二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.294 )
- 日時: 2013/03/30 09:59
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
互いの背を守るように、キルガとセリアスは地を踏みしめた。
「そんな軽装で大丈夫か相棒」
「問題ない。いつもより動けそうだ」
言葉こそ冗談を言い合っているようだが、その内容は極めて重要だ。
キルガは聖騎士としての守りの役目を果たすのは厳しそうだ。となると、二人とも攻撃派となるか、
状況に応じてセリアスが守備にまわることになる。まったく無謀になったものだなと、
後ろで呆れながらセリアスは集中力を高めた。
——狙いは俺ら三人。セリアスは、チェルスの言葉を思い出した。
遠くに、ただ一人傍観する紅鎧がいた。おそらく奴が指揮者だろう。
「…奴と少し会話してみよう。そのためにまずは、ここを一掃する」
「了解」
二人は頷き、その手に込める力を大きくした。
「ごめんね。ケルシュ」
一方でシェナは、そう呟いた。「私たちのせいで…闘いばっかりになっちゃって」
「これが務めです」ケルシュは即答した。「無論、里の者たちも」
「でもっ…!」シェナは祈りの姿勢を崩さぬまま、言った。
「…三百年前は、比べ物にすらなりませんでした」遮るように、ケルシュは言った。シェナが息をのむ。
「あの時は、怪我人は当然、死者までもがでました—— 十人二十人の話ではありません。
あの日に比べれば、そう大したものではない…大した敵ではありません。
…グレイナル様を失ったのは確かに辛いですが…それは全てあの憎き帝国の所為」
ケルシュはシェナを肩越しに振り返り、笑って見せる。
「最早ドミールの民が魔帝国と戦うのは、宿命なのです。宿命には逆らえない」
「…」確かにここ最近の戦いで、軽傷者は出たものの、重傷および死者は出なかった。
かといって納得できる話ではない。シェナは曖昧に頷いた。
「とにかく、この戦いを終わらせるのが先決です。…終わったら昼御飯ですよ」
シェナは思わず吹き出しそうになった。「ひ、昼ごはんって…ケルシュ…」
似つかわしくないほどほのぼのとした言葉に、シェナは呆れながらも笑い、そして嬉しくなる。
小さいころからケルシュの手料理が好きだった。思えばケルシュの人柄全てが大好きだったように思える。
親のいなかったシェナにとって、彼は良き父であり、兄であった。昔の思い出がシェナの中に温かく蘇る。
「…うん。昼ごはんね。…でも、それはマルヴィナが戻ってきてからがいいな」
「了承いたしました」ケルシュは最後まで穏やかに言った。
キルガとセリアスの気合の声。倍以上の敵を相手に、互角、いやそれ以上の実力を誇っている!
紅鎧は苛ついたように、右手を振り上げた。
「——何をぐずぐずしておるか! 多少の怪我は構わん、ガキ三人ごとき、さっさと捕らえてしまわんか!」
キルガの目つきが変わった。何かを掴んだらしい。
表情は見えなかったが雰囲気でそれを感じ取ったセリアスは、流石だなとにやりとしながら、攻撃を続けた。
「こ、こいつら、見かけによらず強いっ…」
見かけによらずとは失礼な、と口中で言うセリアス。
兵士たちは鎧すら身に纏わず降って——降りてきたキルガに完全に油断していたらしい。
こんな行動に出たから馬鹿みたいに見えるけどな、こいつは俺らや多分お前らより
すげー頭いいぞ覚悟しな、と今はあまり関係なさそうなことを一気に思ってセリアスは笑う。
キルガの合図、頷くセリアス。キルガが屈み、セリアスは斧を頭上で振り回した。
巻き起こる波動、斧無双!!
