二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.194 )
日時: 2013/01/31 22:24
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

           2.



 囚人は言う。
 本当に良いのだな、と。
 皇帝陛下は返す——
 お前に否定権はない、と。

 同じころ、ガナン帝国。
マルヴィナがどこにあるのか悩んでいるその位置にいる二人の、潜むような会話である。
皇帝陛下——即ち、ガナサダイ。
そして、つい最近、マラミアがその存在をマルヴィナに伝えた—“霊”を蘇らせる者—囚人。
「念のため、もう一度言う。…“奴”を蘇らせる間は、誰ひとり蘇らせることはできない——」
「天使どもが思いのほか著しく力をつけ始めた」
 遮って、ガナサダイは言う。
「“天性の剣姫”に関わりあるという“奴”を利用する以外の手立てもあるまい」
「確かに、味方に付ければ恐ろしいまでの戦力となるだろう」囚人は一度、肯定する。
「だが——敵となれば、最も警戒すべき脅威となる——」
「それ以上の無駄口を叩くな」もう一度遮って、ガナサダイは言う。「貴様はただ実行さえすれば良い」
「やれやれ…」囚人はあきらめたようでも、嘲るようでもなく、溜め息を吐く。
「面倒な仕事が来たものだ…では、しばらくの面会は控えてもらおうか。強大な力に巻き込まれたくなければ」
「大きな世話だ」ひとつ悪態をつき、ガナサダイは、その場を去る——


 足音が聞こえなくなったその場所で、囚人は静かに言う——
「生年不明、消滅三百年前。“蒼穹嚆矢”蘇生儀式——」

 静かに、時が流れ始める。



「あーい、おつかれー」
 ——エルシオン学院。その夜、四人は食堂にて、情報交換、首尾の報告、

「あっ、それは俺が食べようとっ」

 …ついでに料理の取り合いをしていた。
「とられる方が悪いのよー、って、ちょっと私のゆで卵はっ!?」
「はいはーい。いただきましたー」
「マルヴィナっ!? それ美味しいのにっ」
「知っているよー。だからとったんだ」
「つーか、とられる方が悪いんだろ?」
「セリアス…明日は覚悟しなさい」
「すいませんした」
 一人苦笑しながらもキルガはそれを眺め、最後に残しておいた唐揚げ——が皿の上にないことに気付く。
「…あれ?」
「あー、ここの唐揚げ美味しいな。ころもが特に」
 作り方教えてほしいなー、とか言ってホクホク顔をするマルヴィナに視線を向け——
「………………………マルヴィナ」
「なに?」
「…トマト、もらうよ」
「えーちょっとそれ最後まで残しておいたのにっ」
「こっちこそ唐揚げは最後まで残しておいたものだっ」
 今度はその二人の会話に、セリアスは笑い、シェナはニヤニヤしていた。
 ちなみにサンディはまた、人目を盗んでつまみ食いに走っていたりする。
「で結局、どうだった?」
「んー…」互いに意見を聞くが、全員言葉を濁すのみ。
「て言うか、初めてだしな。なかなかいきなり事件のこと聞ける人はいなかったし」
「だよね」マルヴィナは苦笑した。
「——…」シェナが少しだけ考え込んでいるのに気付いて、発言を促す。
えーと、事件とは関係ないと思うんだけど——そう前置いてから、シェナは言った。
「今日歩き回ってて気づいたんだけどね。なーんかつけられてる感じがしたのよ」
「なぬ!?」セリアスが反応。「誰だそいつはっ」
「分かっていたらこんな遠回しな言い方しないわよ。——でもね」
 シェナは紅茶を一口飲んでから、天を仰いだ。「なーんか最近、見たことがあるような気がするのよねー…」




