二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.244 )
日時: 2013/02/27 22:51
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

    サイドストーリーⅢ  【 記憶 】





 ——生まれた。
 里長にして修道女である老女シェルラディスは、紅く塗った唇の端を持ち上げた。
 ——そして、失った。
 だが、すぐに、言い表せない悲しみに端は下がった。

 喜ぶべきなのか。それとも、哀しむべきなのか。
         ・・・・・
 里長である以前に母親である彼女には、孫の誕生は喜べるものだが娘の死は悲しむことであった。
 …けれど。
 ここに、誕生したことは間違いない。           ・・・・・
命を秤にかけるわけではない、だが、誕生した孫は、間違いなく選ばれた者———



 “真の賢者”なのだ。





 この里の者は人間ではない。
 種族としてはマイナーではあるが、知る人は知る、彼らはいわゆる『竜族』である。
が、その見た目はエルフやドワーフと言った今はおとぎ話となった種族のように特徴だったことはなく、
あえて相違点を上げるなら人間よりはるかに強く、はるかに長寿である者である、と言うあたりのみであった。
 竜族——だが、竜の血が混ざっているというわけではない。
単に、彼らが崇めているもの、他国で言えば神のような存在が、竜なのだ。
崇めるものの下僕、という意味で、彼らは自らを『竜族』と呼ぶのだ——
確かにこんな理由ならマイナーであっても仕方がないのかもしれない。
       ・・・・・・・・・・・・・・
 ——これが、一般の者にのみ伝えられている『竜族』の情報である。



 シェルラディスは、音もなく立ち上がると、教会の扉を開き、
里の頂上の里長の家すなわち、自宅へ戻る。修道女のローブは長すぎ、
この長く急な階段は昇りづらく降りづらい。だが、そんなことは気にはしない。

「花の恵みに祝福を、地の誘いに祈りを。お帰りなさいませ、シェディ様」

 古めかしい挨拶をする、里の者たち。その意味は——『新たな命が誕生し、一つの命が地に還る』——
シェルラディス、通称シェディが感じ取ったものを証明した言葉だった。
 冷たくなった娘の横で、何も知らない温かな赤子は、泣き疲れて静かに眠っていた。





「間違いないのですね」
「えぇ」
 シェルラディスは短く答えた。そして、あえて言う——
「魔導師と、僧侶。同じにして対である存在が結ばれ、子が誕生した瞬間に命を落とす——
間違いありません。…あの子こそが、次なる『真の賢者』…しかし」
「その教育、ですな」腕を組んだのは、里長に代々使える騎士、ケルシュダイン、通称ケルシュである。
「癒しの面は足りてはおりますが…本来の賢者の存在は、後列攻撃型。
魔術を教えるとて、この里に『あの方』に教えられるであろうほど魔術に長けたものはいません」
「それでも」シェルラディスは、ぴしゃりと言った。「やらねばなりません。時間が、ないのです」
 時間がない——その意味を知るケルシュは、だが顔を伏せ悲しみに暮れることはせず、
今彼女が望む姿であり続ける。
「…アーヴェイ、とか言いましたか。あの魔術団は」
 シェルラディスがはっと顔を上げた。
「以前、このあたりで傷を負っていた旅人を介抱したことを覚えていらっしゃいますか」
「…えぇ」感情の変化を悟られぬよう、努めて平静を保って答える。
「あまり自分たちのことは公にはしないでくれとは言われておりましたが——
彼らはアルカニアと呼ばれる街の優秀な魔術団だったそうです。いっそのこと、彼らに頼むか——」
「却下です」さらりと言われた。
「公にしないでくれと言う以上、何か理由があるのでしょう。係わるべきではありません」
「…そう、ですな」
 うぅむと考え込むケルシュに、修道女は微笑んだ。
「御安心なさい。私も、やれるところまでやってみます」
「な、しかし、シェディ様」
「私は」目を閉じる。
「若かりしときには魔術師だったのです。あなたが物心つくころにはすでに、修道女ではありましたが」
「その話は、初めてです」ケルシュは答えた。「ですが…何故?」
 シェルラディスは、笑った。「大切な人を守れなかったから——ではダメかしら? ケルシュ」

