二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.284 )
日時: 2013/03/18 21:13
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 ファンデが戻ってきて、他に司祭たちも集まり——僧侶団本部東棟五階特別研究室前第二控室には
マイレナを含めて七人が集まった。マイレナは知らない顔ばかりであったが、
高司祭たちは反対に知っているらしく、ほう、この娘が、あの——といったような納得顔をし、
それを見たティナが高司祭たちには分からないような程少しだけ不機嫌そうに眉をひそめた。
多分成績トップの自分よりマイレナのほうが注目されるのが気に入らないのだろう。
さっきの様子から恐らく、この娘はそういう性格だ。けれど、こちらだって何も注目を集めたくて
こうなっているわけでもない。そっちに注目を寄せてくれるのならこちらとて大いに願っていることだ。
 ——が、何も高司祭たちもずっと無遠慮にじろじろ見ているわけでもない、
しばらくすれば会話をしたり精神統一したりと、それぞれの思うままにして待った。
マイレナは始終あくびをしていた。




 呼ばれた理由は想像通りだった。というか——部屋の名の通りだった。
 特別研究。
 そう、その研究員として任命された者——それが今ここに集う者たちである。
問題のその研究——それはもう先に述べてある。

 “傷の治療だけでなく人の寿命まで研究を続ける魔法組織”

 そう、つまり人間の生命を研究する、そんなことをもこの僧侶団はやっていた。
それはヒトの進化につながる、進化につながれば人間は更に良くなる、そして——
 その先をやたら態度のでかい研究員は言わなかったが、恐らくその先は
いつか魔術団アーヴェイより支持を集められるだろうとかそんな程度の話だろう。
そう思った司祭たちやティナはしっかり、はっきり頷いたが、マイレナはそもそもその研究内容から呆れていた。

 ——人間の進化が良いものだって?

 マイレナは嘆息した。研究の詳細を聞かされてさらに呆れた。
やれ人が空を飛ぶだの、読心術だの。不老不死だの。それを自慢顔で話す研究員はもちろん、
それを熱心に聞くこいつらもこいつらだ、とマイレナは思っていた。
そんなことが本当にできるようになれば、必ず最終的には混乱を招く。
人間が良くなったと思うのは最初だけだ。慣れぬ力を持ったとき、その使い道を誤れば混乱し、
焦り、待っているのは負の連鎖。少なくともこいつは、分かっているはずだ。ティナ・オーリウスレイ。
 …では、分かっていながら、何故協力する?
 ——分からない。


「外に出るなんて初めてよ」
 研究内容を聞かされつくし、再び二人だけになった時、ティナは含み笑いをしてそう言った。
 …よくもまぁ、ここまで態度を分けられるものだ。
 見習いたくもない様子を目の当たりにして、マイレナは今日何度目かのため息を吐いた。
「乗り気じゃないみたいね。まぁ、いつものことだけど——」
 ティナは鼻で笑って、髪をかきあげた。
「…それとも、外国へ行くのが怖いの?」
 ——二人が課せられたのは、外国、即ち世界を巡り、生命学を学べと言うようなこと——そう、旅だ。
巡礼の旅じゃない。おかしな僧侶だ——とは思ったが、それを口に出さないだけの常識はあった。
だが、一つだけ気になった。
 ——妹のルィシアのことである。
 世界を旅するのが怖いわけではない。彼女を置いて行くことに抵抗があるのだ。
確かに妹は既に一人で生活できるような力はある。だが、だからといって心配しない理由にはならない。
 黙ったままのマイレナを前に、ティナは「…つまんないの」と見せつけるように頬を膨らませた。
「…何がしたいわけ?」
 不意に、マイレナが言った。ティナは少し驚いたように、マイレナを見返す。
「…何のこと?」
「頭のいいあんたが気付いてないなんてことはないはずだけど?
なんでこんな研究に手を貸す気満々なのか——それが分からない」
「あなたにもわからないことがあるのね」ティナは少しだけ嬉しそうに言った。
「別に、飛行能力だの、読心術だのには興味がないわ。あるのは、別——」
「…“不老不死”か」
 正解、とティナは言った。「人間の長年の研究よ? 楽しそうじゃない」
 ——ますます分からなかった。が、予想はついた。多分、この娘は——…。
「教科書通りのことしか頭にない天才か」
 マイレナのその言葉に、ティナはその顔をはっきりと不愉快さに歪めた。
ここまで表情が変化したのは初めて見た——もっとも、普段から笑ってばかりで、
笑顔以外の表情すら今日初めて見たのだが。
「…どういう意味」
「そのまんまだよ。あんたは、教科書しか頭に入っていない、少し足りない考え方の持ち主ってこと」
「…言ってくれるじゃない」ティナは無理矢理笑った。「そうね、あなたは勉強しない天才ですもんね」
「私は関係ない。…飛行、読心…それが仮に成功したとして、その先に待つものは?」
「…言っていたじゃない。進化だって」
「——本当に分かっていなかったのか…」マイレナは嘆息した。流石のティナも怒り、
少しだけマイレナに詰め寄る。「…何が言いたいのよ」
「——生じるのは、混乱、破壊」淡々と、言葉を続けた。
「極めつけに、不老不死——この三つを重視する、その意味がまだ分からない?」
 黙ったままのティナに、マイレナは——教科書を読まない天才は、あの時のように、説明をした。