 結局情報は何も得られなかったという結論に終わり、翌日から本格的に調査開始と言うことになる。
その夜、マルヴィナは、悩みながらも、マイレナを探しに外へ出た。
マラミアの口調からすると、今回の事件を解決しないことには彼女には会えないのかもしれない。
だが、とりあえずは、捜しておきたかった。
 門限が決まっているため、マルヴィナはそっと、気付かれないように、扉を開く。
幸い、雪は降っていない。今の内、と外に出る。
「………………………………………」                 ・・・・・・・・・
 魔法的な力で学院内は寒さから守られているとシェナは言ったが、やはり外へ出る者のいない夜は
その力が消えている。若干雪は積もっており、そしてとても寒かった。
 マルヴィナは油断なく辺りを見渡す。マイレナを探すためでもあり、
気配を感じたガナン帝国の使者に見つからないためでもあった。右手に隠したピアスを、握りしめる。
 だが、やはり、何も、誰も見つかることはなかった。
(やっぱ、そうだよな…)
 マルヴィナは溜め息を吐く。真っ白だった。時間も遅い。
戻るか。ちらつき始めた雪を見て、そう思った。ざく、ざくと音を立て、
マルヴィナはもと来た道を歩き——そして固まった。


 寮の扉の前に誰かいる。


「……………………………」警戒して、その人物を遠くから眺め——そして、やばっ、と一言。



 そこにいたのは——寮の、管理人であった。

(や、ヤバい。これって抜け出した事に気付かれたってことだよな…?
ど、どうしよ…ってかなんで気づいた!?)


 マルヴィナが自分の足跡を雪の上に残してきてしまったことに気付いたのは、しばらくの後のことであった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.195 )
日時: 2013/01/31 22:27
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「…で、どうしたの?」
 ——翌朝、寮の食堂にて。四人は再び集まり、軽い朝食をとっていた。
「んー、最初は裏にまわって二階の扉まで跳んでやろうかと思ったんだが」
「いやいやいやいやいや。そりゃ無理でしょ」
「うん、三回やってみたが無理だった」
「やったんかい!!」とは、セリアス。
 シェナはこの子時々よく分からないわ、とか思い。キルガはとりあえず黙って苦笑。
「で、その時、わたしとは別に寮を抜け出している不良の奴らを見つけたんだ」
「え、何別にいたの? …で、どうしたの? まさか囮にでもした?」
 シェナじゃないんだからそれはない、とキルガは思ったが、「せいかーい」という
マルヴィナの気の抜けた声を聞き、思わず吹き出しかける。
(マ、マルヴィナ、シェナの影響受けている!?)
 見直すべきだ、とキルガは本気で思った。
 ともかくマルヴィナは、いたずらそうに笑うと、「もちろん理由はある」と前置きした。
「そいつら、どうやら今回の誘拐騒動にかかわりがあるみたいなんだ」
 グラスに入った水で少し舌を湿らせ、マルヴィナは続ける。
「会話からしてそうだろう、って感じのいわゆる推測だから、
あんまり詳しいことも分かっていないんだが、誘拐された人間はあの不良グループの一員だったらしい。
…となると、もしかしたらその誘拐犯はそのグループの誰かを狙っているかもしれないだろ?」
 まぁ、裏を突かれる場合もあるだろうけれど——そう言って、マルヴィナは食後のデザートに手を付ける。
「あぁ、それで、奴らを帰した、ってこと?」
「そう。ま、管理人には、『誰かが外に出る気配がしたので追ってみたらなんか複数の人間がいます、
あれはこの学校では普通の現象なのですか?』って何も知らない新入生のふりをしたけれどね」
「「………………………………………」」キルガ&セリアス、無言のまま固まる。
 なんかマルヴィナ最近黒くなっていないか? と同時に思いつつ、視線は自然とシェナに向く。
「ん? 何?」
 シェナは本気で首をかしげ、いやなんでもアリマセン、と引き下がる二人であったのだが。



