二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ
日時: 2016/12/06 01:24
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: ZZuF3m5i)

【 目次 】 >>1
(11/17 更新)

【 他作品紹介 】 >>533


 ——その短い時の流れは、
 けれど確かに、そこに存在していたもの。
          トワ
 ——あの軌跡を、永遠の記憶に変えて。
        あの空に捧げる、これは一つの物語。



【 お知らせ 】
 ——というわけでこちらでは初めまして、『二次小説(紙ほか) (旧)』で活動しておりました元Chess、
現在 漆千音 の名で小説を書いています。
 (紙ほか)が『旧』になったことを境に、この小説を(映像)に移転いたしました。

 タイトル通り、これはドラクエⅨの二次小説です。
 オリジナルっ気満載です。ご注意をば。

 どこか王道で、どこか型破りで。不思議な設定の物語を目指しています。
 ——コメント大歓迎です。

 URL:Twitterアカウント。pixiv小説と兼用。
 更新速度は不定期。場合によっては月単位。

【 ヒストリー 】
  2010
8/30 更新開始
11/15 (旧)にて十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
3/25 (旧)にてサイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 (旧)にてサイドストーリー【 夢 】
8/11 (旧)にてteximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 (旧)にてフレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 (旧)にて参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 (旧)にてサイドストーリー【 僧侶 】
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 (旧)にてサブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
12/8 十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。
12/9 (旧)にてレヴェリーさん初コメありがたや((←

 2013
1/14 (映像)への移転開始。
1/19 (旧)の参照20000突破に咳をしながら万歳する。サイストはのちに。
3/4  ようやく(映像)側で初コメントを頂けました((感無量
   スライム会長+さん、ありがとうございます!!
4/3  移転終了、長かった。
4/4  架月さん初コメに感謝です!
4/7  移転前からご覧くださいました詩さん、初コメありがとうございます!
4/21 Budgerigarさん、じじじ人生初コメああありがとととうござざざ((だから落ち着けbyセリアス
4/22 みちなり君って誰やねん。
9/4  何かの間違いじゃないのか。2013年夏小説大会金賞受賞!!
   皆さんゴメンナサイ((ぇ
   そして朝霧さん、ユウさん、初コメありがとうございます…!
11/16 イラスト投稿掲示板6号館にマルヴィナ&キルガのイメージ画像投稿。
11/17 続けてセリアス&シェナのイメージ画像投稿。
11/29 更にチェルス&マイレナのイメージ画像投稿。
12/6  別スレッドドラクエ小説更新開始。
12/8  特別版サイドストーリー【 記念日 】。
    あと参照10000突破ァァァァァ!!

 2014
5/26 参照20000こえていた。驚きすぎて飛んでった。帰ってきた。←

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Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.174 )
日時: 2013/01/29 21:27
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

       3.



 それから二日が経ち、ナムジンがやはりそう上手くはいかないか…と
四人の旅人達のことを考えていたまさにその時のことである。


「ナぁぁあムぅぅぅぅジぃぃぃぃぃぃぃンっ!!」
「はい」


 あ、帰ってきた、と、大声で走りながら凄い形相でさらに息を切らせるセリアスに、
あえて冷静っぽく振り返って見せた。後から残る三人が(ちなみに、キルガ、マルヴィナ、
若干遅れてシェナだった)セリアスより息を切らせてついてくる。
「みみ、み、みつ、見つけた、見つけたぞ!」
「感謝する。…お疲れさまです」
 ナムジンはキルガの無言のままに差し出された袋を受け取る。どうやら開ける気力も
あまり残っていないらしい。おそらく、セリアスに追いつくために全力疾走したのだろう。
 まぁ、その理由が、先日マルヴィナが惑わせた獣たちに再び見つかって
追いかけられたから——と言うことまではさすがにナムジンも分かるはずがなかったが。
セリアスがどかりと腰を下ろし、キルガが前かがみになり息を整え、
残る女二人は見た目を一切気にせずだらりんと床に寝そべっていた。
 ナムジンは袋を縛る紐の異国風の結び目を不思議そうに見てから、何とかそれを解いた。
中から出てきたのは——草。