「…敵を読心し、飛行能力で攻める。決して死なない身で——そしてその敵が、
長年いがみ合ってきたという、『魔術団アーヴェイ』」

 ようやく気付いたように、ティナは目を見張った。
 だからマイレナは、口を閉ざし、心中だけで残りの言葉を紡いだ——




 ——戦争を起こす気なのさ。二つの、魔法組織の。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.285 )
日時: 2013/03/18 21:17
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 あの日から三年が経過した。
 僧侶団の真の目的を知っているとはいえ、それを指摘し食い止めるまでの力、
即ち身分を持っていなかったマイレナは、仕方なしに従うふりをして、密かに別事情を探っていた。
命じられていた生命学の勉強はざっと大まかに済ませた。
そちらはあの『教科書通りのことを覚える天才』に任せればいい。適当に覚えておいて、
あとはアルカニアの他国から見た歴史やマーティルとアーヴェイの昔からの関係性など、
さまざまなことを探った。先に述べたとおり、アルカニアは他との交流のない街、
情報は限りなく少なかった。だが、この三年で、四人の協力者を味方に付けた。


 一人は法王の二十三番弟子(正しくは二十二だがマイレナは勘違いして覚えていた)の従兄の荒っぽい戦士、
 一人は法王の何番か弟子のさらに三番弟子の親戚の軽薄気味の魔法使い、
 一人はただの好奇心からアルカニアを調査しているという理由からわかるようにかなりズレた武闘家。


 ——そして、もう一人は。





 そのもう一人と会ったのは、現在のカラコタ橋付近の大地だった。
 マイレナがそのあまりの村町国のなさにいい加減疲れ始めていた頃見つけた、その無謀な女性。
マイレナと同じ闇髪、眸は海の蒼。以前どこかで見かけた外套を纏い、なかなか良い大剣を振るっていた。
 ——魔物相手に。
 だが、その数が数である。三匹四匹の話じゃない。十匹、だろうか。もう少しいるかもしれない。
その剣の腕は素晴らしかったが、身を守ることは苦手らしい。
いろんなところから不意打ちを食らってはその外套を赤くしている。
(何つー無謀な…逃げりゃいいのに)
 この頃魔物はそうたいした強さではなかったが、旅人はほとんどいなかった。
いたとしたら商人の類だったが、あの女性はどう見ても商人ではない——あ、また不意打ちを食らった。
(…大したもので)
 マイレナは呆れたが、その逃げ出さない根性は慰労の言葉をかけてやりたくないこともなかった。
それに、このまま見逃すのも少々人が悪いように思える。さすがにそこまで無情ではない。
 仕方ねぇ、ちょっくら助けてやっか——と思ったとき、その大剣がその場で円を描いた。
マイレナが目を見張る。あのぼろぼろの状態で、まだそんな体力があったのか。
お世辞にも綺麗な円だったとは言えないが、それは周りを囲んでいた魔物を切り裂き、怯ませ、絶命させる。
 一発逆転。
 …勝ちだ。あの女性が、勝った。
(…凄っ)
 素直に驚いた。あれでまだ立っている。凄い体力だ——と思った矢先から、背中からぶっ倒れた。
(………あー………)
 前言撤回。