 そんなわけで、迎えた二日目では、主に誘拐された人物、
ついでにその不良グループのことについて探ることにした。マルヴィナ・キルガペアは、
もちろんキースとナスカの双子から尋ねることにする。
「あー、あのコらねー」
 ナスカはうーんとうなった。
「最初にいなくなったナシルって人さ、最初すんごい頭良かったんだよね。普通にトップとるくらい」
 トップ、と聞いてマルヴィナは苦笑した。ちなみに、昨日の抜き打ちテストは、
トップが七人で、いずれも満点。その中にキルガとシェナはごくあっさりと入っていた。
どうやら二人とも、まだ訪れたことのない場所まで知っていたらしい。
マルヴィナはその訪れたことのない場所は記入していなかったし、セリアスは妙なケアレスミスで
点を落としていたが、それでもかなりの上位で、二人してホクホク顔だったのだが。
 というどうでもいい話はともかく、次いで話すのはキース。
「おれナシルには結構勉強教えてもらってたりしたのよ。でもさぁ、去年の…いつ頃だったか忘れたけど、
まぁでっかい試験で、順位が一気に六位に下がってさ、すんげぇショック受けてた」
「わっかんないわよねー、あたしなんて自分の後ろに二ケタ人数いればそんでラッキー☆ なのに」
「だからおまえ、それはさすがにまずいだろ」
 どうやらナスカの成績は思わしくないらしい。
「で、そっからちょくちょく休むようになってさ。モザイオと組むようになっちゃってー」
「モザイオ?」キルガだ。
「あ、それって」マルヴィナ。実は、昨夜見た不良たち——それがモザイオたちだったのである。
「そ。…あいつよ」
 ナスカが指したのは、教室の片隅で数人を従えて何やらやっている少年たち——の中心、
染められた金髪、だらしない服装、目つきも悪い、見た目は不良、中身も不良、
ついでに行動も不良、不良オンリーな少年。
「…………………………」マルヴィナは眉をひそめそのグループを眺める。
「あいつらには近づかないほうがいいぜ。結構やばいやつらだからよ」
 キースは聞こえないようにと、声を落とす。が、マルヴィナは。
「たかが不良だろ? わたしは平気だ」
 頼もしくも、あっさりと言って見せる。
「いや、たかが…じゃないんだよな。…あいつ、武術の科目で剣術とってんだけどよ、
ガチの勝負で一番らしいぜ。だから誰も逆らえない」
「へぇ」
 マルヴィナとキルガは、同時に意外そうな声を上げる。伊達じゃないのか、とキルガは思い、
そして剣術といえば…と隣にいる少女を見て、なんだかにやりと笑っている気もしなくもないその表情に
若干嵐の予感がしたのだった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.196 )
日時: 2013/01/31 22:32
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

「そういえば」
 もう一つ思い出したことがあったのか、キースが続けた。
「おまえの友達もあの不良グループに入ってたけ?」
 ナスカは問われてすぐに頷く。どうやらもとより話すつもりだったらしい。
「次にいなくなっちゃったのが、リュナって子なんだけど——てか別に友達じゃないんだけど——
悪い子じゃなかったんだけどね、みょーになんかなー、って感じでー」
 といったなんかよく分からない説明が続き、「で、」と最後に一言、
「なんかそれから最近めっちゃ不良連れてかれてるじゃん?
もしかしたら、これってユーレイの仕業なんじゃないかって今もっぱらの噂なのよぉぉ!!」
 …と叫んでしまった。もちろん、生徒の何人かが反応して、こちらの様子をうかがう。
あ、まずい、とキルガは思った。
 案の定。幽霊と言われて今最も反応する者たち——すなわちモザイオら不良グループ。
彼らが、ずかずかと——正確に言えばずかずかとやってきたモザイオについてきて——四人の前にやってくる。
 ナスカがひきつった笑顔でやっば、と言い、キースがこの馬鹿、と頭を抱え、
キルガはため息をつき、マルヴィナは静かに待った。

