二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
- 日時: 2016/12/06 01:24
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)
【 目次 】 >>1
(11/17 更新)
【 他作品紹介 】 >>533
——その短い時の流れは、
けれど確かに、そこに存在していたもの。
トワ
——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
あの空に捧げる、これは一つの物語。
【 お知らせ 】
——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
(紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。
タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
オリジナルっ気満載です。ご注意をば。
どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
——コメント大歓迎です。
URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
更新速度は不定期。場合によっては月単位。
【 ヒストリー 】
2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『 ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始
2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音
2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←
2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4 ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3 移転終了、長かった。
4/4 架月さん初コメに感謝です!
4/7 移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4 何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
皆さんゴメンナサイ((ぇ
そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6 別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8 特別版サイドストーリー【 記念日 】。
あと参照10000突破ァァァァァ!!
2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←
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- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.34 )
- 日時: 2013/01/17 21:57
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
翌日の、セントシュタインの城にて——
「お主はその言葉そのまま信じて帰ってきたのかっ」
報告を終えたマルヴィナへの、王の開口一番がこれである。
「…は?」
マルヴィナは思わず問い返した。
「儂はルディアノなどという国は知らぬし聞いたことも無い。
奴がでたらめを言っているとしか考えられんだろう!?」
いやアンタの基準でモノ語られても、と言う表情のマルヴィナ。
あくまで表情なので相手に伝わっていないのは幸いだが。
「……………………っ」
同時に、王の言葉に反応し、隣にいたフィオーネが何か言葉を発しかける。
気付いたセリアスが問おうとして、シェナに足を踏みつけられた。
「って!? な、何すんだシェナッ」
ぼそぼそと文句をつけ、
「後にしなさい。ここでは話してくれないわ」
シェナも前を見ながらぼそぼそと返した。
「よいか。奴は私たちが安心した頃にもう一度ここへ攻め込んでくるはずじゃ!
奴を討つまで、褒美もお預けじゃな」
「…なっ。何ヨこのオッサン!! いーワヨ、アタシたちの本当の目的は星のオーラ!
別に住民が感しゃふがっ!?」
サンディの騒ぎ途中に、マルヴィナはフードをかぶるふりをして、とりあえず中に閉じ込めておいた。
「んあ〜〜っ! ハルフィナハァ、はにすんのほ〜〜っ!!」
状況に気付いたサンディがフードの中で暴れ始めた時、セリアスとフィオーネの視線が合った。
フィオーネは少し厳しい目で頷く。セリアスもまた、頷いた。
「お父様。少々疲れました。フィオーネはこれで失礼させていただきますわ」
いきなりの言葉による王の訝しげな視線を背に、フィオーネは謁見の間を発つ。
セリアスは黙って見送った。
「っ出ぁ〜し〜な〜さ〜い〜ヨ〜〜っ、ハルフィナ〜〜っ!」