「これは…アバキ草?」
「あ、…知っ、てんのか?」

 大分息を整えながら、セリアスが尋ねてくる。ナムジンは頷いた。
「ということは、カズチャに向かっていたのか。昔、母上に見せてもらったことがある。
うろ覚えではあるが…煎じ方も、一応は分かる…そうか、この手があった…これで、いける、いけるぞ!」
 ナムジンの口調は、ようやく念願を果たせる喜びに興奮したものとなっていた。
「ポギー!」
 ナムジンの声に、包の奥の棚から、ぐぎぎという声。一番近くにいたシェナが演劇的に驚き、
床から跳ね起きた。そして、ナムジンが何かを言いかけた時——マルヴィナが、先に口を開く。

「ちょっっっと待ちなさいよ…まだ、時間は、あるんだから、
あとちょっとだけ、休ませてほしいんだけれど」
 その言葉に、ナムジンは本気で何のことか分からず、固まった。
「ちょっ!?」マルヴィナは顔を上げる。
「あんたまさか、この期に及んでわたしらに手伝わせない気でいたのっ!?」
「い、いや、まさかそこまでしていただくわけにも」
「ふざけんなぁ、見くびんじゃない! ここまできたんだ、最後まで手伝わせなさいよっ」
「は…はぁ」勢いに気圧され、ナムジンは考えること少々、ようやく折れて頭を下げる。
「お願いする」と。

 ようやく息の乱れが落ち着いてきて静かになった包の中で、四人は同時に頷いた。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.175 )
日時: 2013/01/29 21:30
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 茶色の陰が横切る。それを追うように、蒼い影もまた、動く。この動きは、何度繰り返されただろう。

 戻って、カルバド。集落の中央の広場で、ナムジンと魔物が一対一で戦っていた。
魔物——即ち、ポギーである。互いに目が険しい。叫ぶ遊牧民。期待の眼差し、歓声。余計な緊張を与える。
 が、遊牧民たちのその緊張が高まった時——ナムジンの前で、ポギーは仰向けに、倒れた。
今日一番の歓声が起こる。ナムジンは今更吹き出した汗を拭い、一瞬間を開けてからすとん、とへたり込んだ。

「ナムジン様が勝っただ——!」

 言わずともわかることを、説明癖の多い遊牧民の何人かが叫んだ。族長が高らかに笑う。
よく響く——と言うより、上から降りかかるように感じるほどの大きな笑い声であった。
ここで彼は、よくやったとでも言うのだろう。シャルマナは——口元の薄布のせいで表情が分かりにくいが、
おそらく口の端は持ち上がっていることだろう。

 ——いよいよだ。

 ナムジンが泣き笑いを作り、何かを言いかけた時——ポギーが、びくりと動いた。
それは、誰もが見て取れるほど。
 まだ生きているとか、不死身かとか、そんな声が上がる。が、族長はそれを見て、
どこかまだ笑ったまま、大詰めだ、止めをさせと言う。ナムジンは顔を上げる。遊牧民たちの視線が集まる。

 間をおいて、ナムジンが、ナイフを振り上げる——
 緊張の一瞬——


「今だッ!!」


 誰よりも、族長より、民たちより、いっそう大きな声で、ナムジンは叫んだ。
 勢いよくポギーが跳ね起きる。ナムジンの降ろされかけたナイフは方向を変えられ、
狙いは——シャルマナへ。ナイフとポギーが、二方向からほぼ同時にシャルマナを襲う。
不意を突かれ、咄嗟にシャルマナはバリアーを張った。辛うじて、シャルマナの方が早かった。
バリアーに邪魔され、ポギーは手前で動けなくなる。
破られまいと必死に抵抗するシャルマナ、唖然とする草原の民。
「最早これまでだ、シャルマナ! 正体を現せ!」
 ナムジンは叫ぶいなや、腰に吊っていた筒の中の液体——アバキ草を、
そのままシャルマナに向けて投げつけた。バリアーが消え、ポギーが飛びのき、
観衆に紛れてずっと見守っていたマルヴィナたち四人がナムジンの元へたどり着く。
バリアーの反動に巻き込まれて膝をついていたラボルチュが声を上げた。
「ナムジン、貴様正気か!?」
 誰もがそう思うだろう。       ・・
臆病で、優柔不断だった息子が、いきなり暴挙のようなものに出ているのである。
が、ナムジンは、その彼に鋭く言いかえした。
「あなたが信じたものの正体を、その目でお確かめください!」