「…てめぇら」
 いかにもチンピラ気取りの様子で、モザイオはマルヴィナとキルガに睨みをきかせる。
「新参者がずけずけ知りたがんじゃねーよ、俺様の名前もばっちり聞こえたぜぇ?」
「威張ってるよ」
 マルヴィナぽつり。いっそ清々しいと言えるほどにさらりと。
シェナがいないから挑発する人はいないだろう——と安心しきっていたキルガはがくっ、と脱力した。
(やはり最近シェナ化していっていないか…?)
 見直すべきだ、とキルガは本気で思い…なんか朝も同じようなことを思った気がする。
いずれにせよ(と言うか当たり前なのだが)、不良たちを怒らせたマルヴィナに、モザイオはずいと詰め寄る。
「…んな顔して、随分言いてぇこと言ってくれんじゃねーか」
「………………………………………」
(顔?)と胸中で首を傾げつつ、マルヴィナは黙ってモザイオを睨み付ける。
自分が割と大勢から綺麗だと思われていることは、マルヴィナは自覚していなかった。
が、この状況は明らかにまずい。旅慣れたマルヴィナが不良ごときから
不意打ちを食らうことはまずないだろうが、それでも万が一のことがある。
 そう思う矢先、さっそくモザイオは拳を鳴らしてニヤと笑う。
「…気に入らねぇなぁ。俺様に逆らおうっての? どうなるか、実際に教えてやってもいいんだぜ?」
「よせ」
 マルヴィナが何言ってんだコイツと思っている間に、キルガの制する声が入る。
これ以上事を荒げないように、とマルヴィナとモザイオの間に割って入るように。
 が、キルガもまたその行動の意味を自覚していなかった。
本人からすれば仲裁に入ったということなのだが、モザイオたち不良側から見ると——
 ・・・ ・・・・・ ・・・
 キルガがマルヴィナを庇った、と言うように見えるのである。
その行動は、不良の中でも特に彼女いない歴一年以上の男どもを腹立たせた——というよりガチで嫉妬させた。
ちなみに、モザイオも例外ではない。
「へーえ? お前、そいつの代わりに殴られようっての?」
 からかいの口笛と、挑発。ちなみにこの状況をキルガが理解するのはもっと後の話なのだが、
とりあえず今この状態をどうすれば円滑にまとめられるか——と考えている間に、
相手の堪忍袋の緒はぶっちり切れる。
「無視かよ。——いい度胸してんじゃねぇかっ!!」
「あっ!?」
 ナスカの悲鳴にも聞こえる叫び声、モザイオのうなる拳、向かう先はキルガ。
 だが、キルガは。




         ——————————ぱしっ。




 そんな一撃を、右手ひとつであっさりと止めてしまった。
全く揺らぎなく。ぱしっと。もういっそ清々しいほどに。

「……………………は?」
 瞬時にして、時間が止まる。
マルヴィナと同じく旅経験の長いキルガにしては、不良といえども素人であるモザイオの攻撃は
なんか前からソフトボールが飛んできた、程度のことにしか思えなかったのである。だが、相手にしてみれば。
華奢で頭が良さそうで(良いのだが)、イケメンでイケメンでイケメンで(by彼女いない歴以下略の男ども)、
人のよさそうな目の前の少年が学園内でも有名な不良モザイオの攻撃を
こうもあっさり止めてしまったことに唖然とするしかないのである。マルヴィナがごめん、と
片目を瞑って小さく謝り、キルガはそれを見て少しだけ笑い。
そして、未だ時を止め続けているモザイオに一言、
「あの」
 ひっ、と首をすくめる取り巻きの連中。それには目もくれずキルガはさらに一言。
「…そろそろ、手を下ろしてくれないかな?」
 言葉こそ穏やかだが、言い方と表情は冷ややかなキルガに、モザイオは思わず手を下ろした。
そして、素直に従ってしまった自分の行動に気付き、屈辱に表情を歪め——
「お、覚えてろっ!!」
 なんだかよく聞きそうな捨て台詞を残して、取り巻きたちとさっさか退散してしまった。
 こんなくだらないことを覚えているくらいなら
もっと有意義なことを覚えるよ——とでも言いたげなキルガに、マルヴィナは礼を言うべく口を開き、

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜っ、キルガすっごぉぉぉぉい!!」…ナスカに邪魔される。
「うぎゃ」
 どーん、と突き飛ばされ(ナスカは自覚していなかった)、マルヴィナは言葉を飲み込んでしまい、
キースは暴走し始めそうなナスカを殴って止める。
 そこから双子喧嘩を始めた二人を放っておいて、キルガはマルヴィナに目配せした。
マルヴィナも、静かに頷く。


     ・
 あとで、奴と関わってみよう。そう、思ったので。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.197 )
日時: 2013/01/31 22:35
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 二日目が終わり、三日目。三日目も終わる——その、少し前。夕食の時間帯である。
 四人はそれぞれ調査結果を出し合い、まとめると、以下のようになった。