「セリアス、説明お願い」
王室を出た四人、シェナがセリアスに初めに言った言葉である。…サンディは無視していいものとする。
「ん? 何のこと…?」
マルヴィナが首を傾げる。「急に部屋を出た訳か?」
「そう。分かってるじゃない。で、フィオーネ姫と見つめ合ってたみたいだけど」
「な、何だその微妙な言い方は。怪しい関係じゃねーぞっ、暗号みたいなものだ!」
「暗号?」
「そ」
セリアスは腕を組んだ。
「瞬き二回で“二階”、瞳の位置で方向、頷きで“話がある”…今回王様の前で話せない情報とか
結構持ってるらしくてさ。兵士長がこういうときは話を聞いてこいって」
「ふーん…で? どっちだったの?」
「あっちだ」
セリアスを先頭に、(サンディはまだフードの中でバタついている)四人は若干早足で歩く。
「ん。いた」
マルヴィナが見て分かることを声に出す。
「皆様…」
フィオーネは呟いた。辺りを見回し、人の気配が無いことを確認すると、話の内容の重要部分から言った。
「ルディアノ国のことで、話があります」と。
シュタイン湖から、更に西。
桜の神木の村、エラフィタ——
「そこに、かつてのわたくしのばあやが住んでおります。彼女が昔、聞かせてくれたわらべ歌…
それにルディアノという名が出てきた記憶があります」
フィオーネはまつげを若干伏せた。
「ばあやさん?」
「はい。——はい? いえ、名前はソナ・フローレンスです」
「はあ。かつての、って、王家ではおばあさんが変わるって事?」
「…は?」
マルヴィナのかなり頓珍漢な言葉に、キルガが苦笑して“ばあや”の説明をした。
「ああ」
マルヴィナ、ようやく理解。フィオーネの話は続く。
「わたくしには、どうしてもあの騎士が悪い人には思えないのです。…どうか皆様、あの方のお力に…」
四人はちらり、と顔を見合わせ、頷く。キルガが答えた。
「分かりました。訪ねてみましょう。——ところで…メリア姫、と言う人物をご存知ですか?」
「はい…? メリア姫、ですか?」
一瞬だけフィオーネの目が泳いだのを、キルガは見た。
「存じませんわ。異国の姫君であられますの?」
「……。まあ、そうですね」
そのままキルガは黙り込む。沈黙。マルヴィナはその空気に耐えかねて、思い切り砕けた口調で言った。
「…じゃっ、行ってみるよ。あの騎士のためにも、さ」
「ちょ、マルヴィナ。お前誰に向かって」
セリアスは当然のごとく慌てる。だが、フィオーネはそれを止めた。少しだけ切なく、笑って。
「王家の人間というだけで、皆様方はわたくしを敬ってくださいます。
しかし、わたくしは普通の人間であることに変わりありません。
親しく話してくださるのなら、それ以上嬉しいこともありませんわ」
「マルヴィナ、でどうぞ。今日から友達ってことで。だから敬語は、お互いなし! いい?」
セリアスは、一瞬呆気にとられた。この大胆さと、さっぱりした性格、そして、相当の勇気。
こんなものを身につけている人間(天使?)など、そうそう入るものではない。
フィオーネは十九歳だった。
前に述べたように、マルヴィナたちもまた、人間界で言えば十九歳である。つまり、表向きには同い年だ。
呆気にとられた視線を背に、二人の会話はしばらく続いていた。フィオーネの表情に、笑顔が戻っていた——。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ 【移転】 ( No.35 )
- 日時: 2013/01/17 22:02
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
…ところで。
「○×&%☆*ひゅーん。…………って、はぁるぅ…」
「あ。サンディの事忘れていた」
マルヴィナは今更フードから手を離す。
「…ヴィぃナぁーっ!! よっくも閉じ込め続けてくれたワネっ!!」
「あー、ちょっち腕痛い」無視してマルヴィナ。が、サンディは別に気にしていないらしい。
「あーっ、マジ最悪。死ぬかと思った」
「大げさな。んじゃ、どうしようか。早速エラフィタに向かう?」
「あぁ、そうしよう。——で、キルガ」
「はっ?」
出し抜けにセリアスに名前を呼ばれ、キルガの声が驚いたせいで微妙に高くなる。
「さっきの質問。メリア姫の事尋ねて、あっさり引き下がったアレ。説明してくれ」
「あぁ、それか」キルガは肩をすくめ、ふっと笑う。
「…?」
シェナがマルヴィナに視線を向ける。マルヴィナはぼそりと答えた。
「キルガって、何か質問とかをしたら、納得いくまで聞くんだ。
まぁ、すぐ理解しちゃって滅多にそういうことは無いけど。その後もずっと考え込んでいたろ?
納得していないのに質問するのをやめるなんて、らしくない、って事」
「なるほどね。さすが幼なじみ」
「うん。…あれ? 言ったっけ? 幼なじみって事」
「え」
シェナは目をしばたたかせる。
「おーよそ寝ぼけて間違えたってトコじゃね?」
と、話の微妙な合間に、サンディの声。どうやらキルガの話につっこんでいるらしい。
「あれ? ごめん、キルガが何の話してるのかわかんなくなっちゃったわね」
「いや、いいよ。後で説明してくれりゃいいんだし」
マルヴィナとシェナが会話を慎む間にもキルガとサンディの議論は続く。
「不自然だ。第一、そのルディアノという国が知られていないのもおかしい」
「んじゃやっぱデマカセだったんじゃないの?