 ぶっ倒れたままその女性は自分の袋をあさっていた。多分薬草を取り出そうとしているのだろう。
いや、それ、薬草で治るような傷じゃないから—— 一応は僧侶、治療師であるマイレナは苦笑して、
治してあげようか? …といきなりいうのもつまらないので——

「お見事ー。よく逃げなかったものだね」

 凄い形相で睨まれた。怖っ。
「…アンタ何?」イヤそこ普通『誰?』じゃないのか? と思いつつ、マイレナは制するように両手を振った。
「まぁまぁ。…お客人、魔法の力は——まぁ、受けたことあるよね。旅人だし」
「アンタ何?」また言われた。『誰?』じゃなく『何?』と聞かれた場合——どう答えるべきなんだ?
「んー、言ってもいいけど、その前にパタンキュしないでよ?」
「…じゃあ話しかけるな」
 お、この人ウチに似てるかも。気が合わなさそうだ。笑。
「まぁまぁ、せっかくタダで回復してやろーと思ってんのに」
「結構だ」即答かよ。
「んー、怪我の割に元気そうだね」思いっきり無視して、マイレナは傷に手を当てる。
あまり集中せずに言った——ベホイミ。               ベホイミ
 マイレナの口から紡ぎ出されたその呪文を聞いた時、一瞬彼女の顔が再生呪文ごときで直るかよ——と
言いたげな風になったが、舐めてもらっちゃあ困る。マイレナが手を離す、傷を見る——完璧。
「…て、えぇえ!? な、なおで!?」
 …多分『治った』と『何で』が混合したのだろう。
 その後、あんた何者!? とかなんとか聞かれ、適当に答えて、そして律儀にも彼女は、恩は返すと言った。
普通ならそんなもん必要ない、と返すような性格だ。…けれど、何故か、即答していた——
 旅に付き合って、と。




 彼女のあの時のこれ以上ないくらいの呆けた顔は今でも覚えている。
 実はあんた詐欺師だろう、と呆れ気味に言われたのも覚えている。
 名前は忘れない。何があったって、そう、たとえ死んだとしても。


 闇髪、蒼海の眸。剣士。無謀な女傑。
 ——初めてできた、親友。



 ———その名が、チェルス。
 後に、唯一無二の親友となる者。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.286 )
日時: 2013/03/18 21:27
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 チェルスに出会ってからアルカニアへは三度、戻った。
 チェルスに初めてで会ったときすでに入手していた情報に、彼女はかなり反応を見せていたのだ。
 マイレナが探っていたのは、まず何故二つの魔法機関がいがみ合っているかだった。
かなり古くからそうだったことは知っていたため、アルカニアの歴史から調査していたのである。

 ——それは大昔のこと——よくその頃のことが分かったなと思われるほど昔の話だ。
 このアルカニアは一度、突如生じた暴風にて壊滅的な状況となった。
当時は風などの天候を読む力がなかったのか、その原因は一切不明。
その時の被害に対し復興に尽力したのはその頃の最高権力者の兄弟。兄が魔術師、弟が治療師。
人々を癒し、火を熾し、二人は少しずつ街をたてなおした。二人が年老いてからはそれぞれ、
若者に魔術を教え込んでいった——それが発展したのが、今のマーティルとアーヴェイだ。
 そこまでしかわからず、なぜ今仲が悪いのか——その情報はつい最近、仮説としてなら出始めたのだが。
 チェルスが反応したのは、『突如現れた暴風』のくだりだった。
その話をするまで気だるげでほぼ無言で話を思いっきり聞き流していて
あくび満載だったのに(お前が言うな)、いきなり眼の色を変えて食いついてきたのだから驚いた。
今に至ってまだ共に旅をしているのは、チェルスもマーティル調査の協力人となったから——
だから『四人目の協力者』なのだ。