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.245 )
日時: 2013/02/27 22:55
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「けうしゅ、けうしゅ」
 それから時は流れる。
赤子だった姿も時がたてば変化し、その顔を見るだけでは男か女かまだ区別がつきづらいが
れっきとした女である幼児は、盛んにケルシュの名を廻らない舌で呼ぶ。
 ケルシュは何と——と言う名の困ったことに——幼児の世話係に任命されてしまった。
されてしまった、とは言うが、もちろん指名したのはシェルラディスである。
ケルシュの必死の拒否はもちろん、シェルラディスの裏のある笑顔と一言によりすべて封殺されたのだが。
シェディ様のあの性格が、この子にも移らなきゃいいんだが、と密かに思う。
何故なら彼女の娘、この子の母親も、優しい笑顔で何度もケルシュの心の急所を
さりげなくグッサリつく発言をする女性だったのだ——恐ろしや遺伝。
 …だが、幸いにしてこの子は、自分になついてくれている。
…父親も、母親もいない。時間がない、と言ったように、里長の寿命も、長くはなくなっている。
 ケルシュは話し方こそあえて中年のように言い気を引き締めてはいるが、
本当はまだ人間で言う二十歳程度なのだ。

 …守ろう。
 ケルシュは、そっと思った。

 いつかこの子が一人になった時——自分だけは、ちゃんとこの子を守り続けよう。
 小さな、小さな手で自分の指を握らせながら、ケルシュは笑——

「う、ヨダレ!?」

 ——うことはできなかった。





 子供の成長ははやい。
 その子は、もうそろそろ、少女、と呼んでもいいころにまで成長した。
「おばあさまぁ」
 少女は走って、シェルラディスのもとへやってくる。
「あら、気を付けて。転ばないようにね」
「ころばないよ!」
 少女はちょっぴり膨れ面をして、シェルラディスのローブの裾を引っ張った。
「あぁ、引っ張らないの。…あら」
 シェルラディスはその手を離させると、消えた里のたいまつの前に立ち、
指先に小さな火を灯したいまつに点けた。火は揺れながら、本来の仕事を果たす。
その様子を見て少女は、首を傾げてみせる。
「おばあさま、まほうって、そんなにだいじなものなの?」
「あら」シェルラディスは笑った。「難しいことを言うのね」
「だって」少女は膨れた。「かんたんなの、ばっかなんだもん。ちょっとつまんない」
 それはあなたの才能が素晴らしすぎるからなのよ——という呆れ気味の言葉はさすがに言えない。
 少女はその年でありながら、初歩魔法を見る見るうちに完成させ、その上級魔法も吸収していっている。
間違いなく、見たことのないほどの天才だった。シェルラディスもかつては、
天才だ、秀才だと騒がれたことはあったが、ここまで早く魔法をものにはしていなかった。
あまりにも早すぎて、その身にそれ以上多くの魔法を詰め込むのはかえって危険だった。
鍛錬は欠かさないようにとはいってあるが、それでもこの新しいこと、難しいこと好きな少女は最近、
同じことの繰り返しに不満を抱きつつあるのだ。
 それが分かっているからこそ——修道女は、優しく諭す。
「良い? 魔法というのはね、今あなたがおぼえているものより、
ずっと多くて、ずっと難しいの。…もっと多くの魔法を覚えたい?」
「おぼえたい」少女は即答した。「だいじな人をまもれるんでしょ?」
「…えぇ」少しだけ詰まってから、シェルラディスは答えた。
「おぼえたい。それで、おばあさまとか、ケルシュに、おんがえしするんだ!」
「あらあら」シェルラディスは目をしばたたかせる。「あなたは一体何歳なの? もう」
 少女は笑われたことにまた膨れ面をし、シェルラディスはその頭をなでる。
「大事なものか、そうじゃないかは、あなたが決めること。
でもね、もしあなたが、これからももっともっとたくさんの魔法を覚えたいのなら」
「ちゃんとべんきょうしなさいって、ことでしょ?」
「大正解!」
 屈んで、少女を抱きしめる。少女も喜んで、くっついた。
「大丈夫。あなたなら、できるわ」
「うん。がんばる。がんばって、里のみんなをまもるんだ!」
「本当にあなたは何歳なの?」少女らしく、だが一方で少女らしくない立派過ぎる目標に、
修道女はもう一度苦笑した。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.246 )
日時: 2013/02/27 22:59
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 何年がたっただろう。
 少女は、そろそろ娘と呼んでも良さそうなころまでに、成長していた。
「ケルシュ」
 里の法衣を着こなし、その綺麗な銀髪を後ろに流す彼女は、母によく似て、目立つほどに美少女だった。
「どうされましたか?」
 昔よりは少し歳を重ねたケルシュは、少女の声に反応。
が、少女は先に膨れ面をする——これだけは昔から変わらない。
「お願いだから、敬語使うの、やめてよ。他人行儀みたいでなんか嫌」
「他人であることは変わりません」
「そうじゃなくて」
 なおも反論したかったが、言っても無駄なことは分かっていた。小さなころは知らなくて当然だった。
だが、今はしっかりと知らされる。そう、所詮は他人、それ以前に、主の孫と、従者なのだ。
その身分の差を、物語っているのだ。
(でも、だからって)
 少女は膨れ面を解かず、思った。
(…遠慮されてるみたいで、居心地悪くなるのに)
 少女が黙ってしまったのを見て、ケルシュは「ご用件は?」とさっさと話題を変えてしまった。
このあたり、彼のほうが何枚も上である。
「…ラスタバの所へ行ってくる。困っているらしいの。ちょっと長くなるかも」
「ラスタバの…くれぐれも、お気を付けて」
「大丈夫よ」少女は笑った。「息子は無視するわ」