生まれ出でたその強い波に、兵士たちは面白いようにバッタバッタと倒れて行った。
「おっしゃあ!」セリアスがふんと鼻を鳴らし、キルガが立ち上がる。傍観者紅鎧を見る。
この襲撃の意図を探る——そう思って、キルガがその紅鎧に向けて声を上げようとした時だった。
——ベホマズン。
にわかには信じがたいほど、超高度な、絶大な回復魔力を施す呪文が、戦場に唱えられた。
敵に向けて。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.295 )
- 日時: 2013/03/30 10:04
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
紅鎧を前にして、キルガとセリアスは打ちのめしたはずの兵士たちの気配を、背後に感じた。
なるべく、紅鎧を視界に入れるように。二人は、恐る恐る、振り返った——…。
「っ!!」
「っ!?」
想像できていたとはいえ、目を見張り、驚いてしまった。
鎧や盾などの損傷を除けば、完全に回復してしまった兵士たち。
自分たちよりも若く、少数に負けたという屈辱が、兵士たちの歪んだ闘志を湧き上がらせる。
「なっ…ん、で」 ベホマズン ベ ホ マ
唱えられた、その非常に高度な回復魔法——完治呪文全。完治呪文を全員に
一気にかけるようなものだ。ただでさえ完治呪文を習得できるのは大変だと言われているのに——
これを使うものは、更に稀だ。
誰が? ——その疑問はすぐに解消された。シェナが声を上げる。庇うように、ケルシュが立ちはだかる。
彼らの眼の前に——ひとり、異様な雰囲気を伴った、先程まではいなかったはずの男が、いた。
そいつが唱えたところを見たわけではない。だが、それが容易に想像できるほどの異様さを漂わせていた。
だが、その眼に生気という生気はなく、まるで閉ざされたような、どこまでも、どこまでも無感情な眼だった。
「任せるぞ」
紅鎧が含み笑いをして、言った。答えもせず、男はただそこに突っ立っていた。
「…くそっ」
セリアスは悪態をつき、武器を構えなおす。仕返しとばかりに突進してくる奴らに抵抗する。
「本当に、諦めが悪い奴らだな…っ」
「その力、別の所に使えッ」
紅鎧に構う暇はない。二たび、攻撃。だが、わずかながらではあるが、行動パターンを読まれつつあった。
だが、それで不利になる二人ではない。いつもの鍛錬に比べれば…仲間たちとでの鍛錬に比べれば、
まだまだ兵士たちの腕は劣っていた。迫りくる剣を、余裕を持って躱しながら、確実に間合いを詰めてゆく。
「マルヴィナの剣に比べたら、とんだ腰抜けだっ!!」
セリアスがにやりと笑う。キルガは状況を見極め、そして叫ぶ、
「セリアス、頼むっ!」
「おうよ!」
先程と同じ。キルガが屈み、セリアスは頭上で斧を振り回す。生まれ出でる波動、斧無双。
不意を突かれ—尤も、そうなるようにキルガが見計らったのだが—、またしても兵士は余さず倒れる。
そして、次の攻撃に転じようとした時だ。
ベホマズン
…同じように、完治呪文全が、戦場に——敵に唱えられた。
「はや、い」
シェナが呟いた。「そんな——何で」高度な呪文であればあるほど、祈りや詠唱の時間は長くなる。
そうでなければ、魔法は失敗し、疲労だけが代償として残ってしまうのだ。
術者であるからこそ、分かる。おかしい。こんなに早く、回復の最高位呪文が唱えられるはずがない。
「…このままじゃ永遠にこれだ」
「あぁ、どうにかしない、と…」
言いながら、二人は違和感を覚えた。回復した兵士たちは、先程のような闘志が見られなかった。
諦めたかと、一瞬思った。だが、そうじゃない。
回復していながら——何故か、未だ疲労しているような、そんな状況——…。
「精神的な疲労よ」二人のその考えに答えるように、シェナが言った。
「魔法は、送る方も大変だけれど、受ける方も少々疲労するの。
だから、そんなに強くない者は流れ込んでくる強い魔法には耐えられないし、
第一負った傷を一瞬で治すのを繰り返せば身体がもたないわ」
「な、なるほど…?」最初はともかく、後者は何とか理解したセリアスが不安定な答え方をした。
「じゃあ、回復させればさせるほど有利になると言う事か…?」
「お勧めしないわ。逆に耐性が付くかもしれない」
「…そうか…」
キルガは槍を握りなおす。「…なら、奴から、斃すしかないな」
「一撃必殺、ってか。厳しい相手だぜっ」
言いながら、セリアスは眸を険しくした。
(…だが)
キルガもそれに倣いながら、表情には出さずそっと考える。
(…場合によっては不利になりかねない者を、何故出した…?)