 ルィシアはマイレナの話を聞いた時、眉を少し上げ、だったら自分はアーヴェイに入ると言い出していた。
マイレナが驚いて彼女を見ると、そっちの方が情報交換しやすいでしょ、とにやりとした。
なんだかんだで危険なことが好きなのはマイレナだけではないようだ。流石姉妹である。




 三回目の帰国では、ルィシアはなかなか興味深い情報を探り当てていた。
さすがルイ〜、と言うと鼻で笑われた。お前今馬鹿にしたな?
「アーヴェイもマーティルと戦う気満々よ。知能を上げる研究、なんてものがあるのだけれど——
ぶっちゃけ集中せずに魔法を唱えるようになりたいだけ。先手必勝って」
「似たよーなことやってんな」チェルス。「どっかで手ぇ組みゃ凄い発展しそうだけれどな」
「同感」マイレナも。「根本は同じなんだし」
「しかも」ルィシアはそこそこに聞き流して続けた。「別の国が手を貸してるみたいよ」
 これにはマイレナが眉をひそめた。「…アーヴェイに?」
 何度も言うように、アルカニア自体他との交流を避けているために、これは珍しい話である。
…しかも、今——『国』と言わなかったか?
「…国なのか」チェルスも気づいたらしい。
 現在世界に確認されている国はセントシュタイン9世を王とするセントシュタイン、
 ホウレリウス王治めしルディアノ、
 ガレイオウロス王を頂点とするグビアナ。
 ——そして。

「多分想像ついたと思うけど——魔帝国ガナンよ」

 ——四つ目は、皇帝ガナサダイの居城ガナン帝国。
「…あの国、国内戦争が起きたって今有名じゃん。…大丈夫なの?」
「じゃないでしょうね」ルィシアはあっさりと言った。「父親を暗殺した皇帝よ? まともなはずがない」
「で、そいつを背景に、戦う気満々と」再び、チェルス。「ここでも内戦を起こすつもりなのか」
「幸いにしてまだ、街には知られていないけれどね——内戦の気配は」
「そっちの方がいいよ」マイレナだ。
「まぁ、得られた大きな情報はこの辺かしらね。…姉さんがマーティルの人間だからって、
お偉方の偏見であんまり上の方行けないから情報集めにくいのよ」
「あー…なんかごめん」
「後からあたしが入ったんだから姉さんが謝る必要はないでしょ。…ま、次までにはもっと位を上げておくわ」
 助かる、とマイレナは言った。チェルスは初めてルィシアの笑った顔を見た——気がする。






 ——だが、『次』は訪れなかった。
 最近世界に普及し始めた『キメラの翼』とやらを使って戻ってきたアルカニアは、そこにはなかった。
否、マイレナの知っているアルカニアは、というべきか。
 身分証明書を見せるたびお疲れさまです、と元気に言った明らかに年上の門番が、いない。
いやそもそも、門がない。あくまでも開放的に、とは言えない。
 破壊され、寂しげな風が吹き込んでいる——という雰囲気であった。
マイレナは目を見張り、チェルスを半ば置いていく形で故郷に入った。
崩れた家、焼かれた木、広がる毒の沼。座り込む人々。知り合いがいた。
マイレナの姿を確認すると皆、喜んだように顔を上げたが、その顔に生気はほぼ見られなかった。
喜ぶことにさえ、疲れてしまったかのように。
「何があったの?」
 マイレナがきくと皆、俯いて答えた、「敵襲だ」「戦争」「攻め入られた」。
 ルィシアの姿を探す、だが彼女はいなかった。
はっきりと、住民からも言われた——彼女はもういないと。姿を、消してしまったのだと。
 何故いない、何故こんなことになった。マイレナは思わず感情的になった。
マイレナは、あの少女を——もう娘となったあの天才を、見つけた。

 ティナ。

 たまたま戻ってきていて、不運にも戦禍を被り、だがその状況でも人々に癒しを施し、疲労し、
横たわる彼女に、マイレナは問うた。内戦が本当に起きたのかと。こうしたのはマーティルか、アーヴェイかと。
 彼女は途切れ途切れに、答えた。