 少女は長い階段を下り、会う人々に挨拶をした。元気かい? えぇ、そちらは? いつもの通りだ。
相変わらず別嬪さんだね。いえ、そんな。照れることはない、うちの嫁とは大違いだ。
あら、何か言いました? え、いや別になんでも、ははは…
 いつもの調子。いつもの日常。少女は、里が大好きだった。この里以外にも
様々な国や町があることは知っていた。だが、彼女はこの里を出る気はなかった。
 民たちに一礼し、少女は再び、歩き出す。ここをまっすぐ進み、右へ曲がって、
橋を渡って、階段を上がり、階段を上がり、階段を上がり、一息ついた先にその家はあるはずだった。
——が。二つ目の階段を上がる前に、少女は聞き覚えのある声に呼ばれた。

“ —大丈夫よ、息子は無視するわ— ”
 その声の主こそ、ラスタバの息子。

「ディア」

 ディスティアム、通称ディアだった。




「お前、親父に呼ばれたんだって?」
「そうだけど」
「行かなくたっていいぜ、どうせ山の開通の相談なんだからよ」
 ディアは里の者にしては珍しく、やや乱暴な言葉遣いをする少年だった。そして、少女と同年代でもある。
それでもやはり生まれが違いすぎるため、会ったことはあっても
言葉を交わすようになったのはまだつい最近の話である。
「開通なら、なおさら行く。これなら上に住む人たちの移動が楽になるもの」
 里は二つの崖の上にある。行き来する方法は、下のほうに一本だけある石橋のみだった。
崖の上に住む者には、不便と言えば不便なのだ。だから、里の上の方にある崖を開通しないかと、
魔術師の代表に当たるラスタバはよくシェルラディスに相談していたのだ。シェルラディスが
今日は修道院の総会に出ているため、このとき里長の代わりを務めるのが既に少女の役目だった。
「どうせ上が通れるようになれば、ケルシュに会いに行くのが楽になるからだろ」
「ディア」
 小さく、非難の目を向ける。が、よくよく見れば、痛いところを突かれて慌ててもいた。
「そりゃそーだよな、今更住み込みなんてできねぇよな。あっちから家に来ることはあっても、
こっちからはそんなローブじゃ行くのが大変すぎる。実際」
 ディアは意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
「さっき階段で、つまずいたろ」
「ディアっ!」
 気が付いたら、少女は少年の頬をひっぱたいていた。右手が赤くなり、熱くなり、
はっとして少女は慌てた。左頬にもみじを浮かび上がらせ、少年は呆けたような顔をした。
「ご…ごめん」少女は視線を落とした。「つい、かっとなって」
「かっとなったらぶん殴る性格かよ」ディアは舌打ちし、踵を返した。
彼の顔が、悔しそうに、哀しそうになっていたことを、少女は知らなかった。