 言われずとも、そうしてしまう。シャルマナ…シャルマナがいた場所から、
毒々しい濁った紫の煙が立ち込める。遊牧民たちはもう説明する気になれない。
誰もが、目の前のありえない、悍ましい光景を見つめることしかできていなかった。
 高くも低くも聞こえる呻き声が轟く——立ち込めていた煙が、一瞬にして散った。
中にいたものの姿を見て、何人かは失神した。何人かは声を失った。
最も多かったのは——やはり、“恐怖に叫んだ”。

 人間の何十倍あるだろうか、至る所の肉が垂れ下がった、ぶよぶよに膨れ上がった紫の魔物、
粘り気のある唾液、痺れを感じさせる瘴気。紛れもない、それは、魔物。

 術師シャルマナの、本当の姿——…。

「化けの皮がはがれたな、シャルマナ」
 想像していたものの数倍もおぞましい姿に、
先ほどより吹き出す冷や汗を何とか悟られまいとしながら、ナムジンは言う。
 大人一人分の顔ほどもある目が、揃ってナムジン、ポギー、マルヴィナたち四人を睨みつける。
「おのれ人間…貴様らごときに、何故わらわが…!」
「俺らは人間じゃねーよ」
 ぼそりとセリアスがいい、後ろからすかさずシェナに蹴られる。
「何故と言われても」答える。「これは結果だ。彼女たちが作ってくれた好機を利用しただけのね」
 マルヴィナがガチガチに固まったナムジンの肩を叩く。笑みさえ浮かべて、頷いて見せた。
「貴様ら…このわらわの姿を見て、生きて済むと思わぬことじゃ!」
「生憎ながら、思ってはいない。…わたしらが手にしているものが、目につかないか?」
 剣と、槍と、斧と、弓、そして、短刀。ポギーは、その爪。いずれも、武器——


「僕らは、お前を斃す、シャルマナ」
 ナムジンが言い——本当の戦いが、はじまる。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.176 )
日時: 2013/01/29 23:36
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 セリアスが隙をつくらせる。キルガとシェナが守備の援護呪文を唱える。
マルヴィナは、敵の視界から外れる位置に動いた。
 今回は、魔術を操る者との戦闘である。物理的な攻撃を主体とするものと違い、
魔術師は、多彩な攻撃、あるいは援護の魔法を使ってくる。
ただ無謀に突っ込んで行くだけでは、邪魔な負傷の元になりかねない。
だからこそマルヴィナは、初めは動かずに、仲間たちと、敵の動きを観察する。
そうしてから、参戦するのだ。



 固唾をのんで観戦する遊牧民たちの中に、その場を静かに離れたものがいた。
誰にも気づかれていないことを確認し——そのまま、包の陰へ隠れる。
しばらくの静寂が続き——しばらくして、その者の小さな声が聞こえた。
「…はい、間違いありません。はい…あぁ、いえそれはまだ…どういうわけか、
先程から動いておらず…はい? …………。……御意」
 無線から聞こえる声に向かって敬礼し、その者は通信を切る。
「……実力、か…あんな小娘の、どこを警戒しろと…」
 溜め息を吐かんばかりの表情で呟き、その場で、繰り広げられる戦闘を観察する。
その視線の大半は——やはりまだ動かない、マルヴィナへだった。


                      イオラ
 が、ようやく彼女は動き出す。シャルマナが爆発呪文を唱えた時、叫んだ。
「シェナ、攻撃呪文を! セリアスとナムジンは下がって、キルガはシェナの防衛、ポギーは」
 言いかけて、ポギーにはどう伝えたものかと考えてしまう。轟く爆発の威力を盾で軽減し、
マルヴィナはごめんとりあえずナムジンについていて、と言ったが、
爆音が邪魔して伝わったかどうかは定かではない。                 ドルクマ
ともかく、その音が収まりかけた時、シェナからの攻撃呪文がシャルマナに向かった。闇力呪文。
過たずそれはぴしゃりと敵に当たり、シャルマナは低い音——いや、声で呻いた。
隙が生じる。そこを、残った四人と一匹が狙う。
隙が出来た時、シャルマナは先ほどから右の手に握る杖を振り回していた。その動きに注意すればいい。
手の振られた方向にいたのは、セリアスだった。それを難なくかわし、一気に間合いを詰める。