王のいってたとーり、この国せんりょーしたかっただけ的な」
「それにしては手が込みすぎている。この事件にはまだ何かが隠れて——」
説明してくれと言いながらセリアスは既に頭が回らなくなっているし、
マルヴィナとシェナは今何について討論しているかを知らない状況。
しばらく待っていたのだが、いい加減呆れてくるような議論の長さである。
両者見かけの割にと見かけ通り、口が達者な者同士だからだろうが、ここまで来れば天晴れ者である。が、
「ぐ」
キルガの言葉に詰まる声がした。
殆どもう会話を聞いていなかったマルヴィナ、セリアス、シェナが意識を戻す。
「ふふん。反論ナシね」
言ったのはサンディ、つまり、
「あれ? もしかしてキルガ、話し合いでやり込められた?」マルヴィナが尋ね、
「そのようだな。珍しい」セリアスが苦笑。
彼の言う通り、キルガが議論でやり込められるのは珍しい。
勝ち誇ったような表情のサンディと妙に落ち込んだようなキルガを見て、マルヴィナも苦笑した。
「…で、結局何の話していたの?」
「あ、別にそう大したことじゃないしダイジョーブ」
なんのことか分からない。
エラフィタに向かう手前、マルヴィナはまたフィオーネと会話した——ちなみに、内容がとんでもない。
「今から行くのね? わたくしも行きたいのは山々ですけれど…なんだか、任せきりで申し訳ない…」
「構わないって。どーんと任せちゃいなって!」
「助かるわ。本当にありがとう」
「フィオーネは優しすぎるんだ。もっと強引になっちゃってもいいと思うよ」
「ご、強引…?」
「うん。つーか、ナめられてると思ったらチョップ一発かますくらいでもいいかと」
といった、余計なことを吹き込むな、と言われそうな会話であった。
ともかく、四人はシュタイン湖を西へ歩く。
ふうわりと、暖かい風が吹いてゆく。エラフィタの地方は、一年中が春だ。
暖かくて、優しい。マルヴィナは春が好きだった。
「あっ、あれじゃない? 桜が」
シェナが微笑んで、ひらり舞い落ちた桜を器用につまむ。
「お、すげぇ。俺そーゆー器用なこと無理」
「コツをつかめば簡単よ」 ・
「なるほど。コツつかめば、桜をつかむのが簡単、てことか」
「…………………」
瞬時にして、計六個の冷めた視線がセリアスに突き刺さる。
「…間違えました。つまむのも」
「ワザとだろ」
「いやそもそもギャグにすらなってない」
女陣のツッコミは容赦ない。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.36 )
- 日時: 2013/01/17 22:08
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
桜の香りが本格的になった頃、夕方近くに四人はエラフィタの村に着く。
「わぁ…のどかねぇ」
「シェナみたいに意外と凶暴か痛っ」
瞬時にセリアスにシェナチョップ炸裂。笑顔で。
「…聞こえる? 誰かの歌声」
「聞こえるよ。あちらかな」
エラフィタの村はドーナツ状の形をしていた。真ん中の穴の部分に、桜の神木が悠々とそびえ立っている。
そのドーナツには、欠けた部分がある。そこは川が流れていた。
今ちょうど立っている位置とその家の狭間に。
「おや、聞き惚れたかい?」
歌声を聞く四人に声をかけたのは、村の住民と思しき老人。
セリアスのいた方向から、大きな株を手にやってくる。
「綺麗な声だね。あそこの家の人?」
マルヴィナが初めからもろタメ口で問い返す。
「ああ。彼女はこの村一番の歌の名手、ソナばあさんさ。
昔その歌声を見込まれてセンなんちゃらって城で働いていたんだと」
四人は一度静まり返る。
その人を捜していたんです、と言おうとセリアスが口を開くより早く、
「…お、おばあさん!? あの声で!?」
「…え、そっち?」センなんちゃらよりそちらに反応したマルヴィナにツッコんだが、彼女は聞いていなかった。
それはまるで、清楚な少女の声。その歌と、自らの歌声をも愛せる者のみ紡ぎ出せる声だ。
「あの、その人、あそこに住んでいるんですか?」
シェナだ。銀髪の美少女に問われた老人の顔が一瞬にやけ、セリアスが咳払い。
老人は慌ててその咳払いの意味を察し、作り笑いをする。
「い、いやぁ、はは。あの家は、クロエばあさんの家だ。
ぐるっと神木の周りを囲むように回っていけば、たどり着ける」
「…こんな近くにあるのに?」
「川が邪魔しとるからの。——飛び越えてみりゃ、話は別だが」
マルヴィナは右足を少し引いた。やってみるつもりらしい。
川幅はまあまあ広い。だが、いける。だって天使だ!