「顧慮する誠心に、拝謝を。…本来ならこちらから出向かわねばならぬところを、かたじけない」
 古めかしい挨拶に挨拶を交わし、少女は労わるように笑った。
「ラスタバ、足の様子は?」
「これこの通り——もう動けなくなりつつある」
「そう」少女は考え込んだ。
父が若くして足を痛めているのに、あの息子の自由奔放っぷりと言ったら——少女の無表情を、
だがそこに見え隠れする呆れの表情を読み取ったラスタバは、訊くまでもないことをあえて問う。
「…うちのせがれに会わなかったか?」
 ラスタバは質素な魔術師の法衣を肩に乗せて、少女に問うた。
「会いました」答える。「でも、相変わらずで」
「困ったもんだな」ラスタバは嘆息した。
「及ばずながらも頂いたこの身分を、せがれは我がもののように扱っておる。…いやはや、困ったもんだ」
「…」少女は黙った。知っていた。彼は、ディアは少女のことが好きなのだ。
だが、少年であるがゆえにまだ素直になれず、関わろうとしては失敗し、
少女からの評価を下げていることに気付いていない。
「…いや、すまん。…ところで話は聞いたやも知れぬが」
 いわゆるドラ息子の話を早々に打ち切り、ラスタバは開通作業についての説明を始めた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.247 )
日時: 2013/02/27 23:05
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「立派に成長していますよ」

 ——さらに時は流れる。
 シェルラディスは、目の前の墓に向かって、両手を合わせた。
その名——シェルハヴィア、略称はシヴィア。彼女自身のたった一人の娘である。
我が子の顔も見ることなく生涯を終わらせ、子も母の顔を知らず成長した。
もし奇跡が、互いを再び合わせてくれたとしても——二人は、互いを知らぬまま、終わってしまうのだ。
 隣の墓に刻まれているのは、娘の愛した者の名。彼もまた、シヴィアが子を成したころに、
突然その生涯を閉じた。これは『真の賢者』の誕生の予兆ではないか。そんな噂が流れずとも
シェルラディスには、予想できていた。だから——覚悟も、できていた。
 できていたはずだった。
 ——それでもやはり。あの時の失った思い—悲しみとか、そんな言葉で表されるものではない—は、
今でも心にのしかかるのだ。
(でも、だから)
 あの子を、立派に育ててみせる。そう、誓ったのだ。
 もう、自分は長くない。だからせめて、その間に。




 娘と呼ぶべきか、まだ少女と呼ぶべきか。
 少女はそこまで成長していた。長くなった銀髪はもう、作業をするときは束ねておかねばならぬほど。
だが少女は、今は髪をおろしていた。
「——————、—————————、………」
 静かに魔法を詠唱、気合一閃。目の前に、小さな爆発が起こる。
 ・・・・・・・
 手加減することの練習だ。これは普通に呪文を唱えることより疲労感は抑えられるが、
集中力は上げねばならない。集中力をそのままに、疲労感を抑える——
それができるようになるには、慣れる、という事しかなかった。慣ればかりは、
どんな天才でもすぐ身につくことではなかった。


 外に出る。悪い天気だった。…だが、少女は先に、空よりも墓の前に、目を移動させた。
「おばあさまっ!?」
 墓の前で、うずくまっている。少女は慌て駆け寄り、その腰を抱く。
「どうなさったの? 大丈夫ですか?」
「…えぇ」シェルラディスは荒く息をついた。「ケルシュを呼んでおくれ」
「はい」少女はゆっくり手を離すと、家の中に飛び込んだ。
民たちが集まってくる。シェルラディスを励まし、労り、
ケルシュが出てきてからは皆で協力して家へ運んだ。民たちの中に、ディアもいた。
 少女は祖母を心配げに見送り、まずは集まってくれた民たちに丁重に礼を言った。
元気を出して、心配しないでと、彼らなりの励ましの言葉を受け取り、少女は頭を下げっぱなしだった。
 家に入っても、少女にできることは何もなかった。

 あんなに育ててくれたのに。
 あんなに、お世話になったのに——何も、できないの?