 ——どちらでもない。
 攻めてきたのは、魔帝国ガナンだと。

 故郷を、妹を失ったということに、悲しみはなかった。
 あったのは、言い表せぬ怒り。

 初めて、感情のままに動くことがどういう事なのかが分かった気がする。
 ティナはそれを見て、言った。
 目的を持ったのなら。どうしても叶えたいことがあるのなら、人を欺くべきだと。
あたしは、そうやってきた。いつもへりくだって、へつらって、欺いて信用を得た。
それが敵を油断させる。人を見極められる。あたしのやり方はそうだったと。

 マイレナは頷かなかった。遺言みたいな話し方をするなと言った。
 ティナは笑った。最後に、マイレナにだけ見せた、あの小悪魔的な笑みで。
 その後、彼女がどうなったのかは、マイレナは知らない。


 けれど、
 その言葉を胸に刻み。
 戦友に協力を要請して。
 力強く頷いた彼女と共に。
 妹を探し、魔帝国を目指す。





 マイレナの闘いは、ここから始まった。









             サイドストーリー 【 僧侶 】———完

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.287 )
日時: 2013/03/18 21:33
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

         【 ⅩⅣ 】   登場人物紹介。



 __マルヴィナ__  「——ようやく、来てくれた…」
   翼無き天使の然闘士、現在魔法戦士に戻っている。“天性の剣姫”の称号を持つ。
   剣術においては天才的であり、今は朽ち果てた史上最強の剣『銀河の剣』を所持する。
   師であるイザヤールの裏切りを境に、どこかかげりを帯び始める。
   敵国に人質として捕まった彼女の思いは——…。

 __キルガ__    「…嘘、だろっ…!?」
   翼無き天使の聖騎士。“静寂の守手”の称号を持つ。
   マルヴィナで言う剣のように、天性の槍使いである。
   幼なじみのマルヴィナに好意を持ち、だがその思いに自信が持てないでいる。
   自分や幼なじみたちの真の正体に不安を隠せずにいる。

 __セリアス__   「今やることだけに、集中すればいい」
   翼無き天使の闘匠。“豪傑の正義”の称号を持つ。
   器用なために、ひときわ重く扱いにくい斧もやすやすと使いこなす。
   仲間思いで、四人の中ではよきムードメーカー的存在。
   闘いに怯えるシェナの心情を案じる。

 __シェナ__    「何で…まだ、私に、失わせるの…!?」
   正体、ドミール出身の竜族、『真の賢者』。“聖邪の司者”の称号を持つ。
   主に弓を使うが、攻撃・回復の呪文ともに優れた才能で援護する。
   ガナン帝国の捕虜であった過去を持ち、ガナンの名を聞くと敏感に反応してしまう節がある。
   大切な人を失い続けた彼女は次第に戦いに恐怖を覚え始める。本名・シェラスティーナ。


 __サンディ__   「アンタ何勝手に——…?」
   『謎の乙女』を自称する、天の箱舟運転士をバイトとする妖精。
   やや強引な性格。人間には姿が見えない。マルヴィナの良き相棒。
   壊れた箱舟の修理のために四人と別行動をする一方、『テンチョー』なる人物を探している。

 __ケルシュ__   「希望なのです。あの方にとっても、私にとっても」
   ドミールの里の騎士、かつて里長の家でシェナの世話係だった。
   責任感が強く、自己犠牲を払っても守るべきものを守ろうとする。
   彼の守るべき人というのは、亡き里長の残された希望であるシェナだろう。

 __アギロ__    「おい、うるさいぞ」
   カデスの牢獄の囚人のまとめ役。
   非常にアンバランスな体格の持ち主だが、過酷な仕事に耐え抜いているのもあり
   その力は常人を遥かに超えている。
   どうやらチェルスだけでなく、マイレナ、更にはマラミアとアイリスまで知っているようだが…。

 __チェルス__   「——問題です。裏の、裏って——なんだと思う?」
   三百年前の伝説、“蒼穹嚆矢”にしてマルヴィナの『記憶の先祖』。
   さばさばした性格で、だがその強さは並大抵ではない。
   蒼い鳥の別の姿を持つ。恐ろしく無謀な行動をとる人物。