だっ、と走る。
「おっ、いい助走だ——あっ」
老人は、最初感心、したが、…すぐに落胆した。
飛び越えようと踏み切った場所は不幸にもぬかるんでいて、ズルリと滑り——
「あー………………」
ちっとも心配していなさそうな仲間の声を背後に、あえなくマルヴィナはどぼんと川に落ちたのであった。
「へぶしゅっ」
マルヴィナ、九回目のクシャミ。
「どうでもいいけど、さっきから何? その珍妙なクシャミは」
「ほっとけ」
——ところはクロエばあさんの家。
頭からつま先までずぶ濡れのマルヴィナは、クロエの用意してくれた『ココア』と言うらしい
黒くて熱い飲み物をもらっていた。
「…………………」
「大丈夫? ああ、砂糖はお好みでね」
「…はひ」
「どうしたのマルヴィナ? 苦かった?」
「…さ、砂糖はもともと苦手なんだが…もらおうかな…」
苦かったらしい。
着ていた服は、ソナが干してくれた。ちなみに、落ちたマルヴィナを見つけてくれたのも彼女である。
そして、ソナの娘の服をわざわざくれた。
当然着替え中は、シェナがほとんど命令してクロエの旦那含む男共を外に追い出したが。
マルヴィナがココアに口をつけたまま十回目のクシャミをしてしまい、ココアがこぼれかけたのを
慌てて防いだのと同じころ、閉め出された男三人組は、ぼんやり川の流れをながめる。
「ソナちゃんの歌声は最高さね。だがクロエと一緒に歌えば誰にも負けん」
「マルヴィナも、歌はうまいよなぁ。他の家事全般はビミョーだけど」
「ははっ、でも、それが出来たら出来たで、妙な感じだろうね」
「つぅか、不気味だ」
今ここにマルヴィナがいたら、確実に川に突き落とされている。
クロエの旦那は、用事があると言って教会のほうへ歩いていった。キルガが話を続ける。
「他の女守護天使たちは、どちらかと言うと手伝い方面の仕事をこなしていた。
マルヴィナは違う、住民たちを、体を張って、命までもかけて守りぬく性格だ。
守護天使の本来の仕事をこなしている——戦いの方向で」
セリアスは頷き、天を仰いだ。
「俺もさ。もしなれたら…そのつもりだった。人間が危害に遭う前に、敵とかはすっぱり倒すつもりで。
だから、こんな今、俺は…本当は、すべてを攻めにかける闘士、バトルマスターになりたいんだよな」
そうなのか? とキルガはセリアスを見た。彼の目は本気だった。
キルガは目の前を通ったモンシロチョウに一度だけ視線を転じてから、今度は天を仰いだ。
「僕は、倒す…というより、守り、受け流すほうだったな。だから人間界に落ちた時、聖騎士団に入ったんだ」
そして次はキルガが天を仰ぎ、セリアスがキルガを見た。
「入った、って…んじゃ何で今、ここにいるんだ? すぐやめたのか…なわけないか。そんな奴じゃないな」
「それはどうも。聖騎士団は、グビアナという名の城に修道院を構えている。
ただ、その城の女王から給付金が送られなくなってね。苦しい状況になって…
僕が一番新顔だったから、有無を言わさず辞めさせられた」
「そ、そうだったのか…それは…」
同情は結構、というようにキルガは手で制す。
戦士セリアスは、先程のキルガのように天を仰ぎ、考え込んだ。
家の扉が開き、シェナが顔を出す。もういいよー、という声がした。
入っていい、という意味なのだろうか、と考えていると、服装の変わったマルヴィナが出てくる。
「わらべ歌、聴かせてもらってきたよ」
どうやら、いい、というのは用事が終わったから行くよという意味らしかった。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.37 )
- 日時: 2013/01/17 22:18
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「北」
マルヴィナは、いきなり簡潔に言う。
「北?」
「うん。わらべ歌、三回聴いてきたから間違いない」
聴きすぎだ。
「覚えてきたけど。歌おうか」
「ああ、覚えたのか。——さすがだな。頼む」
「ん」
マルヴィナは、すぅ、と息を吸った。春風が、優しく吹き過ぎる。
ヤミにひそんだ魔物を狩りに、黒バラの騎士が立ち上がる
みごと魔物を打ち滅ぼせば、しらゆり姫と結ばれる
騎士の帰りを待ちかねて、城中みんなで、うたげの準備
それから、騎士様、どうなった?