 だが、残念ながら本当に、彼女にできることは皆無だった。

 …祈ることしかできないなんて。
 少女は拳を握りしめた。




「よぅ、婆さん、大丈夫かよ」
 外へ出ると、ディアだけがまだそこに残っていた。「何もやることがないから、出てきたんだろ」
 図星だった。
 結局何もできなくて、悔しくて悲しくて、外に出てしまったのだ。…しかもそれを、見抜かれていた。
別の悔しさが少女を取り巻いて、答えもせずその場から逃げるように歩いてゆく。
「おい、待てよ」待つかばか、と口中で小さく素早く罵って、少女はさらに足を速める——
が、案の定階段で追いつかれる。腕を掴まれ、いきなり静止したものだから、勢い余って階段から落ち——

「ちょっ」
「おいっ!?」

 ——そうになって、ディアが慌てて引き戻した。
 …力の強さに、少し戸惑った。ディアは魔術師の息子にしては、力が強く、体格もよかった。
だから、その強さが驚くことでないことは重々承知しているのだが——
でも、それでも、幼いころより知っている者の成長には戸惑う。
 だが、そんなことより先に出てきたのは、
「何、するのよっ」
 見抜かれていた悔しさと、それを感じている自分への怒りによる、八つ当たりと言ってもいい言葉。
「お前、どうする気なの?」
 だが、その腕を掴んだまま、ディアは少女の問いに答えず、訊いた。
「どうするって何よ。離して」
「そのまんまだよ。もし婆さんが死んじまったら、お前、どうすんだよ」
 ぎく、として、少女は顔をゆがめた。…考えないようにしていたことを、訊かれてしまった。
もし。もし祖母が、亡くなってしまったら。
 …少女は、ひとりになる。
「…ケルシュがいる」
 だが、少女の答えに、ディアは——その名が出てきたことに対し——苛立ったように答える。
「また、かよ。ケルシュは他人だ、頼れねぇって」
 黙ってしまった少女に、ディアはやっぱな、と今度は何処か楽しげに答えた。
「考えとかないと、そろそろまずいんじゃないの?」
「…やめてよ」
「よく頑張ったとは思うぜ。五十年くらい前にころっと逝っちまってもおかしくない状況だったってのにさ」
「…やめてったら」
「そろそろ終わりだよ、なんなら——」
「馬鹿!!」
 少女は叫んだ。叫んだと同時に、涙が溢れてくる。怯んだディアの手を振りほどいて、少女は逃げた。
 今度は、走って。
 階段を降りきって、そのまま里の入り口の前でうずくまる。
「…………………」
 ディアは黙りこくった。馬鹿。…だから、なんだよ。本当のことを言っただけじゃないか。
 彼は不器用だった。不器用で、無自覚だった。
 自分が傷つけたことは分かっていても、その原因が何かが分からなかった。

 …俺は。
 俺は、ただ—————…。



















「—————————————————ぁぁぁっ!!」









 ディアは顔を上げた。
 そして——目を、見開いた。








 里の入り口に、見慣れぬ赤い騎士が数人もいた。
 その中の一人が——自分が傷つけてしまった少女を、捕らえていた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.248 )
日時: 2013/02/27 23:14
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「ふぅ、こんなものかね」
 ラスタバは通路にカンテラを吊り下げ、満足げに頷いた。
 開通作業は、これにて完了した。予想していた年月とほぼ同じである。
「ディア、里長に——」振り返った先にいるはずの息子が、いなかった。
まったく、またかと、かぶりを振った。新しい道を足と杖の音を立てて歩き始める。
と、その壁に、何かが隠されているような、盛り上がり、微妙に色の異なった部分があった。
 ディアの悪戯か。まったく、いつまでたっても子供だ。ラスタバはそれを削ぎ落とそうとして——気づく。
その下に隠されていた、とある言葉を。
「ははぁ」
 ラスタバはにやりとした。若いと言っていいのか、子供じみたと言えばいいのか。
だが、もう削ぎ落とすことはせず、そのままにしてやった。そしてまた、歩き出したとき、


 ———その悲鳴を、きいた。




 ディアは咄嗟に、少女の名を呼んだ。紅い鎧。多くの兵士。
       ・・
 外界からの、人間。


「ほぅ」
 ディアの口から発せられた名に、兵士は笑った——ように見えた。
「ならばお前が、シェラスティーナで間違いないのだな」
 兵士は確信して、少女の本名を言った。しまった。ディアは歯ぎしりした。自分が呼んでしまったから——

 “ —馬鹿!!— ”