・誘拐されたのはいずれも十代、非行少年少女たち
・モザイオ率いる不良グループに属していた
・幽霊の噂有(実際に見た、と言う人もいた)
・誘拐ではなく勝手に抜け出しただけではないか? という意見も
・消えた生徒たちは勝手に寮を抜け出すところを度々見られている
・明日の夕飯はグリルチキンらしい


「ちょっとまて、誰だ最後のやつ聞いたのは」マルヴィナである。
「明らか関係ないね…」キルガが頬杖をつき、嘆息。
「絶対明日最初に食べてやるっ」
「そっちかい!!」とは、セリアス。なんだか似たようなことが前にもあったような。
「とにかく、まとめると、次に狙われる可能性が極めて高いのはその不良グループたち…ってことよね?」
 シェナはグリルチキン云々をだれが書いたのか想像がつきつつも無視して、
人差し指を頤にあてて視線を上げた。
「あぁ、でもなんとなく、次に狙われるのもあのグループの誰かだって噂も流れている。
本人たちも気にしていない風を装っているが、多分内心ではビクついているだろう」
 キルガも頬杖を解かず、唇に左手の親指を当て、考え込む。
こうやって見るとなんだかこの秀才二人がお似合いに見
「ってことは!」
 と、いきなりセリアス。驚いてシェナが考え込むのをやめ、キルガも左手をおろす。
マルヴィナは目をぱちくりとさせる。
「……………えっと、そいつら——モザイオってやつとかその周りに、注意を払えばいいんだな?」
「え? えぇ、まぁ…どうしたの?」
「えっ、何が?」
「…いきなり大きな声出して」先ほどの状況を知らないほど集中していたシェナは
恐ろしいほど無自覚に尋ねた。
「え、あ、いや、別に…あれ?」セリアスは首を傾げ、「何でだっけ?」と自問。
「ひらめいたからだろ」マルヴィナ。「そういう時って、叫びたくなるでしょ」
「あぁ、そゆこと」シェナ納得。
 和やかな雰囲気に戻った四人、マルヴィナの後ろで、

「ドンだけニブいのよこの集団」

 サンディがひとり呆れていた。


「そーだ、そういやもう一つ、すげぇ朗報だぜ」
 調子を取り戻したセリアス、手始めにおめでたい情報を示す。
「じゃじゃん。実は女神の果実のことだが——最後の一個、どうやらここにあったってことで間違いねぇぜ」
 マルヴィナはパンに伸ばしかけた手を、キルガはグラスを持った手を、
シェナは髪を耳にかけようとした手を——それぞれ、瞬時に止めて。そして。

「ふえぇぇぇえっ!?」

 相も変らぬマルヴィナの珍妙な叫びを聞く。
「マルヴィナ、今更突っ込んでもしょうがないかもだけど何? その珍妙な叫び」
「イヤすんません、驚くとたまに…ってのはどうでもいい、ここにあったんだな!? 果実が」
「あ、あぁ」ノリツッコミをしたマルヴィナに目をしばたたかせつつ、セリアスは頷く。
「学校の創立者——初代エルシオンの墓に
頭がよくなりますよーにって捧げた奴がいるらしい。…いやちなみにもうないが」
「………………………………………」三人、沈黙。やはり最後まで事前には果実には手が届かなかった。
 ずぅぅぅん、と落胆した三人を見て、セリアスは慌てて繕う。
「やっぱ初代が食っちまったかね? ほら、ユーレイってさ、もしかしたらそいつかもよ!
…あ、となると今回の犯人になっちまうか」
 苦し紛れに適当なことを言って見せて——あれ? と一時停止するセリアス。
笑わせようとした三人も別の意味で固まる——
「アレ? 俺なんかマズいことでも」
「セリアスっ」
 キルガが思わず立ち上がって顔を上げ、セリアスを呼ぶ。
「はっはいっっ」
「それ…正解かも、しれない」
 今度はセリアスが叫んだ。
「あのねぇ。いい加減公共の場で大声出すのはやめなさいっての」
「イヤそれシェナが言う言葉じゃ何デモナイデス」
 ダーマ神殿のフリーフロアと言いグビアナの宿屋と言い学生寮と言い、
彼らが大声を出すのは決まって公共の場であるのは偶然か。ともかく、その叫び声に驚き、
あるいは迷惑そうな表情をする学生たちに潔く謝ってからストンと腰を下ろす——