北ゆく鳥よ、伝えておくれ。ルディアノで待つ、しらゆり姫に、
黒バラ散ったと伝えておくれ
北ゆく鳥よ、伝えておくれ。黒バラ散ったと伝えておくれ——
「以上」
村全体が、静寂に包まれていた。
「…マ、マルヴィナ…あなた、凄い歌の名手じゃない…」
彼女の歌声を初めて聞くシェナが、感動に心なしか震える声で呟く。
「…そう?」
「絶対。聞き惚れちゃった…うん」
返す言葉が見つからないのか、シェナはもごもごと言った。
幼なじみ二人も、マルヴィナの歌声が好きだった。その声に紡ぎ出された言葉を探る。
「北行く鳥、か。なるほど」
「そ。だから、探すとしたら——北がいいと思う」
「ま、今日はもう遅い。宿とって、明日行こうぜ」
それぞれの賛同の声がした。
翌日、マルヴィナは一つの悲鳴ではっとした。服を返しにソナの元を訪ね、
だが相変わらず彼女はクロエの家、今度は神木を囲むように歩いていき、家に入る手前——が今であった。
要するにクロエ宅の手前のこと。
馬のいななく声が聞こえた。黒い影と共に。
「レオコーンだ!」セリアスが反応する。「やば、あれじゃ村人にびびられる——マルヴィナっ!?」
セリアスが話し終える手前に、マルヴィナが動く。またしても川を飛び越えようとして。
「危——」ない、と言おうとしたが、見事に今回は踏み切った。ほっ、としたのも束の間、
着地にやはりずるりと滑る有様である。
「っわわわわぁぁあわあっっ」
「言わんこっちゃねぇ!!」
すぐさまセリアスも川を飛び越える。キルガの狼狽の声がした。
「つかまれっ」セリアスがマルヴィナの腕に手をのばし、自分がそれを掴む。
「うわっ」
そして、セリアスはマルヴィナを後ろから抱え込み、その場に止まらせる。
一般的な女の子なら赤面するような絵面だったがやはりマルヴィナなので、そんな考えは持っていない。
「あっぶな——ああ、助かったセリアス、ありがとう」
「なんて事なし」セリアスはマルヴィナを解放し、振り返った。「それより、黒バラの騎士サンは?」
「入り口だろ。——二人とも! 先行っている。後で合流しよう!」
そして、駆け出した。
——その光景を、キルガは半ば呆然と見ていた。
同時に、全身の力が抜けたような、大きなショックを覚えた。
「?」
シェナが、冷や汗までじわりとかくキルガを見て、ははぁ、と笑った。
「マルヴィナの事好きなんだ」
いきなり不意打ちを食らったかのように、キルガはむせる。
くるりと振り返り、くすくすと笑う少女を半ば睨む。
「そう怖い顔しないでよね。——セリアスに助けてもらった、
っていうか抱き抱えてまでもらったマルヴィナ見て、ショック受けた、ってところでしょ」
「…シェナ…君は予言者か何か?」
「相当動揺してるねぇ。そういう場合超能力者というのでは?」
「……………………」
最近よくやり込められる。
レオコーンは、中年の木こりの男に詰め寄って、いや、話を聞こうとしていた。
マルヴィナは彼に見覚えがある。「この辺の土地はオラの庭よ」とか何とか言っていた人だっただろうか。
妙に威張りくさった男だった、ということしか覚えていないのだが、
今の彼はいきなり現れた漆黒の鎧の男に怯える一方だった。
「あちゃー…レオコーン、自分の格好に気付いてないな…あれじゃ誰に話聞いても逃げられるぞ」
「誰かは攻撃するかもよ?」
「…勇敢だなとしか言えねーな…」
「はは…えーと、とりあえず…レオコーン!」
マルヴィナはその位置で黒騎士を呼ぶ。よく通る声が、村に若干響いた。
「…? ああ、マルヴィナ、だったか」
「正解」
「そちらは——」
沈黙。
「セリアスだー!!」
セリアス、なんだか前にも感じたような虚しさに叫ぶ。
「あ、あぁ、失礼。——して、何故ここに?」
あんたこそ、とは言わない。
「ルディアノの事を聞いていたんだ。——“黒薔薇の騎士”と、白百合姫のこともね」
レオコーンの表情が変わったのを感じる。
「黒薔薇の騎士だと? 何故それを…それは私の称号ではないか」
「わらべ歌になっていたんだ」
「——わらべ歌だと? 馬鹿な、私がおとぎ話の住民とでも言うのか」
十分そう見えるけど、といいかけて止めるセリアス。
「さぁ…ね。とにかく、ルディアノは鳥が示す。——追ってみないか、幻の、北行く鳥を」
「北…北か。——そうだな」
「決まりだな。…キルガとシェナ、遅いな。何やって——あ、来た」