 決める——

 そう思った時、皆の武器の動きが、いきなり減速した。視界がぐにゃりと歪んだのである。
「なっ…こ、れって」        マヌーサ
 マルヴィナがその答えを言った。「幻惑呪文…!」
 対象者を幻で包み、視界を邪魔することで、肉弾戦のミスを誘うもの——かつてマルヴィナも、
魔法戦士の時に使ったものだった。
「う、くそっ…そんな呪文持ってたのかよっ」
 セリアスが悪態をつく。
「悪い、わたしのミスだ」マルヴィナが唇を噛む。
「そんなのは関係ない、…シェナ、悪いが少しの間、攻撃を頼みたいっ」
 キルガの声に、シェナの了解の声が聞こえる。どうやら幻惑を免れたのは彼女だけらしい。
「…急いだほうがよさそうね。…………………」
 シェナは呟くと、両の手に力を込めた。息を吐く。腕を伸ばし、手を顔の位置まで上げる。
(上手くいくかは分からないけれど——)
 ぶつぶつと、長い、今までの何よりも長い呪文の前唱を詠む。長いまつげが持ち上がり、  ドルクマ
シェナはカッと目を見開き、唱えた。早口で、彼らには聞き取れなかったその呪文は、先程の闇力呪文と
同じ系統のものだった。が——先ほどより大きく、先程よりも強い力を感じる。
      ドルモーア
 それは、闇大呪文、闇呪文系統上位クラスの魔法であった。

「決、まった…!」
 シェナが疲労からくる冷や汗を滲ませて言った。シャルマナの叫びが、再び聞こえた。
これで終わった——そう思ってほころんだ頬を、一瞬のうちに締める。
 終わっていない。まだシャルマナは、立っていた。どうやら、初めての呪文であり、
また相手がとんでもない巨体であるため、急所を微妙に外したらしい。
 マルヴィナはまずい、と唇を噛む。シェナは膨大な魔力に疲労してしまっている。
一撃必殺の攻撃だったのだろう。だが、それはかなわなかった。
 残るものが次なる攻撃を仕掛けなければならないのに、視界が歪んだ状況では、
攻撃どころか、防御も思うようにいかない。

(…わたしも一発勝負を決めるべきか…?)

 だが、決まらなかったら? こちらに不利な状況をつくることになる。
やるべきか、否か。

(…やろう)

 マルヴィナは、そっと決意する。
(シェナが決意したんだ。…わたしだって)
 マルヴィナは、いっそのことならと目を完全に閉じ、息を整えた。
脳裏に、二つの陰を思い浮かべる。唇に、手を当てる。

(…………………来い、聖狼…!)




 そして、長い口笛を一つ、高らかに吹いた——。

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.177 )
日時: 2013/01/29 21:41
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

 その音の余韻が完全に消える手前——
 マルヴィナの前が、白く眩しく、強く光った。
 あまりの強い光に、数人かは目を閉じかけたほどに——が、彼らが目を開けると、
マルヴィナの足元には、濃い茶の毛並みの狼が二匹、体勢を低くして立っていた。
驚き、身を引きかけたが、狼はマルヴィナに忠実であった。そのまま、シャルマナに跳びかかる。
遠吠えがこだまする。次なる呪文を唱えようとしていたシャルマナの集中力が乱れ、
頭上で小さな花火のようなものが破裂した。狼たちは気にせず、遠慮も容赦もなくその爪を振るう。
傷ついた様々なところから、遂に再び、紫色の煙が出始めた。
狼たちは飛びのき、そしてどこへともつかぬ場所へかえって行った。

「…っ、い…今だわ!」

 シェナが顔を上げ、言った。「奴の真の正体を暴くなら…今の内…っ」
 まだぐらぐらする頭を持ち上げ、シェナはシャルマナの前に立った。
 対峙する。
 何をする気かと見守る草原の民たちに下がるように言って、シェナはゆっくりと、両手をつきだした。
じっとシャルマナを睨む。開いた指先がわずかに震える。風になびく銀色の髪が膨らみ、そしてとけてゆく。
シャルマナが顔を覆い、のけ反った。その瞬間、シェナの手のひらから、
凍てつくような波動が巻き起こる! 巻き込まれた仲間たちは、自分たちを襲っていた幻惑から解放され、
肩の力が抜ける。対照的に、シャルマナは、肩を盛り上がらせ、よりいっそう叫ぶ——
共鳴するように、あるいはその声に抗議して、馬や羊や豚たちも鳴いていた。

