の雷が襲った。目を見張るラテーナ、
雷を喰らい次々頽れる兵士たち。腕をつかんでいた兵士には、最も大きな雷が襲った。
ラテーナは尻もちをつき、そのままじりと後退り、そして雷の生じた場所を見る——
 ばちり、と手から音を立て、そこに怒りの形相で立っていたのは、翼持つ者の陰——

        ・・
「貴様、まさか、天使…っ!? ——くそっ、退却だ、退却しろ——————————ッ!!」








 ——意識が、途切れる。












 マルヴィナは、しばらく固まっていた。
 流れ込んできた記憶。倒れていた天使。守護する者の名、そう、

 エルギオス———————————————!!

 間違いない。彼は、あの天使は、エルギオスだ。
 師匠の、師匠。すなわち自分の——大師匠!

 行方知れずとなっていた、『大いなる天使』の姿!!

『わたしのせいで、彼は——…』
 ラテーナは、呟いて…だが、気をとりなおすように、マルヴィナに向き直り、笑った。
『返してくれて、ありがとう。お礼に、わたしにできることを、何でもするわ』
「えぇっ!? そんな、…」
 そんなこと気にしないで——と言おうとして、思いとどまる。
「…えっと。じゃあ、一ついいか?」
『…? どうぞ』
 マルヴィナは少し考えると、先ほどのティルとの会話をまとめ直し、そして言った。
「あの…魔獣の洞窟に、入りたいんだ。その封印を、解いてくれないか?」
 ラテーナはその要求に、少し意外そうな顔をする。
『構わないわ。…でも、なんだか意外ね。そんな願いで良いの?』
「それが今一番の願いだし、天使が欲をかきすぎるのもどうかと思うから」
『…そう』ラテーナは呟いた。『やはりあなたも、天使だったのね』
 そのまま首飾りに目を落とした。目を細めたその様子に、マルヴィナは何かを感じたが、
それを詮索したりはしなかった。 
『いいわ、先に行っているから…あの封印を解く呪文なら、ちゃんと覚えているわ』
 ラテーナはそう言うと、森の向こうへ歩いて行った。


 記憶を見せられた時間は、どれほどだったのだろう。いつしか、朝日が近くの山に近づいていた。


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