タイミングがいい。駆け寄ってきた二人は、マルヴィナとセリアスと、
住民の恐怖の目を向けられている黒騎士の姿を確認すると、小さく頷いた。
「レオコーン。貴方に、話がある。今から行くルディアノまで、同行してもらいたい」
キルガはそう言った。
- Re: 永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.38 )
- 日時: 2013/06/11 22:37
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 9ikOhcXm)
北に向かうにつれ、雲行きと、風がおかしくなっていった。
草花が無い。枯葉と、毒溜まりの沼。魔物がやけに多い。
キサゴナ遺跡に行ったときにマルヴィナを狙ったリリパット——の亜種、
毒矢頭巾と呼ばれる魔物がうろついていた。毒の風呂にでも入ったのだろうか、というのが
マルヴィナの第一に抱いた毒矢頭巾への感想である。
さすがに心配になってきて、マルヴィナは一番前を歩くキルガの後ろに着いて尋ねた。
「——あのさキルガ。本当にこっちか? ルディアノはこんな荒地にあるのか…?」
「間違いない」キルガは断言する。「そろそろかな」
「………?」マルヴィナ、セリアス、レオコーンはそろって怪訝そうな顔を作る。
「レオコーン、まずは正直に答えてほしい」
キルガは一呼吸分溜めてから、こう言った。
——今、世界紀では何と呼ばれているか、と。
妙な質問だった。レオコーンは困惑しながらも答える。 ル・ラーム
「何を言う…? 世界紀五の六八二四、五〇九の年。呼ばれは、安・星鈴」
すんなりと答えたレオコーンに、次はマルヴィナとセリアスが驚き、顔を見合わせた。
「どういう事…?」
「五〇九…!?」
「…何? 違うというのか?」
レオコーンの声は、冗談の類を含んではいなかった。本気——マルヴィナが答える。
「…違っている。しかも…大きく」
「何だと? だが、確かに——……なっ、ま、まさか!」
「そのまさかは正しいだろう」キルガが続けた。
・・・ ル・アリア
「正解は、世界紀五の六八二四、八一二の年——呼ばれは安・月小の世代だ」
その差、三百年。
皆が、絶句した。
「さっき、クロエさんの旦那のジャコスさんがエラフィタの歴史書を持ってきてくれたの。
神木やらのことだったんだけど…それに、三百年前のことがしっかり残されていたわ」
シェナが借りてきたらしいそれを静かに開き、読み始める。
“世界紀五の六八二四 五八九
今年も桜が満開となった。ルディアノ王国のメリア姫もお見えになっていた
姫様はまた美しくなられた。
桜と同じく、眩しい「…なんて書いてあんのかしら? 汚いわねこの字…次行くね」
世界紀五の六八二四 五八九 星蘭の月、封海の日 「約半年後のことよ」
ルディアノ王国が滅びたという不吉な噂が流れている。
だが、我らは信じることもせず、また本気にもしなかった。
今日のご飯は桜の——「あ、これは関係ないわね」
世界紀五の六八二四 五八九 星蘭の月、央青の日 「二十日後」
…やはりルディアノは滅びてしまったのか。
いつものように、兵士様と共にいらっしゃるメリア姫のお姿が見えない。
そして、様子を確認しに行った若者たちも帰ってこない。
我が息子さえも…私が最後の確認者だ。私がルディアノへ赴き帰ることが無ければ
ルディアノは滅びたということだ。だから——”
シェナはそこで一度止める。すっ、とレオコーンを見る。兜の下で、彼は震えていた。
シェナは続けた。飛び切りの、重々しい口調で。
“だから——その時はルディアノの事は、忘れ去ってくれ。
・・・
これ以上犠牲者を増やさないための村長最後の命令である”
「…これが、今この土地にルディアノのことが知られていない真相」
シェナが歴史書を閉じた。背嚢にしまい込む。
「………メリア姫は…?」
誰一人とて、答えられるはずが無かった。ただ漂うのは、えもいわれぬ冷たい静寂のみ。
衝撃的な、だがどうすることも出来ない怒りと悲しみが、レオコーンを支配し、そして——
「レオコーン!」
そして、レオコーンは駆り立てられでもしたように、北へ。
まっすぐに、馬を走らせた——…。
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