 迷惑がるわけではない、だが、別の理由で彼らを遠くからじっと睨んでいたのは、
先日シェナが訝しんでいた、あの学生だった。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.198 )
日時: 2013/01/31 22:39
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 エルシオン学院の授業のうち六日に一回は、学院の方針『文武両道』の『武』の時間——
すなわち、一日『武術』を習う時間とされている。
『特別授業』と称され、自らの学びたい科目をとり、それに勤しむのだ。
その日はいつもより授業が早く終わるので、あまり勤勉でない学生たちからすると
ホクホクな日でもあるらしい。
 キースが言っていたように、モザイオは剣術をとっていた。
「……………………………………」    ・・・
 もちろん剣をとったマルヴィナはその日、二番目にモザイオに目を付けた。
ちなみに、仲間たちはそれぞれの愛用する武器を習える場所へ行っている。槍や弓はともかく、
斧などと物騒すぎるものを習えるというのには若干驚いたのだが。

 マルヴィナは新入生と言うのもあり、皆の前で紹介される。名乗り、軽く頭を下げる。
さりげなく笑顔で。とりあえず好感を持たせたほうが動きやすい。
もちろん計算したわけではないが(そこまで人付き合いを避けたがるわけではない)、
その効果はしっかりと発揮し、よろしくー、という歓迎の声がぽつぽつとあがった。
実力のそこそこある者はマルヴィナの力量を少なからず読み取り、
不敵に、あるいは期待して笑ってみせる者もいた。
(…ま。まずは、周りからかな…)
 真っ先に攻めたりはせず、モザイオを知っていそうな周りの情報収集から始めることにした。
 基礎運動の際ペアを組んだのは、17歳くらいの少女だ。彼女はミチェルダ、と名乗った。
「マルヴィナ、結構剣の腕凄いっしょ? なんか立ち居振る舞いから素人っぽくないよ」
 気さくに話しかけてくるミチェルダに、
自慢にも謙遜にもならぬよう、「やってみないと分かんないかな」と答えた。
この答え方はキルガに教えてもらったのである。
「にしても、よかったよ。あたし実はこの中では二番目に新しく入ってさ。
…や、もう三番目か。んで、二番目に入ってきたなんか恐そーな子と組んでたから、気まずくってさ」
「恐そうな子」復唱する。「…誰?」
「ほら、あそこ。一人でやってる」
 ミチェルダの視線の先には、ひとり人の輪からは少し離れた場所で伸脚運動をする、
マルヴィナより少し暗めの闇色の髪を高い位置で結えてあとは無造作に垂らした、
端正だが冷たさを感じさせる同じ年くらいの娘がいた。
「…………………………………………」
 マルヴィナは目を細めた。そして——口の中で、ほぼ声に出さず、やはり、と呟いた。

 モザイオには二番目に目を付けた。
 では、一番目には? …それが、彼女だったのである。

 マルヴィナが感じ取った気配、それは—————…。

「ルィシア、って言ってたけ」
 ミチェルダが続ける。「なんてかさ、あたしはあの人すっごい強いんじゃないかって思うんだよね」
「あぁ」マルヴィナは側近をよく伸ばしながら答える。
「…わたしも、そう思う」             ・
「今この中でいっちばん強いのはさ、あの不良…モザイクとかいうやつなんだけど」
 頷きかけて止まる。  ・
「……………………モザイオ?」          ・
「へ?」ミチェルダは素っ頓狂な声を上げた、「あれ、オだっけ? まぁどっちでもいいよ!」
 いいのかよ、とは胸中だけでツッコんでおいた。
「しょーじき、あいつより強いんじゃないかってかんじなんだよねー。
でもなんとなく、マルヴィナのほうが強そう」
 ミチェルダは相手の力量を見計らえる人物でもあるらしい。
他人事のように言う彼女自身も、なかなか見どころがありそうだ、とマルヴィナは思った。
 至る所の筋肉をほぐしながら、マルヴィナは今後の予定を頭の中で組み立てていた。
モザイオの憎々しげな視線を感じる。ここは、予定通りだった。


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