しかも、あの紅鎧の言葉。どうやら、自分たち三人を生かしたまま捕らえたいらしい。
何故。完全にお尋ね者となった自分たちを、何故殺さずただ捕らえようとする?
こんなに強力な魔法を使う者がいるのに——
(…考えるのは、)
だが、キルガはそこで思考を完全に外へ追いやった。
いつもより速く、いつもより正確に。鎧のない不安は既に、消えていた。
(———っ後だ!!)
隣の戦友に頷き、頷き返され、二人は標的を変更する。
再戦開始。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.296 )
- 日時: 2013/03/30 10:09
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
若干精神的に疲労しているとはいえ、身体的には完全に回復してしまっている。
ベホマラー
シェナの再生呪文全を受け、気を引き締めた二人は、そんな敵たちを注意深く見た。
さすがにもう斧無双は通用しないだろう。動きは読まれつつある。やはり兵士、ただの馬鹿ではないらしい。
加えてキルガは言った通り、武具を何も身に着けていない。兵士は主に彼を狙った。
やはり殺すつもりはないらしく、腕や足を狙われた。致命傷にはならないものの、思うように動けなくなる。
キルガは防戦一方となり、セリアスは先ほどよりも動くことが多くなった。 イオナズン
長期戦は不利だ。一撃必殺で、終わらせられないだろうか——シェナが気合を込めて爆破呪文を唱える。
それに倣い、里の民たちも風や氷などの呪文で全体攻撃をはかる。
怒涛の勢いで降りかかってくる魔法の数々に、兵士は怯んだ。誰かが倒れた。
行ける! 攻めの手を緩ませるな! 誰かが叫び、さらに追い打ちをかけようとした。だが—— 一瞬の差。
ベホマズン
先に唱えられたのは、完治呪文全だった。
「…くっ!!」
シェナが悔しげに叫ぶ。次いで、キルガも短く声を上げた。——剣が、その腕に深く傷を刻んだのだ。
「キルガっ」
急激に力が失われ、槍を取り落す。
追い打ちの仕返しとばかりに連続攻撃を繰り出してくる兵士を、セリアスがキルガの背から辛うじて止めた。
今の連続的な呪文の詠唱で、シェナたちの疲労も募っていた。
…形勢が逆転した。現状は、紛れもなく不利だった。
「よぅしそのまま、ひっ捕らえてしまえ!!」
兵士が吠える、民たちや、戦士たちに襲い掛かる。増える傷、動かない手。
焦燥が増した、その時だった。
シェナではない誰かが、民たちに向かって、癒しの呪文を唱えたのは。
はっと目を見開く。目が覚める。焦燥が消える。冷静さを取り戻す。
誰もが弾かれたように自分のすべきことを思い出し、兵士たちの攻撃を辛うじて避け、受け流し、止めた。
セリアスは敢えて武器で受けずしゃがみこんで攻撃をかわし、キルガは前転してその場から離れ、
その中途で槍を手にし、その場で弧を描き敵に攻撃する。そして、その呪文の発生地を、見る。
逆光でよく見えなかった。だが、彼女は。
「まったく…お仲間を必要とするならパーティ構成にはもっと気を遣ったら?」
眼だけは鋭く閃かせ、その腰に剣を携えるその娘は。
「…ルィシア…!?」
思わず、名を呼んだ。
ルィシアはうんざりしたような表情になり、流れた髪を耳にかけた。
意図が分からず、間抜け面を下げる者たちに一瞥をくれて、次いで腕を組んだ。
「何よ? ——ふん、頼んでいないとはいえ、一応助けてもらったしね。義理は返さないと、気が済まないわ」
助けた本人はここにはいない。けれど、協力してくれた。その意味するところは——…。
「“漆黒の妖剣”!!」紅鎧が、初めて悔しそうな顔をした。「貴様寝返ったのか!?」