 …その声が、しばらくして、ピタリとやんだ。

 煙が薄れてゆく。中に、姿はなかった——否、そう思えただけであった。
 煙が散り始めたころ——その中の姿が見えた。



 いたのは、小さな、もしかすればポギーよりも小さな、皺々の、やつれた魔物。
魔力を感じ取れない、ほぼ無力の生物——

 それが、シャルマナの、真の正体だった。シェナが言っていたのはこういうことか、と
何気なくシェナを見たセリアスは、そのままそのシェナに駆け寄ることとなる。
あまりにも魔力を使いすぎた疲労から、遂にその気を失ったのであった。
 俺らのことはいいから話を進めていろと、セリアスはキルガに伝える。
「二度も…正体を偽っていたのか」
 ナムジンはそう言うと、遊牧民たちに一瞥をくれる。
「僕は…一回か。民たちと、父上と。初めは、彼女らにも」
(…わたしたちも、一回…か)
 ナムジンの視線を受け、マルヴィナはそう思った。天使という名を偽り、人間という面をかぶせる者。
 正体を偽った者たちの戦いだった。

「わ、わらわは…わ、わしは…ほ、本当は…何の、なんの力も…ヒッ!」
 一歩近づいたナムジンに、優雅さも気高さも、
あるいは悍ましさもすっかり抜け落ちたシャルマナは逃げかける。
が、足がもつれ、そのまま遊牧民たちの前に倒れた。
「いっ…今だべ!」
「止めをさすだー!」
「「待て!!」」
 二つの声が、ほぼ同時に重なった。声の主たちは、お互いに顔を見合わせている。
ナムジンと、マルヴィナであった。マルヴィナがナムジンに主導権を譲る。
頷き、ナムジンは遊牧民に叫んだ。
「確かにこの魔物が犯した罪は重い。決して許されはしない。だが、魔力を失ったものを殺めて何になる。
それでは、小さな鳥たちを遊び狙う獣と同じだ!
生きるため以外の無駄な殺戮など、虚しくなるだけだ、違うか?」

 反応は、ない。大したこと言うじゃんと眉を持ち上げるマルヴィナや、キルガ、セリアス、ポギー以外には。
呆れられてもいい。思ったことを率直に言っただけだ。ただ、それだけ。
「ナムジン」
 ラボルチュが、厳しい声で彼の名を呼ぶ。ナムジンは臆することなく、強い眸で、真正面から向き合う。
「はい」
「………………………………」
 ラボルチュはそんな息子を見て、心中で曖昧な溜め息を吐く。
「そいつも、いつまでも人間の輪に囲まれているわけにもいくまい。
その魔物を連れて、戻る場所をつくれとでも言っておけ」
 ポギーである。確かに、ポギーは飼われているわけではない。
食料を見つけるのも、寝床を見つけるのも、自分でこなしていた。
ナムジンはいつでも会いに来られるものではなかったから。野生にいるべきものだったのだ。
 だが、その前に、どうしても聞きたいことがあった。
「…何故、こんなことになったのだ、シャルマナ」
 尤もである。マルヴィナたち含め、遊牧民たちも知りたかったので、草原は静かになる。
「わ…わしは、気付いた時には、この地におったんじゃ…ここのやつらは、皆強すぎて…
お、怯えて暮らすのが、嫌だったんじゃ。そ、それで、あの果実に願ったんじゃ、
わしを、わしを強くしてくれと」
「それであんな姿になっちまった、と」セリアスが呟く。「あの恰好じゃ嫌だったから、また正体を偽った…と」
 おそるおそる、頷く。
「欲望は、連鎖を起こす。そして、最期に破滅を招く…か」
 キルガの言葉に、マルヴィナが驚いて彼を見る。「それ、イザヤールさまが言っていた」
「あぁ、じゃあ多分ラフェット様から聞いたんだと思う。大抵、そうらしいから」
 だろうね、と頷く。そして、ナムジンに向き直った。
「訊きたいことは、それだけか?」
 ナムジンは数秒考え込んでから、頷いた。マルヴィナは頷き返し、そしてシャルマナに近付く。
最もひどい目にあわされた奴に近付かれ、シャルマナは全身に毛があったら
逆立つようなくらいにびくびくしてかたまった。
「情けないな。わたしを襲った時の威勢はどこへ行った? …まぁ、そういうわけで」
 マルヴィナは前かがみになり、じーっと半眼で見つめ——そして、いきなりにっこり笑い、言った。



「果実、早く返してくれないかな?」

Re:   永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ ( No.178 )
日時: 2013/01/29 21:45
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: vQ7cfuks)

      4.