 __マイレナ__   「さぁーて、ひっさびさにかっ飛ばすよ!」
   三百年前の伝説、“賢人猊下”。元僧侶の賢者。
   かなり軽い性格で、若干天然。ルィシアの実姉。
   実は非常に高い知能を持つ人物。

 __ゴレオン__   「この俺の力、思い知るが良い!!」   
   カデスの牢獄の統治者、“強力の覇者”の称号を持つガナン帝国の戦士。
   人並み外れた力で巨大な鉄球を操る。
   猪めいた顔つきの男。ガナン帝国三大将軍の一人。

 __ゲルニック__  「相変わらずの腕前で」
   ガナン帝国三大将軍の一人。“毒牙の妖術師”の称号を持つ魔法使い。
   妖鳥めいた顔立ちの年齢不詳の男。
   マルヴィナの命を狙う一方、帝国から脱走した“蒼穹嚆矢”を釣るために利用する。

 __ルィシア__   「義理は返さないと、気が済まないわ」
   ガナン帝国から追放された剣士、“漆黒の妖剣”。
   レイピアとマンゴーシュの使い手。マイレナの実妹。
   かつて自分を人質に姉を帝国に誘き出された過去があり、
   その帝国に復讐するためにガナン帝国の騎士になっていた。

 __マラミア__   『時はきた、セリアス』
   『未世界の不人間』、“剛腹残照”の称号を持つ武闘家。
   アイリスと共にさまざまな情報を探るが、その方法は本人いわく秘密。
   やや荒っぽく、血の気が多い。セリアスに大きく関係がある。

 __アイリス__   『——そうよ』
   『未世界の不人間』。“悠然高雅”の称号を持つ魔法使い。
   全体的に神秘的という言葉の似合う女性で、マイレナに次ぐ高い知能を持つ。
   キルガに大きく関係がある。

 __クレス__    「何なんだ、君は!?」
   ガナン帝国の騎士だが、現代の人間。カデスの牢獄の兵士の青年。
   戦闘能力は少々低めだが、攻撃をかわすことには人一倍長けている。
   帝国から抜け出すという願いを叶えるべく、マルヴィナの命を狙う。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.288 )
日時: 2013/03/30 09:28
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

    【 ⅩⅣ 】   激突

     1.



 満身創痍だった。                 ・・・
 両側から兵士に引きずられるようにして、マルヴィナはそいつの前に突き出された。
 転移呪文で連れてこられた場所は不毛地帯。草すら生えぬ黒い大地、まるで影の世界。
そして、ここは——意識をわずかながらに取り戻したマルヴィナが見たのは、
血と汗と死の臭いがする不気味極まりない牢獄だった。血を吸った断頭台の横の階段を上り、
奥の塔に入り、次は階段を下り——そこにあった一室に、今マルヴィナはいる。
のろのろと、顔を上げる。視界がはっきりとし始める。多くの宝箱が目に入る。
軽く四人は吹っ飛ばしそうなほど大きな鉄球が転がっている。
鎖の先に、その持ち主がいた——無骨な鎧をまとい、鼻の曲がったところが
いかにも喧嘩慣れしてそうな大男。その鼻のせいで、その顔はまるで猪だった。
だが、人間だ。この牢獄の統治者だろう。
 意識をはっきりとさせたいが、既に切れた唇をこれ以上噛み切るのは厳しい。
 どうにかして立ち直らねば。思った矢先、両側の兵士から背中を殴りつけられる。
「おら、しっかりしねぇか!」
 兵士の言葉は耳に入らない。今の一撃は逆に意識が飛びそうだった。
どうしよう。自分の存在は、帝国には既に知られていると聞かされた。自分の命は狙われている。
 今ここで意識を失えば、確実に死ぬ…!
 だが、その耳に飛び込んできた目の前の大男の言葉は。思わず耳を疑うほどだった。
「あぁ? わざわざこの俺様に報告するほど、大したやつなのかぁ? こいつは」
 え、とマルヴィナは少しだけ表情を変えた。——知られていない?
理由は分からないが、とりあえず言い表せぬ安堵を覚えた。
隣の兵士も、「いや、あの空の英雄と共に闇竜に戦いを挑んだあたり、普通ではないかと思いまして」と
しどろもどろに説明しているところから、この者たちは自分の正体を知らないらしい。
 助かった。実際そう言うには悪すぎる状況下ではあるが、悪状況をこれ以上
重ねるのを避けられるならそれ以上のことはない。
「あぁそうか。ついにあの憎き英雄とやらを滅ぼしたのだったな。これで帝国を邪魔するもんは
もはやあの小賢しい五人だけとなったわけか!」
「はぁ」
「まぁ、顔は知らんがな、はっはっはっ!」
 ——いったいどういう状況下におかれているんだ、こいつは。
恐らくその五人とはマルヴィナたちとチェルスのことだろう。
そのうち一人が目の前にいることを知らない。兵士も、…はっはっは、と取り繕うように笑う。
だが、その乾いた笑いを、大男の怒声がぶった切った。