「ばか言わないでよ。もともとあたしはあんたらに忠誠も何も誓ってないのよ」
「抜け抜けと…!」忌々しげに顔を歪ませ、紅鎧は右手を振り上げた。
「構わん、“漆黒の妖剣”は我らの敵だ! 遠慮なく始末してしまえ」
「どっちの言う台詞だか」ルィシアは小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、自身の剣を抜いた。
音もなく、キルガとセリアスが戦っていた兵士たちに近づく。それだけで十分だった。
・・・
年若い、しかも人間の小柄な女剣士に——思わず、圧倒されて、兵士たちは後退りした。
が、ルィシアは興味なさげに再び一瞥したのみ。二人の前に立ち、簡潔に言った。
「あいつを担当して」 ベホマズン
あいつ——というのは、完治呪文全の使い手——ではなく、紅鎧をさしていた。
「…え」
「あいつさえ倒れれば、奴は(と、今度こそ使い手を見た)動かなくなるわ」
そのまるで機械のような扱いの発言に、キルガは眉をひそめた。
「…何を知っているんだ? 奴は…いったい、何なんだ」
相変わらず無感情に立ち続ける男。だが、若干ではあるが——その身体が、ふらつき始めつつあった。
そんな様子を見て——ルィシアは、珍しく…ほんの気まぐれで、しっかりと答えて見せた。
「試作品よ。“賢人猊下”マイレナの成りかわりという名のね」
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.297 )
- 日時: 2013/03/30 10:13
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
——試作品。
人間の扱いをしないその発言を咎めるより早く、その意味を考えてしまった。
「キルガ、考えるのはあとだっっ」
こんな時だと言うのに早速意識が別方向に飛びかけたキルガをセリアスが大声を出して止める。
この状況で闘いすら忘れ物事を考えるのを優先してしまうその(恐らく)本能にはいっそ称賛したいほどである。
ルィシアはそのやりとりにさして興味を示さず、最低限の情報を与えた。
帝国は更なる力を得たがっている。
そのために——三百年前から、さまざまな実験を行ってもいた。
・・ ・・・・・・・・
人に、魔物の力を与える。
当時魔物はそう大した強さではなかった。だが、成長は早かった。
確かに脅威になるほどの力ではなかったにしろ、短期間で飛躍的にその力は増えていた。
例えるなら——小さな蟻が短い期間で犬の牙と爪を手に入れた、と言うようなものだろうか。
これなら犬の力を手に入れた蟻が、虎の、象の、否——本当に人ひとり
簡単にあしらえてしまうほどの力を持つのは、遠い未来ではなさそうだった。
その進化の速さに目を付けた帝国の学者は、人間の兵士に魔物の力を与える実験をした。
「こいつらもそれよ」
ルィシアは血を横に払って独特の構えを見せた。火炎斬り。
・・・・・・・・・・・・・
つまり、この兵士たちは、人間の姿をした魔物ではない。
・・・・・・・ ・・
魔物の姿をした、人間。
だが、それだけでは新たな敵には対抗できなかった。そう——突然現れた、あの四人には。
まだ年若い者たち。天使だという者たち——すなわち、マルヴィナたちには。
何を差し向けても、ことごとく返り討ちにしてしまう四人を下すためにと、
学者たちは皇帝に苦渋の決断を強いられた。
更なる力を宿す兵士を作るか。
それとも——あの四人以上の力を持つ者を、甦らせるか。
「“蒼穹嚆矢”と“賢人猊下”か…!」
「そういう事。甦らせて、もし帝国に従えば学者は楽になる。でも従わなかったら——帝国自体の脅威が増える」