 同日、夜のこと。
 いつもなら寝支度を始める遊牧民たちも、皆外に出、宴に酔いしれていた。
広場の中央で赤々と炎が燃えている。キャンプファイアー、というものを、マルヴィナたちは初めて見た。
族長の立ち位置にいるのは、ラボルチュではなく、ナムジンであった。
あの一戦後、ラボルチュは何の未練も躊躇いもなく、族長の座を降り、息子に譲ったのである。
未熟だと思っていた息子が、自分を超えるほどに成長していた。


“—父親なら、もっとナムジンのことを見てあげるといいよ。理解してやるんじゃなくてね—”


 マルヴィナが言い残した言葉の意味が、ようやく分かった。
…心残りを、あえて言うなら、息子の成長に気付けなかったということだろうか。




「そーいやさマルヴィナ」
 食用肉にかぶりつきながら、セリアスが言う。
「ん?」一方草原の老婆の秘伝の草の茶、という長ったらしい名前のそれを飲みかけていたマルヴィナは、
目だけでセリアスに反応した。
「この前、ここにガナン帝」
 国の気配を感じたって言ってたろ——という残りの長い文章を言いかけたところで、
マルヴィナが勢いよく立ちあがった。
「しまっ、忘れていたっ…! あぁまずい、逃げられたッ!!」
 いきなり叫んだマルヴィナに、周囲の人々が視線を送る。セリアスがあわて立ち上がり、
スンマセン、なんでもないですと謝っておく。そして、声を潜められるように、
なるべく顔をマルヴィナに近づけて(一瞬キルガの視線を思わず探してしまった)話を続けた。
「逃げられたって…マジかよ、それ」
「気配を感じないんだ、しまった、すっかり忘れていた…!
さっきの戦闘中には、少しだけ感じ取ったんだ、けれど今は全くない。
おそらく、住民のふりをしていた密偵だ…!」
「…ちくしょう、マジかよ…」不覚だった、とセリアスは頭をおさえる。
「…仕方ない。過ぎちまったことだ。…これから警戒した方がいいかもな」
「ごめん」
「謝るな、マルヴィナ一人のせいじゃない」
 ぽん、と肩を叩く。マルヴィナはうなだれつつも頷いた。
さて、そろそろシェナの様子を見に行くか…と踵を返した時、
何故か不意にキルガとばっちり目が合ってしまった。
いや別に、キルガも意味があって見ていたわけではなく、むしろこちらも不意に視線を上げたところで
こんな状況になった、というわけだったのだが、当然それを知らないセリアスは大いに慌てた。
(いやいやいやいやいやそうじゃなくてって言うかなんでお前そんな遠くにいるんだよ!?)
 もちろんその考えもキルガに届くことはなかったのだが。




 マルヴィナは頃合を見計らって、その場を離れ、民たちの死角となるような、
ひっそりしたところへ足を運んだ。えーっと…と小さく呟きながら辺りを見渡すと、
捜していた“人物”から声をかけられた。


『いーよなー人が寂しく悲しく一人でぽっつーんって待ってるってのに呑気に飯食えてー。
あーいーよないーよなーちくしょー』


 その恨みたらたらな発言をした、かすれ気味の、辛うじて女のものである声——
薄紫の眸、灼熱の長髪、アイリスの同胞マラミアである。
「あ、ようやく来た」マルヴィナは目をしばたたかせ、言う。
『コラ。どっちの台詞だ。待ってたのはこっちだっつーの』
「えぇ? だってこっちは数日前に」
『アホ、ここでの用事が解決していないうちにノコノコ出てくるか。——って、そんなことはどっちゃでもいい』
 ノリというかテンポというか、そのいずれかの良い言葉を言い、マラミアは頭を振って髪をバサつかせた。
紅い髪、薄紫の少々つり気味の目——違和感を覚えていたのだが、そういえば、セリアスに似ている。
彼女ほどセリアスはつり目ではないが、殆ど似ているのである。
だが、その訝しげな視線に気付きながらもマラミアは無視し、話しはじめる。
『えーと、なんだっけ…そう。“未世界”のことについてだったな』
「ちょまっ、待った、わたしそもそも、あんた達が何者なのか、聴いていないんだけれど」
『あー急かすな。今から話してやる』
 マラミアは髪をわしゃわしゃとかき乱し、少しだけ目を開けた。


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