「こンの、大馬鹿者共めがぁ!!!」

 鼓膜が破れるかと思った。
二人の兵士が、そろってスポンジのように縮む。
「俺が捜してんのは天使だ! こいつのどこが天使に見える!? お前ら『天使狩り』の担当者だろうが!!」
「は? い、いえ、我々は——」
「言訳無用っ!! とっととそいつは牢にぶちこんでおけぃ!!」
 あわて了解の声を上げる兵士たちの間で、マルヴィナは目を見張っていた。

 『天使狩り』?
                    ・・・・・・・
 まさか。いや、…本当に? みんな実は、ここに捕まって——?
 だが、問いただす時間を与えてはくれなかった。兵士に再び引きずられる。

 途中、この二人の会話という名の愚痴から、大男の正体を知った。

 ——“強力の覇者”ゴレオン。帝国の『戦士』にして、三大将軍の一人である。




 先に述べたように満身創痍のマルヴィナは、やすやすと牢の中に入れられてしまった。
黒ずんだしみが壁に点々と浮かび、首枷がつるされており、骸骨の頭が隅に転がる、かび臭い部屋。
あまりの暗さに、自分の手もうまく見えなかった。  ベホイミ
 傷を癒したかった。けれど、今の自分は魔法戦士。回復呪文は使えないし、薬草も背嚢の中、
とうに奪われてしまい、手元にはない。どうにかこのままで生きながらえねばならない。
 …残っているのは、一つだけ。これだけは取られまいと咄嗟にスパッツの中に隠した、ガナン帝国の紋章。
何故その行動をとったのか、覚えていない。無意識だったのだ。
 暗闇に目が慣れ、マルヴィナは鉄格子を見た。どうにかして、抜け出さなければ。
身体を引きずるようにして鉄格子に近づき、揺すってみる。当然だが、びくともしない。
耳の後ろにヘアピンがあったはず——そう思って耳の後ろを探ると、
そこにピンはなかった。それまで奪ったか。目のいい奴らめ。
 だが、鉄格子が壊せないのなら、鍵を壊す以外にない。
いじってみるが、鍵穴がはっきり見えるほど目が慣れているわけでもなかった。

「おい、うるさいぞ」

 どうにもならなくて歯ぎしりした時、右隣から声がかかった。重く、低く、
マルヴィナにはしっくりと来る—すなわち、人間にしては不思議な響きの—男の声だった。
「…どうやら新人のようだな。こんなところに連れてこられて不安なのはわかるけどよ、まずは落ち着くこった。
ここぁ無駄な体力使っちまったらおっ死んじまう場所だ、今日はしっかりと寝ておけ」
 マルヴィナは驚いた。朦朧とした意識の中で辛うじて見ただけだが、
恐らくこれ以上ないほど酷い場所だろうと思っていたこの場所で、こんなに冷静に
ものを言える人がいるとは思わなかったのだ。少々妙ではあったが、素直に従うべきだと直感的に思った。
名を聞くべきか、了解と先に言うべきか。マルヴィナが悩んでいると、
既に右から聞こえてくるのはいびきの音に変わっていた。


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