「だが、結果的に後者になった、と」
「そ」魔物の足を狙い、動きを鈍らせてルィシアは後ろを振り返った。
二人は紅鎧に若干の苦戦を強いられていた。まぁ、紅鎧は将軍に残念ながらなれなかったあたりの実力者だ。
適当に頑張ってくれればいい。とりあえず、ここで暴露しきってしまおうと、
ルィシアは再び手と口を動かす。もう、帝国は完全に敵なのだから。
“蒼穹嚆矢”はともかく、“賢人猊下”は一度帝国に従わざるを得なかったことがあった。
恐らくそれを思い出して、悩んだ末に甦らせることを決断した。先に選んだのは“蒼穹嚆矢”だった。
だが、(案の定)“蒼穹嚆矢”は脱走。すると“賢人猊下”にも同じことが予測される。
学者はそれを恐れて結局、前者——更なる力を持つ兵士を作る方を選ぶことになってしまった。
「——前置きが長くなったわね」
「理解した」キルガが言った。「それで、“賢人猊下”の力を持つ兵士を『作った』——それが奴という事か」
「…キルガ。俺にもわかるように説明をくれ」
セリアスが情けなく言った。攻撃の勢いはそのままだが——妙に器用である。
「…“賢人猊下”の力は欲しいが、脱走されては困る。
だから、“賢人猊下”の力を宿した兵士を『作った』んだ。
そいつなら逃げ出すことはないから——それがあいつ、ってことだ」
セリアスはそこでようやく理解をする。「そういう意味か」
「“漆黒の妖剣”、貴様——!!」
紅鎧がわめくが、ルィシアは聞かない。
「じゃあなぜ今度はあんたたちを狙うか——それは直接聞かないことにはわかんないけどね」
「ちっ」紅鎧が舌打ちをした。ちなみに先程だけではなく、
ルィシアの説明中ずっと、余計な情報が渡らぬようにとキルガたちの注意をそらすような動きをしたり
騒いでみせたりしていたのだが、全て無駄な努力に終わっていた。
「…どうやら本当に、貴様は用済みのようだな」
紅鎧はルィシアに向かって低く唸ると、捨て身でキルガに体当たりした。
何度も言うように、一切の防具を身に纏っていない彼はその力の差に耐え切ることはできず、後ろに飛ばされる。
「キルガ!」
紅鎧の表情は兜で見えなかったが、おそらくその下で
最初からこうすればよかったとほくそえんでいただろう。セリアスの咄嗟の攻撃を間一髪で避け、
紅鎧はルィシアに向かって剣を振り上げた。ルィシアは余裕の表情をつくり、
軽く剣で剣を打ち払い、軽やかに身をかわし——
「っ!!?」
・・ ・・・・・・・
そしてその刹那戻ってきたあの痛みに、魔法の後遺症に、その膝を折った。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.298 )
- 日時: 2013/03/30 10:18
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)
魔法に撃たれた横腹が悲鳴を上げている。痛い——戻ってきたその痛みは、致命的な隙を生み出した。
否、隙どころではない。完全に、意識は戦闘から別方向へ向いてしまった。
紅鎧は一度馬鹿にしたような笑みを浮かべ、体勢を崩したルィシアを無理矢理引き上げる。
キルガが、セリアスが短く叫んだ。紅鎧の剣がルィシアを狙う——
「——さて」
——だがその剣は、ルィシアの首もとで止まっていた。まるで、人質にとったように。
後ろは崖。下の見えない、高い場所。
斬りつけるか、突き落とすか。どちらでもよいぞと、紅鎧が邪悪に笑ったのが、セリアスには見えた気がした。
「回復せよ」 ベホマズン
紅鎧の命令。またしても完治呪文全が使われる——シェナが悔しげに短く叫んだ。
だが。男は唱えたのち、大きくぐらりと揺れ——そのまま、天を仰いだ体勢のまま、仰向けに倒れた。