 そう、馬鹿だ。俺は馬鹿だ。だから、
 だから、その分。そのままでいてやる。
「手を離せっ!!」
 ディアは叫び、拳を固めた。意識を集中させる。
 どんなに頑張っても、少女には勝てなかった、魔法の腕。
                   ・・・・・・・・・
 だが——勝てるか勝てないかじゃない。使えるか使えないかだ。
「—————————、——————————————…!」
 詠唱、そして。
 少女を捕らえていた兵士の後ろの紅鎧たちを、炎の球が襲い掛かる!
「この、餓鬼っ」
 唯一無事だった紅鎧—幹部なのだろうか、少々異なった鎧だ—が、剣を引き抜いた。
 兵士が怯んだ隙に、取り戻す。——その考えは、実行されはしなかった。
先に剣が振り回され、ディアの肩を切先が貫いた。


「ディアぁっ!!」


 少女が叫んだ。目が、合った。泣きそうな眼、後悔しているような眼。
ディアは肩を抑え仰向けに転がり、民たちが慌てて回復呪文を唱えようとする。
が、少女の腕を掴んでいた兵士がその首筋に槍の先を突き付けると、皆凍ったように動けなくなった。
「…なっ…」
 何してるの、早くディアを助けて。——言えなかった。
 ディアが命がけで助けようとしてくれたのに、自分は、自分は——!
「その方を離せっ」
 里の最上から、ケルシュの声が下りてきた。民たちに呼ばれ、里長の家から出たばかりなのだろう。
だが、その言葉は虚しく響いたのみ。槍を喉元に突き付けている紅鎧は、感情のない声で、叫んだ。
「我らはガナン帝国の兵士。用があるのはこの者のみ! 抗いたくば抗えば良い、別に犠牲が増えるのみだ」
「ひゅう、珍しく怒ってない?」
 台詞めいた言葉をいい、ディアを攻撃した兵士は軽口をたたいた。
——怒っている? 民たちには分からない基準だった。分からないなりに——ひどく危険な、匂いがした。
「…く」              ・・・
 はったりではなかった。実際、少女の嫌いな少年が、兵士の前で倒れているのだ。
だが——恐らく奴らは、少女を殺す気はないのだろう。

 犠牲。それが、自分であれば。
 自分の犠牲と引き換えに、少女を救うならば——!






「いけません」

 突然、ケルシュの手首が、掴まれた。驚いて振り返ると、そこにシェルラディスがいた。
「シェディ様!?」
 寝込んでいたはずの里長は、荒い息を突きながら、眸を険しくしケルシュを見た。
「…あの子のために、別の命が失われてはなりません」
「しかし、それでは!」
「わかっています」
 シェルラディスはらしくもなく、やや乱暴にケルシュを押しのけた。
 反抗する者がいなくなったと認識し、兵士は立ち去るべく魔法文字を描き出す——転移呪文!!
 シェルラディスは連れ去られる前に、せめてもと、孫に向かい——荒い息で、叫んだ。

「よく聞きなさい、お前はただ一人、古の賢者の血をひきし『真の賢者』!!
邪に屈してはなりません、死を見てもなりません。貴女は、何としてでも、必ずここへ戻ってきなさい——!」





 …最後まで、聞こえただろうか。
 …その姿は、消えていた。















「ディア!」
「ディア、しっかりっ」
 大量の血を流し続ける少年に、周りのものが集まる。だが、少年は、その悔しさに涙を流した。
「くそっ…ちくしょうっ!!」
「ディア」
 ケルシュがその傍らにしゃがむ。彼はもう、回復呪文をどんなに唱えても、無駄になりつつあった。
「ばっ」
 ディアはその眼にケルシュを映すと、理不尽だと分かっていながらも、言わずにいられなかった——
「馬鹿やろうっ、なんで、何であいつの傍に、何でっ…」
 止まらない涙に、うまく言葉を出せずに。
「なんで、あいつがっ…!」
「…………………………………っ」
 ケルシュは、それでも、両膝をついて、拳を固めた。その通りだと、思ってしまった。
どうして、肝心な時に、傍にいられなかったのだろう。
「つ…次はっ…次は、ちゃんと、守れよっ!!」
「ディア!?」
 ディアは、痙攣しつつも、言葉を紡ぎだしてゆく。
「だから——」





「絶対、戻ってこいっ…

             ——————————————— シェナ ——————————————!!」







 最期に、彼女の名を叫んで。
 少年は、息を引き取った。


 好きだった少女の安否も、知らぬままに。











              サイドストーリーⅢ 【 記憶 】———完


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