魔力の限界か! 民たちははっと顔を上げた。だが、だからと言ってすぐに動けるわけではなかった。
遠くに見える、人質の存在があったから。
「…役立たずめ。やはり試作品は、試作品か」
紅鎧は戦力を失ったことに悔しがるわけでもなく、ただ無情にそう言ってのけた。
「ルィシア!」
セリアス、と言ったか。 オヒトヨシ
ルィシアはどこかで、そっとそう考えた。仲間のために懸命になる馬鹿。——この前まで、敵だったのに。
「…さて貴様ら、動くかね? それとも——小娘の命を優先するかね?」
紅鎧はどこか楽しげに言った。「敵だったものを——どうするか?」
シェナが荒く息を吐きながら、呪文体勢をつくった。
「やめろシェナ!!」セリアスの叫びに、シェナはその集中力を途切れさせた。
「何で——あいつは敵だったのよ!? この期に及んでまだ、天使の掟に従うと言うの!?」
「関係ない」セリアスは言った。「今は味方だ」
「…っ」シェナは先ほどより悔しそうに歯ぎしりした。「じゃあどうするっていうのよ!」
セリアスもキルガも、動かなかった。動けなかった。
民たちも、今のやりとりで迂闊に動けない状況になってしまった。
確かに、次期里長であり“真の賢者”たるシェナに従うのが彼らには妥当だ。
だが——皆も、感じ取っているのだろう。あの少年によく似た彼を——
彼の言葉を、ないがしろにする気にもなれないのだ。
「…そうか。動かぬか。…ならば奴らを捕らえよ!」
セリアスは動かない。シェナは動こうとしている。キルガは、どうすればよいかわからなかった。
自分たちの身の安全と、ルィシアの身の安全——秤にかけて、重いのはどちらか。
個人的な問題だったら。ルィシアを助ける義理はほぼないに等しい。
彼女は敵だった。ハイリーを殺し、仲間を狙った、憎き敵だった。
いきなり立場を真逆にしたところで、シェナのように彼女の存在を認められるはずがなかった。
だが、セリアスの意見も正しい、確かに先程は、自分たちを助けてくれた。
——秤は、どちらに傾くのか?
「——————ばかじゃないの?」
兵士が近付くより早く。
ルィシアは、そう言って、嗤った。「なに考え込んでんのよ」
はっとして、訝しげな顔をする紅鎧。思わず動きを止める兵士と身構えた里の民たち。
何十もの視線を受けながら、ルィシアはまるで、世間話をするかのように、さりげなく話し始めた。
「——復讐したかったのよ」その内容に合わない口調で。
「あたしが帝国の騎士になった理由。あたしを“賢人猊下”の人質にした帝国のクサレ皇帝に、
あたしのプライドを傷つけたあいつに——復讐するために」
いきなり何を言い出すのだろう。おかしくなってしまったのか。民の中には、そう考える者もいた。
だが、ルィシアはおかしくなってなどいなかった。あくまで、どこまでも冷静なだけで。
「——あたしは、自分の存在が誰かに迷惑をかけるのを嫌う」
ゆっくりと、笑みを浮かべて。
「——邪魔な存在に自分がなるのを嫌う」
その眸に、危険な色を映し出して。
「——つまり」
その腕に、力を込めて。
「あたしを人質にしたことで——お前は復讐の対象者になったってことよ!」
「————————————————————っ!!」
——声を上げる暇はなかった。
ルィシアは叫ぶなり、その恰好のまま、地面を強く蹴った。
————後ろへ。
そこにいたすべての人間と、すべての魔物の表情が一致した。
驚愕。それ以外に、なかった。後ろ、即ち、崖。
紅鎧もろともに、
———————————崖下へ、転落した。
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